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Contents
前巻までのあらすじ
”七つの壁”の向こう側に行ったエマはある条件と引き換えに鬼の頂点(あの方) と”約束”を結び直し食用児全員で人間の世界に行くことが可能となった。その後、王都で五摂家と女王を倒し、鬼社会はムジカ、ソンジュ、そして実は生きていたレウィウス大公の元で大きく変わろうとしていた。
そして、エマ達はピーター・ラートリーに連れ去られた子ども達を救うべく因縁のGF(グレイス=フィールド)に向かった。そこでグランマとなったイザベラが立ちはだかるが、イザベラは既に他のママやシスター達を懐柔しピーターを裏切る手筈を整えていた。
エマとイザベラ達は共闘してピーター・ラートリーを追い詰めた。しかし、ピーターは降伏するふりをしながらも最後に一矢報いるためエマを殺すことを画策しており…。
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→【漫画】約束のネバーランド19巻【感想・考察(ネタバレあり)】ついにクライマックス…グランマとなったイザベラはエマ達に…!?
以下、あらすじとネタバレ
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第172話 自由~降伏するふりをしならがエマを殺そうとするピーター…しかし、エマの意外な言葉に…
追い詰められたピーター・ラートリーは最期に一矢報いようとしていた。何故なら“約束”を結んだのはエマで、まだ“約束”は履行前…エマさえ殺してしまえば“約束”は無かったことになり、食用児達は人間の世界に行くことが不可能になる。
パパと一緒に死のう 食用児共(こどもたち)よ
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 13/248
ピーターは銃を突きつけるエマに『撃たないでくれ』と懇願するふりをして近付く。ピーターはスーツの袖にナイフを隠しており、隙をついてエマを殺すつもりなのだ。
しかし、エマは銃を下ろした。
「あなたを殺すつもりはない」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 15-16/248
「私たちはあなたと話をしに来たの」
「不可侵 不干渉」
「私達はラートリー家(あなたたち)に如何なる報復も攻撃もしない」
「だから食用児(わたしたち)の自由を認めてほしい」
エマの言葉を聞いたラートリーは驚き、そして『こいつはバカだ』と内心ほくそ笑むのであった。
…
話は少し前、エマ達がGFに侵入する少し前にさかのぼる。『ピーター達、ラートリー家に報復しない』と言い出したエマに『私は嫌、許せない』とジリアンは反発した。しかし、エマも『私も許せない、憎い』と顔を歪めた。ラートリー家は農園のシステムを作り上げ、ピーターは猟場を作り、ユウゴやルーカス、そして多くの子供達を殺した。しかし、エマは『“殺して解決”で終わらせるのは嫌』とハッキリ言う。殺してしまえばまた、憎しみ、恨み、怖れの連鎖に囚われてしまうというのだ。
「運命や境遇だけじゃない 憎しみや恐怖からも」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 20/248
「私たちはもう何からも囚われたくない」
エマの言葉に皆、『許せないけど許さないと本当に自由にはなれない』と納得する。ジリアンも『エマのそれは甘ったれの綺麗事』と言いながらも『出来るとこまでとことんやってみましょう』と同意した。ピーターとどこまで話が通じるか分からないが、対話を放棄しないことに決めたのであった。
…
目的は勝利だけでなく対話も…そう予め決めていたエマ達は鬼達を制圧したものの、誰一人として殺害することはしなかった。それを聞いて唖然とするピーターにエマは食用児とそのシステムについて『鬼は生きるために食べているだけ、ママ達も生きるため、初代ユリウス・ラートリーも戦争で死ぬ人を見たくないから食用児を差し出し続けていただけ』『そのことを“弱さ”と責めることはできない』と理解を示した。
エマは何度となく色んな可能性を考えてみたという。もし、鬼が人間を食べる生き物でなければ友達になれたか、もし自身がラートリー家だったら何ができたか。そして…
「もしあなたがGFに生まれたら友達になれたのかな」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 25/248
そうピーターに問いかけたエマ。自分達は立場が違うから争い憎み貶め合っている。しかし、それぞれの立場を差し引けば本当は憎しみ合わなくてもいいはずだとエマは気付いたのだという。
『あなたはあなたの正義で二つの世界を守ってきたのでしょう』と更にピーターに問うエマ。実際にピーターの行いにより食用児達か苦しめられた一方、人間の世界は守られ続けたのだ。そして、ピーターもまた“ラートリー家”という立場を背負わされ続けてきた…そうエマは言う。
『私達は皆囚われている。鬼も人もあなた達調停者も私達食用児も』『でも、世界は変わるし変えることができる』…そう力強く宣言したエマは銃を捨てるとピーターに手を差し伸べた。
「変わろう」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 29-30/248
「1000年の苦しみを今終わらせよう」
「一緒に生きよう ピーター・ラートリー」
ピーターはそのエマの言葉に愕然とするのであった…。
…エマが『本当は皆憎しみ合わなくてもいいのではないか』と語っている背景に様々な争いや不幸が描かれているが、2コマ…黒人達がデモを起こしているコマと、“corona viru…”と落書きされた店とそこで争っている人達が描かれている。BLMと新型コロナをここでぶっこんで来るとは驚きである。
エマはピーターを殺そうとはしないだろうと予想はしていたけど、単に『可哀想』『争うのは嫌』という感情論ではなく、ちゃんと倫理的、哲学的レベルに言語化してくれて良かった。あと、ラートリー家バージョンのエマが格好いい。
第173話 Prisoners~ジェイムズとピーターの過去…ジェイムズの真意を理解したピーターは手を差し伸べたエマに人間界で支援を受けるための”コード”を伝えるが…
エマの言葉を聞いたピーターは今までの人生、そして兄のジェイムスのことを思い返す。
ラートリー家は二つの世界を守る調停者として世界中の要人たちから敬意を払われてきた。幼かったピーターはそんな一族に誇りをもっており、特に当主であった年の離れた兄、ジェイムズを一番の英雄だと思い慕っていた。ジェイムズは賢く聡明なだけでなく、優しく誠実な性格をしており弟であるピーターのことも可愛がっていた。
『英雄である兄を支えていくために自分は生まれてきた』…そう幼いピーターは疑うことはなかった。
しかし、そんな日々はジェイムズがある文献を発見したことで一変した。それは初代ユリウス・ラートリーの手記であった。『食用児の祖は和平に反対した戦争派の悪党』…そう教えられ育ってきたラートリー家の者達。しかし、ユリウスの手記には真実が…『戦友を裏切り”約束”を締結した。戦友たちが食用児の祖先である』『逃げ遅れた民達も無理矢理食用にした』という懺悔が綴られていたのだ。
これを共に読んだピーターは『ユリウスは私情を排して大事な戦友を裏切ってまでも世界を守った、素晴らしい』と思い、笑顔で『ラートリー家は崇高な使命を賜りし一族だ』と言った。しかし、ジェイムズは『なんということだ』と苦悩し、ピーターにこう言ったのだ。
「”崇高な使命”…確かに私もそう思っていた…でも違う」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 38/248
「これは”罰”だよ」
「そして”呪い”だったんだピーター」
そう言って絶望的な表情を浮かべたジェイムズ。そして、それ以降ジェイムズはラートリー家の当主でありながら、陰で”ウィリアム・ミネルヴァ”の名前で一部のラートリー家の同志たちと食用児の脱走を手助けし始めたのだ。
