【漫画】血の轍10巻・最新刊【感想・ネタバレ・考察】静子と決別することを誓った静一は再び吹石と交際し、未来へ向かって歩み出そうとするが…。

血の轍10巻表紙

『私が落としたん』…そう、自分がしげるを崖から突き落としたことを皆の前で認めた静子。しかし、静子は微笑み謝罪の言葉も動機も口にせず、そのまま怒り狂った伯母夫婦に警察署まで連れて行かれるのであった。

静子との別れに涙を流した静一であったが、静子と離れた後に彼に訪れた気持ちは意外にも安堵であった。そして、警察の取り調べに応じる中で静一は自身が静子と親戚たちに密かに不満を抱いていたことを自覚していく。

更に、茶臼山での実況見分に立ち会った静一は幼少期の”死んだ白い猫”にまつわる記憶を取り戻す。当時3歳だった静一は無理心中を企てた静子に近所の高台から突き落とされたことがあったのだ。

母親である静子に一度殺されかけていた…そんな記憶を取り戻してしまった静一は…。

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【漫画】血の轍9巻【感想・ネタバレ・考察】『僕はママを好きか?』全てを認め自首した静子…そして、静一はある記憶を取り戻し…

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Contents

あらすじ・ネタバレ

第79話 自覚~過去に静子から殺されかけていたことを思い出した静一は『ママのことが世界一嫌い』と憎しみを抱くようになる

ママ…
ママはどうして、僕を産んだん?

血の轍10巻 押見修造 5/246

3歳の時、自分は静子に殺されかけていた…そう思い出した静一の価値観は崩壊寸前であった。『ママは僕のことを好きではなかった?』『ただ、”かわいそう”と言って一緒にいってくれるだけの人形がほしかっただけだったのか?』…そう幼少期の光景を思い浮かべながら考える静一。写真の中の静一はいつだって静子と二人きり。一見、微笑ましい画だが、そこにあったのは愛情ではなかったと静一は思うのだ。

そして、静一はこう自覚する。

ぜんぶ思い出したよ。
大嫌いだ。
ママ、僕は、あなたのことが、
世界で一番大嫌いだ。

血の轍10巻 押見修造 8-11/246

荒れた自室で寝ていた静一はチャイムの音で起こされた。既に年が明け1月3日になっていた。家にやって来たのは静子の弁護人である岩倉であった。

正月休みなのに来てもらったことと部屋が散らかっていることを詫びながらも部屋に通しお茶を出す父、一郎。岩倉はそんな一郎に『お気になさらずに』と微笑み、静子の今後について話があると言う。静一はそっと2階から聞き耳を立てた。

「奥様は、精神鑑定に送られることになりました。」

血の轍10巻 押見修造 15/246

それを聞いた一郎は『静子が精神的におかしいということですか?』と困惑するが岩倉はそうではないと説明する。静子自身がしげるを突き落としたことを認めたものの、静一の証言のほかに明確な証拠もないうえに、動機の解明もされていない。通常だと検察に送致されてからの勾留期間は20日間だが、精神鑑定に送ればその期間は勾留期間としてカウントされないため裏付け捜査の時間稼ぎをすることができるのだ。

そして、岩倉は静子が動機に関して”よくわからないこと”を言っていると一郎に明かす。静子は面会に来た岩倉に薄笑いを浮かべながらこう言ったのだ。

「『しげる君の顔が静一君に見えた』と。」
「『これは』『静一なんだ』」
「『だから』『落としたんです』」

血の轍10巻 押見修造 18-19/246

この言葉の意味を図りかねる岩倉は一郎に『おわかりになりますか?』と尋ねるが、一郎もまた『いえ』と困惑する。静子は取り調べでも同様の供述を繰り返しているのだと言う。

しかし、2階で密かに二人の会話を聞いていた静一にはその意味がよく分かった。静一は3歳のあの日、しげる同様に高所から静子に落とされているのだ。静子の他、自分しかそれを知らない…岩倉と一郎の会話に興味を無くした静一は自室に戻ると、一人『ふふふ、ははは』と笑い声を上げるのであった…。

そして、また少し時が経ち、1月7日の朝がやってきた。その日は3学期の始業式であった。

静一のために包装されたクロワッサンとスープを用意した一郎は『パパは仕事に行くから』と声を掛ける。学校には既に事情を説明してあり、『無理して学校に行かなくてもいい、早退してもいい』『何かあったら仕事場に電話して』と笑顔で言う。

しかし、居間のちゃぶ台に座った静一はぼんやりとして返事はおろか一郎の目も見ようとしなかった。そんな息子の態度に一郎はただ哀しそうな表情を浮かべた。

その後、静一は制服に着替えて学校に向かった。無表情なまま教室に入った静一。すると、クラスメイト達が振り返り教室の中は一気にざわつく。『長部が来たぞ、見てみ』『うわっ』…そんなクラスメイト達のささやき声や好奇の眼差しの中、静一は無言で席に着くのであった…。

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第80話 一緒~学校に登校した静一だったが小倉達のからかいに堪えかねて教室から飛び出す…すると吹石が追いかけてきて…

クラスメイト達のささやき声や好奇の眼差しを受けながらも静一は無表情で動じる様子もなく席に着いていた。しかし、斜め前の席にいた吹石が振り向いてくるのを感じると、とっさに目を伏せてしまうのであった。

