【漫画】ダルちゃん2巻【ネタバレ・感想・考察】恋をし、創作するダルちゃん。彼女が選んだ道は…ラスト・結末を考える

ダルちゃん2巻表紙

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24歳派遣社員の丸山成美、ことダルちゃん。彼女の正体はダルダル星人なのだが、必死に周囲に擬態し、普通の社会人として周囲の顔色を伺いながら生活をしていた。
ある日、会社の飲み会で男性社員スギタに絡まれ、侮辱されたものの笑顔でそれを受け流していたダルちゃん。すると女性先輩社員サトウからそのことを咎められる。
当初はダルちゃんはサトウに反発したものの、後に彼女の言う『本当の自分の気持ちを知ることの大切さ』を理解し、和解して友人となった。そして彼女から借りた一冊の詩集をきっかけに、自分でも『書きたい』と思う様になっていった。

そして、出向先から戻ってきた男性社員ヒロセと出会ったダルちゃん。人をカテゴリー分けすることを嫌い、多様性を認める発言をするヒロセに惹かれたダルちゃんは、ヒロセの仕事を徹夜で手伝った後に彼の家まで着いて行ってしまう。そしてそこで転寝をして過去の悲しい記憶を思い出し、涙を流して擬態を解いた状態の姿をヒロセに見られてしまうのであった…

1巻の記事はこちら→【漫画】ダルちゃん1巻【ネタバレ・感想・考察】はるな檸檬が描く『女性の生きづらさ』とは?

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Contents

『ダルちゃん』の登場人物・キャラクター【Wikipediaの代わりに】wikiが無いので…

ダルちゃん(丸山成美)

どこにでもいる24歳の派遣社員の女性。しかし、その正体は普通の人間ではないダルダル星人のダルちゃん。気を抜いた状態では人型を保てず、スライム状に体が溶けてしまう。
過去、周囲に馴染めず疎外されてきた経験から『ダルダル星人であることを隠し、普通の人間の真似をして生きていく』ことを決意し、必死に『擬態』し、周囲に溶け込み普通に生きることを第一に生きてきた。

しかし、ある日会社の飲み会で男性社員のスギタに絡まれ、侮辱されるものの『相手が笑顔だからこれで良い』と考え、スギタの機嫌を取り続けていたことを女性社員のサトウに咎められる。
当初は自身の主体性の無さを言い当てたサトウに反発し、当てつけの様にスギタと親しくする姿を見せつけるものの、スギタにホテルに連れ込まれた際受け入れることができず、その経験から軽度の男性恐怖症になってしまう。

その後、サトウから過去の経験を打ち明けられ、彼女の発言の真意を理解し、サトウと和解し友達になる。『自分の本当の気持ち』を大切にするようになり、サトウから詩集を借りたことをきっかけに自身も『詩を書きたい』と創作意欲を持つようになるなど次第に変わっていく。

また、他者に寛容で多様性を認めるヒロセに強く惹かれていき、自ら意思を持ってヒロセに接近し、恋人関係になる。幸福な毎日を送り、ヒロセとの恋愛をきっかけに創作意欲と才能を開花させ、ヒロセとの恋を描いた詩はインターネットの公募で採用され、サイト上で掲載されるに至った。

しかし、『自分のことを詩に書かないで欲しい』と言ったヒロセの言葉に、ヒロセを失うことを恐れ、一度は創作活動自体を止め、『ヒロセと共に普通に幸せに生きていく』ことを決意する。だが、その後サトウの婚約者コウダに投げかけられた言葉から『普通』というものや自身の価値観に向かい合い、『自分自身のために』再び詩を書きはじめ、ヒロセに別れを告げた。

ラストではダルダル星人が自分の他にもたくさん存在することに気付き、転職し、出版社で働きつつも詩を書き続けている様子が描かれている。

サトウ(サトウさん)

ダルちゃんの派遣先の会社の経理の女性職員。
飲み会でスギタに絡まれていたダルちゃんを店から連れ出し、スギタからの侮辱を笑顔で受け流していたダルちゃんに対して
『あなたの尊厳を踏みにじる奴らにあんな風に笑いかけちゃダメだよ』と忠告する。
その結果、当初はダルちゃんの反感を買い敵視されるものの、実はサトウ自身が若い頃スギタとよく似たタイプの男性と付き合っており、モラハラ・暴言に振り回された挙句、3回堕胎手術を受け、医師から今後妊娠は出来ないと告げられるといった辛い過去を背負っていた。
そんな自らの過去と『自分の本当の気持ちを知る難しさと大切さ』を真摯にダルちゃんに語り、擬態を解いたダルちゃんの姿を受け入れ、友達となる。

詩が好きで、自身の持っていた詩集をダルちゃんに貸し、ダルちゃんが創作意欲を抱くきっかけを作った。

独身を貫くつもりでいたが、自身の過去を知った上でプロポーズをしてきた大学の後輩、コウダと結婚し、ラストではダルちゃんに妊娠したことを告げる。

スギタ(スギタさん)

