【漫画】妻が口をきいてくれません【考察・感想・ラスト・結末】妻への“ママ”呼びが全てを語っている?夫婦で“パパ”、”ママ”と呼び合うことの弊害を考える

出されたカレーにスプーンがなかったため、誠は『ママ、これ手で食べるタイプ?』と笑いながら言ってくる

※11/27に結末についての感想・考察を追記しました。

夫と口を利きたくなくなる時がある。それは腹が立ちすぎて喋りたくないというときもあれば、自分の感情を整理出来てないために話せないというときもある。また、「あ、こいつ何言っても無駄だわ」と諦めてしまったため…ということもある。とはいえ、私も子どもではないので丸々無視することはないし、そもそもどんなに腹を立てても怒りが長続きせず、せいぜい一日か二日で元に戻る。問題やトラブルが解決していなかったとしても腹を立て続けているよりは、許して一緒に笑い合っている方が圧倒的に楽なのだ。

では、妻の夫とずっと口を利かなくなるとしたら、それはどれほど深い怒りや恨みが原因なのか。そして、それはどうしたら元に戻るのか。それも、一日や二日ではなく何年も口をきいてくれないのだとしたら…?

突然、妻が口を利いてくれなくなってしまったことに戸惑い、悩む男性を描いた『よみタイ』連載の『妻が口をきいてくれません』。作者は『ママ友が怖い』『離婚してもいいですか』でおなじみの野原広子氏だ。

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Contents

あらすじ

中村誠(40)はごく普通のサラリーマン。妻である美咲(35)はいつも口うるさく怒ってばかりだが適当に聞き流し、可愛い盛りの6歳の娘、真奈と4歳の息子、悠人に囲まれてごく平和に暮らしていた。

しかし、ある日から突然美咲は誠と口をきいてくれなくなってしまう。最初は些細な喧嘩、何か拗ねているだけだと思っていた誠だが美咲は3日経っても2週間経っても機嫌を直さない。流石に焦りだした誠は美咲が何に怒っているのか分からないながらも謝ったり、贈り物をしたり、怒ってみたりするものの美咲は誠と事務的なやり取り以外は拒み続ける。そんな美咲の態度に誠は孤独感を募らせ、どうしたら良いか分からず困惑したまま、3ヶ月、1年、2年、そしてなんと5年もの月日が経過してしまう。

果たして美咲は何に怒り、何を思っているのか。そして、会話のない夫婦の行き着く先は…!?

以下、感想と考察、そして予想

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これはホラーサスペンスかヒューマンドラマか?…目線の切り替えの妙に感心

この『妻が口をきいてくれません』は前半と後半でかなり印象が違ってくる。

前半では突然妻の美咲が口をきいてくれなくなったことに戸惑う夫、誠の日々が描かれている。何故美咲が怒っているのか…思い当たる原因がないため悩む誠は謝ってみたり、花を買ってみたり、怒ってみたりするのだが、状況は変わらずそのままなんと5年が経過してしまう。淡々としたタッチで描かれているものの困惑したまま孤独の中で歳を重ねる誠の様子は哀れで、読んでいて胸が痛む。

そして、誠とは徹底して事務的なやりとりしかしない美咲は内心が全く読めず、ある意味ホラー、サスペンスとも言える雰囲気を醸し出している。実際、誠もコミュニケーションが取れない美咲を次第に恐れるようになり、美咲の一挙手一投足に怯えていく。『実は誠は死んでいるのでは!?』といった某名作映画みたいな解釈をする人がいるのも納得である。

しかし、後半に目線が美咲に切り替わり、なぜ彼女が口を利かなくなったのかが解き明かされていくと作品の雰囲気が一変する。もちろん、5年にも及ぶ誠への無視が肯定されるわけではないが、「あ、こりゃ口も利きたくなくなるわな」と納得できる内容になっているのだ。