その時だった。ニヤニヤした顔の小倉達が静一の前にやって来たのだ。『おーさべー』と声を掛けてきた小倉はこう続けた。

「新聞に載ってたで。お前の母親。」
「マジで甥っ子殺したん?」(中略)
「おい。よく学校来れんな。母親が人殺しといて。」

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目を伏せて無視する静一。しかし、小倉はしつこく静一に絡み続け、静一が小倉を殴った日に呼び出された静子の様子を面白可笑しく再現する。静一がおかしくなったのは全部吹石のせいだと主張して、『吹石さんと静ちゃんを別のクラスにして!』と騒いだ静子の様子をクラスメイト達の前で真似て見せた。そして、背を向けていた吹石に『お前もあの母親にひどい目に遭わされたんだから、静一に学校に来るな、大っ嫌いと言ってやれ』『あの母親に殺されなくてよかったなー』と呼びかける。

吹石が巻き込まれたことに怒りを感じた静一は音を立てて立ち上がった。しかし、小倉はひるむ様子もなく『やるのか、また殴るのか?』と笑いながら挑発し、こう続けた。

「やっぱ息子もおかしいな!!」
「殺される~!!」

血の轍10巻 押見修造 37/246

小倉の言葉に耐えきれなくなった静一はそのまま黙ってリュックと上着を持つと教室から出て行った。そんな静一の背中に小倉達は『逃げた!』『もう来るなよ!』と嘲りの言葉をぶつけるのであった…。

その後、俯きながら一人校舎から出た静一。

その時だった。

「長部!」

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その声に振り向いた静一。声の主は吹石だった。すぐに背を向けた静一はどもりながら『僕のせいでごめん』『もう学校に来ないから』と言って校門から出ようとした。

だが、吹石は『待って』と叫び、必死な表情でこう告げた。

「ごめんね…私こそ…長部のこと…わかってあげられなくて。」
「こんなところ出よう。一緒に。」

血の轍10巻 押見修造 43/246

吹石もまた、リュックを背負いコートを腕にかけ学校から帰るつもりでいたのだ。

吹石の言葉に涙ぐみながら振り返り立ち止まった静一は、その後吹石と共に学校から去るのであった…。

二人が向かった先は以前よく一緒に過ごしていた河原であった。並んで岩に座りながらも互いに無言で川を見つめ合う静一と吹石。ただ荒れ狂う川の水流の音が辺りに響いていた。

『どうして僕と一緒にいてくれるの?』と先に口を開いたのは静一だった。吃音に苦しみながらも『一緒にいたら吹石に迷惑がかかる』『それにもう新しい好きな人がいるんじゃないか』と言った(吹石は8巻でクラスメイト達に静一との一件が面白可笑しく広まり傷ついていたところをクラスメイトの佐々木という男子に告白されキスをされていた。)。

すると、吹石は哀しそうに自身の母親の話をし始める。吹石の母は吹石が5歳の時に浮気をして一人家を出て行ってしまったのだと言う。『娘である私なんかより自分と男が大切だったんだと思う』…そう淡々と語った吹石は静一を真っすぐ見つめるとこう続けた。

「だからね…」
「私は君を置いてきたくないんさ。」
「私……君のそばにいちゃだめ?」

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第81話 あはは~全てを語った静一に『本当の二人になりたい』と申し出る吹石。傷を持つ二人は強く共感し合い…

母、静子のことでつらい目に遭わせた上に一度は捨てるように静一から別れを告げたにも関わらず、それでも『君のそばにいちゃだめ?』と言ってきたくれた吹石に驚きながらもうれしく思った静一。そして、意を決したように3歳の頃、静子から高台から落とされ殺されかけたこと、そして茶臼山で静子が従兄弟のしげるを崖から突き落とすところを目撃したこと、それなのに静子は『自分はやっていない』と嘘をついたことを語った。

「僕は、自分を守るために、自分が……壊れないように、従った…あの人に。」
「あの人の中に自分をくっつけて、ひとつになって。」

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そう、自分が静子に精神的に支配されることを受け入れ、自我を失っていたことを説明する静一。そして、涙を流しながら言うのだ。

「死んだ僕を生き返らせたい………」

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静一は静子によって殺され続けていた自分を取り返したいと願っていたのだ。

すると、吹石も『私も生き返りたい』と言う。母親には確かに捨てられてしまったが、自分のことを”捨てられた子供”とは思いたくない、『私は私のものだから』…そう静かに言う吹石。そして、以前の静一との関係を『長部を私にくっつけようとしていた』と、依存し一体化しようとしていたと分析し、反省してみせる。そして、静一を見つめこう告げた。

「私は……長部と本当の二人になりたい…」

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その言葉にハッとした静一は吹石に『お母さんを嫌い?』と尋ねる。すると、吹石は笑顔で『嫌い』と答えた。すると静一も『僕も』と言って微笑んだ。

同意見の二人は見つめ合ったまま『ふふふ』『あははは』と声を上げて笑い出す。

そして、どちらともなく強く抱きしめ合うのであった。

互いのぬくもりを感じ合っている中、ふと吹石がこんなことを言い出した。

「…長部。おなじないを教えてあげようか?」

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『おまじない?』と尋ね返した静一に吹石はリュックからマジックと巾着袋を取り出す(体操服を入れるためのものか?)。そしてそれを静一に渡す。

「この袋に、お母さんの顔描いて。」

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そう言われて一瞬戸惑う静一。しかし、すぐに意味深に微笑む静子の顔を思い浮かべながら静子の似顔絵を描いた。静一が描き終えると今度は吹石も反対側に自身の母親の顔を描いた。

そして、吹石は笑顔で巾着袋を掲げるとこう言うのであった。

「このお母さんを今から二人で殺すんべ。」

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第82話 生き返る~互いの母親を殺す”おまじない”をした静一と吹石は二人で支え合い生きていくことを誓い合う

