【映画】実写版シンデレラ【感想・考察・ネタバレ】エラの純真さという光によって深まってしまったトレメイン夫人の闇を考える

シンデレラ 実写

子供の頃繰り返し見たビデオがある。ディズニーアニメ『シンデレラ』だ。
幼少期からそこまでプリンセスストーリーに憧れていたわけではないが、とりあえず好んで見ていた。
多分、シンデレラが継母と姉二人に頑張って手作りしたドレスを破かれてボロボロの状態なのをフェアリー・ゴッド・マザーが『ビビディ・バビディ・ブー』で例の水色のドレスに変身させるシーンが好きだったから…というそれだけだったと思う。
そして、ビデオの箱にレンチキュラーの仕掛けがしてあって、角度によってシンデレラの変身前と変身後に代わるのがたまらなく好きだったのだ。

というわけでテレビ朝日で4/12に放送した実写版『シンデレラ』を見たので感想を書いていきたい。
この実写版については数年前に一度観ているのだが、コロナ禍で引きこもっている子持ち家庭にとってはこういう映画が放送してもらえるのは大変ありがたいのだ。録画し、3歳娘と一緒に改めて観ることとなった。

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Contents

以下、あらすじとネタバレ(感想混じりです)

裕福な商人の家に生まれたエラは父と母の愛に包まれて育つ

昔々ある裕福な商人の元に女の赤ちゃんが誕生しエラと名付けられる。父と母の愛情に恵まれて育ったエラは美しく賢く、そして清い心の持ち主に成長する。しかし、ある時母は病になり、若くして亡くなってしまうのであった。

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父の再婚相手としてやって来たトレメイン夫人。そして、トレメイン夫人の二人の娘、ドリゼラとアナスタシア

母の死からしばらく経ち、立ち直り健気に過ごしていたエラ。そんなある日、父は寂しさとエラに母親が必要だと考えたことから再婚することを決意する。相手は織物商の未亡人で二人の娘を抱えて苦労しているというトレメイン夫人。父親から話を聞かされたエラは驚き戸惑ったものの父の考えを尊重し受け入れるのであった。…まあ、この近代風の時代設定だということを考慮すると片親だとそれだけでハンデになってしまうので父親の言うことも分かる。

そして、やって来たトレメイン夫人とその娘のドリゼラとアナスタシア。トレメイン夫人も威圧感バリバリだけど最初からエラをいじめようとしている感じではない。飼い猫にルシファーと名付ける感性は好き。
義姉二人もバカで無神経だけど、原作の様に意地悪さが前面に出ていない。なんというか服装のセンスが派手だけど可愛い。ちょっとANNA SUIっぽい感じ。

しかし、カジノやパーティーで家を盛り上げようとするトレメイン夫人のやり方に馴染めないエラ。一層仕事に熱中する父にも寂しさを覚える。ある晩父にそれを訴えたエラに父も応じる。その様子を偶然見たトレメイン夫人はエラと父の間にある愛情の深さと死してもなお強いエラの母親の存在感の強さを見せつけられ、複雑な表情を浮かべるのであった…。

これはトレメイン夫人的にもキツイな…エラと父親と亡母の絆に入る余地のないって仕方が無いとは分かっていても寂しいよね。

その直後、父は仕事のために長旅に出る。旅立ちを見送る中でも愛に満ちたやりとりをする父とエラの様子に嫉妬したトレメイン夫人は、その後寂しさに涙を流すエラに『自分のことは”お母様”ではなく”マダム”と呼んで』と言い、『ドリゼラとアナスタシアは二人一部屋で狭くて喧嘩ばかりしている』と困ったようにエラに相談する。エラが思わず自室を譲ると言い出すと、トレメイン夫人は喜びながらもどさくさに紛れてエラを屋根裏部屋に追いやるのであった。

父の死以降、召使の様に使われるようになって行くエラ

しかし、それから少し経ったある日、エラとトレメイン夫人の元に信じられない報せが届く。何とエラの父親が旅先で病死してしまったのだ。エラは悲嘆に暮れ、トレメイン夫人は今後の暮らしを考え、絶望するのであった。

