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『酒』…それは大人になると嗜むものとされ、『付き合い』として大切なものとされている。
…まあ、そういった能書きは置いといて、実際飲むと話が弾んだり、普段とは違う人の側面が見えたりして楽しい。趣味がワインだとかウイスキーだとか言うとちょっとお洒落な感じもする、『大人の楽しみ』であるのは確かだろう。
一方で『酒』は付き合い方を間違えると大変なことになる。『酒は大人の嗜み』と言いながらも『酒の席での失敗』は大人としてあるまじきものとされ、その癖頻繁に起きる。体質的に飲めない人もいるし、今じゃ『アルハラ』という言葉まである。
そして、酒は間違いなく人の健康を害する。
特に怖いのは『アルコール中毒』、そして、『アルコール依存症』だ。
今回紹介するのは、アル中…アルコール依存症の父とそれに降り回れる家族の苦しみを描いた、菊池真理子氏の『酔うと化け物になる父がつらい』だ。個人的にアルコール依存症には思うところがあるので、あらすじ、ネタバレとともに感想・考察を書いていきたい。
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Contents
各話あらすじ・ネタバレ
第1話 酔っぱらいのいる家~酔っぱらって麻雀三昧の父と、宗教にハマる母
真理子の人生最初の記憶…それは夜眠っていたら、酔っぱらった父に滅茶苦茶に顔を撫でられて目を覚ましたことだ。
そして、次の記憶はお花見だ。酔っぱらって大声でがなる父を真理子は恥ずかしさから必死で止めた。
思い出の父はいつも酔っぱらっている
酔うと化け物になる父がつらい 菊池真理子 6/143
真理子の家は父、母、3歳下の妹と一見普通のどこにでもある家庭であった。普通と違うのは『父が酒にとても弱かったこと』『母が宗教にハマっていたこと』そして、『休日は必ず父の友人たちが家に来て、徹夜で麻雀をしていたこと』だ。そのため、家族団らんなんてものは無かった。
幼い真理子と妹はこれにいつも不満を抱いていた。父達が麻雀をする様子はうるさく、その時は食事も台所でしなくてはならない。母も彼らの世話に掛かりきりだ。前日、シラフのときプールに行く約束をした父は、当日酔っ払ってしまうと寝そべり会話もままならなくなり約束は果たしてくれない。
そして母はそんな父に文句を言う真理子を咎めるだけで、自分は毎朝30分、毎晩1時間勤行する(仏壇の前でお経をあげる)。その声は家の外まで響き、真理子は恥ずかしく感じ、母にどんなに誘われても付き合うことはしなかった。そんな母に酔っぱらった父は笑いながら絡む。
シラフのときの父は無口で大人しい人間で、母にこれ見よがしの溜息をつかれても無視しかできない小心者だ。しかし、飲むと性格は一変する。そんな父に恐怖を抱いていた真理子は絡まれる母を置いてその場から逃げ出していた。母が隠れて泣いているのを見つけた時も気付かないふりをし、ノートに漫画を描くことで夢と想像の世界に逃避していたのだ。
しかし、夜は逃げることができなかった。週に一度は裸になった母が、真理子の布団に潜り込んでくるのだ。母は真理子にも『裸で寝ると気持ちがいいから』と裸になるように言う。布団の中で背中越しに母の悲しみを感じていた真理子。今になると分かる。母は真理子が物心ついてから父と『寝て』いなかったのだ。
そして、父は母が手術を受けて退院した当日も友人達と麻雀して、彼らと共に母を召使の様に使うのであった。そんな日々は真理子が中学2年生になるまで続いた。母はどんどん追い詰められ些細なことで当たり散らすようになり、父はますます酒に弱くなり、飲酒運転で車を燃やしたりする。
『どうしてうちは突然こんな風におかしなことが起こるのだろう』と疑問を持つようになった真理子。
