【漫画】ママだって人間【感想・ネタバレ】妊産婦の性欲、そして夫婦生活…『母がしんどい』の田房永子が描く赤裸々な出産育児コミックエッセイ

ママだって人間 表紙

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出産や育児をテーマにした作品は数多い。しかし、『母性』『赤ん坊』『こども』の存在に焦点を当てているものが大半で、『産前産後の身体の変化』や『夫婦関係』『夫婦生活』に重きを置いているものは少ない。今回紹介する『ママだって人間』は、『妊産婦の性』に言及した数少ない作品と言えるだろう。作者は『母がしんどい』『キレる私をやめたい』の田房永子氏だ。自身の経験を積極的に作品へと昇華する彼女は、本作では自身の産前産後の心身の変化を赤裸々に描いている。

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上記の説明からも分かるように、この作品は『性的なもの』への言及が非常に多く、性的なワードも作中連呼されまくりなのでそういったもの、作品に苦手意識や嫌悪感を持つ人は、本作を読むのはやめておいた方が良い(この記事を読むのも。表現はかなりマイルドに変えてあるが)。また、同じ田房永子作品である『母がしんどい』や『キレる私をやめたい』とキャラクターの造形が違っており(永子自身や夫も)かなり生々しいので面食らう人も多いだろうので、『母がしんどい』の簡素な絵柄が好き…という人は、一度本作の絵柄を確認してから読むことをオススメしたい。

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Contents

以下、あらすじ、ネタバレ

第一章 妊婦だって人間~自身の身体の変化と性欲に悩むエイコ

つわりは母性でなんとかなる?それよりも『妊娠中のムラムラ』と『妊婦のセックス』問題で悩むエイコ

エイコ(32歳)は妊娠2ヶ月目。つわりで非常に苦しんでいた。つい最近まで平気で焼肉を食べていたのに、今では1日に桃半分しか食べられない。そんなエイコは高校の女教師を思い出す。妊娠していた彼女は『つわりは本当に辛かったが母性で乗り越えた』と語っていた。が、しかし、彼女のその言葉は現在つわりで苦しむエイコの心にいまひとつ響かない。むしろ、昔どこかで読んだギャグ漫画のキャラクター(性行為中の男女)の『子どもを生んだらアソコのしまりがよくなった。お医者様がきつめに縫って狭くしてくれたから』というセリフがひたすら脳内をリフレインし、それを希望に日々を過ごしていく。『赤ちゃんを思う気持ち』が自分にはないのかと不安に思うエイコは、既に中絶可能な時期を過ぎていることを確認して、安心し、やはりギャグ漫画のキャラクターのセリフを頼りに頑張るのであった。結局『母性』は役に立たなかったのである。

そして、つわりが軽くなってくると、エイコは今度は性欲を持て余すようになる。寝ていると『夢ーガズム』…睡眠中にオーガズムに達してしまうエイコ。しかし、『妊娠中のオーガズムはNG』と妊娠情報雑誌で目にして困惑する。オーガズムは子宮を収縮する動きであるため、早産につながることがあるというのだ。しかし、今度は乳首が次第に敏感になっていき、少し触っただけで達する様になってしまったエイコは毎日自慰行為をするようになってしまうのであった。だが、次第に自慰行為、下腹部がギューっとなる感覚を覚えたエイコは怖くなり自慰行為をやめた。すると、強烈な眠気に襲われるようになり、眠るとまた『夢ーガズム』に達する…。
エイコは自身の性欲や『夢ーガズム』に悩むが、産婦人科医にも友人にも誰にも相談できずに悶々とした日々を送るのであった。

そんなエイコは意を決して、このことを夫に相談した。すると逆に夫から『エイコの妊娠以降、自身も性欲を持て余していてTENGAの購入を考えている』と打ち明けられる。以前はそういったものに興味がないと宣言していた夫の告白に驚くエイコ。しかし自身の身体の変化(陰部がやや下方に下がり充血気味)を感じており、つわりの名残でまだ触れ合うことに抵抗があったエイコは快諾するのであった。そして、TENGAが4本家に届いた。しかし、興味を持つエイコに対して、夫は『自分一人で使うから』と素っ気ない態度を取る。『二人で選んで買ったのに、一人で使うとはどういうこと』と抗議をするエイコ。それを無視する夫に激怒し、エイコはTENGAをゴミ箱に叩きつける等暴れ、結果的に夫婦二人で使用するということで落ち着いた。

元々自身の体型にコンプレックスを持っていたエイコは行為中に自身の身体全体が見えぬように、腹部周辺に布を掛けるようにしていた。しかし、『妊娠した=腹が出るもの』という免罪符を得て、初めて自身の裸体を解放してセックス出来るようになり、喜びを感じる。TENGAを自身の陰部付近に持ち行為に及ぶと挿入やオーガズムが無くとも充足感を得られ、エイコは満足するのであった。

母親学級カースト…母親達の態度に微妙な思いをし、そして『胎児のアソコの呼び方』に疑問を持つエイコ

区の母親学級へやってきたエイコ。そこの自己紹介で皆が『×か月まで働いてしまった』等、働いていることを懺悔する様な言い方をするのに違和感を持つ。本当は色々と言いたいことがあったエイコだったが、自己紹介は無難に済ませた。
また、グループ別けされ、同じグループになった母親の感じの悪さに辟易する。エイコは『母親』『ママ友』といった世界が学生時代の『スクールカースト』に似ている世界であると気付き、嫌な気持ちになるのであった。そして、栄養士が高圧的に『子どもが健康で長生きするかは母親の作る食事にかかっている』『優秀な子孫を残せ』と語るのを受け入れられず、周囲の母親達がそれを疑問に思う様子もなく、受け入れていることに面食らう。

