【総評】幻覚ピカソ【全3巻】思春期の少年少女の複雑な心の世界をスケッチする良作


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古屋兎丸(ふるや うさまる)という漫画家をご存知でしょうか。

漫画好きの人なら少なくとも名前は知っているでしょうが、2017年に菅田将暉主演で実写映画化された『帝一の國』の原作漫画の作者というと分かりやすいかもしれません。

私、古屋兎丸先生の作品が好きなのです・・・が、しかし。

『π(パイ)』や『帝一の國』の様に少々ぶっ飛んだ設定、展開になるものが多かったり、『ライチ☆光クラブ』、『自殺サークル』、『インノサン少年十字軍』の様に残虐・凄惨・グロテスクな作品が多くて人に勧めるにはちょっと難しい作品が多いのです。

そんな中で、今日お勧めしたいこの『幻覚ピカソ』は非常に健全で、ガロ系に免疫が無い人にも自信を持ってお勧めできる作品です。

Contents

あらすじ

主人公は高校2年生の葉村ヒカリ、「通称」ピカソ。絵を描くことが得意で将来画家になることを夢見ている彼は、偏屈で周囲との関わりを避けており、友人と呼べるのは読書家のクラスメイトの少女、山本千晶だけであった。

しかし、ある日ピカソは千晶とともに事故に巻き込まれてしまい、千晶は亡くなってしまう。千晶の死を実感できぬまま日常生活に戻ったピカソだったが、そんな彼の前に亡くなったはずの千晶が妖精の様な姿で現れ、人助けをするように告げる。事故から生還したピカソは人の心の闇をスケッチし、その絵の中(人の心の中)に入るという能力を授かっていたのだ

かくしてピカソは死んだ千晶とともに、クラスメイト達の心の闇を解消するために奔走するのであった・・・。

見どころ

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①斬新な設定

まずはこの『人の心の闇をスケッチし、その絵の中(人の心の中)に入る』という設定が秀逸です。人の心を読める、あるいは残留思念を読み取る(サイコメトラーEIJI等)といった能力は散々出尽くしているのですが、変化球で来ました。心を読む系の能力は強力なものになりがちで、その能力に対してどんな制約をつけるのかが肝になるのですが、ピカソが授かったこの能力はあくまでスケッチする力なのです。実在する絵画が単純なものではなく、人々の心に多様な解釈を生む様に、ピカソが描いたスケッチ画(心象風景)は単純に読み解けないものがほとんどです。

また、スケッチを描く能力に加え、絵の中に入ることで悩める人物の心の中に入れるのですが、心の中もこれまた複雑であり、先の読めない展開が続きます。

ちなみに、ピカソが絵の中に入るのはあくまで意識だけであり、その間現実世界の彼はひたすら気絶し続けています。みんなの心の闇を解決するまで彼は意識を取り戻せません。また、人の悩みを見て見ぬふりをすると、ピカソの右手は腐っていくのです。・・・嫌な能力。

②スケッチブックと2B鉛筆で描かれる美しい心象風景の世界

ピカソが作中にスケッチブックに描く心の闇の絵と、心の中の世界は、実際に古屋兎丸先生がスケッチブックと2B鉛筆で描いています。思春期真っただ中の悩める登場人物達の心象風景は奇怪で不安定で、それでいて不思議と美しいのです。連載中、もしアニメ化するならシャフトあたりが再現してくれないかなーなんて思ってました。

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③等身大なキャラクターと悩み

この作品に出てくる高校生たちは、過剰なキャラ付けがされておらず、「こんな感じの子いたな」と身近に感じる子たちばかりです。抱える心の闇、つまり悩みも共感できるものが多いです。過剰なトラウマ演出をする作品が多い中、『幻覚ピカソ』はそういったものに一切頼ることなく、登場人物達の些細な、それでいて深刻な悩みを揶揄することなく、大げさに騒ぎ立てることもなく、ただただ真摯に受け止めています。連載中、もしアニメ化するなら(しつこい)、NHKの土曜日の夕方の枠(MAJORとかの枠ね)でやってほしいなーとか思ってました。

④鮮やかに回収される伏線

詳細は各巻の感想ネタバレで語りますが、ラストにいくつかの設定について、しっかりとした伏線回収があります。作品の性質的に(いわゆるオムニバス形式のため)そういったものをあまり期待していなかったのですが、その鮮やかさに驚きました。

総評

巻数は少ないものの、その分読み易く、美しいスケッチ画と練られたストーリーで、文句なしに人に勧められる作品です。読後感もやや切ないものの、非常に爽やかです。まさに『初めての古屋兎丸』に持って来いの作品です。

ガロ系や古屋作品に興味が無い方にもお勧めできます!!

・・・追記

もしこの作品に対して「面白いけど、もうちょっと毒気が欲しい」と感じる方がいらっしゃいましたら、同じ古屋先生の『少年少女漂流記』をお勧めします。こちらは思春期がもっともっと痛い方に爆発していますので、人によっては古傷がえぐられるかもしれませんが。

また、似たような設定の作品として、悩める依頼人の夢の中に入り、問題を解決するという真柴真の『夢喰見聞』も挙げておきます。こちらはよりダークな話が多く後味の悪い結末になることが少なくないです。

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