そして、ある日母が『わがままでごめん、さようなら』と書置きを残して姿を消してしまう。取り乱す真理子と妹。すると母から電話がかかってきて『今は新幹線のホームにいる』と告げられる。真理子は泣きながら『何でもするから帰ってきて』と懇願した。すると、翌朝、まるで何事も無かったかのように母は家に戻ってきた。真理子は驚くが、『親が子を捨てるはずはないもんね』と考える。父の酒飲みや麻雀といった嫌なことが無くなった訳では無いが、我慢しよう、だって家族だから…そう思った真理子。
しかし、数か月後、母は首を吊って自殺するのであった。
第2話 隠れる心~母の死後、自分の気持ちにフタをする真理子、一方父は一度は酒をやめるも…
『私が盾になって守ってあげずに逃げていたからお母さんは死んだんだ』
母の葬式でそう考える真理子。そんな時に近所に住む父の麻雀仲間(以下、クソジジイ)が『これからは真理子がしっかりしないと』と声を掛けて来る。その妻も『困ったことがあったら何でも言って』と言う。その言葉に真理子は腸が煮えくり返りそうになる。クソジジイは家に入り浸って母をこき使っていて、妻の方も菊池さんの家で飲んでくれると金が掛からなくて助かると普段悪びれもせずに言っていたのだ。しかし、真理子は二人に丁寧に頭を下げる。本当は罵倒してやりたかったが、それをしてしまうと『母が自殺したから子がおかしくなった』と母が悪者にされてしまいそうでできなかった。
母の教団から送られた賞状を神妙な面持ちで受け取る父。それを見た真理子は宗教は母を幸せにしてくれなかったと虚しさを覚えると同時に、父は一体自分のしてきたことをそう思っているのだろうかと疑問に思うが聞けなかった。母のことは家庭内では禁句の様な扱いになったのであった。
母の死後、父は酒を飲まずに家に帰ってくるようになった。夕飯のおかずを買ってきてくれたりもする。
しかし、真理子が進路の相談をしてもテレビの野球中継に夢中になって真剣に聞いてはくれない。『私の進路より野球の方が大事なの?』『お酒を飲まないことできるんじゃない。どうして今までそうしなかったの?』黒い感情が胸の内に溜まっていく真理子。
だが、『働いて自分達を育ててくれてる』『今はお酒も麻雀もやめてくれている』『自分がここで怒ったら残された家族も壊れてしまう』…そう、自分に言い聞かせて感情を押し殺すのであった。そして実際、酒をやめた父は話が通じるし、騒ぐこともないので夜は安心して眠れる。今までの生活が酷かったため、現状に『感謝すべき』だと感じていたのだ。
しかし、それも一か月も続かなかった。再び酒を飲み泥酔して帰宅する様になった父。玄関で吐いて倒れ込み、動けなくなった父を真理子は妹と共に介抱する。
私は家族を守りたいのに、お父さんはそんなこと全然考えちゃいないんだね
酔うと化け物になる父がつらい 菊池真理子 25/143
しかし、どこかで『またこうなる』と分かっていた真理子。願いが叶った事なんて一度もないのだ。
『もう飲まないでね』…無理だと分かっていながらも真理子の口からはその言葉しか出ないのであった。
家事を済ませて夕食を取る真理子と妹の耳に、近所の蕎麦屋から酒に酔った父達の笑い声が届く。父は『アル中』だったのか?…当時の真理子にはその認識は全くなかった。だから、酔うと化け物のようになる父との戦い方が分からなかったのだ。常識を盾にして、心配しているからと情に訴えても父に酒を飲ませることを止めさせることはできない。言葉も心も通じないのだ。
泥酔した父は飲み屋のママに連れられ帰宅する。ママは『飲ませすぎてごめんね』と悪びれる様子無く言う。そんな父を咎める真理子にママは『みんなこれくらい飲んでる』『マリちゃんも大人になれば分かる』と真理子に理解がないかのような言い方をする。
更にママは『マリちゃんはお母さんが死んだのに泣いたりしないんだってね、冷たいじゃない』と言い放つ。そしてその横でヘラヘラし続ける父。飲み屋のママの言葉に腹を立てると同時に、父の他人事の様な態度にショックを受ける真理子。父に期待することをやめ、手続きもほぼ自分で済ませて高校へ進学するのであった。