その後、赤ちゃん人形を使ったオムツがえの練習が行われる。赤ちゃん人形(♀)の陰部の形に『赤ちゃんだとこんなもの?』と疑問を持ったエイコは横にいる母親にそれとなく尋ねるが、思いっきり無視されてしまう。気まずさと恥ずかしさでいたたまれなくなったエイコ。自己紹介で余計なことを言わなくて良かったと思いつつ、黙ってオムツをかえるのであった。

そして、健診に行ったエイコはお腹の子が女の子であると告げられる。情報雑誌ではエコーで見える女性器は『木の葉』と表現されている。自身の目でそれを確認したいエイコは『どこを見れば分かるのか』と尋ねるのだが、担当医(男性)は『ここにこの…』とまるで『ピー音』の様に消音して語るので、エイコは驚く。医師まで『女性器』については語りたがらないのである。

実母には教えない~毒親持ちの苦悩

順調な妊娠生活を送るエイコであったが、一つだけ悩みがあった。それは実の両親(特に母親)であった。いわゆる毒親である両親と4年前に会うのをやめたエイコは、妊娠したことも伝えていないのである。当初、入院する病室をみて、『ここなら一時間くらい会えそう』と思っていたものの、謎の行動をするであろう母を思い浮かべると、既に今から混乱し苦しくなってしまう。結局、夫と話し合い、『子どもが生まれることだけメールで告げる』と決めたエイコ。まだどこかで『自分が我慢すればいいのでは』という思いもあるものの、『赤ちゃんとの出会いを楽しむ』と前向きに考えていくことにするのであった

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『乳首革命』と『安産教室』、そして『出産は、痛いよ』の呪縛~不安を一つずつ解消して出産を受け入れるエイコ

乳首の張りを感じていたエイコは助産師の乳首マッサージを受ける。乳首の感度が上がっていたこともあり、恥ずかしさから赤面するエイコだったが、マッサージを受けるうちに『おっぱいがイヤらしい、セクシャルなもの』という概念が消えるのを感じた。

それ以降、安産教室の、安産体操等も恥ずかしく感じることがなくなったエイコ。体操後の質問コーナーで『安産過ぎて家で生まれそうになったらどうすればいいか』と助産師に質問する。エイコは自身が昔から安産体型と言われたり、家で子どもを生むことになった人の話を聞いていたため、不安を持っていたのだ。他の妊婦に『そんなことは滅多にない』と言われて恥ずかしくなるエイコ。しかし、助産師は笑うことなく普通のこととして的確な対処法を教えてくれたため、エイコは安心できたのだった。

一方、予定日まで1ヶ月をきった頃から、エイコは急に周囲から『お産はすごく痛い』と脅すように言われることが増える。今までお産を楽しみにしていたのに恐怖感を抱いてしまったエイコ。しかし、安産教室で習った呼吸法やイメトレ、スピリチュアル、『ネガティブな意見は無視!出産なんて片手でチョイ』という先輩ママの檄で、恐怖感を払拭し、またお産を楽しみに出来るようになったのだ。しかし、エイコは予定日過ぎても陣痛は来ず、担当医は陣痛促進剤の利用を検討するのであった。

実録!出産祭り~お祭り気分の出産記録

陣痛促進剤を投与されたエイコは予想外に出産に時間が掛かりそうなことに落胆するも受け入れることにした。呼吸法やイメトレを駆使すると、助産師が驚くほど痛みに堪えることができた。しかし、陣痛に耐えて7時間、担当医から『あと1時間で子宮口が全開にならなかったら続きは明日にしよう』と言われてエイコは愕然とする。今日なんとかして産みたい…そう思っていると願いが通じたのか急に子宮口が全開になった。そして、助産師から『会陰切開するか否か』と軽い調子で尋ねられ、エイコは好奇心から『切ってみる』と答える。そして突然自分の陰部に赤子の頭部の様な感触があるのを感じ、実際に手で触れてみて、赤子の頭部がそこにあるのを確認して感動するのであった。

そして、お産はクライマックス。かけ声やスピード感が『まるでお祭りのようだ』と感じるエイコ。エイコは『赤ちゃんは別の空間にいて、輪切りでテレポーテーションされて陰部から出てくる』とイメージする。そして、会陰切開が間に合うことなく、赤ちゃんを生むのであった。そして、赤ちゃんの可愛さに感激するのだ。

絶望~産後、赤ちゃんの世話をしながら憂鬱になっていくエイコ

出産直後は異様にテンションが高かったエイコ。しかし、産後2時間後には個室で母子同室が始まり、助産師から簡単なオムツの説明を受け終えると『これをこれから私が毎日やるの?』とぎょっとする。そして、翌朝…泣き叫ぶ赤ちゃんを抱えるエイコは憔悴しきっていた。 

大変なものを生んでしまった

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一晩一緒に過ごした夫もまた精気を失っていたが、夫は仕事に行く。
赤ちゃんと二人きりになるエイコ。赤ちゃんは可愛かった。しかし、一度泣き始める形相が一変する赤ん坊に恐怖も感じる。エイコは女優の小雪に思いを馳せる。出産後のインタビューで『産後1ヶ月は赤ちゃんを可愛いと思えない時もあった』と語っていた小雪。そんな小雪に猛烈に会って話をしてみたいと感じるエイコ。しかし、扉をノックして現れたのは小雪ならぬ大雪…、太った強そうな母乳指導の助産師。スパルタな指導で『赤ちゃんに乳首を吸ってもらえ』という助産師。しかし、言われた通りにすると、翌日から乳首に激痛が走るようになり、エイコはより一層ボロボロになっていく。

