【漫画】血の轍11巻・最新刊【感想・ネタバレ・考察】とんでもない罪を犯してしまった静一…高台からしげるを突き落とし殺してしまった静一は少年鑑別所に送られ…

血の轍11巻表紙

茶臼山からしげるを突き落としたことを認めた静子は伯母夫婦に警察署まで連れて行かれ、そのまま逮捕されてしまう。別れの瞬間こそ涙を流した静一だが、すぐに静子の支配から解放されたことに安堵し、また自身も幼い頃に静子に高台から突き落とされ殺されかけたことを思い出す。

静子への不満や恨みを自覚した静一は、静子と決別して生きることにし、吹石とも再び交際を始め明るい未来を夢見る。

しかし、雪の降る2月の未明、突然静一の家に身体がまだ不自由なしげるがやってくる。それは夢か現実なのか…静一はしげるを追いかけるうちに因縁の高台に導かれ、そこで静子の幻影と対峙することになり…。

前の記事はこちら
【漫画】血の轍10巻・最新刊【感想・ネタバレ・考察】静子と決別することを誓った静一は再び吹石と交際し、未来へ向かって歩み出そうとするが…。

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Contents

あらすじ・ネタバレ

第89話 ぜぇんぶ~静子の幻影は静一が静子を異常に綺麗で怖い化物として見ていると指摘し、全て静子に責任転嫁していると非難する

しげるに連れられやって来た、未明の吹雪の高台。夢か現実化も分からないそこで静一は巨大な静子の幻覚と対峙することとなった。今までされてきて嫌だったこと、押し殺してきた不満、怒り…それらを静子の幻影に吐き出した静一。だが、それを聞いた静子の幻影は冷たく、『私のせいにしないで。おかしいのはお前だ』と答えるのであった。

「この私の姿は何?」
「おまえはこんなふうに見てるんね。私を。」
「異常に綺麗で。異常に怖くて。化物みたい。」

血の轍11巻 押見修造 5/256

巨大で、そして美しい裸の静子は静一を真っすぐ見据え『こんなのは私じゃない』と言い、今度は『何、その自分の姿は』静一を指差す。すると、静一の背後に体操服姿のあどけない表情をした静一が現れる。静子は『純粋なふりをしてかわい子ぶっている』と静一を非難する。

「全部私にかぶせて。被害者ぶって。」
「本当はぜぇんぶ、おまえなんじゃねぇん?」
「誰も愛してないのは、おまえだがね。」

血の轍11巻 押見修造 9-11/256

静子の言葉に愕然とする静一。すると、静子の幻影は『お前が私にかぶせた皮をはがしてやる』と言って、桃の皮をはぐように顔の、体の表面を剝いでいく。

そして、皮の剥がれた静子を見た静一は『ああああ』と叫び目を覆ってしまう。しかし、静子の幻影はこう言い放った。

「よく見な。本当のママを。本当のお前を…」

血の轍11巻 押見修造 18-19/256

気が付くと、そこは夏の茶臼山だった。茶臼山の木々の中を一人、静子が汗ばみながらさ迷い歩いていた。

しかし、そこにいる静子はいつも静一が見ていた若々しく妖しい美しさを携えた静子ではなく、年相応にほうれい線がくっきりと目立つ、くたびれた女性であった。

ママ…今…僕はママの中にいる…
ママの目で…「あのとき」を見てる…

血の轍11巻 押見修造 24/256

状況を理解した静一。静子は休憩中に突然いなくなった静一としげるを探していた。

必死に二人の名を叫ぶ静子。すると、木々の合間から静一の姿を見つけた。

あの事件が起きた崖の前、蝶々に囲まれた静一が背を向けて立っていた…。

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第90話 ママから見る~静子の幻影が見せてきた世界では、静子はくたびれた女性で、不気味な息子静一に怯えていた。静子は静一の無言の圧力に屈し、しげるを崖から突き落とす

静子の幻影が見せてきた”静子目線”のあの日の茶臼山の光景。

静子に名前を呼ばれ振り向いた静一。だが、振り向いた静一は静一が自認しているようなあどけなさと幼さが残る少年などではなく、暗い目をした不気味な少年だった。

これが…僕…
ママから見た…僕。
ママ…おびえてる…?

