【漫画】金魚妻~園芸妻【感想・ネタバレ・考察】美しい花には毒がある…凶悪な兄に苦しめられていた弟と兄嫁は…

金魚妻2巻表紙

この『金魚妻』の単行本の表紙は基本的に『金魚妻シリーズ』のさくらが描かれていることが多いのだけど、2巻だけはこの『園芸妻』の花純が表紙を飾っている。反響がかなりあったか作者である黒澤R氏の思い入れが強いのではないかと思う。

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Contents

以下、あらすじとネタバレ

美しい兄嫁、花純と愛しい姪っ子、紀里と暮らす史久…しかし、平和な暮らしを凶悪な兄、一久が乱す

広い園庭を持つ古い日本家屋。そこで宮園史久が兄一家と同居し始めてから3年経つ。

その日の朝、史久は義姉…兄である一久の妻である花純(28)から『今後は立って用を足すのは禁止です』と厳しく言われていた。共に暮らしていた母が亡くなってから、この家の主導権は花純が握りつつあった。

自分の実家なのに…と不満に思う史久であったが、姪っ子の紀里が『おじちゃんおはよう!』と走り寄ってくると破顔して抱きしめる。史久は紀里を溺愛しており、紀里もまた史久に大変懐いていた。紀里は『今日は幼稚園を休んでおじちゃんと遊びたい』と史久に甘え、史久も『どこにでも連れて行ってあげる』と応じ、花純はそんな二人を『もう!』と呆れる。それがこの家のいつもの、幸せな光景だった。…しかし。

「おい うるせえ」
「さっさと連れてけ」

金魚妻 黒澤R 園芸妻

その声に家の空気が凍り付く。声の主は史久の兄である一久…背中と腕には般若と蛇と牡丹の刺青が仰々しく彫られており、一目でカタギの人間ではないことが分かる。

『兄ちゃん帰って来てたんだ…』そう紀里を抱きしめたまま困惑した様に呟く史久。一久は普段はこの家に帰ってくることはないのだ。

そんな一久を避けるように紀里を幼稚園に連れていこうとする花純。一久に『俺の飯は?』と言われても素っ気なく『後で』と返す。だが、一久は花純から紀里を奪い取ると『お前がやれ』と史久に押しやり、史久が紀里を幼稚園に送りに行くことになるのであった。

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昔は優しかった兄の一久…しかし、”活動”に明け暮れていた父の暴力によって悪魔の様になってしまった

紀里に引っ張られる様にして幼稚園に向かう史久。その光景を見た紀里を顔見知りの女性が『今日はパパと一緒なの?』と声を掛け、紀里は『うん』と答える。

父親と間違われた事、紀里がそれを肯定したことを嬉しく思う史久だったが、紀里に『おれは違うよ~』と優しく諭す。しかし、紀里はこう叫ぶ。

「わたしあいつキライ!」
「おじちゃんがパパになって!」
「おじちゃんがパパになって弟と妹つくって!」

金魚妻 黒澤R 園芸妻

紀里はまだ幼稚園生であったが、父親である一久が気まぐれに帰って来ては母の花純や史久を困らせていることをよく理解していたのだ。

紀里のその言葉に驚く史久だったが、『紀里のパパは昔は優しい人だったんだよ…』と力なく言う。カトリック系の幼稚園に通っている紀里は『もしかして神に逆らって堕落した天使なの?』と言い、史久は笑ってしまう。しかし、内心『そうかもしれない』と思うのだ。

それは一久と史久がまだ子供だった頃の話だ。二人の父は”この国を良くするための活動”に明け暮れており仲間からは”神”と呼ばれていた。しかし、家族に対しては横暴で、母や一久と史久は蔑ろにされてきた。

そしてある日、そんな父親に一久は反抗した。怒った父は一久の頭を一升瓶で殴りつけ、頭を割られた一久は血を流して倒れてしまった。そのことで脳に異常をきたしたのか、精神的なショックが原因なのか…その日を境に優しかった一久は悪魔の様な人格になってしまい、そのまま悪い道に足を踏み入れて行った。

そして、その現実に耐えられなくなった母は広い園庭で園芸に没頭し始めた。父は家族を捨てたのかいつの間にか帰って来なくなったのだ。

一久は史久に花純との行為を強要する

一方、その頃家では花純が一久に朝食を出していた。一久は妻である花純が横にいるにも関わらず、他の女と電話をし遊ぶ約束まで取り付けている。

そんな一久の態度に花純は憂鬱な面持ちをしながらも、ガーデニングウェアに着替え、園庭の手入れを始めた。雑草を取り除く花純は亡き義母…一久と史久の母の事を考えていた。一久と史久の母は死ぬ間際に『花純ちゃんだけに聞いて欲しい秘密があるの』とあることを明かしたのだった。