ダルちゃんの派遣先の会社の営業担当の男性職員。
元々ダルちゃんとさして親しくなかったが、飲み会の際にダルちゃんに馴れ馴れしく絡み、ダルちゃんを下に見て侮辱する様な発言を繰り返した。
その後、ダルちゃんを『飲み会のお詫び』と称し、デートに誘う。デートでは居酒屋で飲んだ後、当然の様にダルちゃんをホテルに連れ込み、ダルちゃんが男性経験が無いと知ると喜ぶような表情を見せた。しかし、直前になって拒み、擬態を解いた状態で涙を流したダルちゃんを見ると、舌打ちし『そういうのさみーんだよ』と吐き捨てて一人で帰って行った。その後、しばらくして会社を辞めた。
会社に対しての不満を溜め込んでいたようで、ダルちゃんとのデートの際には会社の人間たちを口汚く罵っていた一方、彼自身も他の社員達からの評判は良くなく、『外回りをさぼって喫茶店のポイントを貯めまくっている』『なんかヤな奴』『喋るとゴーマン』等と言われていた。

フクダ(フクダさん)

ダルちゃんの派遣先の会社の事務方トップ、経費担当の女性職員。
優秀だが明るく朗らかで、会社では『みんなのお母さん』的な存在で社員達から慕われている。
第3子出産のため産休に入り、彼女の後任としてヒロセが出向先の関連会社から戻ってくることになった。

ヒロセ(ヒロセさん)

産休に入ったフクダの後任として、出向先の関連会社から戻ってきた男性社員。左足に障害を持っており歩行にやや支障がある。
優秀で正確な仕事をするものの、慣れない業務に緊張し余裕がなかったこともあり、社員達とのやりとりでは機械的で無機質な対応をしてしまい、特に派遣社員達から反感を買ってしまう。その結果、申請書の仕様変更を社員達にプリントで伝えたものの、上手く伝達が出来ず、大量の修正事案を抱えて残業せざるを得ない状況に陥ってしまう。
しかし、ダルちゃんの前では『ほんとうのこと』、 本来の穏やかで優しい素の表情を見せたており、そのためダルちゃんは彼の残業を手伝う。
残業明けに『男女差』について言及したダルちゃんについて、自身の経験から『人をカテゴリー分けすることの弊害』を解き、多様性を認める発言をしたことでダルちゃんを惹き付ける。

擬態を解いた状態のダルちゃんを受け入れる等、他者に寛容である一方、非常に繊細な感性の持ち主。自分とダルちゃんの関係が会社の噂の的になっていることを知り、さり気なくデートの場所を変えたり、会社内でのダルちゃんへの接し方を変える等する。

ダルちゃんの創作活動について、当初は歓迎する姿勢を見せたものの、後に『誰かに人生を覗き見られている気がしてしまうので自分とのことを詩に書くことはやめてほしい』と告げる。しかし、そのことで詩を書くことをやめたダルちゃんが空元気を出している様子を見て心を痛め、自己嫌悪に陥っていた。
ダルちゃんから別れを切り出された際、その正直な気持ちを伝え、別れを受け入れた。

ダルちゃんの家族(父、母、兄、姉)

極めて普通の人間である父親と、とてつもなく平凡な人間である母親、そして平均的な兄と姉。他の人とは違うダルダル星人として生まれた末っ子のダルちゃんに対して、母は困惑し呆れたような態度を見せ、兄は無視し、姉は訝し気な視線を向けていた。父はあまり家にいなかったため、ダルちゃんと関わることはほとんどなかった。

コウダ(コウダさん)

サトウの大学の後輩で婚約者。サトウの過去を全て知った上でサトウに結婚を申し込んだ。

しかし、その正体はダルちゃんと同じダルダル星人。人前で堂々と正体を晒し続ける状態を『普通じゃない』と非難するダルちゃんに対して『普通の人なんてこの世に一人もいない』『存在しないまぼろしを幸福の鍵だなんて思ってはいけない』と諭し、ダルちゃんが再び詩を書き始めるきっかけを作った。

以下、各話あらすじ、ネタバレ

擬態を解いたダルちゃんを受け入れるヒロセ、そんなヒロセにダルちゃんが取った行動は…

ヒロセの部屋でうたたねをしてしまったダルちゃんは過去のことを夢見、気が付くと涙を流し擬態を解いてしまっていた。そして、その姿を戻ってきたヒロセに見られてしまった。
しかし、そんなダルちゃんにヒロセは笑顔で『良かったらベッドで休むように』と促す。自分はソファーで寝るからと。

「私が気持ち悪くないんですか」

ダルちゃん2巻  はるな檸檬  8/115 小学館

なおも泣き続けながらそう問うダルちゃんに、ヒロセは真っすぐ見つめ返し答えた。

「…はい、気持ち悪くないです」

ダルちゃん2巻  はるな檸檬  9/115 小学館

その言葉に更に泣いてしまうダルちゃんに手を差し伸べたヒロセ。足が悪いからお姫様抱っことか格好の良いことはできない…そう言いながら、ダルちゃんをベッドまで連れて行き、一人寝かせる。

「どうぞ、ゆっくり寝てください」

ダルちゃん2巻  はるな檸檬  10/115 小学館

優しく微笑みそのままヒロセは立ち去ろうとする。するとその瞬間、ダルちゃんはヒロセの手を掴み、無言で引き止めるのであった。

翌朝、ヒロセのベッドの中で目を覚ますダルちゃん。目の前には裸で眠るヒロセの姿があった。

起き上がったダルちゃんは鞄からノートとペンを取り出し、気持ちの赴くままに言葉を紡ぎ出す。やって来た新しい夜明けとヒロセの体の暖かさ、そこから溢れる強い生命力について。そしてそれらの美しさについて。
ひとしきり思いをノートに書き綴った後、ダルちゃんは再びベッドに戻り、ヒロセの頬を撫でる。わずかに瞳を開け、ダルちゃんに微笑むヒロセ。そんなヒロセに微笑み返すダルちゃん。二人は幸福のうちにあった。

