【漫画】血の轍3巻【感想・ネタバレ・考察】毒母、静子に支配されていく静一

血の轍3巻表紙

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前巻で母、静子の異常さがあらわになった『血の轍』。しかし、主人公、静一の夏休みはまだ終わらない。静子の支配に抗うことが出来ない静一はどうなっていくのか。押見修造の『血の轍』3巻の感想・ネタバレを書いていきたい。

『血の轍』2巻の感想はこちら
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【漫画】血の轍10巻・最新刊【感想・ネタバレ・考察】静子と決別することを誓った静一は再び吹石と交際し、未来へ向かって歩み出そうとするが…。

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Contents

登場人物紹介

長部静一(おさべせいいち)
本作の主人公。中学2年生。母、静子に似た穏やかで整った顔立ちをした少年。静子の愛情を一身に受けて育ち、学校では友人にも恵まれ、平穏で幸せな日々を送っていた。
夏休みの登山中、静子が従兄弟のしげるを崖から突き落とす現場に居合わせ、彼女からしげるが一人で崖から落ちたと偽証するように強いられる。それ以降、母の不可解な言動に振り回され、次第に自身の言動を支配されていく。また、ストレスから度々吃音を発症するようになっていく。
秘かに思いを寄せていた吹石由衣子からラブレターを受け取るも、静子から強制され、破り捨ててしまう。

長部静子(おさべせいこ)
静一の母親。若々しく美しい容姿をしている。一人息子の静一に愛情を注ぐ。心配性でスキンシップが多いが、その様子を夫、一郎の親族から『過保護』と笑われている。夫の親族に対しては不満を言うこと無く笑顔で丁寧に接していたが、内心不満を溜め込んでいた。
夏休みの登山中、突然、甥っ子のしげるを崖から突き落とし、周りには彼がふざけて崖から足を滑らせたと嘘を吐き、静一にも偽証することを強いる。
その後も静一にラブレターを渡した吹石に敵意を向け、静一にラブレターを破くように強制する等、徐々に息子に対する支配欲、独占欲を隠さなくなっていく。

長部一郎(おさべいちろう)
静一の父親。眼鏡をかけている。穏やかで優しい性格をしている。
しかし、自分の家に入り浸る姉と甥、しげるについて『仲が良い』で済ませ、夏休みの登山では、自身の親族と共に静子と静一を『過保護』と笑う等といった無神経な面を見せる。

伯母
静一の父の姉。息子のしげると共に、静一の家に入り浸る。明るく陽気な性格で常に笑顔を絶やさない。夏休みに親族皆で登山することを提案する。
登山中しげるが自身で足を滑らせ崖から落ちたという静子の証言を信じている。
しげるの意識が戻らないという厳しい状況の中でも明るい態度を取り続け、現場にいた静子と静一を一切責めず、むしろ二人を心配するといった、強さと優しさを見せる。

しげる
静一と同年代の従兄弟。母親である伯母と共に静一の家に入り浸る。明るく陽気だが、やや言動が幼い。静子と静一に対して『過保護』と言う。
夏休みの登山中、静子に崖から突き落とされ、一命を取り留めるも脳に大きなダメージを受けており、未だ意識は戻っていない。

吹石由衣子(ふきいしゆいこ)
静一と同じクラスに所属する、ショートカットの美少女。静一が密かに想いを寄せる相手で彼女自身も静一に対して好意的な態度を取る。
夏休みに静一の家を訪ねてきて、彼にラブレターを渡してきた。

小倉、その他友人達
静一と同じ中学校の友人達。小倉は眼鏡をかけたひょうきんな少年。
普段から静一を構い、いじり、遊びに誘うも、従兄弟の来訪を理由に遊びを断ることが多くなった静一と、次第に疎遠になっていく。

