【小説】テティスの逆鱗【感想】美容整形を望む女達の行きついた先は・・・


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『整形もの』が好きだ。子供の頃、毎週『ビューティーコロシアム』を楽しみにしていたし、今でも整形手術を取り上げたドキュメンタリーは食い入る様に見てしまう。
大きな理由は2つ。
1つめは、「本当にこんな風に容姿を変えることが出来てしまうのか!?」という好奇心と驚き。手術方法の解説なんてSF映画を見ているような気持ちになれる。
2つめは『人間ドラマ』。整形手術を受ける決意をするに至る、個人の過去、人生、価値観、そういったものが垣間見えるのが堪らなく好きなのである。
自分自身も整形手術に興味がある。夫から「本当に骨入ってるの?」と真顔で聞かれる低い鼻とか(怒)。
しかし、じゃあ本当に手術したいかと聞かれると、お金かかるし、自然に仕上げるのは難しいし、メンテナンス面倒臭そうだし、周りから噂されるのも鬱陶しいし…と行動に移す気にはならない。だからこそ一層強く惹かれるのかもしれない。
前置きが長くなってしまったが、今回紹介したいのは『テティスの逆鱗』(唯川恵)はそんな整形手術を望む女達の欲望の行く末を描いた傑作である。
同じく整形を扱った百田尚樹の『モンスター』のちょっと後に発刊された本書。「よっし、読み比べじゃあっ!」と意気込み読む。
…うーむ。甲乙つけがたい!主人公の人生、変化、執念を一途に追う『モンスター』に対し、女医と4人の患者を多角的に描く『テティスの逆鱗』。どちらも記憶に残る作品だと言える

Contents

テティスの逆鱗 唯川恵 あらすじ

高級整形クリニックを営む美容外科医の多田村晶世の元には様々な女性がやって来る。

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西嶋條子 女優 47歳

條子は年齢を感じさせない美貌を武器に芸能界に君臨する女優だ。しかし、華々しい活躍の影で、人知れず更年期障害と肌に浮き出るシミに苦しんでいた。
これまでの女優人生の集大成とも言える写真集の撮影を控えた彼女は、肌のシミを晶世にどうにかするように迫るが、加齢によるそれらに即効性のある施術がないことを告げられ苛立ちを募らせる。
そんな中、彼女はライバル女優が若返りのために、異国で女性の遺体を食しているという噂を聞く。当初は現実離れした、馬鹿げた話だと一笑に付していた條子だったが…。

吉岡多岐江 会社員 36歳

多岐江は出版社で働きながら、家事育児をこなす真面目な兼業主婦だ。仕事を通して晶世と知り合った彼女は、家族に黙って出産の際に残った妊娠線と萎んだ乳房を直した経験がある。その後、今までと変わらない生活を送っていた彼女だったが、手の掛かる4歳の息子への苛立ち、優しいがセックスレスになっている夫、そして日々の頑張りを誰からも評価されない事への虚しさから、不満を溜め込んでいた。
そんな中、多岐江は職場で年下の男から口説かれる。誘いに喜んだ彼女は彼と自信を持って行為をするべく、膣縮小手術と会陰形成手術を受けるのだが…。

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沢下莉子 キャバクラ嬢 21歳

六本木の高級キャバクラで売れっ子の莉子の生い立ちは悲惨なものであった。両親がいない上、容姿、学力、その他才能にも恵まれなかった彼女は、田舎町で馬鹿にされ虐げられて育ったのだ。
高校卒業後、上京し、働きながら整形手術で自身の美貌を磨きあげていった莉子の価値観はシビアだ。男を内心で嫌悪し、馬鹿にしながらも、冷徹に分析し、上手く惹き付け稼ぐ。そして彼女の最終的な目標は、御しやすい金持ちの男と結婚すること。
ある日、理想の金持ちの男を見つけた莉子は彼を落とすため巧妙な計画を立てていく。と同時に、偶然店にやってきた、かつて醜い彼女を馬鹿にした高校の同級生の男に対して残酷な復讐をするのだが…。

畑中涼香 資産家令嬢 29?歳

資産家の父親を持ち、何不自由無い暮らしを送る涼香の生き甲斐は、美容整形によって『独自の美』を追究するすること。そして、際限なく整形を繰り返したその容貌は、既に他者から『バケモノ』と呼ばれるような域に達している。
醜く太って死んだ実母のへの嫌悪感が自身を整形に駆り立てることを自覚した上で、父親が晶世のスポンサーである立場を利用し、彼女に対し、無理な要求を通していく。
その要求は、一的な整形部位に留まらず、足の指の骨を削る、額を縫い縮める、耳を落とす、手の水かきを切開する等エスカレートしていき…。

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多田村晶世 美容整形外科医 51歳

様々な背景を持つ女性達の要望を叶える晶世は、自身の仕事に誇りを持つと同時に女達の底無しの欲求に恐れも抱いている。「いつか誰かの、何かの、逆鱗に触れてしまいそうな気がする」と。
そんな彼女の心の拠り所は、クリニックの事務として働く姪の秋美である。晶世の双子の妹の娘である素朴で優しい秋美を大切にする晶世。秋美の出生にはある特殊な事情があったのだ…。
しかし、彼女達はそれぞれ、「触れてはならない何か」に近づいていってしまい…。

以下、感想(+少しだけネタバレ)

結末は怖い。ホラーと言っても良いのではないだろうか。
個人的に、普通の兼業主婦である多岐江が美容整形に踏み出すのに間接的な後押しをしたのが、レーシック手術であったというのが驚きと同時に深く共感したのだ。
何故なら私自身もレーシック手術をしているからだ。
こんなに簡単に、失ったものを取り戻すことができる。ならば他のところも…。
そう考えてしまうのは当然だろう。
何故なら日々、科学、技術は発展しており、不可能はどんどん可能になっていく。欲求に対して「行き過ぎ」と非難するのは容易いが、それを実現する術があるなら、人はどこまでだって行ってしまうだろう。
それは整形手術に留まらず、医療、生命科学等他の全ての分野についても言えることだ。そして、それを取り巻く人々の意識も刻一刻と変わっていく。
晶世の卵子提供により生を受けた秋美も、一昔前であったら「自然の摂理に反する」と言われていただろう。しかし、今や面だってそんな非難をする人はいない。
等々、色々と考えてしまう位にこの作品は面白かった。やはり、『整形もの』は想像力を多分に刺激してくれるのだ。

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