しかし、真理子は高校で『最悪のごまかし方』を身に付けてしまうのだ。同級生がたまたま酔っ払った真理子の父と会うことがあったのだが、一見すると陽気で明るい父を同級生は『すごく面白い』と言った。『面白い』と言われて驚いた真理子。
そっか、お父さんておもしろいんだ
酔うと化け物になる父がつらい 菊池真理子 29/143
泥酔して、布団で寝タバコして畳を焦がす父を見ながら真理子は笑うのであった。
第3話 マトモじゃないのはどっち~父のことを笑い話にして明るく振る舞う真理子だったが…
泥酔して色々とやらかす父を『話のネタ』にする様になった真理子。同級生達は父の話をすると爆笑する。『みんなが笑っているから、これは面白い話なんだ』…真理子はそう思うようになっていった。
しかし、同時に周囲から浮いてしまうことを恐れる様にもなっていた。人に合わせるために本音と反対のことばかり言うようになっていた真理子が素直な気持ちでいることができるのは漫画を描いている時だけだった。
そんな安らぎの時を邪魔をするのはやはり父だ。ろくに風呂に入らず悪臭を振りまきながら泥酔して玄関に倒れ込み、そして風呂に入ったかと思えば今度は湯船に突っ伏してしまっている父。
酔っぱらった父とは関わりたくないとも思うけど、関わらないとこの化け物は死んでしまう
酔うと化け物になる父がつらい 菊池真理子 32/143
そう思って世話を焼き続ける真理子。『笑える武勇伝ができた』と自分に言い聞かせて。
しかし、そんなことを繰り返した結果真理子は自分の本当の気持ちが分からなくなってしまった。高校3年生の体育祭の日、真理子は突然涙があふれてとまらなくなってしまう。自分は運動が嫌いだからだ…そう思った真理子は体育祭に途中から参加したものの、そこから気持ちが切れてしまい、進学も就職も何しないまま高校を卒業した。一方で父はそのとき、クソジジイ達飲み仲間と作ったソフトボールチームの打ち上げをしていた。父から何も期待されていないことを、真理子は楽だとすら感じていた。
それから真理子はバイトを転々とし、不規則な生活を送るようになる。バイト代も遊びに使い、夜は父より遅く帰宅する。自分がこれからどうしたいかも分からない真理子。しかし、一つだけ分かることがあった。
ある日、バイト先の友人達と雑談していた真理子は友人達が『ママになりたい』と語っているのを聞いて、寒気を覚えた。
『この人たちはどれだけ自分が好きなのだ』と。
すぐに我に返った真理子。友人達に失礼で、子どもを持ちたいというのは当たり前のことだと。しかし、『こんな不幸の世界に産み落とすのは無責任』『河合がれる保証もないのに産むのは自己中で考えなしだ』と他ならぬ自分がそう考えていることに初めて気づいたのだ。
『自分の未来に子どもはない』それだけは分かった真理子であった。
どうして自分はこんな風になってしまったのか…そう考えながら帰宅した真理子の目に飛び込んできたのは、額を押し付けて転寝している父の姿であった。
慌てて引き離した真理子は泥酔した父を揺さぶりながら『マトモになってよ』と不満をぶつけた。
すると父は『マトモじゃないのはどっちだ』と言って、真理子の顔を突然殴りつけたのだ。騒ぎを聞きつけた妹が駆け寄ってきたが、父はそのまま真理子の髪の毛を掴んで引きずる。『就職もしないでフラフラしていて、マトモじゃないのはどっちだ』…言葉だけ聞くと真面目に説教しているように聞こえるが、そう言って笑って真理子の首を絞める父の顔には理性が感じられる、まるで猿の様だった。そんな父を見て、真理子は自分が子どもを持ちたくないのはこんな父親や自分の遺伝子を世に残したくないからだと気付くのであった。
その後、妹が助けを呼びに行き、真理子と妹はその晩クソジジイの家に泊めてもらうことになった。