血の轍11巻 押見修造 30-31/256

無表情の静一を前に、なんと静子は怯えてすらいたのだ。

そして、静一は静子を黙ったまま睨み続ける。すると、静子の中に静一の憎しみの念が流れ込んでくる。

『苦しい、お前さえいなければ僕は幸せになれたのに、どうして僕を産んだんだ』…無言の静一から静子はそんなメッセージを受け取る。静子の記憶の中の静一は幼い頃から愛らしく笑っていたことなど一度もなく、常に恨みがましく静子の事を睨みつけていた。

償え

血の轍11巻 押見修造 37-38/256

そんな静一からの無言の圧力を前に静子は引きつった笑みを浮かべたまま固まってしまう。

”静子目線”を覗いていた静一は『これがママの中の僕なのか?』と唖然とするのであった。

その時だった。”静子目線”の茶臼山の崖で、しげるが『ういー』と言ってふざけ始める。そして、しげるはそのままバランスを崩し崖から落ちそうになった。

静一が実際に見た光景と同様、この世界の静子も必死の形相で走り、間一髪でしげるを抱きとめる。そして、静子が『だから言ったでしょ』と咎めるとしげるは『うるせえな、大丈夫だって』と悪態を吐く。だが、悪態を吐いたしげるの顔もまた酷く醜悪なもので静子は絶句してしまう。

すると、静子の背後から『みんな死ね』という声が聞こえてくる。声の主は静一だった。

実際に静子は振り返ったわけではなく、静一は何も言っていなかった。でも、静子は背中越しに静一が『何もかもみんな死ね』と凄まじい形相で念じているのを感じたのだ。

やれよママ
落とせ
それを殺せよママ

血の轍11巻 押見修造 47-49/256

まるで静一に背中にしがみつかれそう叫ばれている様な錯覚に陥った静子。

静子は焦燥しきった様子で笑って答えるのであった。

「やるから…ゆるして…静ちゃん…」

血の轍11巻 押見修造 50/256

第91話 ぜんぶ僕~自分が静子を束縛し苦しめ、しげるを崖から突き落とさせた…そう気付いた静一が生まれてきたことを後悔し出すと…

静子の幻影が見せてきた”静子目線”の世界。そこでは静子はくたびれた女性で、無言のうちに恨みと憎しみをぶつけて来る息子の静一に怯えていた。茶臼山でしげるを崖から突き落としたのも、静一からの『しげるを落とせ』という圧力を感じたからであった。

”静子目線”の世界は静子がしげるを突き落とす直前で静止した。静一は呆然としながら動かなくなった世界を眺める。

醜い笑顔で静子にしげるを突き落とす様に強制する静一。そんな”自分”を見つめた静一は『そうか、僕がママにしげちゃんを突き落とさせたんだね』と呟く。自覚は無かったが、あの日、もしかしたら自分は心のどこかで母、静子にしげるを崖から突き落として殺してほしいと願っていたのかもしれない…そう思えてきたのだ。

そして、静一は崖の端で動かなくなった静子としげるの元まで歩いていく。しげるを突き落とそうとする静子は追い詰められた様な笑みを浮かべていた。老け込み苦し気な静子をまじまじと見た静一は返事が返ってこないことを分かっていながらも尋ねる。

「僕が…ずっと…ママを苦しめてたん……?」
「こんなに……追い詰めちゃったん…?」
「…………僕だったん?ママにくっついて…しばって……閉じ込めてたんは…僕の方だったん…?」

血の轍11巻 押見修造 61/256

僕こそがママの苦しみの元で、そして苦しみをどんどん膨らませていっていた。全部僕のせいだった…そう気付いた静一。

「ごめんね……」
「ごめんね」
「ごめんね」

血の轍11巻 押見修造 64-65/256

今まで静一が見てきた静子と違って醜く哀れで弱弱しい静子。そんな母の唇に静一は涙を流しながら優しくキスし、それから崩れ落ちてしまう。

全部、静子のせいではなく自分のせいだった…そう気付いた静一はもうどうしていいか分からず、泣きながら『消えたい』『僕が生まれてこなかったことになればいいのに』と願う。

