チェリートン学園を中退したレゴシは一人暮らしを始めてアルバイトで生計を立てていたが、祖父ゴーシャと旧知の仲である”壮獣ビースター”ヤフヤから『協力すればハルとの結婚の妨げとなる食肉の前科を取り消す』と言われて、共にヒョウとガゼルのハーフである犯罪者メロンを捜索し、捕縛する。
しかし、肉食獣と草食獣のハーフであるメロンにまだ見ぬ自身とハルとの子供の姿を重ね、寄り添おうとしたレゴシはメロンに逃げられた上、拳銃を腹部で撃たれ意識不明の重体になってしまう。
そして、生と死の狭間を彷徨うレゴシの元にやってきたのはレゴシの亡き母、レアノの亡霊であった。ハイイロオオカミとコモドオオトカゲのハーフとして生き、そして自死を選んだレアノは自身の複雑な半生と正直な気持ちをレゴシに打ち明けるのであった。
前巻の記事はこちら
→【漫画】BEASTARS(ビースターズ)15巻【感想・考察(ネタバレあり)】メロンと対面するレゴシ…そして、明らかになる母、レアノの過去と自死の理由
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Contents
以下、あらすじとネタバレ(感想混じり)
第134話~自分は人生の選択を誤り続けると落胆するレゴシに母レアノの亡霊は『もっと生きて』と励ます
ハイイロオオカミとコモドオオトカゲのハーフとして生まれながら見た目は美しいハイイロオオカミであったレアノは『誰からも愛される美しいオオカミの女性』であることを一番に生きていた。しかし、大人になったレアノにはある頃から父、ゴーシャのコモドオオトカゲの遺伝が現れる様になって毛が抜け落ち、鱗が生え始めた。『美しいハイイロオオカミでいる間に、より血統に近いハイイロオオカミの子どもを産みたい』と願ったレアノは望み通りハイイロオオカミのオスとの間にレゴシを産み育てた。
そして、レゴシが小学生になる頃には全身に鱗が広がったレアノは自室に引きこもって出てこなくなった。息子であるレゴシとはドア越しに会話し、そしてドアに開けた穴から手を出してレゴシに触れるだけで、家族であるレゴシやゴーシャにすら姿を見せることは無かった。
幼いレゴシはドア越しにレアノにその日あったことを語り、花を差し入れる。一緒に外に出掛けたがるレゴシにレアノは『お母さんはお外が怖くなっちゃった』と告げるのであった。
そんなレアノに代わってレゴシの世話は祖父であるゴーシャがしていた。『お母さんはもう部屋から出ないのかな?』と悲しそうに言うレゴシにゴーシャは『お母さんは体の調子が悪いだけ、その内外に出てくるはず』と優しく笑いかける。…父であるゴーシャさんもレアノがまさか自殺しちゃうとは思わなかったんだろうな。悲しい。
幽霊のレアノはレゴシに『一番甘えたい時期に相手してあげられなくてごめん』と謝る。だが、レゴシは幼かったものの、レアノが外見の事情で外に出られないことを理解していたと語る。そして、息子であるレゴシの容姿もかなり気にしていることも。ドアの穴から手を伸ばすレアノは撫でると見せかけてレゴシの顔立ちや毛並みを確認していたのだ。それは自分の様に鱗が出ていないか心配してチェックしていたのだ。
そして、レゴシが12歳になった時、レアノは『レゴシはもう大丈夫』と確信して、部屋を出る…自死することを決意したのだ。
…この時のレアノさん、体毛も所々抜け落ちまばらに鱗が生え、顔立ちも左右不均等に歪んで痛々しい…。
夜中に久々に部屋を出たレアノはレゴシの部屋に行き、眠っていたレゴシを後ろから抱きしめ、少しの間だけ一緒に眠った。そして、翌朝自殺したのだ。
