【漫画 既刊18巻・アニメ化】BEASTARS(ビースターズ)【総評・あらすじ・感想】獣人の少年少女を通して多様なテーマを描く異色の作品

ビースターズ1巻表紙

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この秋は見る予定のアニメが多い。その中で、特に注目しているのが『BEASTARS(ビースターズ)』である。これは板垣巴留(いたがきぱる)氏の漫画『BEASTARS(ビースターズ)』をアニメ化したものである。このマンガをジャンルに当てはめるのは難しい。学園・青春物で、恋愛物であると同時にサスペンスとも言えるし、バトル要素もあるし。ヒューマンドラマ(獣人だけど…)とも言える。この魅力を以下、紹介していきたい。

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Contents

以下、あらすじと少しだけネタバレ

草食、肉食、様々な獣人達が文明を持ち共存し合う世界。そこでは各々が社会生活を円滑に行うため獣人達が本能のまま他の動物達を傷付けることは許されておらず、他者の肉を喰らうこと…特に“食殺”は最大の禁忌とされていた。

ある日、エリートの子弟が集まる全寮制の”チェリートン学園”で草食獣アルパカのオスの生徒、テムが何者かに“食殺”される事件が起きる。この事で表面的な平和と秩序が保たれていた学園内に激震が走る。そんな中、テムが所属していた演劇部の裏方を担当するハイイロオオカミの少年、レゴシはその風貌からテム殺しの犯人だと疑われ、恐れられるも、『無害な存在でありたい』と平穏で静かで目立たない暮らしを望んでいた。一方、園芸部員の白ウサギの少女、ハルは可憐で清楚な容姿に似合わぬ奔放さと勝ち気さが災いして学校中の女子から疎外されイジメを受けていた。

ある晩、灯りのない学園の中庭でレゴシとハルは邂逅する。暗闇の中、狩猟本能を抑えられず、思わずハルを捕らえ抱き締めて怪我をさせてしまったレゴシ。それは互いに顔も分からない中での一瞬の出来事だったが、レゴシは目を背け続けていた自身の”本能”に向かい合わざるをえなくなり、動揺する。
そして、同時に偶然再会したハルにレゴシは強く惹かれていってしまう。

様々な生徒達が抱く、差別意識、偏見、嫉妬、憧れ、劣等感、本能と理性の葛藤…そして、学園における統率者として認められた者に与えられる英雄的地位“ビースター”…これらを取り巻く様々な思惑に巻き込まれながらも、『ハルを守りたい』という気持ちを抱いたレゴシは少しずつ成長し、変わっていく…。

獣の美しさと繊細な表情…魅力的なキャラクター達

大変失礼なことを言うが、読む前までは「ケモナーのケモナーによるケモナーのための漫画だろうな」と思っていた。だが、実際に手に取り読んでみると魅力的なキャラクター達と緻密な世界観の設定に、すぐに引き込まれた。

主人公のレゴシは、ハイイロオオカミの高校2年生の少年だ。誰もが畏敬を示す風貌と体格、そして高い身体能力と格闘センスを持ちながら、非常に繊細で優しい性格をしている。そのため、ともすれば動作一つで簡単に他者を威圧できてしまう、”オオカミ”であること自体に大きなコンプレックスを抱いており、他者とも積極的に関わろうとしない。

そんなレゴシと対照的に描かれるのはレゴシの一学年上の3年生の先輩、演劇部の花形役者であるオスのアカシカのルイだ。財閥の御曹司であるだけでなく強烈なカリスマ性を放ち、自身の演劇を通して学園内の草食獣と肉食獣の秩序を保ち、”ビースター”の座を狙うルイ。しかし、隠された本当の生い立ちから、いざという時は無力に捕食される他ない”草食獣”であることに強いコンプレックスを持っており、肉食獣として圧倒的な強さを持ちながら、その本質から目を背け続けるレゴシに激しい苛立ちを持ち『どうして自分の強さに責任を持たないんだ』という強烈な一言を浴びせかける。

そして、ヒロインである白ウサギのハル。ハルは明るく陽気に振る舞ってはいるものの、自身が社会では”圧倒的弱者”であることを認めており、そして他者からもそういった憐憫に満ちた目で見られることに慣れ、諦めている。それゆえに、『身体を重ねている間だけは”対等”に扱ってもらえる』と感じ、誰に対しても簡単に体を許してしまう、そんな歪みを抱えている。しかし、ルイには心から恋しているものの、その本心をきちんと伝えられず、自身に真っ直ぐな想いをぶつけてくるレゴシに困惑する。