伯父
伯母の夫。しげるの父親。やや肥満体形。夏休み静一達と共に登山する。

祖父母
静一の父方の祖父母。明るく笑顔が多い。夏休み静一達と共に登山する。

あらすじ・ネタバレ

前巻までのあらすじ…90年代半ば。中学2年生の長部静一(おさべせいいち)は若々しく美しい母、静子(せいこ)の愛情を一身に受けて平穏で幸せな日々を送っていたが、家に伯母と従兄弟のしげるが入り浸る様になる。そして、しげるから『過保護』であると指摘され、驚く
夏休みになり、親族皆で登山に行くが、そこでも静子と静一は伯母達から『過保護』と笑われ、静一は動揺する。
その後、静一はしげると二人で崖まで探検に行く。すると、そこにやって来た静子が突然しげるを突き落とす。しげるはかろうじて一命を取り留めたものの、脳に大きなダメージを受け、意識が戻らなくなってしまう。
静子は親族や警察に対して『しげるがふざけて崖から落ちた』と嘘をつき、静一にも偽証するよう強いる。

一連の出来事に強いショックを受け、母親の不可解な行動を理解できずにいた静一。翌日、両親がしげるのお見舞いに行くのに対して、同行を拒否し、一人家で悩み苦しんでいるところに、秘かに想いを寄せるクラスメイトの少女、吹石が訪ねてくる。彼女からラブレターを受け取るも、忘れ物を取りに来た静子に目撃されてしまう。
ラブレターを読んだ静子は涙を流し、静一にラブレターを破くよう強制する。静一は苦悶しながらも恐怖と愛情から静子の逆らえずラブレターを破く。そんな彼に静子は優しく微笑みながら口づけをし、静一もまた力なく微笑み返すのであった…。

夫、一郎に怒りをぶつける静子

吹石からのラブレターを破いた静子と静一は、抱き合ったままベッドに横たわっていた。そこに、忘れ物を取りに行ったきり戻ってこない静子を心配した父、一郎がやってくる。ラブレターの破片にまみれてベッドに横たわる二人を見て驚く。
すると静子は起き上がり、そんな夫をまっすぐ見据える。そして、突然笑い出し、言った。自分は病院に行かない、一人で行ってほしいと。

驚く夫に静子は問う。自分が行って何か意味があるのか?と。そして、ただ困惑するだけの彼に、笑いながらも涙を流し、更に言うのであった。

「なんにもわかんないんね。」
「私がどんな思いでいたのかなんて、なーんにもわかんないんだいね」

初めて見た母の表情に唖然とする息子、静一。しかし、夫である一郎は彼女の言葉の意味を誤って受け取る。
静子がしげるの事故を自身のせいだと気に病んで、落ち込んでいると考えた一郎。『静子のせいじゃない』『みんな分かっているから大丈夫』『だから行こう』という的の外れた慰めを静かに泣き続ける静子に言い続ける。

そんな夫に突然激昂する静子。鬼の様な形相で怒鳴りだす。

「何がわかるん!?」「私たちは知らない!!関係ないから!!」「パパはさっさと、みんなのところに行けばいいがん!!」「早くほら!さっさと行って!!」

息を荒くする妻に、動揺した一郎は、帰ったら話そうと言い、力なく一人病院に向かっていった。

部屋に残された静子と静一。背を向け続ける静子に静一が触れようとしたとき、彼女は振り向き言った。言ってしまった…と。涙を流しながらも、静子は晴れやかな笑顔を浮かべていた。
お昼はお寿司でも取ってしまおうか、そう明るく静一に言う静子。歌を歌いながら足取り軽やかに部屋を去って行った。静一は呆然とその背中を見つめるのであった。

静子に支配される夏休みの日々

それ以降の夏休みは静かに時間が過ぎていった。静子はしげるのことも、吹石に事も何も言わない。静一と静子は結局しげるのお見舞いに一度も行っていない。

宿題を進める静一に静子は笑顔で進捗状況を尋ねる。静一もまた笑顔で答えるが、吃音を発症していた。
そんな静一を静子は買い物に誘う。静一は頷く。

暑い中、自転車でショッピングモールに向かう親子。途中で近所の中年女性に声を掛けられる二人。静一は何歳になったか問いかけられ、必死に自身の年齢、13歳と伝えようとするが、吃音で上手く答えられない。そんな彼の様子に困惑する女性に静子は笑顔で別れを告げる。