稼ぎ手と主人を亡くしてしまった屋敷で、トレメイン夫人はどうにか暮らしを保つために使用人を一人残らず解雇し、『悲しみを紛らわせるのに働いた方がいい』という口実を元にエラに一切の家事と雑用を押し付ける。そんな暮らしの中でエラへの扱いは徐々に”継子”、”義妹”から”召使”に格下げされていき、エラも自尊心を失っていくのであった…。

…いじめも虐待も最初は些細なことからどんどんエスカレートしていくものだよね。やってる側もやられている側も感覚がマヒしていくのだ。特に年端もいかないエラがそれに甘んじてしまうのは仕方がない。でも三人の食べ残しだけで食いつなぐって普通に餓死しそうだけどな…。

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”シンデレラ”というあだ名をつけられたエラはショックで家を飛び出す…そこでキッドと名乗る青年に出会う

そんなある日のこと。寒い屋根裏部屋で寝ることが出来ず、暖炉の残り火の前で寝ていたエラは灰まみれになってしまう。その様子を見たトレメイン夫人とドリゼラ、アナスタシアは『灰(シンダ)塗れのエラだから、シンダエラ…”シンデレラ”だ』という屈辱的なあだ名をつけてきた。

今まで耐え忍んできたエラであったが、”シンデレラ”という呼び名にたまらず衝動的に家出。馬にまたがって森へ逃げ込んでしまう。そこで、鹿狩りに来ていた青年に出会うのであった。

…『♪この手のヒロインが狩りを否定するのはなんでだろ~(なんでだろ~)♪』と歌いたくなってしまうのだが、とりあえずそれは置いておいて。

”キッド”と名乗ったその青年と良い感じになるエラ。キッドは『父親の見習いをしていて普段は王宮にいる』と言ったため、エラは彼が王宮に勤めていると勘違いする。…なんだその”大学名を聞かれて『東京の大学です…』と誤魔化す東大生”みたいなノリは。そんなキッドに互いに運命を感じながらもエラは名乗ることなく別れを告げるのであった。

そして、このキッドこそが王子なのであった。…アニメ版だと名前は”チャーミング王子”なのだけども、この実写版で”チャーミング”という名称は一切出てこない。エラにひと目惚れしているキッド王子に病気で余命間もない国王は『一度会っただけで何が分かるんだ』と過去のディズニー作品をぶった切る発言をする。そして、『結婚相手は相応の財力と土地を持つ国の王女でなくてはならない』と告げる。…まあ、当然だろう。 偉そうな感じの大公も『真実の愛とか言ってる場合ではない、国益を考えないと』と主張する。

一方でどこかロバート秋山っぽい顔立ちの大佐は王子の理解者ポジション。この近代ヨーロッパ風の王宮に黒人の大佐がいるのは不自然じゃ…と思わなくもないけど、実写版『美女と野獣』みたいに具体的な時代と国名は出していないので、まあ架空の国ということで受け入れられる。

どうしてもエラと再会し結婚するチャンスを掴みたいキッドは『戦争等で疲れた国民に楽しみを与えたい』という口実の元、『本来なら他国の姫たちとのお見合のために開かれる舞踏会に国中の未婚女性も招こう』と言い出し、国王達を説き伏せるのであった。…こんなメチャクチャな提案飲んじゃう辺り、国王も親ばかなんだろうな…。

舞踏会のために用意したドレスを破かれ失意のエラの前にビビデバビデブーおばさん、フェアリーゴッドマザーが現れる

『王子が国中の若い娘を舞踏会に招待する、王子の目に止まれば結婚相手に選ばれる』…その報せに国中が沸き、当然トレメイン夫人、ドリゼラ、アナスタシアも大興奮。『ドリゼラかアナスタシアを王子と結婚させる』…そう燃えるトレメイン夫人に『王宮で働いているであろうキッドと会いたい』と思ったエラは自身も舞踏会に行きたいと訴えるが当然一蹴される。しかし、エラは諦められずに三人の舞踏会用のドレスを準備する中、亡母のドレスを秘かに仕立て直し、舞踏会当日に改めて自身も舞踏会に連れて行って欲しいと懇願する。すると、トレメイン夫人とドリゼラ・アナスタシアは『みっともない使用人をお城に連れては行けない』『お前は薄汚いシンデレラなのよ』とエラのドレスを破り嘲笑し、さっさと舞踏会に行ってしまうのであった。