だが、朝食を食べ終えた一久が『こっちに来い』と花純を呼びつける。そして、ガーデニングウェアに帽子、手袋といった出で立ちの花純を不満がり突然こう言う。

「脱げ」
「全部」

金魚妻 黒澤R 園芸妻

愛する妻の裸が見たいと言ってニヤニヤ笑う一久。花純は『史久さんが帰ってくるから、夜になったら』と戸惑うが、一久は『子供と義弟に行為を見せたいのか』と言って凄み、花純に脱ぐことを強要する。仕方なく花純は従うのであった。

そこに丁度、紀里を送り終えた史久が帰ってくる。門の所から一久と花純の様子を目にした史久は気付かれないように立ち去ろうとした。だが、一久は史久に気付いており、『史久、こっちに来い』と叫ぶ。そして、自分には今性器が無いから代わりに花純と行為するように言うのだ。

「レイプしてポイ捨てした女の家族に拉致られてよぉ」
「奴らに切られちゃったんだよ 大事な大事なチンコをよぉ~」

金魚妻 黒澤R 園芸妻

仕事だったからしょうがない、その手の動画を撮ればバカみたいに売れる…そう悪びれる様子もなく語る一久に愕然とする史久と花純。あまりのことに花純は『クソ野郎』と呟く。だが、一久は『さっさとやれ』と花純を立たせ、史久にこう言って笑うのであった。

「好きなんだろ?こいつの事」

金魚妻 黒澤R 園芸妻

一久は弟の史久が花純を好いていることを知っており、二人をこうして弄び苦しめるために時々帰ってくるのだ。

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ホームセンターの園芸コーナーで働く花純に秘かに恋していた史久。しかし、それを一久に知られてしまい…

そもそも史久は一久と花純が出会うより前から花純に恋をしていた。母に付き添い時折ホームセンターの園芸コーナーを訪れていた史久はそこで働く美しく親切な花純に惚れており、秘かにスマホで一枚の画像を隠し撮っていたのだ。

だが、ある日それを一久に知られてしまった。『ホームセンターの小川花純だな?好きなのか』と言う一久。一久は”売り物になりそうな女”には調べをつけていると嗤う。一久に目を付けられた女性が逃げられない…そう知っている史久だったが何もできなかった。そして、その直後花純はホームセンターを辞めてしまったらしく姿を消した。『いつも相談に乗ってもらってたから寂しい』と零す母の傍らで、兄が花純に何かしたと悟った史久はただただ落胆する事しかできなかった。

しかし、史久と母は思ってもみなかった形で花純と再会することとなった。

「母さん 史久」
「紹介するよ 彼女の花純」

金魚妻 黒澤R 園芸妻

ある日一久はそういって妊娠した花純を連れて来たのだ。暗い表情をした花純を見た史久はたまらず一久を別室に連れて行き『彼女に何をした』と問い質した。犯罪に手を染めている兄のことだ。誘拐・監禁・脅迫…そういった方法で花純を手に入れたと考えたのだ。

だが、一久は『普通に付き合って子供が出来ただけだ』と史久を小ばかにしたように笑う。そして『ああいうタイプの女には好青年のフリをして近づけばいい』と手口を語った。真っ当な好青年を演じて一久は花純に近づき交流を重ねていった。そして、取り返しのつかないところで…ベッドを共にする直前で一久の背中一面に広がる般若と蛇と牡丹の刺青を見せられた花純はもう逃げることができなかったのだ。

卑劣な手口に『騙したのか』と嘆き怒る史久。しかし、そんな弟に史久は『あのお母さんの嬉しそうな顔を見ろよ』と言う。経緯はどうであれ、非行を繰り返していた長男が連れて来た結婚相手は気に入っていた花純で、その上もうじき孫まで生まれるという事に母は喜んでいた。そして、来た当初こそ浮かない顔をしていた花純もそんな母を前に心を開いていた。その事実を指摘され何も言えなくなった史久に一久は『俺が手を出さなくてもお前が花純とどうにかなっていたか?思い上がるなバーカ』とスプリットタンを突き出して笑うのであった…。

