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私には年末、楽しみにしていて必ず見る特番がある。それは『紅白』でもなく、『笑ってはいけない』 でもなく、さらに 『レコード大賞』や格闘技でもない。
『プロ野球戦力外通告・クビを宣告された男達』だ。
こういうことを書くと「そんなに他人の不幸は蜜の味か、この外道」とか言われそうだが、私はこの番組が好きだ。
妻や子どもを抱えた彼らが収入を失ったとき、垣間見える素の顔、そして人生の決断の瞬間を見るのが好きなのだ。彼らも野球選手である前に人間だ。そして、人は金がないと暮らしていけない。どんなに人気、名声、功績、そして夢や情熱があったところで『年俸』…つまり『カネ』が無くては何事も成らないのだ。
そんな『カネ』の観点からプロ野球界、そしてプロ野球選手達の人生を描いた異色作が今回紹介する『グラゼニ』である。原作は森高夕次、漫画は足立金太郎。
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Contents
あらすじ
凡田夏之助は26歳で年収1800万円…世間的には高収入に分類される1800万という金額に本人は不満と不安を抱いている。
凡田夏之助(26歳)はプロ野球球団『神宮スパイダース』に所属する左利きの中継ぎ、サイドスロー投手だ。高校ドラフト最下位でプロ入りして8年目になる夏之助は求められた仕事はきっちりこなすが”華”が無く、年俸はプロ野球選手としては決して高くない1800万円。決して“一流投手”とは言えない待遇の選手である。
そんな夏之助の一番の関心は自分や他の選手の”年俸”だ。『30歳越えたらあと何年できるか分からない、そもそもケガや故障で選手生命がいつ絶たれるかも分からない』『引退後にコーチや解説者の職にありつけるのはほんの一握りだけ』『引退後は年収100万円台の生活に陥る人も少なくない』
…そういった現実を知る夏之助は『もっと稼がないと”人生の収支”としては全然マズイ』と常に危機感を抱いているのだ。そんな夏之助はいつもあるフレーズが頭に浮かんでいる。
『グラウンドには銭が埋まっている』
多数の様々な年俸の選手達の人生、そして巨額を動かす野球界や関係者たちの思惑が交錯するマウンドに、凡田夏之助は今日も上がるのだ。
夢が叶った後、プロの世界の現実を描く
他のスポーツものにも言えることだが、大体の野球もののマンガ、アニメにおいては『甲子園に出場、優勝すること』あるいは『野球選手になること』が夢、ゴールとして設定されている。そういった作品の主人公たちは少年少女で大人の保護下にある未成年。彼らは純粋にスポーツや目の前の試合に向き合い、金勘定をすることはない。
しかし、当たり前だが夢の後には現実が延々と続いていく。『プロになりました、めでたしめでたし』では終わらないのだ。そして”スポーツ”、”プロ”の世界では巨額が動き、アスリートとしての価値は『カネ』で示され、そして何より大人として生きていくためにはそもそも『カネ』が必要だ。
そして、アスリートの価値としての『カネ』(年俸○億、獲得賞金○○○万ドル)はともかく、アスリートの経済事情、家計事情まで普段は語られることは少ない。特に、日本では表立って『カネ』の話をするのがはばかられるし、『スポーツは自己研鑽と禁欲の世界』という建前がまかり通っているから…。
『グラゼニ』はそんな『カネ』の観点から選手達や野球関係者、野球界の事情をハッキリ、そして時にえげつなく描いているのだ。
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『カネ』がアスリートとしての価値…自他の”年俸”に振り回される主人公凡田夏之助の悲哀
『カネ』…すなわち”年俸”が実力や功績、球団からの期待、人気等に直結している現実から、主人公凡田夏之助は自分や他人の”年俸”に非常に敏感だ。ベンチにいる間夏之助が熱心に目を通すのはスコアラーの用意した資料ではなく、『プロ野球選手名鑑』だ。選手達の年俸が頭にしっかり入っている夏之助は自分の年俸1800万より下の打者に対しては見下して余裕をもって投げられるが、逆に自分より年俸の高い打者には萎縮して打たれまくってしまう。だが、逆に5000万を超える打者だと振り切れて抑えることが出来る…ハッキリ言って人間として小さいところがある。
自身の年俸の低さを気にして常に将来への不安がいっぱいで、世間が憧れる野球選手、それも一応一軍選手であるにも関わらずどこか卑屈で、行きつけの食堂で働く気になる女の子、ユキちゃんに身分を明かすどころか声すら掛けることもできない。
その癖、夏之助は同じ球団の仲間や先輩、敵球団の選手の人生にも思いを馳せてしまうものだから、頻繁にやるせなさに襲われている。マンガ、アニメの一話目、中継ぎとして登板した夏之助の前に現れた代打の選手土井は30歳で年俸700万円の二人の子持ち。土井がここで打てなかった場合、二軍落ちになるであろうことが分かっている夏之助は胸を痛める。しかし、明日は我が身の夏之助は全力で打ち取りに行き、真剣勝負の末、夏之助が勝ち、結果土井は夏之助の予想通り二軍落ちになってしまうのだ。
しかし、夏之助を通して、一軍、二軍の仲間達、引退した先輩、才能のある後輩、外国人選手、解説者…野球に関わる様々な人を描くこの作品は決して湿っぽくはない、どちらかというとコミカルで妙な爽やかさがある。日々をひたむきに頑張って生きていく人々の夢と情熱を描き、エールを送る…そんな作品なのだ。
アニメ版『グラゼニ』についての感想~作画は良くないが、とっつきやすく、テンポよく安心して見られる作品
この『グラゼニ』は2018年4月から6月、10月から12月に『BSスカパー!』で分割2クールでアニメ化された。
このアニメ、マンガの癖のある絵が大分とっつきやすくなっているものの、作画は決して良くない。CGが多用されているものの、作りが雑で作画ミスの様なものも見られる。
しかし、元々の作品の要が野球の技とか投球の迫力とかではなく、シナリオの面白さなので、個人的にそこは全然気にならなかった。
今時、2期編成、しかも間が空いているにも関わらず、OPとEDは同じ(EDの映像は変わっているけど)。でも、90年代アニメを見て育った私は頻繁にアニメの主題歌が変わるのが未だに好きじゃないので、逆に好感を持った(雰囲気も90年代アニメ、7時30分にやっていそうな感じ)。
だが、こんな感じで作画や主題歌に力は入っていないものの、声優は悪くなく、主人公夏之助の声を当てた落合福嗣は声優としての経験が浅いにも関わらず自然体で演技できている。また、ゲスト声優にビートたけしが出演する等、妙に豪華だったりする。
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ちなみに主人公、凡田夏之助の声優、落合福嗣は…
ちなみに、主人公凡田夏之助の声を演じた落合福嗣は知る人は知っているだろうけど、元プロ野球選手で中日の監督をしていた落合博満の息子。
そして、見た目が…
…いくらなんでも似すぎじゃない?
まとめ~野球が好きな人、人生模様を描いた作品が好きな人にオススメ
本作は野球が好きな人はもちろん、人々の人生、人間ドラマが好きな人にもオススメできる。ただ、野球の試合そのものを描く作品ではないので、そこを期待する人はガッカリするかもしれない。
野球業界の金銭の動き、契約更改、トライアウト等のいわゆる裏側も描いており、『へ~』となるような、他の”野球もの”では見られない話が多く、興味深い。そんなに心臓に悪い展開もなく、のんびり見られる作品でもあるのでダラダラとゆっくり見るのにオススメである。