【漫画】金魚妻~芳香妻【感想・ネタバレ・考察】その香は友人の母親によく似ていて~若い男性社員のアパートを訪れた40代の既婚OLは…

金魚妻2巻表紙

世の中には色んな趣味があるけれども、『アロマ』とか『調香』と聞くと『お洒落だなー』と憧れる。映画『パフューム ある人殺しの物語』のイメージもあるけれども、とても高尚なものに感じる。『源氏物語』等の平安文学も好きなので練香とかもいいなあと思う。以下、『金魚妻』の『芳香妻』の感想記事です(ネタバレあり)。

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Contents

以下、あらすじとネタバレ

既婚で娘もいる会社員、薫(45)は飲み会後、後輩社員の融(24)と同じタクシーに乗る

冬の札幌。そこではある会社の飲み会が終わり、社員達は二次会に移動しようとしているところであった。大雪の中、各々タクシーに乗って二次会の店まで移動しようとする社員達。そんな中、最も若い男性社員の融(24)は酔っぱらっていながらも、タクシーに乗り込む前からそこに先輩社員である軒端薫(45)がいることを言い当てる。『今、香水をつけていないのに』と薫は融の鼻の良さに驚くのであった。

タクシーで移動中、融は薫に突然『突然東京にいる彼女に振られた』と打ち明け、泣き始める。『あらー』と話を聞いてやる薫。今日の飲み会で融がやたらと社員達にいじられていたのはそのためだったのだ。おじさん達から『彼女のことは諦めて同じ部署の誰それと付き合え』と言われる融は『もう二次会に行きたくない』と零す。

それを聞いた薫は『大変ね』と融を慰める。融は明るく仕事もできるため、皆から可愛がられており、他にお酒が飲める若いものがいないため、必然的に酒の場ではいじり倒されてしまうのだ。『半端に能力高いから悩み無さそうって言われますけど、ボクも結構大変なんですよ』と本音を明かす融に薫は『だから愚痴を言う相手もしっかり選んでるもんね』と笑う。薫のその言葉に『鋭い!』と返す融。薫の前だと男性は皆、不思議と素直になるのだ。

しかし、薫が二次会に行かないと知ると、融は『そんなあ!じゃあ俺も帰る』と騒ぎ出す。そんな融を『君がいないと二次会が盛り上がらないでしょ』と薫は諭す。明日は夫と娘とアウトレットに行く約束をしている薫は融を二次会に送り届けたらそのまま家に帰る予定なのだ。して、融の携帯に職場の人から電話が掛かって来る。だが、融は『これ以上飲んだら死ぬ!家に帰りたい、薫さん代わりに電話出てよ』と泣きつき、仕方なく代わりに電話に出て『融くんは気分が悪くなってしまって二次会に出られない』と伝えるのであった。

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本当に気分が悪くなってしまった融をアパートまで送っていった薫

薫が電話を終えるや否や、突然融はシャキッとし始め、その分かりやすさに薫は笑ってしまった…と思いきや、融は急に吐き気と寒気を訴え始める。『本当に気持ち悪かったの!?』と慌てる薫。仕方なく、タクシーから降りて融をアパートまで送ることにした。

雪の中、アパートまでの道のりを『アキちゃん』と泣きながら歩く融に薫は『それが彼女の名前?』と苦笑する。

しかし、アパートに着いたものの融の部屋の電気がつかない。何と融は光熱費を滞納しており、なんてことのないように『さっき電気料金払ったから電気が来るはず』と説明する。薫は『北海道でこの時期に光熱費を滞納しちゃダメ!』と呆れ、『暖かくして寝るのよ』と言って立ち去ろうとした。

すると、融はPCの明かりしかない暗い部屋で心細いのか『せめて電気が来るまでいて下さい』『カセットコンロでお湯を作るからお茶を飲んでいってください』とまたしても薫に泣きつく。『24歳にもなって…』とそんな融に呆れる薫であったが、

母親が恋しいのかも…
私なら「彼女」も安心でしょう…

金魚妻 黒澤R 芳香妻

そう思って『じゃあお茶一杯だけ』と答えてやり、融は『やったー』と喜ぶのであった。

融の身の上話を聞いた薫は彼の趣味がアロマ…調香だと知り驚く

お茶を出した融は薫に年齢を尋ねる。すると薫は『45』と答え融は仰天する。若々しい見た目の薫をてっきり30代だと思っていたのだ。美容に力を入れている薫は嬉しそうに笑う。

