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『お前なんかいらない』そう言って母、静子を拒絶し恋人である吹石を選んだ静一。その後、吹石の家に匿ってもらい一晩過ごすも、翌朝ボロボロの状態でやって来て静一への謝罪の言葉を口にする静子の姿を見て動揺する。その場は隠れてやり過ごしたものの、静一は吹石の父に見つかってしまい、吹石と共に外へと逃げる。
しかし、そこで吹石が”女”として迫ってきた瞬間、静一の脳裏には走馬灯のように静子の姿が大量に蘇り、吹石を受け入れられなくなってしまう。静一はそのまま泣く吹石を置いて、帰るのであった…。
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→【漫画】血の轍5巻【感想・ネタバレ・考察】垣間見えた静子の過去。遠くに逃げたい吹石…静一が選んだのは…
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Contents
あらすじ・ネタバレ
第42話 両岸~大雨の中、静子は静一に謝罪し一人の人間として扱うことを誓い、静一もそんな静子に謝罪する
吹石と共に潜んでいたトンネルの中から出て、大雨の中裸足で歩く静一。静一は泣きながら様々な吹石の表情を思い浮かべるが、足は家に向かっていた。
すると前方から何かが倒れる音がする。大雨の中街灯に照らされぼんやりとしか見えなかったが、自転車を引いた母、静子が来たのだ。そして、静子は静一の姿を見つけると、自転車を投げ捨てるようにして、両手を突き出しながら駆け寄ってきた。子どもの様な泣き顔を浮かべた静子はそのまま静一を強く抱きしめた。
息を切らしながら『ごめんね』『ママひどいことして』と繰り返す静子。静一に言うのであった。
「せいちゃんのこと…ちゃんと…見るから…っ」
血の轍6巻 押見修造 18-19/224
「せいちゃんは…人間だよね…っ」
静一のことを一人の人間として扱う…そう誓う静子の言葉。それを聞いた静一もまた涙を流して言うのであった。
「ごめんなさい…いらないって…言って…」
血の轍6巻 押見修造 22/224
第43話 帰巣~全部話すという静子の言葉に安堵する静一は家に帰る
『静一を一人の人間として扱う』と誓った静子と、静子に向かって『お前なんかいらない』と言ったことを謝罪した静一。静子は静一を真っ直ぐ見据えて言った。
「…お話し、しよ。」
血の轍6巻 押見修造 25/224
「ママのこと全部お話しするから…静ちゃんのこと…お話しして。全部。」
ぐったりしながらも、『静子がしげるを崖から突き落とした真相』を知れると思った静一は安堵に近い表情を浮かべる。そして、静子と手を繋ぎながら家に戻るのであった。
しかし、家に入った静一は居間の様子を見て固まる。
居間には衣服やゴミ箱の中身が散乱しており、食後、下膳しなかったのか、食べかけの食事もちゃぶ台に残ったまま。…荒れていたのだ。
静一が帰ってきたことに気付いた父、一郎は静一に『どこに行ってた?心配していた…』と言おうとするが、静子がそれを『言わないであげて』と制止する。黙ってしまう父。静一は静子に言われるままお風呂に向かう。
脱衣所で服を脱いだ静一は下着に精液が付いたままであったことを思い出し、目立たない様に丸めて洗濯機に放り込んだ。
風呂から上がり、静子の用意した夕食を口にする静一。ゴミ箱の位置が元に戻る等、多少は整えられたもののまだまだ荒れたままの部屋には気まずさが漂っていた。そんな中、静子が『パパにはおばあちゃんちに行ってもらった』と告げる。そして二人きりになった家の中で再び『全部話す』と言い、微笑む。
「まず、ママのお話しからするね」
血の轍6巻 押見修造 50-53/224
「しげちゃんが落ちたときのこと」
第44話 お話をしよう~『全部話す』と言いながらも静子の話すそれは明らかに偽りの、都合の良い話であった
