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『毒親』『家族関係』に関する書籍についてはこのブログの中でも度々紹介している。 特に『毒親・毒家族』ものは、田房永子氏の著書『母がしんどい』のヒット以降、一つのジャンルとして定着しつつある。しかし、当の田房永子氏も著作で指摘するように、なんでもかんでも『毒親』という安易なレッテル張りも増え、『毒親』を取り扱った作品もピンキリ、玉石混合な状態である。
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そんな中でお勧めできる作品が、原わた氏の『ゆがみちゃん~毒家族からの脱出コミックエッセイ』である。愛らしい絵柄に反して内容はやはり、強烈ではあるものの、個人的な恨み節に終始せずに、非常に理性的・理論的に描かれている。
また、タイトルの通り、筆者は物理的に家族から逃げており、その方法も詳しく描かれているので、現実に毒家族に苦しめられていて、逃げることを考えている人にはタメになると思われる。
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Contents
以下、各話ネタバレ
追憶編~暴言を吐く祖母、暴力を振るう父、酒乱の母、いじめる兄…宗教狂いのとんでも家族で育ったゆがみちゃん
毒田家の日常…生まれた時から心理的虐待
毒田家の次子として生まれたゆがみちゃん。上には兄がいる。毒田家は祖父母の家に長男夫婦が住む、計6人家族だ。
毒田家には男ばかりが生まれたため、唯一の女の子だったゆがみは『特別な待遇』を受けることになる。
それは祖母、うらみと母、ひがみの争いに巻き込まれるというものだった。口が悪い祖母うらみは嫁であるゆがみの母、ひがみをインラン、ヘンタイと罵り、幼いゆがみに悪口を刷り込む。一方、実際に母、ひがみは酒乱、アルコール依存症で ゆがみはそんな祖母、母の双方から怒りの捌け口にされていたのだった。
毒田家の子ども…溺愛されて歪んで育つ兄
しかし、反対に兄は祖母にも母にも可愛がられていた。兄が風邪を引けば甲斐甲斐しく看病するのに、ゆがみが風邪を引けば怒り、学校も休ませない。そのことをよく理解している兄は大人がいる前では社交的で愛らしく、子どもらしい振る舞いをするものの、大人の目が届かない場所ではゆがみに陰湿なイジメをするようになる。
あるとき、祖母の財布から度々千円札が無くなるようになる。家族全員、真っ先にゆがみを疑い、財布にお金が無くても犯人だと決めつけられる。しかし、ある日ゆがみは兄が祖母の財布から千円札を盗んでいるのを目撃する。その後、兄の財布から千円札が発見されるも、兄はしらばっくれ、家族も何故か『お兄ちゃんがお金を盗むはずがない』と無罪放免。増長した兄は千円札から五千円札、一万円札と少しずつ盗む額を増やしていった。
ゆがみは自分と兄の対応に明らかな差があることを理解し、母にそのことを指摘するも、母は『勘違い、被害妄想』と怒る。しかし、酔っぱらったときに母は
「しょーがないだろ、お兄ちゃんは男の子だし、女のあんたよりかわいいんだ」
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 19/187
と本音を漏らした。『男の子はかわいくて女の子はかわいくないのか』『かわいくないと泥棒扱いされるのか』…性別という括りだけで差別されるゆがみは、釈然としないものの、どうしようもなかったのだった。
毒田家の家族…宗教一家