翌朝、クソジジイと共に家に戻った真理子と妹。父はなんと昨晩のことを覚えていなかった。クソジジイは父に『娘に言いたいことがあるなら酒を飲んでないときに言わなくてはダメだ』と説教するが、同時に真理子にも『お父さんが家に帰らないのは真理子のごはんが不味いからだ』と見当違いな説教をして帰っていく。
それに対して何も言わない父。真理子が悪いと思っているのかと尋ねると、『ん』とだけ答える。そんな父に『もう飲まないでね』と泣くことしかできない真理子。その後も父は変わらず酒を飲み続けるが、暴力を振るうことはなかった。父を介抱する日々を続ける真理子。母の元に行きたいとすら思うのであった。
第4話 思考停止~父を嫌いになれなかった真理子は、思考停止に陥ってしまう
酔うと化け物のようになってしまう父に苦しみながらも、真理子は母のように死を選ぶことはできなかった。しかし、『生まれてきたくなかった』というがら思いを常に抱き続ける。
父は小さな会社を経営しており、真理子は時々そこで電話番などを手伝っていた。電話番の合間、マンガを描いて時間をつぶす真理子は、以前父が暴力を振るった際に『ふらふらしていてマトモじゃない』と発したことから、『自分がフリーターじゃなくなれば父のストレスが減り、飲み方も変わるのだろうか』と考える。
そこに、父の友人の松木がやってくる。松木は父が酒を飲まずに交流できる数少ない友人であった。松木は父について『男同士は飲めないと仕事にならないからと鍛えられてしまった』と言いつつも、何かと酒を飲もうとする父を咎めてくれる。そんな松木に対して、彼の息子が大学進学したことを祝福した父。その様子を見た真理子は、何もしていない自分に引け目を感じるのであった。
しかし、そんな真理子に転機が訪れる。23歳になったばかりのある日、マンガ家デビューが決まったのだ。妹と共に喜び合う真理子、そこにいつものように酔っ払った父が帰ってくる。父からの祝福を期待していなかった真理子。しかし、予想に反して喜んだ父は『やるだけやってみな』『失敗したらお父ちゃんが面倒をみてやる』と父親らしく応えた。驚く真理子に父は自身もかつて小説家を目指していたことを明かし、その晩は父と真理子と妹の三人で食卓を囲み、和やかな時間を過ごすのであった。
時々こういうプレゼントをくれるから、イヤなことも帳消しにしてしまうのだ
酔うと化け物になる父がつらい 菊池真理子 46/143
マンガで掲載がつかめなかった時も、父のエピソードを使うと道が拓けたりする。そのため、真理子は父のことが嫌いになれないのだ。
それどころか、真理子は『家族を大事にする男性』『将来設計をきちんと立てる男性』『酒やタバコをしない男性』達に『つまらない』と魅力を感じられなかった。無意識のうちに父親の様な人を格好いいと感じていたのだ。
父親に対して『好き』と『嫌い』という相反した感情を持ち続けていた真理子。しかし、ある日家に一本の電話がかかってくる。それは父の酔っぱらい運転に轢かれた被害者からの電話だった。何も聞いていなかった真理子は驚愕するが、電話の相手が父が酒を飲みに出かけていて不在であると知ると『どんな神経してるんですか!』と激怒する。父の所業にショックを受ける真理子、そこに泥酔した父がクソジジイに伴われ帰宅する。
ずっと化け物だったら嫌いなままでいられたかな
酔うと化け物になる父がつらい 菊池真理子 50/143
事故のことを聞こうにも泥酔した父は会話もまともにできない。『好き』と『嫌い』の狭間で引き裂かれた真理子はとうとう何も感じなくなってしまうのであった。そして、この時に思考停止状態になってしまったことで、真理子は更に悲惨な経験をすることになるのだ。
24歳の時に、同い年のT大学の大学院生、太一を紹介された真理子。数学の研究の傍ら小説も執筆しているという太一は真理子に熱烈なアプローチをしてきたが真理子は『不釣り合いだ』と太一から逃げ回っていた。しかし、真理子は『私ごときが、太一の様な優秀な人をふるのはおこがましいかも』と考え、彼と交際しようと決意する。…なんとなく『片鱗』が見えていたにも関わらず。