ショッピングモールで静一の服を選ぶ静子は、まるで幼児の様に彼を扱いべたべたする。そんな時、近くを小倉ら友人達が通りかかる。思わず顔を伏せる静一。彼らは静一に気付かなかったのか、そのまま通り過ぎていく。しかし、静一は顔を上げることが出来なかった。

その後、ショッピングモール内のファミリーレストランで昼食を取る二人。静子は静一指さしたメニューの他に、彼が幼い頃好んで食べたタコのから揚げも注文する。そして、店員が去ると笑顔で語りだした。

しげるが未だに意識を取り戻していないこと。伯母はずっと病室に泊まっていること。
かわいそう、かわいそう…そう繰り返し、微笑みながら静一に質問を投げ抱える。
私達が全然お見舞い行がないの、みんなはどう思っているだろうかと。
静一は何も答えられなかった。
静子は運ばれてきたタコのから揚げを、無邪気に笑いながら頬張るのであった。

二学期の始業式、以前の様に振る舞えなくなる静一

夏休みが終わり、二学期の始業式の朝がやってくる。起きて居間に降りてきた静一に静子は、朝食は『肉まんとあんまんとどちらがいいか』尋ねる。吃音にくるしみながらも、必死で『あんまん』と答えようとする静一であったが、静子が見つめ続ける中『肉まん』と答えを変えるのであった。
そして父、一郎はそんな二人に背を向け続け、何も言わないのであった。

登校中、友人達に話しかけられる静一。必死で何か返そうとした彼は、顔をゆがめながら、喘ぎ、呻くことしかできなかった。それを見た友人たちは静一がふざけていると捉え、爆笑する。静一はその場をなんとかやり過ごせたことに安堵するのであった。
その後の朝礼で吹石の姿を探す静一。彼女は静一と目を合わせることはなかった。
そして、始業式が終わるや否や、静一は友人達や吹石を避ける様に足早に教室を立ち去るのであった。

静一を追いかける吹石が、鋭い問いを投げかける

走って帰る静一は躓き転んでしまう。そんな彼の方に誰かが触れる。それは同じく走って彼を追いかけてきた吹石であった。膝を擦りむき流血した静一を手当てしながら吹石は問う。手紙を読んだか?返事を聞いてよいか?と。

静一は顔を歪め、苦しそうに呼吸しながら必死に答えた。
ごめん…と。
どうして?と聞く吹石に、まっまっま…と吃音を繰り返しながら、泣きながらなんとか伝えた。

「ママが…いるから」

そして再び走り去ろうとする静一。しかし、そんな彼を吹石は引き留め心配そうに尋ねた。「その…どもるの…何なん?大丈夫?」

「お母さんに、何かひどいことされてるん?」

吹石の鋭い質問に驚いた彼は、彼女の腕を振り払い、家まで逃げてしまうのであった。

言い争う父と母

吹石を振り切って家に帰りついた静一は、中から言い争う声が聞こえることに気付く。庭の方から窓を覗き込むと、カーテンのレース越しに父と母が怒鳴り合う様が見えた。

父、一郎は再び、静子にしげるのお見舞いに行くように説得していた。自身を責める静子の気持ちも分かるが、他の親族が心配するのでお見舞いにいって欲しい、誰も静子のことを責めてはいない、このまましげるが亡くなってしまう可能性もあるのだから…そう言い続ける。

そして、そんな夫に対して静子は再び激昂する。叫びながら今までの不満を吐き出すのであった。

「会いに行きたくないの!!あんな人達に」

「私はひとりぼっち。静一が生まれてからから、ずーっとひとりぼっち」

盗み聞きしながら、母親である静子のその発言にショックを受ける静一。夫である一郎は彼女の発言を理解できず困惑する。静子は言い続ける。

自分が何故ここにいるのか分からない。ここは自分の家ではないと。息子である静一がいるから自分はここにいるだけだと。本当は消えたい。あなたとも別れたい。産まれてくる前に戻りたい。何の価値もないと。