そして、毒田家の最大の問題は祖母を筆頭に家族が入信している宗教だった。親戚も信者で、そもそも信者以外との結婚は許されない。特に祖母うらみは宗教とその信者である自分自身を常に賞賛していた。しかし、口を開けば常に他人の悪口ばかり。そのため、ゆがみはその宗教を信じても幸せになれるとは思えず、疑問を持ってしまう。そして、そんなゆがみを母は『ヘリクツばかりでかわいくない』と激怒するのであった。
成長するにつれて宗教の話をするのはタブーだと察っするようになったゆがみ。小学生になる頃には周囲に隠すようになるも、同級生達はすぐに勘づかれ、大人しい性格もあって、イジメの標的になってしまう。それを母に相談するも、母は『いじめられる方が悪い』と怒り、
「本当にブサイク!デブ!かわいげもないし性格が悪い!だからいじめられるんだ!」
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 22/187
「あんたみたいな子誰も友達にならないよ!絶対離れてくんだから」
とひたすら罵倒し、ゆがみの自尊心をボロボロにするのであった。しかし、一応友達はいたゆがみに対して、本当に友達がいないのは祖母や母であった。性格の問題に加えてしつこく宗教に勧誘するためだ。
そんな母はゆがみの同級生の家に宗教の勧誘を行うようになる。兄の同級生の家には全く行わないにも関わらず。ゆがみがそのことに抗議し、やめてと言っても『あんたがおかしい。お母さんは間違ってない』と聞く耳を持たなかった。
そして、父のいかりは普段は仕事で家に不在。寡黙な人物であったが、突然怒りのスイッチが入り、物に当たり、怒鳴り散らし、凶器を持って子供達を追いかけ回し、捕まえては素手で殴るという、とんでもない癖を持っていた。その一方で子供達に金銭や物を積極的に与える。しかし、それは経済力を使って子供達をコントロールするためで、子供達に感謝と服従を強要するのであった。
心のゆがみ…心身に異常をきたす幼いゆがみ
幼少期から家族に対する不信感で一杯だったゆがみ。幼い時分からすでに過食嘔吐を繰り返していたが、それがストレスによるものだと知るよしもない。また、悲しくもないのに涙が出てくることがあった。しかし、泣いていることを知られると怒られるので、布団の中で沢山のぬいぐるみを用意し、抱き締めながら声を押し殺して泣く日々。『自分はどこかおかしいのかもしれない』そう思いながら毎日を過ごしていたのであった。
しかし、そんなゆがみにも憩いの場所があった。母の姉である伯母なごみと、その夫、甘じい夫婦であった。二人はゆがみのことを可愛がり、ゆがみもそんな二人に懐き、よく家に泊まりに行ったりしていた。ゆがみの人格を否定し、暴言を吐く家族と異なり、なごみと甘じいはゆがみをほめて、認めて『母の暴言を気にするな』『将来有望だ』等言ってくれた。
特になごみ自身は宗教の信者であったが、あまり熱心に活動しておらず、その夫の甘じいが信者でなかったことが重要で、ゆがみにとって居心地が良く、ゆがみは親に対して以上に二人に沢山甘えた。…後にこれがゆがみに絶望を与えることになるとは知らずに。
いじめの悪循環…小学校では問題児がイジメを繰り返す
そして、家庭環境だけでなく、ゆがみの小学校生活も決して恵まれたものではなかった。ゆがみの小学校には『マーちゃん』という、問題児の少女がいたのだ。マーちゃんは可愛くてスポーツ万能であったが、イジメが大好きだった。彼女の家庭も問題があった。不在がちで不倫している父親、過保護でヒステリックな母親、札付きの不良の兄…。そんな環境のせいか、マーちゃんは情緒不安定で度々問題を起こすも、母親がモンスターペアレントであったため、教師も周囲も見てみぬ振りをし、マーちゃんの女王様体質はどんどん酷くなっていったのだった。
そして協調性があまり無かったゆがみは、よくマーちゃんとその取り巻きのイジメのターゲットになった。そんな彼女達を見て、
いじめられたくないからいじめるなんてバカげてる。いじめられたほうがマシだ。あんなのにかかわりたくない