何故ジェイムズがそのような行動をするのかが全く理解できなかったピーター。ジェイムズの行いは世界を危険に晒すもので間違っている、食用児は世界に必要な犠牲…そう思った。
大好きな兄の変貌に『どうしよう、どうする』と迷い続けたピーターは世界のために戦友達を裏切ったユリウスを思い出し、ラートリー家の者達に『兄は裏切り者だ、粛正する』と密告した。追われる身となったジェイムズは銃撃で負傷してもなお海に逃げ込んだが、結局そのまま死亡するのであった。
部下達に死体を持って来させたピーターはジェイムズの最期について尋ねる。
「笑顔でピーター(あなた)に」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 41-42/248
「『すまない』と伝えてくれと」
それを聞いたピーターは号泣し兄の死体を抱きしめるのであった。そして、兄ジェイムズが果たせなかった分まで一族の”使命”を全うすると誓ったのだ。
…
今ピーターはそんな崇高な”使命”についてエマから『背負わされている』『自由になろう』と言われ、かつて兄ジェイムズが言った『罰、呪い』という言葉を思い出し戸惑う。『僕は正しく、これは崇高な”使命”で運命に囚われているわけではない』…そう必死に思おうとするピーター。今までの自分やラートリー家の在り方を”呪い”や”罰”だと認めてしまえば、これまでの1000年がまるで無意味だったと認めてしまうことになるため、それはどうしても否定したかった。
しかし、ピーターは兄ジェイムズの最期の言葉、『すまない』というのが『君に一族の運命を背負わせてしまってすまない』という意味で、ジェイムズは食用児を解放することで弟のピーターもラートリー家の呪縛から解き放とうとしていたことに気付くのであった。
兄ジェイムズの真意をやっと理解したピーターは『共に生きよう』と手を差し伸べてきたエマに向かって哀しい笑みを浮かべた。そして、『そんな風に甘いから食い物にされるんだ』と皮肉を言いながらもエマ達にこう告げる。
「人間(むこう)の世界も変わらない」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 48-49/248
「なぜなら鬼(かれら)は人間の鏡だから」
むしろ鬼などまだ可愛いものだと言うピーター。『人間は人間を食わないのに、鬼が食用児にしてきたようなことをずっと互いに繰り返し行って来ている』…そう人間達が互いに醜い争いを繰り返し続けていることを語る。
「「コードSolid」僕の叔父にそう告げるといい」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 49/248
「やれるものならやってみろ 見物だ 人間(あっち)の世界で食用児(おまえたち)がどこまでできるのか」
自分は食用児達が作ると言う”新しい世界”を地獄の果てから見物させてもらう…そう言って笑うとピーターは隠し持っていたナイフで自ら首を掻き切るのであった…。
…やはりピーターは死亡するか。エマ達が許す展開が来たとしても読者の感情を考慮すると色々と殺戮に加担した人物が生き残る展開は難しいよな。
今回最期に兄ジェイムズとの過去が描かれてけど、どうしてもレグラヴァリマとかと比べると小物感が拭えなかったピーター。あんまりラスボス感はない。
おまけのオフシーンでジェイムズを殺害したスミーの様子が描かれている。結局本編でスミーの事が詳しく明かされることはなかったな。
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第174話 新しい世界①~自害するピーターと子供達に赦されるイザベラ達
一緒に生きようと手を差し伸べてきたエマに対して首をナイフで掻き切って見せたピーター。今までの立場をそう簡単には捨てられなかったのだ。
仇であるはずの自分を必死で救命しようとするエマ達を、ピーターは薄れ行く意識の中不思議に思う。そして、先ほどエマが言った『あなたがGFに生まれていたら友達になれていたか』を思い出し、想像してみるのであった。
幼い自分が、幼いエマ達に囲まれ手を取り合って笑う光景…。
『お前達が作る新しい世界は自分には眩しすぎる』…そう思いながらピーターは事切れたのであった。
そして、それをどこかから見ていた鬼の頂点は『思っていたより楽しめた。1000年間ご苦労様』と言ってピーターを労るのであった…。
ピーターを救うことが叶わず落ち込むエマ達であったが、エマはピーターの亡骸に『見てて、絶対に家族で笑って暮らせる生活を手に入れてみせる』と告げ立ち上がる。
そして、エマ達は改めてイザベラ達と向き合い、言う。
「人間の世界へ行こう」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 61/248
「全部終わったらママ達も」
エマの言葉に驚くイザベラ、ママ・シスター達。エマが鬼の頂点と約束した『食用児全員』には既に大人になったママやシスター達も含まれているというのだ。
しかし、イザベラも他のママ・シスター達は『私達を許すの?』『いや、でも…』と今まで自分達が子供達にしてきた仕打ちから戸惑う。
「ごちゃごちゃうるせー」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 63/248
「“うんざり”してたんだろ?」
「悔いがあるなら人間の世界(むこう)で晴らせよ」
そう言ったのはレイだった。かつては自身も死を選ぼうとしたレイ。しかし、『生きてこそ償える罪、晴らせる悔いがある』『もう誰も恨まない、恨んでない』とイザベラ達に語る。他の子供達も『行こうよ』『ママー』と言ってイザベラや他のママ・シスター達に抱きついた。
そんな子供達の様子にイザベラは驚く。自分が鬼と通じていると知ったとき、子供達はショックを受け強い恐怖を感じたはずだ。それなのにどうしてこんな風に許せるのだろうか…と。
「ごめんね…ありがとう…みんな」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 66/248
イザベラはそう言って泣きながら子供達を抱き締めるのであった…。
まだ鬼の王兵が2000も残っており、他にもやることがあると言うエマ。イザベラはその間、鬼や他のラートリー家達に裏切りがバレない様に上手くやると約束する。『必ず戻ってくる』…そう言ってエマ達が出発しようとしたその時だった。
外で見張りをしていたシスロから『王兵の動きがおかしい』『王兵が持ち場を離れて外橋の方に向かっている』と連絡が来たのだ。
王兵達は異変を察知してこちらに攻め入るつもりなのか…?そう警戒するエマ達。
その時、シスターが持っていたタブレットに『全国民へ王都から伝令…』と通達が入る。それは意外なものでエマ達は目を見開くのであった…。
…意外とピーターの死に際を引っ張るな。そして、子供達から赦されるイザベラ、ママ、シスター達。彼女達も“食用児”だったわけだし、というか大人になってからも些細なことで鬼に食い殺される対象だったわけで。保身のためとはいえ、子供達を愛情を注いで育ててきたわけだから、まあ自然な流れとは言えるだろう。
子供達がイザベラに抱きつくシーンで、他のママ、シスター達も子供に抱きつかれていたけど、どこかのハウスで一緒だったけど、鬼に引き渡した子なのだろうか。だとしたらそこにもドラマがあるよな…。
第175話 新しい世界②~農園の廃止を告げたレウウィス大公と新しい王となったムジカ…食用児達は本当に解放される
エマ達がGFで戦っていたその頃、王都の広間で処刑されかけていたムジカとソンジュを救ったレウウィス大公。レウウィス大公は旧政権の一掃に加えて、全ての民に“邪血”を分け与えることで誰もが飢えや退化に苦しまずに済む社会を約束し、民衆は歓声を上げる。
すると、レウウィス大公は更にこう告げる。
「そしてもう一つ」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 73/248
「これを機に全ての農園を廃止しよう」
レウウィス大公のその発言に先程まで歓喜していた民衆達は『え?なんで?』とざわめく。人肉を食べることは民にとっても格別の楽しみだったのだ。
