【漫画】金魚妻~改装妻【感想・ネタバレ・考察】そのリフォームは誰のため?痣とタトゥーが結んだ人妻と大工の縁は

金魚妻 5巻表紙

リフォーム等の工事をすると、当たり前だが職人たちを数日間に渡って家に入れることになる。あまり施主であるこちらのことを気にせず雑談したりラジオを聞いたりしながら作業をしている彼らの姿を見ると何とも落ち着かない、不思議な気持ちになる。

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【漫画】金魚妻~金魚妻④【感想・ネタバレ・考察】さくらへの未練を断ち切れない元夫の卓弥…果たして卓弥は更生できるか、それとも…?

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Contents

以下、あらすじとネタバレ

リフォーム工事の最中、ゆり葉は職人達にお茶やお菓子を用意するのを楽しみにしていた

大工達は10時と15時になると短い休憩、12時には長い休憩を取る。彼らに出す茶菓子には個包装のものを用意しておく

飴が人気なようですぐになくなる。きっと仕事をしながら舐めているのだろう…そう、ゆり葉は想像するのだ。

箱崎ゆり葉(43)には最近ちょっとした楽しみがある。それは家のリフォーム工事にやって来る大工達にお茶やお菓子を用意することだ。

とはいえ、ゆり葉は直接職人達に振る舞うことはしない。職人達が好きなタイミングで自由に飲めるように、ジャグやポットに事前に飲み物を用意しておき、紙コップを横に添えておく。

さらに、木くずが掛かっても大丈夫なように、蓋つきの容器にお菓子を入れておく。年配の職人が多い日には煎餅を多めに入れるようにする。工事をするのは職人達…より良く仕上げてもらうためにも彼らの機嫌を損ねないに越したことはない…そう思い、なるべく彼らの好むものを出したいと思っているためだ。

それらの用意が出来たら、ゆり葉は邪魔にならないように2階に引っ込み、工事をしている1階の部屋にはあまり顔を出すことはしない。

そして、夕方…職人達が去ると、ゆり葉はお菓子や飲み物の減り具合を確認するのだ。お菓子や飲み物の減り具合を見ながら職人達がお喋りをしたりお菓子をつまみながらワイワイと作業をしている様子を思い浮かべるのだ。…それが、最近のゆり葉のささやかな楽しみなのだ。

今日の夕方もゆり葉はジャグやポット、そしてお菓子の減り具合を見て、『よし』と内心呟き、一人微笑むのであった。

しかし、その時であった。

「ゆり葉さん そのジャグどうしたの?」
「買ったの?」

金魚妻 黒澤R 改装妻

ニヤニヤ笑いながら現れた、小太りの中年女性…それは、ゆり葉の姑、箱崎両子であった。

ゆり葉はにこやかに『リフォーム工事の期間中だけレンタルしたんですよ』と答える。すると、両子は大袈裟に『そうなのね!良かったー!』とホッとして見せる。そして、ジャグが新しいキッチンに馴染まないと言い、『ゆり葉さんのセンスを疑ってごめんなさいね』とわざとらしく謝る。

義妹いわく 彼女は人を苛立たせる天才

金魚妻 黒澤R 改装妻

両子はこの嫌味な性格から、実の子供であるゆり葉の義妹達からも嫌われているのだ。

ゆり葉は笑顔を崩さず受け流しながらも、両子との同居が決まった時のことを思い出すのであった…。

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突然決まった義母、両子との同居。自分に相談しなかった夫に不満を持ったものの、ゆり葉は受け入れるしかなかった

姑である両子との同居が決まったのは、舅の葬儀の最中であった。

すっかり弱ってしまった両子を心配したゆり葉の夫はそれとなく妹であるゆり葉の義妹二人に両子と同居するように促した。

すると、義妹達は『絶対に無理!母さんと同居なんて無理!』と嫌味な性格の両子との同居を激しく拒絶したのだ。

さらに義妹達は長男である夫だけが自分達と違い教育にお金を掛けてもらったこと、家を建てる際に両子達から頭金をもらったことを持ち出し、『お兄ちゃんが面倒見なさいよ!』と言ってきたのだ。

