【漫画】金魚妻~頭痛妻【感想・ネタバレ・考察】ホームレス男性と密会を重ねるタワマン住まいのセレブ妻~しかし、そこに隠された真実は…

金魚妻2巻表紙

一線を越えてしまった妻を描く連作短編『金魚妻』。今回のテーマは『頭痛』。頭痛は誰の身体にも起こる珍しくもない症状だが、その具体的な部位、痛み、原因は様々で、時に恐ろしいものもあるのだ…。

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Contents

タワマン最上階住まいのセレブ妻、慈子(40)は年上のホームレス、タクゾーの元に秘かに通う

慈子が持ってきた布の面積が極端に少ないパンツを手に取ったタクゾーは『40にもなって君は…』『毛がはみ出るんじゃないのか』と呆れる。そんなタクゾーに慈子は頬を赤らめながらも『タクゾーさんに喜んでもらえると思ったから』『はみ出る事の無いようにきちんと処理をしているから』と答えるのであった。

タワーマンションの最上階に住む、田口慈子(40)には秘密があった。それは、トイプードルの”ぷー”の散歩ついでに河原の近くに住むホームレス、タクゾーの元を訪れることであった。タクゾーが自分で作ったという小屋の中で、二人は逢引し情事に耽るのだ。

慈子とタクゾーの出会い~人見知りする飼い犬の”ぷー”は何故かホームレスのタクゾーに懐いた

慈子とタクゾーが出会ったのは2か月前の事だった。タワマンのすぐそばの河川敷を散歩していた時、突然”ぷー”が騒ぎ出し、慈子から逃れて走り去ってしまった。やっとの思いで慈子が追いつくと、”ぷー”は見知らぬ男性にまとわりついていた。人見知りする”ぷー”が他人に懐いていることに驚きながらも慈子は男性に『すみません』と謝罪する。すると男性は『あんた、そこのタワーマンションの奥さんだろ』と言い当て、慈子はびっくりする。と同時に、背後にあるビニールシートで出来た小屋を見て男性がホームレスだと気付き体を硬くするのであった。

そんな慈子にホームレスは『怖がらなくていい、何か盗ってやろうなんて思っていない』と言い、『コーヒーを入れるから飲んでいけ』と引き留めた。

断れずコーヒーを受け取った慈子は『お水はどうしたものなのか?』と尋ねた。するとホームレスは『水は買ったものだから安心していい』と答え、『タワマン住まいのセレブ妻は水道水を飲めないのか?』と軽口を叩く。慈子は慌てて『そんな意図はございません』と否定し、『幼少期にサバイバルキャンプに参加して雨水を浄水してお米を炊いた経験もあるから、自給自足の生活は得意だ』と笑顔で語るのであった。

そして、コーヒーを飲んだ慈子はその美味しさに驚く。ホームレスは『俺はコーヒーをパーコレーターで丁寧に淹れている』と自慢げに言う。慈子はコーヒーの温かさに気持ちもほぐれ『主人もコーヒーが好きで、昔はよく淹れてくれていました』としみじみと語る。

そんな慈子にホームレスは『旦那は何をしている?』と尋ねた。慈子はそれに寂しそうな笑顔を浮かべてこう答える。

「ある会社で社長をしておりますが…忙しく飛び回ってばかりでもう半年ほど顔を見ておりません」

金魚妻 黒澤R 頭痛妻

そして、夫の年齢を尋ねてきたホームレスに逆に『お名前とお歳は?』と尋ねる。

「俺?俺はタクゾー 歳は50」

金魚妻 黒澤R 頭痛妻

そう答えたタクゾーに慈子は『主人はタクゾーさんと同じくらいの歳じゃないかしら。会わない時間が長くて忘れてしまいました』と笑うのであった。

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タクゾーからの質問に答えるうちに頭痛に襲われた慈子…タクゾーの小屋で休み、そのまま関係を持ってしまう