ヒロセと恋人同士になったダルちゃん。同時に創作意欲も爆発させる

朝の通勤中、スマートホンをいじっているダルちゃん。実はメモ帳を使って詩を書いている。そして出社し、ヒロセの姿を見つけると、互いに視線を交わし優しく微笑み合う。ダルちゃんの生活は変わった。

いつもの屋上で休憩中もノートに詩を書き続けるダルちゃん。そんなダルちゃんを先輩女性社員で友人のサトウは優しく見守る。少し恥ずかしそうにするダルちゃんにサトウは『無理して誰かに見せようとしなくてもいいし、見せたくなったら見せればいいと思う』と言い、

「それはあなたの、本当に大切なものだからね」

ダルちゃん2巻  はるな檸檬  24/115 小学館

そう励ますのであった。

季節は春だった。仕事を終え、桜が舞い散る中、待ち合わせをしているヒロセの元に向かいながらダルちゃんは思う。

私に好きな人がいて、しかもその人も私を好きだなんて、奇跡だ

ダルちゃん2巻  はるな檸檬  25-26/115 小学館

デートの場所に迷っている様子のヒロセにダルちゃんは『他の人たちがどこに行くとかどうでもいい。ヒロセと一緒にいられたらそれだけでいい』と告げる。その言葉に微笑むヒロセ。ダルちゃんの言葉は本当で、ただただ幸せだったのだ。

ヒロセの部屋で食事をするダルちゃんとヒロセ。二人はサトウの話をする。サトウのことを大事な友達だと語るダルちゃん。しかし、彼女から詩集を借りたという話まではするも、『実は自分も詩を書いている』とまではやはり恥ずかしくて言い出せなかった。
しかし、自分が思っていることを素直に口に出し、それを肯定してもらうことに喜びを感じるダルちゃん。

そんなダルちゃんに、ヒロセは街でサトウが恋人と思わしき男性と一緒に歩いていたのを見たと話す。それを聞いたダルちゃんはサトウが以前自分に打ち明けた過去を思い出し、『サトウさんが幸せだったらいいと思う』と答える。
ヒロセはダルちゃんに自分達の関係をサトウに打ち明けても良いと言い、『サトウさんもダルちゃんに幸せであってほしいと思ってくれてるんじゃないか』と言う。優しく穏やかにそう語るヒロセに寄り添うダルちゃん。ヒロセと語り合う時間は心地よいものであった。

そしてダルちゃんはそんなヒロセとの関係を、過ごした時間を、自分の素直な気持ちを全て言葉にしてノートにまた綴るのであった。

詩をサトウに見せたダルちゃんは評価され、ネット公募に投稿することを勧められる…またサトウから恋人の存在を打ち明けられる

会社の屋上、そこでダルちゃんは今まで詩を書き溜めてきたノートをサトウに読んでもらっていた。読み終えたサトウに、顔を手で覆い隠し、恥ずかしがるダルちゃん。すみません、くだらないですよね…等々言うダルちゃんに、サトウは真面目な顔で『くだらないなんてこと、絶対にないから』そう、強く言い切る。

そして、サトウは詩に登場する”きみ”という人物がヒロセであることを言い当てる。詩の中に出てくる”左側だけ細い足”という言葉から容易に推測できたのだ。

ダルちゃんとヒロセの関係を察したサトウは二人の関係を祝福する。詩からダルちゃんの幸福感が伝わってきて嬉しいと。

「…これ…この中のいくつか、公募に出してみたらどうかと思うんだけど」

ダルちゃん2巻  はるな檸檬 37/115 小学館

驚くダルちゃんにサトウは続ける。今なネットでも詩の公募をしており、一般人も応募できると。

「私ダルちゃんの書く詩、好きよ。のびのびとして嘘がなくて。ほんとうのことって感じするよ」

ダルちゃん2巻  はるな檸檬 37/115 小学館

サトウの言葉に擬態が解け涙を流すダルちゃん。こんな風に思ったことをそのまま人に見せることは初めてで、もしも否定されたらもう生きていけないとまで思っていたのだ。そんなダルちゃんに読ませてくれたことを感謝し、『ステキ』だと告げるサトウ。ダルちゃんそのままを詩に描けていると評価する。

このわたしの、このままで書いて、それがステキだなんて…そんなこと…ある?

ダルちゃん2巻  はるな檸檬 39/115 小学館

そうぼんやりと考えるダルちゃんに、サトウは『実は今好きな人がいる』と告げる。
相手は大学の後輩で、サトウの過去や子供を産めない体であるということを知った上で受け入れ、結婚しようと言ってくれているという。
『こんな私でもいいと言ってくれる人がいるなんて』というサトウに、今度は猿ちゃんが『サトウさんはステキです』『サトウさんが幸せで嬉しい』と言った。
ダルちゃんの言葉にサトウはそっと涙をぬぐい、『ありがとうね』と返すのであった。

帰宅したダルちゃんは早速ネットで詩の公募について調べ、投稿した。
投稿した直後、恥ずかしさと緊張と後悔が一気に襲って来たものの、いいや、ダメならダメでそれだけのこと…そう開き直ることが出来た。書き始めたばかりでどうにかなるものでもないし、またいくらでも書けばいいのだと。