そんな民衆達にレウウィス大公は『世界を棲み分け、人を狩らないと”約束”しながら農園で人を飼育していたのが間違いだった』『農園があったために人肉の供給いかんで諸君らの生死や知能水準は支配され続けていた。農園などない方がよい』と諭す。
レウウィス大公の言葉に民衆達は『確かに邪血をもらえるなら人間を食う必要はないかも』『しかし、人肉は食いたい』『でも、農園を残したらやはり人肉を通して俺達は縛られてしまうかもしれない』…そうそれぞれ考え、最終的に皆、『農園はいらない、変わろう』という結論に達するのであった。
そして、民衆達は『新時代万歳、新王レウウィス様、万歳!』と歓迎の声を上げる。しかし、レウウィス大公は以外な事を言う。
「いや私は王にはならぬよ」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 79/248
『そんな…』と失望の声を上げる民衆にレウウィス大公は『私は旧体制側で女王らの施政を見て見ぬフリをしていた』と自身に新しい時代を牽引する資格が無い事を説明する。そして、エマに倒された時のことを思い返す。
あの時GPの猟場で一度は死んだレウウィス。しかし、自覚は無かったがレウウィスには姉のレグラヴァリマ女王同様、核が二つあり再生することができたのだ。人間に敗けたことで、そのまま人里離れたところでひっそり朽ちようと考えていたレウウィスだったが、女王陛下が崩御したと聞いて表に出ることにしたのだ。
「私は王に相応しくない」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 80-81/248
「新しい世界には新しい王だ」
「私はこのムジカこそ王に相応しいと思う」
驚くムジカ。さらにそこに大僧正もやって来て『私もムジカが相応しいと思う』『ムジカはサレよりも民を思い、幾度となく救って来た』と言い、寺院をあげて支えていくことを約束する。
『我らの王にはなってくれまいか?』と大僧正に問われ沈黙するムジカ。すると民衆達も『ムジカ様、王になってくれ』『あなたが王なら安泰だ』と沸く。
だが、そんな民衆達を大僧正は『それでは何も変わらない』と嗜める。民衆達はまるでレグラヴァリマ女王達旧支配者達がけが悪いかの様な言い草だが、女王達の統治を受け入れ助長したのは他でもない民衆達なのだ。『王に任せておんぶにだっこだから簡単に踊らされた』と言う大僧正。実際つい先ほどまで民衆達はムジカとソンジュに対して『邪血を殺せ』と憎しみをぶつけていたのだ。指摘された民衆達はドキッとして黙ってしまうが、大僧正は彼らに優しくこう言うのであった。
「王だけでなく民も考え動かねば 新しい世界は皆で守りつくり上げるのだ」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 84/248
大僧正の言葉に感銘を受けた民達は『民も王を支えます、ムジカ様』と言い出す。そんな民衆達を見たムジカは『本当に鬼世界が変わろうとしている』と感動する。一瞬『私が王になれるのか』と戸惑うムジカに傍らのソンジュが励ますように微笑みかける。ムジカは皆と新しい世界を作る事を決意するのであった。
「新王!!ムジカ様万歳!!」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 85/248
ムジカは皆に歓迎されながら大僧正から月桂冠を授かるのであった…。
…
GFでムジカが王となり、鬼達皆に邪血が行き渡ると聞いたエマ達は驚き歓喜する。何よりも『農園が無くなる』と聞いて歓喜する。
全食用児自由だ!!
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 87-88/248
抱き合い、泣きながら喜ぶエマ達。ただ人間の世界に逃げるだけでなく、本当の意味で食用児達は解放されたのだ。
…
夕暮れのハウスで他の子供達と遊んでいたフィル。すると背後から『フィル』と声を掛けられた。
振り返ったフィル。すると…
「ただいま!フィル!!」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 90/248
そこにはエマが立っており、フィルは涙を浮かべて駆け寄るのであった…。
…レウウィス大公、核が二つある自覚無かったんだ…。核がいくつあるかって調べる術ないのか?一度死なないと分からないのか?でも、レグラヴァリマは予め核が二つあると分かってた感じもするけどどうなんだろう。
そして、結局子鬼のアウラとマウラの父母は殺されてしまったのだろうか…?出てこないというのはそういう事だよね…?悲しい。レウウィス大公とかに救って欲しかったなあ。
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第176話 ただいま!~フィルと再会したエマ。解放されたことに喜び合う食用児だったが、そこに農園の責任者の鬼が襲い掛かる
かつてエマ達がGFから逃走を謀った際、フィルは『自分達4歳以下の子供達を置いていってくれ』と提案した。そんなフィルにエマは彼らが出荷され歳になる前…2年以内に必ず戻ってくると約束した。
そして今、約束通りエマはフィルの元に戻ってきた。
「エマ…エマ…!!」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 95/248
「おかえり!」
泣きながら抱き合うエマとフィル。『待たせてごめん』と謝るエマにフィルは『信じてた』と答える。そして、フィルは後ろからやっていたドンやギルダ達、そしてノーマンを見て喜ぶ。
だが、ノーマンから『弟妹を守ってくれてありがとう』と言われると表情を曇らせる。エマ達と暮らしたハウスが焼失した後、新しい兄弟が出来たフィルは彼らが“出荷”されるのを止められず苦しんできたのだ。
フィルのその表情から色々と察したレイは『辛かっただろ、ごめんな、ありがとうな。もう大丈夫だからな』と言い頭を撫でてやる。そして、号泣してしまったフィルを皆で抱き締めてやるのであった。
エマ達がやってきたことに他の子供達も気付き、ハウスのママは『これは一体どういうこと?』と動揺する。そんな彼女に『私達はもう自由になった』と声を掛けたのはイザベラだった。
驚くママにイザベラは農園が廃止になったことを告げ、『これからはもう子供達を普通に愛せるのよ』と微笑み掛けた。それを聞いたママもまた声を上げて泣き出し、イザベラはママを抱き締めてやるのであった。
その頃、新しい王ムジカの命で各農園の職員や責任者達が確保されていた。突然の事に農園の鬼達は困惑し怒るが、新しい王やレウウィス大公に逆らうことの難しさを理解し、ただ悔しがるのであった…。
そして、エマの仲間達が各ハウスを訪れて『農園が終わった』と告げていた。GF(グレイス・フィールド)だけでなく、GB(グローリー・ベル)、GV(グランド・ヴァレー)、GR(グッドウィル・リッジ)、そして量産型農園でも皆次々に解放されていく。
GFの門を眺めるエマは感慨に耽っていた。門でノーマンと真実を知ってしまったあの夜から始まった“脱出計画”。自分でも無茶な理想だと分かっており、何度も恐怖や不安で一杯になり挫けそうになったが『諦めてはだめ』と思い前に進んできた。
でも仲間(みんな)のおかげでここまで来れた
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 104-106/248
コニーやユウゴ、ルーカスそして他の死んでしまった仲間達も共に喜んで暮れているような気がするエマ。ついに人間の世界に行ける…そう皆がホッとし合っていたその時だった。
突然、子供達の背後に農園の責任者の鬼が現れたのだ。悲鳴を上げて逃げる子ども達を農園の責任者の鬼はすさまじい形相で睨みつける。今まで農園の運営に心血注いできた彼は突然の王政の崩壊と農園の廃止に納得できず憤怒し、だったらいっそのこと自分が子供達を食べようと決めたのだ。
「私の農園私の人肉(にく)だ」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 110/248
奪わせぬ
今ここで私が食らい尽くす!!