『全てを話す』と、しげるが落ちた時の話から語ると言う静子。真実が明らかになることに静一は緊張しながらも真っすぐ静子に目を向ける。
『あの時から静ちゃんもママもおかしくなってしまった』『ママはもう逃げない』と真面目な顔で静子は言う。そして、崖から落ちる直前のしげるの行動を真似をしながら振り返っていく。
―崖の上でわざと静一と静子に向かってふざけてみせたしげる。すると、バランスを崩してしまい、静子はしげるを助けるために慌てて駆け寄り…―
その時の様子を事細かに辿る静子は涙を流し始め、聞いている静一もまた泣き始めていた。しかし、次の静子の言葉に静一は凍り付く。
「でも間に合わなかった」
血の轍6巻 押見修造 66-68/224
「あと、ちょっとのとこで…手が…届かなくて……しげちゃん…は……」
「ごめんね…ママがもう少し…もう少し早く…しげちゃんを、つかまえてあげられてれば…」
泣きながら悲しそうに嘘を語る静子。実際は落ちそうになったしげるを静子は抱き寄せ助けた。にも関わらず悪態をついたしげるを静子は自らの手で突き落としたのだ。
真実を語ると言っておきながら周囲につき通している嘘を改めて言ったに過ぎない静子に静一は立ち上がって何かを言おうとするが、ショックから言葉が上手く出てこない。
そんな静一に静子は『ママがしげちゃんを突き飛ばしたと思ってるのでしょう?』と静かに言う。そして優しく静一の方に手を置き諭すように語り掛ける。
『静一はしげるが崖から落ちたことがショック過ぎて、不安と苦しさから全てをママのせいにしたかったのだ』と。
「大丈夫」
血の轍6巻 押見修造 73-74/224
「静ちゃんもママも悪くない。しげちゃんは自分で落ちたの。」
第45話 本当のこと~静子の言葉に記憶が侵食されていく静一…何が本当か分からなくなる
『全てを話す』と約束しておきながら、『しげるはふざけて自分で崖から落ちただけだ』といまだに言い続ける母、静子に静一は怒りと非難と絶望の眼差しを向ける。吃音の症状が出て上手く喋れないものの、歯を食いしばりながら静子の腕を強く掴んだ。
しかし、そんな静一に静子は『ママが嘘をついているというの?』『しげちゃんを突き飛ばしたりなんてしない』と悲しそうに泣き続ける。そして涙を流しながら優しく静一に言い続けるのだ。
『静ちゃんは優しいからしげちゃんが落ちたのは自分のせいだと、自分を責め続けてしまっていた』
『しかし、それが苦しくてママがしげちゃんを突き飛ばしたと思い込んで、ママを悪者にしたかったんだよね』
静一の顔を両手で挟み、見つめながら静子は続ける。
『でも、そういう風に考えて頭の中がぐちゃぐちゃになってしまったから上手く喋れなくなってしまったのだ』
『喋れなくておかしくなったのも辛くて、それもママのせいにしたかったのだと』
吹石のことも『それらが辛かったからあんなはしたない子にすがっただけなのだ』と説く。
『分かる』『かわいそうに』と共感と憐みの言葉を何度も挟みながら静一に有無を言わせず語り続ける静子。そして、こう言うのであった。
「ママもおんなじ。静ちゃんとおんなじ。ママもつらかったん…!」
血の轍6巻 押見修造 88-91/224
「わかってママの気持ちも。わかって。静ちゃんにだけはわかってほしいん」
「思い出して。おねがい静ちゃん。あのときのこと。本当のこと…」
「静ちゃん…」
すると不思議なことが起こった。しげるが落ちた瞬間を思い出そうとした静一。だが、脳裏に浮かんだのは静子の言う通り、『ふざけてしげるがバランスを崩し、静子が慌てて駆け寄るも間に合わずしげるが落ちてしまった』という光景であった。今まで思い出せていた『静子がしげるを崖から突き落としている』光景を思い浮かべることが出来なくなる。静一は『え』と呆然とするのであった。
第46話 発覚~静子の主張を受け入れる静一であったが、今度は静子からの追及が始まる