義妹達の剣幕に負けた夫はその場で了承してしまい、その場にいなかったゆり葉には事後報告だった。

お茶出しをしている途中で夫からその話を聞かされたゆり葉は当然、『私への相談は!?』と抗議した。

しかし、夫は『長男の嫁に来た時点で察してくれ』『お前まで母さんを除け者にするのか』と言うばかり。

ゆり葉は『そうじゃなくて、私がいないところで大事な話を進めないで欲しい』と、同居そのものではなく、勝手に同居を決めてしまったことに不満を持っていることを告げた。

だが、そんなゆり葉に夫は面倒臭そうに『結果は同じなのだから話すだけ無駄だ』と言い、さらにこう吐き捨てるのであった。

「あーあ…お前…変わったよ」
「昔ははいはいと俺に従ってくれる可愛い妻だったのにさ…」

金魚妻 黒澤R 改装妻

そう言って背中を向けた夫をムッとして睨みつけたゆり葉。夫はゆり葉の“ある変化”と、それにともなってゆり葉が自立してきたことを快く思っていなかったのだ…。

飴を好む若い職人の青年と言葉を交わしたゆり葉。彼の額にあった大きな青あざに、勘違いしたゆり葉は自身の秘密を明かしてしまう

そんなことをぼんやりと思い返していたゆり葉は何か小さなものが落ちた音で我に帰った。

音の方向に目をやると、部屋にまだ残っていた若い職人が飴を床に落としてしまったところだった。

職人の青年は飴を拾うと包みを開けて口に入れ、ゆり葉にこう言う。

「この飴 すんげーうまいっすね」

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その飴は毎日減りが早く、ゆり葉は思わず『減りが早いと思ったら』…と呟く。すると、青年は『さーせん』と謝りながら、ポケットから沢山の飴を取り出す。青年はこの飴を気に入り過ぎて沢山持ち帰っていたのだ。

トップを金色に染めたツーブロック、ピアス…そんな少々いかつい外見の青年が飴を沢山持っている様子を微笑ましく思ったゆり葉はにこやかに『沢山あるから持っていって』と言う。

そして、ふと青年の額の左側からこめかみに掛けて大きな青アザがあることに気付いた。

「ねえ そのアザどうしたの?」

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ゆり葉がそう尋ねると青年は黙ってアザを手で隠し、『大丈夫です』と言って背を向け立ち去ろうとする。

すると、ゆり葉は『待って』と言って突然自身の額をハンカチで拭い始めた。

「仲間仲間 同じ場所にあるなんてすごいねー」

金魚妻 黒澤R 改装妻

絶句する青年。化粧を落としたゆり葉の額には、青年のそれをよく似た大きな青い痣があったのだ。

ゆり葉は笑いながら『びっくりした?生まれつきなの』と説明する。

「ほかにもね異所性蒙古斑が背中にあってね~」
「それはさすがに見せられないけど…なかなかきれいに隠せてると思わない?」

金魚妻 黒澤R 改装妻

痣を持つ”仲間”と出会えたことで機嫌を良くしたゆり葉は滔々と語り出した。

だが、青年はぶっきらぼうにこう答えた。

「あの…」
「自分のこれは角材でぶつけたアザなんで…」

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青年の言葉に笑顔のまま硬直したゆり葉。そして、恥ずかしさから赤面し何も言えなくなってしまう。

さらに、先輩職人に『早く帰るぞ』と声を掛けられた青年は一瞬だけゆり葉の方を見ただけで無言で立ち去ってしまった。

一人部屋に取り残されたゆり葉は立ち尽くす。

この痣を自分から見せてしまうなんて…

金魚妻 黒澤R 改装妻

いつも化粧で痣を隠しているゆり葉。若い職人と話したことで浮かれて軽率な行動を取ってしまったことを後悔するのであった。

きっと明日あの青年は他の職人たちにゆり葉の痣のことを面白可笑しく語るのだろう…そう想像して少し落ち込む。

だが、『リフォームが成功するのであったら話のネタになるくらいなんてことない』と切り替え、化粧をし直すのであった。

私は思う
人は…外見が整って次に内面が整うのだと

金魚妻 黒澤R 改装妻

鏡に映る自身を見つめるゆり葉。痣を再び隠しただけでなく、アイシャドウやリップ等しっかりとポイントメイクを加えたゆり葉の顔は華やかで美しかった。

そして、鏡に映る自分に艶やかに微笑みながら、ゆり葉は自身の半生を振り返るのであった。

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生まれつき顔と背中に大きな痣があったゆり葉。人目を気にして生きていた彼女は、痣を隠すメイクと出会い人生が変わる