ダルちゃんとのことが職場で噂になり、ヒロセに変化が…一方ダルちゃんの詩がネット掲載される。ヒロセはそんなダルちゃんの創作活動を当初は応援するが…

一方、会社では女性社員達があることを噂し合っていた。それは『ダルちゃんよヒロセの関係』についてだ。目ざとい彼女たちはダルちゃんとヒロセが時折アイコンタクトを取っていることに気付いており、また二人がデートをする姿を目撃した者もいたのだ。そして盛り上がる彼女たちの噂話をヒロセは聞いてしまう。

次のデートでヒロセはちょっと遠い店を選んだ。ダルちゃんは雰囲気の良い店に喜ぶものの、待ち合わせ場所が店であったことも含めて珍しく感じ、ヒロセに何か心境の変化があったのかと問う。一瞬沈黙しつつも、何もない、ダルちゃんが喜ぶと思ったから…そう答えたヒロセに、ダルちゃんも微笑み返すのだった。

それから数日後、ダルちゃんはサトウの家で引っ越しの準備を手伝っていた。サトウは結婚に向けて婚約者の家に引っ越すことになったのだ。
ずっと一人で生きていくと思っていた…そう語るサトウ。一人でも老後に困らないように人生設計をしてきたものの、思ってもみなかったタイミングで人生が変わってしまい、まるでジェットコースターに乗せられたように感じるという。

「…なんか人生って、いくらでも可能性があるんだよねぇ」
「自分で自分の可能性狭めて、頑なな思い込みの中で生きてたんだなぁって。私が思ってたよりずっとたくさん道はあるのかもなぁって、そんな風に思った」

ダルちゃん2巻  はるな檸檬 46/115 小学館

サトウの話を静かに聞くダルちゃん。そんなダルちゃんにサトウは婚約者がダルちゃんに会いたがっていると伝える。サトウは婚約者とダルちゃんがなんだか似ていると言うのだ。ダブルデートを提案されたダルちゃんは喜び、以前ヒロセと行ったカフェなんてどうかとサトウにスマホの画像を見せる。その時、ダルちゃんのスマホにメールが届いた。

メールの内容を確認したダルちゃんは驚愕し、赤面しながらサトウにその文面を見せる。ダルちゃんが以前ネット公募に投稿した詩が採用され、”今月の詩”という形でサイト上で掲載されることになったのだ。
呆然としているダルちゃんに代わって自分のことの様に喜ぶサトウ。ダルちゃんの詩の良さを分かる人間が自分の他にもいることが嬉しいのだ。
一方、ダルちゃんは素直に喜べなかった。自分の書いた詩にまだまだ満足、納得できていなかったのだ。

「サトウさん、私、書きたいです。もっと書きたい」(中略)
「自分をさらして、さらして、そうしないときっといい詩なんか書けなくて、それは本当に怖いけど、私それでもどうしても、その先にあるものが見たいんです。世間の評価とかそういうんじゃなくて」

ダルちゃん2巻  はるな檸檬 51/115 小学館

その言葉を聞いたサトウは、ダルちゃんが『戦っている』ことを悟るのであった。

書かなくちゃ、もっと…そうダルちゃんは一心不乱にノートに言葉を紡いでいく。その先に何があるかなんてわからないが、それでも書き続けずにはいられなかった。待ち合わせの店にやってきたヒロセはノートに向かうダルちゃんを見て、日記か?と尋ねる。

ダルちゃんはヒロセに詩を書いていることを明かした。そしてヒロセにノートを差し出す。
ダルちゃんのノートに書き留められた詩の量とその内容を見て驚くヒロセ。純粋に『すごい』という感想を漏らす。

ダルちゃんはそんなヒロセにその中の詩の一つがウェブ公募で選ばれて、サイトに掲載されることになったことを告げる。
今まで何かに選ばれるといった経験が無かったダルちゃん。喜びを語るとともに『もっと書きたい』と思う気持ちを素直にヒロセに明かす。ダルちゃんのその姿勢に、ヒロセは改めて『すごいって思うよ…』と告げる。その言葉にダルちゃんは勇気づけられ喜ぶのであった。

帰宅したダルちゃんはサイトに掲載された自分の詩を見て、気恥ずかしく思うものの、それ以上にこう思うのであった。

生きることを許されているような気持ち

ダルちゃん2巻  はるな檸檬 57/115 小学館

ヒロセを失うことを恐れ、詩をやめる決意をするダルちゃん

翌日上機嫌で出勤するダルちゃん。仕事も明るくかつ順調にこなしていく。一方でヒロセの方は女子社員達の会話を逐一気にする様子を見せ、溜息をつく等元気がない様子であった。そんなヒロセの元に請求書を届けに来るダルちゃん。今までと違ってヒロセは顔を上げず、アイコンタクトも交わさなかったが、ダルちゃんはそのことを特に気に留めなかった。しばらくするとダルちゃんのスマホにヒロセから『今日会える?』とメッセージが届く。ダルちゃんはそれを見て微笑み『もちろん!』と返すのであった。

その後仕事を終えたダルちゃんはヒロセの家にやってきた。サトウがお祝いにと買ってくれたケーキの箱を持って上機嫌に。テンションが高いままスイーツの説明をするダルちゃんを遮る様に、ヒロセはダルちゃんの詩が載っているウェブサイトを見たことを告げ、『おめでとう』と言う。しかし、ヒロセの表情は硬く険しかった。