乳首も痛いし、避けた会陰も縫ってあるから痛い。出産直後のハイテンションはどこへやら、エイコは自身の置かれた状況に恐怖し始める。しかし、赤ちゃんが泣くと、見えない糸で操られているかのように自然と体が動く。そんな自分を『マリオネットの様だ』と感じるエイコ。赤ちゃんの世話は辛いが赤ん坊は超かわいい。超かわいいけど、身体検査等で離れられるとホッとする。精神的に不安定になったエイコは泣き出してしまう。急に『自分の人生は終わった』という錯覚にとらわれたのだ。しかし、助産師から『それが産後うつ』と言われると、『なんだ、産後うつか』とあっさり落ち着くのであった。

産後の変化~友人にも言えなかった『あること』…そして、夫への愛情を再認識するエイコだったが…

お見舞いに来た友人と会話するエイコ。エイコは出産して思ったこと、不安な気持ち…そういった、とりとめないことを延々と喋り続けた。そして、友人はそんなエイコの話にちゃんと付き合ってくれ、エイコは深く感謝する。鏡に映った、疲弊のあまり別人のようになった自分を見ながら、『友人がこんな顔をしてるときには、いっぱい話を聞いてあげよう』と心に誓うのであった。

しかし、エイコは友人にも言えなかったことが一つだけあった。それは産後、初めて風呂に入ったときだった。出産したにも関わらず、引っ込んでいない、そしてシワシワして妊娠線がバッチリついた自身の腹を鏡で見て強いショックを受けたのだ。
その後、お腹は毎日少しずつへこんでいったが、シワや妊娠線は残った。エイコはこのことを深く考えないよう、心の奥底に封印するのだが 、これが後々、エイコの心に深く影響を及ぼすことになるのであった。

一方、エイコの夫は入院6日間、エイコと赤ちゃんと共に病室に泊まり、そこから仕事に通うという生活を送っていた。夫の様に泊まり込みで子供の面倒をみる父親は他にいないことに気付いたエイコ。エイコは自分と同じくらいのペースで赤ちゃんの世話の仕方を覚えていく夫に感心し、惚れ直す。退院後もエイコの赤ちゃんについての他愛のない感想についても、ちゃんと答えてくれる夫。エイコはそんな夫に対して『運命の人だ』『この人と子育てできるなんて幸せ』『早くHしたい』等と思うのであった。

エイコは知らなかった。一年後、夫婦生活を巡って夫と大喧嘩し、満たされなさから自分が元カレと連絡を取り浮気をしようとしているだなんて。

第二章 育児って、めんどくさくて楽しい!~

お母さん枠~出産、育児は大変と決めつける世間に疑問を持つエイコだったが…

エイコの娘、Nちゃんは生後2か月になった。外に連れて歩くようになると様々な人から声を掛けられるようになったエイコ。しかし、皆から決めつけたように『大変でしょ』と言われる。実際は妊娠前の方が乱れた生活をしていたことと、夫も同じくらいNちゃんの世話をしてくれることから、むしろエイコは産後の方が健康的な生活を送れるようになっていた。しかし、『それほど大変ではない』と答えると『赤ちゃんが育てやすい良い子だから』という、『赤ちゃんの性質』の話にされる。『母親の人間性、今までの人生』『夫の協力』といったものが一切無視され、『母親は一種類のみ』と決めつけるような世間の態度に疑問を持つエイコ。しかし、そういった会話を繰り返しているうちに、自身の特徴といったものが削ぎ落されていき、どんどん世間が求めるような『夜泣きが大変ですが、赤ちゃんが可愛いので頑張れています』といった受け答えが出来るようになるのを感じる。それはそれで『いい母』になったような気がしてエイコは快感を覚えていく。

そして、他の母親たちはどうなのかを知りたくなり、エイコは地域センターの交流会に顔を出す。
そこでエイコは赤ちゃんを乱暴に扱い、泣かせている母親と出会う。エイコは『乱暴に扱われているから泣いているのでは?』と思うのだが、その母親は『うちの子は良く泣くから』と、『赤ちゃんの性質』ということで片づけており、エイコはそのことに違和感を覚える。

そして、『先輩ママとして妊婦に経験を話す』という機会を与えられたエイコは自身が『出産は大変だ』と脅されて嫌な思いをしたことから『出産は大変じゃない、楽しい』と伝えようと意気込む。
しかし、エイコが『出産は大変じゃない、痛みを逸らす方法がある』と語っても妊婦たちからの反応はイマイチで、逆に『出産は死ぬほど痛かった』『でも赤ちゃんは可愛いから大丈夫』と語った別の母親の方が圧倒的に受けが良かった。

そうか…痛いのがこわいって気持ちと同じくらい、人と同じじゃないと不安って気持ちもあるんだ…
こうやってお母さんの枠ができていくんだ

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母親達や妊婦達の態度からそう悟ったエイコはなんともいえない孤独さを感じた。しかし、その帰り道、やはり見知らぬ老女に『大変でしょ』と声を掛けられると反射的に『大変です。でも赤ちゃんが可愛いから楽しいです』と模範的な回答をする自分に驚くのであった。

