【漫画】血の轍8巻【感想・ネタバレ・考察】蜜月を過ごす静一と静子…しかし、伯母の疑念は増大し、ついに静子が全てを認める…!?

血の轍8巻

吹石を捨て、母、静子の意のまま生きることを決意した静一。そんな最中しげるがついに意識を取り戻す。しかし、しげるは事件のことはおろか、静子と静一のことも忘れてしまっている様だった。そして、意外なことに静子はその事を喜ぶどころか落胆する様子を見せ、まるで全てが露見することを望んでいたかの様な言動を取り、静一は動揺するのであった。

だがある晩、静一と静子が伯母の家を来訪した際、突然しげるが事件の記憶を取り戻しかけ、静子を見て怯え始める。その様子に伯母は静子に疑いを向け始めるが、静一はそんな伯母を罵倒し、静子と共に伯母の家を後にするのであった…。

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【漫画】血の轍7巻【感想・ネタバレ・考察】記憶を失っているしげる~しかし、静子は病み静一に対しても冷淡な態度を取り続け…そして突然しげるの記憶が戻り…!?

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Contents

あらすじ・ネタバレ

第60話 私の静一~伯母を罵倒した静一を静子は優しく褒める…そして父、一郎を排除した二人だけの濃密な時間が始まる

伯母の家を後にし、バスに乗り込んだ静一と静子。しばらく言葉を交わすことのなかった二人だったが、静子がその沈黙を破る。

『ママは本当はお義姉さんに”しげちゃんを突き落としました”と言おうと思ってた。でも静ちゃんがあんなことを言うから…』と言う静子に静一は『ごめんなさい』と項垂れる。しかし、静子は『どうして謝るの?』と優しく言う。

「パパみたいだなんて、ゆってごめんね。静ちゃんは、パパとはちがう。」
「ゆってくれてありがとう。ママの気持ち。うれしかった。」

血の轍8巻 押見修造 8-10/214

そう涙を流しながら笑顔を見せる静子は静一を強く抱きしめた。久々に見せた母の優しい表情に静一もまたホッとし泣きながら静子を抱き返す。『静ちゃん』『うん』というやり取りを他に誰も乗客がいないバスの中で繰り返す母と息子。静子は愛おしそうに静一の顔に頬を寄せて言うのであった。

「私の静一…」

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それからしばらくして、父、一郎が車で帰宅してきた。一郎は静子と静一が姉(静一の伯母)の家にいると聞いていたため、そちらに向かったものの二人は既におらず、また姉の様子がおかしかったことから『何かあったのか?』と尋ねながら家の中に入った。

しかし、そんな一郎の目に飛び込んできたのは、散らかった部屋の中で、笑い合う静子と静一の姿であった。ビーフシチューを『あーん』と言いながらスプーンで静一の口元に運ぶ静子。そして、それを幼子の様に笑顔で口を開き食べる静一。二人は一郎の存在に気付くと急に静かになり、静子は『パパの分無いから。外に飲みに行ったら?』と冷たく言い放ち、静一は黙って睨みつける。

その様子に困惑した一郎は『何なんだ?』と悲しそうに言うも、黙って冷たい目で見つめて来る妻と息子に耐えられなくなり、

「オレはもう、やだよこんな家!!」

血の轍8巻 押見修造 23/214

そう叫ぶと足音を立てて出て行ってしまった。

しかし、その様子に静子と静一は臆することなく、むしろ『何あれ?パパ出て行ったよ?』『バカじゃねえのあいつ!』と笑い続けるのであった…。

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第61話 半熟~母との蜜月に幸福を感じる静一…しかし、学校で小倉達からイジメられると…

