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幼少期からカルト宗教を信奉する家族から、暴言・暴力・兄妹差別等を受けて育ったゆがみちゃん、こと毒田ゆがみ。家族たちに悩まされ続け、一度は自殺を真剣に考えたものの思いとどまり、高校卒業後、就職し、家族の元から逃げ出すことに成功する。その後、家族から離れ充実した生活を送っていたものの、親戚の裏切りにより家族に居場所がバレ、仕事を辞めざるをえなくなる等精神的に追い詰められてしまう。しかし、失意のどん底にいたゆがみを友人達が暖かく見守り支える。励ましを受けたゆがみは決意を新たに再び歩き出すのであった。
前編の記事はこちら→【漫画】ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ(前編)【ネタバレ・各話あらすじ】宗教・差別・虐待…毒家族から逃げ出すことを目指して
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Contents
『ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ』の登場人物・キャラクター
ゆがみ(毒田ゆがみ)
本作品の主人公。物心ついたときから宗教一家の中で暴言、暴力、差別を受けて育つ。そのストレスのため、幼少期から過食嘔吐・理由もなく涙が出るといった症状に悩まされていた。家族が入信している宗教を一切信じていない。真面目で勉学・美術が得意だが、内向的な性格。pixiv版では成績の良さを理由に内心周囲を見下していた様子も描写されている。
中学生時代からインターネットにはまり、そこで友人を得て居場所を見出すも、高校生時代に友人の1人であったカズオから家族の宗教を理由に一方的に絶交されたことで一度は自殺を考えるも、別のネット上の友人RYOの言葉で思いとどまる。
その後、就職して家を出て、更に家族から逃れるため関西に移住する。そこで充実した日々を送っていたものの、実の親以上に慕っていた伯母なごみによって家族に居場所をバラされ、仕事を辞めざるをえなくなる。しかし、周囲に支えられて立ち直る。その直後、いやしと出会い結婚する。
母 (毒田ひがみ)
だらしがなく、ヘビースモーカーかつ酒乱でアルコール依存症。長男である兄を溺愛する一方で、ゆがみに対しては徹底的に人格を否定する発言を繰り返し、兄の同級生宅にはしないのに、ゆがみの同級生の家に宗教の勧誘を繰り返す等の嫌がらせをする。
ゆがみが家を出た後、夫であるいかりとの不仲、溺愛していた息子(ゆがみの兄)が離れていったことから、ゆがみに遠回しに『老後の面倒を見ること』を要求し、擦り寄ってくる。ゆがみの居場所を掴んだのちは『良い母親』として大量の宅配便(ゆがみが欲していないもの、不要なもの、足の速い生もの、腐敗したもの)を大量に送り付けるようになり、ゆがみを精神的に追い詰めていった。
性的欲求と不満が強く、pixiv版では小学1年生のゆがみに不必要かつ不適当な性知識を刷り込み、恐怖させる。また、寝ているゆがみの部屋に下着姿で興奮しながらやってくる等の奇行が描かれている。
父 (毒田いかり)
基本的に仕事が忙しく、不在がち。外では社交的だが、妻であるひがみとの会話は少なく、家では自分の世界に没頭している。普段は寡黙。しかし、突然怒りのスイッチが入り、物に当たったり、凶器を持って子どもを追い回す。捕まえると素手で殴る。
一方で子供達に金銭やものを積極的に与えるも、それは感謝の言葉を強いて経済的にコントロールしようとしているだけに過ぎない。
自身が高卒であることのコンプレックスから子どもたちには大学進学を強制する。そのため、高校卒業後に進学せず就職し、家を出たゆがみに対する怒りは凄まじく、『死ね』『殺してやる』といった罵倒の電話を繰り返す。
しかし、ゆがみから『いかり自身も親に苦しんでいたのではないか』とメールで指摘されて以降、ゆがみに連絡をすることはなくなった。
祖母 (毒田うらみ)
いかりの母。宗教に心酔していて、宗教と信者である自分が素晴らしいと心の底から信じている。嫁であるひがみを酒乱で淫乱と罵り、ゆがみに悪口を教え込む。他人の悪口が大好きで、近所の住人の行動を逐一観察している。
pixiv版ではゆがみが可愛がっていた猫を『鬼の子』と呼び、わざと車通りの多い駅前に捨て轢死させるも、その後当てつけの様にゆがみの目の前で別の猫を可愛がるようになったという鬼畜の様なエピソードが描かれている。
兄
ゆがみと異なり、家族、特に母と祖母から溺愛されて育つ。大人の前では社交的で子どもらしい愛らしい振る舞いをするが、影ではゆがみをいじめる(pixiv版で詳細あり。ライターでゆがみに火をつける真似をして追い回す)、祖母の財布からお札を抜き取る等の悪行を行う。
しかし、社交的であったものの勉学が苦手で高、校時代は学校生活に馴染めず不登校気味になる。その事で連日、父いかりから罵倒されるようになり、その鬱憤を晴らすためか、ある晩寝ているゆがみの部屋に押し入り、一方的に蹴り、踏みつけるといった暴行に及んだ。それ以降、ゆがみは兄と口を利かなくなった。
その後、大学に進学したもののギャンブルに嵌り、毒田家は彼にお小遣いとして月20万円渡すようになり家計はひっ迫した。
祖父 (毒田こまり)
存在感が無い。何事にも黙りを決め込む。pixiv版では稀に妻であるうらみに苦言を呈することもあった様子が描かれているが、そうするとうらみは数日間寝込むため、こまりは基本的に何も言わない。
伯母 なごみ
ゆがみの母、ひがみの姉。宗教の信者であるが、活動にそれほど熱心ではなく、信者ではないひとまわり年上の夫、甘じいと結婚している。流産で女の子を失った経験からか、ゆがみを可愛がり、褒めて認める等、ゆがみの精神的な拠り所になる。
しかし、後にゆがみが家を出た後、ゆがみの居場所を家族にバラし、ゆがみに『親孝行するように』と言い、家族と復縁することを求めたためゆがみを絶望させた。
なお、pixiv版ではなごみも甘じいも働くのが嫌いで最低限の収入を得たら休む、パチンコ好き等、あまり世間的には評価されないタイプの人間であった様子が描かれる。