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 34/187
そう意思を貫き通したゆがみ。しかし、その一方で、取り巻きがいないとき、マーちゃんは頻繁にゆがみに話し掛けてきて、二人で遊ぶことも少なくなかった。二人で遊ぶときは決してゆがみをいじめることは無かったマーちゃん。ゆがみは後日思い返すのである。『マーちゃんはただ、人と仲良くする方法が分からなかっただけなのかもしれない』と。
『理不尽の許容と黙認』ゆがみの家庭環境も小学校生活も、人が人を踏みつける行為を正当化し見てみぬ振りが繰り返されていた。そして、子供達は悪い行いをしても咎められず、自己を正当化していった。イジメを繰り返すマーちゃんも、家庭内で窃盗を繰り返す兄も、更正の機会を与えられない、ある意味被害者でもあったのだ。
絶望編~ネットに居場所を見出だすも、自殺を考えるゆがみ…未来を掴むため家から逃げ出すことを決意する
きょうだいの崩壊…兄から理不尽な暴力を受けるゆがみ
問題のある家庭、学校生活の中でもゆがみは成長し、中学生になった。しかし、家庭内での兄妹差別は依然として続き、むしろ悪化する。特に母の嫌がらせは、性的な要素が加わり、ゆがみにブラジャーを買い与えない、嘲笑目的に風呂を覗く等をしてくる。また、母は兄への性的興味を隠さず、ゆがみに『お兄ちゃんが布団をめくったら興奮していた』等と語って聞かせる。そんな母親をゆがみは心底気持ち悪く感じていた。
そんな家庭環境だったが、ゆがみは勉学において優秀だった。しかし、兄は中学生の時に学年成績で20位を取った際、母はべた褒めしてPCを買い与えたにも関わらず、成績が学年2位のゆがみには『何故1位が取れない。バカ』と罵倒し、一切褒めることはなかった。
不満を持ったゆがみは、兄が買い与えられたものの、放置していたPCをいじってみた。すると、元々熱中しやすいゆがみはみるみるインターネットにのめり込み、Webサイトを作ったり、ネット上で色んな人と交流するようになっていった。イラストや小説を作り、公開する等の趣味を持ち、ネット上で居場所を見いだしたゆがみ。
一方で高校に進学した兄は学校に馴染めず、休みがちになっていった。父親はそんな兄にキレて罵倒する様になっていった。
ある晩、ゆがみが自室で眠っていると衝撃を感じた。寝起きで状況をすぐに掴めなかったゆがみだが、それが兄の足であると気付く。『お前のせいだ』『お前が悪い』と叫びながら、兄はゆがみの背中をひたすら蹴りあげて踏みつけていたのだ。勿論、ゆがみが兄に何かした訳ではない。完全な八つ当たりであった。この出来事がきっかけで兄妹は一切口を効くことが無くなった。
心の居場所…交友関係は広がるも、どこか不安定なゆがみ
兄から暴力を受けた一件でゆがみは家族と宗教への不信感を一層募らせた。そして、お祈りや集会に参加することをやめた。当然家族は激怒したが、罪悪感や不安を煽る言葉は宗教を信じなければ効かないのであった。ネットを通じてかろうじて『心の居場所』を確保出来ていたのだ。
そして、高校生になったゆがみはお洒落を覚え、アルバイトを始めた。経済力とともに自立心が培えたゆがみ。ピアスに茶髪、アルバイト。
「親からもらった体になんてことを!けしからん女だ!宗教を信じないから頭がおかしくなったんだ」
「学生の分際でアルバイトなんて生意気だ!辞めろ!」
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 46/187
等と詰る両親に対して徹底的に反抗するゆがみ。
お母さんたちは結局宗教に依存するだけで何の努力もしていない…。そんなの幸せの丸投げだ。私は今、努力してるし、学校に友達もいるし、仕事でも評価されてる。これでいいんだ!