『おまじないを教えてあげようか』…そう言って自分が持っていた巾着袋を差し出し静一に静子の似顔絵を描かせた吹石。そして、裏側に自身の母親の顔を描いた吹石は『今からこのお母さんを殺すんべ』と言い出した。

河原に巾着袋を置くと両手で抱える程の石を拾い、静一に『はい』と渡す。

静一は自身で描いた巾着袋の静子の似顔絵を見つめる。すると、優しい静子の笑顔が浮かび、『静ちゃん?どうしたん?』という声音まで聞こえるような錯覚に陥った。

しかし、静一は躊躇うことなく巾着袋に石を叩き落とした。自身が静子の似顔絵に石を落としたことに罪悪感を持った静一。しかし、吹石が肯定する様に頷いたのを見て、石を拾い、今度は頭の上まで振り上げると勢いよく静子の似顔絵に向かって投げつけた。そして、似顔絵が傷ついたのを見ると『ああっ』と叫びをあげてさらに石を叩きつける。

すると、吹石もまた巾着袋に石を叩きつけてきた。目が合った静一と吹石は互いに微笑み合い、そのまま黙々と巾着袋に石を投げつけ続けた。

石を投げつけているうちに、本当に静子を石で殴っている様な感覚になっていく静一。静子が頭を何度も殴り付けられる痛みに無様に頭を抱えながら悶絶している…そんな姿を想像した静一は爽快感を覚え笑顔を浮かべる。

その時、吹石が『死ねっ』と叫び始める。言葉と裏腹に吹石は無邪気で楽しそうな笑顔を浮かべており、その様子を見た静一もまた楽しくなってきて『死ね』と叫び始める。

「死ねっ!!」
「死ねっ!!」
「死ねぇっ!!!」

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吹石と共にそう叫びながら夢中で巾着袋に石を投げ続けた静一。頭の中の静子は顔も潰れ首も体も捻じ曲がった無様な姿と化していた。静一は恍惚とした笑みを浮かべて石を投げ続けるのであった…。

二人に石を投げ続けられた巾着袋はボロボロになってしまった。静一と吹石は最後の仕上げに巾着袋を共に持つと『せーの』の掛け声とともに川に向かって放り投げた。巾着袋は水面に飲み込まれそのまま流れていった。

その様子を眺めていた静一だったが、吹石と目が合うとそのまま自分から吹石にキスをし、こう告げた。

「…吹石。」
「好きだ。僕の…そばにいて。」

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そう改めて自ら吹石に愛を告白した静一。すると、吹石は頬を赤く染めながらこう応えるのであった。

「ずっといるよ…ずっと。」
「生きていこう。二人で。」
「生きていこう。」

血の轍10巻 押見修造 98-100/246

第83話 出口~静子達から縁を切り、自立することを誓う静一。吹石に心を支えられた静一は『僕はもう大丈夫』と自身に言い聞かせる。

それから一月以上経った。2月10日…その日、静一はまた警察署で取り調べを受けていた。 以前の男性刑事が『お母さんは一体何が不満だったのだろう』と静子の犯行の動機について尋ねて来る。しかし、静一は『僕には理解できませんし、分かろうとも思いません』と素っ気なく答える。男性刑事が『静一君の考えが聞きたい。まだ思い出していないことがあるんじゃないか。今までお母さんとずっと一緒に過ごしてきたんべに』と食い下がっても『忘れました』とだけ言い、過去の無理心中未遂についても語らなかった。静一はもう静子のことを考えるのも嫌だったのだ。男性刑事は困った表情を浮かべたものの、それ以上静一には何も言わないのであった…。

そして、夜になると家に弁護士の岩倉がやって来た。岩倉は静一の父の一郎に今月にも静子の精神鑑定が終わりそうなこと、そして鑑定の結果責任能力があるということになったら検察が起訴か不起訴かの判断をすることになることを説明し、『起訴されれば有罪の可能性が高いです』と告げ、一郎は不安そうな表情を浮かべた。

静一がそこに顔を出すと岩倉は挨拶し、優しく『学校は大丈夫?』と尋ねる。それに対して静一の代わりに一郎が『三学期はずっと休ませています』と答え、さらに一区切りついたら引っ越しをする予定であることを語った。

『ちゃんとやり直そうと思っている』…そう辛そうに言う一郎。だが、そんな一郎に静一は冷たくこう尋ねた。

「お父さん。離婚は?」
「離婚するって言ったがん。いつするん?」

血の轍10巻 押見修造 110/246

静一の言葉に一瞬言葉を失った一郎だったが、『パパはママとちゃんと話し合いたい、全部パパのせいだと思ってるから』と答える。そして、静子が精神鑑定が済んだら面会できることを説明し、『ママに会いに行こうな?』と優しく言う。しかし、

「行かない。」
「僕はもうあの人に会いたくない。刑務所に入ろうがどうでもいい。」

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そう強くはっきり言い切った静一。さらに、

「僕は一人で働けるようになったら、出ていくから。」
「あの人に関わりたくない。一生。」

血の轍10巻 押見修造 113/246

そう言い放つ。縁切り宣言とも言うべきその言葉…そして、それが静子のみならず自身にまで向けられたことにショックを受ける一郎。一郎は黙って涙ぐみ、そのまま俯いてしまった。