朝、静子から優しく頭を撫でられて起こされた静一。静子は目覚めた静一に『かわいい!』と言ってそのまま覆いかぶさるように抱き付き、朝食をどうしたいか尋ねる。静一が『肉まんでいいよ』と答えると静子は『もー』と言って更に抱きしめ、静一はその微香に恍惚とする。すると静子はそんな静一に顔を寄せ『目玉焼こうか』と言い、黄身の固さの要望を聞く。静一が照れながら『柔らかいの』と答えると静子は静一の頬を指で付き、微笑みながら『分かった』と言い、朝食には半熟の目玉焼きが出て来る。

物が散乱した荒れた居間で静子と静一は見つめ、微笑みながら朝食を摂る。

「このままずーっと、二人っきりで行こうね。」
「ずーっと……」

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そう言って静子は静一に慈愛に溢れた眼差しを向けるのであった。

そして、中学校の休み時間。吹石ももう静一のことは吹っ切れたのか、他の女子と明るい様子で喋っている。男子トイレで一人用を足していた静一はふと目の前の鏡に映る自分を見て微笑む(静子との関係が改善されたことによる多幸感から来るものか、あるいは自身の顔が笑うと静子に瓜二つなためか)。

だが、それを小倉達に見られてしまい、『ナルシルトかよ、俺達が格好良く髪をセットしてやる』と絡まれてしまう。何も言えずに固まってしまう静一。そんな静一の髪を小倉達は笑いながら濡らして逆立てていく。

『格好いいぞ長部!』と馬鹿にして笑う小倉の顔を鏡越しに黙って見ていた静一。しかし、突如その顔がしげるの嘲笑に重なり、そして、幼い日に見た死んでいる白い猫の顔が死んだしげるの顔になっている光景が思い浮かぶ。死んで表情を失ったしげるの傷んだ顔に、猫の胴体にたかる無数のハエ。

そのイメージに静一は目を見開いたまま立ち尽くすのであった…。

第62話 発現~小倉を殴り倒してしまう静一…しかし、静一は何故自分がそうしたのかも分からない

突然湧いて来た”死んだ猫の胴体と死んだしげるの顔”という異形のイメージにショックを受ける静一。静一をイジメていた小倉が『逆立てた髪の感想は?』と問うが、静一にはまるで聞こえていないようだった。

そして、やっと小倉達の声が届いたとき、静一には小倉達の姿がモヤのかかった影のようにしか捉えることが出来なかった。『何か言えよ』と絡んでくる影たち。

すると、静一は無表情のままおもむろに眼鏡をかけた影(小倉)を殴りつけた。眼鏡ごと目元を殴りつけられた影(小倉)は悲鳴を上げて身体を折り曲げるが、人を傷付けている実感のない静一はそのまま更に膝蹴りを食らわせ床に倒す。他の影達(小倉の取り巻き達)が慌てて静一を制止しようとするが、静一はそれをはねのけて小倉に馬乗りになって殴り続けるのであった…。

「どいつもこいつも…どいつも…こいつも…」
「死んでるくせに…みんな死んでるくせに……」

血の轍8巻 押見修造 62-63/214

そう呟き続ける静一はあの事件があった山で蝶に囲まれている錯覚に陥っていた。しかし、駆け付けた担任に『何やってるの!』と止められると我に帰る。そして、自分の体の下で眼鏡を砕かれ鼻血を出しながら泣いている小倉を見るのであった。

その後、静一は駆け付けた担任教師に止められ、一人別室に隔離される。しかし、傷付いた拳を眺めても現実感がなく、ただただぼんやりと過ごす。すると、担任教師がやってきて『小倉は危うく眼鏡の破片が眼に刺さって失明するところだった。少しは反省した?』と言う。

しかし、静一は『何で僕は殴っちゃったんですかね?』と不思議そうに言う。その態度に担任教師はギョッとし、『今から小倉とそのお母さん、そして長部のお母さんが来るからちゃんと反省しなさい』と言うのであった。

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第63話 釈明~学校に来た静子は担任と小倉母子を前に『静一は吹石にたぶらかされたストレスで暴力を振るった』と説明する