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 46/187
そう、信じて疑わなかったのであった。
しかし、自尊心、自己肯定感が脆いゆがみ。友人との些細な言い争いを契機に心のバランスを崩してしまう。そして、現実逃避に走り、インターネットの沼にはまってしまう。居場所の無い不安定さから、ゆがみの生活は荒んでいき、学校も不登校気味になり、衝動買いを繰り返す、買い物依存症の様な状態になっていく。そして、無断外泊、夜遊びをするようになっていった。しかし、そんなゆがみと真正面から向き合わず、気分次第で放置と過干渉を繰り返す親を見たゆがみは、『いつか家から逃げ出そう』という決意を漠然とながら固めていくのであった。
家族という足枷…友人からの突如の縁切り宣言に自殺を考えるゆがみ
そして、ゆがみは高校3年生。進路を考える時期になった。その頃、家族は父はワーカホリック、母はアルコール依存症、兄はギャンブル依存症と益々崩壊していた。そんな中で、父はゆがみに『なんとしても大学に進学しろ』と言い、母は『お前を大学に行かせる金は無い』と言う。真逆のことを言う父と母の板挟みで悩むゆがみ。
すると、当時ネットで知り合った親友の少年カズオが某有名大学を目指すと聞いて、ゆがみもその大学を目指して猛勉強を始める。元々勉強が得意なゆがみは大学進学という目標を得ると、全てをそこにぶつけ、成績が急上昇した。『カズオと同じ大学に行けば幸せになれる』という、ある意味での信仰を得ていたのだ。
しかし、ある日突然ゆがみの元にカズオから電話が掛かってくる。カズオは単刀直入にゆがみに尋ねた。
「なあ、おまえ宗教信者なの?」「お前は○○教の信者か?違うのか?」
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 51/187
突然された、乱暴で攻撃的な質問。ゆがみは驚きながらも『親は信者だが、自分は違う』と答える。すると電話の向こうでカズオは憤慨する。共通の知人が、ゆがみは宗教信者だから気を付けるように言ってきたのだと言う。
「俺は宗教が大嫌いだから宗教を信じるお前なんか気持ち悪い!」
「おまえみたいのがなんで生きてるんだよ?死んじまえよ。生きる価値ないだろ」
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 52/187
そう一方的にまくし立てて、カズオは電話を切った。
呆然とするゆがみ。確かに共通の知人に親のことを相談したことがあった。そして、確かにそれ以降疎遠になっていた。気付かなかっただけで、気持ち悪がられ距離を置かれていたのだ。そして、今度はカズオに嫌われた。
あ…なんだろう、なんかすごく、死にたい。生きていたくない…
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 53/187
友達だと思っていたカズオに誤解され、罵倒され一方的に縁を切られたこともショックだったが、それだけではなかった。自分自身が宗教を信じず、親を嫌っていようと、世間は自分と宗教とその信者の親を切り離して考えてくれない…ということに気付いてしまったのだ。
これからどんなに勉強したり、お洒落をして、努力しても、『宗教』と『宗教信者の家族』が全力で人生を邪魔する、巨大な壁になるだろう。
もし、今後気になる人ができても、また宗教を理由に人格を否定され、誰とも結婚できないだろう…。
私はずっと前に進めないのだ…。そう脱力するゆがみ。何もかもがイヤになり、疲れてしまった。そんなゆがみに心の中のもう一人の自分が囁きかける。
生きていてもいいことなんかひとつもないよ。家族には暴言を吐かれて友達や異性には距離を置かれて。(中略)この家に生まれたのが運の尽き。生まれた時から呪われた人生。私が死ねば、この世から消えたら、きっとぜんぶラクになる。
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 56/187
ゆがみは自殺を考えるようになったのだった。
未来への進路…自殺直前にチャット仲間から言われた言葉
そもそも現在の日本の法律は『家族は絶対』という理念の元、家族と関係を絶つことが出来ない。家族や親がおかしいとそれだけで子供の人生は『詰む』。
理不尽な今の環境を命を持って世間に公表すれば何かが変わるかもしれない…そう考えたゆがみはブログで『親と宗教が原因で自殺する』という遺書を公表して自殺することを決める。
受験勉強を完全に止め、後ろ向きなエネルギーで、自殺方法を調べ、準備を整えたゆがみ。
ハイテンションで、翌日公開設定でブログを書き始めた。書き始めたのだが…
何故か涙が止まらなくなる。