失意のエラは一人庭の温室で泣く。しかし、このタイミングで現れた謎の老女はエラに食べ物と飲み物を求める。悲しみに暮れながらもディズニーヒロインのエラは快く老女にパンとミルクを恵む。しかし、老女から善き魔法使いである”フェアリーゴッドマザー”の話を振られたエラは『そんなものは居ない、おとぎ話だ』とちょっとやさぐれる。すると、老女は自身こそがフェアリーゴッドマザーであることを明かし、エラを舞踏会に行けるように魔法をかけてあげるというのであった。
フェアリーゴッドマザーにはドジっ子属性が付いていたので色々とまごつくが、無事にカボチャの馬車とネズミの馬、ガチョウの御者、トカゲの従者を用意する。

そして、目玉の変身シーン。『母のドレスを使いたい』というエラの意思を尊重し、ちょっと色を変えるというフェアリーゴッドマザー。…いや、母ちゃんのドレスほぼ原形をとどめていないけどいいのか?…。変身後のドレスは青み強いけど、アニメ版のドレスの面影は残っている。
一方、髪型の方は全然アニメ版と違う。アニメ版の髪型だと現代っ子には受けが悪いだろうからな

それにしてもガラスの靴は本当にキレイ。靴擦れヤバいんじゃないだろうか…とか野暮な事は言ってはいけない。3歳長女が足をいじりながら口をポカンとしている。アニメ版よりガラスっぽくて本当にキレイ。

『魔法は12時になると解けてしまう』と忠告してエラを送り出すフェアリーゴッドマザー。かくしてエラはカボチャの馬車で舞踏会を目指すのであった。

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キッド王子と夢の様な時間を過ごしたエラ…しかしあっという間に12時になり、エラはガラスの靴を片方だけ残して去ってしまう

一方、その頃舞踏会には着飾った国中の若い女性が押し寄せていた。しかし、キッド王子はエラの事しか眼中になく、政略結婚の大本命であるシェリーナ王女を前にしても上の空。

…シェリーナ王女綺麗だよな。普通に考えたらこの人がいいんだろうけどね。
シェリーナ王女を差し置いて本当にいるかも分からない謎の娘を求めるキッド王子に大公がめっちゃ不満げなのも仕方がないわけだ。

ようやくお城についたものの尻込みするエラ。そんなエラにトカゲの従者が『今日は楽しみましょう』と優しく声を掛けて、エラは勇気を出して舞踏会に足を踏みいてるのであった。トカゲ、トカゲにしておくのがもったいないくらいに心がイケメン。

遅れて登場した美しき”謎のプリンセス”に会場中が目を奪われ、キッド王子もシェリーナ王女をほっぽって駆け付ける。エラはキッドが王子であったことに非常に驚くものの王子の最初のダンスの相手となり、そのまま城の奥に行き、会話に興じ親交を深めるのであった。…舞踏会のダンスシーンは華やかで素晴らしい。

しかし、これを面白く思わないのが大公。大公は勝手に王子の政略結婚の話を進めようと画策し、偶然その話をトレメイン夫人が耳にするのであった…。

城の園庭でまたしてもいい感じになり、王子がエラに申し込もうとしたその時、お約束の12時が近づく。エラはヒロインらしく事情も話さずキッドの元から逃げ、ついでに遭遇した国王にキットの良い所告げ褒めまくって立ち去る。

そんなエラの正体を掴もうとした大公の軍勢に追っかけられながらも慌ててカボチャの馬車で逃げかえるエラ。逃げてる途中で魔法がどんどん解けていき、馬車が元のただのカボチャに戻り、閉じ込められそうになったりと大騒ぎに。…魔法が解けていく演出がコミカル。

