【イラストエッセイ】色気は分娩台に置いてきました。【感想・ネタバレ】ヤマダモモコ氏とリュウ君のそこに確かにあった幸せについて思う事

色気は分娩台においてきました 表紙

2019年12月、今年もあと残すところわずかという時にあるニュースが目に飛び込んで来た。それは『豊洲のタワーマンションで3歳の男児が母親の内縁の夫に殺害される』というニュースだった。見て本当に嫌な気持ちになった。子どもの虐待、虐待死の事件は昔から不快になるし、二児の母になった今、尚更胸が痛むようになった。

そして、世間は案の定、息子を殺された被害者、そして被害者遺族である母親を『母である事より女を優先した』『男を見る目が無かった』と批判した。事件が母親が海外出張中に起き、そして加害者の内縁の夫自身も連れ子がいて育児休業中だったため、信頼して子どもを預けたという様な事情があったというのに。…そういった世間の声を聞いてますます憂鬱になった。

ところが、その後週刊新潮のニュースで、この事件の被害者が育児関係のイラストエッセイで有名なヤマダモモコ氏の息子、リュウ君だったと知って更にショックを受けたのであった。

ヤマダモモコ氏はその自虐を交えたユーモアのあるイラストエッセイでSNS上で人気を博しており、息子のリュウ君もイラストを通して皆から愛されていた。ヤマダモモコ氏のそのイラストエッセイ集『色気は分娩台に置いてきました。』は評判も高かった。以下、紹介していきたい。

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あらすじとネタバレ

妊娠したヤマダモモコ31歳は漠然と幸せな妊産婦生活を思い描いていた。
しかし、モモコを待ち受けていたのは、壮絶な陣痛、昼も夜もない授乳や夜泣き、そして手入れする余裕もなく老け込んでいく自分自身の姿だった。
妊娠中太った体は出産したのに元に戻らず、それどころかどんどんデブになっていく。そして女性ホルモンが無くなったのか、抜け毛でハゲるわ、何故かヒゲが生えてくる。
しかし、決して不幸なわけではない。
息子リュウはとても可愛く、何よりも深く愛している。
でも時々、自分の時間を持ちたい、大人と話したいと思ったり…。

…本作はそんなバタバタな出産~仕事復帰までの約1年間の日々を、溢れ出る息子への愛と自虐とユーモアにあふれるイラストで綴った育児日記である。

飛び抜けたユーモアと言葉遊びのセンス

本作品の魅力は不細工にデフォルメされて描かれた作者ヤマダモモコ氏の自画像のインパクトもさるものながら、そこに書かれたコメントやハッシュタグの言葉選びのセンスが本当に秀逸なのだ。

『マキシマム ザ 男性ホルモン』、『パイガホント☆カユイ』、『東京デブストーリー』等はほんの序の口。

新生児期に言われる『3時間ごとに授乳』が『授乳を終えてから次の授乳まで3時間休める』のではなく、『授乳開始から次の授乳開始までが3時間で、飲ませる時間やゲップをさせ寝かしつける時間があるため、休む時間が1時間もない』ということを

夜泣きは育児書で起きてるんじゃない、寝室で起きてるんだ!
#踊る大育児線
#背中スイッチを封鎖せよ
#lalala lovebody tonight♪(寝たい♪)
#夜泣きがーーー我が家にーーーキタァーーー!!!!
#リュウが地球に生まれてきてよかったーぁ!