そして、その時、チャット仲間からメッセージが届いた。RYOという名の彼は温厚な性格でゆがみの作品のファンだと言ってくれていた。最後にRYOと何か話したい…そう思ったゆがみは、軽い調子で『ゆがみたそはこれから自殺するお』と送ってみた。
すると、RYOからは『そうなんだ』という軽い反応が返ってくる。
しかし、その後、『ネタかもしれないがマジレスするね』と以下のメッセージが届いた。
僕は死にたい人に向かって「死ぬな」なんて無責任なことは言えないし、そんな立場でもない。死ぬなとは言わないし、もし自殺してもその事実を知る術すらないかもしれないけど、仲よくしていた人が自殺したら僕は悲しい。
ゆがみちゃんが今、こうして話しかけたのには、きっと何か理由があるんだと思う。
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 62/187
そのメッセージを見てゆがみは気付く。
『本当は死にたくなんかない』ということに。
ただ、希望が欲しかったのだ。生きていても希望が無いのなら死んで希望をつかもう…そう思っていただけなのだ。RYOの言葉に、もう少しだけ頑張って前に進もうと思えたゆがみ。静かに涙を流しながら自殺を思いとどめたのであった。
自由の契機…家を出ることを決意するゆがみ
しかし、自殺は止めたものの、一連の事で受験勉強を止めていたゆがみは大学受験に失敗する。今後の進路をどうするかが問題であった。一人暮らしして働きたいと考えるゆがみ。だが、家族は当然それを許さない。
学歴コンプレックスが強い父は浪人して進学することを強制。しかし、父が推す学校にゆがみは興味を持てない。
一方でやはり母はゆがみの進学に反対。それもそのはずで、毒田家はギャンブルにはまった兄に、なんと月20万円も小遣いとして渡していたため、経済的な余裕が無かったのだ。
父母の板挟みになりながら、とりあえず適当な専門学校に通うことにしたゆがみ。しかし、学校に馴染むことが出来ず、引きこもりがちになってしまうのであった。
そして、そんなゆがみにキレた父は、ゆがみを罵倒する最中、『この家から出ていけ!』と叫ぶ。その言葉にハッとしたゆがみ。
『出ていけと言われたのならば、もう出ていけばいいじゃないか』と気付いたのだ。勿論、父は脅し言葉として言っているだけで、本当に出ていったら怒るだろう。しかし、今からだって働けるし、働いてお金を得れば一人暮らしできる。少なくとも今の環境よりはマシだろう。
自由になりたい、自由に生きていきたい。自由を手に入れるためにこの家を出るんだ
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 68/187
ゆがみは家を出ることを決心する。
仕事を探し、一人暮らしに必要なお金等をインターネットで調べ始めるゆがみ。部屋を借りる際に、親に保証人を頼めないゆがみには保証人代行料が必要になることが分かった。とりあえず50万円を目標に貯金を始める。
そして、何より家族にバレないように計画を進める必要があった。幸い親が知らない口座を作っていたゆがみ。計画を立て終わるとすぐに、地元の企業の事務職の面接に行き、即採用された。
その事を父いかりに伝えると、父は『高卒のお前に仕事なんてない』と、現にゆがみは採用されているにも関わらず、激昂し、認めようとはしなかった。
その支離滅裂な言動に、やはり父は子どもを支配したいだけなのだと改めて実感し、ゆがみは出ていく決心を固めるのであった。
解放編~充実した生活の一方で、伯母の裏切り・親からの嫌がらせが続く
計画と実行…遂に家を出たゆがみ
働いて半年。ゆがみは目標の50万円を貯金出来た。早速、気に入った部屋を見つけ不動産屋で申込みをしようとするも、担当の中年男性から、『親が女の子の一人暮らしを認めないのは当然』『保証代行サービスは家族がいない人のためのもの』『あなたみたいな子にどこも不動産を貸さない。親を説得してから出直せ』と言われてしまう。
不動産屋の説教、きれいごと、頭の固さに腹を立てたゆがみは、再度ネットで保証代行サービスのある不動産屋を調べ直し、そこで申し込むと、あっさり保証代行サービスを利用することができ、部屋を借りることが出来た。
そして、無事審査も通り、振込を済ませ、入居日を決めたゆがみ。近所の幼馴染みに引っ越しを手伝ってもらうことにし、引っ越し当日に『今日、家を出ていく』と家族に告げたのであった。
家族は当然怒り、ゆがみを罵倒し始める。しかし、ゆがみは冷静に言い返す。特に父は『高卒でやっていけるなんて勘違いするな』と怒鳴るが、ゆがみは『勘違いしているのはそっちだ。お父さんは娘が高卒で恥ずかしいだけ。私のためじゃなくて、自分のために言っている』と反論するのだった。
もう私はこの家には絶対戻らない。何があっても絶対に!この家は私の居場所じゃない。この人たちは私の家族じゃない!!