花純さん…僕たちは…
こんな形でしか結ばれなかったのでしょうか…

金魚妻 黒澤R 園芸妻

そうして花純を手に入れることが出来なかった史久は現在、史久に花純を抱くように強要されているのだ。

史久の気持ちを知っている花純…しかし、二人は一久に逆らえず弄ばれる

そして、史久の秘めた想いはあるとき花純の知るところとなった。

それは紀里の出生してからしばらく経ったある日のことだった。一久は花純と結婚し、実家に住まわせたものの紀里が生まれるとほとんど帰って来なくなった。一方、史久の方は家を出て一人暮らししていたものの、初めての姪っ子である紀里にメロメロで、その日も実家に顔を出していた。手慣れた様子で赤子の紀里を抱く史久に母は『あんたがいると助かるって花純ちゃんも言っているし戻って来たら?』と言い出し、我が子の様に紀里を愛している史久は『どうしようかな~』と言いながらも喜ぶ。花純は紀里を母と史久に任せて二階の部屋で休んでいた。

そんな史久は庭にあったはずのスズランがいつの間にか無くなっていることに気がついた。『俺好きだったのにな』と残念がる史久に母は『あれはコロンとして可愛いけれど猛毒だから紀里が口に入れたら大変でしょ』と答える。スズランの他にもジキタリスやスイセン…美しいが毒を持つ花は多いのだ。花の毒に詳しくなかった史久はそれを聞いて『物騒なものを植えないでよ!』と叫ぶ。紀里のためにも毒のある花を知っておく必要がある…そう考えた史久は二階の書斎に植物図鑑を取りに行った。

だが、書斎に行くと、いつの間にか起きていた花純が本に挟まっていたあるものを手に取って見つめていた。…それは、以前史久がホームセンターで働く花純を隠し撮りした画像をプリントアウトした写真であった。史久は花純が一久の妻となった後もこの写真を捨てられず、本の中に隠していたのだ。

『これは史久さんが…?』と驚いている花純に史久は『すみません』と頭を下げる。花純は史久にいつ写真を撮ったのか尋ね、『花純さんが兄ちゃんと出会うよりも前に』と答えられると目を丸くする。一久と出会うより前から史久が自身に恋をしていたという事に初めて気づいたのだ。

そして、『気持ち悪いですよね』と項垂れる史久に写真を差し出し言う。

「持っててください…これは私が一番きれいだったころの写真ですから」

金魚妻 黒澤R 園芸妻

寂しそうに笑う花純。それに対して史久は『今も綺麗です』と反論する。すると花純は『お義母さんと史久さんがいい人で良かった』と言って史久に抱き着いた。狼狽えながらもそんな花純を抱き返した史久は花純に尋ねた。

「なぜ植物は毒を作るんですか?」

金魚妻 黒澤R 園芸妻

すると花純は哀しそうに、こう答えるのであった。

「一度根を下ろした場所から動くことができないから」

金魚妻 黒澤R 園芸妻

非力な花純がどうあがいても悪魔の様な一久から逃げることは出来ないだろう。史久もまた、そんな花純を抱きしめてやることしかできない。階下で紀里が泣き始めたため史久と花純の会話はそこで終わってしまった。

そして今、史久は一久に言われるままに花純を抱いている。一久は『ガンガンやれ』と面白がって指示を出す。

自分が一久の機嫌を損ねてしまえばその怒りが花純に向かってしまう。そして、そうなれば今度は花純のやり場のない怒りは幼い紀里に行くだろう…。暴力が弱い者に向って行くという事をよく理解している史久

だから僕たちはいつも兄のいいなりなのだ

金魚妻 黒澤R 園芸妻

花純とこんな形で結ばれることは望んでいなかったが、暴力的な兄、一久にただ従うことしか出来なかったのだ。

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一久の食事に毒花を入れていた花純…花純は一久と史久の母が父親を殺した方法を真似て一久を毒殺した

悲痛な面持ちで花純と重なり合う史久を一久は『気持ちいだろ、俺が仕込んでやったんだぞ』と笑う。

だが、突然花純が一久の耳元でこう囁くのであった。

「一久の食事に…花を…入れました…」
「庭の奥の下向きに咲く…白い花…」

金魚妻 黒澤R 園芸妻

それは”エンジェルストランペット”…またの名を”キダチョウセンアサガオ”。そのトランペットの様な可愛らしい花とは裏腹に強烈な毒を含んでいるのだ。そして、史久と花純を笑って見物していた一久は突然苦しみだす。花純は一久に腕の中で語りだした。