謝罪しまくりママ~愛しているのに子どもを悪く言う母親…自身の母親を振り返るエイコ

エイコはママさんヨガに通い始める。にこやかに他のママ達と交流するエイコだったが、気になるママが一人。それはハルト君ママだ。『うちの子はでかいくせに、おすわりもまだできない』『泣き虫で泣いてばかり』と息子であるハルト君に対してネガティブな発言を繰り返す。ハルト君は普通に可愛い5か月児だと思っていたエイコもハルト君ママの言葉を延々と聞いていると不思議とハルト君がでくの坊に見えてくる。また、ハルト君が泣くたびに『泣いてばかりですみません』、他の子が泣くと『うちの子につられて泣いちゃったんですね、すみません』と繰り返すハルト君ママの言動のせいか、『赤ちゃん泣き放題』のはずのママさんヨガ教室が、『泣くのは迷惑、寝るのはいい子』といった空気になっていき、映画館のような緊張感に包まれるようになる。

嫌な気持ちになるエイコであったが、ハルト君ママの様な母親が結構いるということも分かっていた。エイコの母親もそうだったのである。特に何もしていなくても『うちの子(エイコ)が悪い』『迷惑をかけている』とエイコにも、他人にも言い続けていたのである。子どものころ、何故だろうと不思議で仕方がなかったが、最近になってやっと理解できたのだ。

あれは別に子どもに言ってるわけじゃないんだ。周りの大人へ先手で謝罪してるんだ。

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ハルト君ママやエイコの母親の様な人たちは、自分自身に不安があるため、先手で謝罪したり、子どもを自ら下げることで、周囲に対して『ちゃんと迷惑かけないようにしています。だからこれで勘弁してください、非難しないでください』というメッセージを出しているのだ。

そして、ハルト君ママにつられて、ついつい自分も娘のことを『うちの子も悪いですから』等と悪く言いそうになってしまうエイコ。そうならないために『結界を張る』ことにする。謝罪を適当にかわし、ノリが悪いと思われても恐れず同調しないことにしたのだ。しかし、エイコは『結界』を張りすぎるとそれはそれで自分の子育てが完璧であるかのような錯覚に陥り気が大きくなってしまうことにも気付く。堂々としている母親が子どもが暴走していても全く悪びれない様子を見て格好いいと思いつつも、それはそれでどうなのかと思ったりもするエイコ。
子育てって面倒臭いと思うのであった。

『まん○の洗い方問題』~女性器をタブー視する風潮に疑問を持つエイコ(※この記事内では伏字にしている部分は作中は伏字無しで表記されています)

エイコが娘のNちゃんを一か月健診に連れて行った時のことである。医師から『われめの中』の胎脂(お腹の中で赤ちゃんを包んでいるクリーム状の脂、出生後も残っている)をちゃんとキレイに洗い取る様に注意される。その時、エイコは意を決して医師に尋ねるのであった。
『われめの中はどうやって洗えばいいのですか』と。

時間は出産直後に遡る。助産師から赤ちゃんのオムツの替え方を教わるエイコ。しかし、赤ちゃんの女性器をどのようにキレイにすればいいのかの説明がない。『ここはどうしたら…?』と尋ねるも、助産師は一言『拭けばいいんだよ』というだけであった。
拭くってどこまで…?どうやって…?等々疑問が結局解消しなかったエイコ。しかし、助産師がオムツを替えている時も胎脂がわれめの中に残っているのを見て、『胎脂は取らない方が良い』『というよりあまりいじらない方が良い』と、とりあえず判断したのであった。

しかし、医師からは『ちゃんと泡をつけて指で洗わないと、穴が閉じていってしまう。今、既に閉じ始めている』『上まで閉じてしまったら手術で切らねばならない』と言われてしまい、エイコは戦慄する。

慌てて家でNちゃんのわれめの中を洗うエイコであったが、そもそもエイコ自身が娘であるNちゃんの女性器を洗うことを恐れていることに気付く。それはエイコ自身が幼稚園の時に先生から性器について『さわらないように』と言われたことがきっかけで、逆に気になって、いじる様になってしまったためだ。そのため、洗うことでNちゃんもそうなってしまったらどうしようと思っていたのだ。

改めて考えると馬鹿げた心配だったと思うエイコであったが、それにしても皆、女性器について妙によそよそしいということに気付く。

出産前の母親学級でのおむつ替え講習。講師は『おちんちんの洗い方は…』等を笑い交じりで教えてくれたが、女性器の洗い方について何も触れなかった。父親学級でも、股間の洗い方は男性器についてのみであった。育児雑誌の性器の洗い方特集でも男の子についての方が圧倒的に細かく、男性器についてだけの特集もあったりする。

更に言えば、エイコは自分自身も正しい洗い方が分かっていないと言うことに気付き愕然とする。ネットで見ても、『正しい洗い方』というものが存在していないことが分かる。赤ちゃんの他の全ては教えてもらえるのに、女性器だけ『お母さんと同じで…』という様な曖昧な扱いはおかしいのではないかとエイコは考える。
そもそも男性器と違って呼び方が決まっていないのもタブー化している原因の一つではないかと考えるエイコ。真剣に病院や保健センターが統一するべきではないかと思うのであった。

しかし、その一方でNちゃんのあそこを洗うのを夫に任せられない自分に矛盾を感じるエイコ。とにもかくにも、ちゃんと洗うようにした結果、Nちゃんの陰部は一週間後には無事に治ったのであった。

母乳が出ない~粉ミルクを使うことに罪悪感を持っていたエイコ

エイコの娘、Nちゃんは1歳になった。焼き芋を食べるNちゃんを見て、1歳って焼き芋を食べるんだ…と感心するエイコ。そんなことは妊娠、出産して今に至るまで知らなかった。そういったことが分かっていないにも関わらず、ここまで育ててきたことを不思議に思う。

離乳食についても最初は泣かされたものだった。本ではそうめんを10本だけ茹でて裏ごしするように書いてあったが、その通りにすると面倒な上、美味しくない。結局はネットで調べて大量に茹でて冷凍する様になった。そんな感じでエイコは夫と育児について分担して乗り越えていったため、『超辛い』と思うことは少なかった。