間一髪家に戻れたエラ。元のボロボロのドレス姿でネズミ達と大雨にフラれるが、幸せな時間の余韻に浸る。

その後帰宅したトレメイン夫人達から『謎の女が王子を独占した』という愚痴を聞かされるが、エラは上機嫌でその話を聞く。

そんなエラの様子を鋭いトレメイン夫人は不審に思うのであった…。

謎のプリンセスの正体がエラだと見抜いたトレメイン夫人はガラスの靴を叩き割ってエラを監禁する~3歳長女はこのシーンでギブアップ

その後、エラは屋根裏部屋に密かに隠している宝物入れにガラスの靴を入れて、舞踏会の事を克明に書いた日記と共にしまう。

そして舞踏会直後に死ぬ国王。…舞踏会で張り切り過ぎたんじゃないかと心配になる。
最終的には『愛する者と結婚しろ』とキッドに言い残してこの世を去るのであった。…急に言うこと変えたのは死ぬ間際で弱ったのか、はたまた小娘(エラ)の一言二言で考えを変えたのか。

…王国の今後と愛の両方を手に入れるために、キッドはシェリーナ王女と結婚して、身分の低いエラの事は寵姫…公妾にするのが妥当なんじゃないか?とか思ってしまうのだけど夢と魔法のディズニーの世界でそんなことは口が裂けても言ってはいけないんだろうな…。

そして、新国王となったキットは『ガラスの靴を履いていた謎のプリンセス』を探すことに。『ガラスの靴の片方を持っている娘は名乗り出るように』『ガラスの靴がピッタリ合う娘を探す』というお触れを出して、謎のプリンセス探しが始まる。ここは夢と魔法の世界なので『こんなことに我々の血税を使うのかぁっ』と激怒するような民衆はいない。国王になって最初にする事が女を探す事って中々ヤバイと思うのだけども、国民が基本的にファンタジー脳だからガラスの靴の片方を持って各地を巡る兵隊の一行をみんなワクワクしながら受け入れ、ガラスの靴に足を入れていく。

…一人くらい足のサイズや形が一緒の人っていそうだけどどうなんだろう。面白半分で足を突っ込んだら全然関係無いのにすっぽりハマっちゃったらどうしよう。問答無用で王子の目の前に連れて行かれるのだろうか…。

その知らせを聞いたエラは屋根裏部屋に隠していたガラスの靴を探すが見つからない。エラの様子を怪しんだトレメイン夫人が舞踏会の夜の事を綴った日記と共に見つけたのだ。

『自身もかつては美しく、愛する人との間に娘二人を設けたが、夫を亡くし苦労をし、その後にエラの父と再婚したが若く美しいエラに対して嫉妬した』…そんな自身の境遇と本音を初めて明らかにしたトレメイン夫人。ガラスの靴を手に持ち、『王子と結婚したら王家の長として扱え。そしてドリゼラとアナスタシアに条件の良い縁談を用意しろ。そしたら一緒に王宮に名乗り出にいってやる』と言い出す。…いや、娘達の良縁はともかく長として扱えっていくらなんでも無茶苦茶だぞ、トレメイン夫人。王族であるキッドの事を見下し過ぎじゃない?

当然、エラはそれを拒絶。『父を貴女から守ることはできなかったけど、キッドを守りたい』と言う。…この言葉は流石にトレメイン夫人に来るよな。自分で自分が悪役だと十分自覚しているだろうけど、別にエラの父親を食い物にしたかったわけではないだろうに…。

そのエラの態度に立腹したトレメイン夫人は容赦なくガラスの靴を叩き割る。…石畳の階段から落ちて割れなかったガラスの靴だけど、こういう衝撃には弱いのかな…なんて考えてしまう。

今までトレメイン夫人の仕打ちに耐えてきたエラだったが、これには呆然とし『何故なの?』と初めて問う。すると、トレメイン夫人はこう答えるのであった。

「あなたが若くて純真で善良だからよ」

…これが全てなんだよな。エラが善良でひたむきであればあるほど、トレメイン夫人は自身の醜さを認めざるをえなくて、それが苦しくてまたエラを虐待してしまうという悪循環。トレメイン夫人はガラスの靴を叩き割るに飽き足らず、そのままエラを屋根裏部屋に監禁してしまうのであった。

…ちなみにこのシーン、3歳長女にはとてもショックだったみたいで、「もうみない…」とふて寝してしまった。え??ここで止めちゃうの、それじゃあまるでバッドエンドみたいじゃないですか!