すごく素晴らしいことだ…そう述べるヒロセ。ダルちゃんがやりたいことが世の中に認められることはすごいことで、自分も応援したい、共に喜びたい…そしてその言葉に嘘は無いという。

「…だけど、ごめん。…こういうものは、もうやめて欲しい」

「…僕のことや、僕たちの間の個人的なことを作品に書くのはしないでほしい」

ダルちゃん2巻  はるな檸檬 62-63/115 小学館

唖然とするダルちゃんにヒロセは苦しそうに続ける。自分が詩を書く人に残酷なことを言っていることは分かっている、正しくないのかもしれない。しかし、詩の才能を持つダルちゃんは、今後もっと認められて本を出したりするかもしれない。

「そうした時に、僕は自分の人生が顔も知らない誰かの手に渡っていくような、いつも誰かにのぞき見られてそれに耐えなければいけないような気がして。ごめん、僕はそんなふうに人生を他人にさらしてそうやって生きていく人間じゃない」

ダルちゃん2巻  はるな檸檬 64/115 小学館

きっと会社の人がこの詩を読んだら、相手がヒロセであることは容易に分かるだろう。別にダルちゃんとの関係を隠しておきたいわけではないが、二人のことを他の人に分かった様に話題にされることに苦痛を感じるというヒロセ。『自分はコンプレックスが強く臆病だ』と恥じるように言いダルちゃんに『ごめん』と謝る。

そんなヒロセの言葉にダルちゃんは取り乱し、ケーキの箱を落としてしまう。震えながら『ごめんなさい、私が悪い』と謝罪の言葉を続ける。書くことに夢中でヒロセを傷付ける可能性があることを全く考えていなかったことを気付いたのだ。
しかし、そんなダルちゃんにヒロセは『こういうことを言ってしまう自分がダルちゃんに不釣り合いなのかもしれない』と言う。そのヒロセの言葉にショックを受けたダルちゃんはヒロセに縋り付いた。

「…やめて、お願いやめて。やめてそれ以上言わないで。お願い」
「…やめる、私書くのをやめる。もう詩は書かない、二度と」(中略)
「私は何よりあなたを失いたくない。あなたのいない人生なんて、耐えられない」

ダルちゃん2巻  はるな檸檬 66-67/115 小学館

詩を書くこと自体をやめて欲しいのではない、自分のことを書かないで欲しいだけだと言うヒロセに、ダルちゃんは『書き続ける限り、またこういったことが起きてしまう、だからもう書かない』と答える。そして、ヒロセに抱き着くダルちゃん。ヒロセはそんなダルちゃんを戸惑ったように抱きしめるのであった。

朝、ヒロセのベッドの中で目覚めたダルちゃん。眠っているヒロセを一度抱きしめるとそっと家を出る。雨の中、家に向かいながら一人考える。

これでいい。詩が何の役に立つ?幼い夢を見るのはやめよう。私なんかのつたない言葉が何になる?誰かに読まれて何かが伝わって、
そうしたら自分を好きになれると思った?誰かと何かをわかちあえると思った?バカみたい

ダルちゃん2巻  はるな檸檬 71/115 小学館

好きな人を傷付けていることにも気付かないまま一人で浮かれていた。そんな自分をバカみたいだと思うダルちゃん。
『みんなみたいに暮らしたい』…そう強く願うダルちゃん。好きな人と一緒にいて、働いて、子どもを産み、幸せに暮らす。そう、『みんなみたい』に。
それが自分の幸せ、それ以上の幸せは無いと自分に言い聞かせて。『自分には彼しかいない』と言い聞かせて。

詩を書くことをやめたダルちゃんは、今まで以上に明るく楽しそうに振る舞う…そんな中、サトウに婚約者コウダを紹介されるダルちゃん。しかしコウダの正体は…

ヒロセとの幸せな生活を守るため、詩を書くことをやめたダルちゃん。会社の同僚たちやヒロセと今まで以上に明るく楽しそうに日々を過ごす。しかし、そんなダルちゃんの笑顔を見るヒロセの顔はどこか暗かった。

ヒロセとのデート中、サトウからメッセージを受け取るダルちゃん。近くにいるというサトウはダルちゃんとヒロセに合流しないかと提案してきた。ハイテンションで是非サトウと合流しようと言うダルちゃんに、親戚の集まりがあるからとヒロセは断る。『ダルちゃんだけ行っておいでよ』と言うヒロセの言葉に、明るい笑顔で同意し、去っていくダルちゃん。楽し気に一人、サトウの元へ向かうダルちゃんをヒロセはやはり浮かない顔で見えうのであった。

サトウと合流したダルちゃん。相変わらず楽し気な笑顔を浮かべているが、サトウはそんなダルちゃんを見て、『何かあったのか?』と尋ねる。しかし、ダルちゃんは笑顔のまま『何もない』と答えるのであった。

サトウは婚約者も一緒にいて、お店の奥にいると告げ、自身は化粧室に向かった。奥の席に近づいたダルちゃんは満面の笑みで挨拶をする。しかし、コウダの姿を見た瞬間ダルちゃんの顔から笑顔が消え去る。

そこには、ダルちゃんと同じ、ダルダル星人が擬態もせずに寛いでいたのだ。

唖然と立ち尽くすダルちゃんに、コウダは親し気に挨拶をする。しかし、ダルちゃんは動揺したまま、そんなコウダに『人目のあるところで、どうしてそうしていられるのか』と問う。
するとコウダはダルちゃんの言葉に『なにか変か?』と逆に問いつつ、余裕のある笑顔で人型に擬態して見せる。

