【漫画】酔うと化け物になる父がつらい(後編)【感想・ネタバレ】父との関係に苦しみ続けた娘が迎えたラスト・結末は…実写映画化も

酔うと化け物になる父がつらい 表紙

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酒飲みの父、宗教にハマる母の元で育った真理子。中学二年の時に、飲み仲間と遊んでばかりで家庭を顧みない父との生活に疲弊した母が自殺。その後、真理子は泥酔し何をしでかすか分からない父の世話に苦しみ、周囲にも心を閉ざす。そして、恋人、太一からもDVを受けるようになるが逃げ出すことはできなかった。しかし、マンガの仕事等を通して少しずつ自尊心を取り戻した真理子は太一に別れを告げ、その後、自身の気持ちを表に出せるようになる。一方で今までの反動から父に対して攻撃的、暴力的な態度を取るようになってしまうのであった…。

前編の記事はこちら
【漫画】酔うと化け物になる父がつらい(前編)【感想・ネタバレ】アルコール依存症の父と、振り回される娘の絶望

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Contents

酔うと化け物になる父がつらい…の登場人物

菊池真理子

本作の主人公、漫画家。周囲からの愛称は『マリ』『マリちゃん』。幼少期から酒を飲み麻雀三昧の父と宗教にハマる母に不満を抱いており、母が悩み、時折泣いていること知っていたが、面倒臭さを感じ気付かないふりをしていた。そのため、中学2年生のとき母が自殺した後は『自分が盾にならず逃げたのが原因だ』と責任を感じるようになる。それ以降、本音を隠し、泥酔した父の奇行を『笑いのネタ』にして明るく振る舞うようになったが、その結果自身の気持ちや本音が分からなくなってしまう。高校卒業後しばらくは進学も就職もせずにバイトを転々とする日々を送る。その後23歳で漫画家デビューする。24歳のとき、 太一からの交際申し込みを受け入れるも、今度は太一からのモラハラ、束縛、DVに長きにわたって苦しめられるようになる。太一を振った後は一転、父に対して 暴言暴力を振るうようになってしまい、その事でまた自己嫌悪に陥る。

テレビや米沢りかの話から『アルコール中毒』『アルコール依存症』の存在を知っていたものの父がそれであると認識することはなかった。 父に対しては『酔うと化け物になる』と思っており、その存在や世話を煩わしく思う一方で、父からの愛情に飢えており、たまに優しくされると喜ぶなど『好き』『嫌い』という相反する感情を持ち苦しむ。
父の死後は生前の父に対する自身の言動を後悔するなどして苦しむが、周囲の支えによって少しずつ立ち直る。そして、周囲に心を開けるようになり、父に関する感情や記憶に整理をつけた。

真理子の父。小さな会社を経営している。近所の仲間たちと作ったソフトボールチームでは監督をし、町内会で副会長を務め、近所のおばさん達がファンクラブを作るほどの人気者で社交的な人物だが、休日には近所の飲み仲間を自宅に招いて徹夜で麻雀をするなど家庭を顧みることはない。 シラフの時は口数が少ない、生真面目な小心者だが、 酔うと真理子の高校の同級生からは『面白い』と称されるように、明るく陽気、饒舌になる。しかし、その実、酒に弱く、少量で泥酔し、家族の介抱が必要になる。そして、真理子が成長するにしたがって、どんどん酒に弱くなり、飲酒運転をして車を燃やしたりするようになる。
妻が自殺した直後は酒をやめるが一か月も続かなかった。

過度な飲酒がたたり、食道がんを発症。また肺がんも患い、脳にまで転移してしまう。病院に行ったのが遅かったことから、ステージ4、余命半年と診断される。しかし、娘達に黙って多額の借金をしており、診断後も働き続け、さらに借金を重ねる。その後、回復と悪化を繰り返し、最終的に寝たきりで喋ることもできなくなる。しかし、亡くなる一週間前、口はきけないものの、真理子を見つめ微笑みかけた。