エマは逃げ遅れた子供を抱えて必死に逃げるが、先ほど銃を下ろしてしまったため丸腰だった。レイが離れたところから発砲して鬼を止めようとするが、その瞬間、鬼の鋭い爪がエマと子供に降りかかった。
…鬼の爪から逃れるため地面に倒れ込んだエマは無傷で、痛みに呻きながら顔を上げた。すると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「…ママ?」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 112/248
そこにはエマと子供を庇って鬼の爪に胸を貫かれたイザベラが立っていたのだ…。
…フィルが無事で何より。まあ、アンドリューにしてもフィルに危害を加える理由はないからな…。成長したキャロルが描かれているけど、可愛い。結局何故彼女がエマに似ているのかなどは明かされなのか。ファンブックで明かされるのか?
第177話 母親~エマ達を庇って鬼に殺されたイザベラ…最期は子供達に囲まれ笑顔で息絶えた
エマ達を庇うにして、農園の責任者の鬼の爪に体を貫かれたイザベラ。しかし、イザベラは必死の形相で貫かれたまま鬼の腕を掴み続ける。
そんなイザベラに鬼は『何の真似だ』と冷ややかに言う。
「今さら母親ぶって それでこれまでの自分が許されると思っているのか」「お前は母親になどなれない」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 115/248
しかし、イザベラは鬼を睨み付けて言う。
「子供達には指一本触れさせない」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 116/248
イザベラはとんでもない力で鬼の腕を押さえ続け、鬼も身動きが取れなくなる。
先程の銃弾を外してしまったレイは再び鬼を撃とうとするが、『今撃つとママの体にも衝撃が行く』とギルダに制止される。
そして、農園の責任者の鬼が『農園のない世界など認めん、貴様から食ってやる!』とイザベラに襲い掛かろうとしたその時。背後から王兵達がやってきて、農園の責任者の鬼の首を切り落とし捉えるのであった。
鬼の爪から解放されたイザベラはそのまま仰向けに倒れてしまい、子供達は『ママ!』と叫びながら駆け寄る。
しかし、胸を何ヵ所も貫かれたイザベラは大量に出血しており、すでに虫の息であった。
苦しそうにしながらも誰もケガをしていないことを確認したイザベラはホッとしたような笑みを浮かべ、そして『ごめんね』と皆に謝る。
ちゃんと生きて人間の世界で償おうと考えていたイザベラ。しかし、結果的に“ずるい死に方”をすることになってしまう…そのことを謝っているのだ。
『ママ、死なないで!』と叫ぶエマの頬をイザベラは両手で優しく包むのであった…。
2年前、イザベラの正体を知ったとき…エマは最初は恐怖し『なんで、どうして』と混乱した。そして、次第に許せないという気持ちが生まれ、『ママは敵、ママを倒さなくちゃ』と思うようになっていった。
しかし、脱走した後に思い出すのは不思議と優かったイザベラの姿ばかりだった。そして、その理由についてエマは『ママの愛情が全部本物だったからだ』と気付いた。
子供達を愛しながらも出荷し続けたイザベラは、かつてシェルターで一人後悔と孤独に苛まれていたユウゴと同じくありえたかもしれない未来の自分達だと思うようになったエマ。それでも飲み込めない思いもあったが、ただただこう思うのだ。
「やっぱり大好きなんだよ」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 125/248
「私達みんなママのことが大好きなんだよ」
「どれだけ辛くて裏切られてもママが自分自身をゆるせなくても」
「私達にとって母親はママだけなんだよ」
そう泣きながら叫ぶエマ。他の子供達も泣きながら『ママ、ママ』とすがりつく。
イザベラもまた『生きてこの子達に償いたい』と思うが、もはや体を動かし声を上げるのが困難で視界も暗くなっていく。『神様もう少しだけ力を下さい』と願ったイザベラは最期の力を振り絞って、笑顔を作り皆を抱きしめてこう告げる。
「だぁいすきよ」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 128/248
その言葉に子供達も泣きながら『私も』『僕も』『俺も』と返す。一方、レイは少し離れた場所で呆然とその様子を眺めていたが、突然イザベラに『レイ』と呼ばれる。動揺したまま無言で近づいて来たレイにイザベラは泣きながら『ごめんね』と告げた。
幼い時から真実を見抜いてしまったレイのことを子どもらしく甘えさせてやれなかったこと、そして自殺を謀る程まで追い詰めてしまったことを後悔していたイザベラ。『みんなをお願い』と言って優しくレイの頬を包む。すると、レイも『ママ…』と言って涙を流すのであった。
そして、イザベラはそのまま事切れ、子供達は慟哭するのであった…。
…イザベラも死んでしまった。やっぱりそうなるのか。ピーター同様、エマ達が許す流れになっても、『子供達(クローネも)の死に加担した悪役』ということには変わらないので、やっぱりここで死亡させないとストーリー的に上手く収まらないということなのだろうか。読者感情もそうだけど、イザベラ有能過ぎるから彼女が仲間になってしまうと子供達の見せ場もなくなっちゃうだろうし。
しかし、ラストに庭に遊びに行く幼いエマ、レイ、ノーマンを笑顔で抱きしめ『行ってらっしゃい』と言うイザベラで〆るのはちょっとズルい。こんなの悲しくて泣いてしまうじゃないか…。
第178話 人間の世界へ~『私達はずっと友達』…エマはムジカとソンジュに別れを告げてついに鬼の頂点と約束を履行する
夜になるとGFにいるエマ達の元にムジカとソンジュがやってきた。再会し抱き合うエマとムジカ。その後、二人は互いの身に起きたことを説明し合い、感謝し合うのであった。
エマ達は今夜すぐにでも”約束”を履行するつもりで、ムジカはそれを友として、王として見届けにやって来たのだ。
『”約束”の履行の場所はどこなの?』と疑問をもつ子供達にエマは笑って答える。
「GF(グレイス・フィールド)の地下…!!」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 137/248
なんとGFの地下にはGP(ゴールディ・ポンド)の地下とよく似た金の水で出来た湖と浮島があったのだ。そして、島には地下に続く階段があった。ここはかつてラートリー家が行き来や物資の運搬に使っていた通路だと言う。そして、この黄金の水を通せば鬼の頂点に”約束”の履行の意思を伝えることができ、皆無事に人間の世界に渡れる…そうエマは皆に説明する。
だが、それを聞いたフィルは不安そうにこう尋ねるのだ。
「”ごほうび”ってのがあるんでしょ?エマ…」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 139/248
「エマも人間の世界に行けるんだよね?」
フィルのその言葉に他の子供達も凍り付く。それはずっと皆が内心懸念していたことなのだ。鬼の頂点は”約束”を結ぶ代わりに相応の代償を求めて来る。エマの事だから自分だけ死んでしまったり、鬼の世界に取り残されるというような要求を受け入れてしまっているのではないか…そう皆は心配していたのだ。
だが、エマは笑って『私もここにいる皆も他の場所にいる食用児も全員生きて人間の世界に行ける』と断言する。それでも不安が拭えないフィルは『僕達は何を代償にして人間の世界に行くの?』と尋ねる。
すると、エマは鬼の頂点にこう言われたことを明かす。
「きみのかぞくをちょうだい」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 141/248