その事を明かしたレアノの幽霊はレゴシに『最後に何も声をかけなくてごめん、自分勝手な母親だった』と寂しそうに笑った。すると、レゴシは俯きながら『俺こそ騙してごめん』『お母さんが布団に入ってきて驚いたし嬉しかった』と言う。その晩、本当はレゴシは起きていたのだ。
『自分に姿を見られたらお母さんは傷付く』…そう思った12歳のレゴシは寝たふりをして振り向かなかった。しかし、レゴシはその時のことを度々思い出しては後悔していた。『あの時、俺がちゃんとお母さんに向き合っていたらお母さんの自殺を止められたのではないか』と。
「ハァ~…!!俺の選択はいっつも肝心な所で間違える!!」
BEASTARS 板垣巴留16巻 22/204
「ほんと…馬鹿すぎて後悔ばっかりなんだ…」
この母との苦い記憶から、母と同じくハーフである苦悩を抱えたメロンと向き合おうとした結果、銃で撃たれ命の危機に瀕してしまったレゴシ。だが、そんなレゴシにレアノは『生きていれば後悔の連続は当たり前』と優しく微笑む。そしてレアノは『私も後悔ばかりだけどレゴシを産めただけで100点満点』と言い切る。
「もっと生きてよレゴシ」
BEASTARS 板垣巴留16巻 25/204
「私とおじいちゃんの血を引いたあんたは…どんな完璧な血統のオオカミよりも強く優しくなれる」
…散々、『血統のハイイロオオカミ』であることにこだわってきたレアノだからこそ、このセリフは響くな…。そして、わずかに犬歯をのぞかせて笑うレアノさん、美しい。同じハイイロオオカミでもレゴシはもちろん、ジュノともちゃんと別系統の美人に描き分けられているのがいいな。本当に骨格レベルでキャラの顔を描き分けてるよなー。
その頃、病院の外廊下では”壮獣ビースター”のヤフヤとレゴシの祖父、コモドオオトカゲのゴーシャが対峙していた。ゴーシャにレゴシが銃で撃たれるに至った経緯を説明し謝罪するヤフヤ。ゴーシャは『真っ先に知らせてくれてありがとう、頭ごなしにお前を責めたりはしない』とヤフヤに言うが…
「と…いうのも…レゴシが無事に目を覚ませばの話だが」
BEASTARS 板垣巴留16巻 26/204
そう言ってヤフヤに飛び掛かるのであった。ゴーシャさん、格好いいな。
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第135話~意識を取り戻したレゴシは『ディープナイト』に行く…そして再びメロンを捜索することを決意する
ヤフヤが事件に孫のレゴシを巻き込んだことに怒ったゴーシャはヤフヤに飛び掛かる。すっかり老いぼれたと思っていたゴーシャが孫のこととなると昔の様に気迫を放つことが出来る事に驚くヤフヤ。
ゴーシャはヤフヤに『お前は家族愛を知らなさすぎる』と指摘する。…このセリフで色々としっくりきた。ヤフヤは正義の味方として色んな獣達を救い続けているはずなのに、どこか何か欠けた感じがするのは、根本的に身内とか特定の誰かに対する情やそれに対する理解が無いからなんだな(ゴーシャとその孫のレゴシに対しては執着してるけど)。
襲い掛かるゴーシャを制圧しながらもヤフヤは改めてレゴシを巻き込んだことを謝罪し『お前の戦闘力を受け継いでいるレゴシに期待してしまった』と弁解する。…まあ、まさかレゴシがメロンほ手錠を取って語り合おうとするなんて想像しないよな…レゴシが奇行に走りすぎ。
だが、ゴーシャは『自分の血が濃いなら尚更レゴシを戦わせたくなかった』と怒りを露わにして再びヤフヤに飛び掛かろうとする。
その時、二人の元に看護師が飛び込んでくる。なんと意識を失っていたはずのレゴシが『明け方には戻ります』と置手紙を残してどこかに行ってしまったというのだ!担当医も『内臓の損傷が激しく自力で歩いて行くなんて不可能なのに』と困り顔。やっぱりレゴシさん奇行に走りすぎぃ!