その時だった。静一の耳元で幼い声が聞こえてきた。

「じゃあ、ぼくをころして。」

血の轍11巻 押見修造 71/256

驚いて振り返る静一。そこにいたのは、血まみれの幼い静一だった。3歳のあの日、高台から突き落とされ頭から血を流し靴が片方亡くなっている静一。幼い静一は座り込んだまま泣いている静一に『あの日、ママがせっかく僕を殺そうとしてくれたのにちゃんと死ななかったのがダメだったんだ』と説き、笑うのであった…。

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第92話 ありがとう~次に現れた幼い静一の幻影は『ぼくを殺して』と迫る。自分の存在をなかったことにするため、静一は幼い自分を高台から突き落として殺そうとするが…

「ぼくを…ちゃんところして」

血の轍11巻 押見修造 77/256

今度は幼い静一の幻覚が現れ、泣き崩れていた静一にそう言う。いつの間にか静一はあの日の茶臼山ではなく、未明の吹雪の高台に戻っていた。全ては自分のせいだったと生まれてきたことを後悔する静一に幼い静一は、静子がこの高台から落として殺そうとしてきたときにちゃんと死ねなかったのが全ての元凶だと説いたのだ。

すると、静一は決意したように立ち上がり、『分かった』と言って幼い自分の幻覚を両手で抱え上げた。

「僕が。自分で。おまえをちゃんところそう。」

血の轍11巻 押見修造 82/256

すると、子供の静一は嬉しそうに『ありがとう』と答えた。

生まれなかったことにことに、僕をなかったことにしよう。僕が消えることが正しいことなのだから…そう静一が言うと、幼い静一は『うれしい、早く殺して』と微笑む。

そして、幼い静一は次第に平面的になり、顔も歪んでいきただ。『殺して、殺して』と繰り返すだけとなっていった。そんな”幼い自分”を見た静一は涙を流しながらも大きく笑って『いくよ』と声を掛け、叫んだ。

「しね!!!ぼく!!!」

血の轍11巻 押見修造 92-93/256

不気味に吹雪く高台で思いっきり自分を突き落とした静一。

だが、次の瞬間、幼い静一は姿を消し、代わりにしげるが落ちていく。驚く静一に転落する刹那、しげるは笑って言うのであった。

「ありがとう…」

血の轍11巻 押見修造 100-101/256

第93話 悪夢~幼い自分の幻影を高台から突き落とした静一…しかし、突き落としたのは自分ではなくしげるであった。翌日目を覚ました静一は昨夜のことを夢だったと思うことにしたが…

自分をなかったことにするべく、幼い自分を高台から突き落とした静一。しかし、幼い自分を突き落とした瞬間、それはしげるに姿を変え、しげるは笑顔で感謝を述べながら未明の吹雪の高台から落ちていった。

そのまましげるは雪に飲み込まれるように見えなくなってしまった。静一はしばらく両手を突き出した姿勢のまま呆然と立ち尽くす。だが、その後、涙を流しながらも満足げに吹雪の空を見上げるのであった。

そして、白い息を吐きながらゆっくりと一人家に向かうのであった…。

目を覚ました静一。そこは見慣れた自室の天井。時刻は既に10時を過ぎていた。

カーテンを開け、窓の外を見ると雪は降り積もっていたものの良く晴れており、雪が少しずつ解け始めていた。

その光景を見た静一は薄く笑いながら一人呟いた。

「………なあんだ…………」
「ぜんぶ………夢……だったんか…………」

血の轍11巻 押見修造 127/256

だが、次の瞬間静一は固まる。部屋の隅に濡れたジャケットが置いてあったのだ。まるで、夜に雪を被ったあと、脱ぎ捨てられたような水滴をまとったジャケットが…。

そして、次の瞬間、インターホンと玄関の戸をノックする音が静一の家に鳴り響くのであった…。

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第94話 あの顔~尋ねて来た刑事達は昨夜しげるが行方不明になったことを知らせる。静一が夢でしげると高台に行ったことを語ると、それが夢ではなく現実であることを告げ…