先に来たのは小倉とその母であった。しかし、静一は担任教師から促されても『お母さんが来るまで何も言えません』と頑として謝ろうとはしない。ふくよかな小倉の母は意外にもそんな静一に怒ることはなく、むしろ『おばちゃんは大人しい長部君がこんなことをするなんて信じられない。どうしちゃったの?』と心配そうに問う(6巻の表紙の小学校の集合図に小倉らしき人物がいるので、静一と小倉は小学校からの付き合いであると考えられるので、小倉の母も静一のことを昔から知っているのだろう)。小倉の母は息子から『遊んでいたら静一に突然殴られた』と聞かされているのだ。

すると、突然部屋にスーツ姿の静子が駆け込むや否や床に座り、悲壮な表情で『申し訳ございません!』と叫び、眼鏡代、治療費全てを負担することを述べ、『私のせいです』と小倉母子に謝罪し続ける。小倉の母が『大したケガではなかったから』と答え、担任教師がイスに座るように促しても『私はこのままここでいいです』と言って床に座り続ける静子。担任が困惑しながら改めてイスに座るように言うと、やっと立ち上がりイスに座るのであった。

全員がそろったため、担任は改めて静一に『もう話せる?何でこんなことをしたの?』と問いかける。その刹那、静子と目配せし合った静一。『トイレにいたら小倉達がやってきて、髪の毛をセットしてやると言って髪の毛を濡らされてグシャグシャにされた』と事実をそのまま伝える静一。しかし、

「死んでるくせに。みんな…全部死んでるくせにって…思って…」
「だからどうだっていい。どうせまぼろしだから、ごみだから。」
「だから、なぐった。」

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突然不可解な発言をし始めた静一。それを聞いた静子は嬉しそうに笑うも、担任や小倉母子は唖然とする。すると、静子は真顔でこんなことを言い出した。

「先生、吹石由衣子ちゃんのせいです。」

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静子は『あの子が静一をたぶらかした。家に引っ張り込まれ、変なことをされ、汚された。そのストレスでおかしくなってしまった』と主張し始める。

それに対して静一は一瞬驚いた表情を浮かべたものの、すぐにニヤニヤした笑いを浮かべて『はい』と答える。その静子と静一の異様さに小倉の母は怯えた表情をするのであった…。

第64話 高台~静子は静一をお気に入りの高台に連れて行く…すると、静一の幼少期の記憶が蘇りかけ…

そして、話し合いは終了した。『後日改めて謝罪に行く』という静子に小倉の母は『うちの子も悪かったから』と答え、表面的には和やかな雰囲気が漂う。しかし、静子が担任教師に『静一と吹石由衣子を違うクラスにしてほしい』と懇願すると、担任は困った顔で『吹石さんの親御さんにも聞かないと…』と濁すのであった。

その後、担任は小倉母子に少し残るように言い、静一と静子は先に帰ることになる。しかし、少し離れてから静一が振り返ると、担任と小倉母子は得たいが知れないものを見るような眼差しを静子と静一を向け、何やら囁き合っているのであった。

すっかり冬になった夜道。沈黙を破るように静一は『ごめんなさい』と静子に謝る。だが、静子は『別にいい。これからは気を付けな』とだけ言い、むしろ静一が皆の前で言った『みんな死んでるくせに、みんなまぼろしでごみだからどうでもいい』という言葉の意味を尋ねる。自分でもよく分かっていない静一は口ごもってしまうが、静子は意外なことを言うのであった。

「ママもね。おんなじこと考えてたん。」
「静ちゃんくらいんとき。中学生んときから。」
「今でもそうかもしれない…」

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そう言ってどこか寂しそうな笑みを浮かべる静子。母との共通項に静一もまた『僕はママの気持ちが分かる』と微笑む。すると、静子は『寄り道しようか』と言い出すのであった。

それは街を一望することが出来る高台だった。静子は中学生の頃よくここに来ていたという。

街の灯りと見つめながら静子は『この灯り一つ一つに家族が入っていて生活をしていると思うと反吐が出る』と笑う。自分はずっとそれをこちら側で見ている人間でいいと思っていたというのだ。それを聞いた静一は一瞬だけ、中学生の静子の姿が見えた気がした。