静子の言葉を聞いているうちに、『静子がしげるを崖から突き落とした』という記憶が曖昧になり、静子の言う通り『しげるがふざけてそのままバランスを崩して崖から落ちた』というイメージが鮮明に浮かぶようになった静一。『え』と泣きながら呆然とするも、静一の顔には安堵の笑顔が浮かび上がった。静子はそんな静一に『思い出してくれたんだね』と涙を流しながら優しく微笑み抱きしめた。
「ごめんね。静ちゃん…」
血の轍6巻 押見修造 102-103/224
「大丈夫だから、ママは大丈夫。もう…何も心配しないで。」
その言葉を聞いた静一は幼子の様に泣きじゃくりながら母、静子の胸に顔を押し付けるのであった。
しかし、そんな静一に静子は唐突にこう言う。
「じゃあ、今度は、静ちゃんのばん。」
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『昨夜までどこで何をしていたのか』
『吹石さんのところにいたのか』
…そう静かに追及してくる静子に静一は何も答えられず目を逸らしてしまう。
すると静子は居間から出て行った。静一は嫌な予感に動悸が激しくなる。そしてその予感は的中することになる。
「これ、何?」
血の轍6巻 押見修造 116/224
静子は脱衣所から、精液で汚れた静一のトランクスを持ってきたのだ。目の前でそれを広げられた静一はショックと羞恥からパニックを起こし動悸と汗が止まらず視界も白く歪んでいく。
『吹石と一緒にいた』
『一緒にベッドに入ってキスをしたら何か出てきてしまった』
正座し吃りながら涙を流して弁解する静一。そんな静一を見た母、静子は美しくも冷徹な、軽蔑した表情を浮かべてこう呟いたのであった。
「きったない」
血の轍6巻 押見修造 122/224
第47話 いつ出た?~静一の精通を許せない静子は静一を家から追い出す
精通のことを母、静子に『きたない』と吐き捨てられた静一は更に動揺し俯いてしまう。
そんな静一に静子は追い討ちを掛けるように『キスはお前からしたのか、吹石からしたのか』『本当にキスだけなのか、それ以上はしていないのか』と詰問する。そして、トランクスの汚れについて、『いつ、どのように出したのか』と問い詰める。
静一は怯え、震え、吃りながらも必死に『ひとりでに出た』と伝えた。しかし、静子のことを見上げて更に震え上がった。静子の静一を見る顔は軽蔑に溢れた冷たいものだったのだ。
『ごごごめんなさい』と吃りながら延々と謝り始めた静一に静子は『何を謝ってるの?あったこと全部言いなさい』と冷徹に言う。
静一は静子が吹石の家に来たのをベランダから隠れ見ていたこと、その後吹石の父に見つかり、吹石と共に外へ逃げたこと、逃げた先のトンネルの中で吹石が迫ってきたことを正直に話す。
すると、突然静子は汚れたトランクスを静一の頭に投げつけて言った。
「うそつき。」
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「はやくきえて。いなくなって。ママのまえから。」
静子は静一が今まで見たことのない位醜く顔を歪めていた。
そして唖然としていた静一を無理やり立たせると引きずるようにして、雨の振る外に追い出し締め出した。ママ…と静一はすがるように扉に向かって叫んだ。
「ちがうよ僕は…!」
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「ママを選んでもどってきたんだよっ!!」
第48話 血の誓約~心を静子にささげることを誓う静一
扉に向かって静一は『僕はママを選んで戻ってきた』『吹石を捨ててきたんだ』『こんな子供でごめんなさい』『もう変なこと考えない、変なの出したりしないから嫌いにならないで、僕を捨てないで』と叫ぶ。
しかし、扉が開く様子はなかった。静一は跪きながら続けた。