こういった目線の切り替えは『ママ友がこわい』や『離婚してもいいですか~翔子の場合』でも取り入れられていたが、本作では今まで以上にその効果を出しており、感心してしまった。

誠の“ママ呼び”が全てを語っている…妻、美咲を“ママ”として捉えていた誠

上手いなと思ったのは誠が美咲のことを“ママ”と呼び続け、決して下の名前で呼ばないことだ。
私はこの描写に毎回何とも言えない気持ちの悪さを感じてしまった。なんだったら美咲が誠を無視する理由も“ママ”と呼んで下の名前で呼ばないから…『てめぇのママじゃねーよ』という意思表明なのではないかとすら思っていたくらいだ。
誠が美咲のことを“ママ”ではなく、恋人時代のように“美咲ちゃん”と呼んだら案外返事をしてくれるんじゃないかと。…まあ、読み進めると問題がもっと根深いことが分かったが。
(でも、作中で美咲自身も一度『私はお前のママじゃない』と心の中でキレている)

もちろん、経験上、互いを“パパ”、“ママ”と呼ぶ夫婦が(特に子どもがいると)少なくないのは知っている。かくいう我が家も子ども(幼児と乳児)と会話するときは「ママと手を繋ごうね」とか「パパを呼んできて」と“パパ”、“ママ”呼びを使っている。
しかし、この誠は子供の目がなく二人きりのときも 美咲を“ママ”と呼ぶ。これが読み進むに連れて本当に奇妙に、そしてどんどん気持ち悪く感じられるのだ。
私だったら、二人きりの時に夫から“ママ”なんて呼ばれたら鳥肌立てながら「てめぇのママじゃねーよ、ごらぁっ!」と張り倒してしまうだろう。

今さらだが、言葉には言霊…力がある。自身の配偶者を“パパ”、“ママ”等と呼んでいると無意識に相手を自分の親である様に錯覚してしまい、『幼子の様にどこまでも甘えて気を遣わなくていい』と感じるようになってしまうのではないだろうか。そして、誠の態度はまさにそれを体現している様に思える。

外で働き立派に稼いでくるものの、家庭内において夫として親として家族を支え、育児に携わろうという意識が極めて低く、『家=安住の地』とばかりに帰宅するとダラダラするだけで全く動こうとしない。なにかあると『ママ~!ママ~!』と美咲を呼びつけて甘える。それなのに美咲が少しでも頼み事や小言を言うと面倒臭そうに悪態をつき、膨れっ面をする。『the産んだ覚えのない長男』の典型例だ。

その様子は学校から帰宅するや否やランドセルを投げ出しソファに寝そべってゲームをし、母親から「宿題はどうしたの!?」と言われると「今やろうと思ってたのに!」とふてくされ悪態をつき、その癖パンツ一つ用意できず都合の良いときだけ「ママ~!」と甘えたように叫ぶ児童と大差ない。

そのくせに時々思い出したように“父親”、“大黒柱”の立場を持ち出してえらそうにするからタチが悪い。『自分が稼いでやっている』という意識があるから、肌が弱い娘のために美咲が高いボディーソープを買うと文句を言い(だからといって娘の肌対策のために何か考えているわけではない)、美咲の家事についても上から目線でダメ出ししてくる。ウザイことこの上ない。しかも、言い方がいちいちイヤミなんだよね、これが。

これは夕飯時に美咲が食卓にカレーを出したもののスプーンを出し忘れていた時に誠が発したセリフである。

多分、誠自身は場を和ませるギャグ位に思ってるのだろうけど、仮に怒られたとしても『嫌味じゃないよ、ギャグだよ。そんなに怒ることないじゃん』と逃げられるような絶妙な言い方をしているのが腹が立つ。普通に『スプーンちょうだい』でいいじゃん。というかてめえで取りに行け。
もし私がこんなこと言われたら、「そうだよ。手で食べるんだよ。日本印度化計画だよ!」とか答えて何がなんでも素手で食わせてやるけどな。