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 79/187
20歳、春。罵倒し続ける家族を無視してゆがみは家を出たのであった。
悪意と決意…連日来る父親からの嫌がらせの電話に、関西へ行くことを決意するゆがみ
一人暮らしを始めたゆがみは、その快適さに驚き、感動する。誰からも否定されず、罵倒されない暮らしは至福だった。
一方で、毎日の様に携帯には父親から罵倒の電話が掛かってくる。未だにゆがみが大学に進学せず就職したことを許せない父は、『高卒では働いていけない』『職場に電話してやる』等と、実際にゆがみが問題なく働いている現実を無視し、金銭的余裕が無いにも関わらず、実家に帰り進学するように脅す。父親の恫喝に怯えるゆがみ。そのうち居場所がバレて連れ戻されるかもしれない。
そんなある日、ゆがみは仲の良い友人から関西に来ないかと誘われる。知らない土地は怖いと思うものの、幼馴染みの一人が大学進学を機に地元を出て関西で暮らし始めた途端イキイキし始めたことを思い出す。
元々ゆがみも地元に良い思い出がなかったので、さっそく新天地について調べてみた。すると、同じ事務職でも給料の額や高い一方、家賃は地元と変わらないことが分かった。親に居場所がバレるのは時間の問題だと考えたゆがみは即断して引っ越しの準備を始めた。関西の都心部では保証人不要の物件も揃っていたのだ。
仕事を退職し、地元の友人達には何も告げず、ひっそりと関西に旅立ったゆがみ。気分はとても晴れやかだった。地元に縛られる必要はない。新しい場所に居場所を探しに行く。そう、前向きな旅立ちであったのだ。
前進と後退…関西でアクティブに過ごすゆがみ、親に戻らない意思を伝えるべく実家に帰省する
関西の新天地で中小企業の事務として働くゆがみ。職場は激務で、上司は気まぐれで理不尽だった。しかし、一方で根は優しく暖かく、親のことを正直に話すと『関西まで出てきて頑張って偉い』『困ったことあったら自分を親だと思って頼れ』と受け入れてくれた。
上司だけでなく、関西で知り合った人は寛容で人情に厚く優しく、それでいて適度な距離感も保ってくれるため過ごしやすく感じるゆがみ。
親や地元では人格否定され、評価されることは無かったが、関西では『がんばり屋』『賢い』『思慮深い』『仕事ができる』等評価され、ゆがみは『私ってそんなにダメダメな人間ではないのかもしれない』と自己肯定感を培っていく。
そして、プライベートでも変化が出てきた。元々引きこもりがちで外に出るのが苦手だったゆがみだが、『キレイになりたい』と思い、ウォーキング等で15キロ減量。すると外に出るのが楽しくなり、旅行やライブ等に積極的に出掛けるようになったのだ。
ゆがみは仕事やプライベートを通して友人知人が増やし、世界を広げていく。優しい人に囲まれたゆがみは日々楽しく穏やかに過ごしていた。
しかし、父からの罵倒の電話は変わらなかった。帰ってこないゆがみに業を煮やした父の暴言はエスカレート。
「おまえは俺の子どもだ。だから言うとおりにするのが当たり前なんだ!」「おまえの意思なんて必要ない!とにかく俺の言う通りにしろ!」
「俺の言うことが聞けないなら死ね!言うことが聞けないならお前を殺してやる」
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 88/187
なんと遂に、殺害予告までされてしまう。離れていることもあり、怯えこそしないものの『何言ってんだこいつ』と思うゆがみ。徐々に腹も立ってくる。ゆがみは『もう戻らない』という意思を伝えるべく、最初で最後の帰省をすることにした。
