夏オススメ・ホラー【映画】残穢(ざんえ)【感想・考察・ネタバレ】心臓が弱い人にもオススメできるジャパニーズホラー

ざんえ ポスター

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夏と言えばやはりホラーだ。とはいえ、一昔前と比べてテレビの夏のホラー特番はほとんど無くなってしまった。というより、心霊ホラーというジャンル自体がずいぶん廃れてしまったように感じる。昔は夏場に限らず定期的に心霊ホラー特番や心霊写真の特集が組まれていた。小学生だった私にトラウマを植え付けてくれてありがとう、『学校の怪談春の呪いスペシャル』の『恐怖心理学入門』『あさぎの呪い』よ。
しかし、『ジャパニーズホラー』と持て囃されたのは今は昔。映像、動画の技術が格段に上がり、女子アナの毛穴までクッキリハッキリ見えおり、4K、8Kが当たり前になろうという時代だ。かつて怨霊が佇んでいた闇…曖昧さから想像によって恐怖心を掻き立てる余地が消えていってしまったのだ。心霊写真だって流行らない訳である。そのため、ホラーは現在心霊ものよりも『結局生きてる人間が一番怖いよね』という様なサイコスリラー・サスペンスの方が主流になりつつある気がする。あるいは、開き直ったゾンビもの。そういう訳でここ最近では心霊ホラーものでヒットを飛ばす小説・映画は生まれにくい。

そんな中でオススメ、心霊ホラーものの映画が、この『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋』だ。原作はホラー作家である小野不由美氏の小説、『残穢』

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Contents

あらすじ

小説家である「私」はホラー小説を執筆しており、読者からも怖い話を募集している。そんな「私」のもとに、建築デザインを学び、ミステリー研究会の部長も務める女子大生の久保から1通の手紙が届く。「今住んでいる部屋で、畳を掃くような奇妙な音がする」と訴える久保。そして久保はある日、着物の帯の様な物が畳の上を滑っていくのが見えたという。その話を聞いて「私」はあることに気付く。2年ほど前に屋嶋という女性から届いた手紙にも同様の話があったのだ。屋嶋も畳が擦れる様な音に悩まされ、幼い娘は何もないはずの天井を眺めて「ブランコ」と言い、ぬいぐるみの首を吊る様な遊びをし始めたという。
久保と屋嶋は部屋こそ違うものの同じ『岡谷マンション』に住んでいたのだ。興味を持った「私」は久保と共にその怪異の正体を探り始める。『岡谷マンション』内では建設以来、自殺・事故などは起きていないものの、久保の前の居住者が引っ越し先で自殺をしていたことが分かり、また久保の隣に越してきた飯田一家は不可解な電話に悩まされすぐに引っ越していった。

『マンションの建設以前から、その土地に何かがあるのではないか』
そう仮説を立てた「私」と久保。周辺住民や怪談作家、平岡芳明の助けを借りて、『岡谷マンション』が建つ以前、その敷地にあった家々の軌跡を辿ると、そこには平成、昭和から明治と不可解な事件・事故があったことが次々と分かっていき…。

… 『話しても祟られる。聞いても祟られる』

見どころ・感想(ネタバレあり)

パズルのピースが埋まるような快感

ハッキリ言って序盤は結構退屈な展開が続く。人によっては寝てしまうかもしれない。しかし、主人公と共に『岡谷マンション』があった土地とそこにあった家の歴史を辿るうちにじわじわと展開は加速していき、後半、冒頭のシーンに繋がる様は見事だ。パズルのピースが埋まり、点と点が繋がって意味を成す。いわゆる『アハ体験』の快感を得られるのだ。

ホラーの根底にある、得体のしれなさと理不尽さ

ホラーにとって何が大事かというと、個人的には『得体のしれなさと』『理不尽さ』ではないかと思っている。どんなホラーでも大体どこかしらで、『脅威の正体は何か』『どうして自分達が襲われるのか』を探る下りがやってくる。ここは物語の肝で、読者・観客も知りたがるところなのだが、ここを明かし過ぎてしまうと、途端に『恐怖』は霧散してしまう。

雑な例だが、もしも『主人公達を祟っている怨霊の正体は山の神様で、主人公達が祠を破壊したことが原因』等という『脅威の正体』と『主人公達が祟られても仕方がない様な理由』が分かってしまうと、見てる側は納得してスッキリするものの、同時に『じゃあ、誠心誠意謝って祠直せば解決だろうな』と安心し、『そもそも祠を破壊するなんてヤンチャ行為をしない自分は大丈夫』等という、ある種の公正世界仮説の心理が働いて、他人事の様に感じてしまい恐怖がなくなってしまうのだ。(『リング』の様に、脅威の正体判明…からの上げ落としが秀逸な作品もあるけれど)
その点、この『残穢』の『得体のしれなさ』と『理不尽さ』は計り知れない。

最初の『岡谷マンション』での着物の帯の幽霊から、マンションが建つ以前にあった一軒家での他の霊障…それらを辿ると芋づる式に様々な怪奇の逸話が出て来て、最終的に主人公達は北九州の『奥山怪談』にたどり着き、これこそが一連の怪奇現象の震源地だと推理する。…が、しかし、『怪奇』はそこで収束することはせず、むしろどんどん深く広く続いていく。しつこい汚れが深く染み込み、また辺りに広がっていくように。その全容を掴みきることが出来ないのだ。