甘じい
なごみの夫。宗教の信者ではない。なごみとともに幼少期からゆがみを可愛がる。 pixiv版ではセクハラ的な言動も描かれているが、曰く『高田純次の様なおふざけ的なもの』でゆがみ自身不快感を持つことはなかった。
ゆがみが家を出た後、ゆがみの居場所を家族にバラし、 親孝行を強いる様になった妻のなごみとは異なり、『あの家族はおかしい』『ゆがみは間違っていない』『宗教を信じていなくても幸せになれる』『幸せになれ』とゆがみを励ました。
マーちゃん
ゆがみの小中の同級生。可愛くてスポーツ万能だが、情緒不安定の少女。問題行動を繰り返し、周囲を女王の様に支配し学内でイジメを行い続けた。定期的にゆがみをイジメのターゲットにする一方で、二人きりになると普通に遊ぶ等、相反する態度を見せていた。
実は不在がちで不倫している父親、ヒステリックで過干渉な母親、不良の兄…といった様にゆがみと同様に問題のある家庭に育っていた。彼女についてゆがみは、『加害者であると同時に被害者』であったと理解している。pixiv版では、同性の同級生の陰部にイタズラする等、より病んだエピソードも描かれている。
いやし (心野癒)
音楽イベントでゆがみとともに泥酔した女性を介抱する。それをきっかけにゆがみの恋人になる。明るく朗らか、穏やかな性格でゆがみを良い方向へと導く。交際当初、親のことを打ち明けたゆがみに『親は関係ない』と告げ、ゆがみを安心させた。
しかし、実際は健全な家族、子どもの意志を尊重する真っ当な両親の元に育ったこともあり、『子供を虐げる親』に対しての理解・認識が非常に甘く、想像力に欠いていたため、ゆがみとの結婚の際に、『ゆがみの親と挨拶をしたい』とゆがみの苦悩を軽視した言動を繰り返す。その結果、一度はゆがみに別れを告げられるが、その場でゆがみとゆがみの父、いかりの通話を横で聞き、ゆがみの家族の異常性を理解することが出来た。
かずお
ゆがみが高校時代にインターネットを通じて知り合った友人。ゆがみと同い年の引きこもりの少年。有名な大学への進学を決意し、ゆがみも彼と同じ大学進学を目指すようになった。しかし、ゆがみの家族が宗教信者だと知ると態度を一変させ『気持ち悪い』『死んでじまえよ』と一方的に罵倒・絶縁し、ゆがみが自殺を考えるきっかけを作る。
RYO
ゆがみが高校時代にインターネットを通じて知り合った友人。穏やかな性格でゆがみの創作物のファンを自称していた。ゆがみが自殺を決行しようとした直前に偶然ゆがみにメッセージを送ってくる。自殺する旨を告げたゆがみに『自分は死にたい人に「死ぬな」と言える立場にはないが、仲良くしていた人が自殺したら悲しい』という真摯な言葉を送り、ゆがみに自殺を思いとどまらせる。
青猫
ゆがみのインターネット上の知人。年上で色々なことに詳しい。『毒親』の相談を否定せずにゆがみと共に考えてくれる貴重な存在。親からの嫌がらせが原因で辞職し、病みかけていたゆがみを支えた。
ゆがみの特性や能力を理解して色々な可能性を示唆してくれる。
また、自身を見つめ直すようになったゆがみの話に真摯に付き合い、適切な本を勧める等する。
恵さん
年上で頼れる元同僚。『毒親』への理解がある貴重な存在。
親からの嫌がらせが原因で辞職し、病みかけていたゆがみを支えた。
社会人になってから数年で英会話を習得したバイタリティの持ち主で、彼女から刺激を受けたゆがみは前向きに新しいことを始める決意をする。
光ちゃん
ゆがみの趣味仲間。『楽しいこと』が大好きで、周りの人間を明るく楽しい気分にする。ゆがみは彼女と共に行動をすると負の感情が不思議と吸収され無くなっていく。
以下、各話ネタバレ
解放編~後の夫いやしとの出会い
暗雲と射光…ストレスフルな日々の中、出会いに恵まれるゆがみ
学びたいことを見つけたゆがみはお金を貯めるために高時給のダブルワークを始めるが多忙さから肝心の勉強が思うように進まない。また、その頃、自己肯定感の欠如から都合よく利用されるといった不健全な人間関係に振り回されもしていた。そういったストレスからゆがみは暇があれば酒を飲みながらインターネットで批判行為を繰り返すといった行動を繰り返すようになっていた。しかし、ストレスは解消されるどころか自己嫌悪で一杯になるゆがみ。そんな自分を変えたくてライブやイベントに再び積極的に出かける様になっていった。
ある日の音楽イベント。目の前にいた泥酔した女性を介抱したゆがみ。すると近くにいた男性が手伝ってくれた。それが、後に夫となる心野癒(いやし)であった。
いやしは第一印象そのままの穏やかで優しい人であった。ゆがみと会話も合い、自然と交際に発展した。しかし、今まで対人関係において自己肯定感の低さに付け込まれることが多かったゆがみ。特に男性に対しては不信感が強く、かつては一生独身を心に誓っていたほどであった。いやしに対しても『どうせ浮気でもするのだろう』と疑心暗鬼になっていたものの、そんな心配と裏腹に交際は穏やかに順調に進んでいった。
それだけでなく、ゆがみはいやしとの交際の中で『人の長所に目を向けられるようになる』等良い方向に変化していき、再び友人も増えていった。大好きなバンドが出来る等、毎日が楽しくなるゆがみ。『楽しいこと』をすると自然と周囲に集まる人もいい人が増える。趣味の仲間を得たり、描いたイラストを褒めてもらえたり、また旅行や飲み歩きをまとめたブログが好評になったりと良いことが続いていく。当初は進学費用を貯めるためと割り切って始めた職場でも活躍の機会に恵まれた。ゆがみの心は元気を取り戻し、豊かになっていったのだった。
幸せすぎて不安になるゆがみ。明日仕事から帰ったら親が待ち伏せしていて包丁で刺し殺されるのではないか…等と考えてしまったりもする。相変わらず両親からの嫌がらせの電話やメールは続いていたのだ。
しかし、それでも平穏で満ち足りた日々はゆがみにとってなによりも愛おしいものであった。
嬉しいなぁ…私、生きてて良かった。死ななくて良かった
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 104/187
かつて本気で自殺を考えていたゆがみが心の底からそう思えるほどに。
転機編~いやしとの結婚を夢見るも、周囲の『毒親』への理解の無さに壁を感じるゆがみ