すると、岩倉が突然『静一君』と呼びかける。静一が目を向けると岩倉は優しく微笑んでいたがこう言うのであった。

「気持ちはわかるよ。でも…家族との縁はずっと続いていくものだから。」

血の轍10巻 押見修造 115/246

そう暗に静一を咎めた岩倉は一郎に『頑張りましょう』と優しく声を掛ける。静一はただ白けた表情を浮かべるのであった…。

岩倉が帰った後…。静一の先程の静一の発言に傷ついたためか、一郎は居間でウイスキーを一人であおり、そのまま突っ伏して寝てしまっていた。

一郎のいびきが響く中、静一は自室に電話の子機を持ち込んでいた。通話の相手は吹石であった。父親が飲みに出かけているという吹石。静一と吹石は互いに『会いたいね』と言い合い、今度の日曜日に会う約束をした。

そして、吹石は『引っ越しはもう決まったの?』と静一に尋ねる。静一がまだ決まっていないと答えると吹石は『会いに行くからね』と言う。すると、静一も吹石に言う。

「いつか二人で暮らしたい。この町を出て、あの人からも…お父さんとも関係なく。」
「二人で生きていけたら、他に何もいらない。」

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その言葉に『そうだね』と優しく返す吹石。静一が『好きだよ』と告げると『私も』と言う。静一はまるで横に吹石が座り抱きついてきてくれているような感じがして、安心するのであった。

大丈夫…
僕は…もう大丈夫だ。大丈夫だ。

血の轍10巻 押見修造 123/246

そう自分に言い聞かせた静一。ふと窓の外を見ると雪が降り始めていて、『雪だ』と電話の向こうの吹石に告げるのであった…。

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第84話 呼び声~雪の降る深夜…一人庭に出た静一の元に突然しげるが現れる

吹石との電話を終えた後ベッドで眠っていた静一。目が覚めるとまだ深夜の3時半前だった。ふとカーテンを開けて窓を見ると外は吹雪で雪が既に降り積もっていた。その光景に静一は自然と笑顔になり、まだ暗いにも関わらず上着と帽子を用意して外に飛び出すのであった。

深夜にしんしんと降り積もる雪。一人庭に立った静一は穏やかな気持ちで両手を広げてそれを受け入れる。

だが、突然。ズズズズという妙な音が近づいてくる。驚いて音の鳴る方向を見た静一は呆然とする。

…門の方から現れたのは足を引きずったしげるだったのだ。

深夜の雪の中、パーカーを羽織っただけのしげるの頭や肩には雪が積もっていた。鼻水を垂らして体を震わせたしげるは『せい…ちゃん』と声を掛けて来る。信じられない思いでいっぱいの静一もまた『しげちゃん…なんで?』と言うことしかできなかった。

だが、しげるは笑ってこう言う。

「せーいーちゃん。」
「あーそーぼ。」

血の轍10巻 押見修造 139/246

しげるのその言葉に困惑する静一。大雪の上に今は深夜の4時前だ。『一人で来たの?どうしたの?』と怯えた様に静一が尋ねるも、しげるは『静ちゃんのところに遊びに行かなきゃと思って来た』としか言わない。静一が慌てて『中で温まろう』と言うも首を振り、真剣な…そして暗い眼差しを向ける。

「あの山行ご。」
「来て。静ちゃん。」

血の轍10巻 押見修造 144-146/246

凍り付く静一。すると、しげるは踵を返して一人歩きだしてしまう。静一は『待って』と叫びながら追いかけるのであった…。

第85話 山~意味不明な発言を繰り返すしげる…『あの山に行こう』と言ってしげるは静一を例の高台に導く

雪の降る深夜4時前…雪が降り積もった庭に一人佇んでいた静一の目の前に突然しげるが現れた。しげるは『静ちゃん遊ぼう』『あの山(茶臼山)に行こう』と言い出したかと思えば一人で歩き出してしまう。静一は混乱しながらも慌ててしげるを追いかけた。

薄着で体を引きずるように歩くしげる。静一が『どこに行くの?帰ろう』と声を掛けても『山に二人で登る、登りたい』とぼんやりとした表情で繰り返す。

そして、事件の後遺症でまだ上手く歩けないしげるはとうとう転んでしまった。慌てて『大丈夫?』と助け起こそうとした静一。

しかし、倒れたしげるが恍惚とした笑顔を浮かべているのを見てゾッとするのであった。

怯えながらもしげるを助け起こした静一は、しげるに肩を貸してやる。そして、『家まで送っていくから』と言う。だが、しげるは『山はあっち』と笑って指を差す。しげるに何を言っても無駄だと悟った静一は『ごめん、もう分かったから』と言いながらもなんとか連れて帰ろうとする。

その時だった。

「山…すぐそこだがん。」
「しげちゃん。」

血の轍10巻 押見修造 156/246

何故か静一のことを”しげちゃん”と呼んだしげる。静一が呆気に取られた瞬間、しげるがその隙を突くように走り出した。『こっちだよ』と言って笑い声を上げながら走り去っていくしげる。しげるは足元がふらついているにも関わらず素早く、静一は必死になって追いかけるのであった。

どうにかしてしげるに追いついた静一。だが、ぼんやりと立ち止まったしげるが見つめる先に気付き戦慄する。二人は例の高台…静一が3歳の頃、静子に殺されかけた高台に来てしまっていたのだ。

『ここが山だ』…そう言って嬉しそうに登っていくしげる。どんなに『ダメだよ』と言っても足を止めようとしないしげるに、静一は動揺し『なんで…?』と言いながらも仕方なくついていく。