『ママがずっとつらかったんだって分かった』『おばちゃんもしげちゃんもおじいちゃんもおばあちゃんもパパのこともみんな嫌いだってことも』
「僕も…嫌いになるから…!吹石も…嫌いになるから…!」
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「だから…許して…!」
すると、扉の向こうから『最初から嫌いだったんだよね?』と静子が言う。そして『吹石さんとはどうするのか』と尋ねる。
静一は『最初からみんな嫌いだった』と言い直す。そして、
「僕が…いやだから」
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「嫌いだから」
吹石にもう近寄らないと誓う静一。すると、扉がわずかに開いた。扉の隙間から片側だけ顔を覗かせた静子。静子は静一をしばらく見つめると右腕を伸ばし小指を差し出す。静子の小指に黙って自身の小指を絡ませた静一。すると静子は『指切りげんまん』を歌い出し、歌い終えると真顔で静一に言った。
「やくそく。ぜったいだよ」
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そして自身の傷付いた中指を差し出す。静一は静子の中指を震えながら両手で触れ、『はい』と答えながら口付けをする。
その返答に静子は扉を開いた。『おいで』と静一を招き入れる静子の姿には後光が差していて美しく、静一はその姿に見とれてしまう。
その頃、病院ではしげるが目を覚ましていた…。
第49話 報せ~しげるの意識が戻ったという報せを聞いた静子と静一は…
静子の手を取りながら、その姿に見とれていた静一。静子はそんな静一を家の中に招き入れ、優しく抱きしめ微笑んだ。
静子の笑顔を見た静一もまた、涙を流しながら微笑んだ。そんな静一に静子は恋人にするように『このー、つんつん』と笑いながら頬をつつく。静一も静子に幼児のように無邪気に甘えて見せる。
その時、玄関の扉が突然開いた。父、一郎だった。玄関でくっつき合っている妻と息子を見て一郎は驚いた様子を見せるが、すぐに笑顔になり、こう告げた。
「しげちゃんが…意識…戻ったって…!」
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実家に戻っていた父、一郎はそこで姉からしげるが目を開きハッキリとした反応を見せたという連絡を受けた。よかったと喜ぶ父の声を聞いた静一は母の方を見る。一瞬の間を経て、自然な笑みを浮かべた静子。静一もそれを見て笑顔を浮かべた。
『あの山登りの時からみんなおかしくなってしまっていた』
『でももう大丈夫』
そう言って笑った父は『明日皆でお見舞いに行こう』と静子と静一に提案する。
静一は今まで一度もお見舞いに行こうとしなかった母、静子がなんと答えるのか見守る。すると静子は穏やかな笑みを作って『行きましょう』と言う。それを聞いて静一も安堵の笑みを浮かべて『うん』と小さく応えた。
その様子に安心した父は静一と静子を抱きしめて『よかった』と笑うのであった…。
第50話 再会~しげるの元にやってきた静子と静一…二人を見たしげるはあることを口にする
雨が上がりよく晴れた朝。静一を静子が起こしにやって来る。優しく静一を起こした母は今日の予定…しげるのところに行く予定を告げ、『朝ごはんは肉まんとあんまんどちらが良いか』と尋ねる。『どっちでもいい』と笑顔で答える静一。静子はそれに対して『あんまんでいい?』と尋ね、静一も『うん』とほほ笑むのであった。
父の運転で病院に向かう静子と静一。父、一郎は改めて『事故のことで姉夫婦達は一切静子のことを責める気は無いから心配しなくてもよい』『今日静子が見まいに来ることを嬉しいと喜んでいる』と助手席にいる静子に言う。静子もまた自然な様子で『私もやっとお見舞いに行けて嬉しい』と答えた。静一はそんな母、静子の本音を見逃すまいと後ろの席から見つめ続けるのであった。