「ゆり葉 部屋に行ってなさい」

金魚妻 黒澤R 改装妻

生まれつき額の左からこめかみにかけて大きな青あざがあったゆり葉。両親はゆり葉がまだ幼い頃から来客がある度にそう言って隠していた。自分の存在を恥じているかのような両親の態度にゆり葉は酷く傷ついていた。今思えば、それは来客に痣について何か言われることで娘が傷つかないように…という両親なりの配慮であったのかもしれない。しかし、『その配慮を痣の治療に充ててくれていれば良かったのに』と今でも思うのだ。ゆり葉の両親はゆり葉を腫れもの扱いして隠すわりには、痣の治療はしなかった。結果的にそんな両親のことをゆり葉は嫌うようになってしまった。

そして、化粧がまだ許されない学生時代…。ゆり葉は痣が原因でいじめられることの無いように人一倍空気を読み、常に笑顔を心がけていた。その努力の甲斐あって、ゆり葉は平和な学生時代を送ることができた。

恋愛でも恋人にはとことん尽くした。その結果、無事に夫と結婚することもできた。

しかし、ゆり葉の頭の中は常に『痣のせいで仲間外れにされたくない』という思いで占められており、ただそれに従って必死に行動するばかりだった。

当時の記憶がほとんどないのは、自分の心に嘘をつき続けた結果だろうか

金魚妻 黒澤R 改装妻

輝かしいはずの青春時代も、幸せだったはずの恋愛、そして結婚式の記憶すらおぼろげだったのだ。

痣を隠すメイクと出会ったゆり葉

だが、そんなゆり葉に転機が訪れた。

息子を産んだゆり葉は『外では痣を隠して生きていく』と決意し、ある日プロのメイクアップアーティストに痣を隠す化粧(メディカルメイクアップ)を教わりに行ったのだ。痣のことばかり気にして、今度は息子との記憶も薄めてしまわないように…。

うそ 私自身のために!

金魚妻 黒澤R 改装妻

『息子のため』というのは口実に過ぎなかった。本当はゆり葉自身、そんな自分を変えたい、変わりたいと強く願っていたのだ。

そして、プロにメイクしてもらったゆり葉は鏡を見て目を見開く。そこには、痣がキレイに隠れ、美しく華やかになった自分の姿が映っていたのだ。

同行していた夫は『なんだかケバケバして不自然』『早く落として帰るぞ』とつまらなさそうにゆり葉をせっついた。しかし、ゆり葉は『嫌』とハッキリ断り、涙ぐみながら鏡を見つめ続けた。これで綺麗な肌の人達と対等になれる…そう思って感動したのだ。

しかし、当時の技術では痣を隠そうとすると、仮面のように厚いメイクをするしかなく、息子は友達から『お前の母ちゃんはいつも気合が入っている』とからかわれた。結果、息子はゆり葉の事を『厚化粧ババア』と嫌うようになってしまった。

だが、それでゆり葉が痣のレーザー治療を望むと夫は反対し治療費を出そうとはしなかった。理由は『気にならないから』というものだった。

そのため、ゆり葉は治療費を稼ぐために仕事を始めた。『痣は自分の病気なのだから、治療をするのに夫の許可はいらない』…そんな当たり前のことが分からない位、昔のゆり葉は卑屈だった。

レーザー治療には苦痛が伴った。そして生まれ持った身体の見た目を変えていくこと、自分の治療のためだけに働き稼ぐことに罪悪感も少なからずあった。

しかし 変化に痛みはつきもの…
私は 今の私が好きだ

金魚妻 黒澤R 改装妻

治療中、ゆり葉は痛みで呻きながらも満足げな笑顔を浮かべていた。自分で働き稼ぎ、治療と化粧をするようになったゆり葉は、見た目が美しくなったことで性格も前向きになり自信を持てるようになった。

だからこそ、自分のいないところで勝手に決まってしまった義母、両子との同居とリフォームについても、『美しい家に住むようになったら、彼女の暴力的なまでにネガティブな言動も少なくなるだろう』『リフォームは人を変える』と考え、淡々と受け入れることにしたのだ。実際、愚痴と嫌味ばかりの両子もリフォームの完成予想図を見ると嬉しそうに目を輝かせるのだ。

ゆり葉が化粧をし終えると丁度夫が仕事から帰ってきた。夫はしっかりと化粧をしたゆり葉の顔を見ると『ずいぶん気合いが入っているな』と言う。それに対してゆり葉は『今から仕事なの』とほほ笑む。