すると、タクゾーは『旦那との出会いは?』と尋ねる。そして、『主人は大学のワンダーフォーゲル部のOBだった』と答えた慈子を突然酷い頭痛が襲い始める。

『どっちから交際を申し込んだの?』『プロポーズの場所は?』と矢継ぎ早に質問を続けるタクゾー。タクゾーが質問すればするほど慈子の頭痛はどんどん悪化していく。

「タクゾーさん、何で…そんなに…主人の事を聞くんです…?」

金魚妻 黒澤R 頭痛妻

頭痛のあまり慈子はふらつき始める。タクゾーは慈子に『横になるか?』と尋ね、慈子は『家はすぐそこだから』と一度は断るものの『いいからいいから』と言われて朦朧としたまま小屋に上がり込んだ。

そして、気がつくとタクゾーに抱かれていたのだ。驚き困惑する慈子であったが、夢中になって自身の体にむしゃぶりついてくるタクゾーを見ているうちに愛おしさを感じ、最後まで許してしまうのであった。

慈子が頭痛に悩まされるようになったきっかけは犬の散歩時の転倒~そして、タクゾーも自身の身の上話を慈子に語る

その後、頭痛が収まった慈子は心配するタクゾーに説明する。

前に犬の散歩中に転んで頭を打ってしまってから…
こう…時々痛むようになってしまって…

金魚妻 黒澤R 頭痛妻

『きちんと検査した方がいい』と真面目に言うタクゾーに慈子は『検査したけど特に異常はないと言われてしまった』と答え、『タクゾーさんは優しいですね』と言った。意外にもキレイに整理された小屋に居心地の良さを感じた慈子はそのまま夕方まで過ごす。中にある家具はタワマンの住人が捨てようとしていたまだ使える高級品ばかりで、電気も火も使える様に工夫されて作られているのだ。

そして、タクゾーも自身の境遇について語りだした。『半年前まで自分もタワマンに住んでいた』と明かしたタクゾー。『ある日妻に追い出されてしまった』と言うのだ。

「5年前に浮気をしちゃってね」
「決着はついたんだけど…」
「多分…許せてなかったんだろうな…」

金魚妻 黒澤R 頭痛妻

それ以降、ずっとここで暮らしているというタクゾーは『時々寂しくなる』とうなだれる。その様子に胸が痛んだ慈子は自然とタクゾーの元に通う様になったのであった。

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タワマン住まいのセレブ妻でいながらホームレスとの不倫~二重生活を送る慈子は自身の本心に恐れを抱く

脱毛サロンでアンダーヘアの処理を行う慈子(ブラジリアンワックスだと思われる)。施術をしているエステティシャンの女性は慈子に『アンダーヘアの処理に来る40代の客が多い』と語る。『皆さん、どういう理由で?』と慈子が尋ねるとエステティシャンは『快適だからでしょうか?私もそうです』と笑って答え、そして更に言う。

「あとは…不倫してる人とかも…」

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その言葉にドキっとする慈子。エステティシャンは『不倫も40代のお客さんが多いです』『彼氏が喜ぶからって…ごめんなさい、こんな話』と微笑む。慈子は『いえいえ』と答えながらも動揺する。気を抜くと自身の”二重生活”を打ち明けてしまいそうだったからだ。

毎朝5時に起きて、人目に付きにくいうちに”ぷー”の散歩という体でタクゾーの元に向かう慈子。まだ辺りは暗いというのに『変装のつもりです』とサングラスを掛けている慈子にタクゾーは呆れる。

小屋の中で、慈子に膝枕をしてもらいながらタクゾーは『今日は仕事があるから6時には出る、夜10時まで戻らない』と告げた。タクゾーが何をして生計を立てているのか聞いていない慈子は『ゴミ拾い等をするのだろうか?』と想像する。そして、『今日はもう会えないの?』『寂しい!』と膝の上に寝ているタクゾーに胸を押し付け甘え、『タクゾーさんの好きにして』と求めるのであった。

大きな会社を経営する夫。その社長夫人でありタワマンの最上階で何不自由ない”セレブ”な暮らしを謳歌している慈子。愛する一人息子もいる。もし、隙を見ては河原の小屋でホームレス男と関係を持っているという”二重生活”が明るみになったらタダでは済まないだろう。何十年も掛けて築き上げてきたものを全て失うだろう。だが、

恐ろしいのはそうなってしまう事を…
私は望んでいる…?