会話と対話…転機を迎えたゆがみ、結婚を意識するが…
いやしとの交際を始めて数年、仕事も私生活も順調だったゆがみだが、転機を迎えることになる。まず、職場が不況のあおりを受けて部署が解散となった。残留の話もあったものの、『何か新しいことをしたい』と考えていたゆがみは退職を決意した。しばらくは学校や講座に通い勉強をすることにしたのだ。
また、同じ時期ゆがみの幼馴染が結婚する。結婚式に参加したゆがみは自分でも驚く程感動してしまい、突如結婚願望が沸き上がって来たのであった。
今がベストタイミング…そう考えたゆがみはいやしに結婚し、新居で一緒に住むことを提案した。いやしもそれに同意し、ゆがみは新居や退職後に通う学校をすぐに決めた。
しかし、部屋を共に内覧した帰り、ルンルン気分のゆがみにいやしが思いもよらない言葉を投げかけたのだ。
「うちの親に言ったら「まずゆがみさんの親に言うのが筋やろ」って言われたんやわ」
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 111/187
「やから俺、挨拶行くし、親に連絡してくれへん?」
いやしの言葉に蒼ざめるゆがみ。ゆがみはいやしと交際を始めた当初から、彼に自身の家族のことを伝えていた。過去の体験から、後々明らかになってもめるのが嫌であったし、それが理由で振られるなら早々に別れておきたかったからだ。しかし、当時そんなゆがみにいやしは『ゆがみちゃんのことが好きだから
親は関係ない』…そう言ってくれていたのだ。
それなのに、何故今になってそんなことを言うのか。憤慨しながら尋ねるゆがみにいやしは言う。
「ゆがみちゃん結婚やで?結婚するんやから当然やん?本人同士の問題やないし親や家族も関係する。いい加減大人になって親と話し合わんといかんよ」
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 112/187
いやしの言葉に半ばパニックに陥るゆがみ。矢継ぎ早に『話が通じる親ではないこと』『友人や職場にも宗教の布教や嫌がらせの電話を掛けてくること』『変なものを送り付けてくること』『娘に対して殺す等の脅しを平然としてくる親であること』を再度いやしに伝える。そもそも宗教信者ではない、いやしと結婚するだなんて知ったら、家族は何をしでかすか分からないのだ。
しかし、いやしは『やめろと言えば大丈夫だろう』『結婚を親に伝えないなんてありえない』と、ゆがみの恐怖、不安を『心配しすぎ』というだけで取り合おうとはしなかった。
ゆがみはそこでやっと気付いたのであった。いやしはごく普通の家庭で育った。彼の親は子供の意志を尊重することが出来るまっとうな親で、いやしは親を信頼していて感謝の念を抱いている。確固たる親子の絆を持っていて、それを信じて疑わない。それゆえ、いやしにとって『子供を虐げる親』というものは身近な存在ではなく、その異常さや危険性を全く理解できていないのだ。
愚直と転換…いやしの理解の無さに別れを切り出したゆがみ、しかし、あることを閃いて…
その後も、『ゆがみの親への結婚報告』をめぐって、ゆがみといやしは何度も対話を重ねた。しかし、『結婚を知ったら親が何をしでかすか分からない』と必死に訴えるゆがみに対して、いやしは『難しく考えすぎ。会うのが嫌なら手紙を出せばよい』と言うなど、全くゆがみの恐怖や不安を理解する様子はなく、話は完全に平行線を辿っていた。
いやしの態度に徐々に不信感を募らせていくゆがみ。おおらかで寛容で優しい…いやしの性格をそう評価していたが、裏を返せばそれは、物事をあまり深く考えられないとも言える。ゆがみはいやしの想像力の無さを歯がゆく思う。インターネット上の友人、青猫に不安な気持ちを損談するものの、情緒不安定になっていってしまう。
もし結婚して、子どもを産んでも、ある日怒り狂った親が押しかけてきて、いやしも子どもも刺し殺されてしまう…そんなネガティブな妄想を繰り返してしまうゆがみ。衝動的な希死願望すら芽生えてくる。思考がネガティブな底にたどり着き、ゆがみは結論を出した。
そもそも、結婚願望を持ったことが間違いだったのだと。ゆがみはいやしと別れる決意をする。
喫茶店でいやしに別れを告げたゆがみ。『今までありがとう』『すっごく楽しかった』『幸せになってね』…幼少期から家族、周囲から見下され人格を無視されることが当たり前だったゆがみ。しかし、いやしは一人の人間として対等に尊重してくれた。そんないやしには幸せになってほしかったのだ。
しかし、いやしは納得しなかった。『別れるなんてナンセンス』とゆがみを引き留める一方で、やはりゆがみの親の危険性を理解する様子はない。またしても平行線の言い争いに発展しかけたとき、ゆがみはあることを思いついた。
そうか!話の通じなさを体験してもらおう
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 118/187
閃いたゆがみ。『結婚することを伝えればいいんでしょ?ちょっとメールをしてみる。』とスマホを取り出し、父、いかりに『結婚したい人がいるが相手が宗教信者ではないこと。今後自分も相手も宗教をする気はない』といった内容のメールを送信した。すると、ただちに返信が来た。内容はゆがみが期待した通りに過激なもので『お前は逃げられない』『地獄に落ちればいい』といった呪詛に塗れたものだった。
そして、追い打ちの様に電話もかかって来た。いやしの横であえて電話に出たゆがみ。すると、出るや否や始まる父の大声での罵詈雑言。ヒステリックに『相手に会わせろ、相手を言え!』『神を信じるのは当然!』『絶対に許さない!』『お前は死ぬ!不幸になって死ぬ!』と一方的に叫び続ける父。
程よいところでゆがみは電話を切った。横で聞いていたいやしは震えあがっていた。
「うん…ごめん…何か…何やろな…想像と違ってたわ。」
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 120/187
「こんなにひどいとは思ってなかったわ、ごめんな…俺の親にも言うし味方するから。とりあえず来週実家に来てもらってええかな?」