とりとめない、妻、静子の言葉に痺れを切らし、立ち上がる夫、一郎。病院には静一と二人で行くと宣言し、部屋から出て行ってしまう。

取り残された静子は泣きだし、座り込む。窓から様子を伺い続ける静一。すると静子は、身振り手振りを交えながら何かつぶやき始める。ゆうことをきいて、いいから、はやくくつをはいて、たーのしいところ。ね、いこ、いこ。ね、ね。
泣きながら壮絶な笑みを浮かべる母。それが幼い頃の自分に向けられている言葉だと理解した静一は恐怖し、後ずさるのであった。

父と共にしげるのお見舞いに行く静一、変わり果てたしげるの姿

庭から玄関まで向かうと、疲れた顔をした父が煙草を吸っていた。共にしげるのお見舞いに行こうと言う父。吃りながら母は?と尋ねようとする静一に、ママはいいから…と父は言い、二人は車で病院へ向かった。
病院へ入る直前、静一から言われる。しげるを見てびっくりするかもしれないが、ちゃんとお見舞いしてくれと。
病室には伯母がいた。久しぶりに見た伯母は随分とやつれていたが、いつもと同じ明るい笑顔で、お見舞いに来た静一にありがとうと告げた。しげるに近づく静一。
そこには、口を開けたまま、焦点の合わない瞳をさ迷わせる、変わり果てたしげるの姿があった。静一はしげるを見つめたまま、立ち竦んでしまう。

伯母の優しさに静一は…

その後、伯母から語り掛けられる静一。しかし、必死に答えようとすればするほど酷い吃音が出てしまう。心配そうに見つめる伯母に、父親である一郎は、最近うまく喋れないみたいだから、大した事はないと伝える。静一は、慌てて謝り、ふざけている訳ではないと伝えようとする。

「大丈夫じゃないがね!」

伯母が叫んだ。そして、静一の頭を優しく撫でて言った。

「静ちゃんも、つらかったんだいね。」「ごめんね…」

そして、微笑みながら続けた。しげるは一生懸命がんばっている。良くなったらまた一緒に遊んで欲しいと。
次の瞬間、静一は声をあげて泣いた。事件後、初めて大人の前で悲しみをあらわにしたのだ。そんな静一を抱き締めながら、伯母は弟である静一の父に対して、静一のことをもっとちゃんと見てやるよう咎める。そして、静子を心配し、静一に言うのであった。何も気にしていないこと、ごめんなさいと伝えてほしいと。

その後、夕方まで病室にいた静一は、帰り際に父に促されてしげるに声を掛けようとする。伯母から手を握ってやるように頼まれた静一だったが、しげるの手を取った瞬間脳裏に事件の場面が甦る。静子に崖から突き落とされた刹那、こちらに向かって手を伸ばしたしげる。込み上げる気持ちを押さえながら、静一はしげるに声を掛けるのであった。

帰宅後、暗闇の中で静子は「家を出よう」と静一に言う

病院から父と帰宅すると、そこに静子の姿は無かった。買い物にでも言ったのだろうと父は言う。この後会社の飲み会に行くと言う父は、しげるのお見舞いに同行した静一に礼を言い、ママによろしく言っておいてほしいと頼み去っていく。静一は笑顔で父を見送る。
自室で少しの間眠った静一。目を覚ますと既に夜になっていた、が、家の灯りは点いておらず、静子はまだ帰宅していなかった。暗い家の中、静一が玄関に向かうと扉が開き、静子が入ってくる。
静一を見や否や、名前を呼び抱きしめる静子。彼女は静一が病院に行ったことを知らなかったため、彼が始業式から帰ってきていないと考え、今までずっと探していたのだと言う。そんな静子を抱きしめ返す静一。静子からどこに行っていたのかと問われ、答えようとする。

「まさか、しげちゃんのところ…行ったん?」

はっとして、静一は静子の顔を見る。暗闇ではっきりとは分からないものの、彼女から静かな、しかし強い怒りが感じられた。返事に困る静一。暗闇に慣れてきた彼は、静子が恐ろしく無表情であることに気付いた。
すると突然静子は静一を強く抱きしめ、一方的に捲し立て始めた。
かわいそうに、行ぎたくないのにパパに無理やり連れて行かれたんね。許せない。パパが大事なのは結局あの人達なんね。私達のことなんかどうでもいいんね…。泣きながら言い続ける静子。
そして静一に、この家を二人で出ていこうと言い出す。壮絶な表情の母に思わず頷く静一。すると母は「ありがとう」と言い、静一に口づけを迫ってきた。