そして、静子は『覚えてないだろうけど、静ちゃんが小さい頃にもこの高台によく散歩しに来ていた』と言う。

すると、静一の記憶が蘇る。ハッキリとまだ喋ることが出来なかった頃、笑顔の静子と一緒にこの高台で街を一望した光景が朧気ながら浮かんできたのだ。

『覚えてるよ』と答える静一。不思議な事に涙が止まらなかった。『どうして泣くの?』と静子に問われた静一は『分からないけど哀しくて』としか言うことが出来ない。すると、静子も『そうだね、哀しいね』と言い、静一を抱きしめるのであった。

だが、静子に抱きしめるとまたしても静一の脳裏に断片的な記憶が浮かび上がる。アスファルトの道、そしてそこに横たわる白い猫の死体。

「……あの道…この近くだ…」
「ねえママ!ほらあの道!小さい頃…猫の死体を一緒に見つけたあの道!」

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『近くにあるはずだから行ってみよう』とはしゃいだように言う静一。しかし、静子は驚いた顔をし、すぐに素っ気なく『そうだっけ?ママ忘れちゃった』と言う。そして、『寒いからもう帰ろう』とさっさと行ってしまう。静一は急によそよそしくなった静子の態度に疑問を持ちながらも『うん…』と受け入れるのであった…。

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第65話 由衣子~静一と吹石の関係が生徒達にバレ、からかいの対象に…傷心の吹石に声を掛けたのは…!?

静一が小倉を殴る事件を起こしてから一週間が経った。その日も静一は母、静子に温かく見送られながら学校に向かった。

季節は12月中旬。冬休みもクリスマスも近いことから生徒達は浮足立っていた。静一が教室に入るともう誰も声を掛けて来ることはなく、静一もその状況に既に慣れていた。しかし、吹石が右目の横にケガをしており、かつ机に伏せたまま動かないことに気付く。静一は吹石から目を逸らし、淡々と席に着くが、すぐに吹石の異変の理由を知ることになった。

『由衣子ー』『静一ー、SEXしよー』…静一の机の中に、裸の静一と由衣子がキスをしながら抱き合う稚拙な絵が描かれたノートの切れ端が入れられていた。そして、その下には『ジャマするやつはなぐる』と叫ぶ静一が更に描かれていた。

無表情のままのノートの切れ端を握りつぶす静一。教卓の方で小倉達がその様子を笑って見ていた。静子が話し合いの場で『静一が小倉を殴ったのは吹石由衣子にたぶらかされたせい』と言ったことで、小倉を通して生徒達に静一と吹石の関係が明るみになり、尾ひれがついたウワサが広がってしまったのだ。吹石はそのショックのため、担任が来ても机から顔をあげることは無かった。

そして、昼休み。楽しそうに過ごす級友たちの目を避けるように静一は一人暗い面持ちで階段の踊り場に座り込んでいた。

すると、階下に誰かがやって来た気配がする。静一がそっと覗き込むと、そこには吹石がおり、一人で柵越しに校庭を眺めていた。

「吹石。」
「ここにいたんか。」

血の轍8巻 押見修造 135-136/214

そう傷心の吹石に声を掛けたのは静一…ではなく、佐々木という男子生徒であった。佐々木は吹石に『お父さんになぐられたのか?』と問い、吹石は弱々しい笑みを浮かべながら『うん』と答える。すると、佐々木は『吹石をこんな目に遭わせるなんて、長部のことを許せない』と怒る。話し合いの静子の発言が担任から吹石の父に伝わったのだ。

「オレが、吹石を守るよ。」

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そう言うと佐々木は吹石を抱きしめ、キスをする。吹石は少し驚くものの、それを受け入れた。…その様子を秘かに見ていた静一は愕然とし、崩れ落ちてしまうのであった…。