鳴り響くインターホンとノックの音。静一が玄関の扉を開けると、そこには取り調べを担当していた男性刑事とその部下が張り詰めた表情で立っていた。

『おはよう』と形ばかりの挨拶をする男性刑事は、まず静一に父がいるかどうかを確認した。そして、次の瞬間、静一の足元を見つめた。サンダルを履いて立っている静一の足元の横に濡れた長靴があったのだ。

男性刑事の視線の先に気付いた静一だったが、淡々と父は恐らくもう仕事に行っていること、自分が起きたばかりだということを告げる。すると、男性刑事は『ちょっと静一君に聞きたいことがあるから上がっていいかい?』と言い、静一はそれに応じるのであった。

今のちゃぶ台越しに向かい合う静一と男性刑事。男性刑事は早速こう切り出した。

「あのね静一君。」
「しげる君が、いなくなった。」
「しげる君のお母さんから通報があった。朝起きたら家からいなくなってたって。」

血の轍11巻 押見修造 136/256

そして、玄関の濡れた長靴について言及し『外へ出たのか?いつ出たのか?』と静一に尋ねた。だが、静一はぼんやりと『分からない』とだけ答える。

すると、男性刑事の部下が静一の部屋にあったジャケットを持ってきて『これだけ濡れているなら長い時間外にいたんじゃないかな?』と尋ねて来る。

それを聞いた静一は薄く笑いながらぽつりぽつりと語り出す。『不思議なんです』『夢の中で夜中雪が降り積もってたから外に出たいと思って外に出た』『夢なのになんで長靴が濡れているんだろう』と。

その静一の言葉に男性刑事は険しい顔で言った。

「それは…夢じゃない。」
「現実だよ。」

血の轍11巻 押見修造 141-142/256

その言葉に目を見開いた静一に、男性刑事は外に二人分の足跡があったことを告げ、『しげる君と会ったのかい?』と尋ねた。

だが、静一は今度はニヤニヤ笑いながら『夢じゃないなら僕は本当におかしくなっちゃたんだな』『全部僕のせいです、僕がやったんです』と答えた。静一のその態度に今度は男性刑事の方が目を見開き『何をやった?』と聞く。

静一は笑って『夜中外に出たらしげちゃんが一人で来た』『二人で白髭神社の裏の高台に行った』と淡々と昨夜あったことを語っていく。そして、笑顔のまま言うのであった。

「そこで、僕は、」
「しげちゃんを、崖から突き落としたんさ。」

血の轍11巻 押見修造 149-151/256

それを聞いた男性刑事は絶望した様に俯いた。そして顔を上げると『現場に来てくれるね?』と尋ねた。

静一は笑顔のまま『うん』と答えるのであった…。

第95話 雪の現場~しげるを高台から突き落としたことを告白した静一は刑事達と共に現場に向かう。雪の下から出てきたのは変わり果てたしげるであった。

男性刑事達と共にパトカーに乗り、白髭神社の裏の高台に向かう静一。パトカーや救急車のサイレンの音が聞こえる中、無表情で手を組んだまま俯いていた。

高台につくとそこには既に無数の捜査員たちが既にしげるを探し始めていた。

静一が描いた図面を頼りに雪の降り積もった高台を上っていく男性刑事達。静一も黙って彼らと一緒に上る。そして図面に記された場所にたどり着くと、刑事の一人から近くで発見された帽子を見せられ『見覚えある?』と尋ねられる。それを見た静一は『僕のだ』と微笑み、刑事達にしげるが落ちていった辺りを指さし教えた。

すると、今まで静かに静一に寄り添い続けていた男性刑事が『下だ!行くぞ!』と大きな声で捜査員達に指示を出し始めた。

静一が示した場所の辺りを捜査員達は『しげるくーん』と叫びながら必死で探していく。だが、当の静一はぼんやりと冬の晴れた空を飛ぶ鳥を眺めていた。男性刑事が『静一君、どうした』と声を掛けてもまるで聞こえていないかの様に無視し続けている。