太一の交際を受け入れた真理子。しかし、今一つ喜んだ様子を見せない太一は『信用できねぇ』と言うと突然胸元からジンの酒瓶を取り出すと飲み干し、瓶を蹴り飛ばし、『付き合うってことは結婚する気あるんだろうな』と真理子のことを怒鳴り付けた。
この人はヤバい…そう悟った真理子。しかし、父の一件もあり思考停止していた真理子は、そこで逃げずに受け入れてしまう。笑いながらそんな真理子を『死ぬまで離れるな』と抱き締める太一。
『小説を書く酒飲み』…意図せずして、父と似た男を選んでしまった真理子。この時から鳴り止まない電話と暴力の日々が始まるのであった。
第5話 人との距離がわからない~酒飲みDV男と交際をはじめた真理子
付き合って早々から太一は1日に5、6度、そして深夜にもお構いなしに真理子に電話を掛けて来るようになる。太一は真理子がちゃんと家にいるか探りを入れて、『自分が論文を書いている間、音楽を聞かせてやる』といって会話するでもなく、電話の向こうから音楽を流す。しかし、太一の寝息を確認してから電話を切らない限り、彼は何度もかけ直してくるのだ。
『付き合うってこれで合ってる?用もないのに電話したりすること?』
真理子はこれまでも何人かと付き合ったことがあったが、いつも『真理子から電話をくれない』『クリスマスにバイトを入れた』『冷たい』等という理由ですぐに相手からフラれていた。人との距離感、そして好きになる方法が分からなかったのだ。父との異様な関係の中、父に愛されていないと思いたくなかった真理子は、無関心=愛情と捉えていたのだ。
しかし、太一との関係については束縛が強すぎるせいで無関心ではいられなかった。『好きってこういうことなのか』そう真理子は考え、ただただ受け入れるのであった。
父と違って太一は酒が強かった。酒以外のものを飲んでいる姿を真理子は見たことがない。公園でデートしている最中も、服の袖口に紙パックの日本酒の隠し入れていて器用にそれをストローで飲む。中学生時代、授業中に酒を隠れ飲むために発見した方法だという。そこで、母親のこと等、報告すべきことをすべて太一に話した真理子。公園のベンチで隣に座る太一は『真理子の母親の話をちゃんと覚えておく』と言ってく真理子の頭を撫でる。しかし、直後に真理子が『飲みすぎちゃダメだよ』と冗談めかして紙パックを取り上げた瞬間、豹変して真理子を怒鳴りつけた。
「お前って美人にしか許されないことするよな!」
酔うと化け物になる父がつらい 菊池真理子 59/143
「自分の顔見ろよ」
そう言って紙パックをひったくるとベンチから立ち去る太一。しかし、真理子は自分が傷ついていることにすら気付けない。そして夜になると太一は何事も無かったかのように電話口で真理子に愛を囁くのだ。
その頃、真理子は偶然家で母の日記を見つけてしまう。真理子が生まれてくる前の日記にはは宗教のことばかり書かれていたが、そこで『父が望まないので子どもは堕ろすことになった』という文面を見つけ動揺する。
親孝行として家族旅行を提案した妹の誘いを断る父の姿を見て、『父は心底子どもをいらないと思っていたのだ』と感じ落ち込む真理子。母は父に頼み込んで自分を産んだのか、しかし、その母も自分達子どもを見捨てていった…そう思い自己肯定感はどんどん下がっていく。
雨の日、太一とデートしていた真理子は太一から傘をどこで購入したか尋ねられる。『忘れてしまった』という真理子に、太一は『酒も飲んでもいないのに忘れるのか』と問う。『いちいち覚えてないって』と笑顔で答えた真理子、しかし次の瞬間太一は真理子の傘を取り上げ『男に貢いでもらったんだろ』と叫び、公衆の面前で傘が折れるほど強く真理子の顔面を殴りつけたのであった。
『本当に忘れただけだ』と必死に言う真理子に太一は掴みかかり、責め続け、しまいには『母親みたいに気でも狂ってんのか』と罵倒する。その言葉に真理子はショックを受けるも『親にもいらないと言われた自分なのだから、どんな愛され方をされてもいいや』…そう思ってしまうのだった。