それを聞いた皆は『え!?』と怯えるがエマの話の続きは意外なものだった。
相手の一番大切なものを欲する鬼の頂点はエマの最も大事なもの…家族を欲するが、その家族達は皆人間の世界にいくのでもらうことはできない。少し考え悩んだ鬼の頂点はこう言ったというのだ。
「いいよ とくべつに ごほうびはなにもいらない」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 142/248
食用児達が犠牲になり続けたこの1000年間が代償…そう言って鬼の頂点はなんの対価もなしに食用児達を人間界に移動させることを約束したのだという。
しかし、その話を聞いたレイは『いくら何でも話が上手すぎる』と怪しみ、ノーマンも『もしもエマだけが何か犠牲になるのならば皆でこの鬼の世界に残ればいい』と言い出す。
そんな二人にエマは慌てて『本当に何もない』と言い、鬼の世界に残る危険性を皆に説く。いくら鬼達に邪血が行き届き人間を食べる必要がなくなり、農園が廃止されムジカが王になったところで、鬼の人間への食欲それ自体はなくならず、それは仕方がない事なのだ。『だから私達は早く人間の世界へ消えた方がいい』そうエマは語った。
「私は本当に犠牲になってない」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 144/248
「私だけじゃない他の皆も誰も」
エマが改めてそう告げると皆は『良かった』とホッとするのであった。
だが、まだ何か裏があるのではないかと言うレイとノーマンにエマは『もしかしたら人間の世界は平穏じゃないから”ごほうび”はナシなのかもしれない』と言う。人間の世界に受け入れてもらえるのか、ノーマン達の治療法は見つかるのか…先行きは全く分からないのだ。しかし、
「どんな不安も困難も皆と一緒なら乗り越えられるから」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 146/248
「明るい未来に”していける”から」
「行こう!」
明るく力強くそう皆に言ったエマ。その言葉に皆も『行こう!』と決心するのであった。
覚悟を決めたエマ達は池に向き合う。すると、そこに鬼の頂点が現れ、エマに『もういいかい?』と問う。エマは『いいよ』と答える。
次の瞬間、金の水が浮き上がり子供たちを包み階段へと変化する。エマはムジカとソンジュを振り返り、『ありがとう!!』と手を振る。ムジカとソンジュも『おう』『元気でね』と叫び返す。特にムジカはしみじみと『エマに会えて本当に良かった』と思うのであった。
私達ずっと友達よ
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 151/248
最後にエマとムジカは互いに笑顔で見つめ合うのであった…。
そして、エマと他の子供達の姿は消えていく。そして、GFの地下にいた彼らだけでなく、各農園にいた食用児達の姿も次々と消えて行くのであった…。
…
気がつくと子供達は砂浜で倒れていた。そんな彼らを見下ろす様に近くには自由の女神の像が立っているのであった…。
…人間の世界に行くのは意外とアッサリだった。ムジカの『王として友達として』という言葉がいいな。ソンジュ、以前は人間の肉に未練を抱いていたけどもう完全に吹っ切れているんだな。
第179話 代償~2047年のNYに辿り着いた子供達…しかし、そこにはエマの姿は無かった
目を覚ました子供達の目の前には海、そして見たことの無い様な巨大な建物が無数に並んでいた。
「人間の世界だ!!」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 159/248
抱き合い喜ぶ子ども達。海の向こうには自分達以外の生きている人間が歩いており、自分達が人間の世界に来れたことを実感するのであった。『良かったねエマ』と皆がエマに言おうとしたその時だった。
「エマ?」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 161/248
そう言って呆然とするフィル。フィルは人間の世界に来る直前までエマと手を繋いでいたのだ。しかし、そこにエマの姿は無かった。
次の瞬間、ノーマンは蒼ざめて崩れ落ち、皆も『エマはどこ!?返事して』とパニックになる。そして、レイは『やはり代償はあったんだ…!』と気付く。
今になって思えば『何も”ごほうび”…代償が無い』というのはどう考えてもおかしかった。しかし、ゆっくりと考える時間が無かったためエマの言動にまんまと騙されてしまったのだ。エマの『どんな困難も皆と一緒なら乗り越えられる』という言葉には嘘が無いように思えたためだ。結局エマは皆のために何らかの形で犠牲になった…そう気付いたレイは『大馬鹿野郎』と歯を食いしばる。
ノーマンもまた『僕には”一人で背負うな”と言ったのに、こんな消え方するなんて酷いよ』と打ちひしがれるのであった。
皆がショックを受けたり必死にエマを探そうとしているその時だった。海の向こうから平たい三角形をした船とも飛行機ともつかない不思議な乗り物が近づいて来たのだ。そこには身なりの良い中年の男性が部下と思わしき数人の男性を引き連れて立っていた。警戒する子ども達に彼は歩み寄りながらこう告げる。
「私はマイク・ラートリー」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 165/248
「ピーターの叔父で今は当主代理だ」
マイクは既に”コードsolid”…食用児達が解放され人間の世界に渡ることになったという事を既に把握しており、このことが公になって世間が騒ぐ前に食用児達を保護すると申し出た。そして、そのまま子供達はマイクと共にとある館に向かうのであった。
そこで、子供達は自分達がやって来た人間の世界の状況を知らされた。
子供達がやってきた人間の世界は現在2047年の11月であった。子供達がハウスにある絵本や地図で知っている世界は2015年で止まっており、ハウスで学んでいた世界の在り方と現在は様変わりしていたのだ。
2020年代から2030年代にかけて人間の世界は度重なる異常気象や天災、疫病、経済危機に苛まれ、その後に起きた10年に及ぶ世界大戦によって荒廃してしまったのだ。そして、この世界大戦によって人類は『自分達が良ければ他の誰かが滅んでも良いという考えではいけない』と学び、国境が撤廃され世界は一つの大きな国と化し復興を進めている最中であった。
GFの地下にいた子供達がやって来たのは”エリア01”の東側…旧アメリカ合衆国であり、今いる屋敷はラートリー家の北米支部であるという。そして、他の農園にいた子供達は世界の各地で見つかり騒ぎになっており、ラートリー家が急ぎ保護している最中だとマイクは説明する。
状況を把握したノーマンは『この世界は戦時中でもなく、大きな汚染も無く、むしろ今は国境の撤廃によって自分達食用児が受け入れてもらいやすい状況で幸いだった』と語るが、その表情は絶望に満ちていた。他の皆も『エマがいないなんて』と無事に人間の世界に来れたことを喜ぶ気持ちにはなれなかった。ラートリー家が捜索しているもののエマは一向に見つからないのだ。
そんな中、フィルが『エマは死ぬか鬼の世界に取り残されてしまったのか?』と改めて言い出し、皆は考え始める。
鬼の頂点は”約束”の文言に忠実だ。『食用児全員で人間の世界に行く』と言った以上、エマ一人だけ命を取ったり鬼の世界に残すことはしないだろう。エマも自分一人の命で片をつけるやり方もしないだろう…皆はそう話し合っていく。そして改めて『エマがいなければ今の自分達はなかった』と言い合う。“いい子”過ぎて無茶な理想論ばかりを語るエマ。しかし、そんな彼女だからこそ皆を引っ張っていくことが出来たのだ。