放課後、静一は落ち込んだ面持ちで一人学校を後にした。冬の薄暗い帰り道の光景は静一にとってどこか悪意に満ちた不気味なものに感じられた。

すると、突然後方で車のクラクションがなり、静一は驚いて振り返る。そこには車に乗った伯母がいた。

「静ちゃん!今帰り?」
「乗って行きなね!送ってくよ!」

血の轍8巻 押見修造 144-145/214

以前と変わらない笑顔でそう呼びかける伯母。静一は『いや…』と断ろうとするが、伯母は『どうして?遠慮しなくていいから』と食い下がるのであった…。

第66話 ドライブ~静一に真実を問い詰める伯母…そして、伯母は静一にあるエピソードを語る

突然車に乗るように言ってきた伯母に戸惑う静一。しかし、伯母は『おばちゃんは怒ってないから』と食い下がり、断り切れなかった静一は助手席に座った。

『最近は寒い、来週は雪が降るらしい』『クリスマスプレゼントは何をもらう?』…そんな他愛も無い話題を振り続ける伯母に『さあ』と俯きながら適当に答える静一。しかし、伯母が静一の家とは違う方向に向かったことに気付き顔を上げた。

伯母は笑顔のまま、『寄り道をしよう。静ちゃんに聞きたいことがある』と言い、語りだす。

先週、静一と静子が帰った後からしげるの記憶はかなり戻り、山での事件について語りだしたという。静子は皆にも警察にも『しげるが崖の上で一人でふざけていて、バランスを崩して落ちてしまった。慌てて助けようとしたが間に合わなかった』と説明していた。しかし、しげるは『崖の上でふざけていて、バランスを崩してしまった時に静子が抱きとめた。そして、その直後、笑顔を浮かべて突き飛ばしてきた』と言っているのだ。

…そう静一に告げた伯母は運転しながら問う。

「静ちゃん。静ちゃん。静ちゃんは見てたんだいね?」
「おばちゃんに本当のこと、教えてくれる?」

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一瞬、息苦しさを覚える静一だったが、伯母を強く睨みながら『ママは嘘なんてついてない!』と答えた。しかし、『本当に?』と答えた伯母の顔を見て驚く。いつも笑顔を絶やさなかった伯母は非常に厳しい顔を静一に向けていたのだ。

すると、唐突に伯母は『おばちゃんが過保護だって言ってたのは、静ちゃんは心配だったからだよ』と言い、『静子さんはずっとおかしかった』と語りだした。

静子は異様なまでに昔から静一に貼り付いており、靴を履くのも、お菓子の袋を開けるのも、ジュースにストローを刺すのも何でもかんでも先回りしてやってしまっていたのだというのだ。

「それにね。小さい頃、静ちゃんケガしたん。」
「3歳ぐらいんとき。ママに何かされたんじゃないん?」

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伯母からそう言われた静一は衝撃を受ける。またしても、あの白い猫の死体の様子が蘇ったのだ。そして、静子と共に静一が猫の死体を撫でた時…その時、幼かった自分の手が血塗れだったことを思い出したのだ。

そのショックで震えが止まらなくなった静一。そんな静一に伯母は『大丈夫、おばちゃんが守ってあげる。だから本当のことを教えて』と声を掛けてきた。

しかし、次の瞬間、静一は伯母の肩を唸りながら殴りつけた。驚き悲鳴を上げた伯母は『やめな!』と静一を止めようとする。しかし、静一は『うるさい!』と叫びながら運転中の伯母を殴り続ける。

「やめなこの…ひとごろし親子っ!!」

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伯母はそう叫んで車を停める。すると、静一はそのまま車から降りて逃げ出す。伯母は『こら!静一!』と叫ぶも、静一は振り返ることもせずに鞄を抱えたまま必死に逃げるのであった…。