傘が壊れてしまったため、ずぶ濡れで帰宅した真理子。妹はそんな真理子の姿に驚き心配するが、父は何も言わない。この先何年間も父は、真理子がどんな姿で帰ってきても、何も言わないのであった。
第6話 加害者~恋人太一からの暴力、泥酔した父の介抱…鬱屈した日々を送る真理子に結婚話が出るが
その後、太一は大学院を卒業後、一流企業に勤めだす。『マンガなんて娯楽』と言い、漫画家として成功していない真理子に対して『俺の彼女ということ以外取り柄がない』と言い放つ。しかし、真理子はその発言をただ受け入れるだけだった。
太一はデート中、必ず一度は帰宅して、『男友達の元に行く』と嘘をついてから真理子の元に戻ってくる。母親を心配させないためだという。そんな太一を内心『マザコンだ』と評しながらも不満を言うことはない真理子。街中で彼氏に文句を言う女性を見ても、『大切にされる価値のある子だからだ』と思い、自分とは違うと考えるのだった。
時間を適当に潰した真理子は太一が戻ってくると共にホテルに行く。太一と共にいて安心できるのは行為しているときだけであった。その時ばかりは罵倒されず、殴られることはないのだ。しかし、行為が終わると太一は『お前はなんで処女じゃないのだ』等とどうしようもないことで言いがかりをつけ、暴力をふるい始める。そして、そのまま始発で帰宅すると、家には泥酔した父がいるのだ。
そんな日々に鬱々とする真理子。しかし、一方で妹は明るく、嫌な顔もせずに父の相手をする。父はソフトボールチームの監督と、町内会の副会長をこなし、近所のおばさま達からも人気があり、週末泥酔して記憶が飛んでも月曜日には仕事に行く。太一からのDVや本心を明かせる友人もおらず、月に何日かマンガのアシスタントをしているだけの真理子はそんな二人を観て、さらに自己嫌悪に陥るのであった。
ある日、真理子はアシスタントをしている漫画家、米沢りかから、『母親がアル中で大変な思いをしている』という話を打ち明けられる。初めて家族の飲酒で苦しんでいる人の話を聞いた真理子。しかし、『こんなに大変な思いをしている人がいるんだから、お父さん程度で文句を言ってはいけない』と思ってしまい、米沢りかから『お父さんも飲むんでしょ?少しでもおかしいところがあったら』と心配されるも『大丈夫、普通です』と打ち明けられないのであった。
私の心が狭すぎるんだ。我慢が足りないんだ。とりえも友達も仕事もない。お父さんよりずっとダメな人間。そう分かってるのに
酔うと化け物になる父がつらい 菊池真理子 74/143
父を連れていこうとするスナック飛鳥のママを止めようとする真理子。しかし、ママからは『お父さんが寂しいのわかってあげられないのか』と咎めるように言われ、クソジジイ達からは『キビシイ』『かわいそう』と笑われ煙たがられる。…自分だって寂しい。そう思う真理子。しかし、この寂しさをどうすればよいのか分からない。
ある日、ホテルで太一から唐突に別れを告げられた真理子。驚く真理子を太一は殴り付け『最近怒ってなかったから、付け上がらせないようにした』と笑う。真理子も同調して笑うと、太一は『真理子の家に挨拶に行くから父親に都合をつけてもらうように』と言い出す。突然現実味が帯びた結婚話に戸惑いつつも喜ぶ真理子は帰宅後、妹にそのことを話す。ところが、
「お姉ちゃん、殴られてるんでしょ。どうして別れないの?」
酔うと化け物になる父がつらい 菊池真理子 77/143
「毎日何時間も電話して、変な時間にお姉ちゃんを帰して。あんなのがお義兄さんなんて、イヤだから」
そう言って妹は泣き出す。真理子は自分は寂しさを酒ではなく寂しさで埋めた結果、妹の笑顔を奪う加害者になってしまったのだと思うのであった。
第7話 さよならクズ男~自尊心を取り戻した真理子は太一に別れを告げる…しかし…