真理子の母。某宗教にハマっており、朝30分、夜1時間の勤行をするのが日課。 娘の真理子も勤行に誘うがいつも断られていた。普段から酒に酔った父の介抱をしており、休日は家で酒を飲み麻雀に熱中する父とその友人達に召使の様に使われ、そんな日々や父に不満を抱いていた。また、 真理子が物心ついたころから父と寝ることをしておらず、その寂しさを埋めるためか週に一度は真理子の布団に潜り込み、共に裸で寝ることを求めていた。
真理子が中学2年生になる頃には精神的に追い詰められ、真理子を理不尽に怒鳴りつけるようになり、ある日置手紙を残して家から姿を消す。その際、電話で真理子から懇願されたこともあり、帰って来るが、その数か月後首を吊って自ら命を絶った。

真理子の3歳下の妹。心優しい性格をしており、不平不満を口にすることはない。 家族思いで家族旅行を提案したりもする。 真理子のことをよく慕っており、真理子の書くマンガを楽しみにしていた。そのため、真理子が漫画家デビューをした際は大喜びした。 また、真理子が太一からモラハラ・DVを受けていることを見抜いており、結婚に反対した。
後に在宅でイラストの仕事をするようになる。

常に明るく振る舞っていたが、それは家族をバラバラにしないためであり、内心では真理子同様、父を嫌悪し、不満を抱いていた。父の死後、米沢りかから父がどんな人物だったか尋ねられた際は『何を願っても一つも叶えてくれない人だった』と答える。

クソジジイ

真理子達の近所に住む父の飲み仲間、麻雀仲間。真理子が幼い頃から真理子の家に入り浸り、母を小間使いの様に使っていた。母が亡くなった際は『今後は真理子がしっかりしないと』と声を掛けるのみで、罪の意識を持っている様子はなかった。また、父が真理子に暴力を振るった晩は、真理子と妹を家に泊め、父に『娘に言いたいことがあるなら酒を飲んでないときに言わなくてはダメだ』と説教するが、同時に真理子にも『お父さんが家に帰らないのは真理子のごはんが不味いからだ』と父の飲酒を真理子のせいにする様な見当違いな説教をする。真理子が父に飲酒を控えさせようとすると『かわいそう』と言う。父の食道がんが発覚した際には真理子に『結婚して安心させてやれ、それとも病気なのか?』と言って批判した。飛鳥のママと不倫している。
父の告別式では『弱っている姿を寂しくて見ていられなかった』と父のお見舞いに行かなかったことを真理子に謝罪した。

クソジジイの妻

真理子の母が亡くなった際は、『困ったことがあったら何でも言って』と心配するような様子を見せたが、自身の夫が真理子の家に入り浸ることについては以前から『金が掛からなくて助かる』と真理子と母に対して悪びれもせずに笑って言っていた。

スナック飛鳥のママ達

スナック飛鳥のママをはじめとする、飲み屋の女性達。父に酒を飲ませ、父へ飲酒を咎める真理子に『みんなこれくらい飲んでいる』『大人になればわかる』『寂しいのが分かってあげられないのか』と言い、真理子に理解がないかのような発言を繰り返す。そして、母の死後、母を恋しがるような発言や涙を流すことが少ない真理子に対して『ずいぶん冷たいじゃない』といった心無いことを言う。父の食道がんが発覚した際は自分達が飲ませ続けていたにもかかわらず真理子を『病院に連れて行かなきゃダメだったじゃない』と批判した。

松木

父の数少ない、酒を飲まずとも共に過ごせる友人。酒に飲まれる父とその娘である真理子を何かと気遣う。
父の病状が悪化した後、父に代わって会社の後処理をしようとするも専門知識を持たず困っていた真理子を助けた。

太一

真理子と同い年の男性。T大の大学院で数学の研究をしながら、小説を書いている。真理子に熱烈にアプローチをしてくるが、真理子が交際を受け入れると態度を一変、威圧的な態度を取り、真理子の自尊心の低さにつけこんで支配・束縛し、暴力を振るうようになる。
大変酒に強く、中学生のころから袖口に紙パックの酒を仕込み授業中にも飲酒をしていたほどで、真理子とのデート中も酒を持ち歩き沢山飲む。
真理子と長らく交際し、結婚の挨拶に来るも、歓迎する様子の無い真理子の妹を脅すような言動を取り、自尊心を取り戻した真理子にフラれる。そのことに激怒するも見下していた女を追いかけることをプライドが許さなかったためかアッサリ引き下がった。