「まじか~友達の母ちゃんと同じ年か~」

金魚妻 黒澤R 芳香妻

そう言って暗がりの中で薫をじっと見つめる融に薫は『お母さんはいくつ?』と聞いた。

すると融は『分からない』と答え、母親が幼い頃に浮気して出て行ってしまい、父子家庭で育ったと言うのだ。『大変だったわね』と同情する薫。だが融は『さっき言った友達の母ちゃんがとてもよくしてくれたから大丈夫だった』と笑う。それを聞いた薫は『融くんは放っておけないオーラが出てるから』と納得する。融も自身が女性にモテることを認め、『でも自分は彼女一筋だから困る』と言い、『薫さんは結婚して幸せそうだから会社でも安心して話せる女性だ』と打ち明けるのだ。融は同年代や年下の女性が少し苦手だという。少しでも上から目線な発言をされると素直に言うことを聞けなくなってしまうのだ。

そんな話をしている内に、薫はPCの横にいくつものエッセンシャルオイルの瓶が置いてあるのを見つけ、『彼女のもの?』と尋ねる。

しかし、意外なことに融は『アロマは俺の趣味です』と答える。『このローズの精油は一本2万円もする』等自慢を始める融の意外な趣味に驚きながらも薫は『光熱費を優先しなさい!』と叱り、『何でアロマ?』と尋ねる。すると、融は真剣に答えるのであった。

「俺…作りたい香りがあるんですよ」
「おばさんの香り」

金魚妻 黒澤R 芳香妻

『おばさんの香り』と聞いた薫はびっくりし、加齢臭的なもの?と混乱する。そんな薫に融は『友達の母ちゃんの香り』と説明し、薫はさらに『余計にヤバさを感じる』と困惑するのであった。

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融が語る友達の母ちゃんの思い出~融の彼女とは友達の母親、アキナのことであった

すると融は先ほどから度々口にする『友達の母ちゃん』について語りだした。

融には幼い頃からの友人、伊紀(よしのり)がいる。彼の家庭が融と反対の母子家庭で、そこの母親が融の事も自分の子供の様に接し、悪いことをした時も容赦なく叱ってくれた。融にはそれがとても嬉しい事であった。

そんな”よしのりの母”からはいつも良い匂いがした。香水を付けていないと言う”よしのりの母”は融がそれを指摘すると『柔軟剤の匂いかな?』と言うが息子であるよしのりからはその匂いがしない。それは”よしのりの母”の体臭だったのだ。

融の思い出話を聞いた薫は『そのおばさんとは今でも仲が良いの?』と尋ねる。すると、融は気まずそうに『今あっちは東京にいるから最近はあんまり会えていない』と答える。『東京』という言葉と融の態度から薫はある事を察する。

「融くんの彼女ってまさか…」

金魚妻 黒澤R 芳香妻

つい最近融のことをフった彼女とは、なんと友人、よしのりの母親の事だったのだ。『会社の奴らに言わないでください、薫さんだから言ったんですよ!!』と慌てて口止めする融。薫は『言わないよ』と答え、『だから融くんは若い子に興味がなかったんだ』と納得し、融は顔を覆って恥ずかしがるのであった。

しかし、親子ほど歳が離れた男女だ。”よしのりの母”…”アキ”は何度も別れを切り出してきた。その度に融の方が縋り、強引に関係を続けていたのだ。『でも今回は本当に別れることになるかもしれない』と真顔になって言う融。

「乳がんなんです」
「彼女」

金魚妻 黒澤R 芳香妻

『若くて健康な子と付き合うように言われた』『お金も送って来るなと怒られた』…そう言って融は俯く。融は保険適用外の治療をする”アキ”のために高額な送金をしており、そのために光熱費を滞納していたのだ。

思ってもみなかった融の事情を知って黙ってしまう薫。PCの明かりしかない部屋は重苦しい静寂に覆われる。

先に沈黙を破ったのは薫で『相談があるならしなさい』と言うと、融は『今からします』と答える。融が借金を申し込んでくると覚悟をする薫。しかし、融の頼みは意外なものであった。