すると、オリバーが『エマは“どうしたいか”で動く』と語り、気落ちしているノーマンとレイに『“何故いないか”、“どこにいるのか”は重要か』と尋ねる。
その言葉にハッとしたノーマンは『関係ない、エマに会いたい』と笑い、皆も『会いたいという気持ちだけで充分、エマを探そう』と口々に言い出す。もしエマだったら、絶対に諦めないからだ。
「鬼ごっこの次さかくれんぼか 上等だ!!」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 175/248
「俺達“家族(みんな)”でエマを迎えに行くぞ!!」
そう言って皆は改めてエマを探すことを決意する。ノーマンは『エマを一人になんてしない』と固く決意し、レイも『絶対に見つけてやる』と意気込むのであった。
一方、その頃…エマは雪が降る大地で一人倒れ込んでいるのであった。
…割とアッサリ食用児を受け入れた人間の世界。ラートリー家、力ありすぎじゃない?スピードワゴン財団みたいな感じか。しかし、2040年代に国境の撤廃というのは少々無理があるように感じてしまうので、もうちょっと後の時代ということにしても良かったのでは…?と思わなくもないが、相変わらずちょいちょい良いところ、セリフはオリバーが持っていくなぁ。
第180話 きみのすべて~“約束”の代償は今までの記憶と家族との繋がり…記憶を失ったエマは…
話はエマが鬼の頂点と“約束”を結んだ時に遡る。鬼の頂点は“約束”の代償…“ごほうび”には相手の一番大事なものを要求する。そのため、エマに『きみのかぞくがほしい』と言い出す。だが、『食用児全員で人間の世界に行く』という“約束”の内容からして、エマやエマの家族の命を奪ったり、鬼の世界に留めておくことも出来ない。しかし、鬼の頂点はこう言うのであった。
「でも きみはかぞくとおわかれだ」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 179/248
鬼の頂点がエマに要求したのは『家族達とのこれまでの記憶とこの先の繋がり』であった。エマは他の食用児達同様、人間の世界に渡れはするものの、これまでの人生の記憶を失い、またこの先も家族と出会えない運命になるという。
それを聞いたエマは一瞬躊躇するも、すぐに寂しそうな笑顔を作って『分かった』と答えるのであった…。
…
吹雪の雪山の中、一人行き倒れていたエマを保護したのは一人の老いた男性であった。彼はエマを小屋に連れ帰ると暖炉で暖めてやるとほどなくしてエマは意識を取り戻した。
『お前さんはどこから来たんだ?なんであんなところに…?』と尋ねる老人。すると、エマは呆然としてこう答えた。
「わからない」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 181/248
「私どうして……どこから…」
「何も……思い出せない」
エマは記憶を全て失っており、自分の名前すら分からなかったのだ。
『ごめんなさい』と謝るエマに老人は優しく『謝らなくていい』と言う。老人はエマの持ち物を確認していたが彼女の荷物には身元に繋がるようなものはなく、荷物に紛れていたポラロイド写真にもエマが一人で写っているだけだった。銃を持ち一人で倒れていたことからエマが何かワケありであることを察っしていた老人。その頃世間では『世界各地で数字や図案のある出自不明の子供達が発見されている』というニュースも流れていた。
しかし、老人とエマがいる小屋は人里離れており電波は届かず春になるまで外に行くことはできないため、老人がそのニュースを知ることは無かった。さらに、エマの首からはGFで刻まれていたナンバーが消えていたのだ。
老人は不安そうに俯くエマに『寝床と飯なら用意できるし記憶もいずれ戻るかもしれない、焦らずに休め』と申し出て、エマも浮かない顔で『ありがとう』と礼を言う。
だが、それから1か月経ってもエマは何も思い出せず塞ぎ込んでいくのであった…。
記憶を失ったエマの心の拠り所はここに来た時から身につけていたペンダントであった。夜眠りに落ちるとエマはペンダントをくれたムジカ、イザベラと共にハウスで過ごした日々、ユウゴやルーカスの姿、沢山の仲間、子供達…そして、ノーマンやレイの夢を見る。夢の中で彼らに『エマ』と呼ばれるとエマは『あたたかい』と感じる。しかし、目が覚めるとそれらの記憶は残らず消えてしまうのだ。
ある晩、エマは夜中に目が覚める。すると、いつもいるはずの老人の姿が無かったため不安に駆られて『おじいさん?』と外に探しに行く。すると、小屋から少し離れた場所…雪の中で無数の十字架が立つ場所に老人が一人で佇んでいた。
エマに気付いた老人は哀しそうに『ワシの家族だ』と言う。老人は戦争でこの地にいた家族や仲間をみんな失ってしまったのだ。そして、故郷であるこの土地も立ち入り禁止区域に指定されてしまったのだという。しかし、老人は『自分がここにいて覚えている限りは家族や友人達と一緒にいられる』と思い一人この土地に留まり続けているというのだ。自分の境遇を語った老人はエマに『お前さんも家族が生きていたら会いたいだろう?』と尋ねた。
エマはそれに『分からない、何も思い出せない』と答えるものの、ペンダントを見ると何か心に引っかかること、そしていつも見る『暖かい誰かの夢』について語り…
「あったかくて恋しくて」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 193-194/248
「わけもわからず涙が出るの」
そう言って泣き崩れてしまうのであった…。
しかし、この夜老人に気持ちを打ち明けたことでエマは『今までの記憶や自分はもう戻らないだろうけど、それでいい』と気持ちの整理をつけることが出来た。その後、エマは笑顔を見せる様になり老人とも打ち解け本当の祖父と孫の様な関係を築いていく。老人から新しい名で呼ばれるエマは『”明日”に向かって今日を生きよう』と前向きに明るく過ごし、もう”例の夢”を見る事はなくなっていった…。
そして、2年の歳月を過ぎたある日…老人は買い物のためエマを大きな市場に連れて行く。エマは『人や家がいっぱい!』と大はしゃぎする。老人はそんなエマに『戻りの列車がなくなってしまうから買い物をしたらすぐに帰るよ』と言うが、それでもエマはワクワクを抑えきれずに市場を駆けていく。…反対側の通路にエマを探す為にやって来たレイやギルダがいることも知らずに…。
最終話 運命の向こう岸~ムジカのペンダントのお陰で皆と再会できたエマ。記憶を失ってしまったエマにレイとノーマンは…
話は2年前に遡る。人間の世界のラートリー家に引き取られたノーマン、レイ達は皆でエマを探し続けた。人間の世界…この広い地球でたった一人の人間を捜し出すというのはとんでもなく困難な作業だった。それでもノーマンとレイは『やればできる!』と諦めることはなかった。
ラートリー家の援助を受けた子供達はインターネット等の人間の世界の知識、技術を学びそれを駆使ししてエマを捜索するだけでなく、ありとあらゆる場所に足を運び人々にエマを見たことがないか聞いて回った。しかし、2年経っても何の手がかりを得ることは出来なかったのだ。
流石に子ども達の一部は気落ちし、『人間の世界にいてももう会えないという運命が”約束の代償”だったのではないか』と言い出す。そんな子供達をドンが叱りつけるが、子供達は『これ以上どこを探せばいいの?』と不満と不安をあらわにした。
しかし、それを聞いたギルダが閃いた。
「ないのかな 人間(こっち)の世界にも入れない…入っちゃいけないような場所」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 202/248
以前、鬼の世界でノーマンにムジカとソンジュを捜す様に依頼された際、ギルダとドンは”禁制区域”を捜索した。人間の世界にもそういった立ち入れない、情報が遮断されているような地域があるのではないか…そうギルダは考えたのだ。