本来だったら死んでもおかしくない状態のレゴシが向かったのは『ディープナイト』という市場だった。これは満月の夜に開かれる市場で滋養強壮に特化した出店が並ぶのだ。満月の夜、獣達の身体は水分や栄養を吸収しやすくなるため、月光浴しながら体にいい食事をして体を労わる。
一週間昏睡状態だったレゴシはレアノの亡霊からパワーをもらったのか、コモドオオトカゲの祖父ゴーシャ譲りの高い免疫力からなのか、満月のせいなのか突然目が覚め、『栄養付けなきゃ』という本能が赴くまま『ディープナイト』にやって来たのだ。美味しい煮込みそうめんを食べて生きていることを実感するレゴシ。…煮込みそうめん美味しそう。
そして母レアノの亡霊に言われた『どんな血統のオオカミよりもあなたは強く優しくなれる』という言葉を思い返し、再びメロンと向き合うことを決意し、ヤフヤの元を訪れる。『契約は解除で、もうメロンの件とは関わらせない』というヤフヤにレゴシは『頂いた契約金を使い込んでしまった』と嘘を付き無理矢理メロンの捜索に身を投じるのであった。
第136話~ルイに恋焦がれ苦しむジュノ…一方ルイもジュノと婚約者アズキの間で揺れる
一方、その頃ルイはジュノとの関係に悩んでいた。卒業式、突然ジュノにキスされたルイはその後も月に1~2回ジュノに誘われてお茶を飲むようになっていた。
今日もジュノとお茶をしているルイはジュノから『私が誘えばルイ先輩は必ずお茶してくれるのは何でですか?』と尋ねられ、『君の若気の至りに付き合ってるだけだ』と冷淡に答える。ジュノはあくまで思春期特有の好奇心から”年上の男”、”草食獣とのコミュニケーション”…そういったものに興味を持っているに過ぎないと突き放すルイ。だが、その言葉にいじけたジュノは嘆き叫ぶのだ。
「嫌味で理屈っぽくて痩せっぽちで…考えれば考えるほど好みのタイプじゃないはずなのに」
BEASTARS 板垣巴留16巻 53/204
「なんで私こんなにルイ先輩のこと好きになっちゃったんだろ~!!」
自分の感情を包み隠さずストレートにぶつけてくるジュノに唖然とし『レゴシやシシ組達より恐ろしい』と感じるルイ。しかし、口では『俺だって君みたいな女はごめんだ』と言いながらも愛嬌にあふれ、くるくると表情を変えるジュノから目を離せず、ルイもまたジュノに惹かれ始めていた。…ジュノ。可愛いよな。それぞ、レゴシの母レアノが演じていた『 お人好しで真面目でちょっぴりドジ。そしてお喋りが大好きで明朗快活で愛らしいイヌ科女子』を地で行ってるからな。
しかし、ホーン財閥跡取りとして幼い頃から許嫁がいるルイ。ルイはジュノのためにも『今夜は婚約者と食事の約束をしている』『君には他意が無い(女性として見てない)』と突き放す。
だが、ジュノは『そんな風に逃げられると追いかけたくなる』と言い、喫茶店でルイがジュノが噛んだストローを見ていたことについて『あの日のキスを思い出してたんじゃないんですか?』と手を繋ぎ迫る。
「あんな風に…されてみたいんじゃないですか?滅茶苦茶に…」
BEASTARS 板垣巴留16巻 59/204
頬を赤らめながらそう誘惑してきたジュノに驚くルイ。しかし、『顔を真っ赤にして一丁前に捕食者ヅラするな』とからかって誤魔化し、立ち去る。『婚約者なんて、政略結婚で上手くいくはずがない』と言葉通り遠吠えするジュノにルイは『俺と婚約者の関係はメチャクチャ良好だ』と吐き捨てて逃げ去るのであった。
そして、夜、婚約者とディナーするルイ。…うん、一目見るだけで『メチャクチャ良好』というのが嘘だと分かります、ナニこの冷え切った空気。ルイの婚約者アズキは上品そうでかなりの美人なんだけど、ルイより年上なのかルイに対してどこか冷淡でかつ高圧的。ルイと会うのも半年~1年ぶりで、ルイが右足を失ったことについても労わるより前に『男性機能に問題はございませんの?』と言い出し、ルイは思わず聞き返す。