機転を利かせて、一瞬でいやしの理解を得たゆがみ。いやしの両親との話し合いの前に良い展開へと方向転換できたのであった。
妥協と譲歩…いやしの両親にも納得してもらい、家族との絶縁を目指し動き始めるも気苦労が絶えない日々が続く…そんな中でエールを送って来た意外な人物は…
いやしの理解を得たゆがみは、今度はいやしの両親と話し合うことになった。いやしはゆがみの味方をし、『ゆがみの両親に挨拶をするつもりはない』と告げ数時間話し合うも、いやしの父親は納得はしてくれない。しかし、ゆがみも引く気は一切なかった。いやしとその両親を大切に思うからこそ、なんとしても自分の家族から守りたいのだ。ここで妥協してしまったら彼らを危険な目に合わせることになりかねない。ゆがみは自分が防波堤であると理解していた。
しかし、ゆがみはいやしの両親の言動から、自分が二人からどう見えているのか気付いた。
もしかして…お義父さんは…私が親と些細なことでケンカしたと思ってるのかな、反抗期の子どもみたいに。
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 123/187
私がいつまでも子どもで親に甘えてると思われてる?ただのわがままだと誤解されてる?
本当にそう思われていたかどうかは分からないが、悪い方向に勘ぐってしまったゆがみは虚無感に襲われて泣き出してしまった。
自分だって感謝できる親なら感謝したい。しかし、自分が親から受けた扱いは酷く、そういったことができるレベルを超えている。だから、家を出て一人で暮らしてきた…そう涙ながらに語り始めたゆがみ。内心『やはり結婚は諦めた方がお互いのためなのか』と思いながら。
すると、『ええんやない?』と、それまで黙っていたいやしの母が突然口を開いた。
「ゆがみさんが嫌なんやったらもうええんやない?一応メールもしてくれてるし、これ以上はええやん?本人たちが納得してくれてるんやし…」
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 124/187
結局その言葉に、いやしの父も譲歩する形で結婚を認めてくれたのであった。
いやしの両親にも結婚を認めてもらえた二人。いやしの両親の心の広さに感謝しているゆがみに、いやしが『分籍』というものをした方が良いのでは?と提案する。自分で色々と調べていたといういやし。『分籍』をした後に『転籍』を繰り返して結婚をすれば、結婚後の戸籍がわかりにくくなるという。
法律関係詳しい友人に尋ねてみたゆがみ。『分籍をした後に、何回か本籍を転籍してから結婚すると、結婚後の本籍がバレにくくなる』という(ただし、一個一個地道に辿って行かれたり、相続等で代理人に請求された場合はばれてしまうが、何もしないよりマシ)。
また、友人からは『住民票に閲覧制限を掛けること』を勧められる。閲覧制限を掛けておけば本人以外は住民票を取得できなくなる。逆を言えば、閲覧制限を掛けておかないと、現在の住所がバレている今では、仮に転居しても、家族に住民票を直接請求されてしまえば、転居後の新居まで特定されてしまうのだという。
友人のアドバイスに感謝するゆがみ。早速翌日には本籍を実家から関西へ分籍した。そして、その後は出来る限り余暇を使って何度も遠方まで転籍をしに行き、引っ越し前に住民票の閲覧制限の申請をして、それからやっと結婚したのであった。
しかし、一連の手続きに疲れ切ってしまったゆがみ。一般的おめでたいはずの結婚なのに、そんな気持ちにもなれない。こういった役所の手続きが毒親持ちにとって非常にハードルが高いと実感するのであった。その上、この転籍の手続きはゆがみ一人で行い、いやしは他人事。自分自身の問題だから仕方がないと思う一方で、どこか不満に感じてしまうのであった。
そして、更に追い打ちをかけたのが過熱する親からの罵倒の電話であった。ストーカーの様に罵倒したかと思えば、『愛している』『好きだ』と気持ち悪い言動を繰り返す父に『もう関わらないで』と告げるも一向に電話やメールは止まらない。加えて母からも同情を誘うようなメールが届くようになる。いやしに相談しても、『無視したら良い、気にしすぎ』『忙しい、また後にしてくれ』等あしらわれてしまい、ないがしろにされているとゆがみは感じる。
そんな中、ゆがみの元に伯母、なごみから電話がかかってくる。かつては実の親以上に慕っていたなごみ。しかし、彼女には以前親に職場や居場所をバラされて、結果仕事を辞めざるを得なくなり、一時期ゆがみは心を病んだことがあった(解放編~前進と後退・阻害と恩恵のエピソード… 【漫画】ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ(前編)【ネタバレ・各話あらすじ】宗教・差別・虐待…毒家族から逃げ出すことを目指して )。
ゆがみの近況や居場所を探るような質問を繰り返すなごみ。ゆがみも前回のことがあるので『お母さんに頼まれたのか?』と冷淡に返し、それらの質問には答えない。しかし、そんなゆがみになごみは『あんな母親でもゆがみの母』『育ててもらった恩も忘れて…』とまたしても『親不孝者攻撃』を繰り広げる。苛立つゆがみ。すると電話の向こうの相手が突然変わった。
『ゆがみ?俺だよ』
なごみの夫、甘じいであった。かつて伯母なごみとともに、ゆがみを娘の様に可愛がってくれた甘じい。泣きそうになっているゆがみに、意外にも『自分も、なごみやあの家の方がおかしいと思う』と告げる。
「ゆがみは間違ってない。おかしいのはおまえのお母さんだ」
「俺もあの宗教信じないけど、バチも当たってないし元気だろ」
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 130/187
妻であるなごみとは違った立場を取る甘じい。彼は血の繋がりを理由に、ゆがみに親孝行を強いる発言はしなかった。
「結婚するなら幸せになれよーとか言わなくても、おまえは小さい頃から根性があるからたぶん大丈夫だろうけど」
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 130/187