その時だった。

「発見しました!!」

血の轍11巻 押見修造 168/256

捜査員の一人が声を上げ、雪をかき分けていく。先程まで空を眺めていた静一だったが、捜査員達が掘り起こした先を見つめる。

そこには、眼を見開いたまま凍り付いたしげるの姿があった。そして、それを見た静一はしげるの姿をあの日…自身が静子から高台から突き落とされた後に出くわした白い猫の死体に重ねる。

「………ああ…」
「ねこさんだ……」

血の轍11巻 押見修造 175/256

薄く笑ってそう呟いた静一。すると、横にいた男性刑事が静一の腕を掴み、必死の形相で何やら叫んだ。だが、それが静一の耳に届くことはなかった。

その後、刑事達に促され現場から離された静一は笑顔のまま振り返り言うのであった。

「ねこさん ばいばい」

血の轍11巻 押見修造 178/256

第96話 確認~事情聴取中、静一はしげるの死亡が確認されたことを告げられる。すると静一は『ちゃんと死ねて良かった。しげちゃんは僕のために死んだ』と笑い刑事を困惑させる。

その後、静一は男性刑事から未明の出来事について改めて事情聴取される。重苦しい取り調べ室の中で、静一は男性刑事に聞かれるままに、しげるが突然一人でやって来たこと、山へ行こうと言い出したこと、家に入れようとしたが一人で高台に向かい始めたため追いかけたことを語る。

だが、静一は鉄格子の嵌った窓を見ると『見て、外が真っ白』と微笑み初めてしまう。

そのとき、別の刑事がドアを開け、男性刑事が席を外した。

窓から差し込んでくる光が自身の手を白く照らすさまをぼんやりと眺め続けていた静一。

すると、戻ってきた男性刑事が沈痛な面持ちで告げた。

「静一君。」
「病院で確認された……しげる君は亡くなった。」

血の轍11巻 押見修造 186-187/256

それを聞いた静一はきょとんとした様子で『じゃあしげちゃんは死んじゃったの?』と尋ねる。男性刑事が『そうだ』と答えると。

「ちゃんと………死んだんだ……」
「よかった………ちゃんと死ねて……」

血の轍11巻 押見修造 189/256

満足気にそう言った静一に男性刑事は『それはお母さんの代わりに静一君がやり遂げたってこと?』と尋ねる。だが静一は晴れやかな顔で『ママは関係ない、もう僕の中からいなくなったからママのせいにできない』と言う。

「しげちゃんは…僕のために死んだ。」
「自分を殺したら、しげちゃんが死んだ。」
「そのおかげで、ぜんぶおわった。」
「もう みんな…いなくなった…」
「ばいばい。」

血の轍11巻 押見修造 192-193/256

虚ろな瞳の静一に男性刑事は憐れむような視線を向けるのであった。

その後、静一は署の宿直室に泊まるように言われた。若い女性警察官が『長い聴取で疲れた?』と優しく声を掛け、夕飯はおにぎりかお弁当のどちらが良いかを尋ねて来た。静一は『じゃあおにぎりがいい』とだけ答える。

食事を済ませた静一は用意された布団に横になった。暗闇の中目を凝らすと、茶臼山にいた蝶が沢山やって来て自身の体に止まる幻を見る。そのまま眠りについた静一の口の中に蝶が一匹入り込むのであった…。

第97話 視線~現実感を持てないまま、少年鑑別所に送致される静一

朝になり静一は目を覚ました。布団の中でぼんやりとしている静一の元に女性警察官が朝食の乗ったトレーを持ってきた。そして、優しくこう言うのであった。

「食べ終わったら、出発するから準備して。」
「今日はこれから、前橋の裁判所へ行くからね。」

血の轍11巻 押見修造 204-205/256

朝食を終えると静一は用意されていた護送車に乗り込む。すると、同乗していた刑事がコートを頭に被るように言って来る。言われるままコートを頭に被り俯いた静一はすぐにその意味を理解した。外には大きなカメラを抱えた大人達が無数におり、車内の静一の姿をとらえようと待ち受けていたのだ。コートに遮られた視界からそれを見た静一はまたしても手を組んで俯くのであった。

それからしばらくして、前橋の裁判所に到着したことを告げられた静一。連れて行かれた部屋には黒いスーツ姿の男性が二人いた。(おそらく家庭裁判所調査官達だろう。)