それを聞いたノーマンは『戦争や災害で消滅した地域、区域があるはず』と気付き、今度はそこを中心に捜索するよう皆を指揮する。『諦めてたまるか』…皆そう思いながらエマを探し続けるのであった。
たとえ”代償(ごほうび)”が何で本当にもう会えない運命だとしても
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 204/248
変えるんだ抗うんだ僕も僕達も
運命なんて覆してやる
…そう胸に誓うのは2年の歳月を経て成長したフィルであった。フィルとレイ、ノーマン、ドン、ギルダ、ジリアン達はその日、禁制区域に近い市場を訪れていた。しかし、近くにエマがいるのも関わらず彼らはタイミング悪くエマと擦れ違い続けてしまい、エマを見つけることは叶わず『この辺りも空振りか…次を探そう』と諦めてしまうのであった。
市場から帰ろうとする子供達。だが、その瞬間レイは今はいないはずのコニーにリュックを引っ張られ、イザベラとユウゴから『レイ、こっち』と呼ばれた気がする。
ハッとして振り返ったレイは『エマはここにいる』と感じて他の皆に先に行く様に言って一人再び市場を探し回る。しかし、またしてもエマと擦れ違い続けてしまい、『気のせいだったのか』と気落ちする。
一方、その時店の中にいたエマは老人から『ペンダントはどうした?』と尋ねられる。記憶を失ってからもムジカからもらったペンダントを常に身につけ大事にしていたエマ。しかし、いつの間にかペンダントが無くなっていたのだ。エマは慌てて『外見て来るね』と言ってペンダントを探しに行く。
ペンダントは店のすぐ外に落ちていてエマはホッとして拾い上げた…その時だった。
「いた…!エマ…!!」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 210/248
丁度そこにはレイ、ノーマン、そして探しに来ていた子供達が全員揃っていたのだ。彼らは2年間探していたエマがそこにいることに驚き、そして『やったー!!』と歓声を上げ、次々に『無事で良かった』『いきなりいなくなるなんて』と話しかけたり抱き付いたり、涙を流したりした。
しかし…
「あの…」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 210-211/248
「みなさん…どなた…ですか…?」
エマの顔には喜びどころか、困惑、そして恐怖が満ち溢れていた。エマは突然現れて大騒ぎしながら次々に迫って来た子供達に心の底から怯えていたのだ。
そんなエマの態度に皆は『嘘でしょ』と愕然とする。そして、エマの首に数字がないことに気付き『エマに似ているが別人ではないのか』と言い出す。
首にあるはずの番号はなく、かつてのエマであったら決してしないような、気弱で怯えたような表情。そして、2年間という歳月…。子供達は目の前の少女がエマであるという確信が持てなくて戸惑う。
しかし、レイは違った。
「いやこいつはエマだよ」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 212/248
「記憶がないんだろ?」
そして、レイは苦々しく『やっぱりエマは“家族”を奪われたんだ』と言い、エマが“約束”の代償に人間の世界に渡る際に引き離され、記憶を奪われただけでなく、首の番号等自分達と繋がる全てを奪われたのだろうと皆に語り、それを聞かされた子供達は愕然とするのであった…。
…
七つの壁の向こう側で“約束”を結ぶとき、鬼の頂点は改めてエマに『きみはひとりぼっちになってしまうけどいいの?』と尋ねた。エマの望んだ家族が笑って過ごす未来…しかし、そこにエマ自身は加わることは出来ないのだ。
しかし、エマは『これは犠牲ではなくケジメだから』と答える。食用児達を誰も失うこともなく、皆で人間の世界に行きたい、でも鬼は殺したくない…そんな自分の理想は“甘っちょろいワガママ”であるとエマは分かっていた。だからこそ、それを叶えるためには相応のケジメが必要だと感じていたのだ。
きっとこの決断を知ったら皆は怒るだろう。しかし、エマ一人が死ぬわけでも鬼の世界に取り残されるわけでもない。『私が忘れてしまっても一緒にいた日々はなくならないし家族達が覚えてくれている』…そう言うエマ。
諦めずに抗い続けた結果、食用児達は人間の世界に行けることになった。もう食料として殺され怯えることもなくなる。鬼達もまた、邪血によって退化の恐怖から救われる。1000年以上続いた悲劇を今やっと断ち切れるのだ。
『何もかも願いが叶い、この先みんなが笑顔で暮らせるなら“お礼(ごほうび)”として軽すぎるくらい』…そうエマは言う。
「ありがとう 最高の未来だよ!」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 217/248
そう言ってエマは笑うのであった…。
…
エマが皆のために自分の記憶を差し出し家族との別離を選んだと知った子供達は愕然とする。特にドンは『何だよそれ!お前一人だけ充分奪われているじゃねぇかよっ』と怒り悲しみ涙を流しながらエマに掴み掛かる。ギルダや他の子供達も泣きながら『思い出して』と詰め寄るが、何のことか分からないエマはただただ怯えて『やめて』『ごめんなさい』と言って皆を拒絶する。
その様子を見たフィルは『本当に僕達のことが分からないんだ…』と涙を流した。
しかし、その時だった。
「よかった…」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 219/248
「記憶がなくても君が生きていてよかった」
他の子供達が怒りや悲しみで涙を流す中で、ノーマンだけは喜びと安堵の涙を流していたのだ。
見たところエマはちゃんと食事を取れているようで、健康的でケガもしていなかった。様子からしても独りでは無さそうで誰かに保護されちゃんと暮らせているのが分かる。そして、何よりこうやって再会出来たのだ。『本当に良かった』…ノーマンは改めて言い、穏やかにエマに語り出す。
人間の世界に来たノーマン達は今、みんな学校に通っていること。Λ(ラムダ)農園出身で投薬による副作用に苦しんでいたノーマン達も人間の世界の技術でアダムの遺伝子から作り出した薬によって救われていること、その薬で最底辺農園で喋ることも歩くことも叶わなかった子供達も呼吸器無しで歩けるまでになったこと。
ピーター・ラートリーの叔父であるマイク・ラートリーは中立的な人間で食用児達の後見人として支援をしてくれており、ノーマンはまだラートリー家を許せずにはいるが、上手く過ごせており、アイシェにも殺されずに済んでいるという。また、意識を失っていたクリスが目を覚ましたことを伝えるノーマン。皆元気に過ごせているのだ。優しくエマの手を取りながら、全てエマの望んだ通りに事が進んだことを笑顔で語る。しかし、
「全部君がくれたんだ」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 222/248
「君が君の記憶と引き換えに」
そう言ったノーマンは『それでも僕は君と一緒にいたかった』と再び泣き出し項垂れてしまうのであった…。
目の前で泣くノーマンと子供達、悲しそうに見つめるレイやフィルを見てもエマはなにも思い出せなかった。
ところが、突然エマの目からも涙がこぼれ落ちる。『どうして?』と困惑するエマであったが、いつも夢で感じるような温かさと胸の苦しさにこう言うのであった。
「会いたかった…」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 224/248
「ずっとあなた達(みんな)に会いたかった気がするの」
そう告げるとエマもまた号泣する。それを見た子供達はやっと『見つけた』と確信することができるのであった。