「夜の蝶を綺麗にメイクアップするんだから私が綺麗じゃなきゃ説得力がないでしょ」
「メイクでここまで変われることを証明しなきゃ」

金魚妻 黒澤R 改装妻

ゆり葉の仕事…それは”夜の蝶”相手のメイクアップアーティストだったのだ。

だが、夫はそんなゆり葉に背を向けると『主人にビール一杯も注がないで顔ばっかいじくって』と嫌味たらしく呟き去っていった。

ゆり葉は夫の態度から『夫は自分と対等な関係を望んでいない』ということをよく理解していた。

痣だらけの不憫な女の前で救世主にでもなったつもりだったのだろうか

金魚妻 黒澤R 改装妻

そう冷めた目で夫を見つめるゆり葉。夫はゆり葉が美しく変化し稼ぐようになったことで自信を持ち精神的にも金銭的にも自立していったことを面白く思っていないのだ…。

一方、大工の青年百樹はタトゥーを理由に妻から冷たく当たられ、密かに悩み苦しんでいた

一方、その頃、先ほどゆり葉と言葉を交わした大工の青年、百樹(ももき)は既に帰宅しシャワーを浴びていた。百樹の背中には大きなフクロウのタトゥーが彫られていた。

すると、そこに幼い息子を抱いた妻が入ってきて言う。

「モモー」
「今日うちの親泊まっていくから裸でうろうろしないでよね」
「うちの親タトゥーにいい印象ないから」

金魚妻 黒澤R 改装妻

冷たくそれだけ言って立ち去る妻。すると、外から妻とその両親の会話が聞こえてくる。どうやらこれから皆で“お風呂ランド”に行こうという話になっているようで、妻の両親が『百樹くんも一緒に行かないのかい?』と尋ねるが、妻は勝手に『もう入ったからいい』と答える。両親が『でも、食事くらいは…』と百樹に気を使うが、妻は『いいの!』と強引に押しきり、さらに『明日は皆でプールに行こうよ!まだ今年は行ってないの!』と提案する。

それを百樹はお風呂場で一人聞いていた。“お風呂ランド”もプールもタトゥーがある百樹には行けない場所だ。百樹を孤立させる様な提案を、それもわざとらしく聞こえるようにいう妻。しかし、百樹は何も言うことが出来ないのであった…。

その後、百樹を一人残して車で“お風呂ランド”に向かった妻とその両親達。その道中、妻の両親は娘の百樹への冷淡な態度をたしなめる。確かに百樹は昔荒れていた時期もあったものの、今は家族のために真面目にしっかり働いており、そんな百樹を妻の両親は評価しているのだ。

だが、妻は『うちは全然カツカツ』『友達はみんな家を買ってるのにうちはまだ賃貸だし』と愚痴る。そして、皮肉げに『持ち家に住むには自分が風俗で働くしかない』とまで言うのだ。その発言に『ばか』と叱りつける母。すると、妻は不満を爆発させる。

「だあってさあ!モモにタトゥーがあるからいいところに就職もできないし生命保険にも入れないし…家族でプールも行けないんだよ!?」

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そんな娘に両親は呆れたように『それでもついていくと決めたのはお前だろう』と言う。今でこそ百樹のタトゥーについて不満しか言わない娘(百樹の妻)だが、かつては百樹に恋するあまり、御揃いのタトゥーを入れると言い出し、両親は慌てて反対し止めたのだ。

だが、その時の話を持ち出された娘は(百樹の妻)は『タトゥーを入れるのを反対するように百樹との結婚ももっと反対してくれれば良かったのに』と恨みがましく言う。昔は百樹に夢中だったのに今では結婚したこと自体後悔するような娘の態度に父は『子供を産むとこんなにも変わってしまうものなのか?』と戸惑ったように言う。母は『産後の一時的なものだとは思うけど…』と言葉を濁しながらも『残酷ね』と呟くのであった…。

一人だけ家に置いていかれた百樹はその後、繁華街に向かいドラッグストアに入った。目的は化粧品コーナーだった。明日、プールに行く予定だという妻達。一緒に行くためにも、どうにかしてタトゥーを隠すことは出来ないかと考えたのだ。

試しに左手の薬指にある指輪状のタトゥーにコンシーラーのテスターを塗ってみる百樹。虚しさと孤独に襲われる中、ふと痣を見せ『仲間仲間』と微笑みかけてきたゆり葉のことを思い出すのであった。