「薫さんの匂いを嗅がせてください」

金魚妻 黒澤R 芳香妻

薫の体臭は病気になる前の”アキ”とよく似ており、その香りを調香するために嗅がせてほしいというのだ。

融に匂いを嗅がせる薫…しかし、二人はそのまま関係を持ってしまうのであった

暗がりの中、部屋に座る薫に顔を近づけた融は瞳を閉じて嗅覚を研ぎ澄ませる。

「すげえ…アキちゃんがすぐ目の前にいるみたいだ…」

金魚妻 黒澤R 芳香妻

電気が無かった時代、暗闇の中で男女は香りで相手を判断していた…そう語る融に薫も『源氏物語にそういう話があるね』と返す。しかし、融は『俺の匂いが邪魔だ』と言い出す。融は自分自身もクローブやユーカリ、ローズマリー等で調香した香水を身につけていると言って薫に香水の入った小瓶を見せる。瓶の香りを嗅いだ薫は『いい匂い』と感心し、融は気前よく『あげますよ』と言う。

そして、融は飲み会で衣服に煙草の臭いが染みついているため、『今日はもうダメかも』と言い出し、薫にまた後日家まで来てくれないかと頼む。

『それは無理』…笑いながらもハッキリと断った薫。息子と言っても通用するほど歳の離れた若い男のアパートに夫もいて娘もいる薫が再び訪ねるなんて、世間的に認められる行為ではない。融も『ですよね』と笑う。しかし、薫の目を真っ直ぐ見て言うのだ。

「もっと近くで嗅いでいいですか?」

金魚妻 黒澤R 芳香妻

その融のあまりに真面目な表情に薫は断ることができず、『いいよ』と言ってしまう。すると、融は薫の首筋に顔をうずめる。それを受け入れながら薫は『一体融くんはいつからこうするつもりでいたのだろう』と考える。

葛藤も抵抗ももう遅い
こうなってしまっては…

金魚妻 黒澤R 芳香妻

薫はベッドで融に抱きしめられながら匂いを嗅がれていた。瞳を閉じながら『彼女とはいつから付き合ってるの?』と尋ねる薫。すると、融は『本当は付き合ってない、”彼女”というのも嘘』と明かす。融は”アキ”と二人きりになったある日(恐らく融は高校生?)、一方的に想いを”アキ”にぶつけ、強引に関係を持ったのだ。融のそんな告白を『切ないね』と受け止めてやる薫。

『彼の話を鵜呑みにしてはいけない』…そう融と抱き合いながら薫は考える。共に仕事をしている薫は融が口が上手く器用な人間であることを知っていて、尊敬すると同時に怖いとも思っていたのだ。しかし、”アキ”の話はきっと本当だと感じていた。何故なら融が自分と寝るためだけにわざわざ作り話をするとは思えないからだ。

そして、”アキ”と融の関係について思いを馳せながら融に組み敷かれる薫は『自惚れてはいけない』と自身に言い聞かせる。

常に冷静でいなくては
私はもう若い娘ではないのだから…

金魚妻 黒澤R 芳香妻

融の心は東京に残してきた”アキ”にある。実際に融は目の前の薫を抱きながらもその匂いを追うのに夢中で、『そうだ、塩を少し入れてみよう…今度こそできるかも』と呟くのであった…。

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幸福は世間が決める…その後も融と薫の関係は続いたものの…

行為が終わった後、薫は服を着ながら『もし私が彼女で融くんのことが好きでも別れを告げると思う』と言った。そして『なんで?』と問う融に『若くて魅力的な男の子にみじめに捨てられる前にこっちからキレイに別れたいから』と答える。そんな薫に背を向けたまま早速香水に塩を混ぜている融は『そんなに世間体が大事かよ』と顔をしかめる。”アキ”にも同じようなことを言われたのだ。薫は『大事』と即答する。

「幸せか不幸かは世間が決めるものなんだから」

金魚妻 黒澤R 芳香妻

たとえ本人たちが幸せな関係であっても世間に認められなければ幸せとは呼べない…そうどこか虚しい表情で語る薫。だが、それを聞いた融は薫に笑顔を向けて言うのであった。

「薫さん」
「俺は友達の母親に欲情する奴ですよ」

金魚妻 黒澤R 芳香妻

その笑顔と言葉にときめいた薫。その後、融が東京に転勤するまでの数か月間何度か呼び出され関係を持った。しかし、それは『ただそれだけの関係』…決して燃え上がる様な恋ではなかったのであった…。

東京に戻った融は”アキ”と暮らし始める~一方、残された薫は以前と変わらない”幸せに見える生活”を送るが…

東京に戻って来た融は早速、”アキ”…空夏(あきな)の病室を見舞った。息子であるよしのりは今日は彼女とデートをしている様で、融と空夏は二人きりになる。

『来なくていいって言ってるのに』…と呆れたように言う空夏の目の下には濃いクマが浮き出ていた。そして、『もう髪もカツラだし、おっぱいも無くなっちゃったよ』と悲しそうに笑う。