まあ、現実にはこういった夫を『偉そうな、産んだ覚えのない長男』として適当におだてていなしてしまう妻も一定数いる。一家の“母ちゃん”、“ママ”として夫を子どもと同列に扱い世話出来てしまう人もいるのも事実だ。
ただ、美咲はそうではなかった。こんな風に夫として自身を守り支えてくれるわけでも、父親として子どもと接するでもない誠に対して『同じ場所にいるのに別の場所にいるみたい』『大人は私だけなの?』と感じ苦しみ続けていたのだ。

しかし、誠はそんな美咲の苦悩に全く気付かず、美咲のことを『どんなに甘えても悪態をついても最終的に深い愛情で許してくれるママ』と信じて疑わなかったのだ。美咲が育児の分担や気配りを再三真面目に訴えても、誠からするとそれは『ちゃんと宿題しなさい』というのと同じような“ママの小言”に過ぎず、自然と右から左に流れていってしまう。
そして、美咲の料理に文句をつけたり、些細な家事の不手際をあげつらうのも誠にしてみれば、『親にちょっと悪態をついてぼやいた』位の意識であるため、美咲が傷付き愛情が冷めつつあるだなんて夢にも思っていない。
…愛なんて、特に夫婦や恋人同士のそれは定期的になんらかの方法で補給して満たしていないとあっという間に枯れてしまうのにね。愛って減っちゃうんだよー。

なにはともあれ、美咲は誠と口をきかないことで、“誠のママ”という役割を拒絶したと言えるだろう。

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美咲の無視が夫婦関係、家庭にもたらしたものは何か

皮肉なのは、美咲が口を利かなくなったことで誠が夫らしく、父親らしくなってきたことだろう。
それは、美咲の冷ややかな態度から今までの様に甘えづらくなったこと、機嫌を取るために最低限のことをこなすようになったこともあるが、家庭内において子ども達しか心の拠り所がなくなってしまったからだろう。今まで帰宅しても『疲れているから』とダラけてまともに子どもと向き合うことがなかったのが、気まずい雰囲気を誤魔化すためにも子どもと沢山対話するようになった誠。

美咲は子どもを介しているときは団欒している風になるし(しかし、決して誠と直接会話しない)家の外…自身の両親の前や子供達の学校行事では仲が良い夫婦を装い口をきくし、最低限のやり取りは携帯のメッセージで行っているため、二人が会話出来ていなくても生活は滞りなく出来ており、端から見たら幸せな家族生活を送っているようにしか見えない。

しかし、だからと言ってこの美咲の取ったこの“無視”という方法が正しかったと言えるのか。
自身の心をを守るために誠とは必要最小限やり取りしかしないことを心に誓った美咲。
その徹底した無視の結果、一応は誠の態度は改善した。しかし、当の美咲はそれで幸せになれたわけではなく、相変わらずイライラし続けている。それは何故だろうか。

一部の宗教や哲学は幸せの定義を『何事にも心が掻き乱されない状態、平静であること』と説いている。煩わしさや苛立ちの原因となるものの関わりを断つ、あるいはそれらのことを考えないことで幸福を得るという考えだ。
美咲は“あの日”についに限界に達してしまい『ママもうムリ、パパと離婚する』と子供達に告げる。しかし、それでも子ども達に泣いて止められたためにすぐには誠と別れることが出来ず、せめて心やすらかに家庭を守っていくために誠と会話することをやめたのだ。
だが、心の平穏を乱す誠との会話を無くしたものの、美咲は決して幸せにはなれていない。
何故なら、本当に美咲が望んでいたのは、誠と夫婦として対等にお互いを思いやり、共に子どもを育てていく生活だったからだろう。