色気は分娩台に置いてきました。 ヤマダモモコ 41/240

授乳をする際、赤子に乳首を噛まれることを

チチガミ様があらわれた
スタジオガブリ
#乳がみ様がモロに噛んでくる
#鎮まりたまえ
#授乳タイムの度に憂鬱
#もものけ姫、余計禿げそう 138-139

色気は分娩台に置いてきました。 ヤマダモモコ 138-139/240

そして、関連したワードから別のネタに繋げていくのも上手い。
ついつい自分よりも月齢の低い子どもを持つ親に先輩面してしまうことを

ホップ、ステップ、マウンティング~
# エラ張るみ
# グーググーググー!!
# 今一番行きたいところ
# ライザップ
# I`m a PERFECT HIMAN
#モモッコ!モモコ!モモッコ!
# I`m a PERFECT 肥満

色気は分娩台に置いてきました。 ヤマダモモコ 217/240

知識とユーモアの引き出しがとんでもなく広くて深いのだ。お笑いネタから音楽ネタ、漫画ネタ(少年ジャンプ多め)がポンポン出てくる様でヤマダモモコ氏の頭の回転の速さが伺える。『ハゲた太った』と自虐するだけでなく尿もれやオナラが出やすくなる等結構ぶっちゃけた事も言っているのだが下品になり過ぎないギリギリのバランスを保っているため決して不快にならないのだ。これには共感できない経産婦はほとんどいないだろう。

特に私はヤマダモモコ氏よりも少し年齢が下ではあるものの感じ方や笑いのツボがかなり近かったようで(『げんこつ山のたぬきさん~おっぱい飲んで、ねんねしないっ』とは奇遇なことに私もよく歌っていた)、大変笑わせてもらった。

事件抜きに評価すれば、これは本当に秀逸なイラストエッセイなのだ。

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本作でも度々登場するヤマダモモコ氏の前夫ヒデさんについて

作品中、ヒデと言う名で描かれていた最初の夫(リュウ君の父)はヤマダモモコ氏と小学2年生の頃から近所に住む幼馴染みで四半世紀以上の付き合いだったという。職業はカメラマンで、そもそもヤマダモモコ氏がイラストエッセイを始めたのも、ヒデさんが『面白いからインスタに上げれば』と言ったことがキッカケだという。

2016年4月から2017年4月までの1年間の出来事が綴られているこの『色気は分娩台に置いてきた』では、前夫ヒデさんもヤマダモモコ氏に隠れてリュウ君にキスをする等、子供を愛している様子が描かれており、2017年5月10日に書かれたという後書きではヤマダモモコ氏は前夫ヒデさんに対しても感謝の言葉を述べている。今回リュウ君を殺害した渡辺雄二容疑者との同棲を始めたのが2019年の春頃とのことなので、2017年5月~2019年4月までの間に何かがあってヤマダモモコ氏のヒデさんは別々に生きることを決めたのだろう。

ヤマダモモコ氏はそもそも離婚を公表しておらず、何故前夫ヒデさんと離婚したのかは定かではない。作品を見る限りでは1~2ヶ月児を抱えるヤマダモモコ氏に対して突然LINEで友人を家に連れていくと連絡したり(しかも家到着まであと3分という時点で)、結婚前デート中人通りがある所で『お前の足がクサイ』と叫んだりとややマイペースでデリカシーに欠けていると思われるところはあるものの、元夫ヒデさんは基本的に穏やかで優しいイメージで描かれていた。

事件時、母親であるヤマダモモコ氏が『平石桃子さん』と報道され旧姓に戻っていることが確認できるのに対して、息子の隆太郎くんは『山田隆太郎くん』と前夫ヒデさん側の姓であった。このことからしても、ヤマダモモコ氏がリュウ君を引き取り育てていたものの前夫ヒデさんと完全に縁が切れた訳ではなかったことが推測される。

シングルマザーが男性と交際したり同棲したことは罪か?世間の”母親の交際相手・再婚相手”への偏見に対して思う事

そして、世間ではこの『色気は分娩台に置いてきました。』というタイトルと、ヤマダモモコ氏が新しい夫(内縁)…このリュウ君を殺害した渡辺雄二容疑者との同棲生活を送っていたことに対して『色気は分娩台に置いて来ておらず残っていた』と揶揄し非難する人がいる。『やはりシングルマザーは子供の事を考えて再婚したり恋人を作ったりするべきではない』と主張する人も少なくない。

…確かに、ステップファミリーが難しいことは事実だ。そして『虐待死事件の多くが母親の交際相手または再婚相手』『男は本能的に自分の種じゃない子どもを排除しようとする』という声もよく聞く。