淡々と応援する甘じいの言葉に感謝するゆがみ。諦めてはいけない…そう思えた。また、ゆがみは、夫であるいやしはゆがみをないがしろにしているのではなく、甘じいの様に個人的な問題に踏み込まず一線引くタイプの人間であるのだと理解し、親の嫌がらせの問題は自分で何とかしようと思うのであった。
類似と相似…ストレスからアルコール依存に陥るゆがみ。そんな中、自身を見直すきっかけとなる『母がしんどい』に出会う
結婚して『毒田ゆがみ』から『心野ゆがみ』への名前が変わったゆがみ。念願だったデザイン関係の仕事に就いた。就職した会社はパンフレットや広告、ノベルティを作る仕事がメインの、還暦過ぎた社長と還暦間際の営業社員しかいない小さな所だった。
若い層を狙った新事業を始めるべく、ゆがみはこの会社に雇われたのだ。
しかし、社長から若いゆがみの意見は無視され、ダメ出しが繰り返される。かといって改善案や明確なビジョンが提示されるわけではない。また、社長の相棒である営業社員はセクハラめいた不愉快な言動を繰り返すため、ゆがみのストレスはどんどん溜まっていった。
また、同時に父母からは相変わらず嫌がらせの様なメールが続く。『結婚すると自分のように不幸になるから目を覚ませ』と述べる母、脅して居場所を吐かせようとする父。
たまらなくなったゆがみは夫いやしに愚痴を吐くも、いやしは仕事の話にも親の話にも嫌悪感を示し、『仕方ないこと』『疲れているから考えたくない』と拒絶されてしまう。
また、孤独感を埋めるために友人達と遊ぼうとしても『新婚さん』扱いされ、周囲から子どもの予定ばかり尋ねられ、不快な思いをし、ますます孤独感を深めるのであった。
その結果、ゆがみは一人、酒浸りの毎日を送るようになってしまった。
酒に依存する様になったゆがみは酔うとハメを外しすぎて衝動的な奇行(踊る歌う等)に走り、過激な暴言悪口を繰り返すようになる。酔いが冷めると恥と後悔で一杯になるのだが、その反動でいやしに八つ当たりするようになってしまう。
その状態が続いたことから、夫いやしはゆがみに心療内科への通院を進める。
しかし、親から散々『頭がおかしい』と罵られて育ったゆがみは、いやしの提案に反感を持ち激昂する。もしも親だけでなく病院からまで『頭がおかしい』と言われてしまったら…そう考えると怖くて仕方がなかったためだ。
また、昔から何でもネットで調べる癖がついていたゆがみ。以前自分や自分の家族について調べた時期があり、自身が『AC(アダルトチルドレン)』であると自己診断したものの、同時にネットで『ACに治療方法はない』と書かれているのを見てショックを受けたことがあるのだ。
そのため、ゆがみは『精神的な不安を解消するには親から逃げる以外に無い』と考えて、自身の不安定さから目をそらし続けてきたのだ。
しかし、子どもを持つことを検討すると同時に恐れるようになってきたゆがみ。自身の状態を見つめ直してみる。
今現在の不安定な精神状態、アルコール依存に陥り、攻撃的な悪口を言い、夫に八つ当たりをする自分。こんな状態ではとても子どもを育てられない、自信が持てない。だからこそ、友人達から子どものことを尋ねられると不快に感じるのだ。そして、ゆがみは気付く。
この状態はまるで…大嫌いなあの親たちと同じじゃないか
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 136/187
アルコール依存症で常に何かしらの不満を溜めていた母。すぐに激昂し怒鳴り散らす攻撃的な父。他人の粗探し、悪口ばかりの祖母。
あんな風になりたくない…そう人一倍思って生きてきたはずだった。それなのにいつの間にか憎んできたはずの家族そっくりになっている。その事に気付き愕然とするゆがみに追い討ちを掛けるようなメールが父から届く。
父、いかりはゆがみが婚前に住んでいたマンションに押し掛けたのだ。しかし、ゆがみは黙って引っ越した後。『どこに引っ越した?』『親から逃げられると思うなよ』…そんな内容のメールに戦慄しながら、絶対にこんな親になりたくないと心の底から思うゆがみ。しかし、どうすれば今の自分を変えられるのか全然分からないのであった。
そんなある日、ゆがみは書店で一冊の漫画を見つける。それは田房永子の『母がしんどい』であった。『毒親本だろうか?』と思いつつ手に取ったゆがみ。ゆがみは宗教を思い出してしまうため、精神科・心療科・自己啓発関係の本に対して抵抗感を持っていた。しかし、この『母がしんどい』は漫画であることに加えて、可愛らしい絵柄だったため、試しに読んでみよう…そう思えたのであった。
早速『母がしんどい』を読んだゆがみは強い衝撃を受ける。共感できることがあまりに多かったのだ。読むのがしんどい…そう思えるほどに。『なんでこんなに同じなんだろう』…そう呟きながら読み進めるゆがみは涙があふれてきた。
そして、しんどい思いをしながらも無事『母がしんどい』を読み終えたゆがみは、心の歪みが消えていくような不思議な感覚を味わったのである。
もしかしてこれって…私がずっと苦しかったのは…
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 140/187
実家を飛び出して10年。ゆがみに最大の転機が訪れたのであった。
→【マンガ】母がしんどい【感想・ネタバレ】『毒親』ブームの火付け役、田房永子が描く毒親持ちのバイブル
内なる自分…
『母がしんどい』の最終ページを読んでゆがみは悟ったのだ。自己肯定感が低いゆがみは、『自分の中に自分がいない』…自分に常に自身が無いため、身近な人に依存し、代わりに肯定してもらおうと必死になってしまうのだと。そして、自分の感情を出すことが出来ず周囲や世間の声に左右されてしまうのだ。
ゆがみは過去の自分を思い返していく。昔から『辛い』と感じることがあってもその感情は家族からことごとく否定されてきた。『こんなことで泣くのはおかしい』『恥ずかしいと思う方が恥ずかしい』と言った具合に。結果、ゆがみは『悲しいとか苦しいとか恥ずかしいと思うのはいけないこと』と思うようになっていった。そしてその抑圧の反動で過食嘔吐や無意識に涙が出るといった症状が出ていたのだ。