前述した通り、“あの日”以降美咲の誠への愛はほぼ無に近いくらいに失われてしまっている。しかし、完全に0になってしまったわけではなく、離婚の準備を水面下で進めながらも彼女もまた誠と口をきけるようになることを望んでいた。ただ、怒りと失望があまりに根深くてもう誠に何か働きかける気力が残っておらず、許すタイミングを逃し続けてしまい5年という歳月が経ってしまったのだ。だから、誠がアイドルにハマれば嫉妬もする。この生活に耐えられなくなった誠から離婚を言い渡された時に美咲はとっさに『私はまだ好きなのに』と言ってしまい、自分でも非常に驚いていたがそれもまた確かな本音だったのだろう。

しかし、そんな美咲を“察してちゃん”と馬鹿にするのはあんまりだろう。塵も積もれば山になるもので、バスの中で子どもを連れて移動中に見知らぬ中年男性に理不尽に怒鳴り付けられた恐怖を訴えた時に、大して話も聞かず労ることもせず『それはママが悪い』で終わらせ、体調を崩した美咲に『いつになったら良くなるの?』と不機嫌そうに尋ねる様な誠にじわじわと『こいつには何を言っても無駄だ』と刻み込まれ続けたのだから…。

実は全てを知っていた子供達…

前半、子供達はまるで誠と美咲の会話の無さに気付いていない&疑問を持っていないかのように描かれており、流石にそれは無理があるんじゃないかと思っていた。美咲は一家団欒の時間には真奈と悠人を通して会話している風に装い、外で他の人がいる前では誠と会話しているとはいえ、子供は敏感だからそんなことをしていたら尚更違和感を抱くはずだろうと…。しかし、さすが子供の目線や行動を描くのが上手い野原広子氏だ。そこにはちゃんと裏があった。

美咲が口をきいてくれなくなってから6年。今までは居心地の悪い家庭で娘の真奈と息子の悠人を心の拠り所にしていたが、当初6歳と4歳だった二人も12歳と10歳。真奈は誠に対して『キモイ』と態度がキツくなり、悠人も友達と遊ぶことに夢中で誠に冷淡になる。

会話のない6年間の夫婦生活と子供達の冷たさに心が折れた誠はある日、突然真奈と悠人に『ママと離婚する』と言い出す。

…このシーンがまた誠の幼稚さをよく表していると思う。美咲と具体的に離婚について話したり同意を得たわけでもないのに、自身への態度が悪い子供達に当てつけの様にあえて動揺させるため、そして『ママはひどいよ』と同情を引くかの様に言うのだ。本当に子どもっぽくて情けない…。

しかし、子供達は動揺せず、むしろ『ちがうよ、ママはずっといてくれたんだよ』と諭すように言う。なんと子供達は誠と美咲の状況を全て理解しており、そもそも6年前母親である美咲が『離婚したい、パパと口をききたくない』と泣いた時に『口をきかなくていいから離婚しないで』と自分達が言ったのだと打ち明ける。子供達は誠と美咲の間に会話がないことをしっかりと理解していたのだ。

そのため、誠が今さら離婚したいと言ったところで真奈と悠人は反対したりすがったりはせず(悠人は涙を浮かべたが)、『自分達も大きくなったから離婚していいよ』ととても冷静な反応を見せる。

このことに誠はショックを受け、うちひしがれる。自分が美咲に離婚を突き付けてやるつもりだったのが(あるいは突き付けることで変化を求めるつもりだったのが)、美咲の中ではもうすでに6年前に終わっていたのだから(先述したように、実際は美咲も誠に未練は持っているのだけど)。そして、口はきいてはくれないものの美咲は6年間家事をキチンとこなし、ずっと誠への弁当は作り続けていたため誠はかろうじて『弁当には愛がつまっている』と思っていた誠だったが、美咲が子供達のためにただ心を圧し殺して生活を保ってきただけだと知りただただ落ち込むのだ。