「どうして、どうしてそんなに堂々としていられるんですか?」
「だって、そんなの普通じゃない」

ダルちゃん2巻  はるな檸檬 79/115 小学館

怒りすら滲ませながらコウダにそう言うダルちゃん。しかし、コウダは笑顔で『普通って何?』と尋ねる。ダルちゃんは『普通は普通』『誰でも知っていることだ』と強い調子で返した。そして続ける。

「私は普通じゃないから余計なことをして、普通じゃないからみんなにうとまれる。普通じゃないから幸せになれない
「…だから、だから、いつも人目を気にして誰かに合わせて、何かになりきって、そうしていなくちゃ」
「そうして生きていく以外に、どんなやり方があるのかわからない」

「わからない」

ダルちゃん2巻  はるな檸檬 80/115 小学館

そうダルちゃんは泣きながら言った。しかし、そんなダルちゃんを真っ直ぐ見据えてコウダは言い切った。

「ダルちゃん、普通の人なんてこの世に一人もいないんだよ」
「ただの一人もいないんだよ」
「存在しないまぼろしを幸福の鍵だなんて思ってはいけないよ」

ダルちゃん2巻  はるな檸檬 81-82/115 小学館

その言葉にダルちゃんは衝撃を受ける。自身も姿を保っていられなくなり、バラバラに、霧散する様な感覚に陥った。

これは何、夢を、夢を見ているみたい。ねぇ、お願い、助けて、誰か

ダルちゃん2巻  はるな檸檬 83-84/115 小学館

コウダの言葉を受けて再び詩を書き始めたダルちゃんは、ヒロセに別れを告げる

アパートの部屋の中、詩が書き綴られた紙が溢れていた。中にはクシャクシャに丸められたものすらある。下着姿で取りつかれたように机に向かうダルちゃんの姿がそこにはあった。カップ麺等で食事を済ませ休まず詩を書き続けるダルちゃん。やがて疲れて紙の山の中に埋もれる様にして眠り込んだ。

そして美術館をヒロセと共に回ったダルちゃん。外のスペースに隣同士飲み物を持ち座りながら会話をする。ステキだった絵、ヒロセが絵を観覧することが好きなこと…そういったことを静かに語り合うもお互いに笑顔を浮かべることはない。『一緒に見られて良かった』…そう寂しそうにヒロセは言い、ダルちゃんもまた同じように『私も良かった』と返すのだった。二人は互いの顔を見ることはしなかった。

「詩をね、書いているの」

ダルちゃん2巻  はるな檸檬 91/115 小学館

そう切り出したダルちゃんの話をヒロセは静かに相槌を打って聞く。もう二度とヒロセのことを勝手に書いたりはしないとダルちゃんはヒロセに言った。そして

「だけどね、私、書くことに決めたの」
「私は私のために書くことに決めたの」
「別れよう」

ダルちゃん2巻  はるな檸檬 92/115 小学館

ヒロセは顔を上げて正面を見て言った。ずっとダルちゃんとの関係を守る方法はないかと考えていたと。
何かを表現したいと思う人が裸になって歩くような気持ちで創作することを知っている。そうしないといい作品が生まれないということも。
そしてそれが出来るダルちゃんのことを尊敬する一方で、だからこそ自分は人生の伴走者になる資格がないと分かっていたと。

「僕は弱い。僕はどうしても自分自身のコンプレックスに打ち勝つことができない。本当にごめん」

ダルちゃん2巻  はるな檸檬 94/115 小学館

ダルちゃんもまた真っ直ぐに前を見据えて語った。自分もどうしたらよいか考えていた。ヒロセを幸せにし、一緒に幸せになりたい、そのために何をしたらいいのかと。そして気付いたのだ。

「あなたを幸せにするなんて、自分にそれがせきるかもって傲慢だった」
「…私にできることは自分を幸せにする、それだけなの」
「私を幸せにするのは私しかいないの」

ダルちゃん2巻  はるな檸檬 95/115 小学館

誰かを幸せにするなんてそのずっと先の話だ。だから自分のために書いて行こうと思う…そうハッキリ告げたダルちゃんにヒロセは目元を片手で覆いながら気持ちを吐露した。
本当は詩を書くことをやめたダルちゃんがわざと明るく楽しそうに振る舞うたびに胸が潰れそうな位痛んでいたことを。
そして今のダルちゃんの顔が本当に素敵だということを。
そんなヒロセの肩にダルちゃんはそっと手を置き、『ありがとう』と言うのであった。

その夜、二人は小さなレストランで他愛のない話を沢山した。二人とも互いの人生を祝福するようなあたたかい友情に満ちた笑顔を浮かべていた。

この慈悲深い友情は、どんな恋より尊い人生の大きな宝になる…そう感じるダルちゃん。駅で別れ際、ヒロセと抱擁を交わしたダルちゃん。ヒロセの体の暖かさを感じ、一瞬離れがたく感じるものの、ダルちゃんは笑顔でヒロセに別れを告げた。一人になったダルちゃんは周囲を見渡し思うのであった。