『子どもは作らず自分の両親を守ることに全力をかけたい』等、親を大事にするような言動を繰り返すが、『親孝行の仕方がわからない』『あの人は何をしても不機嫌なんだ』と泣き出したり、社会人であるにも関わらず『母親を心配させないために』とデート中一度帰宅して、『男友達の家に行く』と嘘をついてから真理子の元に戻ってくる等の奇妙な行動を取る等、親(特に母親)との関係は歪んでおり、太一自身も非常に複雑な感情を抱き苦しんでいるようだった。

米沢りか

真理子のアシスタントと先の漫画家。真理子に自身の母親が『アル中』であることと、その苦労を明かし、酒飲みの父親をもつ真理子を心配する。真理子の父の死後、真理子の家に線香を上げに来た際に、『亡母が今そこから歩いてきたら罵倒する』と語り、真理子と妹に『父はどんな人だったか』と尋ね、父の死後自分を責め続けていた真理子が立ち直るきっかけを作る。『毒親サバイバル』にも登場する。

編集者

真理子と仲の良い男性編集者。 真理子に隔月のルポマンガの仕事を依頼した際、自身や自身の漫画を卑下する様な発言をした真理子を 『面白いと思っているから頼んでいる。そういう考えは読者に失礼だ』と叱り、真理子が自身をつけ自尊心を取り戻すきっかけを作った。また、父の死後、真理子が心を閉ざして平気なふりをしていることを見抜き、温かい言葉をかけ、真理子が立ち直るきっかけを作る。『毒親サバイバル』にも登場する。

各話あらすじ・ネタバレ

第8話 終わりの始まり~父に暴力を振るってしまう様になった真理子は自己嫌悪に陥る

朝ゴミだしをする真理子は玄関にビニール袋に入った父のパンツとズボンを発見する。真理子は『とうとう漏らしたのか』と悟るが、特に何も感じない。酒をやめさせることはとっくのとうに諦めていたからだ。

しかし、父に対する苛立ちや怒りだけは止められなかった。酔った父には言うだけ無駄と分かっているのに罵詈雑言を吐き、手が出てしまうようになってしまった真理子。『父が可哀そう』と思いながらも、見かねた妹に仲裁してもらうまで止めることができない。そして、その後自己嫌悪で苦しむのだ。

そして外に出ても周囲の『親になって一人前』『親に愛されずに育った奴はヤバい』『片親の子どもはひねくれている』といった言葉に傷付いてしまう。『家庭・育児』の話題で思うことがあっても、子どものいない自分には意見を言う資格はないと口をつぐむ。

でも、親にならず子どもでしかいないから、見えてるものもあるはずだ

酔うと化け物になる父がつらい 菊池真理子 95/143

そう前向きに捉えようともする真理子だか、やはり、泥酔して吐瀉物を撒き散らす父を前にすると激昂し、暴力を振るってしまうのだった。

その頃、世間では『毒母』という言葉が認知され始める。その言葉を目にしても直接自身と照らし合わせることはなかったが、真理子は無意識のうちに何か気付いたのか、突然父のことを無視できるようになった。『父と距離を置くと気持ちが楽になる。ぶったりイライラしなくてすむ』そう気付いた真理子。しかし、父が帰宅する物音を聞くだけで不快感を覚え、涙があふれる。

どうしてこんな嫌いな人が親なんだろう
嫌いになりたくなかったのに
嫌いすぎて苦しいなんて誰にも言えない

酔うと化け物になる父がつらい 菊池真理子 99/143

結局完全には父を無視できない真理子。『嫌なら出ていけ』と他でもない父から言われても、在宅でイラストの仕事をする妹や家事のことを考え、家を出ないどころか、貯金ができると家のリフォームまでするのであった。

しかし、リフォーム後、片付けを手伝ってくれた友人が父の姿を見て『痩せた』と指摘した。気付いていなかった真理子に更に妹が『最近父は咳ばかりしている』と言う。
真理子が無視する様にしていた数年の間に、父は病に侵されていたのであった。