広く静かな病院の廊下を歩く一郎、静子、静一。静一はちらりと静子の顔色を伺うも、やはり静子は笑顔を作り続けている。しげるの病室に到着し、カーテンを開くと、そこにはぼんやりとした様子のしげると、笑顔の伯母夫婦がいた。
静一達に穏やかな笑顔を向ける伯母。伯母はしげるに『静ちゃん達が来てくれたよ、わかる?』と呼びかける。
すると、その言葉にしげるはハッキリと反応し、瞳を開いた。その眼は以前静一がお見舞いしたときとは明らかに異なる、意識を持った眼であった。
「…しげちゃん。よかった……気がついて」
血の轍6巻 押見修造 215/224
嬉しそうにそうしげるに語り掛けた静子。すると、そんな静子を見たしげるは何かを思い出そうとするように目を閉じ眉間にしわを寄せる。その様子に伯母夫婦と一郎は驚き、静一もドキリとしてしまう。
しげるはこう口にするのであった。
「ちょうちょ…」
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それは、しげるが静子に崖から突き飛ばされる直前、目にしていたものであった…。
以下、感想と考察
静子により強固な洗脳を施され、反抗する意思を失った静一
序盤の雨に濡れる静子は痛々しく儚く、そして美しい。でも中盤からはホラー漫画もビックリな形相。夢に出てきそう。
静一の記憶までも捏造してしまう静子
静一に対して静子は『一人の人間として扱う』とか『全部お話しする』等と言ったが、それは静一の警戒を解くための罠。その真の目的は洗脳。静一が見たしげるを突き落とした静子の姿は静一の妄想で、しげるは自ら落ちてしまったに過ぎないと洗脳する。このシーン、怖い。筆致から静子の吐息、熱が伝わってきて、読んでるこっちも静一とともに頭がボンヤリしてきて、何が本当なのか分からなくなる。
そして、静一は静子の植え付けた偽りの記憶を受け入れてしまう。…それは仕方がないのかもしれない。誰かに疑念を抱き続けながら暮らすのは大きなストレスになる。『全て自分の思い違いだった』と疑念を投げ捨て暮らす方がよっぽど楽なのだ。ましてや相手は自分の母。吹石を除けば他に精神的な支えがほぼ皆無な静一は静子が用意した“逃げ道”に飛び込んでしまったと言えるだろう。
息子静一が性的に成長することを許せない静子
しかし、記憶の捏造に負けないくらい怖いのは、その直後の静一の精通への厳しい追及。このシーンは静一の心情を表す様に乱れた線でまるでホワイトアウトした様に描かれる。…というか、こんなことやられたら誰だって頭真っ白になるわ。
元々静一を性的なものから遠ざけていた様子の静子。深い付き合いになる友人もいなかったこともあってか、中学三年生になっても精通すら知らなかった。
静子は静一にいつまでも穢れを知らない幼子でいて欲しいようだ。静一が吹石からラブレターをもらうことすら受け入れられない位なので、当然、静一が精通を迎えたことを許せず激怒する。こういうのって毒親あるあるなようで、スティーブン・キングの『キャリー』でもキャリーの母親はキャリーが初潮を迎えたとき、『いやらしい』って言ってボコボコにするしなー。生理的なものなのだから仕方がないじゃないと思うのだが、それが通じないのが静子の様な毒親だ。
ただでさえ性的な興奮を覚えても静子の顔が浮かんでしまう位抑圧されていた静一。今回、精通したことを徹底的に責められ罵倒され辱しめられたので、より性的なものに対して罪悪感や後ろめたさを持つようになるのだろうな…。辛い。
静一の吃音は治ったものの、それは状況が改善された訳ではない
しげるの事件でのショック、真実と母、静子への愛情の板挟みでの葛藤から吃音になった静一。しかし、恋人である吹石の精神的な支えがあり、吃音は解消。だが、この6巻で静子から吹石の事や精通の事を厳しく詰られると再び吃り始めた。なので、この後もまた吃音が復活するのかと思いきや、そんなことはなく静一はすらすらと喋れる。