そして、何となく店の外を見た百樹は驚く。丁度、外の通りを仕事帰りのゆり葉が歩いていたのだ…。

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ゆり葉に背中のタトゥーを化粧で隠してもらった百樹。タトゥーを隠す自分を恥じる百樹にゆり葉は『化粧は君の宝物を守るため』と慰める

「わ~すごい」

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ホテルの一室。Tシャツを脱いだ百樹の背中を見たゆり葉は素直に感嘆した。百樹の背中のフクロウのタトゥーは細かい上に様々な色が入っており、精巧で実に見事だったのだ。

フクロウは職人の神様なのだと言う百樹。百樹の父も祖父も大工で、百樹も大工の仕事に誇りを持っているからフクロウのタトゥーを背中に入れたのだ。

『じゃあなおさら消したくないんじゃない?』と尋ねながら、百樹のタトゥーの上に化粧を施していくゆり葉。すると、百樹は『そっすね』と答えながらも寂しそうに言う。

「だから施主さんが綺麗に痣を隠してるのを見て」
「どうやってんのかなと思って…」

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ドラッグストアの外で偶然ゆり葉を見掛けた百樹は、ゆり葉に事情を説明し、背中のタトゥーを化粧で隠してほしいと頼んだ。ゆり葉はプロのメイクアップアーティストとして百樹の要望を叶えるべく、ホテルの一室を使って百樹の背中に化粧を施すことにしたのだ。

自身の化粧技術を『毎日痣を消すことばかり考えていた集大成』と言うゆり葉。化粧はすぐに終わり、鏡を見た百樹は『すげぇ』と声をあげる。

鏡に映る百樹の背中はまるで最初からタトゥーなんて無かったかのようにまっさらで自然な肌になっていたのだ。

ゆり葉の化粧はただ、タトゥーを隠しただけではなかった。『これから3日はこすっても濡れても落ちない』『これで家族と温泉でもプールでも行ける』…そう言ってゆり葉が微笑むと、百樹は礼を言う。

だが、百樹はふと寂しそうに『ダサいでしょ』と呟く。百樹はフクロウのタトゥーに深い思い入れを持ち、一生消さない覚悟で彫ってもらった。しかし、妻からの攻撃もあり、今では邪魔だとすら思う様になってしまった…そう零す百樹。

そんな百樹にゆり葉は淡々と『そう感じるのも仕方がないこと』と答える。子どもが一緒にプールに行けなくて可哀想…等と言われてしまったらほとんどの人は言い返せない。その上、タトゥーは社会的には悪いものとされているから、とても”責めやすい”のだ。

しかし、そうやって叩いてくるのは憧れの裏返しだとゆり葉は指摘する。ゆり葉の言葉に黙って聞き入る百樹。ゆり葉の言う通り、昔の妻は百樹のタトゥーを褒めそやしていたのだ。

「憧れの相手に近づく事ができた者は憧れを羨望に変える」

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そして、”羨望”というのは相手の持っている”宝物”が無くなってしまうことを願う感情だとゆり葉は語る。

「タトゥーを隠すことは君の宝物を悪い視線から守るため…」
「ダサい事じゃないよ」

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ゆり葉の言葉に、黙ったまま、しかしどこかホッとした様な表情を浮かべた百樹。我に帰ったゆり葉は赤面して『この手の話になるとペラペラ話してしまう』と謝るが、百樹は『あざっす』と小さく礼を言う。

すると、ゆり葉は『サービスで顔の痣も消そうか?』と提案する。だが、百樹は『これはいいです』と断る。ゆり葉が『すぐにできるよ?気にならない?』と尋ねると、百樹は痣を指差しながらこう答えた。

「なんか…仲間みたいでいいじゃんって」

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そう言ってゆり葉の目を見て無邪気に微笑んできた百樹。屈託のないその笑顔にときめいてしまったゆり葉は赤面してしまい、慌てて背を向け、誤魔化すように『明日のお茶菓子に何か置いておいて欲しいものはある?』と尋ねた。