でも、冷静に考えてみて欲しい。確かにこの『虐待死事件の何割かが母親の交際相手または再婚相手』というのは事実だろう。厚労省の調査によれば、虐待の加害者は実母、実父についで母親の交際相手等が第3位となっている。しかし、だからといって『母親の交際相手または再婚相手の多くが子どもを虐待する』という訳ではない。その辺りについて因果関係、相関関係の誤解、錯覚が社会全体に起こっているような気がしないでもない。ちなみに子供の虐待死は圧倒的に実母、実父が多く、養父、継父、母親の交際相手によるものは平成28年度では10%も満たない。

『母親の交際相手・再婚相手が子どもを殺した』という印象的で悲惨な事件があったため、『母親の交際相手や再婚相手は連れ子を殺すもの』『だからシングルマザーなのに男性と交際したり再婚するのは子供の事を考えない身勝手な行動だ』といった偏見が社会に蔓延してきたようで恐ろしい。

一方で、実際に母親の交際相手や再婚相手による悲惨な虐待が存在するのも事実だ。だが、それに対して『男は自分の種じゃない子どもは本能的に排除するものだ(女児の場合は性的に見ても仕方がない)』というどこか諦観に近い社会の声にも違和感を持つ。
『本能だから仕方がない』だって?だったら我々は何のために進化して理性を持っているのだろう。
子どもを連れた女性と結婚して、心から連れ子を愛して家族のために身を粉にして生きている男性は沢山いる。こういったいい加減な『本能論』はあまりにも継父、養父として頑張っている男性に対して失礼だ。

長くなってしまったが、何が言いたいかというと

『男が自分の実子ではない連れ子を虐待したり殺したりするのは本能的に当然のことなのだから、シングルマザーは男と交際したり再婚なんてするべきではない』という世間の声はおかしい。確かにステップファミリーは難しいかもしれない。しかし、だったら尚更、そんな思考停止に陥るだけの本能論や偏見は捨てて社会が寛容になって多様な子育て世帯・家庭を見守り支援する体制を作るべきだろう。

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虐待男を見抜けない母親の見る目の無さが悪い?渡辺雄二容疑者と豊洲タワマン事件の概要

そして、この手の交際相手や結婚相手からのDVや虐待事件が起きると決まって『そういう男であると見抜けなかった女(母親)の見る目の無さが悪い』と批判する人が一定数現れる。

私はこの手の批判が大っ嫌いだ。皆、そんなに人を見る目があるの?『悪い人間といい人間の区別はにおいで分かる!こいつはゲロ以下のにおいがプンプンする』みたいな人はマンガの世界を出たら中々いないだろう。外見からして明らかに表情が逝っちゃってたり、分かりやすい前科がある人を選んだのならともかく、深く交際したり一緒に暮らしてみなければ分からない側面なんて人間には沢山あるのだから、そういった『見る目の無さ』なんていう曖昧なもので被害を受けた側の人間を責めるのは間違っているだろう。公正世界仮説も大概にしなくてはならない。

そもそも今回の事件、加害者となった渡辺雄二容疑者(35歳)はIHIという大手の重工業企業に勤める、世間的にはエリートの部類に入る人間だった。そして、ヤマダモモコ氏との同棲に当たって渡辺容疑者は自身と前妻の間に出来た息子も連れてヤマダモモコ氏のタワマンに引っ越してきた。つまり、互いに子連れで子育て経験があり、ステップファミリーとなること前提で暮らしていたと考えられる。

渡辺容疑者の息子の年齢は具体的には分からないが、渡辺容疑者自身、2018年から事件時まで育児休業中であったという。

ヤマダモモコ氏と渡辺容疑者の間に具体的にどの程度の信頼関係が築かれていたか定かではないが。同棲を始めたのが2019年春、事件が起きたのが9月…つまり約半年ほど互いの子ども達を含めた4人で生活をしてきたこととなる。そのため、この4人での暮らしにそれなりに慣れていたのではないだろうか。