また、大人になって周囲に家族のことを打ち明けても『育ててくれた親に対して恩知らず』『いつまでも親のせいにするな、大人になれ』『どこの家も似たようなものだ』という理解の無い一般論を浴びせられることが多く、ゆがみは自然と『過去の自分』にフタをするようになった。親のことを打ち明けるのは慎重に見極めた相手のみだ。そして、感情表現自体も苦手で、何か辛いことがあっても淡々と語る癖がついてしまっているため、周囲からは大したことがないと思われてしまうのだった。
私は私なんだ。私が過去に感じた悲しみや怒りや憎しみは素直に肯定していいんだ。
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 148/187
自分の感情を否定しなくてもいいんだ。
誰に何を言われてもすべて受け入れる必要はない。理不尽なことならなおさら
そう考えた瞬間、急に視界が開けたような気がしたゆがみ。気分が軽くなったのであった。そして、その日を境に情緒不安定になることは減り、穏やかになっていく。不安定になりそうになっても自分の感情をちゃんと意識できるので自制も出来るようになり、夫いやしへの八つ当たりも減った。
ゆがみは今までフタをしてきた過去に向き合うことを決めた。過去のことを思いつく限りメモ帳に羅列していく。
兄とあからさまに差別されて辛かった幼少期。何を頑張っても否定され貶され苦しんだ中学生時代。宗教のことで友人から絶縁されて自殺まで考えた高校生時代。家から脱出したものの追いかけられて苦労した20代…。その時その時の自分と丁寧に向き合っていく。
小さいころからこないだまでの私たち。感情を否定ばかりしてほんとうにごめんね
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 150/187
そして今までの体験を文章化したものを読み返して愕然とする。感情にフタをしてきた頃は、自分の体験について大したことはないと思っていたのだが、文章になったそれを見ると自分がかなりひどい体験をしてきたと気づいたのだ。
もしかして…こんな状況から自力で逃げ出して今こうやって生きてるのって実はすごいのでは…?(中略)この体験談ってもしかして誰かの役に立つんじゃないかな?私が『母がしんどい』を読んで救われたみたいに…
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 151/187
ゆがみは自身の体験を漫画にすることを決意するのであった。
完璧と普通の罠…完璧主義を捨てて自信をつける
漫画を描くにあたり自己分析を始めたゆがみ。その中で自身と母が『完璧主義』であることに気付く。あらかじめ期待していたことをその通りに行わないと全てが台無しになった様な失望や苦痛を感じてしまう。特に母、ひがみはゆがみに完璧であることを求めており、完璧であることが当たり前なので期待通りの行動をしても褒めはしない。成績順位が1位ではなく2位であれば激怒するなど努力自体全てなかったものとみなす…といった傾向があった。そしてゆがみも、予め『1時間ウォーキングする』と決めていても、結局1時間確保出来なくなると、そもそもウォーキング自体をやる気をなくしてしまう、『片づけをする』と決めたら部屋ごと全てきれいに片づけなくては気がすまなくなり、結果、達成できず自己嫌悪に陥り掃除自体が苦手になってしまっている。
完璧にすることを目的にするのではなくちょっとずつ物事を進めていこう…そう心に決めるゆがみ。その代わりに小さな目標を立てて、達成感を得ることにした。その結果、小さな目標を達成することで少しずつ自身をつけることが出来たのであった。
さらに過去に受けた評価を振り返り、ゆがみは自身の多面性を認識できるようになった。そもそも人にはそれぞれ良いところと悪いところがあり、不完全だから魅力があるのだということを改めて実感したのだ。
他者との境界線
そして、ゆがみは自身が『他者と比べられると情緒不安定になる』ということに気が付く。特に結婚後は他所の夫婦と比較されることが増えてストレスを感じることが増えていた。更に人の不機嫌にも敏感で、相手が不機嫌なのは自分のせいだと思い込み、機嫌を取る癖がついていた。
そのため、夫のいやしが不機嫌だと『自分のせいか』と不安でいっぱいになり、『疲れているだけだから放っておいて欲しい』といういやしに付いて回り、逆にゆがみ自身が機嫌が悪いといやしが関係なくても巻き込もうとする傾向があった。
自身が人の感情や意見に必要以上に引っ張られ、空気を読みすぎて自分を押し込める癖がある。だからこそ不安になる…そのことに気付いたゆがみ。この考察を友人の青猫に話すと心理学の本を勧められた。早速図書館で心理学の入門書を読んだゆがみは人には不安が生じた際にストレスから自身を守るための『防衛機制』というものがあることを知る。抑圧、同一視、投影…防衛機制には様々なものがあるが、基本的に『昇華』以外は負の方向に繋がりやすいことを学ぶゆがみ。自身に八つ当たりをしたり、圧力を掛けてきた人々も皆、なんらかのストレスを抱えた結果、防衛機制が働いてそのような行為に及んできたのはないかと考えるようになった。そしてゆがみ自身はストレスを溜めるとアルコール依存になっていたが、それは『他虐』行為の代わりに『自虐』行為をしているだけで同じことなのだ。
心理学を勉強したゆがみは、他人にストレスを押し付けたり、押し付けられたりしないためには『自分と他人の境界線』が非常に大切なものだと理解する。
思い返せばゆがみは、いやしが良く言う『自分は自分、人は人』という言葉の意味がよく分かっていなかった。しかし、やっと分かるようになったのだ。
自分は自分…人は人…私の舵は自分で取る。別の誰かに支配やコントロールはされんぞ
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 164/187
ゆがみは自分を尊重するようになったのだ。
常識という悪循環…親孝行を強いる社会に疑問を持つゆがみ、自ら父親にあるメールを送ると…
『自分と他人の境界線』これを意識できるようになったゆがみは、職場の問題点も見えてきた。自分からは何もせず、察することを求める社長と、自分と他人の区別が付かずに私生活にまで口出しする営業社員…これ以上何も得られるものはないと見切りをつけて、転職先を探し始める。そして、嫌われることを恐れて受動的に続けてきた交友関係も整理した。