実家に行ったゆがみ。家には母ひがみしかいなかった。帰ってきたのかと尋ねる母に、ゆがみは『もう絶対に帰らないと伝えに来た』と言う。
母はそんなゆがみに『バナナジュース好きだったでしょ』と話を反らし(ゆがみは昔からバナナが苦手)、家族の愚痴を言いながらすがりついてくる。父と口をきいていない、兄も家を出て金をせびりに時々来るだけ等。要約すると、母は『ゆがみに面倒を見てほしい』と言っているのだ。
散々兄と差別して来たのに今さら…とゆがみが言うと、母は『そんなことはしていない、あんたの被害妄想だ!』とまたしても否定する。以前よりも話にならなくなったのを感じたゆがみは、諦めてすぐに家を出た。
そして、その後ゆがみは伯母のなごみの家に寄った。親よりも信頼し甘えてきたなごみと甘じい夫妻には、職場の商品(美容関係)をプレゼントした。関西に行ってイキイキとし始めたゆがみをキレイになったと褒めるなごみ。『関西に戻ってもがんばれ』と言う優しい言葉に笑顔で応えるゆがみ。
この伯母家への来訪が裏目に出るだなんて、このときは思いもしないのであった。
阻害と恩恵…親に職場がバレて退職に追い込まれるゆがみ。しかし、周囲の人に支えられる
実家から関西に戻ったゆがみは、親からの電話に出るのを止めた。仕事では後輩もできて、前よりも忙しいが充実、順調な日々を送っていた。
ところが、ある日、職場に母から電話が掛かってくる。後輩達にも聞こえる位の大声でどうでも良いことをわめき続ける母。ゆがみは、突然のことに『何故?今、ここに?』と混乱する。とりあえず適当に話を収めて電話を切るゆがみ。心配する後輩達をフォローするのであった。
心当たりはあった。伯母のなごみだ。伯母のなごみには会社の商品をプレゼントした。そこから会社を調べることができる。更に、なごみは以前『足りないものがあったら送るから住所を教えてほしい』とゆがみに聞いてきたのだ。なごみに心を許していたゆがみは『親には内緒』と言って、なごみに住所を教えてしまったのだ。
夜、帰宅後、電話でなごみを問い詰めるゆがみ。『言わないでと言ったのに』と怒るゆがみになごみは言う。
「仕方ないでしょ、ひがみはゆがみのお母さんで、あんたの親なんだから…優しくしてあげなさい。(中略)お母さんがかわいそうでしょ?あんた親不孝者よ」
「親孝行してあげなきゃ」
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 94/187
ゆがみが親からどの様な扱いを受けてきたか、近くで見てきたはずの伯母なごみから、こう言われてショックを受けるゆがみ。
『大好きだったのに、信頼してたのに…』その夜はショックで寝つけなかった。もう、伯母なごみのことを信用出来なかった。また、なごみから言われた『親不孝者』『親孝行してあげなきゃ』という言葉はゆがみに罪悪感を植え付けた。
その後、ゆがみは仕事で繁忙期を迎えているにも関わらず、親からの電話は続く。急に『娘を心配する良い母』を演じるようになった母ひがみは頻繁に荷物を送り付けるようになったのだ。しかし、母が送るものはゆがみが望んでいない上、普通便で足の早い生物ばかりを送るため腐っていることも珍しくない。精神的に参っていくゆがみ。しかし、『親不孝者』という言葉が脳裏に浮かび、以前のように反抗することが出来なかった。そして追い詰められたゆがみは、仕事にやりがいを見出だしていたものの、親のせいで職場に迷惑が掛かることを恐れて退職。その後、両親の連絡に怯えながら仕事を転々とする時期が続くのであった。
私生活も仕事も上手くいかなくなってしまったゆがみ。ストレスから子どもの頃の様に過食に走ってしまい、一気に肥満体に。そして自己嫌悪に陥るという負のスパイラルに嵌ってしまう。