ヤマダモモコ氏の本業はイラストレーターではなく、北米に本社を持つIT企業の日本法人に産前から勤めており、平素から海外出張も多かったという。しかし、普段は海外出張の際、渡辺容疑者に頼ることはせず保育園に預けていたようだ。

事件が起きた9月、渡辺容疑者はヤマダモモコ氏が帰ってくる前に隆太郎くんを引き取り、腹部に殴るか蹴る等して失血死させた上、その後風呂に入れ『子どもが風呂で溺れた』と119番通報して溺死を偽装。しかし、司法解剖から腹部への暴行が明らかになり傷害致死容疑で逮捕された。事件直前には『転んでけがをした』と顔に傷をつけた隆太郎君の画像をヤマダモモコ氏にLINEで送っていたという。

渡辺容疑者はよくネットが叩くような『無職』『職業不詳』でもなかった。渡辺容疑者自身、幼い息子を育てており、育児休業中、そして半年間4人で暮らした実績があった。この事件について『自分の息子を他人に預けるなんて信じられない』という批判も多数あるが、恐らくヤマダモモコ氏は渡辺容疑者とその息子と新しい家族になるつもりで半年間暮らしていた。互いに子育てについて協力し合うことも多々あってその中で一定以上の信頼関係を築いていただろう。

そして、『他人を疑う』というのは相当ストレスが掛かる行為なのだ。意外と人間は共に過ごす人間に対して『この人は大丈夫だ』と思いたがって、思い込んでしまう所がある。溺死に偽装工作するところからしても渡辺容疑者は少なくともヤマダモモコ氏の前では『良き継父』を演じて見せていたのではないだろうか。

実際に社会では沢山再婚家庭があり、上手くいっている、努力をしているステップファミリーだって沢山ある。そんな中、半年近く新しい家族になる事前提で一緒に暮らし、同じく幼い息子を持つ世間的にもエリートな内縁の夫に息子を預けたヤマダモモコ氏を『男を見る目が無かった』『自分の息子を他人に預けるなんて』と批判するのは流石に酷だろう。

最後に、子育てと戦い悩む多くの人たちに笑いを届けてくれたヤマダモモコ氏とリュウくんに哀悼と感謝を

起こった事件とその背景を考えても悲しいけど、この愛情に溢れていたイラスト達が作者であるヤマダモモコ氏にとって、悲しい辛い思い出になってしまうとしたら、それもとても悲しい。もしかしたら今も、そしてこれからも、このイラストの数々を見ること自体が苦痛になるのかもしれない。

でも、この作品、イラストの中には確かな幸せが溢れている。悲しい事件で、卑劣な一人の男の手でリュウ君は亡くなってしまった。しかし、だからといってリュウ君の短い人生が全て不幸だったというわけではないだろう。そこには確かに母であるヤマダモモコ氏や前夫ヒデさん、そしてイラストを通してリュウ君の成長を楽しむ皆からの愛情に包まれた幸せな瞬間、時間があったのだ。そして、ヤマダモモコ氏のイラストエッセイとリュウ君は子育てと戦い悩む人々に癒しや励みを確かに与えてくれた。事件が起きたからといって、その過去や事実まで否定してはいけない。そこに幸せはあったのだ。

ここで何を書いたってきっと私の声がヤマダモモコ氏に届くことはないだろう。いや、誰のどんな声も今の彼女には届かないかもしれない。でも、思うのだ。

「もっともっと、一緒にいたかった。こんな母親のもとに生まれたばかりに、あんなにも可愛くて元気で人懐っこい息子の命がなくなってしまったこと。本当に本当に息子に申し訳なく思います」

FNN ONLINE  https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191204-00010016-fnnprimev-soci

そんな事を言わないで欲しい。きっとリュウ君はあなたの元に生まれてきて幸せだったよ。

こんな悲惨な事件は二度と起きてほしくない。リュウ君のご冥福をお祈り申し上げます。そして、温かい笑いをありがとう。

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