第9話 罵倒~余命半年と宣言された父…そんな父をまた罵倒してしまった真理子は…

咳が出ても痩せても酒を止めようとしなかった父が病院に行ったのは、酒が飲み込めなくなってからだった。診断は『食道がん』…酒やタバコが原因で発症すると語る医師。さらに父は肺がんも発症しており、脳にも転移があった。ステージ4、『余命は半年』…そう父と真理子は告げられた。

その言葉に涙を流した真理子。悲しみより驚きが大きかった。余命宣告にも関わらず、今までと同様に働き続ける父にどう接してよいのか分からなかった。

しかし、父が会社の経営のため銀行に1000万、また他からも借金をしていたことが発覚する。真理子も妹も全く知らされていなかった。驚いた真理子がきちんと説明するように求めても、父は『働いているから大丈夫』としか言わない。いつ倒れるかも分からないのに、あまりに無計画な父。慌てて借金についての情報を調べ始めた真理子は借金の返済や、年金に入っていなかった父の今後の治療費について不安を抱くと同時に、病気の父よりも自身に降りかかるお金の心配ばかりしてしまう自分をさもしいと感じ、自己嫌悪するのであった。

がんの告知を受けて以降、父は飲み仲間のいる店に行かず、酒をやめた。そして、抗がん剤治療のため、毎月1週間ほど入院するようになった。病室で口数の少ないシラフの父と何を話したら良いか分からず戸惑う真理子。しかし、父は飲むことから解放されて安心しているようにすら見えた。真理子が小説を差し入れると静かに喜ぶ。真理子はそんな父と穏やかな時間を過ごすのであった。

しかし、そんな時間も長くは続かなかった。半年の余命宣告にも関わらず、一時は治療が効いて、回復の兆しを見せた父。しかし、1年がたったある日、運転中に右半身が動かなくなってしまう。脳腫瘍が原因だった。幸い事故にはならず、体もすぐ動くようになったが、その後急速に父の体力は落ちていくのであった。

それにも関わらず無理矢理働こうとする父を、真理子は仕方なく車で送迎するようになった。そこで真理子は父がこの大変なときに事務員をやめさせ、さらに新しいファックスを100万円のローンで購入したことを知ってしまう。ショックと怒りから、帰宅中の車内で真理子は父と口をきくことすらできない。

帰宅した真理子は妹に『お父さんが本当に嫌い』と言った。すると妹はいつにもない冷たい表情と口調で吐き捨てた。

「…私だって、嫌いだよ」

酔うと化け物になる父がつらい 菊池真理子 111/143

その言葉に愕然とする真理子。今まで常に明るく振る舞い、父にも優しく接していた妹。しかし、こんな環境で明るくいられるわけがないのだ。ずっと家族がバラバラにならないように頑張ってくれていたのだ…そう気付いた真理子はそういった妹の努力を壊すような父の行動に我慢ができなくなる

借金を重ねた理由を教えるように真理子は父に詰め寄った。しかし、父は無視しようとする。そんな父の態度に怒りが爆発し、罵倒してしまう。妹が諫めても真理子は堰を切ったように溢れ出る今までの怒り、憎しみ、恨みを止められない。

「今さら酒やめたってしょうがないんだよ。あれが長生きしたい人の生活だったの!?」「あんたは経営する資格も結婚する資格も子どももつ資格もないよ!」
「お父さんのせいでみんな苦しんだんだよ!」「惜しまれて死ぬと思わないで!私に恨まれて死ぬんだってちゃんと知って死んで!」

酔うと化け物になる父がつらい 菊池真理子 112/143

わかったよ…そう真理子の罵倒に弱々しく応えた父。罵声を浴びせながらも、誰かに止めてほしい…どこかでそう感じていた真理子。本当はお金のことやお酒のことで怒っていてのではなかった。ずっと前から自分たち家族のことを何とも思っていないことが悲しかったのだ。しかし、それを真理子は上手く伝えられなかった。

その翌日、父は意識を失った。父が最期に覚えている言葉があの自分の罵倒…そう思った真理子はただただ呆然とするのであった。

第10話 やさしくできない

意識を失い病院に運ばれた父。極度の貧血状態を起こしていたことが原因で輸血をしたことで事なきを得たが、医師は『体力的にがんの治療は難しいため、緩和ケアに移行した方が良い』と言う。真理子は医師のその提案を受け入れる。