金魚妻 黒澤R 頭痛妻

タクゾーの腕の中で、ふとそんな自身の気持ちに気付きゾッとした慈子。すると、また慈子を激しい頭痛が襲うのであった…。

一人息子、春斗の不可解な言動に困惑する慈子

その後、慈子は何事も無かったかのように帰宅し、朝食を作る。罪滅ぼしの意識もあってか、作り過ぎてしまった豪勢な料理を食卓に並べ、起きてきた息子の春斗(中学生~高校生だと思われる)は『何かの記念日!?』と驚く。

息子の春斗を何よりも大切にしている慈子。『息子を失ったら生きていけない』…そう常に思っているのだ。

すると、朝食を取りながら春斗は慈子に『そういえば、父さん今どうしてるかな?』と尋ねる。一瞬、無表情になったものの慈子はすぐに笑顔を作って『しばらく会ってないものね』と答えた。だが、春斗は妙な質問を慈子にするのだ。

「まだ父さんの事怒ってる?」

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春斗の質問の意味が分からない慈子。すると、春斗は“ある出来事”について語る。

それは半年程前の深夜の事、帰宅した父(慈子の夫)に対して母、慈子が『あなたなんか知らない!』『出てけ』と叫び、花瓶やら何やらを投げ付けて追い出したと言うのだ。騒動に目を覚ました春斗に慈子は『警察を読んで』と大騒ぎをし、父は仕方なく春斗に『お母さんを頼む』と言い残して出ていった…そう語った春斗。春斗は『母さんは父さんの昔の浮気について、怒りがぶりかえして父さんを追い出した』と考えているのだという。

だが、それを聞いた慈子は『春斗、何を言ってるの!?』と叫んで否定する。あの晩、『オレだよオレ』と言って家に入ってきたのは夫ではなく見知らぬ男で慈子は大変恐ろしい思いをしたのだ。『春斗、あなた寝ぼけてたんじゃないの?』と呆れる慈子。すると、春斗は困惑した表情を浮かべたものの、すぐに『それは怖い思いをしたね』と慈子に寄り添う姿勢を見せるのであった。

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春斗に『お母さんの秘密を知っている』と言われた慈子は”二重生活”をやめようと決意する…しかし、昔のアルバムを見返すとそこに写っていたのは…

その後、学校に行く春斗を玄関まで見送る慈子。春斗は『学校から直接塾に行って、それから友達の所に寄ってから帰る』と告げ、慈子は心配する。春斗は最近帰りが遅いのだ。

そして、春斗は家を出る直前、慈子に向かってこう言う。

「俺…知ってるからね。母さんの秘密」

金魚妻 黒澤R 頭痛妻

そんな息子、春斗の言葉を平然として『はいはい、馬鹿な事言ってないで行きなさい』と流した慈子。しかし、春斗が去ると『“二重生活”について息子にバレていた』とパニックになる。

ショックのあまりふらつく慈子は本棚の奥からあるものを取り出した。それは昔のアルバムで、慈子は辛いことがあると”幸せだったころ”のアルバムを見返す癖があるのだ。

写真の中の生まれたばかりの春斗を眺めた慈子は涙を流し『もうタクゾーさんには会わない』と自身に誓う。一人息子の春斗を失うのは耐えられないからだ。

しかし、そのままアルバムをめくっていった慈子は奇妙な写真を見つけて固まる。

「え…?」
「なんで息子の隣にタクゾーさんが写ってるの…?」

金魚妻 黒澤R 頭痛妻

そこには赤子の春斗と共に幸せそうに眠るタクゾーの写真があったのだ…。

タクゾーの元を訪れた春斗~タクゾーと慈子の頭痛の正体は…

その日の夜、春斗はタクゾーの小屋を訪れていた。リラックスした様子で春斗はタクゾーに『ここの生活気に入ってるみたいだね』と尋ねる。

「社長つってもただの人よ。起きて半畳寝て一畳、それだけあれな十分なんだよな」

金魚妻 黒澤R 頭痛妻

そう春斗の父で慈子の夫である田口宅造は答える。元々大企業の社長として各地を飛び回り自宅で過ごすことが少なかった宅造。寝泊まりするのにはこの小屋で十分なのだ。『僕はふかふかのベッドが好きだ』と言う春斗に『お前にもこの魅力がいつか分かる』と笑う。