ハウスの中から始まった脱出計画。何度も目の前には“変えられない運命”が立ちはだかり、それに抗い、掴み、失うことを繰り返し続けた。しかし、子供達は『それが何だ』『運命なんかクソくらえ』と立ち向かい続けてきた。
「俺達も会いたかった」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 227/248
「ずっとずっと会いたかったよ!!」
そう言ったのは涙を流しながらも満面の笑みを浮かべたレイだった。他の子供達も笑顔になる。そして、きょとんとしているエマにノーマンが『思い出せなくてもいい、今の君がかつての君と違ってもいい』と笑いかける。そして、
「だから…もう一度」
約束のネバーランド 20巻 出水 ぽすか (著), 白井 カイウ (原著) 227-229/248
「いや何度でも」
「一緒に生きよう」
ノーマンはそう言ってエマの手を取り、そこにレイが手を重ねる。
すると、エマも泣きながら笑って『うん!』と強く頷くのであった。
エピローグ~ラスト、その後の鬼の世界と、元気に暮らすエマ達の姿
その後、鬼の世界ではムジカ達の治世の元で穏やかな時間が流れていた。アウラ、マウラ(鬼の子供達)はムジカ達に引き取られ城で暮らしていた。レウウィス大公は相変わらず気まぐれで仕事をソンジュや大僧正達に押し付けて今日も姿を眩ませていた。レウウィス大公がムジカを王に立てたのは面倒事を押し付けるためだったのではないか…そう悪態を吐くソンジュを見て『フフ』と笑ってしまったムジカ。ふと、『エマ達元気かしら?』と思う。
その頃、エマは名前を呼ばれて元気に『はーい』と返事をしていた。
エマは今、ノーマンやレイ、他の子供達と共に暮らしており(助けてくれた老人も共に)、皆と笑顔溢れる日々を過ごしているのであった。
~終わり~
以下、感想と考察
”ごほうび”はエマの記憶と家族との繋がり~最後に良い役目をしてくれたムジカのペンダント
16巻感想記事で『代償はエマが仲間との記憶を失うとかか』…と予想していたが当たった。 しかし、単純にエマが記憶を失うだけでなく、首の番号を消す等家族に繋がるものを全て抹消。さらに“鬼の頂点”はある程度運命を操作できるのか、ラストの市場でもエマと彼女を探すレイ、ノーマン達は徹底してすれ違いまくることとなった。179話で人間の世界に行く直前に、鬼の頂点がエマに『もういいかい?』と尋ねたのは出発の準備が出来たかを尋ねているのではなく、『もう家族とお別れを済ませられたのか?』という意味だったのだなあと改めて思ったり。鬼の頂点何でもできちゃうな。
しかし、ここで運命を変えたのがエマがムジカからもらっていたお守りのペンダント。エマが家族に繋がる可能性があるものは徹底的に排除されたのにこのペンダントだけが残ったのは、やはりこのペンダントには不思議な力があったのだろうか。何にせよ、ペンダントはいい役割をしてくれた。(そして、レイを引き留めたのが亡きコニーとイザベラ、ユウゴという辺りもなかなか迫って来るものがある展開である。)
しかし、てっきりペンダントや仲間との再会によってエマは記憶を取り戻すのかと思ったけどそれは無かった。結構シビアである。しかし、ラストでエマが以前の様な明るい笑顔で家族達と幸せそうに過ごしているので(おじいちゃんも一緒に)それにはかなり救われた。記憶を取られてしまったし、ノーマンは『以前の君と変わってしまっていても構わない』と発言してたけど、エマの性格はそれほど変わっていないようだし。
まあ、12月11日から六本木ヒルズで開かれる『約束のネバーランド展』でその後のストーリーが描かれるというので、そこで記憶を取り戻す可能性も0ではないが(でも、ここまで来たら記憶を取り戻すことなく、一から皆との関係を築いていく…というのでもいいと思う)。
最後までブレなかったエマのスタンス…最終巻で新型コロナウイルス問題やBLMに触れた意義
最終巻に 新型コロナウイルスやBLM(それとチベット問題もかな)を混ぜ込んできた約束のネバーランド。(直接触れてはいないけど、黒人達がデモを起こしているコマと、“corona viru…”と落書きされた店とそこで争っている人達が描かれている、チベット風の衣装の女性が涙を流している)。
憎しみの連鎖について描こうとしていたところに丁度タイムリーに注目されてきたから入れたんだろうな。人間の世界も疫病や紛争を経た後の世界ということだし、まさにピッタリだったと言えるだろう。その後の国境の撤廃は少々強引な気もするけど。
ピーターとの対話の中で展開されたエマの主張…自身の利益…立場や環境を差し引いて話し合えば憎しみ合う必要はなくなる…というもの。哲学的にはロールズの”無知のヴェール”が近いかな?とりあえず、ここまで行くと、もう清々しい位の理想論だ。でも、漫画だもの、フィクションだもの、少年ジャンプだもの…。最後までエマは主人公らしさを貫いたと言えるのだろうな。ラストは大団円のハッピーエンドだし、何とも優しい世界である。
エマ自身が自分の理想を『甘っちょろい』とちゃんと理解しており、その上で代償を受け入れたのも好感が持てた。個人的に自己犠牲系ヒロインは嫌いなのだけど、エマは闇雲に自己犠牲を選んだわけではなく、一応自分が納得できる形を選んでかつ、仲間達に嘘はついてはいないから(騙したと言えなくはない形だけども…)。ちゃんと考えた上で全てを受け入れたのが良かったな。
未回収の伏線や残った謎について
でも、伏線(?)は完全に回収されてはいない。
例えばノーマンが18巻でアイシェに鬼語で言った言葉はなんだったんだろう…。どこかで明かされると思ったけど、明かされないままで終わってしまった。でも、アイシェがその後ノーマンに危害を加える様子がない&もう恨みがなくなっている様子からしても、ノーマンの言葉は謝罪やそれに類するものだったのではないだろうか。『憎しみの連鎖を断ち切る』というのがテーマの一つだし。
そして、原作者である白井カイウ氏が5巻カバーで書いた『レイの本当の誕生日は別』という話。これも物議を醸したけど結局作中では明かされなかったな…。まあ、本筋に大きく影響する感じでもなかったし、ファンブックで何か説明があるのだろうか。
あと、個人的にエマとキャロルがそっくりである理由について気になっていたのだが(親が同じなのではないか…等)、これも特に説明は無かったな。あと、成長したフィルが思いの他ドンに似ていたので(ドンよりイケメンだが)それもちょっと気になる。特に理由はないのかもしれないけど、産みの母が一緒だったのか、人工授精の種が一緒だったのか等考えてしまう。
でも、ハウス脱出編以降はあまり農園の在り方についての謎が明かされる感じではなかった(そこが重要視されてはいなかった)から、なんかそのまんま明かされずに終わる気もする。
アニメ2期、実写映画化、ドラマ化など約束のネバーランドはまだまだ続く
そして、漫画は終わったけど2021年1月からノイタミナ枠でアニメ2期が放送されるし、2020年12月18日には実写映画化もされるし、アマプラでそのうちドラマ化もされるらしいので約束のネバーランドはまだまだ盛り上がりそう。
しかし、それにしても以前に記事を書いたけど
→『約束のネバーランド』実写化に思う事…発狂する気持ちは分るが役者を叩いてはいけない!非難するべき相手を考えよう
なんか映画公開が近づいて、また主演の浜辺美波が叩かれている様で…。私も極度の原作厨だからいわゆる”劣化実写化”を怖れ、憤怒する気持ちはよく分かるけど、役者を叩くのはいい加減やめようよ!若い俳優、女優は仕事の依頼を受けても断れる立場じゃないし、公の場では『作品のファンだったから、オファー嬉しいです』みたいなことしか言えないのだからさ。発狂する気持ちは分るけど、怒りは節度を持って穏やかに、背後にいるキャスティングをした人たちや”大人の事情”に向けようよ。
まあ、実写映画は…機会があれば見ようかな。