病室で眠る父に『ひどいことを言ってごめん』と謝り倒した真理子。すると父は一瞬目を覚まし『大丈夫』と答えた。しかし、真理子が辛いのは、言わなければ良かったと後悔しても、あの言葉が嘘だとは言えないことであった。

その後、真理子は父に代わり残された会社の業務を処理しようとする。病身の父を労われない後ろめたさを誤魔化すためだった。しかし、専門知識やスキルがない真理子はすぐに行き詰ってしまう。そんな真理子を助けてくれたのが、 父の数少ない、酒を飲まずとも共に過ごせる友人 、松木であった。優しく頼りになる松木を見て、真理子は『お父さんがこんな人だったらよかったのに』と思うのであった。

その後しばらくして、父が意識を取り戻した。いつも通り仕事のことを口にする父だが、その様子にどこか違和感を覚える真理子。すると病室にスタッフがやってきて『要介護度』のチェックをする。簡単な内容のテストを『これがわからなかったらショックだわ』と真理子は軽い気持ちで眺める。しかし、父はそのテストに答えることができなかった。 真理子は悟る。
『もう一人で背負うのは無理だ』と。

真理子は早速、法律事務所に勤めていた友人に相談の電話をかける。助けを求めるのに勇気がいったが、友人は快く協力を申し出てくれた。『友達だから』と。

ひとりで生きてくなんて思い上がり
手をとってくれる人は昔からいっぱいいて、私が閉じこもってただけだった

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そう、気付いた真理子。弁護士のすすめで結局会社は解散。真理子の持ち出しも最小限ですんだ。その事は父に伏せていたが、父はどこかで察していたようで、真理子に会社の片付けは誰がやったのかを尋ねる。真理子が回収業者の友達だと答えると『お礼を言っておいて』と言った。これが噛み合った最後の会話であった。その後、父の容態はあっという間に悪くなっていき、がん宣告から2年、本格的に在宅介護をすることとなった。

妹とともに父の介護をする真理子。しかし、心は全くこもっておらず、事務的に最低限のことをこなしていく。『こんな日々、早く終わらないかな』ふとそう思った真理子は、自分が一度でも『治ってほしい、一日でも長く生きてほしい』と願ったことがないことに気付くのだった。しかし、そんな真理子がベッドの近くで荷物を運んでいると、朦朧とした父が『お父さんが運んであげる』と言う。複雑な想いを抱きながらも真理子は『ありがとう』と返すのだった。

その半年後、何度目かの緊急入院をした日のことだった。真理子が呼び掛けると父が微笑んだ。穏やかな父の笑顔に真理子も笑って『どうして笑ってるの?何か言ってるの?』た尋ねる。父はもう何も喋れなかったが、真理子は今までになく長い時間父と目を合わせたのであった。

そして、一週間後、翌日に退院を控えた夜に、父は旅立つのであった。

最終話 これからもずっと

父の告別式、真理子は多くの弔問客の前で挨拶をしていた。父に対してはずっと死んでもいいと思い続けていた真理子。それなのに、『今が人生で一番悲しい』…そう感じて涙を流していた。

多くの弔問客が涙を流し、別れを惜しむ様を見て、こんなに愛されていた父に冷たく接し続けた自分こそが人の心を持たない化け物だったのではないかと思うのであった。

そしてその後、今まで父に向けていた不満や怒りが自分に向かってくるように、後悔から来る自己嫌悪に悩み苦しむようになった真理子。『自分がいつも不機嫌でうるさかったから父は外で飲んでいたのでは』『父にしてもらったことに目をつむってイヤなところばかり見ていたのでは』そう考えてしまい眠れない夜を過ごすのだ。
真理子は父に怒る、父に無視される、泣かされる等、常に父との関係が感情や生活の中心にあったため、父を失って心身のバランスを崩してしまったのだ。