しかし、エイコは育児で一つだけすごく辛かったことがある。それは母乳のことだ。5か月程でNちゃんはおっぱいを嫌がる様になり、そのまま完全ミルクになった。最初は『母乳に対してこだわりが無いから別にいい』と思っていたエイコ。しかし、周囲の『母乳の方が良い』といった空気から、『完全ミルクだ』と言えなくなり、次第に自分が『娘の健康に悪いことをしている』『一番いいものをあげられていない』と罪悪感に苛まれるようになったのだ。

しかし、Nちゃんが1歳になった今では、手の平を返したように周囲は『もう卒乳が済んでいるなんて偉い』と褒めてくるようになった。数か月でこんなに評価が変わることにエイコは困惑する。血液型の様に皆が母乳派だった、ミルク派だったと言い合ったりするわけではない。健康なお年寄りが『母乳で育ったから体が丈夫だ』と語ったりするわけではない。今更ながら馬鹿らしく感じるエイコ。
焼き芋を食べるNちゃんを見ながら、『罪悪感なんか持たないで笑顔でミルクを上げればよかった』…そう思うのであった。

とにかく夫がイヤになる~義父母との旅行を巡って夫と大喧嘩し家出するエイコ…それ以降夫との仲はギクシャクしてしまう

エイコと夫は義父母と旅行に行くことになった。知っている人と一緒にお風呂に入るのが苦手なエイコは夫に『お義母さんが私をお風呂に誘って来たら、それとなくフォロー…エイコは赤ちゃんのお世話があるから…といった様に断る方向に持っていって欲しい』と頼む。しかし、夫は『知らない、できない』『自分で断ればいいだろう』とばっさりとエイコの頼みを断った。
『自分でお義母さんに言えないから頼んでいるんでしょ!』と怒るエイコに夫は『何をピリピリしているのか』とエイコの悩みを全く理解しようとしなかった。

エイコはそんな夫の態度に怒るとともに驚愕もしていた。基本的にどんな話でも分かり合える夫。しかし、義父母の話…夫の親の話になると以前から途端に話が通じなくなるのだ。

Nちゃんを産んですぐのことだった。遠方からやって来た夫の両親はNちゃんを抱っこして離さず、3時間以上エイコは義父母と夫とNちゃんの写真を撮る役に徹していた。誰もエイコとNちゃんの写真を撮ってはくれない。Nちゃんを囲んで盛り上がる3人を見て疎外感を持つエイコ。義父母が帰ると夫はNちゃんに『お疲れ様』と言うも、エイコに労わる言葉をかけない。そんな夫にエイコは『私にもお疲れ様を言え』『誰も私の写真を撮ってくれなかった』と正直に不満を吐露するが、夫は『うちの親は気を回せないタイプだから仕方がない』というばかりであった。

そのことを思い出したエイコは夫に『そんなに話が通じないのなら、自分は旅行に行かない』『子どもが生まれて今後一層関係が複雑になる中、夫であるアンタがちゃんと気遣わないと、義父母との関係を良好に保つことなんてできない』とはっきりと告げるのであった。

ところが、ここまで言っても夫はなおもポカンとしており、エイコの言いたいことを理解している様子はない。そんな夫と一緒にいるのが嫌になったエイコは衝動的にNちゃんを連れて一泊ビジネスホテルに家出をしてしまう。
高いわりに快適さの無いビジネスホテルでぼんやりとテレビを見ていると『産後クライシス』の特集がやっていた。出産直後から急速に夫への愛情が下がると言う産後クライシス。しかし、テレビでその原因として挙げられているものは、夫が家事育児をしない、労ってくれない…等、エイコの夫には当てはまらないことばかり。何故こんなに夫が嫌になってしまったのか…原因がよく分からないままだったがエイコは結局すぐに家に帰った。

しかし、家出からすぐに家に戻ったものの、エイコはそれ以降夫と上手く会話できなくなってしまう。話すことは家事や育児に必要な最低限のことだけ。そして、その状態は家出から一月以上たっても続いていた。もはやその状態に慣れてしまい、寂しいとすら感じなくなってしまったエイコ。しかし、『セックスはどうすればいいのか』とふと疑問に思う。エイコは自分には性欲が無くなったから問題ない…そう考えていた。というのも臨月の時、AVを見ていたら自分でもびっくりするほど興奮しなかったのである。

きっと今も何も感じないのだろう…そう考えて、その時に見たAVを検索してみたエイコ。しかし、今度は驚くほど興奮してしまう。
『自分から性欲が無くなった訳ではなかった』ということを理解したエイコは『夫と不仲の自分は誰とセックスすればいいのだ』と悩む。
男性には気軽に性欲を解消できる場所はある。しかし、女性はそうではない。そういう場所も一応あるとは聞くが、敷居が高い。

女が安全に低リスクでセックスできる場所、そして確実に満足できる相手…考えるエイコは突然ひらめく。それは『セックスの上手い元カレだ』と。

元カレと浮気をする女性が多い理由がそれであると合点したエイコ。女にとっての元カレは男の風俗みたいなものなのだと納得する。
早速エイコは元カレの名前をFacebookで検索し始めてしまうのだった。

何もしないジイさん~誰にも何も期待されない『ロボットジジイ』は何故生まれるのか

妊娠中から駅のエレベーターを使うようになったエイコはあることを感じていた。それは『子持ちの人たち、周りにペコペコしすぎではないか』ということだ。車椅子の人が手助けをしてもらった際はクールに会釈で済ませるのに対して、子持ちの人たちは過剰に感謝や謝罪の言葉を口にしている。自分は出産後そうはなるまいと思っていたエイコ自身も、結局大げさに『ありがとうございます』と言うなどペコペコしてしまう。電車に乗れば、ベビーカーに自身の体を押し付けて少しでもスペースを小さくしようとしている母親さえ存在する。『ベビーカーは迷惑』といった目に入る世論に圧を感じて自分を含めた母親達がペコペコしてしまうということに気付いたエイコは複雑な思いをする。

しかし、同時に子持ちに対してバアさんなどは優しく、子持ち同士でも助け合いがある。みんな協力し合ってエレベーターに乗っているのだ
…そう、ジイさん以外は!!