彼らは静一にソファに座るように言うと名前と生年月日を言わせる。するとスーツの男性は『君の非行事実を読み上げます』と言い、平成七年二月十日未明にしげるを高台の柵の向こうに突き落としたことを述べ、『読み上げた事実に間違いはありませんか?』と尋ねる。呆然としていた静一はすぐに返事せず、男性に『静一君』と呼びかけられるとハッとして『間違いありません』と答える。すると、男性は淡々とこう告げた。

「では君を、前橋少年鑑別所へ送致する。」
「つまり少年鑑別所に入ってもらいます。君の処分を決めるまでの間、君はそこで自分を見つめ直してください。」

血の轍11巻 押見修造 212/256

その後、静一はまた護送車に乗せられる。前橋少年鑑別所に到着すると制服姿の男性が出迎えてきた。(おそらく法務教官)

今度は制服姿の男性に連れられて歩いた静一は、身長計、体重計などが置いてある小さな部屋に入れられる。そこにはまた別の制服姿の男性が座っており、またしても静一は氏名と生年月日を言うように求められた。

静一が氏名と生年月日を言うと、男性は静一に指示する。

「はい。じゃあ服を脱いで。」
「全部脱いで、全裸になって。」

血の轍11巻 押見修造 216/256

戸惑う静一に男性は『身体検査だから』と告げる。仕方なく静一が着ているものを脱ぐと、男性が『持ち上げて』と静一の下腹部を指さす。静一が意味を理解できずにいると、男性は繰り返す。なんと性器を持ち上げて、裏側を見せるように指示しているのだ。ショックを受けながらも指示に従った静一。すると、男性は今度は『後ろを向いてかがんで』と言い出す。唖然としながらも静一はぎこちなく後ろを向きかがむが、男性は『もっと』と言い、静一の肛門を覗き込むように体を確認した。

屈辱感から硬直する静一に男性は淡々と身体検査が終わったことを告げ、机の上のジャージに着替える様に言う。

着替え終えた静一。歩かされた長い廊下には鉄格子の窓がついた無数の部屋が並んでいた。

「ここだよ。入って。」

血の轍11巻 押見修造 222/256

静一は法務教官にそのうちの一つの部屋に通された。机、布団、小さな棚、トイレ、洗面台だけがある殺風景な小さな畳の部屋。むき出しの洋式便器を見た静一は固まる。

そんな静一に法務教官は『トイレを使うときだけは扉の窓のカーテンをしめて良い』など鑑別所での生活について説明する。起床、食事、運動、学習などスケジュールが定められており、法務教官は『あとは時間があるときに読んでて、分からないことがあったらその都度教えるから』と”生活のしおり”を渡して立ち去った。

一人残された静一は呆然と正座したまま過ごすのであった…。

第98話 疑問~付添人となった弁護士、江角に思わず静子のことを聞いてしまう静一。自分の心にもう静子はいないと思っていた静一だったが、内省の時間に静子の幻覚を見てしまい…

少年鑑別所に着いた静一はただぼんやりと部屋で座って過ごしていた。すると、法務教官が扉を開いて言う。

「十四室!」
「面会だ。来て。」

血の轍11巻 押見修造 227-228/256

面会室までの道のり、教官は『ここのごはんはそんなにまずくないだろう?』と和ませるように話しかけて来る。しかし、静一は無表情のままそれに答えることはなかった。

面会室に行くと、そこには眼鏡を掛けた見知らぬ女性がいた。

「初めまして。弁護士の江角です。」
「お父さんに頼まれて静一君の付添人になりました。よろしくね。」

血の轍11巻 押見修造 230/256

温和な笑顔を浮かべた江角は俯いたまま目を合わせようとしない静一に『警戒させちゃったかな?』と言い、”付添人”というのが、事件を起こした少年の権利を守って味方になる人間だと説明する。そして、静一には黙秘権があること言い、『言いたくないことは言わなくていいし、間違ってたら違うと言っていい』と諭し、他に何か心配なこと、聞いておきたいことはないかと尋ねる。静一は穏やかな江角の態度に警戒を緩め、『別に』とだけ答えるのであった。