静子へ正直に疑問をぶつける静一

その瞬間猛烈な吐き気が静一を襲った。何も吐くものがないにも関わらず、苦しみ続ける静一。そんな彼をなんとか吐かせようとして口に指を入れてきた静子。げーして、げー…と幼子に言い聞かせるように吐かせようとしてする。
しかし、静一はそんな母を思いっきり突き飛ばしたのだった。驚き尻餅をついた静子。
そんな母に静一は泣きながら尋ねた。

「全部、僕のせいなん?」「僕のせいで、ママはひとりぼっちなん?」

昼間母が言っていた言葉の真意を聞く静一。そして更に疑問をぶつける。

「どうして、しげちゃんをつきとばしたん!?」

ずっと聞けなかった事だった。暗闇でうつむいた静子の表情は見えない。何も答えない彼女に静一は叫んだ。

「ママ!!逃げないで!!!」

静一の首を絞める静子

必死で訴え続けた静一。そんな息子に対して静かに微笑みながら静子は言った。

「…そう。」「じゃあ、ママ死んでいい?」

予想外の静子の言葉に絶句する静一。静子はそんな彼の腕を取り、自身の首を絞めさせようとする。
ころしていいよと笑いながら。驚き嫌がる静一。すると静子は言った。

じゃあ、ママがやる?と。

静子は呆気にとられる静一に馬乗りになると、首に両手を伸ばし、絞め始めた。苦しむ静一。
そんな彼を見下ろす静子は、恍惚とした表情を浮かべていた。
涙を流しながらそんな母を見つめる静一。すると、静子は静一の首から手を離した。咳き込む静一を そのままにし、立ち上がり灯りを点ける静子。
何事も無かったかのように、静一にお風呂に入ってくる、明日の用意はしたのかと言う。そして、

「静一。なまいき言わないで。いっちょまえに。」「こどものくせに。」

そう言い放ち、立ち去るのであった。

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以下、感想と考察

今回の3巻で母、静子の怒りと狂気が解放される。変わり果ててしまったしげると言い、静子の怒り狂う様、静一の首を絞める様等、ショッキングな描写が多い。

母、静子の怒りを理解できない父、一郎

3巻では母、静子の異常さが際立つ一方で、父親である一郎の鈍感さ、妻に対して無理解な様子も相当印象に残った。
元々、姉と甥が自身の家に入り浸ることについても、『仲が良い』で済ませ、登山中でも自身の身内と一緒になって静子と静一を笑うなど、自分の実家優先で妻子を蔑ろにする所があった一郎。

そして、今回、彼の妻である静子は今までの従順な態度、愛想笑いをかなぐり捨てて、凄まじい怒りの表情で今までの不満を爆発させる。
しかし、今までの親戚付き合いと彼の実家を優先させる態度に静子は怒っているのに、
彼女が事故のことを気に病んでいると勘違いし、みんな気にしてないから大丈夫という的の外れた慰めを言う一郎。これ、読んでて「は?」と苛立つ読者も少なくはないだろう。
いや、違うって。お前の親族と付き合うのがしんどかったっていう話をしてるんだってば。

その後、二学期の始業式の日にも、もう一度、静子がはっきりかつ分かりやすく文句を言っても、まだ理解できない。 いったいどれだけ頭が固いのだろうか。
挙句、珍しく不満を吐露した妻に対して言うことが、『俺だって必死に働いているのに』って…。関係ないだろ。
静子が自分の身内に不満を抱いているなんて今まで想像したこともなかったのだろうし、そのことを理解できないのだろうな。
頻繁に義姉や甥っ子が入り浸る状態が、静子の居場所を奪っていたことに何故気付けないのだろう。でも、こういう夫って結構多いよね。