辛い時もいつも一緒だった妹が結婚に反対して泣いている。そのことに戸惑う真理子。しかし、そのとき携帯に太一から電話がかかってくる。『ちょっと見ないようにしてくれればいいから』と真理子は泣いている妹を置いて電話に出る。
太一からの電話は『母が倒れたので挨拶に行くのを延期してほしい』というものだった。太一の母の病気は急性膵炎。医師から生活環境を変えないようにといわれたこともあり、そのまま結婚もしばらく後にしようという話になった。真理子は残念に思うどころか妹との対立が回避できたとホッとするのであった。
結婚が先送りになったことから真理子は26歳で大学の通信課程に入学した。そこで真理子が興味を持ったのは心理学だった。。
ある日、心理学の講義で『学習性無気力』というものが取り上げられた。折に閉じ込めたネズミにランダムに電気を流すと最初は逃げようとするが、それが長期にわたると逃げようとはせず、ただ電流に耐えるようになるという。
『何をやっても無駄という無気力を学習してしまう』それを聞いた真理子は、しょせんネズミだからか…そう思った。しかし、講師の『このような状態は人間にも起こる』という言葉に固まるのであった。
その後、真理子が帰宅するとやはり泥酔した父が机に突っ伏して呂律の回らない口調で真理子にどこに行っていたかと尋ねる。大学だと答える真理子に『スネかじりの扶養家族』と言って自分のことを語ろうとした父。しかし、父はそのまま急に泣き出してしまう。驚いてどうしたのか尋ねる真理子だったが、 結局一度しか見ることのなかった父の涙の理由を知ることはできなかった。
このようにランダムで予想が付かない出来事が続く真理子の日々。 優しくされるよりめちゃくちゃにされる方が慣れている。夜道を共に歩くなか、太一は真理子を蹴りつけたかと思えば急に抱き締める。『親孝行の仕方が分からない』という理由で泣く太一を優しくなだめる真理子だが、内心はとても冷めていて、どうせまたすぐに太一が暴力的になることを分かっている。そして、一人になると安堵感を得るのであった。
しかし、そんな真理子に少しずつ変化が生まれる。27歳の時、隔月で仲の良い編集者からルポマンガの仕事をもらった真理子。何の気なしに『人気もないのにありがとう』『つまらないマンガでごめんね』と言う。すると編集者は『面白いと思っているから頼んでいるんだ。そういう考えは読者に失礼だ』と真理子を叱った。真理子は編集者の言葉に驚きながらもそれを素直に受け止める。真理子のマンガはウケたのかそのまま連載が続き、その後他社からも声がかかるようになり、仕事が増えていった。前向きになっていった真理子は自分の仕事も生き方も見つめ直そうと思うのだった。
しかし、太一に『結婚後は仕事をやめるように』と言われてもイヤと言うことはできなかった。考えることをやめて結婚すれば、母親そっくりになってしまう…そう思っていながら。
そして、ついに太一が真理子の家に結婚の挨拶にやってきてしまう。飲める相手ができて嬉しいと太一を歓迎する父。対して妹は浮かない顔で俯いており、真理子はその様子にショックを受ける。
挨拶が終わり、真理子は太一を駅まで送る道中、『父は酒に弱いので、一緒に飲まないでほしい』と頼む。しかし、太一は子どもの前で潰れる真理子の父を恥ずかしい親とバカにし、『妻気取りで指図して、どうなるか分かってるのか』と凄む。そして笑う。
「妹に言っときな。夜道に気をつけろって」
酔うと化け物になる父がつらい 菊池真理子 85/143
そう言って前を行く太一を見つめて真理子は考えた。かつて漫画と小説と互いに創作し合う身であるから意気投合した二人。しかし、太一はもう小説を書いてはいなかった。もう、太一は真理子にとって何の魅力もない。『もう、ずっと前からキライ』…そんな自分の心の声が聞こえたのだ。そして、真理子はただ自分に自信がなかったから、太一ではなく、彼との関係に執着していたことに気付くのだった。