『結婚してから子どもが出来ないと分かったら事ですから』と言うアズキに流石に気分を害したルイは『その様な不躾な質問に答えるほど我が財閥は困窮していません』と毅然と言い返す。
だが、アズキはそんなルイに対して『意外とウブ』と笑い、席を立つとルイにホテルの名刺を渡す。
「部屋をとってありますの」
BEASTARS 板垣巴留16巻 65/204
「いずれ夫婦になることですし…お嫌でなければ私たちもきちんと距離を縮めませんこと?」
…うわああああ、何なんこの人(獣だけど)!?言いたいことは分からんでもないけど、何とも言えない嫌味さがある…。
一方、その頃レゴシの暮らすアパート”コーポ伏獣”にジュノが泣きながらやって来た。部屋に上げたレゴシは『演劇部で何かあったの!?』と驚く。そして未だに”レゴシ先輩”と呼ぶジュノに『俺は学校辞めたから先輩呼びしなくていいよ』と言うが、ジュノは『いえ、先輩です』と言う。
「異種族恋愛の大先輩です!!」
BEASTARS 板垣巴留16巻 68/204
「恋の相談…のってください!!」
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137話~純血同士の結婚と繁殖を望む社会に対してレゴシとジュノはそれぞれ複雑な気持ちを抱く
チェリートン学園中退後、部員達の近況を詳しく知らなかったレゴシはジュノのルイへの想いと現在の関係、そして卒業式にルイにキスしたというジュノの行動力にただただ仰天する。
そんなレゴシにジュノは『ルイ先輩への好意を自覚してから太ってしまった』と打ち明ける。ルイを想えば想う程食欲が増すというジュノは『心の奥ではルイ先輩を食べたいと思っているのかも、食欲と恋がごちゃ混ぜになってるのかも』と悩み、こんなことはレゴシにしか相談できないと言うのだ。
それを聞いたレゴシは『俺もさんざん悩んで来た』と答え、『草食獣との恋愛の極意がある』と言ってジュノにそれを告げる。
「”気の持ちよう”……だよ」
BEASTARS 板垣巴留16巻 74/204
”極意”と聞いて期待していたジュノは『精神論か』と落胆を隠さないが、レゴシは真面目に『バカに出来ない本当のことだ』と語り始める。
『ハルを食べてしまうのではないか』『この恋はやめるべきではないか』…そう不安に感じるのはいつでも心身のコンディションが悪い時だ。そういう時は体にいいものを食べ運動してしっかりと寝る。肉食獣であることは一生変えられないからこそ、上手に本能に付き合っていかなければならない…そう語って聞かせたレゴシは『ジュノの食欲も恋煩いの一つに過ぎないのではないか』と言う。
「それでも”過ち”を犯した時はすべて終わりだ…」
BEASTARS 板垣巴留16巻 75/204
「だからこそ俺たちは命がけで心を健やかに保つべきじゃないかなって」
レゴシの言葉に『重いですね』と気落ちするジュノ。レゴシははっきり『異種族恋愛は重い』と告げるのであった。
その後、ジュノがお腹を鳴らしたのもあって、レゴシは夕飯を食べにジュノを連れて行く。しかし、レゴシとジュノが歩くと皆が自然と道を開ける。それはただ、二人が大柄なオオカミであるからではない。道行く人が向ける視線は羨望と称賛が含まれている。
そして、それはレストランに入るとより顕著になる。二人がデザートのプリンまでサービスされた、その理由。それは『完璧な血統のカップル』にレゴシとジュノが見られているためだ。
実はこの世界では同族の男女が結婚すると”純婚金”というう国からのご祝儀がもらえ、そして”純血の子ども”が生まれると”養育補助金”まで出て、まず生活に困ることが無いのだ。つまり、何だかんだと国が『固有の純血の血統を残すことが正義』と言っているのだ…え、何その制度!?