そして、しげるが立ち止まったのは街を一望できる場所…静子が静一を投げ落とした高台の柵の前であった。過去の思い出から息苦しくなる静一にしげるは笑ってこう言う。

「たかいんねえ。またここに…これたんねえ。」
「ほら。もっとこっち来てみ。」
「しげちゃん。」

血の轍10巻 押見修造 167-168/246

そう、またしても静一のことを”しげちゃん”と呼んだしげる。そんなしげるに静一は『なんで自分の名前を言うの?僕は静一だよ?』と静かに尋ねた。

すると、しげるは考え込む様に首をかしげると、『しげちゃん、静ちゃん、ママ…』と呟く。

そして、こう言うのであった。

「僕は、静一だ……よ…」

血の轍10巻 押見修造 172/246

第86話 僕は誰?~『半分死んで歪んでしまった』と嘆くしげるに、静一は『生き返ることが出来る』と言い聞かせるが…

深夜の雪が降り積もった高台の上で『僕は静一だ』と言い出したしげる。困惑した静一が『何を言ってるの?早く帰ろう』と呼びかけたその時だった。

「かわいそう………」
「半分、死んでるんさね。」
「しげちゃん………かわいそうに。」
「ゆがんじゃったんね。」

血の轍10巻 押見修造 176-177/246

鼻を垂らし、焦点の合わない眼差しでそう言うしげる。絶句する静一にさらに『殺されなかったのに死ねなかった』『突き落とされてほっとかれた』と言うしげる。そして呆然とする静一を真っすぐに見つめると『僕を置いてくん?』と問う。

「もどして……僕が……ゆがむ前に……」

血の轍10巻 押見修造 181/246

そう泣き出しそうな顔をして静一に懇願するしげる。『戻して』と訴えるその声に静一は愕然とする。静子に茶臼山で崖から突き落とされたことで、心身ともに変わり果ててしまったしげるの苦しみを初めて本人の口から聞いたのだ。

しかし、静一は歯を食いしばり、しげるに対してこう答える。

「元には…戻せない……けど…でも…」
「かわいそうじゃない。かわいそう…なんかじゃ…。」

血の轍10巻 押見修造 184-185/246

力強くそう言った静一は自身も泣きそうになりながらこう続けた。

「僕は……僕だってゆがんでる。」
「でも……生き返れる。」
「半分死んだままじゃない。」

血の轍10巻 押見修造 186/246

吹石と共に”生き返る”と誓い合った静一は、しげるにも生き返ることが出来ると説いたのだ。

そして、静一はしげるに『帰ろう、もうこんなところにいなくていい』と手を差し伸べた。

しかし、しげるはその手を取ろうとはせず、『どこに帰るの?』『僕は誰?』と言い出す。静一が『君はしげちゃんだよ』と答えると、今度は『僕はママだ』と言う。

「ママは…消えない。」
「ママは…僕にくっついてる。」
「くる…。」
「帰ってくる…帰ってくるよ…」

血の轍10巻 押見修造 189-190/246

しげるのその不気味な言葉に『何を言ってるの?』とまたしても困惑してしまう静一。

その時だった。

「…静一…」

血の轍10巻 押見修造 192/246

背後から聞こえてきたその声に信じられない思いで振り返る静一。その声は確かに静子のものだったのだ。そして、その声はもう一度響き渡る。

「…ママ…」

血の轍10巻 押見修造 196/246

そう嬉しそうに笑うしげる。静一は呆然と立ち尽くすのであった。

第87話 来る~突然現れた静子の幻影に静一は『自分を押し殺し続けてきて辛かった』と怒りをぶつける

静一としげるの元に近づいてくる静子の声。大雪が降る深夜の高台でしげるは『ここだよママ』と居場所を教える様に呼び返す。静一は今の状況が理解できず、パニックからどんどん呼吸が困難になっていった。

すると、木々の合間から静子の影が近づいてくる。強い吹雪の中で静一は『くるな、だまれ!』と腕で顔を覆うも、しげるは嬉しそうに『ママが呼んでいる』とはしゃぐ。

「やめろ!!消えろ!!」
「こんなのうそだ!!幻だ!!」

血の轍10巻 押見修造 205/246

逮捕された静子はまだ、勾留され続けている身の上だ。こんなところに静子が来るはずがないのだ。

そして、それ以上に静一はもう静子に関わりたくないと思っていたのだ。『ママのことなんてどうでもいいし、知らない、関係ない』と叫ぶ静一。

だが、そんな静一にしげるが冷たく『うそつき』と吐き捨てた。

「ママを頭の中で殺して、逃げられたつもりなん?」
「本当のことを隠したままじゃ、逃げても逃げてもどこへも行けないよ。」

血の轍10巻 押見修造 207/246

しげるのその言葉に静一は『何がだよ、誰だお前は?』と腹を立てながら問い返す。

「何がわかる…」
「僕の苦しみが…わかるかよ……っ!!」

血の轍10巻 押見修造 209/246

そうしげるに叫んだつもりの静一。しかし、いつの間にかしげるは姿を消しており、そこに立っていたのは静子だったのだ。

驚愕し、言葉を失った静一。そんな静一に薄暗い静子の影はこう問いかけてきた。

「…静一…」
「何がそんなに、苦しいん?」

血の轍10巻 押見修造 212/246

静子のその問いに一瞬呆気に取られた静一。しかし、すぐに怒りに満ちた笑いを浮かべて、『ずっと苦しかったよ!』と叫ぶのであった。

「僕を…僕から僕を奪ったんだ…!!」
「あなたは…!!」

血の轍10巻 押見修造 218/246

全部静子の思い通りの生き方をさせられ、静一自身が静子に従い、奴隷になりたいと思うように仕向けられてきた。そのために、ずっと自分自身を傷つけ、押し殺してきた…そう静一は静子に吐き出す。