そして、怪奇現象に苦しめられる人々は何か罰当たりなことをした訳ではない。ただ、穢れた場所に引っ越してきてしまった。それだけだ。その上、同じ場所に住んでいても霊障に悩まさせる人もいれば全く何ともない人もいる。そして、また新たに越した先に穢れを広げ、その穢れが新たな穢れと怪異を呼び込むのだ。その理不尽さの象徴と言えるのが、ラストの編集者の男性に襲いかかる怪奇現象だろう。彼は主人公達の様に北九州まで赴き震源地に行き何かに触れたわけではない。ただ主人公の原稿をチェックしていただけ。それなのに…

原作小説より後味が悪くなっているラスト・結末

最初の怪異、『着物の帯の霊』から過去の住人や『岡谷マンション』の土地やそこにあった家々の歴史を辿っていったホラー小説家の「私」と女子大生の久保。二人は前居住者の首吊り自殺、ゴミ屋敷での孤独死、不可解な赤子の鳴き声とそれに悩まされた女性の首吊り自殺、嬰児殺し、座敷牢に閉じ込められた精神障がい者の存在、いわくつきの美人画…様々な事件があったことを探り当てていく。そして、最終的に北九州で有名な『奥山怪談』まで行き着く。

北九州で知れた資産家だった奥山家は炭鉱を経営していた。しかし、炭鉱の火災が起きると悲惨で、多大な恨みを買う。延焼を防ぎ、鎮火するためには酸素が入らないようにする必要があり、まだ中に人が残っていても出口を塞ぐのだ。当然取り残された炭鉱夫は助けを求めながら焼け死ぬこととなる。その祟りか奥山家の最後の当主はある日突然家族を殺した後、自死。奥山家は途絶え、その跡地に建った家でも不幸が続く。一連の怪奇現象を追ううちに、新築の家のセンサーライトが誰もいないのに点いたり、謎の首の痛みに悩まされるようになった「私」は奥山家こそが全ての怪奇現象の根源だと考え、久保達とともに廃墟と化した奥山家の跡地に向かうのであった…。

【…この映画『残穢』は原作の小説と大筋は一緒(細かい改変、設定変更は多い)なのだが、より後味が悪いラストを迎える。原作小説ではラスト、「私」や久保を悩ませる怪奇現象は収まるのだが…。】

『もうやめませんか。一体どこまで広がるんでしょう』
喫茶店で「私」にそう告げる久保。二人が一連の怪奇現象を追い始めてからもう2年も経っていた。一連の怪奇現象の根源であろう、奥山家にも直接赴いた二人。しかし、それで終わりにはならず、今でも二人の元には次々と関連する怪談が届く。終わりは見えない。『自分達は何を追いかけているのか』と問う久保。『岡谷マンション』で久保の隣室に越してきたものの、不気味な電話に悩まされすぐに引っ越してしまった明るそうな父親、大人しそうな母親、幼い息子の3人家族、飯田家。ニュース番組では父親が妻子を刺殺し、家に火を放つ無理心中事件を起こしたと報じられる。そして久保自身も引っ越したにも関わらず、新しい部屋でもまた帯の音が聞こえるようになったという。久保の言葉を受け入れた「私」。二人の過去へと向かう旅は終わった。

その後、「私」の首の痛みは心霊現象ではなく、過去の病気が原因であることが分かり治癒する。しかし、「私」の家には未だに不可解な電話が掛かり続け、人がいることもないのにセンサーライトの灯りがつく
そして、この怪奇に関わった人達のその後が語られる。「私」の語りはあたかもハッピーエンドの様に聞こえるのだが、映像を見ると全然ハッピーエンドではない。ラスト、PCでこの物語をチェックしていた編集者だったが、突如文章が文字化けしてしまい、手とキーボードはいつの間にか煤の様な物で黒く汚れていた。そして戸惑う編集者を暗闇から何者かが襲う。それは炭鉱の火事で死んだ炭鉱夫達の怨霊。悲鳴を上げる編集者は黒焦げのおぞましい姿の彼らに机の下に引きずり込まれていくのだった…。

クレジットではお寺の住職の姿が映される。中盤、主人公達に奥山家の娘が嫁入り道具として持っていた美人画の掛け軸…時々顔が醜く歪み、災いを招くという物の存在を語った住職 。 住職は主人公達には焼失したと語っていたが、それは嘘で寺に保管されていたのだ。嬉しそうに掛け軸を広げる住職。すると描かれた女性の顔は歪んでいくのだった…。

『話しても祟られる。聞いても祟られる』…関わってしまったものは皆、気付いているか、いないかの違いがあるだけで、確実に穢れがついてしまっているのである。ならば、 この映画を見て、小説を読むなど、何らかの形でこの物語を目にした者も…。

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まとめ~じんわりと余韻が残る、ジャパニーズホラー

散々冒頭でホラーについて語っておいてなんだが、私は『ルイージマンション』をプレイして飛び上がるレベルのビビり、相当なチキンハートの持ち主だ。そのため、不意打ちで脅かしてくる演出に非常に弱い。この『残穢』はそういった心臓に悪い演出がほとんどない。ホラー演出が来る時は、『あ、ここで来るな』とちゃんと分かるようになっているので、ビックリが苦手な人、心臓が弱い人でも楽しめるのだ。

しかし、ホラーとして怖くないかと言うと、そんなことはない。過去を掘り下げていく都度出てくるエピソードは、その一つ一つが重くおぞましい。特に炭鉱の火災のシーンは時代背景も相まって恐ろしくも哀しくもあり見ていて辛い。色々と考えてしまうのだ。そして、ジャパニーズホラーらしい後味の悪さが残る。ゾンビものやサイコスリラーに飽きてしまった人にもオススメできるホラー作品なのである。

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