『認められ、褒められ、愛され、裕福に暮らせる』…今まで自分が求めてきたことが”純血婚”で全て手に入るという現実を突きつけられて動揺するジュノ。レゴシもまたハルの家の裕福さが”養育補助金”によるものだったのではと考え、『もし俺なんかと一緒になったらハルちゃんは…』と不安になる。
互いに落ち込みながらレストランを出たレゴシとジュノ。すると近くで”食い魔事件”が起きたらしく、警察と報道陣が集まっていた。そして、レゴシとジュノを肉食獣カップルだと勘違いしたマスコミが『この事件に対する感想、そして肉食と草食が共に暮らすリスクについて一言』をコメントを求めた。
すると、ジュノはリポーターからマイクを奪い取って叫んだ。
「私は今 雄鹿に大恋愛中なの!!リスクなんて怖がってたら振られちゃうでしょ!?」
BEASTARS 板垣巴留16巻 84-85/204
『周りから正しさや幸せについて決めつけられたくない、自分の幸せ位自分で決める』…そう叫ぶジュノを慌ててアパートに連れ帰るレゴシ。アパートに戻ったジュノはレゴシに謝るものの、ジュノの叫びに気持ちを代弁してもらったレゴシはむしろジュノに感謝し、ジュノを部屋に泊め、自身は隣室のサグワンの部屋で寝る。
一人レゴシの部屋で横になったジュノは、今まで通り物事が単純に行かないことを理解しながらも、強くなることを誓うのであった。
…”純血婚”、”養育補助金”とかこれまたエゲツない設定が出てきたなー。
138話~明かされるヤフヤとハツカネズミ達の絆
今から遡る事10年前、『窮鼠五百団』という500匹のハツカネズミの窃盗集団がいた。無数のハツカネズミ達で構成されたこの組織は暴力団や犯罪組織から金品を盗むことをポリシーとしていて、体の小ささを活かして裏市や裏社会の地形を把握し、情報を収集。そして、時には合体して大型の獣のフリをしてターゲットを威嚇、攻撃して金品を奪っていた。
ネズミ科の平均寿命は43歳
BEASTARS 板垣巴留16巻 98/204
医学の発達で他の小動物達の寿命はどんどん伸びているものの、体長30cm未満のネズミ科は臓器が小さいため長生きは望めない。それもあってネズミ科が社会でぞんざいな扱いを受ける事は珍しくない。
ならば小さい生物として小さく生きるよりも
BEASTARS 板垣巴留16巻 98-99/204
俺たちは500倍、21500年分の人生の濃度で生きようとするプライドがあった
そう思って『窮鼠五百団』をまとめ上げていたボス。小さい体格の自分達がデカブツ達を出し抜くは楽しかった。しかし、ある日『窮鼠五百団』は警察に捕まってしまうのであった。
取り調べの担当のヤギとサイは『ネズミのチンピラなんて何匹死のうが隠蔽も簡単だ』と言い、ハツカネズミ達を袋に詰めて壁に叩きつけてアジトや隠してきた金品の在処を吐かせようとした。…なんてことをするんだ。まさに鬼畜の所業。
非道な尋問に『窮鼠五百団』のネズミたちは身を寄せ合って仲間と、そしてプライドを守り続けていた。その時、
「命は平等だ」
BEASTARS 板垣巴留16巻 101/204
そう言って現れたのは”壮獣ビースター”のヤフヤだった。ヤフヤは尋問を行っていたサイを蹴り飛ばすと、『窮鼠五百団』のボスの尻尾を掴み水の入ったコップの上に宙づりにし、『君たちが持つ情報と地形の知識を分けてくれたらこの拷問部屋から解放してやる』と言う。ボスは『プライドがある』と断ろうとしたが、499匹の部下たちは『YES』マークを作り、『このウマは俺達ネズミを軽んじも甘やかしもしないから好感が持てる、協力しましょう』とボスを説得。それからヤフヤに協力し続けたのだ。
それから10年。その時のことを懐かしむヤフヤと『窮鼠五百団』のボス。すっかり老いぼれたボスは『ヤフヤ様との心臓のスピードを痛感します』『私も寿命です』と弱弱しく笑う。
そしてボスは『今、悩んでいらっしゃいますね?』とヤフヤに言う。10年…人生の四分の一を共に過ごしたボスはもう、ヤフヤのことをよく分かっていた。最近メロンの事で悩み心を乱しているヤフヤにボスはこう告げる。
「あなたの仕事は1匹の悪党に固執して追いかけることではなく…私たちのように弱い立場の動物に目を配って…救うことです」
BEASTARS 板垣巴留16巻 106-107/204
そして、メロンのことについてはレゴシを信じて一任する様に言うのであった。
…この世界、寿命ってどうなってるんだろうと疑問に思ってたけどやっぱりネズミ科は短いんだな…なんだか哀しい。そして、ヤフヤと彼をサポートするネズミたちの間にこんなストーリーが隠されていたとは…ちょっとヤフヤのことが好きになった。
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139話~ ”タトゥ―スタジオ” に行くメロン…遅れてやってきたレゴシはナマケモノの彫り師からメロンの手がかりを探る
ファストフード店で草食獣用、肉食獣用両方のメニューを頼むメロン。近くの客が『美味しい』と言うのを聞いて激しく苛立つ。