「苦しかったよ!!」
「死ぬほど!!!」

血の轍10巻 押見修造 222/246

静一は涙を浮かべながらそう静子に叫ぶのであった…。

第88話 なんなん?~過去の恨みつらみを吐き出す静一に静子の幻影は『おかしいのはお前だ』と言い放ち…。

巨大な静子の影に向かって静一は今まで溜め込んでいた恨みと怒りをぶつけていく。

『僕はおもちゃ、ペットだったのか!?』そう泣きながら尋ねる静一。

「僕はなんなん!?」
「僕を人間としてちゃんと認めてくれたことあったん!?」

血の轍10巻 押見修造 224/246

静子は静一に対して直接なにかを強いることはなかった。しかし、その実、静一が自分の望み通りに動くように誘導していたのだ。好きなものも好きになってはいけない、やりたいこともやりたいと思ってはいけない…そう心の中まで静子に決められていたと主張する。

「…吹石の手紙を…!!」
「よくも破ったんな!!!」

血の轍10巻 押見修造 226/246

静一がそう叫ぶと静子の顔にしぶきが掛かり、静子の顔の影が消える。一方で、剥がれ落ちた影は静一にかかり、静一が黒く汚れていく。

吹石に触れたりキスしたりすることは気持ちがよく、また射精したときも気持ちが良かった。しかし、それを静子は『汚い』と拒絶し、静一は酷く傷ついたのだ。

「何が汚いん!?」
「僕は汚くない!!おまえのがよっぽど汚い!!」

血の轍10巻 押見修造 229/246

また静子から影が剥がれ落ち、静一へと降りかかる。静子の美しい顔が露わになると共に、静一の姿は黒く染まっていく。

静一はさらに、静子への不満をぶちまける。朝食でいつも『肉まんとあんまんのどちらがいい?』と尋ねて来るが、本当はどっちも食べたくなかったこと、赤ちゃんに対してするようにキスしてくるのが嫌だったこと、口の中に手を入れてくるなど、ペットをもてあそぶように触れて来るのが嫌だったと叫ぶ。

幼稚園の頃、静子が毎日教室の後ろに立っているのが本当は嫌だった。静子は身の回りのことを静一自身にやらせようとしないため、静一は長らく靴紐を一人で結べなかった…思いつく限りに嫌だったことを挙げていく静一。そして、しげると伯母の頻繁な来訪のせいでいつも友達と遊べなかったことについて不満だったと叫ぶ。その時も静子は決して静一に友達と遊んではいけないと言わなかった。そして、静一自身に『やっぱり友達と遊ぶのはやめておく』と言わせていたのだ。…いつも何か言いたげな眼差しを向けて。

「見るなよ!!」
「僕を見るな!!」
「出ていけ…!!僕の中から…!!」
「出ていけ!!消えろ!!!」

血の轍10巻 押見修造 234-235/246

どす黒く汚れながらそう叫ぶ静一を静かに見つめる巨大な静子。静子を覆っていた影はすっかり消え、美しい顔と上半身が露わになっていた。

黒く染まった静一は手で顔を覆い泣きながら、静かに見つめてくる静子に対して『そうやって見つめてくる癖に簡単に突き落として殺そうとするんだ』と絞り出すように言う。優しく接していたのに、いとも容易く静一としげるを殺そうとした静子。そして、その事を無かったように振る舞った静子。静一が辛く感じていることを分かっていながら無視し続けた静子。静一が本当に見てほしいと思う所は決して見ようとしなかった静子。

「僕を…僕を何で…よろこんでくれないん…?」

血の轍10巻 押見修造 238/246

ありのままの自分を決して受け入れてくれなかった静子に泣いて訴える静一。静子は静一の心を決して見てくれなかったのだ。

「なんで僕が…あなたと一緒に不幸になることしか……よろこんでくれないん…?」

血の轍10巻 押見修造 240-241/246

静子は自身の境遇に不満を持ってもそれを変えようとも逃げ出そうともしなかった。ただ、そんな自身に同調し寄り添い続けることを静一に求め続けたのだ。

言いたいことをひとしきり言った静一は黒い汚れの中で自身を抱きながら座り込んでしまう。

だが、

「ひきょうもの。」

血の轍10巻 押見修造 243/246

冷たいその言葉に目を見開いた静一。今までずっと黙っていた静子の幻影が初めて口を開いたのだ。

「私のせいにしないで。」
「自分を見なさいよ」

血の轍10巻 押見修造 244-245/246

上半身裸で白い乳房を露わにした静子はそう言い放つ。白く美しい静子に対して、静一は黒い汚れにまみれていた。

「おかしいのはおまえだがん。静一。」

血の轍10巻 押見修造 246/246

静子は静一を見つめながら静かにそう言うのであった…。

以下、感想と考察

再び静一に愛を告白した吹石。静一と吹石…互いに傷を持つ若い二人は未来を築くことが出来るのか…??

今回10巻の前半の見どころは一度は静一に捨てられた吹石が再び静一に寄り添ったところだろう。8巻で吹石は傷心のところ、クラスメイトの男子、佐々木に告白されてキスまでしていたから、そのまま佐々木と付き合うのかと思っていたけど、 静一が小倉達にからかわれ傷つくのを見ていられず、始業式をさぼってまで付き添った。

私はてっきり吹石は恋に恋するタイプで、自分の心の穴を埋めるためだけに静一に執着しているのだと思っていたけど、そんな軽いものではなかったようだ。吹石は静一を本当に愛していたのだ。

『本当の”二人”になりたい』っていい言葉だよね。吹石は以前の静一との関係を『長部を私にくっつけようとしていた』と、精神的な未熟さ不安定さから静一と依存し一体化しようとしていたと分析し、反省したうえで『長部と本当の”二人”になりたい』と互いに尊重し、支え合う関係になりたいと言っているのだ。確かにこれこそ、対人関係、そして恋愛関係において理想的なものだよね。…というか、ここまで自分を客観視して分析して反省できる吹石さんすごい。精神的に大人過ぎやしない?女子大生位かな?