すると、江角は静一の父、一郎が明日一緒に面会に来る予定であることを告げ、静一に『面会する?』と尋ねた。静一が『別に、どっちでも』と素っ気なく答えると、江角は『お父さんは会いたがっているから明日一緒に来るよ』と言う。

「じゃあそれと、」
「お母さん。」
「お母さんに、伝えたいことはある?」

血の轍11巻 押見修造 234/256

江角のその言葉にハッとした静一。すぐにまた目を伏せて『ないです』と答え、面会は終わりを迎えようとした。だが、教官たちに連れられて部屋を出る間際、静一は背を向けたまま江角にこう尋ねた。

「…あの。」
「このことを……僕がしたことを…知ってるんかな?」
「ママ…は……」

血の轍11巻 押見修造 236-237/256

すると、江角は『分からない』と答える。警察にいる静子に岩倉弁護士や警察がこのことを伝えているか把握できていないという。だが、江角は『確認しておくね』と微笑むのであった…。

その後、また部屋に戻された静一。18時になると”内省の時間”のアナウンスが響く。すると、法務教官がやって来て扉の窓越しに『壁に向かって正座して目を閉じて、一日の反省をしたり、事件や被害者のことを考えるように』と説明する。

静一は言われた通り、壁を向いて正座し、目を閉じた。

瞳を閉じた暗闇の世界。そこで静一が考えたのはしげるのことや事件のことではなく、先ほどの江角とのやり取りだった。『あんなことを聞かなければよかった』と思う静一。自身はすでに静子のことを考えることも、静子のせいにすることもやめたはずなのに、『ママが事件のことを知っているか』と尋ねたことを恥じていたのだ。『ママが知っているかどうかなんて、そんなのはもういいのに』と自身に言い聞かせる静一。

すると、自身の胸の中から、茶臼山の蝶が一羽飛び出て来る幻覚に襲われる。蝶は暗闇の中で光を発し、その明かりに照らされた静一はハッとして思うのだ。

でも
ママが知ったらどう思う?

血の轍11巻 押見修造 244-245/256

その時だった。蝶は静一の眼前から飛び立ち、さらに先に行き、止まった。それは静子の後ろ頭で、静子は静一の前に背を向けて正座していた。呆然とする静一。すると、静子はゆっくりと振り返って言った。

「静ちゃん。」
「知りたいん?」

血の轍11巻 押見修造 247-249/256

仄かな蝶の光に照らされて妖しく微笑む静子。

静一はビクッとして目を開けた。

もう自分の心から静子がいなくなったと信じていた静一。しかし、そこには依然として静子が鎮座していたのだ…

血の轍11巻表紙

以下、感想と考察

衝撃展開過ぎて…しげるの訪問は夢ではなく、静一が突き落とし殺したのは自身ではなくしげる本人であった…

うわあ、うわああ。

前巻の考察で、バスの距離に住むしげるが、不自由な体引きずって吹雪の深夜に一人で静一の元にやって来るなんて夢なんじゃないか、いや、それにしても雪の中ふらつくしげるの描写がリアル過ぎる…とか書いてたけど、

現実だったんだ!!現実だったんだ!!もちろん、巨大な静子だったり、幼い血まみれの静一は幻だったのだけど、崖から突き落としてしまったしげるは本物…つまり静一はしげるをその手で殺してしまったのだ。

多少の鬱展開は予想していたよ。でも、まさか主人公が殺しをしてしまうなんて…流石にこれは予想出来なかった。ショック過ぎてフリーズしてしまった。少年鑑別所送りになってしまうし。もう吹石とキャッキャウフフするどころじゃない。

…まあ、真面目な話をすると、しげるが家出前に残した書置きは自殺をほのめかすような内容であるうえ、わざわざ吹雪の深夜に遠い距離の静一宅に向かうこと自体、自殺行為。静一がこの先、高台で起きたこととそこでのしげるの言動(これもまたどこまでが現実でどこからが静一の幻だったのかがあやふやだが)をちゃんと証言すれば、殺人ではなく、自殺ほう助、嘱託殺人とみなされ大した罪にならない可能性が高い(そもそもまだ中学2年生だし)。