60代後半から70代位のジイさんの『何もしなさ』に辟易するエイコ。順番は守らないわ、ボタンを押すこともしない。その癖、『閉』ボタンだけは率先して押したり、偉そうに行きたい階を他人に指示する。もし仮にバアさんや子持ちが同じようなことをしたらとても目立つだろうに、ジイさん達がこういったことをしても、誰も気にせず仕方がないことの様に受け入れている。というより皆、ジイさん達がまるで見えていないようだ。

ジイさんという存在に女たちが何も期待していないという表れ?
家では何もせず、仕事だけしてればいいと言われ、40年馬車馬のように働き、定年後急にこっちの世界に放り込まれたら
こんな風に電池の切れたロボットみたいになっちゃうのかも…

ママだって人間 田房永子 107/132

ジジイ達は今まで会社、仕事、競争といった世界で生きてきたため、定年後に地域社会や家庭、コミュニケーションの世界に入っても馴染むことが出来ないのだ。『単独行動をしている者がほとんどで、どこか孤独さを漂わせている『ロボットジジイ』。夫婦で行動しているロボットジジイもいるが、大体が、妻から一方的にお世話されており、無言で妻の後をついて歩くだけ。まさにロボット。稀にハツラツとしたジジイもいるが、明るい色の服を着ているなど見た目からして違うのだ。

自分の夫を見て、どっちのタイプのジジイになるのだろうと考えるエイコ。相変わらず夫とは必要最低限の会話だけで、話そうとすると喉が詰まる感覚に陥る。

そして、ママ向けの雑誌を見ると『産後の夫婦危機を乗り越える方法』『夫に家事をやってもらう方法』といった特集が組まれている。しかし、エイコは『大の男を家事ができるように一からしつけ直すのも妻の仕事なのか?』と疑問に思う。夫については些細な家事能力で満足しろと言いながら、世の中は『母親』には過剰なまでの能力や奉仕を求める…そんな状態に『どうなってんだ』と突っ込むエイコ。更に、雑誌には『二人目妊娠へのために』と『夫のプライドを傷付けぬように男として見ること』『妻側から雰囲気・ムード作りに配慮しろ』と書いてある。

飼い犬としてしつけながらも、夜は男として見ろってか……

ママだって人間 田房永子 109/132

総合すると『夫に対しては家事育児等は期待しないで、文句を言ってきても上手くあしらって、ムードを作ってあげて種だけもらう』ということになる。

そうやって人間扱いされなかった夫たちがロボットジジイ化するのでは…?

ママだって人間 田房永子 110/132

そう考えたエイコはなんともうすら寒い思いをするのであった。

素直になれない~夫と再び喧嘩したエイコは元カレとの浮気を決意するが…

エイコは夫が近づくと無言でその場から立ち去る。実は先週再び夫と喧嘩をしたのだ。

夫との険悪な雰囲気に嫌気が差していて、いい加減仲直りしたかったエイコ。産後、夫からの誘いを断り続けていたことに罪悪感を持っていたこともあり、一生懸命考え、一緒に自然とAVを見ることができ、その気になりやすい『ラブホテルに行こう』と夫を誘ったのだ。しかし、夫はひいてしまったのか、エイコの誘いを無視。そして、無視されたエイコは激昂してしまったのだ。

『許さない!絶対に浮気してやる!』…以前、元カレ2人のFacebookを見つけたエイコは既に元カレに送るメッセージを作成し、下書き保存していた。
『マウスをクリックしてメッセージを送信したら大変なことになる、元カレ二人のどちらかと、物凄い肉欲関係になってやるんだからな…!!』そう考えながらパソコンに向かっていたエイコ。しかし、そんなエイコに夫が突然、あのさ…と話しかけてくる。

夫は夫の両親との旅行の話を振ってきた。長く続く夫婦喧嘩のきっかけでもある旅行の話。『夫がエイコと両親の間に立って気配りしてくれない限り、自分は旅行には行かない』とエイコが断り、それっきりになっていた。
夫はエイコに言う。
『俺ができるだけ気配りするから来て欲しい』『エイコさんがいないと俺がつまんない』
夫のそんな言葉に黙るエイコ。夫は更に、エイコが好きそうな柄のTシャツを買ってきたと言い、渡す。しかし、そんな風に夫が歩み寄ってきたにも関わらず、エイコは素直に接することは出来なかった。

Nちゃんを連れて電車に乗るエイコ。座席に座りながらエイコは『私は元カレとセックスをするんだ』『元カレじゃないとダメなんだ』…そう自身に言い聞かせるように思い続ける。