だが、融は『あってもなくてもどっちでもいい』と答え、ベッドの机に置いてある小瓶を見て『あれ?』と言う。

それは融が空夏のために作ったスパイス系の香水であった。嗅ぐと元気が出るようにブレンドしたにも関わらず、空夏は使っていないようで融は『全然減ってないじゃん』と残念がる。だが、空夏は俯いて言うのであった。

「だってそれ融の匂いでしょ」
「香りはするのに姿は見えないなんて、そんなの……」

金魚妻 黒澤R 芳香妻

空夏のその言葉に驚いた融だったが、『ああ、俺もだ…』と呟いて持ち歩いていた”空夏フレーバー香水”を取り出して見つめる。どんなに薫を抱いても、空夏の体臭の香水を作っても心が満たされなかったその単純すぎる理由にやっと気づいたのだ。

融が自分の匂いの香水を作っていると知った空夏は『相変わらずバカだね』とため息を吐き、『さっさと若い娘を連れてきなさい』と言う。だが、融は『俺が熟女専になったのはアキちゃんのせいだから責任とって』と言い返し、『責任って何?』と言う空夏にこう答えるのであった。

「死なないで…」

金魚妻 黒澤R 芳香妻

そう言ってベッドに顔を埋めて泣き出してしまった融。そんな融の態度に空夏はついに根負けして、その後は融と二人暮らしを始めたのであった…。

融と空夏が一緒に暮らし始めたと聞いた薫は素直に『いつまでもお幸せに』と思う。薫はその後、何事もなく夫と娘と平和に過ごしており、”幸せに見える日々”を送っていた。

しかし、休日夫と娘とショッピングセンターに出掛けた薫はそこで不意に立ち止まってしまい、娘から心配そうに『ママ、大丈夫?』と尋ねられる。

融と別れてから大分経つにも関わらず、薫は街で融が身に纏っていた匂いを嗅ぐと雑踏の中に自分達の幸せを手に入れた融と空夏の姿を見てしまい、しばらく動けなくなってしまうのであった…。

以下、感想と考察

幸せかどうかは世間が決める?ビターエンドを迎える『芳香妻』

女の方が上手い事立ち回って終わる事が多い『金魚妻』の中で、この『芳香妻』はどちらかと言えばビターエンドというか…主人公である薫にさざ波が残る終わりを迎えた。

『幸せかどうかは世間が決める』という薫の言葉が重い。人間が社会的な動物である以上、どうしても世間の物差しが自身の基準になってしまうのは否めない。…まあ、それも個人差があって、融の様に『世間体がそんなに大事か?』と言って、自分自身の価値観で生きていける人もいるけどね。

結婚して娘もいて、家族中も多分良好で、若々しい美貌を保って仕事もしっかりこなしている薫は世間から見て”幸せ”に見える。少なくとも不幸ではない。

でも、不幸ではない=幸せ…ではないし、薫自身も自分の生活について『幸せに見える日々』という言い方をしているところからして、何かしら満たされないものがあるのだろう。だが、結局作中でそれが満たされることはなかった。もし、融と本気の恋ができていたらそれが満たされたのだろうか…?

プルースト効果や源氏物語についての蘊蓄

そして相変わらず蘊蓄が多い『金魚妻』。

融が語っていた、匂いを嗅ぐことでその時の記憶や感情が蘇る…通称『プルースト効果』はラストの薫に起きている現象だ。融の纏っていた香水に近い香りを嗅ぐたびに薫はこの先も融との思い出に惑わされ続けるのだろうな…。

そして、作中に挙げられた『源氏物語』も香りに関するお話が多い。特に後半の男主人公二人の名は『薫(かおる)』と『匂宮(におうのみや)』だからね。『薫』の方は生まれつき体から素晴らしい芳香が漂うという人物で、ライバル的立ち位置の『匂宮』はそれに対抗して着物に薫物をして香りをまとっている。…におうのみやって今思うと中々すごい名前だよな…。そんでもって、私の母校の古典の先生は『薫の身体から漂う天然の素晴らしい香りって多分ワキガなんじゃないかと思う』という夢をぶち壊す解釈をしてたな…。

ちなみに、この『芳香妻』作中には直接北海道札幌という地名は出ていないものの、雪が降る寒地という設定とESTAというショッピングセンターが出てくるので、私は札幌市の話だと思っている。

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