しかし、そんなゆがみを周囲の人間が支えてる。ネット上の知人、青猫は、ゆがみの『毒親』についての相談を偏見を持つことなく、否定せずに聞いてくれ、ゆがみに対して『絵の才能がある』等褒めて、ゆがみの特性や可能性を示唆してくれた。また、年上の元同僚、恵もゆがみの家庭環境を良く理解して悩みを聞いてくれた。やりたいことが出来て、進学を考える様になったゆがみを、社会人になってから猛勉強し数年で英語を身に着けた恵は暖かく応援する。
「今まで親のことで余計なパワーを使って来たけど、これからは自分のために使うんだ」
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 97187
親の嫌がらせで挫折したゆがみであったが、こういった周囲の励ましを受けて、再び立ち上がることを決意するのであった。
以下、感想と考察
被害者を再生産する環境や社会に言及
愛らしくデフォルメされたキャラクターで淡々と描かれているが、作者の経験してきた出来事は中々衝撃的だ。『毒親・毒家族』という言葉を使っているが、『暴言・暴力』『心理的虐待』『兄妹差別』『兄からの暴力』『機能不全家族』…思いつく言葉を挙げると、キリがない。特に、そこに『宗教』というワードが加わると、また、もう。日本ではオウム事件以降一般社会でやや過剰に宗教が敬遠されるきらいがあるが、それにしても毒田家の宗教への傾倒っぷりは異様で、周囲からは相当浮いていたのではないかと容易に想像ができる。具体的になんの宗教かは述べていないけれどもおおよそ予測はつくと言うか…。
それに加えて『ゆがみちゃんは一体どこの地域の話なんだ?』と特定したくなるくらいに、家庭環境のみならず周囲の環境(特に小学校)も劣悪だ。歪まないで成長する方が難しいのではないだろうか。
しかし、本作の見どころは、作者自身の強烈な体験談だけではなく、「理不尽がまかりとおる環境を社会全体で維持しようとしている」という作者の主張、考え方だろう。 正直、この体験談だけでもある程度の話題性は掻っ攫えると思うのだが、作者である原わた氏は、自身の体験を冷静に見返していて、個人的な恨み節に終始せず、『毒親やいじめっ子が生まれ、連鎖する理由』『日本の家族法の問題』『親孝行を強いる社会』『毒の判別方法』等についてマンガ内、あるいはコラムでしっかりと考察をしており、これが非常に分かりやすいのだ。そこが非常に高く評価できるのである。
pixiv版と書籍版の違い
本作品は途中(マーちゃんの話)までpixivで公開されている。この記事で紹介している内容は書籍版に準拠しているが、pixiv版と書籍版では少し内容が異なる。というよりは、pixiv版の方がより詳細なエピソードが描かれている。しかし、小学生の頃の話までしか見れないので、『pixiv版を見て、気に入ったら書籍版で続きを見る』ことをお勧めしたい。
なお、有料サイトでも続きを見ることができ、こちらの方がより、詳細なエピソードが載っているが、書籍版でもストーリーはしっかりしており、作者の主張もちゃんと織り込まれているので、書籍版でも十分楽しむことが出来る。
前半では毒家族から逃げきれなかったゆがみちゃん。後半では…
前半では家から脱出できたものの、毒家族からは逃げきれなかったゆがみちゃん。そのお陰で仕事を辞めざる負えない等の災難に遭い続ける。しかし、周囲の励ましに再び立ち上がることを決意した。
後半では、なんと恋愛、結婚を目指し、本当に家族と絶縁することを目指す。
後半の記事を追って書いていきたい。
後編の記事はこちら→【漫画】ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ(後編)【ネタバレ・各話あらすじ】恋愛と結婚…ゆがみちゃんは毒家族と縁を切れるか!?