だって出産で股がビロビロになっちゃてて、夫とするの、やだもん

ママだって人間 田房永子 118/132

出産後、夫と2、3回したけど、自身のがゆるくなっていると気づいたエイコ。昔見た、そして妊娠中にずっと思い出していたギャグマンガの 『子どもを生んだらアソコのしまりがよくなった。お医者様がきつめに縫って狭くしてくれたから』 というセリフの様にはならなかった。『前と変わってしまったよね』とエイコが言うと夫は『そんなことはないよ』と言ってくれた。しかし、エイコには夫が気を使っていることが分かった。
もう夫から出産前の様に誘われても、以前の様に応じることはできないと思うエイコ。どうせユルユルになっているし、胸も以前とは違う。お腹もダルダルしていて妊娠線も残っている。
エイコは出産直後、初めてお風呂に入った時に、自身を鏡で見て衝撃を受けたことを思い出す。出産したにもかかわらず引っ込まず、しわができ、妊娠線がしかっりついていたお腹。

あの日、自分の体にビックリしたときから
私、本当はすごく傷ついていたんだ

ママだって人間 田房永子 119-120/132

電車の中で涙ぐむエイコ。産後、母親達の交流会で講師は『体の色んな所が垂れるのは仕方がない。垂れたおっぱいも魅力的』と語っていてた。エイコもそれを聞いて笑いながらそう思い込もうとしていた。しかし、

本当はがっくりきてた。悲しくて心も体もいじけちゃってた。やさしくいたわって、かわいいキレイステキって、ほめてでももらわないとセックスできないくらい。
一番ガッカリされたくない相手となんか、余計できない。

ママだって人間 田房永子 120/132

泣きながらエイコは気付く。別に自分は元カレとセックスしたいわけではない、夫としたいのだと。

ラスト、ママと夫と子どもの関係~飲み会に参加したエイコは『父親達』の態度に愕然とする…そして

出かける準備をするエイコ。テレビでは『政府が少子化対策として、女性に啓蒙するために”女性手帳”の配布を検討している』と報じていた。
エイコは以前の職場のメンバーとの飲み会に出掛けようとしていた。夫は気をつけてと声を掛けてくれるが、やはりまだ自分の心は閉じたままだと感じているエイコ。街の大型ビジョンでは総理大臣が『育休を3年取れるようにし、女性が赤ちゃんを好きなだけ抱っこできる社会を作る』と意気込んでいた。

飲み屋で以前の職場のメンバーと久々に顔を合わせたエイコ。エイコが出産したことで全員子持ちになった。エイコは皆で楽しく育児トークをすることを期待していたのだ。
しかし、エイコが『どこのメーカーのオムツを使っているか?』と尋ねると男性陣たちは驚くことに、『分からない』『奥さんがやっているから』と誰一人として答えられなかった。一人、『俺はちゃんとおむつ替えをしている』と語る者もいたが、『うんちは奥さん、おしっこだけ』と言う。

男性陣は笑顔で『女の人、お母さんにはかなわない』『子どもは男、父親に懐かない』と断言する。『母乳が出ないから』ということで結論付けようとする男性陣。『早く帰ると寝てた子どもを起こしてしまうから帰らないようにしている』『会いたくても会えない男親は切ない』とやはり笑いながら言い合う彼らにエイコは、『いやいや、早く帰って奥さんと交換してあげなよ』と思い、『そして何故こんなに育児に対して他人事なのか』と驚くのであった。

そして、平然と『風俗にハマっているから帰らない』ということも口にする男性達。思わずエイコは『奥さんが浮気していたらどうするの?』と尋ねる。しかし、彼らは『家事と育児にへとへとな奥さんには浮気する余裕もないはず』『でも、奥さんには「女」でいてほしい。所帯じみられるのが嫌』と笑顔で言う。

彼らの言動に耐えられなくなったエイコは、思わず『自分は出産した直後に大陰唇がビロビロになってしまった』と皆の前で告白する。驚きおののく男性達に構わずエイコは『しかし、ヨガに通ったら元に戻った事』『夫が子どもを見てくれたからヨガに通えたこと』『つまり、夫が子育てに協力してくれて初めて妻は「女」でいられる余裕ができるのだ』と主張する。しかし、男性達は大陰唇と口に出していったエイコを『ビッチだー』と茶化し、『子どもは結局母親から離れないから無理』『子どもにとって母親が一番』と言い、エイコの話を理解してはくれなかった。

帰りの電車の中で、飲み会の会話を思い返すエイコ。男性陣たちと話をしていて感じた息苦しさの正体に気付いた。それは、彼らの話す『俺の奥さん』があまりにも男性にとって都合のいい女だったからだ。子育てが大好きで文句を言わず、息抜きも必要のない、まるで『母性』が泉のように絶えず湧き出しているような女…。きっと彼らの妻に実際に会ってみたら、いろんな個性があるはずだ。しかし、男性陣の会話からそういったものを感じ取ることは出来ず、まるで見たくない部分にフタがされてないことにされている様だった。

母親は何も、子どもから離れたい訳ではない。離れられない、離れ方が分からなくなってしまうのだ。だからこそ、子どもと母親の間にグイグイ入ってくれる人がいないと困る…そう考えるエイコは産後自身がボロボロのとき、エイコに『寝てろ』と言ってNちゃんの世話をしてくれた夫を思い出す。

ママだからっていつも赤ちゃんを抱っこしたがってるなんて思わないで。
ママだって、人間だよ

ママだって人間 田房永子 128/132

帰り道、駆け足になるエイコ。何がビッチだ、ちくしょうと飲み会の男性陣たちへの怒りを叫びながら。どんなくだらない、ビッチな話でも真剣に聞いてくれるうちの夫に謝れ!…そう毒づきながら。そして、心の底から夫に会いたい…そう感じていた。