…問題はそれが実現可能かどうかということ。二人とも中学生なうえ、互いに少し病んでいるからな…。吹石は精神的にかなり大人びているけど、静一はまだまだ不安定。そして、互いに母親への憎しみというネガティブな共通点で惹かれ合っているところがあるから…。吹石が静一を好きになった理由ははっきりしていないのだけど、静一が放っていた不健全さに惹かれただけなのではないか…と思えなくもない。同じトラウマ重ねれば響き合うけれどそれ以上には…みたいな感じで破綻しないかが心配。吹石の父ちゃんも障壁になるだろうし、『二人が10数年後も一緒に幸せに過ごしています』みたいな像が今一つ想像できなくて、それが何だかつらい…。

父、一郎は一体何を反省しているのか…弁護士の岩倉の言葉にもちょっとイラっとしたり

そして、未だに静子がしげるを茶臼山の崖から突き落としたことを受け入れられていない様子の一郎。妻が逮捕された衝撃に加え、息子である静一からも冷淡な態度を取られて完全に憔悴している。

でも、『全部パパが悪いと思ってる』とは口では言っているけど、どこまで分かっているんだろう。ちゃんと自身の実家を優先していて、妻である静子と息子の静一をないがしろにしていた…ということに気付けているのかな?なんかそこを理解していないまま、 悲劇の主人公を気取っているだけの様な気がしてならない。

多分、一郎は一郎なりに静子の事は愛していたのだろう。でも、都合のいいところしか見ていなくて(多分、美人で若々しくてかわいい妻。自分のお姉ちゃんとも仲良くしてくれる…みたいな)、本当に静子がしげる達の来訪を嫌がっていることにも気付いていなかったのだろうな。3巻で静子が今までの不満を爆発させた時があったけど、本気で理解できていなかったし(まあ、静子の言い方が抽象的過ぎるのも原因だけど)。1巻の登山での立ち位置からしても、自分が実家優先で妻子を置き去りにしていたことも自覚していない感じ。静一の伯母の方が過去の高台の事件について疑念を持っていたり、静子について『本音を語らない気持ちの悪い女』と思っていたりと、よっぽど静子の事を見ていた。

『自分が悪かった。静子と話がしたい』と主張しているけど、上記のことを理解せず、『きっと何か、静子には自分が知らない事情があるに違いない』位にしか思ってなさそうなのが何とも苛立たしい。

そして、苛立たしいと言えば、弁護士岩倉の静一への態度。…いや、分かるよ。岩倉は静子の弁護人だし、その静子の夫である一郎をサポートする問題。だから、息子であるにも関わらず、静子に不利なことを取り調べで言ってしまったり、絶縁宣言をかましてくる静一には困っているのだろう。でも、9巻の取り調べ後に見せてきたあの非難がましい眼差しや、今回の『家族との縁は切れない』発言にはイラっとしてしまう。この人、きっと毒親持ちに対しても『育ててくれた恩は忘れちゃいけないよ』とか言うタイプなのだろうな…とか思ってしまう。

…まあ、こういう人、現実にもごまんと居るけどね!!

肉まん・あんまん問題7

コンビニの肉まん、あんまんコーナーを見るたびにこの漫画に思いを馳せるようになってしまった私も大概に病んでるぞ!

静子が静一に朝食を出す際、『肉まんとあんまんのどちらがいいか』と尋ねるという非常にシンプルな問い掛けなのだが、これが静子と静一の関係、静子がいかに静一を洗脳できているかを表しているのだ。

9巻でも考察してたけど、再復習。

1巻… 『肉まんとあんまんのどっちがいいん?』と毎朝静一に尋ねる静子。基本的に静一は『肉まん』と答える→静子は質問しているものの、その実静一にあんまんを出すつもりはない。静一も無自覚に肉まんを選ばされている。

3巻…吃音になってしまった静一。そんな彼が明らかに『あ、あ…』と『あんまん』と答えようとしているのにわざと無視する静子。静一が諦めて『肉まん』と言うと静子はそれを受け入れる。→静子は静一が自分の望む解答をしないと無視することの表れ。静一が上手く喋れなくなったのを利用している。

4巻…『朝はん、肉まんね』と、静子はもはや静一に尋ねずに勝手に決めるようになる。→そもそも静一の意向なんて気にしない静子。

6巻… 静子の『肉まんとあんまんのどっちがいい?』という問いに対して静一はもはや『どっちでもいい』と答えるようになる。→静一が静子に抵抗することを諦める。

そして、今回の8巻…静一は静子に『朝食何食べる?ママ何か作るから』という言葉に対して『肉まんでいいよ』と答える→静子にただ従うだけでなく、自ら静子の望みに叶うように迎合しに行っている。

…こんな感じで、その時々の静子と静一の力関係を上手いこと表しているのだ。

しかし、8巻では全力で静子に媚を売っていた静一だったが、9巻で自白した静子は逮捕され、さらに静一自身も幼い頃静子に殺されかけていたことを思い出した。そして、この10巻では静子への憎しみを自覚するように。

雪の高台に現れた静子(の幻影?)に静一は叫ぶ。

『肉まんもあんまんもどっちも食べたくないよ!!』

…!!??