メロンには草食獣、肉食獣どちらの味覚も無く、何を食べても砂の様に感じる。店員もガゼルの角を持ちながら爪は鋭くネコ科の様な瞳孔を見せるメロンの容貌に不審な目を向ける。
街を歩きながらもメロンは草食獣を見れば無性に殺してやりたくなり、肉食獣を見るといわれのない恐怖心を感じる。そんな状態で自分自身を保つためにメロンが定期的に訪れる場所…それはとある”タトゥ―スタジオ”だった。メロンは”殺獣鬼”と呼ばれるナマケモノの彫り師のホルガーを指名する。
ホルガーは彫り師としての腕は天下一品であるもののナマケモノであるがゆえに彫るのが非常に遅いため、客はとんでもない痛みと大量の出血に見舞われ、過去には死んだ者もいる。しかし、ホルガーは客が死んでも気に留めず彫り続ける…そのため”殺獣鬼”という呼び名がついてしまったのだ。…この作品、時々さらっとクレイジーな話をぶっこんで来るよね。
今となっては唯一のホルガーのお得意さんとなったメロン。メロンは体に出てくるヒョウ柄を隠す様にホルガーにメロンの葉を彫らせているのだ。
喋るのが非常に遅いため余計な口を利かない…そんなホルガーを気に入って一方的にぼやき続けるメロン。今回の部位は太ももの内側で、非常な痛みが伴うもののメロンは『痛みだけは種族問わず生きている証』と喜ぶのであった。ホルガーは半日かけてメロンの下半身にメロンの葉を彫り、メロンは大量の出血を残して去っていった。
そして、その半日後、 ”タトゥ―スタジオ” にメロンの血の匂いを感じ取ったレゴシがやってきた。メロンが既に去ったと知りながらも何とかして情報を得たいと考えるレゴシ。
すると、メロンがもういないはずなのに、ホルガーはメロンとの会話を始める。ナマケモノは元々会話の返事が遅いうえ、特にそれが大事な会話であればあるほど返事に非常に時間が掛かる。ホルガーはメロンが去った今になって会話の返事をし始めたのだ。ホルガーの言葉からメロンがまるでその場にいる様な錯覚を覚えたレゴシは担当の彫り師に『今日の日付でも彫っておいて下さい』と言い、ホルガーの言葉に耳を傾けるのであった。…今日の日付って…せめてハルの名前にするとか、もっと、こうマシな選択肢有るでしょうよ…。
140話~ホルガーの言葉を頼りに海へ向かったレゴシ…しかし、それはメロンの罠であった
遅れて今はもういないメロンとの会話を始めたホルガーの言葉に耳を傾けるレゴシ。会話を盗み聞きしている背徳感を覚えながらもホルガーの言葉からメロンが寂しさや不安を打ち明け、『理解者がいない』と訴えていたことを感じ取ったレゴシは『メロンはただの悪獣である前に一匹の獣だ』と考える。そして、ホルガーが『そうですか、海に行かれるのですか、心を癒してください』と言うのを聞いて、ただちに海に向かうのであった。…レゴシ、腕に『7/5水』って彫られている…本当にそれでいいのか?
本当にメロンがいるか、そしてこれから現れるかも分からないまま海に来たレゴシ。海を眺めながら『肉食と草食の間に生まれたハーフの子供は異物扱い』というメロンの言葉や同じくコモドオオトカゲとハイイロオオカミのハーフの母レアノの人生について考えるレゴシ。
だが、海を見ているうちに『ハルちゃんやジャック達、同じアパートのセブンさんやサグワンさんとも海に来たい』と明るいイメージばかり浮かぶ自分が何だかんだと明るく、幸せで楽しい人生を送っていることに気付く。
そして、『メロンは理解者を求めている、自分がもっとメロンの事を知ることが出来れば』と思ったその時、銃声が響き、レゴシは左耳を撃たれた。
驚いたレゴシが振り向くとそこにはシシ組を侍らせたメロンが楽しそうに笑っていた。全ては罠だったのだ。
「ねぇ君!!僕の理解者になってくれますかぁ~!?」
BEASTARS 板垣巴留16巻 142/204
レゴシに追われていることに気付いていたメロンはホルガーの特性を利用し、レゴシが海に来るように仕組んだのだ。ホルガーに仕込んだ会話を信じ、メロンに同情し理解者になろうとしていたレゴシを『優しい世界で生きてるんだね』と嘲笑ったメロン。シシ組にレゴシを拘束させ始末する様に命令して上機嫌で去っていった。
残されたシシ組達は因縁があるレゴシに複雑な表情を見せる。…確かに、レゴシがハルを助けに来てからシシ組の運命は狂ったんだよな。でも、その結果、シシ組はルイの下で生まれ変わった訳で。だが、しかし、またレゴシのせいで、ルイもまたシシ組の元を去ったから、今はメロンに良いようにされてしまっているわけで。塞翁が馬と言うか、禍福は糾える縄の如しと言うか…シシ組も波乱に満ちている。
リーダー格のフリーは手下にレゴシをイスに縛り付け足をセメントで固めさせ、崖の上に連れて行って言う。
「俺たちネコ科が最も恐れる死に方をお前には経験させる」
BEASTARS 板垣巴留16巻 147-148/204
「シンプルに海に落とす、それで決まりだ」
…いや、それネコ科じゃなくても嫌な死に方だよ!!