慌ててH&Iの『屋上の少女』のコマーシャルみたいに「待って!お話はこれからなのに!!」とすがりついてみたけどダメだった…。

屋上の少女
H&IのCM『屋上の少女』…今見ても良いCM

仕方がないので長女が寝入った後に一人で続きを視聴。

その後、トレメイン夫人は伯爵の地位と娘二人の条件の良い縁談を条件に、キッドに政略結婚をさせたい大公と手を結ぶ。エラを監禁したまま“謎のプリンセス探し”を形だけ行って終わりにし、キッドに諦めさせようと画策するのだ。

偶然と王子の執念でエラは晴れて真のプリンセスとなるのであった

そして、ついに大佐と大公が率いる“謎のプリンセス探し”の一行がエラの家にもやって来る。躍起になってガラスの靴に足を入れようとするドリゼラとアナスタシアを生ぬるい目で見守った後、撤収しようとする大公。屋根裏部屋に閉じ込められていたエラは外の様子が分からないために“謎のプリンセス探し”の一行が来ていることも分からない。

しかし、偶然歌って踊っていたところに鼠共が窓を開けたことで歌声が外に漏れ、ロバート秋山風の大佐が『もう一人娘がいる!』と気付く。うん、日頃の行いの良さ!大公が慌てて強引に撤収しようとするが、そこに兵隊に変装して紛れ込んでいたキッドが正体を現し、エラを連れてくるように言う。…国王陛下が兵隊に紛れ込んでいるとかフットワーク軽すぎィ!!国政はどうしたよ。

本当はプリンセスでもなんでもない、継母と義姉に“シンデレラ”という屈辱的なあだ名を付けられ虐待されている自身が国王となったキッドに受け入れられるか不安に思いながらもキッドの元に向かったエラ。

キッドもエラも互いの“ありのまま”を受け入れることを誓い合いキスを…しようとしたところで乱入してくる義姉二人。
取って付けた様に謝る二人に呆れながらも、苦笑してキッドと共に部屋を出る。そんな二人をドリゼラとアナスタシアは笑顔で見送るのであった。…よくそんな笑顔浮かべられるな、お前ら…。

そして屋敷から出る直前、階段で立ち尽くすトレメイン夫人にエラはただ『あなたを許します』とだけ言い、立ち去る。

最後まで善良さと清純さ、そして寛大な心を保ったエラのその言葉にトレメイン夫人は崩れ落ちた。トレメイン夫人とドリゼラとアナスタシア、そして大公はその後、国を出て2度と戻ってくることはないのであった…。…この言い方だとキッドによる国外追放だったのか、自主的に出ていったのか定かじゃないけど、雰囲気的に後者っぽいな。

そして、エラとキッドは無事に結ばれた。二人は立派な君主とその妃となったのであった。

~終わり~

以下、感想と考察

継母、トレメイン夫人の闇にフォーカスした作品

『マレフィセント』とかもそうだけど、ディズニー作品は実写化すると悪役の方にフォーカスする。しかし、『マレフィセント』が『マレフィセントは実はいい人でした』という風に描いているのに対して、この『シンデレラ』ではあくまでトレメイン夫人を悪役のまま、その苦悩をしっかり描いているのがすごい。
エラをいじめるに至った経緯がリアル過ぎて何ともやるせない気持ちになる。シンデレラを演じたリリー・ジェームズの可愛らしさとか魔法の演出やドレス、ガラスの靴い舞踏会の煌びやかさも素敵なのだけど、それ以上にケイト・ブランシェットが演じるトレメイン夫人の一挙手一同が気になってしまうのだ。

トレメイン夫人は何故エラをいじめたのか?…トレメイン夫人の孤独を考える

トレメイン夫人がエラを虐待していたその理由…トレメイン夫人自身が『あなたが若くて純真で善良だから』と言っているが、それを見て『あー、この継母は若くて美人で可愛いシンデレラに嫉妬したんだなー、ババアの僻み怖いww』と片付けてしまうのはあまりに浅薄だろう。