人のイライラを吸収するサンドバックにはならない。自然体を受け入れる人と建設的な関係を築こう
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 165/187
そう決意した結果、人付き合いは最小限になったものの非常に快適になったゆがみ。『みんなと仲良くすべき』という固定観念にとらわれていたものの、本来は一人が好きだった自分を取り戻したのだ。そしてあれだけ不快だった親からのメールにも心が動じることはなくなったのであった。
自身と親との間には①客観的視野があるか②適切に内省できるか③自己尊重しているか…この3点において違いがあると考えるゆがみ。自分の家族にはこの3つが徹底的に欠けていたと考察する。
そして、それは『常識という先入観』が原因であったと結論付けた。具体的には『親=正しい』『子は親に感謝すべき』という常識、先入観だ。
ゆがみ自身もこの社会の『親=正しい』『子は親に感謝すべき』という常識や風潮に苦しめられてきた。そして、もしかしたらゆがみの親、いかりもひがみもそれに苦しめられ、自身の親達への憎しみを溜めて、それを子であるゆがみにぶつけていたのではないかと思い当たる。
ゆがみは試しに父、いかりに自らメールを送ってみた。
お父さんは私に「親からは逃げられない」とよく言っていたけど、あれはおばあちゃんから逃げるなと自分自身に言い聞かせていたのでは?
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 170/187
本当は自分が親であるおばあちゃんから逃げたかったんじゃ?
おばあちゃんのことが本当に好きですか?心から尊敬してますか?
すると、父からは
ありがとう大丈夫です。体に気をつけて頑張って下さい。父より
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 170/187
という返信が来たきり、それ以降メールが全く来なくなったのであった。
図星だったのかな…と思うゆがみ。父は親に持っていた反発心を親を敬えという常識、世間の呪縛によって抑え込まれ苦しんでいた。母、ひがみも自身の親に恨みを持っていたが、それを解消できないまま自身もまた親になってしまい苦しんでいたのかもしてない…。自分自身にした行為を許す気にはなれないものの、そう両親のことを冷静に考えられるようになったゆがみ。自分はこの連鎖を断ち切りたいと強く思うのであった。
年齢・性別・立場に関係なく尊重し合える社会をつくりたい(中略)
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 171/187
そのためにまずできることから始めたい。どうしたら悪循環を断ち切れるだろう、私に向いているのはどんな方法だろう
私ができること~この作品公開にこめられた、作者の想い
ゆがみは自身の体験談をネット上で公開し始めた。批判を覚悟していたものの、予想以上に好意的な反応が多かった。思っていた以上に多くの人が家族関係で悩んでいて、そして声を上げられるようになったのだと実感するゆがみ。同時に漫画を描くことで自身の負の感情も『昇華』していった。
昔は人生は一方通行、ひたすら前を向いて進むものだと考えていた。しかし、過去の自分や感情にきちんと向き合わないといずれ行き詰ってしまうとゆがみは気付いたのだ。『過去の感情に向き合うこと』『現在の自分と向き合うこと』『未来の可能性を考えること』それらすべてが必要な要素なのだと考えるようになった。
過去と今を受け入れて、主体的に楽しさを求めていけば自然に好循環ができる…自分がやりたいこと、向いていることとはこういった好循環を作ることなのかもしれないとゆがみは思う。実際に自ら楽しみながら描いた作品を見た読者からは『勇気が出た』『自分も家を出る決意が出来た』といった好意的な声が寄せられ自身の励みになっている。自身の作品が誰かのプラスのエネルギーとなり、またそこから自分がプラスのエネルギーをもらっているのだ。
好循環を作り出したところで悪循環それ自体が無くなるわけではない。悪循環を断ち切るのは難しい。しかし、それでも前に進みながら好循環をつくりたいと考えるゆがみ。自分が生きて歩いたことで、別の誰かが歩きやすくなる…そんな道がもしかしたらできているかもしれないと思いながら。
今、私ができることは…過去を教訓に今を生きること。主体的に楽しさを求めて与えて、未来のために好循環を作り出すこと。
ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ~ 原わた 180-181/187
私は「今」を生きて楽しい「未来」につなげよう。私自身のため、「子どもだった」大人たちのためにー
~終わり~
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以下、感想と考察
親孝行を強いる社会への疑問
作者である原わた氏は作中を通して親孝行を強いる社会、子は親の所有物であるといった前提で作られた法律・制度への疑問を提示している。私自身もそれには同感で以前、『母がしんどい』の記事を書いた際も『親孝行は確かに美徳ではあるが他人から強制される筋合いは全くない』と書いた。
しかし、人の体験を比較するものではないが、『母がしんどい』の毒親っぷりが言葉で説明し辛いのに対して、この『ゆがみちゃん』は『暴言』『暴力』『兄妹差別』『宗教』という、比較的分かりやすいワードが揃っている。にも関わらず、伯母のなごみを始め周囲から『親不孝者』『いつまでも親のせいにして甘えている』といった扱いをされて苦しむ…こんな具合に世間には『親孝行すべき』と強制する空気がまだまだ色濃く残っていることに驚く。
しかし、昨今様々でかつ痛ましい虐待事件等がクローズアップされていたりもする。平成が終わり、令和が始まる日本。家族観も少しずつ変わっていくことに期待したい。
→【マンガ】母がしんどい【感想・ネタバレ】『毒親』ブームの火付け役、田房永子が描く毒親持ちのバイブル
普通に育ってきた人間に『毒親』『毒家族』は理解できないのか?