静一は母静子と自身を美化していた…?老けまくりの静子に醜く凶悪な顔の静一の衝撃

そして、静子の幻は静一に”静子目線”で見た茶臼山の出来事を見せて来る。そして、静一に『お前は私を異常にキレイで異常に怖いものだと思ってる』『そのくせ自分のことはかわい子ぶってる』と言う。

その”静子目線”で出てきた静子は年相応に老けている、どこにでもいるようなおばさんで、そして、静一は凶悪な人相をした醜い少年だった。

この絵面の衝撃と言ったらさ!!今まで怪しく美しく描かれていた静子がおばさんになってるし、静一が魔太郎かチャッキーかいってくらいにきもいし、ついでに流れ弾を食らったようにしげるまでもが不細工化している。酷い、というかヤバい。

まあ、そりゃ人間、自身のフィルターで自身や他人を見ていて、鏡を見ると無意識にポージング(表情も)してしまったり、脳内補正をして美化してしまい、だからこそ写真や動画で自分を見たりするとショックしそうになる。普段感じない身内の老いとかも写真で見ると実感できたりもするのだ。

でも、流石にここまで酷くはないだろ…と思ってしまう。巻末の写真からしても静子はやはりそれなりに美人だし、静一は子供の頃から普通に愛らしい。確かに静一は過剰に静子を美化・神格化し、そこに付従していた自身のことも脳内補正していたかもしれないけど、今回の”静子目線”ほど醜くはないと思う(というか思いたい)。

そもそも、この静子目線は真実ではなく、静一の自己嫌悪と自己否定が見せた妄想に過ぎない

大体、この今回の”静子目線”だって怪しい。未明の高台に現れた静子は生霊でも何でもなく、静一の見た幻。だからこの”静子目線”も本当の静子の目線、本音ではないのだ。これも静一の主観に過ぎない。

この”静子目線”の正体は静一の自己嫌悪と罪悪感が行き着いた先の”自己否定”の産物なのだ。おそらく突然静子が消え、急に全てを静子のせいにしたことによる心理的な反動だったと思われる。

今回静一は静子が苦しんできたのも、しげるを突き落としたのも全て自分が原因だった、自分が静子を束縛していた…と考えたわけだが、冷静に考えてそんなわけはない。現に静子は静一が3歳の時にすでに高台から落として殺そうとしている。もうこの時点から静子はまともじゃないのだ。

確かに静子の過剰な束縛を静一は甘んじて受け止めていて、1巻でしげるに指摘されるまで何も疑問に思っていなかった。静子のあのベタベタしたコミュニケーションも頬を赤らめたりと何だかんだ心地よく思っていたし、静子のことを多少なりとも性的な目線で見てもいた。このことが恐らく静一の最大の負い目となっているのだろうけど、だからといって静一が茶臼山で静子に対してしげるを突き落とす様に強要したわけではないし、その後の一連の出来事も静一が望んだわけではない。

確かに、真実というのは一つではなく無数ある曖昧なものだ。でも、今回静一が見た”静子目線”は静子の老け具合はおいておいても何の根拠もない荒唐無稽なもので、抑えきれなくなった静一の自己否定の情が見せた妄想に過ぎないと言えるだろう。

次回も心の中の静子からの攻撃??この作品の結末・落としどころは何なのだろうか?

次もまた内面から静子が攻撃してくる展開らしいけど、それは結局静一の中の静子にしか過ぎなくってそこと対話しても何の真実は見えてこないのだ(なんか思い出して、また静一の心境が変わるとかはあるかもしれないけど)。

そう考えるとこの漫画の着地点ってどこなんだろう。逃げても逃げても静一の内面には静子が住み着いてしまっている。それは本当の静子ではない、実体のないものだから対処しづらく、向かい合っても現に静一は一回敗北してしまっている。

だから静一が乗り越えるにはとことん環境を変え、完全に静子から縁を切って大人になるか、どこかの段階で本物の静子と対峙する、あるいは静子の過去を知ることで自分なりの真実と落としどころを付けるかのどちらかだと思う。

果たしてどうなるのか…。

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