この映画の様子を見る限りトレメイン夫人は初対面からかなりの威圧感を放っているが最初からエラをイジメる気は無かったんだと思う。

織物商の愛すべき夫に先立たれ、二人の娘を抱えて苦労してきたトレメイン夫人。二度目の結婚…エラの父親との再婚は『二人の娘を無事に育て上げ、生活をしていきたい』『エラに母親が欲しい、そして寂しさを紛らわせたい』という互いの利害の一致によるものであり、そこにおとぎ話の様な純粋な愛は存在しない。

しかし、それを分かってはいながらもトレメイン夫人は非常に寂しかったのではないだろうか。エラからすると信じられない方法だが、トレメイン夫人は賭博と酒を用いた飲み会で彼女なりにエラの家を盛り上げ交友関係を広げようとしていた。トレメイン夫人も新天地を愛したかったし、エラの父やエラとちゃんとした家族になりたかったんじゃないだろうか。

でも、あまりにもエラと父、そして亡母の絆は強く、トレメイン夫人には立ち入る隙が無かった。パーティの合間エラの父の書斎を訪ねようとしたトレメイン夫人はエラと父が亡き母について語り合っている様子を見てとても傷付いた顔をしている。エラの父もトレメイン夫人と再婚したものの結局寂しさを仕事にぶつけている感じでトレメイン夫人と向き合っている感じはしなかったし、どうしてもエラと父の世界に紛れ込んで来た”余所者”の様な図式になってしまっており、トレメイン夫人もそれを自覚しながらどうしようも出来なかったのだろう。

そういうわけなので、エラの父が仕事で長旅に出た直後に『“お母様”ではなく“マダム”と呼んで』と言ったのも、『だって、アナタは私の事を“母親”だなんて思ってないでしょ?最初に拒絶したのはアナタの方なのよ』というトレメイン夫人の抗議…というかいじけた態度の表れだったのだと思う。

『部屋を明け渡して屋根裏に行って欲しい』と仄めかしたのもほんのちょっとしたいじわるだったのだろう。元々は父親が帰って来るまでのつもりだったわけだし。しかし、この直後にエラの父親が急死したことで、エラへの虐待を止められる人がいなくなり、また稼ぎてがいなくなったことで金銭的&精神的余裕をトレメイン夫人は失ってしまい虐待は加速してしまったのだ。

強い光は濃い影を生む…いい子過ぎるエラにいびりを止められなくなってしまうトレメイン夫人

そして、この最初の”いじわる”の時にエラが『は?何であのブス二人のためにアタシが部屋を譲らなきゃいけねーんだ?頭湧いてんのかババア』みたいな態度を少しでも見せていればこの後のトレメイン夫人との関係は全然違って来たんじゃないかと思う。エラは驚き戸惑ったものの笑顔で優しく自ら部屋を明け渡した。

これが却ってトレメイン夫人を苛立たせ嗜虐心を刺激してしまうのだ。

このエラ役はリリー・ジェームズがオーディジョンで勝ち獲ったものなのだが、実はその前にエマ・ワトソンにオファーが来ていたものの、エマは断ったのだという。そして、後にエマは実写版『美女と野獣』の主人公ベルを演じることになる。エマ・ワトソンはエラ役を蹴ってベルを演じた理由について『シンデレラには共感できなくて、ベルの方を演じてみたかった』と言っているがなんか分かる。エラっていい子過ぎるし受け身過ぎるんだよね。

現実でも『いい子過ぎてムカつく』『下手に出られすぎると逆にバカにされている気がする』という話はよく聞く。トレメイン夫人のこのエラへの虐待はこれに尽きるのではないだろうか。

もちろん、エラに落ち度はないし、いじめをするトレメイン夫人が100%悪い。そして、トレメイン夫人自身がそれを一番分かっている。エラをイジメればイジメるほど、『イジメをする最低な継母とそれを健気に耐える心の美しい継子』という構図が際立ってしまう。思い出の屋敷を守るためにエラが清く善良な姿勢を貫けば貫くほど、自身の最低さを見せつけられるのだ。