141話~海に落とされたレゴシはサメに食われそうになるが、サグワンから教わった言葉で窮地を切り抜ける
レゴシを海に落して殺そうとするシシ組。メロンを追っていた様子のレゴシに対して『俺たちはメロンの弱点を見つけたから、いずれ俺たちがアイツを制圧する』と語る。それを聞いたレゴシは冷静にシシ組達に言う。
「もし俺が30分以内にここに戻ってこれたら俺にも教えてくれませんか」
BEASTARS 板垣巴留16巻 155/204
「その…メロンの弱点」
『足をセメントで固められてイスに縛られて海に沈められる自分の状況分かってるの!?』と驚くシシ組の面々だったが『本当に戻って来られたら教えてやる』と約束してレゴシを海に突き落とす。
海に落とされたレゴシは”コーポ伏獣”の隣人、ゴマフアザラシのサグワンとのやりとりを思い出す。海洋出身…いわば外国人の立場であるサグワンはレゴシがやって来てから陸での暮らしが楽しくなったとレゴシに感謝してある海洋語を教えてくれた。『これは魔法の言葉で、海で危険にさらされた時に助かる』と言って。
早速血の匂いを嗅ぎつけたサメがやってきてレゴシを食べようとしてきた。海洋語は学校で習ったくらいで大して聞き取れないものの、レゴシは必死にサグワンから教わった海洋語を叫ぶ。それは『私はゴマフアザラシと友達です』という意味だったのだ。
陸海の橋渡し役であるゴマフアザラシの友人…それを聞いたサメはレゴシを『陸海の発展のために生きる義務がある命』と判断して手足の拘束を解き、陸まで連れて行くのであった。…サグワンさん、グッジョブ。そして、ゴマフアザラシって海の世界では凄い存在なのね。
142話~混血を排除する純血至上主義団体『コピ・ルアク』
アパートで一人暮らしをするゴーシャ。毒持ちの獣は周囲か敬遠されがちだが、ゴーシャはご近所さんや職場の人間関係に恵まれ穏やかな生活を送っている。唯一の悩みは孫のレゴシ。レゴシを見ていると闘争心に溢れ血気盛んだった過去の自分を思い出し心配で心配で仕方が無いのだ。
そんなゴーシャは毎週土曜日を楽しみにしている。土曜日、ゴーシャは裏市の近くのとある施設を訪れるのだ。それは混血種の子どもを預かる託児所。ゴーシャは毎週土曜日、ボランティアとしてここの子ども達の世話をしているのだ。…ゴーシャさん、いいおじいさん過ぎる…。
見た目からして混血種と分かってしまう子どもは『トラブルを起こす』と決めつけられて一般の施設で受け入れてもらえないことが多く、ここはそういった子供たちが集まっているのだ。…社会的に異種族婚が増えてきたとされているのだから、当然混血の子ども達も増えているわけで…。でも、社会はそういった子供達を受け入れる体制を整えられていないのか…難しい。
だが、ゴーシャはそこにやってきた掃除の業者のコウモリが怪しいことに気付く。コウモリはメスのインパラの保育士と子ども達しかいないと思っていたのに屈強なゴーシャがやって来たことに動揺して、本来なら逆さまの状態でも物が見えるのに首を捻って正常な景色を見ようとしたことをゴーシャに見抜かれたのだ。…このマンガ読んでるとさりげなく動物豆知識が増えるなー。
保育士と子供達に外へ避難するように告げたゴーシャ。コウモリは一匹ではなく無数に託児所内に潜んでいた。
「混血種の子どもたちの血液目当てで超満員かね」
BEASTARS 板垣巴留16巻 188-189/204
「代わりにコモドオオトカゲの毒で満腹にしてやろう」
「子どもを狙う輩は許さん」
その頃、レゴシはシシ組のメンバー達からメロンの弱点について聞いていた。
「純血至上主義団体!?何ですかそれ…?」
BEASTARS 板垣巴留16巻 190/204