第67話 ひとごろし~警察に捕まることを望み、『消えたい』と語る静子に静一は泣いて縋るが…

伯母の車から逃れた静一は必死に家まで走った。家の前では静子が立って待っており、帰宅が遅かった静一に『まさか吹石さんといたんじゃないでしょうね?』と冷たく問う。しかし、静一が息を切らしながら『おばちゃんが…』と言うと家の中に入るように促すのであった。

相変わらず家の中は物が散乱しているが、静子はクリスマスツリーを出して飾りつけを済ませていた。静子は動転している静一に砂糖入りのホットミルクを出してやり、静一に何があったのかを尋ねる。

静一はぽつりぽつりと伯母が学校の帰りに送るから車に乗るようにと声を掛けてきた事、しかし、それを口実にあの山でのことについて問い詰めようとしてきたことを語る。すると、静子は『なんて?』と尋ねる。

一瞬、また息苦しさを感じる静一だったが、『しげちゃんがママに突き飛ばされたと嘘を吐いていて、おばちゃんはそれを信じちゃったんだよ』と笑いながら言う。そして、伯母が自身を脅迫し、”ひとごろし親子”と言ってきたとおどけた調子で語った。

すると、静子は突然愉快そうに声を出して笑い始めた。流石にその様子に呆然とする静一。静子は笑い終えると『それだけ?』と聞く。すると、静一は猫の死体と、幼い血塗れの手を思い出して、内心怯えながらも笑って、『僕が三歳の時にケガをしたって言われた…本当?』と尋ねる。

それを聞いた静子はあからさまに目を背け、何も答えない。その様子に静一は驚き、落胆する。

しかし、すぐに静子が『みんな知ってるんかな?みんな私がひとごろしだと思ってるのかな?』と言い出したため、静一は『え?』と困惑する。

「けいさつが…つかまえに来るんかな?」
「そしてら私…やっと出ていけるんかな?」
「この家も。ぜんぶから。ぜーんぶ。」

血の轍8巻 押見修造 184/214

静子は嬉しそうにそう言うと、『楽しみ』と笑い、突然『静ちゃんはママがいなくなったらどうする?パパたちと生きていける?』と静一に尋ねる。

その言葉に静一は『いやだ、ママが悪者にされるのも捕まるのも』と涙を流す。

「そんな…そんなことになったら…僕は…」
「僕はあいつらを…ゆるさない…!」

血の轍8巻 押見修造 188-189/214

泣きながらも強くそう言い切った静一。しかし、そんな静一に静子は淡々と『許さなかったら何をしてくれるの?』と更に問う。そして、絶句している静一に『自分はゆるせないと思いながらも、何も出来なかった。許せないと思いながらこの家で一郎(静一の父)と静ちゃんの世話だけして過ごしていた』と語る。

「ぜんぶゆるせないの。だから消えちゃうしかないの。私は。」

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そう言うと静子は目を瞑り、コタツのテーブルに伏せてしまった。静一は『ママが消えるなら僕も一緒に消える』と静子に縋るが、静子はそれに何も答えず、静一は絶望するのであった…。

第68話 決壊~そして、やって来た父と伯母と伯父…静子は自身がしげるを突き落としたことを認める

2学期の終業式の日。学校の教室では担任教師が冬休みの生活の注意を述べていたが、静一の耳にはほとんど何も入ってこなかった。警察に捕まり、家から出ていくことを望む静子にショックを受けた静一には何もかもがホワイトアウトしたように朧気にしか見えない。そして、常に静子を咎めるように指さしたしげるや、”ひとごろし親子”と罵る伯母の様子が浮かび、静一は『ゆるせない』と呟き続ける。

そして、静子が警察に囲まれながらも、静一に笑って『バイバーイ』『パパと一緒でなにもできなかったね』と言う様子が思い浮かび、『違う違う』と呟く。

始業式が終わり、家に帰る静一は『はやくどうにかしないと』と焦っていた。

しかし、静一が家に着くと、居間には静子と、そして、父一郎と伯母と伯父(伯母の夫)が座っていた。

鬼の様な形相で母、静子を睨みつける伯母。落ち着きながらも険しい表情を浮かべている伯父。静一はその場に立ち尽くす。困惑した様子の一郎はそんな静一に2階の自室に行くように促すが、静一は『出てけよ!!』と叫ぶ。しかし、