…この真奈と悠人も色々と凄い。親がこんな状況で嬉しいわけないのに、自分達が『口はきかなくていいから別れないで』と懇願した手前、我慢し(あるいは諦めて)受け入れてきたんだろうな…。そして、幼い頃は無条件に両親が好きで『別れないで!』と懇願したものの成長し誠の今までの行動を理解するとどんどん冷たくなっていくという…。美咲が口をきいてくれなくなった当初は家庭に向き合おうとしていた誠だったが、それも長続きせずに休日は若いアイドルのライブにうつつを抜かすようになった彼をおいて美咲と子供達が三人だけで遊園地に行くのも仕方がないと思う。真奈と悠人は冷静に『離婚していいよ』としか言っていないが当然のように美咲についていく気であるのが伝わってくる。つまり、真奈と美咲もまた誠に対して諦めているのだ。

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『妻が口をきいてくれません』のラスト、結末は!?ラストは11月26日発売の単行本で明らかに!

美咲が6年前の時点で離婚を決意しており、ただ子供達に懇願されたから留まっていただけに過ぎないと知った誠は打ちのめされる。そして、ある晩いじけて一人で飲み、酔っぱらって帰宅するとそこには美咲と子供達の姿は無く、家はもぬけの殻となっていた。誠は暗い家でパニックになりながら『ママー!』と叫ぶ…。

…そして、なんとここで『よみタイ』での連載は終了。続きは2020年11月26日発売予定の単行本で描かれる!…うーん、これまたいいところで…。

というわけで、現時点での結末の予想を書いてみたい。

結局、美咲に無視されたことで誠は美咲の機嫌を取ったり、多少の家事をするようになったものの、美咲に怯えるばかりで今までの自分の態度…美咲を“ママ”扱いして一人の対等な人間として話を聞こうとしなかったことに気付かず反省もしなかった。挙げ句の果てに子供達に対して当て付けるように『離婚する』とか言い出す。そりゃ、美咲は子供達連れて出ていくわ。こういう時がいつか来ることを見越して服も買わず家事育児の合間にパートにいそしみお金を貯めてきたのだもの。子供達だって呆れたことだろう。

しかし、誠は自分から離婚を言い出したくせに美咲たちが姿を消したことに慌てて取り乱す。やっぱり本気で離婚を考えていたわけではなく、美咲や反抗的な子供達に何か言ってやりたかっただけなのだろう。今さら家事なんて出来ないだろうし。

結末は、今までの野原広子氏の作風から考えて分かりやすいハッピーエンドでもバッドエンドでもないちょっとブラックなビターエンドが来ると思う。誠と美咲が今さら昔の様に対話できるとは思わない。

でも、せめて美咲には誠に何が嫌で辛かったかちゃんと伝えてほしい。何も分からないまま終わってしまうのではさすがに誠が哀れすぎる…。今さら誠が6年前のことを思い出すのは困難なのだからそれはちゃんと言葉にして伝えないとダメだろう。

そして、誠には美咲のことを“ママ”ではなくちゃんと昔のように“美咲”と読んであげてほしい。美咲は誠の母親ではない。家事と育児をするだけの人ではない。ちゃんと名前がある一人の人間なのだから…。

※11月26日以降、単行本を読んだら感想を追記します。

11/27追記…ラスト、結末について考える

『よみタイ』での連載は自ら美咲に離婚を突き付けた気でいた誠が、実は美咲が6年も前から離婚の準備をしていたということを知って、ショックで一人居酒屋で深酒して飲んで帰宅したところ、誰もおらず家が真っ暗ながらんどうになっていることにパニックになって『ママ―』と絶叫するところで終わっていた。

そして、その後…結末は11/26に発売された単行本で明かされた。

以下、『妻が口をきいてくれません』のラストのあらすじと感想・考察を書いていきます。

誠が泣き叫んでいた家は実は誠の家ではなく…

真っ暗な部屋で崩れ落ちた誠は離婚が本意ではなかったこと…ただ本当は美咲に口をきいてもらいたかったがため、気を引くために虚勢をはったに過ぎないことを認める。

そして、美咲がずっと自分の事を好きでいてくれ、何でも許し甘えさせてくれると勘違いしていた事に気付き、『俺が悪かったよー』と泣き叫ぶ。無視し続けてもいいからそばにいてほしい、一緒に生きていきたい…そう強く願うのであった。