『何故私に酷いことをするの?』と言うエラの問いに対してどこか苦しそうに『あなたが若くて純真で善良だから』と答えたトレメイン夫人。エラの善良さと清純さ…そして王子とだって結婚できてしまう可能性に満ちた若さという光が人生に疲れて擦れてしまったトレメイン夫人の影を際立たせる…トレメイン夫人はそれに苦しんでいたのだろう。エラをいびるトレメイン夫人はイキイキとしている…というよりは自身もどこか傷付き病んでいるように見える。

その苛立ちからますますエラへのいじめを加速させていくという負のスパイラルの中で、トレメイン夫人は本当は誰かに止めて欲しかったんじゃないのかな…とまで思ってしまう。あるいは、どこまでも”いい子”なエラをブチ切れさせて自身を罵倒させるなりしてエラを自分と同じ土俵まで引きずり降ろして安心したかったのだろう。

しかし、エラは最後までいい子で別れ際には『許す』とまで言って去っていく。そして、それを聞いたトレメイン夫人は崩れ落ちる。嫌味を言われたり罵倒されたり、何だったら罰を与えられた方がよっぽど気持ちの面では楽だったのではないだろうか。

義姉、ドリゼラとアナスタシアの罪悪感の無さについて思う事~いじめっ子なんてしょせんそんなもの

とまあ、長々と継母であるトレメイン夫人についての考察を述べたが、義姉ドリゼラとアナスタシアについても色々と思ったことがある。アニメ版の義姉二人は純粋に性格が悪いといった感じだったが、こちらはそれなりに愛嬌と茶目っ気がある感じに描かれている。しかし、やや無邪気に描かれている分、エラにシンデレラというあだ名をつけ嘲笑うシーンの残酷さが際立っている。

そして、エラがキッドに選ばれたと知った時、まだ『あのシンデレラが選ばれたんですって!私達の方が美人なのに!!許せない、ムキー(怒)!!』とかするならまだ良かった。しかし、そうではなかった。ドリゼラとアナスタシアはエラと王子のキスの瞬間に闖入したかと思えばエラに対しておざなりな謝罪をした上で『可愛い妹』と呼び、キッドと一緒に去っていくエラを見てニコニコしているのだ。個人的にこのシーンにゾッとしてしまった。

この義姉二人が何でこんな笑顔でエラを見送れるかというと、自分達がエラをイジメていたという実感が乏しいからに過ぎない。『こき使ったりしてたけど、それはお母様がそうしてたからそうしてただけだし、変なあだ名つけたりしたけど、可愛がってたよ』位にしか思っていない。”シンデレラ”というあだ名をつけられたことでエラがどれだけ自尊心を削られていたかなんて全く想像もしていないし、理解もできないのだろう。現実で例えるならイジメられた子が自殺でもしちゃった時には葬式で『どうして死んじゃったの!?あんなに一緒に楽しく過ごしてたのに!!』とか言って号泣するタイプのいじめっ子だ。苛め抜いて苦しめているという自覚を持っていたトレメイン夫人よりもよっぽど質が悪いのだ。

こんな思考回路だからこそ、ドリゼラとアナスタシアはラストあんな取って付けた様な適当な謝罪をし、それでエラに許されたと本気で思っているのだろう。それで、『エラが王子に選ばれたなんてビックリ!…でも、幸せになってね★』みたいな笑顔を浮かべたのだろう。これには流石のエラも苦笑するしかなかったようだ。

エラは家を出る直前、階段で立ち尽くすトレメイン夫人には『許す』と言ったものの、わざわざ謝りに来たドリゼラとアナスタシアには何も言わなかったのは…そういうことなのかなと思ってしまう。

まとめ~大人も子供も楽しんで見れる実写版『シンデレラ』

とまあ、少々ひねくれている私は継母や義姉についてばかり色々と考察をしてしまったが、この実写版『シンデレラ』は映像も華やかで美しく、演出もディズニーらしい楽しさに満ちているので深いことを考えずとも大人も子供も楽しんで見れる作品。

1950年版のアニメの『シンデレラ』を知っている人はアニメ版と比較して見ても楽しいと思うのでオススメできる。

…私は当面、どうやって長女の機嫌を取ってハッピーエンドのラストシーンを見せるか考えなきゃいけないな…。

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