「そういや最近母さん なんか妙にソワソワしてる事が多いよ」
「不倫の罪悪感かなー、実際は不倫じゃないけど…」

金魚妻 黒澤R 頭痛妻

『今朝、カマかけたけど誤魔化された、女は怖い』と春斗は笑い、宅造は『そういうのやめろ』と窘めた。

以前、”ぷー”の散歩中に転倒して頭部を強打した慈子。当初は病院の検査でも問題が無いと思われていたが、そうではなく『高次脳機能障害』を起こしていたのだ。『高次脳機能障害』は記憶障害を起こすこともあり、事故前の事を思い出せなくなることもあるのだ。

「そして父さんの顔だけ綺麗に忘れてしまった」

金魚妻 黒澤R 頭痛妻

当初は春斗も宅造も慈子が昔の宅造の浮気を許せなくなって、マンションから締め出したと思っていた。しかし、慈子は本当に宅造を夫だと認識できなくなっていたのだ。そして2か月前、飼い犬の”ぷー”が久しぶりに会う宅造に大喜びして駆け寄った時も、慈子は彼を初対面のホームレスのタクゾーだと思い、それが自身の夫だと気付くことはなかった。

『思い出すのをただ待つしかない』と慰める様に言う春斗だが、宅造は『別にこのままでもいい。最近、母さん綺麗だし』と答えて春斗を驚かせる。その上、宅造は『お前、妹欲しいって言ってたよな?』と不敵に笑い、春斗は『え、やめてよ、そういう話!?』とうろたえる。

…そして、その頃タワマンで混乱する事の連続で再び頭痛に襲われていた慈子は、さらに“謎の吐き気”にも悩まされるのであった…。

以下、感想と考察

珍しく“不倫”ではなかったお話

『タワマン住まいのセレブ妻がホームレスと不倫しているつもりだったが、そのホームレスは本当は夫で、妻は高次脳機能障害で夫の顔を忘れていた』…まとめるなら、そんな話な『頭痛妻』

タクゾーが慈子を”タワマン住まい”と知っていたり、水は買ったものであるとか、コーヒーをパーコレーターで入れているとか明らかにホームレスらしからぬ生活をしているし伏線はあるっちゃあるんだよね。『前からホームレス連中と付き合いがあった』と言うのもあくまで“支援する側”としてだったのかな?

今回の話については『一線越えてないじゃん』『そもそも不倫していないじゃん』といった感じでもあるのだが、慈子本人としては不倫している、一線を越えてしまっているつもりでいるので、いいんじゃないかな。それはそれでお互いに楽しそうだし。息子の春斗も受け入れているし。

しかし、ラストで慈子が妊娠したことが示唆されているけど、今後田口家はどうなるのだろう…。どうにかして、慈子にタクゾー=夫であると説明&説得して再び家族になるのかな?もし、慈子が夫としてタクゾーを認識できないのなら、『夫とは仮面夫婦を続けていて、ホームレスのタクゾーとの間に出来てしまった子どもを育てている』と思い込んで生きていくのか…。

小説、マンガ、映画…創作における“記憶喪失”と現実について思うこと

創作の世界において便利に使われる設定の一つが『記憶喪失』だろう。主人公の持つ情報量や行動をコントロールしやすく、『衝撃の過去』『意外な展開』が作りやすい。

そして、創作の世界における『事故の衝撃で特定の何か・期間についてのみ記憶を失う』といった作品について、以前の私は『完全に記憶を失うならまだしも、そんなキレイな(都合の良い)記憶の失い方ってあるのかな』なんて思っていた。ノンフィクション・ドキュメンタリー作品でそういったものは実在すると見聞きしても、事故に遭う直前の記憶を失うならともかく、『数年間のエピソード記憶のみ失う』『特定の事柄のみ記憶をうしなう』といった事に懐疑的だった。

しかし、つい最近身近なところで『事故の衝撃で直近数年間の記憶だけ失った』という人がいるため、認識を改めた。事実は小説より奇なり。人間の脳みそ、記憶のシステムは複雑怪奇なのだ。

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