【漫画・絵本】いけちゃんとぼく【ネタバレ・感想・考察】時を超える愛と恋を考える【オススメ】

いけちゃんとぼく 表紙

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大人でも楽しめる絵本…というジャンルがある。面白いと思う絵本は沢山あるが、今回紹介、オススメしたいのは西原理恵子著の『いけちゃんとぼく』である。

独特の色使いと平易な言葉で描かれた本作は、絵本と漫画の中間とでもいうスタイルをとっており、子どもは絵本として、そして大人は漫画として楽しむことができるのだ。

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Contents

あらすじ

『ぼく』のそばには物心ついた時から、不思議な生き物『いけちゃん』がいる。いけちゃんの正体はよく分からないが、『ぼく』が一人でいると現れて、なんとなく見守ってくれるのだ。いけちゃんはカラフルですぐに色が変わる。暖かいと膨らみ、うれしいことがあると数が増え、困ると小さくなる。どうやら女の子であるようで、『ぼく』が他の女の子と仲良くすると拗ねて怒って真っ赤な丸になる。ぼくはそんないけちゃんが大好きで、ずっと仲良しだと信じていたが…。

以下、見どころと考察(ネタバレあり)

子どもの世界の輝きと理不尽さ…そして、そんな世界で寂しいときに寄り添ってくれる謎の存在、『いけちゃん』

子どもである『ぼく』の生きる世界は毎日が新鮮で輝いている。と同時に理不尽で残酷でもある。海で溺れて死にかけても誰もそのことに気付いてくれなかったり、強い子からはいじめられる。『妹がいるお兄ちゃんだから』『長男だから』という理由で家族からは厳しくされる。『ぼく』は子どもながらに、世知辛さを感じており、色んな不満を抱いている。  

そんな『ぼく』に寄り添ういけちゃんは『ねないこだれだ』のおばけを可愛らしくしたような見た目で、カラフルに色が変わり、大きくなったり小さくなったり、嬉しかったり悲しかったりすると増える。でも、いけちゃんは『ぼく』が悪いことをすると叱ったり、軽く頭を噛ってきたりはするが、基本的には一緒に遊んでくれたり、お喋りしたり、夜中のトイレや家出に付き合ってくれるだけだ。ドラえもんの様に特別な道具を出して『ぼく』を取り巻く具体的な問題を解決してくれる訳ではない。

しかし、ただ、それだけのことが『ぼく』にとって何よりも救いになる。幼い『ぼく』が父親を亡くし、心の整理が付かず、一人葬儀場を抜けて野原で座り込んでいると、静かに寄り添ってくれるいけちゃん。海で溺れることが何よりも嫌いな『ぼく』に対して、父の死を100回くらい海で溺れた感じ…『100うみ』と整理した上でこう語るのだ。

せかい中で人よりはやく大人にならないといけない子供っているんだよ。キミもその中のひとりなんだよ

いけちゃんとぼく 西原理恵子

いけちゃんの言葉から『ぼく』は世界中に『100うみ』があるということを理解する。そしていけちゃんが野原で待っていてくれるというので、安心して葬儀場に戻り、沢山の弔問客の前でしっかりと挨拶をし、父親に別れを告げることができた。そして、世界中の『100うみ』を歩いている子供たちに思いを馳せて、『みんなけっこう大丈夫なんじゃないか』と思えるまでになるのだ。

友人の様に対等で、それでいて、どこか大人の様な包容力のあるいけちゃん。
しかし、次第に『ぼく』が成長するにつれて姿を見せる頻度が減っていくのだ。

ラスト明かされる、いけちゃんの意外な正体

物心ついたときから、寂しいときにはずっとそばにいてくれたいけちゃん。しかし、いけちゃんは『ぼく』が大きくなるにつれて、少しずつ姿を現すことが減っていく。『大丈夫そうだったから』『もう男の子が終わっちゃった』と言って。

そして、『ぼく』が青年になった時、いけちゃんは『ぼく』に卵焼きの作り方を教える。じゃことネギと醤油を入れた卵焼きは『いけちゃんの大丈夫の味』だという。これさえあれば、ひとりぼっちの時も乗り越えられると。
そして、いけちゃんは唐突に『さよなら』と『ぼく』に告げる。そこで、自分の正体を明かすのだ。

わたし、あなたのさいごの恋人だったの。

いけちゃんとぼく 西原理恵子

しわしわの手を取り合う老いた男女の姿を思い返すいけちゃん。

ただ、あんまりにも短い恋だったから、わたし、もういちどあなたにあいにきたの。

いけちゃんとぼく 西原理恵子

『ぼく』の子供時代を見ることができて幸せだったと語るいけちゃん。『ぼく』にありがとうと告げると、それから姿を消すのであった。
それから『ぼく』は時々、いけちゃんがこちらを見ている、近くを通りすぎたという感覚を持つことがあったが、18歳の時、大学の最初の授業で隣に座った女の子に初めての恋をすると、ついにいけちゃんの気配は完全に消えるのであった。

さよなら。わたしたち、とても短い恋をしたの。

いけちゃんとぼく 西原理恵子

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まとめ~子どもの絵本としても、大人の漫画としても良作

本作は、西原理恵子氏の息子が幼い頃に落書きした、いわゆるイマジナリーフレンド(想像上の友達)から着想を得たものだという。そして、そこから『最後の恋人』というところまで発想を飛躍させた西原氏。母親としての眼差しと、恋する女性としての目線の双方を持っているからこそ書けた作品だと言えるだろう。(『いけちゃんとぼく』自体は高須院長と付き合う前に描かれた作品であるが。しかし、『ダーリンは70歳~高須帝国の逆襲』を読むと分かるのだが、『ぼく』の幼少期の様子と、高須院長のそれはとてもよく似ている)
人はいくつになっても恋をする、できる。『老いらくの恋』を恥ずかしい、奇異なものと片付ける人も少なくはないがそれはあまりにも不粋だろう。人が誰かに恋をするのはとても自然なことなのだから。

人は必ず老いる。そして死ぬ。それは誰しも逃れられない現実で、やはり恐ろしく、寂しいことでもある。そんな中、いくつになっても変わらない恋心と、深い愛情を携え、時間を超えてやってきた『いけちゃん』の存在は大人の心にも響く優しく切ないファンタジーなのだ。

豊かな色彩で描かれる山や海といった自然、子どもの世界特有の理不尽さを描く本作は、子どもの共感を得られる絵本であるだろう。と、同時に大人にとっても色々と考えさせられる漫画である。特に作者である西原理恵子氏のあとがきは、男の子を持つ親なら色々と共感できるのではないだろうか。西原理恵子氏特有の下品さもほとんど無い作品なので、絵本としてもマンガとしても、自信を持ってオススメできる作品である。

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2件のコメント

    1. ぽん酢さん

      コメントありがとうございます。
      『ダーリンは70歳~高須帝国の逆襲』もそうですが、色々なところで高須氏が語っている幼少期の様子と本作の主人公の設定…比較的裕福なインテリタイプでガキ大将から目をつけられイジメられた。幼少期に父を亡くす。母が多忙で、厳しい性格の祖母におもちゃを捨てられたことがある。大学進学を機に上京。そこで隣の席で講義を受けていた女生徒と恋に落ちる(高須氏の場合、その女性が後に妻となる)…といった点ががかなり似ているので記事の様な書き方をしたのですが、ご指摘の通り元夫である鴨志田氏もモデルになっている可能性は高いですね。

      恐らく、特定の誰か一人というより、今まで西原氏が関わって来た男性や息子さんを通して見た”男の子”像を描いているのだと考えております。

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