そんな三角関係を更に複雑にするのは演劇部の新入部員のジュノだ。レゴシと同じハイイロオオカミであり、美貌に恵まれたジュノはレゴシと反対に、”オオカミ”であること、”肉食獣”であることに強い誇りを持っている。肉食獣が引け目を持っている現在の社会の在り方に疑問を持ち、『肉食獣は誇りを取り戻すべき』と考え、ビースターを狙い、またレゴシに強く一途な恋愛感情をぶつけていく。純粋でひたむきであるがゆえに、”全て”を手に入れようとするのだ。

ハルやルイとの交流を経て少しずつ変わっていくレゴシ、強いカリスマ性を持ちながら、時折脆い少年の顔を見せるルイ。複雑な感情を抱きながらレゴシとルイの間で揺れるハル、そして残酷さと裏合わせの純粋さを見せるジュノ…彼らは野獣の美しさとその繊細で豊かな表情で読者たちを魅了するのだ。

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身につまされる獣人達とその社会の在り方…『ズートピア』と『BEASTARS(ビースターズ)』の比較

獣人達の社会は秩序こそ保たれているが、上述からも分かるように、草食獣と肉食獣の間には深い溝がある。肉食獣を野蛮な存在だと下に見ると同時に彼等の持つ力を恐れている草食獣。社会でやっていくためと分かっていながらも、自然な欲求を抑え込まれ不満を溜め込んでいる肉食獣。
また、草食獣と肉食獣という単純な二項対立だけでなく、各々の種族達は互いに偏見や差別意識を抱き合っている。それは相当根深い。

…どうしても題材が題材だけに、ディズニー映画『ズートピア』と比較されてしまいがちだろう。(作者もそれを短編集『BEAST COMPLEX(ビーストコンプレックス)』の後書きで、連載の間が悪かったと言及している)
だが、『ズートピア』が“動”で”光”を中心に描いているとすれば『ビースターズ』は“静”で”闇”を中心に捉えた作品だと言えるだろう。『ズートピア』が社会にある差別意識の風刺と、それに果敢に立ち向かって行く主人公の姿を2時間弱の映画でポップにリズミカルに描いたのに対し、『ビースターズ』の主人公達はまだ少年少女でありながら、社会の在り方に諦感を抱いてしまっている。中々変われない。そして、”性”についてもしっかりと描いており、少々生々しい。レゴシはハルに対して恋をするものの、パンダの医師、ゴウヒンから『ハルに抱いている感情は狩猟本能が変形した恋愛感情であり、いずれ食殺を起こす』と指摘され、自身がハルに抱いている感情が何なのか苦悩し続ける。

そして、社会の虚飾と裏の顔についても緻密に描かれる。草食獣と肉食獣が共存し合う社会という建前の中、草食獣の血肉が販売される”裏市”が黙認されており、肉食獣で編成されている犯罪集団ものさばっている。いち早くそんな社会の在り方や自身の本能を受け入れ、普段は草食獣と友情を築き合いながら、”裏市”で草食獣の血肉を食すベンガルトラのオスの生徒、ビルの様な生徒もいる。

そして、平等は建前で一流企業や大学も草食獣が優遇される”草食至上主義”状態。一方で、従業員の草食獣を威圧的に支配する肉食獣の経営者もいるし、肉食獣が中心の企業ではそこで挑戦しようとする草食獣の社員が陰湿ないじめを受けたりもしている。異種族間の結婚は法律でこそ認められているものの、実際にはほとんどおらず、異種族間の恋愛は学生までという暗黙のルールがある。

こういった社会の在り方、獣人達の在り方は完全なファンタジーなのに、ディテールがしっかりしておりリアルで、現実社会とそこに生きる私達の在り方に重なるところがあり、身につまされる。

でも、夢や恋やその輝きが、そして出会いが少しずつ、主人公達を変えていく。その様子は焦れったくもあって、痛い。青春ものの群像劇といった側面が強い。『ズートピア』と本作『ビースターズ』は設定や大まかな題材こそ似ているものの、描き方、焦点を当てる場所は全く違う作品なのだ。

作者、 板垣巴留(いたがきぱる)氏は『グラップラー刃牙』の板垣恵介氏の娘

ちなみに、この 『BEASTARS(ビースターズ)』 の作者の板垣巴留(いたがきぱる)氏の父は、『グラップラー刃牙』の板垣恵介氏だという。知らなかった…。板垣巴留氏自身の漫画の技術力が高いので、普通にコネなどもなく、連載を勝ち取った印象だ。
バトルシーンが勢いがあるのは、父親同様、格闘技に対する知識が深いのかなー等と思ったりもする。

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