…。

…うん、まあ、そうだよね…。

冷静に考えれば考えるほど、育ち盛りの中学生男子の朝ごはんが肉まんだけっておかしいよね…。というか、毎朝同じものって嫌だよね…。そもそもこのやりとり自体が嫌だったことを告白した静一。うん…本当そうだよね。

なんか、もう静一、肉まんもあんまんもトラウマになってそう…。将来コンビニとかで見かけるたびにげんなりするんだろうな…。

吹雪の日の未明に突然に現れ静一を高台に誘ったしげる、そして現れた静子の正体は?そして、静一はどうなる!?

静子への憎しみを自覚するようになった静一。静子の所業が世に知れ渡ったことで、静一は学校で居場所を失くしてしまったが吹石の愛で立ち直り、『将来自立して静子とも一郎達とも縁を切る』『吹石と二人で生きていく』という希望を胸にするようになった。

そんな静一の元に突如やって来たしげる。しげるに高台まで連れて行かれた静一は『半分死んで歪んでしまった。元に戻してほしい』と言うしげるに『生き返ることが出来る』と説得しようとするが、そこに静子の幻影が現れて…という流れになった血の轍10巻。

とはいえ、静子は今、勾留されている身の上なので、静一の元にやってきた静子は当然幻。静一の精神内の静子像に過ぎないだろう。

となると、今回静一の元にやって来たしげるはどうなのだろう。83話で2月10日に吹石と電話中に雪が降ったところまでは現実だけど、84話で深夜大雪の中でしげるが庭にやって来たところから静一の夢…ということで良いのかな?大雪の中、体に麻痺が残った状態でやって来たしげるの様子(鼻水とか動きとか)は非常にリアルだけど、そもそもしげるの家って静一の家からはバスで行き来する距離で近所ではなかったはず。その距離を事件の後遺症で体が不自由なしげるが深夜の雪の中、やって来るのはさすがに無理があるので、このしげるの存在自体やっぱり幻なんだろうな…。

となると、静一が対話していたしげるも静一自身。静子からの仕打ちで『歪んでしまった』『半分死んでしまった』『歪む前に戻りたい』と嘆くしげる(自分自身)に『生き返ることはできる』と言い聞かせようとした静一。吹石とそう誓い合っていたし、そう信じ望んでいたから。

しかし、しげる(もう一人の静一)はそれを受け入れず、『ママは僕にくっついていて、帰って来る』と答える。つまり、静一の中に住み着いた静子(の影響)から静一が逃げ出せないと言うのだ。

しげる(もう一人の静一)は『本当のことを隠したままじゃ逃げても逃げきれない、どこへも行けない』と言った。この”本当の事”とは何か。静一が今までの怒りや恨みをぶつける毎に黒い影であった静子の姿が美しくなっていき、逆に静一がドス黒く汚れていくのは何故なのか。静子が『おかしいのはお前だ』と言うのはどういう意味なのか。

…やっぱり静子との決別すると誓って、絶縁宣言したり、『吹石がいるから大丈夫』と自身に言い聞かせても、静一自身、完全に静子の影響から免れることはできないことをどこかで感じており、そして静子を捨てることに罪悪感を抱いているのだろうな。

そして、何より、…自分の今の状況を全て静子のせいにしてしまっていることを間違っていると内心思っているのだ。きっとそれが、しげるが『うそつき』と言い、静子が『全部私のせいにして』と言ってくる理由なのだろう。

…毒親持ちの人がとりあえず、全てを親のせいにして一度問題から逃げるのは悪い事ではないだろう。特に、静一の場合、静子から受けた洗脳は強烈なもので、過去の無理心中未遂にしろ、しげるの事件にしろ凄惨な目に遭っているので静子への反抗はかなり困難だった。というか、何度となく反抗しようとして失敗したし。

でも、静一自身、どこか甘んじて静子の支配を受け入れていたことがある。過保護に接されることが『嫌だった』とは主張しているし、それも嘘ではないだろう。しかし、1巻時点で静一が静子に向ける表情は大変甘やかなものだった。そして、静一は静子を性的に意識していた節がある。そのこと自体、静子の静一への洗脳・支配だったと言ってしまえばそれまでだろう。

しかし、静一は『自分で進んで静子の支配を受け入れ、むしろそれを心地良く感じていた』と思っており、それが静子に対する負い目となっている。だから、10巻後半でいろんなことを静子のせいにすることに罪悪感を持ち、しゃべるたびに黒かった静子がきれいになっていき、静一の方が汚れていったのだろう。…『幼稚園の教室まで毎日見に来るのが嫌だった!』と叫んでいたけど、そのエピソード自体、1巻でしげるが言及するまで静一は忘れていて(あるいは何も疑問に思っていなくて)、今回『嫌だった!』というのも後付けなところがあるしね。

これはすごく難しいところだろう。どこまでが静子の洗脳で、どこまでが静一の自由意思による行動だったのか。

未来に向かうために全てを静子のせいにして逃げることは悪いことではないと思うのだけど、他でもない静一自身がそれではダメだと思っている。だからこそ、しげるや静子の幻影と対峙することになったのだ。

次回予告では静子に『全部私のせいにしている』『誰も愛していないのはお前の方だ』とかボロクソ言われてボロボロになりかけている静一の姿が。この幻影の静子に勝てるか、負けるかで今後の静一の人生は変わって来る。

次巻の発売は6月。果たして静一の行く末は…。

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