空はどこまでも高く、街はきらめき、世界は美しい。
私は自分で自分をあたためることができる。自分で自分を抱きしめることができる。それが、希望でなくてなんだろう

ダルちゃん2巻  はるな檸檬 100/115 小学館

ラスト~サトウの結婚式で周囲を見て、あることに気付くダルちゃん…その後転職したダルちゃんは…

『おめでとうございます』
そう言って涙を流すダルちゃん。サトウとコウダの披露宴の真っ最中であった。

ダルちゃんがあまりに泣くため、高砂にいるサトウは笑ってしまう。
流石に今日という今日はビシッと擬態しているコウダ。ダルちゃんがそのことに言及すると、『そろそろ限界』と溶けてしまう。その様子に慌てるダルちゃんにコウダは笑いながら言う。

「大丈夫だよ、こんなやつ。意外にいっぱいそのへんにいるんだから」

ダルちゃん2巻  はるな檸檬 103/115 小学館

コウダの言葉にハッとして周りを見渡す。披露宴の客席…よく見ればチラホラと溶けたダルダル星人が混ざっていたのだ。そのことに気付いたダルちゃんは声を上げて笑った。

披露宴からの帰り道、ダルちゃんは街の様子をよく眺めてみた。妻子に寄り添うダルダル星人の夫、普通の子どもとダルダル星人の子ども双方の手を繋ぎ歩く母親…世の中にはダルちゃんが思っている以上にダルダル星人は沢山いて、そしてそのままの姿で生きていたのだ。ダルちゃんは笑顔になり、顔を上げて歩いていく。

それからしばらく時が流れた。ダルちゃんは転職して小さな出版社で働いていた。新しい職場はダルダル星人だらけ。皆、ダルちゃんがサポートをしなければ資料の場所を把握できなかったり、昼食を取るのを忘れてしまっていたりと、中々の変人揃いである。『しっかりしている人、丸山さんが来てくれて助かった』とダルちゃんは感謝されている。

仕事の合間、本屋で文芸誌を確認するダルちゃん。そこにはダルちゃんの詩が掲載されていた。職場に戻ると同僚のデスクにも文芸誌があった。『すごいね、丸山さん』そういって拍手をする同僚たち。ダルちゃんは同僚たちの賛辞を笑顔で受け止めるのであった。

ダルちゃんはこの出来事を喫茶店でサトウに話した。ダルちゃんが良い転職先に恵まれて良かったと喜ぶサトウ。仕事内容は以前とさほど変わらないものの、居心地が良いと語るダルちゃん。

「素の自分も悪くないって思えると、擬態も苦痛じゃないって言うか」
「擬態している姿も私自身なんだなって思えるというか…」

ダルちゃん2巻  はるな檸檬 110/115 小学館

そして、サトウもダルちゃんに報告したいことがあると告げた。

「私、子供ができた」
「本当にこんなことが起こるなんて、想像もしてなかったから…」

ダルちゃん2巻  はるな檸檬 111/115 小学館

言い切る前に泣き出したサトウをダルちゃんは立ち上がって抱きしめる。

人生には思いもかけないことがたくさんある。苦しみも絶望も私たちを離してはくれないけれど長く歩んだその先に見出される希望がある。幸福がある、必ずある。
だから私たちは生きていける。生きていけるよ

ダルちゃん2巻  はるな檸檬 111-113/115 小学館

サトウを抱きしめながら喫茶店の窓の向こうを見上げるダルちゃん。季節は春。桜が咲き誇っていた。

~終わり~

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以下、感想と考察

ヒロセとの恋愛と創作活動について

2巻冒頭から突然ヒロセと寝て、恋人同士になるダルちゃん。そして詩の才能が開花する。
…いかにも賛否を巻き起こす展開だ。
『結局男なの?』『他者に依存していることに変わりがないのでは?』と言われても仕方がない。
しかし擁護するのであれば、ダルちゃんのこの行動は以前の様に『他者に依存』する行為ではなく、純粋に自分の本能・欲求に従ったものだろう。
恋やセックスをしたところで、そんなに人は変われるのかといった声も上がるが、新しい体験がきっかけになることはまあ、十分ありうることで。

ダルちゃんはヒロセと恋人同士になり体の関係を持ったことで今まで眠っていた情念を吐き出すべくひたすら創作活動に取り組む。残酷な言い方をしてしまえば、ダルちゃんはこのヒロセとの恋を『芸の肥やし』としているのだ。そしてそれは創作活動においてよくあることだ。

しかし、更に残酷なことにダルちゃんの恋愛のトキメキと創作意欲に溢れた幸せな、幸福で充実した日々はそう長く続かない。
何故なら公募で選ばれてネットで掲載されたダルちゃんの詩を見た最愛のヒロセから、直接『自分とのことを詩にするのはやめて欲しい』と言われてしまったからだ。別にヒロセは創作活動自体を止めろと言っているわけではない。しかしダルちゃん自身が創作活動においてヒロセとの情愛や性愛が源になっていることをよく理解しているからため、一度は詩を書くことをやめてしまう。

…って、実名投稿かーい!
ペンネーム位使えや、そりゃビビるわ!(ペンネーム使用不可の公募もあるかもしれないけど、大体ペンネーム使える気がするけど…)
ダルちゃんの詩は、『左側だけ細い足』という、ダルちゃんを知っている人が見ればヒロセを簡単に連想するワード、そして性的な要素を含んでいるからね。ヒロセじゃなくても嫌な人は嫌だろう。