家に帰るとNちゃんはもう寝ており、夫が一人でエイコを待っていた。
『私も旅行に行く』そう告げたエイコ。胸のつかえが取れて以前の様に夫と話すことができた。

その晩、夫と久しぶりに寝たエイコ。『アソコが元に戻っている』と喜びを感じていたが、更に夫から『今日の化粧いい感じだった、キレイだった』と告げられ、もっと嬉しい気持ちになる。

翌朝、エイコは自身の体がとても軽くなっているのを感じた。明るくNちゃんのご飯を用意するエイコは『母性は自然と湧いて出るものじゃなくて、うれしい想いとかで補充されるものなのかもしれない』と考える。その日、エイコはNちゃんを沢山抱っこしたのであった

~終わり~

以下、感想と考察

全てを曝け出した上で、社会の『母親像』への疑問を呈した田房永子氏

今までも『母がしんどい』で自身の半生を作品で明かしていた田房永子氏だが、本作はそれ以上に赤裸々に自身や夫のことを明かしている。出産・育児を扱った作品で夫婦関係に焦点があてられるものは少なくないが、大体が『家事・育児の分担』『義実家との関係』とかで、『妊産婦の性欲』や『夫婦の性生活』に踏み込んだ作品は少ない(内田春菊氏の『私たちは繁殖している』も『性』に踏み込んでいるが、作者である内田春菊氏の強烈なキャラクターもあり、また本作とはテイストが異なる)。時系列的には『母がしんどい』と『キレる私をやめたい』の間の時期にあたるので、作者もあまり精神的に安定していなかった時期だと思われるが、よく思い切って描いたなと素直に思う。

性的なことに焦点を当て、『乳首』『ちん○』『まん○』といったワードが飛び交う本作には眉をひそめる人も沢山いるだろう。しかし、『ママだって性欲や不満を持つ、人間なんだ』という叫びは多くの母親達の抑圧された不満を代弁していると私は考える。最近になって『産後うつ』や『育児ノイローゼ』といった言葉で社会は母親達に寄り添っている風に見えるけど、所詮は『母親は自分を犠牲にしてでも子どもに尽くすもの』という大前提があってのもので、作者がいうように母親達の個性や、性欲、不満といったものは無いことにされているところがある。そして、特に性的な問題については皆、声を上げづらい。そんな中、率直にそんな社会に対して疑問や主張をぶつける本作と田房永子氏に救われる人は少なくないだろう。

女性器の洗い方、社会的な扱いについて思うこと

娘の陰部の洗い方で困ったのは私も一緒である。産院でもどこでも教えてもらうことがなく、強くこするのは良くないと思って軽く洗うにとどめていたら、本作の作者のように、4ヶ月健診で『ちゃんと洗わないと閉じきってしまって切開手術しなくてはならなくなる』と突然言われてパニックになったのだ。娘に対して申し訳ないと思うと同時に『誰も洗い方とか、洗えてないと閉じてしまうとか教えてくれなかったよな…』とモヤモヤしたいと気持ちになったのを覚えている。

基本的に女性器はタブー視されている。田房永子氏が本作で指摘しているよう男性器と異なり、呼び方が今一つ統一されていないことがその現れなのだろう。
瀧波ユカリ氏も育児エッセイ『はるまき日記』の中で指摘している。何故ここまでタブー視されているのかと。もっと明るい呼称をつければいいじゃないと。

『女性器の呼称問題』で私が真っ先に思い出すのは西原理恵子氏がTOKYO MXの『5時に夢中(通称ごじむ)』の準レギュラーを降板になった件である。マツコ・デラックスや小説家の岩井志麻子氏が言いたいことを言いまくるこの番組は、下ネタのオンパレードだったりもする。特に木曜日の岩井志麻子氏は『チン○』を普段から連呼しまくっていた。が、特に問題視はされていなかった。しかし、同じ木曜日に準レギュラーであった西原が、ある時たったの一回、『まん○』と言ったら、なんと一発で降板になってしまったのである!それも話し合いも無く、一方的な通知のみであったよう。そして、そのことに西原の恋人である、高須クリニックの院長が激怒し、TOKYO MXのスポンサーを辞めるといった騒動が起きたのだ(その後、すぐに湘南美容クリニックがスポンサーになっていたのが笑える)。

個人的に、『ちん○は良くてまん○はダメなの?』『というかちん○は放送禁止用語じゃないんだ…』とか色々と考えた。特に、西原は番組側から放送禁止用語について説明を受けていなかったらしいので、岩井志麻子が『ちん○』と普通に言っているので、それに慣れて何の気なしに『まん○』と言ってしまった感じだったのがなんとも…(西原理恵子のファンであるため、西原の立場を擁護したくなる)。この放送禁止用語というのはきっと男性中心に定めたんだろうな。ちん○は良くて、まん○はダメって…。最近売れている小説に『夫のちんぽが入らない』というものがあるが、これ夫婦の目線を逆転したタイトルにしたらアウトってことなのか?やっぱり、なんかおかしくね?

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まとめ~下品で笑いもあるが、かなりまじめなテーマに向き合う作品

本作『ママだって人間』ははっきり言って下品で下ネタも多い。そして、ややブラックな笑いも多く、油断して読むと吹き出してしまう様なシーンもある。しかし、『妊産婦の性』『妊娠中、出産後の性生活』とあまり触れられていない、ややタブー視されているテーマに真剣に向き合っている。また、『社会が持つ母親像』に疑問を呈し、母親だけでなく『家事育児への参加の機会を奪われた男性、父親たちの行く末(ロボットジジイ化)』等、独自の考えを作中述べている、実は色々と考えさせられる作品でもあるのだ。

ある程度下ネタに耐性がある人であれば十分に読めるし、読む価値のある作品としてお勧めしたい。

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