すると、その瞬間小さな明かりが灯る。それは美咲が灯した懐中電灯であった。小さな明かりに照らされた美咲の表情…誠の叫びを聞いた美咲の表情は…

…それはいつもの無表情でも優しい笑顔でもなかった。…一瞬ドン引きした表情を浮かべた美咲はすぐに怒りでわなわなと震え上がり叫ぶのであった。

「あんた隣の家でなにしてんのよ」
「バカなの!?あんたは!?」

妻が口をきいてくれません 野原広子 150/168

なんと誠が一人で泣き叫んでいたのは自宅ではなく工事中の隣の家であったのだ。沢山酒を飲み深く酔っていた誠は完成間近の隣家を自分の家と間違えて入ってしまったのだ。

(…この辺り実は伏線がしっかりと張られている。15話目で隣に引っ越してくる予定の乳児連れの若い夫婦が美咲の元に挨拶しにやってくるシーンがあったのだ。)

しかし、鬼の形相の美咲を見た誠はかえって安心して大泣きしながら美咲の足に縋りつく。そして、『美咲ごめんオレが悪かった』『愛してる』『オレを捨てないでくれ』と近所の人達が見ている中で叫ぶのであった…。

誠に対して怒りながらも、もう無視を止めてしっかりとコミュニケーションを取る様になった美咲

翌朝、二日酔いに苦しみながら起きた誠に美咲は怒りながら『後でお隣にお詫びに行くからね』と言うがそれでも温かい飲み物を出し朝食を作ってくれる。

そんな美咲の優しさに思わず涙を流してしまう誠。昨夜、隣家から自宅に戻る途中、美咲は泥酔と号泣のあまりまともに歩けない誠に肩を貸してくれ、そして『美咲ちゃんごめん』と言う誠に小声ながら『私もごめん』と答えてくれたのだ。…美咲はしっかりと誠とコミュニケーションを取ってくれたのだ。

誠はそれを嬉しく思うのであった。

ここで明かされる、美咲が誠に対して諦めを抱いた”あの日”の顛末

そして、ここで美咲が誠に対して完全に諦めを抱いた…離婚を決意した”あの日”の出来事が美咲の回顧で明かされる。

5年前、当時まだ6歳と4歳だった真奈と悠人のリクエストに応えて3人で餃子を手作りした美咲。苦労をしながらもなんとか餃子を焼き上げた美咲であったが、相変わらず誠は『餃子はもっとパリッと焼かなきゃせっかくの餃子が台無し』とダメ出しするばかりであった。この出来事がキッカケで美咲は誠への不満の限界が達してしまい、離婚を決意。”その日”…離婚をする準備が整う日まで、誠を無視することで心の平穏を保つことを決意するのであった。

美咲に対して”ママ”呼びをやめて”美咲ちゃん”と呼ぶようになった誠…夫婦の会話は少しずつ戻っていく

そんなことを思い出した美咲はフッと笑う。

最近では誠は美咲のことを”ママ”と呼ぶのを止めて昔の様に”美咲ちゃん”と呼ぶようになった。それに倣って子供達も美咲のことを”美咲ちゃん”と呼ぶようになった。

朝、会社に行く誠を優しい笑顔で『いってらっしゃい』と送り出す美咲。それだけで誠は嬉しくなって『オレ、ばかだなあ』と思いながらもウキウキとしながら出社するのであった。