作者の原わた氏は世間の毒親への理解の無さを年長者を敬う儒教文化の名残と推測している。確かに日本には儒教文化で年長者を敬えという文化が薄れて来たとはいえ、自然と残っている部分がある。
そして、それを抜きにしても健全で良好な家族関係を築いてきた人には、こういった毒親持ちの人の苦悩は中々理解しづらいのが事実だろう。人の想像力には限界があるのだ。
実は、私の友人でも、このことで悩んでいる女性がいる。
彼女はごく普通の暖かい家族に囲まれて育った。兄弟姉妹間も非常に仲が良い。
しかし、彼女の夫はそうではなかった。彼女の夫は『自分は兄弟差別を受けて育った』『ずっと家族からいじめられてきた』と言っており、それ以外多くは語らず、具体的なエピソード等は言わないと言う。そして、友人と結婚した後も、実親からの電話を無視する等、親兄弟を嫌い関わりを極力避けているという。
だが、結納や結婚式等で数回会った際に、友人は夫の家族に対して『ごくごく普通の良識的で優しそうな人達』という印象を抱いた。
そのため、友人は実の家族を厭う夫は『反抗期をこじらせている』『甘えて素直になれていないだけ』なのではないかと、口には出さないものの疑ってしまっていると言うのだ。ちょうど、本作でゆがみの夫、いやしや彼の両親がゆがみに対して感じた様に。
しかし、これは簡単に他人が判断できることではないだろう。
もしかしたら、彼女が推測するように、夫とその家族は些細なことがきっかけで関係が拗れているだけなのかもしれない。ちょっとした切っ掛けがあれば簡単に和解できてしまうものなのかもしれない。
しかし、もしかしたら義家族は外面が良いだけで、深く付き合わないと分からない、『ヤバい』ところがあるのかもしれない。夫が彼女に何も語らないのは、語りたくない、語れない、深い事情があるからかもしれない。巻き込みたくないからかもしれない。
本当の所は、この先婚姻生活を続けていくうちに分かるかもしれないし、ずっと分からないままかもしれない。しかし、一つだけ確かなことがあるとすれば、そこは夫婦とはいえ無暗に踏み込んではいけない領域だということだろう。橋渡ししようなどと考えて余計なお節介を焼くと、それはいわゆる『後ろから撃つ』行為になりかねないからだ。
毒親、毒家族云々以前に家族関係には外からは理解できない複雑さがある。それゆえ、外野が評価したり口出したりするものではないのだ。
毒親、毒家庭からの逃げ出し方のハウツー本として非常に有能
本作のゆがみちゃんは、毒親と心の距離を取るだけではなく、携帯の電話番号やメールのみの繋がりで、住所や職場や結婚相手も告げない等、ほぼ絶縁に近い状態になることに成功している。ちなみに携帯だけ繋がっているのは、完全に連絡を絶ってしまうと相手を逆上させ、逆に危険だからだという…よくストーカーに対して行われるガス抜き方法である。『分籍からの転籍』等の方法を作中で紹介しているほか、コラムでも『毒親対策 四種の神器』等有効だと思われる対策方法を述べている。
毒親から逃げ出したいと思っている人にとってはかなり便利なハウツー本になるのではないだろうか。
また、後半では作者の心理的な変化についてもかなり具体的かつ詳細に描かれているので、毒親に対して簡単に割り切れず、心にもやもやを抱えている人にとっても有益なのではないだろうか。
まとめ~愛らしい絵柄に反して、とんでもない体験談、そして理論的な内容
前編記事でも述べたが、本作『ゆがみちゃん』は愛らしい絵柄に対して、そのエピソードは中々強烈だ。しかし、作者はその強烈なエピソードで勝負しようとしているのではなく、作中の根本には『何故このような理不尽さが生まれるのか追求したい』『年齢・性別・立場に関係なく尊重し合える社会をつくりたい』といった真摯な祈りが込められている。それゆえ、内容は理論的、少し悪い言い方をすると理屈っぽいところがある。また、後半は『防衛機制』『自分と他人の境界線』等心理学的な話が中心になっているので、『心をざわつかせる過激な体験談を読みたい!!』というだけの人には、はっきり言って向かないだろう。そういう人にはpixiv版で前半だけ読むことを勧めたい。
しかし、この作品を必要とし、この作品によって救われる人は確実にいるだろう。常識にとらわれず、互いに尊重し合える社会に少しでも近づけるために…そう祈りを込められた本作は確実に誰かの心に好循環を作り出すことが出来るだろう。
前編の記事はこちら→【漫画】ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ(前編)【ネタバレ・各話あらすじ】宗教・差別・虐待…毒家族から逃げ出すことを目指して