「やめて静一。」
「もう、いいから。」

血の轍8巻 押見修造 209-210/214

そう静かに静一を制止したのは他でもない静子であった。すると、伯母は壮絶な表情で改めて静子に問う。

「しげるを突き落としたの?静子さん。」
「答えて。」

血の轍8巻 押見修造 212/214

すると、一郎が『姉ちゃん、待ってよ。そんなことあり得ない』と慌てて割って入ろうとするが、それを伯父が『俺だって認めたくないからこうやってここに来ているんだ』と嗜める。

『答えて』ともう一度言う伯母。すると、静子は静かに目を瞑ると、瞳を開けて薄く笑いながらこう答えた。

「そうだよ。」
「私が落としたん。」

血の轍8巻 押見修造 216-218/214

静子のその言葉に、静一は自身がドロドロに溶けていくような錯覚に陥るのであった…。

以下、感想と考察

謎が深まった8巻~白い猫の死体と静一のケガの関係は?

静子が自分がしげるを突き落としたことを認める等、話が大きく動いたこの8巻。でも、まだまだ謎が多い…というかむしろ謎が深まった。

1巻から出てきた白い猫の死体。それは静一の原風景とでも言うか、何か暗示的なものなのかと思っていたのだけど、何やら物語の根幹に関わる重要なカギとなりそうだ。静一は伯母から『静一は3歳の時にケガをした。静子さんに何かされたのではないか』という衝撃的な事実を告げられる。伯母の口からそれ以上詳しい話は出なかったものの、そういう言い方をする以上、何か虐待を疑われる様な大きなケガであったのだろう。

それを伯母から聞いた静一はケガをしたのが高台の道で白い猫の死体を見た時であることを思い出す。そして、静子はあからさまに白い猫の死体や、その静一のケガの話題について避ける(1巻で猫の死体のことを静一が思い出した時は喜んで見せたけど)。

そろそろ畳みにかかって来るのだろうけど、謎…というか闇はかなり深い。今回もヘビーな内容だったけど、これからもっとキツイのが来そうだから覚悟しなくては。

吹石由衣子ちゃんの今後を考える…まあ、幸せになってくれればいいよ

そして、由衣子ちゃん…この子も正直何故静一を好きになったのかも微妙で(多分比較的静一の顔が良いのと、自身に好意を持っていたことだろうけど)、複雑な家庭環境という現実から恋愛に逃げようとしていた感じがするけれども、それにしたってこの仕打ちは酷過ぎる。静子怖すぎる。別に体の関係まで持ってないことは分かってるくせに、あえて小倉母子の前で『きたなくされた』と匂わせる。こんなの噂になるに決まっているじゃん。明らかにそれを狙っているし、目論見通りになってるし。中学生でこんな事が露見したら、やっぱりからかいやイジメの対象になってしまうよな…。辛い。

でも、そんな吹石に白馬の王子様が!!多分、吹石を慰めて新恋人になった佐々木君って、1巻目の水泳のシーンで吹石に話しかけていた男の子じゃないかな?1巻では眼鏡かけてなかったけど、水泳の授業だから外していただけだろうし。だとすれば前から吹石のことを好いていた様だったから…まあ、吹石が望む様な恋の相手になってくれるんじゃないかなあ…。

そして、静一は吹石と佐々木のキスシーンを見て、失恋したかの如くショックを受けた…というか実質失恋なんだよな。今一つ同情できないけど。そんな静一は朝静子から起こされ、抱きしめられた時に布団の中で股間を押さえているシーンがあるけど、…もう静子のことを性的な対象と見るようになってしまっているんだよね…うーん、恐ろしい。