静子の一連の行動はとても受け入れられるものではないが、こんな夫、夫親族に囲まれながら婚姻生活を送り、静一を育ててきたのであれば、静一だけが生きがいになってしまうのも仕方が無いと思ってしまう。

それにしても、吃音を発症している静一を放置し、静子に支配されているのも静観(というより、静子と静一の関係の変化すら多分気付いていない)するあたり、この父、一郎だって『毒親』と言えるのではないだろうか。
姉に静一をちゃんと見るように説教された直後に平然と息子を家に一人置いて飲み会行ってしまう位だしね。

伯母の見せた意外な一面、人間の持つ多面性

そして、意外だったのは病室での伯母の様子だ。静一一家との距離感は異常で、無神経で静子や静一を軽んじ、二人の平穏を脅かす人物であったとも言えるが、病室での彼女は冷静で落ち着いた強い母親としての一面を見せる。
元々明るく、笑顔の多い女性であったが、息子しげるの状態が芳しくなく、自身も疲労困憊なはずなのに、今までの明るさと笑顔を保ち続ける。登山中の『事故』についても息子の性格をよく理解しているためか、静子や静一に非は無いと考えているようで、全く責める様子を見せず、むしろ目撃者となった二人がひどく傷ついていると考えて、心配している。

そして、吃音を発症するまでに深いショックを受けている静一を、大人として優しく受け止めるのだ。父と母の前では泣けなかった静一が彼女の腕の中では事故のショックを吐き出し、泣くことが出来た。
そして、ここまで追い詰められている静一を放置している、弟(静一の父)を咎める。静一が上手く発語できなくなったのを喜んでいる節さえある母、静子と放置を続ける父、一郎。そんな実親二人よりも、人の親として伯母の方がよっぽどまともなのだ。
伯母をただの無神経な親戚と描くのではなく、こういった一面をさりげなく描く押見修造。人間の意外性、多面性を描くのが本当に上手いと言えるだろう。

肉まん・あんまん問題2

肉まんとあんまん、どちらが良いか。
第1巻の記事でも言及したが、静子と静一の間でよく取り交わされるこのやりとり。実は静一、いつも「肉まん」と答えている。まあ、純粋に静一は「肉まん」の方が好きなのかもしれない。
ところが、二学期の始業式の朝、静一はこの問いに対して、「あっ…あ…」と吃音に苦しみながらも明らかに「あんまん」と答えようとしている。「あんまん」の気分だったのかもしれないし、吃音を発症している彼には「あんまん」の方が発音しやすかったのかもしれない。しかし、明らかに「あんまん」と言おうとしている息子に対して静子は冷笑を向け続け、汲み取ろうとしない。その様子は、いつもと同じ回答をしない息子に対して怒っている様にすら見える。
二択用意している様で、静子の中ではもう答えが決まっているのだ(たかだか肉まんかあんまんかという話に過ぎないのに)。
そして、静一もそんな静子の威圧感を受けているので、結局「あんまん」を諦めて「肉まん」と選択を変え、「肉まん」の方はすんなり発音できてしまうのである。
…「あんまん」位好きに食わせてやれよ。静子は「あんまん」に何か恨みでもあるのか?それか、「あんまん」は静子が食べてしまうのか?そもそも「あんまん」は買っていないのか?色々と気になる…。

まとめ

夏休みという時間と静一の吃音を利用して、静一を幼児の様に扱い、確実に支配を強めていく静子。ついに首を締めるという暴力までもちいてくる。
恐怖と愛情で支配され続ける静一だが、静子が父に漏らした 「静一が生まれてからから、ずーっとひとりぼっち」という言葉や、一連の行動にはっきりとした疑念を持つようになる。

一方で静一に思いを寄せるクラスメイトの吹石は、そんな静一の異変を察知した上に、その原因が母、静子にあると鋭く見抜く。彼女と静子と対峙したのは一瞬だけだったが、それだけ第一印象からして異様だったのだろう。
しかし、彼女は静一に振られたものの、諦めた様子はない。

今後、彼らの関係がどうなっていくのか。追って4巻の記事を書いていきたい。

『血の轍』4巻の記事はこちら

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