ラスト・結末~ハッピーエンドに見えるが美咲は未だに…

スキップをするように会社に向かった誠を見た美咲も『バカだなあ、あの人は』と笑う。

そして、自宅に戻りパートに向かう準備をする途中、タンスの中のある物を取り出し呟いた。

「まだこれだけ…」

妻が口をきいてくれません 野原広子 165/168

それは預金通帳であった。美咲はいまだに離婚の可能性を見据えて貯金を続けているのだ。

『今日も頑張ろう』…そう独り呟きながら美咲は歌いながら自転車でパート先に向かうのであった…。

以下、ラストに対する考察と考察

展開やラストが上述した予想、理想に近いものだったので、満足している。

実は巧妙に貼られていた伏線…

誠が一人で泣き叫んでいたのが、自分の家ではなく工事中の隣家だとは全く思い至らなかった。

15話目で隣に引っ越してくる予定の乳児連れの若い夫婦が美咲の元に挨拶しにやってくるシーンがあったが、これは単純に美咲が『我が家にもあんな幸せな時期があったのに…』と思うだけのシーンだと思っていたのだが…この展開には驚かされた。

野原広子氏の他の作品では『実は裏の事情はこういうものだった』というものはよくあるのだが、こういった伏線の貼り方はあまり見られなかったのでただただ感心した。

しかし、泥酔の挙句工事中の隣家に入り込むって…相当に間抜け。でも施工中の家って勝手に入れるものかしら?あんまりそういうところに突っ込むのは野暮か。

やはり“パパ”、”ママ”呼びの弊害であったか…美咲を”ママ”ではなく一人の女性として扱うようになった誠

そして、ラストを読んで感じたのは、やはり”パパ”、”ママ”呼びは弊害があるな…ということだ。

誠は美咲のことを『ずっとオレのことを好きでいてくれる、許してくれる、いつだって受け止めてくれる』となんでも許してくれる存在だと勘違いしていたことに気付き、深く反省する。

そして、その後誠は美咲のことを”ママ”と呼ぶのを止めて恋人時代の様に”美咲ちゃん”と呼ぶようになった。…このことについて直接言及されることはないが、やはり誠は美咲のことを精神的にも”ママ”扱いしていたことは明白だ。そして、反省して美咲を対等なパートナーとして、一人の女性として扱うようになってからは”美咲ちゃん”と呼ぶようになった。これは予想というか期待通りでちょっと嬉しい。

誠の態度が美咲の呼称に影響しているだけと言う人もいるかもしれない。しかし、人の心と言語は密接に繋がり影響し合っている。やはり”ママ”呼びそれ自体が誠の美咲への甘えを加速させたという面もあるのではないかと思ってしまうのだ。

ラスト…誠は本当に反省したのか?そして、何故美咲は未だに離婚を見据えているのか

ところで、誠は本当に反省したのか。

ちょっと気になったのは、誠と美咲は仲直りしたが、最後まで美咲は『何故怒って口をきかなくなったのか』ということを告げなかった。そこはちゃんと教えてあげないとダメなんじゃないかな…と思うが5年もの歳月が流れてしまうと今さら語る雰囲気ではなくなってしまってしまうのだろうか。

しかし、誠は5年前の個々の出来事までは思い出せなかったが、 『美咲はずっとオレのことを好きでいてくれる、許してくれる、いつだって受け止めてくれる存在』だと思い込んでいた事、それゆえに美咲をぞんざいに扱っていたことに気付き、反省することができた。だからあのすっとぼけた性格を完全に治すことは出来なくても今後は美咲を以前よりも尊重できるだろう。

だが、ラスト美咲はそんな誠の態度を微笑ましく思いながらも未だに離婚を見据えて パートに精を出している。それは何故か。

…やはり、一度マイナスに達してしまった愛情はもう元に戻らないのだろう。表面的にノロケまくっている誠に合わせているものの、美咲はどこか冷めてしまっている。誠への不信感を拭えていないのだ。

このまま誠が美咲を尊重し続けることができれば”その日”…美咲が離婚を選ぶ日はやって来ない。全ては今後の誠の行動に掛かっているだろう。

やはり野原広子氏は単純なハッピーエンドは描かない。どこか闇をはらんだビターエンド…個人的には大変楽しむことができた。

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