でも私が歪んだままでいると、まわりの誰かを傷つける。無気力なネズミはもう終わり。さよなら、クズ男
酔うと化け物になる父がつらい 菊池真理子 86/143
真理子は太一と別れることを決意した。別れはその後電話で伝え、太一は案の定真理子に激怒し罵倒してきたものの、直接襲撃してきたりすることはなく、意外にもすんなり別れることができたのであった。
太一をフッて以降、真理子は今まで隠していた本音や自分の気持ちを堂々と明かせるようになっていった、しかし、これは新たな歪みの始まりでもあった。
いつも通り泥酔した父の世話を焼く真理子。頭に灰皿の吸い殻を被ってしまった父をきれいにしようとするも抵抗されてしまう。そして、苛立った真理子は思わず父の背中を強く叩いてしまったのだ。初めて人に暴力を振るった真理子。手の平の痛みと叩いた感触、そしてそんな行為をした自分にショックを受けるが、『お父さんは明日には忘れてしまうから』と言い訳をする。
…その後、真理子は父を殴る様になっていくのだった。
~続く~
以下、感想・考察
自身の境遇に振り回される主人公とその自尊心の低さを描く描写が生々しい
第1話から母親が自殺する等、相当ハードな展開が続く。母の自殺は主人公で作者である真理子の心に深い影を落とし、その後父から期待を裏切られ続け、父が持ち込む気苦労がまた、真理子の自尊心や自己肯定感といった幸せになるために必要なものを少しずつ、そして確実に削いでいく。この描写が非常にリアルなのだ。
真理子は比較的早い段階から酒飲みの父、宗教狂いの母に不満を抱き、その異常さに気付いてた様である。しかし、それに気付くことができたとしても、子どもには抜け出すすべがない。社会人になったら家を出てけばいいのではないかと言う人もいるだろうが、作中に出てくる『学習性無気力』があるように、真理子はその半生から『何をしても無駄である』という考えが染みついてしまっており、苦痛から逃げ出すという発想が無いのである。
その結果、父と同じ酒飲みで、更にモラハラ、DVまでしてくる恋人、太一から逃げ出すことが出来ない。この太一からのDVの描写もまた痛々しくて読んでいて苦しくなる。作中、断定している描写は無いものの、太一もまたアルコール依存症だったのではないか。真理子の父の様に顔が赤くならなかったり、酔っている様子が見えないのだとしても、酒量をコントロールできず、常時飲まずにはいられない状態になっている太一はかなり危ない。実はこういうタイプ程気付かずにアルコール依存症になっているのである。 そして、太一もまた真理子とは別のベクトルで親との関係に苦しんでいるような描写がある。社会人になっても、 母親を心配させないためにデート中一度帰宅して、男友達の家に行くと嘘をついてから真理子の元に戻ってくるのは、やはりどこか病的である。そのことも二人が共依存に陥る要因ではあったのではないだろうかと考察する(なお、奇しくも『共依存』という概念はアルコール依存症患者とその家族のケアから生まれたものである)。
自尊心を取り戻し、自信をつけたように見える真理子だが…
大学生活や仕事を通して少しずつ自尊心を回復させた真理子は、太一と別れ自分の気持ちを表に出せるようになる。しかし、一方で父に暴力を振るうようになるなど、攻撃的になってしまう。これって田房永子氏が『うちの母ってヘンですか』で『親にけなされて育つと一度は反動で攻撃的になる万能期のようなものが来る』と述べているのと、どこか関係があるような気がしなくもない。
この様な変化を見せた真理子、そして相変わらず酒に飲まれ続ける父。彼らがどのような結末を迎えるのか、おって後半の記事を書いていきたい。
後編の記事はこちら
→【漫画】酔うと化け物になる父がつらい(後編)【感想・ネタバレ】父との関係に苦しみ続けた娘が迎えたラスト・結末は…実写映画化も
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