肉まん・あんまん問題5

そして、ずっとずっと、この『血の轍』での朝食を巡る静子と静一の問題、名付けて『肉まん・あんまん問題』を考え続けている私。今回は6巻ぶりに『肉まん・あんまん問題』がやってきた。これって、静子と静一の関係をとても暗示しているのだ。

今までの復習をすると。

1巻… 『肉まんとあんまんのどっちがいいん?』と毎朝静一に尋ねる静子。基本的に静一は『肉まん』と答える。

3巻…吃音になってしまった静一。そんな彼が明らかに『あ、あ…』と『あんまん』と答えようとしているのにわざと無視する静子。静一が諦めて『肉まん』と言うと静子はそれを受け入れる。

4巻…『朝はん、肉まんね』と、静子はもはや静一に尋ねずに勝手に決めるようになる。

6巻… 静子の『肉まんとあんまんのどっちがいい?』という問いに対して静一はもはや『どっちでもいい』と答えるようになる。

そして、今回の8巻…静一は静子に『朝食何食べる?ママ何か作るから』という言葉に対して『肉まんでいいよ』と答える→NEW!!

…うわあ。これを見て『何だ、1巻に戻っただけじゃないか』と思った人もいるかもしれないが…それは全然違うだろう。この8巻の静一と静子のやりとりは根本的に違っている。

1巻時点では、静一は自らが常に静子の顔色を窺っている事に無自覚で、そのため、自身がいつもこのやりとりで誘導されていることすら気付いていなかった。

そして、この『肉まん・あんまん問題』は、『静子の異常さに気付く(気付かざるをえなくなる)』→『静子に反抗しようとする』→『静子に屈服する』という静一の変化をよく表している。

今回、8巻の静一の『肉まん・あんまん問題』に対する姿勢…『肉まんでいいよ』という答えは、言ってしまえば『静一は静子に誘導されているということを自覚している上で、静子が満足する答えを言う』という状態を示しており、今までの中で最も酷い状態であるとも言えるのだ。これって、静一が『本当は静子がしげるを突き落としたという真実を理解しているのに、その上であれは事故だった』と主張するようになっているのとリンクしているのだよね。…そう静子が望んでいるから。

実際に静一のその答えを聞いた静子は上機嫌で珍しく朝から手料理…半熟の目玉焼きを作って見せる。やべーな静一。将来大人になってもメンヘラにばっかりモテそう。

若かりし頃の静子とその家族の謎…巻末の写真について

それにしても、表紙を飾る若かりし頃の静子の美しさといったら。…何だこの不吉なまでの美しさは。本当にキレイなのに負のオーラ半端ない。そして、表紙、裏表紙、巻末に様々な年齢の静子の写真が載っているのだけど、どれも笑っていないんだよね…。常に目線を逸らすか暗い目をしているか。写真だけ見ると、静子の父、母、妹ともに普通そうだし、静子があからさまに冷遇されている様子はないのだけど…静子が錯乱した時に『いらない子』と呟いたり、5巻末の作文で『静子という自分の名前が嫌いだった』と語ったりとしているあたり、もの凄い闇が潜んでいそうだ。

というか、静子はてっきりもう少し離れたところから長部家に嫁いで来たものなのだと思っていたのだけれども、そうでは無かったようだ。

今回の8巻で学校から寄り道できる距離にある高台に『中学生の時によく言っていた』と言っていることから地元出身なのだという事が分かった。…しかし、その割に静子の家族が登場することはない。両親は既に鬼籍なのか?妹は?そして、地元民であるにも関わらず、友人がいる様子もない。益々謎が深まったぞ…。

ついに静子の本心が明らかになる!?~『血の轍9巻』の発売予定日は?

謎が深まりつつも畳にかかって来た印象があるこの8巻。9巻の発売予定日はベルアラートによれば、2020年8月28日頃とのこと。コロナ禍で多少遅れたりはあるかもしれないけれども、待ち遠しいのである。

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