百樹は『小さいパンがあると嬉しい』と答えた。工事中は結構お腹が空くと言うのだ。

ゆり葉はうつむき顔を隠したまま『分かった』と小さく言うのであった…。

ゆり葉が箱崎家で蔑ろにされていることを知り憤る百樹と、『自分を止められるものはこの家にない』と気付いてしまったゆり葉…二人がラストに取ったとんでもない行動は…

翌朝。箱崎家に来た職人達はお菓子と籠の中にに小さいパンが用意されているのを見て『今日は豪華だ』と喜ぶ。

そして、職人達がいつも通り作業をしていると、そこに両子が現れ、近くにいた百樹に『ちょっと』と声を掛けると『追加で簡単な棚をお願いできないかしら』と言い出した。そして、百樹が『できると思います』と答えると、両子は嬉々として『それから、ここにコンセントも…』とどんどん要望を出していく。そんな両子に百樹は『あの』と制止し、こう尋ねた。

「相談しました?ご家族に」

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百樹の言葉に『え?なんで?』と途端に不機嫌になる両子。百樹はコンセント一つ追加するのも、設置しづらい箇所であったりすると、10万円もの費用が掛かる可能性があることを告げ、『2階にいるお嫁さんも呼んで、相談して見積もりを取ってから検討した方がいい』とアドバイスする。

だが、それを聞いた両子は小馬鹿にしたように笑い飛ばした。

「はい~?嫁~?大丈夫よ!息子は母さんの好きなようにやれば良いっていうし」
「これは私のためのリフォームなんですから他人は関係ないの」

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そう言って笑う両子の顔は酷く醜悪だった。ゆり葉がこの家で蔑ろにされていることを悟った百樹は不愉快そうに黙ったまま両子を睨み付けた。だが、そんな百樹の態度に気付きもせず、更に続けた。

「それよりあなた その顔の痣…隠してくれない?気味が悪いわ…」

金魚妻 黒澤R 改装妻

その頃、ゆり葉は二階の和室で熱にうなされていた。畳の上に倒れ込むように横になっていたゆり葉の耳には、階下から聞こえる百樹の声がかすかに届いていた。

ゆり葉がこんな風になってしまった理由…それは昨晩の出来事のせいだった…。

ホテルの一室。ゆり葉は百樹の要望通り、背中のタトゥーを化粧で隠し、励ましてやり…それで終わりのはずだった。

しかし、

「俺…ヨメとの生活…つらいっす」

金魚妻 黒澤R 改装妻

百樹はそう言うと、突然ゆり葉を後ろから強く抱き締めて来たのだ。

百樹は解放されたがっている…そう思ったゆり葉。まるで百樹がクモの巣に捕まってもがく蝶々の様に美しく見え、救ってやりたいと思ってしまったのだ。

それまで互いの名前をちゃんと知らなかったゆり葉と百樹。百樹はゆり葉のブラジャーを脱がせながら『名前教えて』と尋ねた。ゆり葉は『ゆり葉』とだけ答えると、名前を尋ね返し、百樹の名前を知ると『じゃあ、“モモ君”?』と呼び方を決める。すると、百樹は『そっちは“ゆりちゃん”』と言い出す。ゆり葉は『“たちゃん”付けするような歳じゃない』と制止しようとすると、それは叶わなかった。何故なら、そのまま考える間もなく“行為”が始まり、それどころではなくなってしまったからだ。

快楽に声を上げるゆり葉は汗だくで、化粧は流れ落ち、いつの間にか額の痣が露になっていた。同じ場所に痣を持つゆり葉と百樹は、まるでそれが当然の様に激しく互いを求めあった。

それが許されることではないことはゆり葉にも分かっていた。だが、ゆり葉は同時にこう気付いてしまったのだ。

ここから先の行為を止められるものは…
あの家には無い

金魚妻 黒澤R 改装妻

それからしばらく経ったある日。ゆり葉の夫は悲嘆しながら誰かに自分達に降り掛かった不幸を語っていた。

それは、ゆり葉が“浮気相手”と駆け落ちしてしまったこと、そしてその際に家の預金のほとんどを下ろして持っていってしまったこと。そして、そのせいで家のリフォームは中止になってしまい、母、両子はショックで倒れて入院してしまったのだと。夫は子供もいるというのに、ゆり葉がどうしてそんな酷いことをしでかしたのかが理解できないと嘆き続けるのであった。

「なぜそんなひどい事ができるんでしょう…」
「なぜ…?」

金魚妻 黒澤R 改装妻

空には蝶のつがいが悠々と仲良く飛び回っていた…。

金魚妻 5巻表紙

以下、感想と考察

とんでもないラストなのに、不思議と爽快感のある改装妻

ここ最近、キャッチコピーでもある”一線を越えた”行動を取るヒロインはあまりいなかったのだけど、今回の話は分かりやすく一線を越えた。家の金を持って、若い男と消えるって…相当とんでもない行動である。さらに相手である百樹も妻子持ちだったので、そちらの家族が被った損害を考えると中々とんでもない。