…さすがに良くも悪くも所詮詩なので、『ダルちゃんの詩がSNS上でバズって、ダルちゃんとヒロセが特定されて晒され大炎上ww』といったような鬼畜展開はこなかったもののね、ダルちゃんのネットリテラシーへの意識の低さにはちょっと引くのである。

しかし、匿名性が確保されていれば良いのかというとそういう問題ではなかった。繊細なヒロセは『自分の人生が誰かにのぞき見されている』という感覚に陥ってしまうのだ。
職場でダルちゃんとのことが噂になるだけでも神経をすり減らしてしまうヒロセ。別にダルちゃんとの関係が恥ずかしい訳では無く、『他人に分かった様に話題にされることに苦痛を感じる』という。…あれ、生きづらさを抱えてるのって、もしかしてヒロセの方じゃ…?なんて思ってしまうけど、それは置いておこう。まあ、とにかく、こういうことが気になって仕方がない人に『気にすんな』ということほど意味のないことはないわけで、もうどうしようもない。
もうどうしようもないので互いに別れを選ばざるを得ないわけで、しかしページ数の少なさゆえかその辺あっさりと描かれているために、『ダルちゃん、創作を選び、自分一人で生きていく覚悟を決めた、潔い!』『そんなダルちゃんのために身を引くヒロセ、どこまでも優しい!』とその辺り非常に小奇麗にまとまっているのだ。小奇麗にね。

ラスト、ダルちゃんがダルダル星人の姿を見せない理由は?

ラスト、ダルちゃんは一切ダルダル星人としての姿を見せない。 詩を転職先の仲間達から評価され、祝福されても、サトウの妊娠を共に喜び涙を流す際も、全く擬態が解けていない。常時人型のままなのだ。
これは以前のダルちゃんの性格を考えると、非常に大きな変化だ。今までは悲しみ、動揺、喜び、感動等大きく感情が動いたときは擬態が解けてしまっていた。これは一体どういうことなのだろうか。

正直、これは読み手によって大きく解釈が変わるところだろう。

『擬態が完璧になった…強くなり、ちょっとのことでは動揺しなくなり、簡単に擬態が解けなくなった』
『新しい職場が変人だらけ過ぎて、自分が普通の人間にならざるを得なくなった(実際の対人関係でも割とありがち)』
『成長したことで擬態している方が素と化した。すなわちダルダル人間じゃなくなった』
…等々色々と考えられるのだ。

とりあえずダルちゃんのセリフから分かることは『素の自分も悪くないと思えるようになった』『それゆえに擬態も苦痛じゃなくなった』『擬態している姿も自分だと思えるようになった』という事だけ。…やはりどうとでも取れてしまうのだ。

個人的には、
ダルちゃんは、そもそも『擬態』『ダルダル星人と普通の人間』の区別をしない、そういったものを意識しないレベルまで超越した…と考えたのだが。その割にはダルちゃんは『他者がダルダル星人か普通の人間か』をしっかり区別している。…うーむ。元々、『ダルダル星人』の定義自体が曖昧なので何とも言えない。

そもそも、ダルちゃんの素の姿と擬態形態双方を知っており、ダルちゃんと同じダルダル星人のコウダを夫としているサトウが、ダルちゃんの『擬態』という言葉を聞いて『?』となる位で。更に、ダルちゃんから”同族認定”されているコウダ自身も『ダルダル星人』や『擬態』といった言葉は全く使わない所からしても『ダルダル星人』や『擬態』自体、比喩で、ダルちゃん固有の見え方だったと言える。

そして、『ダルダル星人が擬態しない素の姿』というものが『TPO、その場の空気にそぐわない態度』を表しているのだとしたら、喫茶店や高砂でコウダはどういった態度を取っていたのだろうかと色々と気になってしまうのだが…。しつこい様だが、『ダルダル星人』の定義自体が曖昧で、その曖昧さゆえに人気を集めているところがあるのでその辺は突っ込んだらダメなんだろうな。 

まとめ~”ちょっと疲れた”女性に向けた優しいお話

この『ダルちゃん』前半は妙なリアルさがあったものの、後半はなんというか、『優しいお話』に留まってしまった感じが否めない。
『自分の本当の気持ちを知る難しさと大切さ』『普通とは何か』『創作欲求と恋愛のどちらを取るか』 といったテーマを内包しつつも小さくまとまったと言うべきか。『あなたの尊厳を踏みにじる奴らにあんな風に笑いかけちゃダメだよ』 というサトウのセリフ等、見どころは沢山あるんだけどね。

それは正直ページ数の少なさも原因だろうし、作者のはるな檸檬氏も、元々自身の主張を押し付けるタイプではないから良くも悪くも読者の想像に任せられる部分が大きく『お好きなように空白を埋めてください』といった感じ。

宣伝文句である『(女性の)生きづらさ』についても、何故、どうしてを探ったり、突きつける話ではないので、あくまで答えは読者の中。『ダルダル星人』『擬態』についても読む人によって解釈が変わる鏡のような作品でもあるだろう。ゆえに話題になったのだろう。

あくまで『疲れた現代人に向けた優しいおとぎ話(女性向け)』と私は捉える

そして、そんな私はある程度突き刺さるものもあるが、Amazonレビューで言われているように涙を流すほどでもない。かといって展開やダルちゃんの人間像をそれほど批判する気もなく受け入れられる。
それは、私自身が擬態しないでもある程度受け入れてもらえる環境に恵まれたダルダル星人だからなのかもしれないけど。

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