「お義母さんが…お義父さんにつかった…毒」

金魚妻 黒澤R 園芸妻

それは史久と一久の母が亡くなる直前のことだった。病院のベッドで母は嫁である花純にだけ父の死の真相を打ち明けていた。

父の横暴に耐え続けていた母だったが、例の暴力で一久が一変してしまったことで『どうしても許せない』と思ったという。そして、自分にできる殺し方を考えた結果…花に対する知識が全くない父に対して”エンジェルストランペット”の花を味噌炒めに混ぜて出したのだ。そして、何も知らない父はそれが猛毒とは知らずに食べ、死んだ。父は家族を捨てて出て行ったのではなく、母に毒殺されていたのだ。

死体はトイレの裏の土の中に埋めたと語った母は、『主人は実は嫌われ者だったから、誰も探しに来なかった』と言い、『秘密だけど、もう死ぬからいいわよね』と笑って花純に告白したのだった。

…そして、一久にも”エンジェルストランペット”の毒が回り、白目を剥き泡を吐いて死ぬのであった…。

僕たちはこの時のために兄の仕打ちに耐えていたのかもしれない
殺人の罪悪感を相殺してしまうほどの
怒りを溜めるために

金魚妻 黒澤R 園芸妻

動かなくなった一久の隣で果てた史久と花純。その後、二人は衣服を着ると淡々と広い庭の一角に穴を掘って一久を葬った。これからどうすべきか…そう呟いた花純に史久は言う。

「紀里が…弟と妹が欲しいって言ってました」

金魚妻 黒澤R 園芸妻

史久のその遠回しなプロポーズに対して何かを噛みしめるように瞳を閉じた花純。その後、花純は一久の死体を埋めた場所に金魚草を植えた。金魚草は西洋では”魔除け”になると信じられており…毒はないのであった。

数年後、夫婦になり幼い子供達に囲まれて幸せに暮らす史久と花純…しかし、庭に咲く金魚草の姿はまるで…

それから時が経ち史久と花純は夫婦になり、紀里が望んでいた弟と妹が誕生した。

ある日、史久と花純が後ろから見守るなか、成長した紀里は幼い弟と妹と共に、庭で金魚草を見てあることに気付く。…金魚草は花が枯れると茶黒い種さやが残り、種を放出するために3つの大きな穴を開ける。しかし、その姿は…。

「見て見てこれ~」
「怖いね~!」

金魚妻 黒澤R 園芸妻

弟と妹と無邪気に笑い合う紀里。

その枯れた金魚草の花は…

人間のドクロそっくりなのであった…。

以下、感想と考察

ドクロに似ている金魚草の種さや…そして創作の世界で大人気のエンジェルストランペットやダチュラ

やめてー!金魚草好きな花だったのに、もうドクロにしか見えないー!!いやあああ!!…しかし、『金魚草 ドクロ』で検索すると沢山ヒットして、これって結構前から言われていることだったのね。植物好きだけどこれは知らなかった…というか気付かなかったな。

しかし、エンジェルストランペットやその仲間であるダチュラ(チョウセンアサガオ)って、毒として色んな創作物に登場するよな。毒性も高いけど、幻覚作用があるってのも大きいかな。パッと思いつくだけで『コインロッカーベイビーズ』『テラフォーマーズ』『架刑のアリス』とか…。あと、『悪魔のリドル』で『エンゼルトランペット』という名の暗殺者がいたような。

ただ、一久が…背中一面刺青の悪そうな男がネロとパトラッシュよろしく天使たちに連れられていく絵面は真面目なシーンなのにちょっと笑ってしまった。

一久の死後、史久と花純は夫婦になった?そして犯罪を隠せ通せるのか?

一久は死んだわけだけど、花純は一久との婚姻関係をどのように処理して史久と夫婦になったのだろう。考えられるのは

  1. 花純は一久との婚姻関係を法的には終了せず、史久と事実婚状態となる。
  2. 花純は一久について、三年後に『三年以上生死不明』として民法770条第1項第3号を元に家庭裁判所に離婚を求める訴訟をした。あるいは、『一久が失踪した』と民法30条1項に基づいて『七年間生死不明』として家庭裁判所に失踪の宣告をして、確定後自治体に失踪の届け出を出して死亡したこととみなし、婚姻関係を終了させた(後者だと法的に一久が死亡したことになるので、財産を相続できる)。
  3. 花純と一久の離婚届を偽造して届け出た。

…現実的なのは2か3かな?花純と史久の性格的にきちんとした家族になりたがるだろうし。

とにもかくにも一応ハッピーエンドな様な『園芸妻』だけど、最後の最後に枯れた金魚草が何とも言えない禍々しさを残す。まあ、あの広い民家に遺棄して見付からないまま何年も経っている様なので、今後もよほどのことがない限り死体が見付かることはないと思うけど…。

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