でも、不思議と後味の悪さはなく爽快感まである。ゆり葉の夫や姑の両子のクソさ加減がしっかりと描かれていたのが大きいだろう。個人的に”不倫もの”の勝利条件は『読者に不倫した側を応援させること、応援したいという気持ちにさせること』だと考えているのだが、それを十分に満たしている作品である。

もともとディテールに凝った作品だけども、今回はセリフの細かいところが特に効いているというべきか。終盤、嫌味姑、両子が百樹に額の痣について、『気味が悪いから隠せ』と言うところなんて、きっと同じところに消えない痣があるゆり葉にも似たようなことを言っていたんだろうな…とか容易に推測できるから、そういうところも本当に上手いと思う。

痣や傷というテーマ。施術や化粧で美しくなる意味

太田母斑、痣、傷といったものは個人的に好きなテーマで、ドラマとかだと相棒のシーズン7、15話『密愛』が印象深い。あれも中々素敵な話で、作中、痣を聖痕に例えるんだよね…。『密愛』は10年以上前の話だけど、最近では少女漫画でも太田母斑をテーマにした『青に、ふれる』とかもあるし、こういった痣に対する知識や理解も広まりつつあるのではないかと思ったり。作中に出て来るような痣とか火傷を隠すメイクはメディカルメイクアップというのだけど、これももっと広まってほしいな。

それにしてもゆり葉の夫がゆり葉の治療に反対したわけが理解できない。でも、こういう人がいるのは知っている。ゆり葉に対して美しさは特に求めておらず、従順さのみ求めていたから、痣がある負い目からニコニコと機嫌を取る様に従って来るゆり葉が良かったのだろう。本人が気弱だからこそ、配偶者には優位に立ちたかったんだろうな…。『気にならないから』ってなんだよ。お前が気にならなくても本人が気にしてるんだよ。

まあ、そもそも、それ以前に『親からもらった体に…』等言う整形絶対反対民とかもいるし、『化粧は偽装と同じ!詐欺だ』みたいに言う人も結構いるからなー(特に後者は男性に多い)。でも、親からもらった大切な体ではあるけど、結局自分の体なんだから自分をより好きになれるように変えることの何が悪いのだろう。化粧だって、作中のゆり葉のセリフにもあるけど、結局キレイになるのは”自分のため”なのだ。

百樹の妻に対して思う事…彼女はどうなってしまったのだろうか

でも、ゆり葉の夫と姑はクソだと思うけど、百樹の妻には若干同情の余地があるように思える。

『結婚すると、相手の一番好きだったところが一番嫌いなところになる』というのは良く言われることだけど、これって特に産後の女性が陥りがちな状態だからな。…産後ってなんで夫に対してあんなに苛つくのだろう。ホルモンバランスの崩れなのだけれど、とりあえず何にでも腹が立ってしまう(覚えがあり過ぎて…)。百樹の妻は、百樹にタトゥーという分かりやすい弱点があったからそこを攻撃しただけで、タトゥーが無かったとしても、きっと何かしら粗探しして攻撃していたと思う。…作中の息子の様子からして、息子は1~2歳位かな?まあ、ガルガル期を引き摺り過ぎている気もするけど、自身の意思だけだとどうしようもない部分があるからな。とはいえ、百樹の妻が百樹にしていたことはモラハラに他ならないし、攻撃するために自分の両親を巻き込むやり口も陰湿で許されることではないけど。しかし、百樹が早い段階で妻に対して不満をしっかりと言えていたら少しは違っていたのではないかとも思ってしまう。妻も百樹が黙って耐えてしまうから、益々増長してしまったところがあるし、妻の両親も割とまともな感性しているし。百樹も口下手だから言えなかったんだろうな。あの感じだと、ゆり葉にせっかくタトゥー隠してもらったけど、一緒にプールや健康ランドにも行ってなさそうだし(普通に仕事してたし)。

百樹の妻は一生後悔するのかな。両親ともに健在でそれなりに裕福そうだから、百樹がいなくなったことでただちに路頭に迷うことはなさそうだけど。ちょっと可哀想ではある。

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