そんなある日、アシスタントをしている漫画家の米沢りかが線香をあげに家にやって来た。自身も『アル中』の母に振り回される経験をしてきた米沢は真理子と妹を労る。しかし、『亡き母が今そこから歩いてきたら罵倒する』とハッキリ言い切った米沢を見て真理子はハッとする。そして、米沢から『二人にとって父はどういう人だった?』と尋ねられると真理子より先に妹が淡々と『何を願っても一つも叶えてくれない人だった』と返したのだった。

『自分だけ、死者を美化してるのだろうか』米沢と妹の様子からそう感じた真理子は、その後、一人机に向かってマンガを描いていた。…でも父に飲ませない方法はもっとあったはず…等と心の中で再び自分を責め始める。しかし、泥酔した父が家のドアを開ける様を思い浮かべた瞬間、以前のように不快さで心が軋むのを確かに感じたのであった。

『うそ、全然ダメだ』そう口に出した真理子。脳裏に甦る、酔うと化け物になる父の姿、そしてそれを止めようとしてもどうにもできなかった幼い自分の姿。

「まだ嫌い…酔ったお父さんは泣くほど嫌い、優しくなんてできない」
「もっと早くから止めてればって、気付いた時に止めてればって」
「ムリだよ、できるもんか」

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そう言って真理子は一人で大泣きするのであった。

『父が飲むのは自分のせいじゃない』『ひどいことを言ってしまったのも、酒に飲まれた父のせい』そう思ってもいいかな…と真理子は思えるようになっていった。とはいえ、簡単に吹っ切れる訳もなく、日常生活の中、真理子はふとしたことで父を思い出してしまい、一人になると涙を流す日々を送っていた。それは半年過ぎても続き、親しい友人にもその苦しみを打ち明けることはできなかった。

ある日、編集者から『まだ落ち込んでるんじゃない』と尋ねられた真理子は笑って『平気』と答えるが、『嘘ばっか』と見抜かれてしまう。自分が再び心を閉ざしていたことに気付いた真理子。このままでは死ぬまで一人で泣いて過ごすことになる…そう思って素直に『本当はまだ立ち直れていない』と編集者に言う。一人で煮詰まってもどうしようもないことをちゃんと学んでいたのだ。
『仕事も介護もしてくれてお父さんは感謝していると思う』と言う編集者の言葉に真理子は少し救われるのだった。

今まで父と父の血を継ぐ自分を嫌悪してきた真理子。しかし、温かい周囲の人々に触れるうちに『みんなのステキなところは親子じゃなくても受け継ぐことができる』ということに気付いたのだ。

失った支えよりもっと多くの手に支えられて、父と私のではなく、
私の人生を生きなくちゃ…!

酔うと化け物になる父がつらい 菊池真理子 136/143

そう決意した真理子は父が亡くなってから2年ほど経つと、ようやく穏やかな気持ちで過ごせるようになった。かつての荒んでいた自分を思い返しても、化け物となった父に応戦するために必死だったのだと肯定的に捉えられる。

『父によって化け物になられるのがつらかった』そうハッキリ思う真理子。世の中では自身を苦しめる親に対して目を背けず、憎み嫌いちゃんと決別するべきだという意見もある。真理子はそれは間違っていないと思う。

「でも情けないな」
「お父さんのことは憎めない、嫌えないの」

酔うと化け物になる父がつらい 菊池真理子 137/143

もういない父に対して、今でも『私のことを好きになって』と思う気持ちを消せない真理子。できるのは一つだけ。少ないながらもしっかりと在る、温かな記憶。それを

ただもうずーっと、忘れない

酔うと化け物になる父がつらい 菊池真理子 138-139/143

~終わり~

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以下、感想・考察

アルコール依存症のリアル

アルコール依存症の父親の様子がリアルで、振り回される主人公の心情にはとても共感できる。何故なら私自身の父親がアルコール依存症で、それが元で命を落としたからだ。泥酔して寝タバコして畳を焦がすとか、アル中あるあるなのだろうか。私の父は泥酔して布団に煙草を押し付けて燃やした。朝、学校に行く前にたまたま父の部屋に取りに行くものがあって扉を開けたら、部屋中白い煙が充満していて、イビキをかく父の顔の横で火が上がっていた。忘れられない体験である。