『純血至上主義団体、コピ・ルアク』…その規模や詳細は分からないものの純血を正義とし、混血を徹底的に排除しようとしている過激な集団だという。シシ組達は『コピ・ルアク』とコンタクトを取ってハーフのメロンの弱点を聞き出そうとしているのだ。
『コピ・ルアク』は過激な組織で“霊猫”と名高い希少種属のジャコウネコをボスが自身の排泄した最高級のコーヒー豆を褒美にしてコウモリを手下にしているという。…自身の排泄したコーヒー豆がご褒美って…私はコーヒー飲めないからコピ・ルアクコーヒーの有り難さが分からないから何とも言えないな…。
そう語るシシ組のメンバーの話をにわかに信じられないレゴシ。まさか今まさに祖父ゴーシャが『コピ・ルアク』のコウモリ達と戦っているとは夢にも思わないのであった。
そして、その頃、『コピ・ルアク』のボスのジャコウネコは『コウモリの皆のためにコーヒー豆挽いとこう』とコウモリ達の帰還を心待ちにしているのであった…。え、『コピ・ルアク』のボス、小さっ、そして可愛い…えええ!?
以下、感想と考察
“純血婚”を祝福する社会と“純血至上主義団体”『コピ・ルアク』の登場
この『BEASTARS』はストーリーや絵も良いけど、本当に世界観や細かい設定が練られていてそれが好き。今回は“純血婚”を後押しする社会制度という、これまたえげつない設定が出てきた。
『草食獣と肉食獣の共生』『種属を超えた絆』…国はそれらを詠いながら、同時に“純血婚”をしたカップルには“純婚金”というご祝儀を渡し、純血の子どもが生まれれば多額の“養育補助金”を与えて生活を保障する。これって国が『純血が正義』と言って、その思想を後押ししているに過ぎない。
元々この世界、名字というものがなくて『ハイイロオオカミのレゴシ』『アカシカのルイ』みたいに種属=名字・所属扱いだし、認識・識別するためには純血の方がやりやすいというのはあると思う。混血だとレゴシの母、レアノの様に成人後容貌が崩れたり、メロンの様に味覚異常に悩まされたりするしね…。
ただ、国が国民の衣食住や婚姻について補助金の給付等を通して特定の方向に誘導するのは何ともいえないうすら寒さがあるよな…。ちょっと違うかもしれないけど、何か『ハワイアン・ホームステッド』…ハワイの先住民に対する施策を知ったときの違和感を思い出してしまった。
そして、国ですらそんななんだから『コピ・ルアク』みたいな純血至上主義団体が生まれるのは必然。シシ組は頼みの綱扱いしてるけど、こんな団体をレゴシが受け入れられるはず無いし、今後の展開が気になる…。
オマケの作者の話について
本筋とは関係ないけど、オマケで書かれた作者、板垣巴留氏のお話が衝撃的。100話目の会社のイジメで精神的な限界を迎えていたセブンが、電車でたまたま目が合ったレゴシに『私を食べて』というジェスチャーをしてしまい、『失礼ですよ』と怒ったレゴシが電車からセブンを押し出すという話があるのだけど、それは板垣氏自身の体験が元だという…。
高校生の時、友人関係で悩み疲れてしまった板垣氏は自暴自棄になって、ある日電車で目の前に立っていたおじさんに対して『私のことを誘拐していいよ』と誘惑するように微笑んで見つめたのだという。
『今考えると傲慢でおじさんに対しても本当に失礼』『あの時ほど気持ち悪い自分はいなかった』と語る板垣氏。
…でも、人って形は違えど疲れて自暴自棄になって変な行動に走ってしまったり走りかけてしまうことってあると思う。この100話のセブンのエピソードは個人的に“刺さる”作品だった。だからこそ、女子高生だった板垣氏が怪しいオッサンに誘拐されることなく、そしてこういった形で作品に昇華できて良かったと心から思う。
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