しかし、これは彼の精神が回復したからではない。そもそも静一が何故吃音を発症したかというと、静子がしげるを突き飛ばしたという真相を告発したい欲求、何故静子がそんなことをしたのかを知りたいという欲求と静子への愛情と恐怖心の板挟みの“葛藤”に苦しんだためだ。吹石との交際で吃音が消えたのは、吹石の支えもあって、『静子の方が異常で、自分の考えや欲求は間違っていない』と自信を持てて、葛藤が消えたからだ。つまり、静一の吃音には葛藤とそれによるストレスが絡んでいる。
そして、今回吃音が無くなったのは、静子に抗う意思が完全になくなり、葛藤することが無くなったからだ。もはや静子に支配されることに全くストレスを感じない。そこまで自我を徹底的に叩き潰されてしまったのだ…恐ろしい。
肉まん・あんまん問題4
1巻の記事、3巻の記事、4巻の記事でも、取り上げてきた『肉まん・あんまん問題』!!静子と静一の関係の変化がこれで分かる。
1巻… 『肉まんとあんまんのどっちがいいん?』と毎朝静一に尋ねる静子。とはいえ基本的に静一の答えは『肉まん』。
3巻…吃音になってしまった静一が明らかに『あんまん』と答えようとしているのに何故かそれを汲み取ってやらない静子。静一は諦めて『肉まん』と言う。
4巻…『朝はん、肉まんね』ともはや静子が勝手に決めるようになる。
6巻… 静子の『肉まんとあんまんのどっちがいいん?』に対して『どっちでもいい』と虚ろな笑顔で応えるようになった静一。ちなみに静子はそれに対して珍しく『あんまん』を出す。←NEW!!
…あああああっ!!静一はっ!ついにっ!考えることを放棄してしまったのだあっ!!
深い、やはりこの『肉まん・あんまん問題』は非常に深いし、物凄く闇を感じる。
表紙はクラス写真そして巻末のおまけは夏休みの宿題の一行日記
今回の表紙は小学校の頃のクラスの集合写真。吹石さんもいる。小学校から一緒だったんだ。前巻までずっと表紙に静子がいたから、それがなくなっただけで少しホッとする。小学校に上がって、やっと外の世界を持てたんだな、静一…。幼稚園には静子がついて来たうえ、後ろでずっと見ていたらしいし。
…とかなんとか思っていると、巻末の夏休みの宿題の一行日記に心を抉り取られる。『いえであそんだ』と『いとことあそんだ』が大半で『ともだちとあそんだ』は一個だけ。長い夏休みはほぼ静子と従兄のしげるとばかり過ごしているのだ。…これ読んだ担任はどう思うのだろう。
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まとめ~しげるはどこまで記憶を取り戻した?7巻の展開は??
静子からの強烈な洗脳を食らった静一はもう真実を追求する意思を失ってしまった。ただただ静子の望むまま動く人形と化したのだ。静子がしげるを崖から突き落としたという記憶すら曖昧になっている。
しかし、そんな矢先に当のしげるが目を覚ます。静一達はしげるのお見舞いに行くのだが…。
意識は取り戻したとは言えど、静子と静一を見て『ちょうちょ』と言う。ちょうちょはしげるが崖から落ちる直前に目にしたもの。真っ先にこれが出てくるという事は…たぶん、衝撃を受ける直前、『崖から落ちる直前の記憶だけが飛んでしまっている』パターンなのではないかと勝手に予想する。
この先、しげるは『静子に突き落とされたことは当面思い出せなさそうだけど、なんかの拍子に蘇ってもおかしくない』みたいな状態になるのではないだろうか。そして、それに対して静子がどう立ち回るかが見せ場になる…みたいな。
物凄くホラーだったこの6巻。次巻7巻がどうなるのか…追って記事にしていきたい。
次の記事はこちら
→【漫画】血の轍7巻【感想・ネタバレ・考察】記憶を失っているしげる~しかし、静子は病み静一に対しても冷淡な態度を取り続け…そして突然しげるの記憶が戻り…!?