『アルコール依存症・アル中』と言うと決まって『飲まなきゃいい人なんでしょ?飲ませないようにしなきゃ』という言ってくる人がいる。しかし、これは間違っている。アルコール依存症において本人が『飲まない』、周りが『飲ませない』という選択をするのはほぼ不可能なのだ。
アルコール依存症になってしまうと依存症という位なので飲まずにはいられない。そして、街には酒屋、スーパー、ドラッグストア、コンビニ…等々、どこもかしこも酒が溢れかえっている。だいぶ減ったが自販機でも売っていたりする。そのため、どんなに止めたって簡単に酒を購入してくる。『飲まない、買ってない』と父はいつも言っていたが、ポケットに手を突っ込めば紙パックの酒が、布団をめくれば小さい瓶の焼酎がゴロゴロ出てくる。

特に周囲に飲酒をすすめる人がいなかった私に父がそんな感じだったのだから、周囲の人間に意図的に酒を飲まされ続けていた作者の父は酒を断つなんて到底できなかっただろう。しかし、この周囲の麻雀仲間や飲み屋のママ、読んでいて本当に腹が立つ。人の家に入り浸って麻雀三昧、泥酔するほど飲ませて家に帰してくる、そして真理子や真理子の母に父の世話を強いてくる。酒を止めようとするとまるで理解がないかのように責めてくる。なんなんだ、こいつら。

私の父と私が幸いだったのは、父がアルコール依存症になってから死ぬまの期間が短かったことだろう。そして安らかに眠る様に死んでくれたこと。あれ以上振り回されていたら、きっと私は父が心底嫌いになっていたに違いない。まだ、まともだった、良くしてくれた時間の方が長いから、父については楽しい、良い思い出を語ることができる。非常に冷酷な言い方になってしまうが、あの状態が長く続いていたら思い出は全て、饐えたアルコールの匂い、廊下にまき散らされた大小便、フローリングに染み込む吐瀉物に侵食されてしまっただろう。

アルコール依存症患者に最も必要なのは家族の愛情や検診ではなく、医療機関による適切な治療だ。…しかし、それがまた難しいのだけど。大抵のアルコール依存症患者は自身が病気であることを認めず抵抗するし、そんな風に嫌がる大の大人を無理矢理病院に連れていくなんてできない。また自分の話になってしまうが、私の父も自身がアルコール依存症になってしまったことを認めようとはしなかった(多分、本心では分かっていたのだろうけど)。そんな父とテレビを見ていたとき、テレビでアルコール依存症とその治療の特集がやっており、『父さんこれだから、病院行こうよ』と言うと自棄になって酒を飲み始めた。そして、倒れ救急車を呼ぶ騒ぎとなった。アルコール依存症とはそういうものなのだ。少しでもより、社会や人々に認知され理解が広がればと願う。

松本穂香主演で実写映画化決定

この『酔うと化け物になる父がつらい』は今年、2019年中に実写映画が公開される。主演は松本穂香、朝ドラ『ひよっこ』でユニークな主人公の同僚役をし、テレビ版の『この世界の片隅に』では主人公を演じた、新進気鋭の女優である。父親役は渋川清彦。その他オダギリジョーやともさかりえが出演したりとなかなか豪華だ。機会があれば見てみようと思う。

まとめ~アルコール依存症とそれに振り回される家族の苦悩がしっかりと描写され、救いがある

何度も述べているが、アルコール依存症の怖さ、そして振り回される家族の描写が本当に生々しい。母親も自殺してしまうし、恋人からは酷いDVを受ける主人公の半生には胸が苦しくなるだろう。一方で絵は可愛らしく読みやすい。そして、『親に苦しめられても親を嫌いになれない子の苦しみ』という繊細な心の動きを分かりやすく描けている。いわゆる『毒親もの』では『親と絶縁して終わり』というものが少なくないが、皆が皆、そのような選択をとれるわけではないということを示している(特に本作は子が関係を絶つ前に親が死んでしまう)。

しかし、救いはある。過酷な環境から心を閉ざしていた主人公に周囲が手を差し伸べ続け、主人公は少しずつ前を向けるようになる。そして、親との関係、記憶についても自分なりに整理をつけるのだ。

ページ数の割りに内容は濃い。読む価値は充分にあると評価する。

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