【映画】映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん【ネタバレ・感想。考察】ロボットの魂、家庭における父親の在り方…様々なテーマを内包しつつも、クレしんらしさを守った作品

映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん ポスター

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GW中、とりあえず何か映画を見ようと思った。しかし2歳児を抱えた上に身重であったので映画館には行きづらい…そういう時こそAmazonプライムやNetflixが真価を発するのだ…!!

そして、色々と悩んだ結果見たのは…
『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』であった。

…うん、改めて自分で思い返しても、『どうしてこうなった』感がある。『あまり暗いのは見たくない』とか『失敗したくない』とか『長い作品は避けよう』とか…色々と考えていたら結果、こうなった。というより4月のテレビ放送を見逃したのも大きい。でも、実際クレしん映画って大きく外れることがないのだ。本当に。元々クレしん映画の中でも見たいと思っていたタイトルなのに、長らく見そびれていたのでワクワクしながら視聴した。
以下、あらすじ、感想、考察を書いていきたい。

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Contents

あらすじ・ネタバレ

野原ひろし、ぎっくり腰になる…そして怪しげなメンズエステ店でロボットに体を改造されてしまう!?

日曜日、しんのすけと映画館で『劇場版カンタムロボ』を観終えたひろし。興奮が冷めやらないしんのすけに合体ごっこをせがまれ、肩車をしてやるが、その衝撃でぎっくり腰になってしまう。

しかし、そんなひろしにみさえはどこか冷たかった。以前からひろしがやると約束していた、雨どいの修繕、草むしり、庭木の剪定、シロの小屋の修理、屋根の上のアンテナの調整等が全くされていないことに対して怒っているのだ。

仕方なしにしんのすけを連れて病院に向かうも、当然日曜日にやっている訳はない。落胆して公園のベンチで休んでいると、ひろしは中年男性、薄田に話しかけられる。公園には覇気のない男性たちが沢山たむろしていた。彼らは皆、家庭に居場所がない父親たちだと言う。日本の父親は弱くなったと嘆く薄田。
しかし、その公園ですら子連れ、犬連れの気の強い女性たちがやってきて、あっという間に我が物顔で占拠し始める。ちゃんと喫煙コーナーでタバコを吸っているにも関わらず、そんな薄田を責めタバコを消させる女性達。他の男性たちのことも威圧し、男性達は弱弱しく立ち去っていく。ひろしも歯がゆく思うものの何もできず公園を後にした。

しかし、そんな光景を頑健な初老の男性、鉄拳寺堂勝(てっけんじどうかつ)が怒りに満ちた目で眺めていた。
『嘆かわしい、このままでは、この国は亡ぶぞ』そう呟いて。

公園を出たひろしは妖艶な美女にメンズエステ『ビューティフルダディ』に勧誘される。ぎっくり腰の治療も出来るという言葉と色気に惑わされたひろしはしんのすけを家に帰し、店に一人入っていく。そこでひろしは眠らされてしまうのであった。

目覚めたひろしは体の調子の良さに歓喜しながら、家に帰っていく。道行く人々が恐怖に満ちた目で自身を見つめている事には気付かない。
そして帰宅したひろしを見たみさえは悲鳴を上げ、逃げ出す。そんなみさえの態度にひろしも自身の姿を確認して驚愕する。そこには顔立ちこそひろしであるものの、鋼鉄のボディがむき出しになったロボットの姿があったのだ。

ロボットの体となってしまったひろしをひろしとして認められないみさえ。一方でしんのすけはそんなひろしを『ロボとーちゃん』と呼び、ひろしであることを認め喜ぶのであった。

『あのエステで体をロボットに改造されてしまった』
そう結論付けるひろし。家族を連れてエステ店があった場所に赴くも、そこは何もない空き地になっていた。そしてその晩、ロボひろしを受け入れられないみさえはロボひろしに庭で一晩過ごすように強いるのであった。

ロボひろしを少しずつ受け入れるみさえ、しかし裏では恐ろしい計画が進行しつつあった…

翌日、下春日部警察署を訪れたみさえ。『夫を名乗る奇妙なロボットが家にやって来た』と訴えるみさえは門前払いを食らいかけるが、署長の黒岩仁太郎(くろいわじんたろう)はみさえの主張を聞き入れた。顔は良いものの、ナルシストさ全開の黒岩に少し不信感を持つみさえだったが、黒岩は段々原照代(だんだんばらてるよ)を特別捜査官として付けてくれるのであった。しかし、実は段々原はトラブルメーカーで、黒岩はみさえを体よくあしらっただけであった。

一方、その頃しんのすけはロボひろしの体を調べていた。『ロボとーちゃん』には電動歯ブラシ機能といったあまり意味がないものから掃除機、プロペラ等多彩な機能がついていた。また、リモコン操作もできる。しんのすけは大はしゃぎだった。

その後、段々原としらみつぶしにエステ店を回ったみさえだったが、手がかりは何もなく落胆して帰宅する。すると、庭はキレイになっており、シロの小屋等も修繕され、家はピカピカになっていた。ロボとーちゃんが機能をフルに使って全てこなしたのであった。そして料理まで完璧にこなす。みさえはそんなロボひろしに対して少し態度を軟化させたものの、ロケットパンチ等危険な機能を突如発動させるひろしのことを、まだ受け入れることは出来ず、犬小屋で寝かせるのであった。

一方、そんな野原家の様子は秘かに監視されていた。鉄拳寺堂勝、そしてその配下の女性スパイ、小女鹿蘭々(おめがらんらん…ひろしをエステに勧誘した女)と科学者、頑馬博士(がんまはかせ)はある壮大な計画を立てており、そのためにひろしと野原一家を利用する気でいるのだ。

翌日、保護者同伴の遠足に向かうしんのすけとみさえ。当然ロボひろしは留守番を任されていたのだが、退屈だったロボひろしはこっそり付いて行く。
行先は『リバーサイドドデカシティ』…そこは、かすかべの河川部に建設中の水上都市で、すべての作業はアンドロイドによって自動化されていた。
しかし、そこでしんのすけ達かすかべ防衛隊の面子は事故に巻き込まれてしまう。そして、その窮地を救ったのは改造された体の機能をフルに活用したロボひろしであった。

その事を悟ったみさえは、帰宅後ロボひろしを抱きしめ『それでこそ野原ひろし』『ロボットでもいい、あなたは立派な父親だ』とロボひろしのことを認め、受け入れるのであった。
…しかし、この事故も鉄拳寺達によって仕組まれたものであった。

その後、野原一家には穏やかな時間が流れる。依然、『ビューティフルダディ』の手がかりは掴めなかったものの、ロボひろしは自身の機能を使いこなしていき、家事を完璧にこなし、しんのすけ達子どもを楽しませる。また、かつらや衣服で誤魔化し、仕事にも復帰する。機械化したひろしは仕事も今までの倍量をこなし、周囲からの評価も上がっていく等、生活は順調そのものであった。そしてロボひろしが家族に完全に受け入れられたことを確認した鉄拳寺達は計画を次の段階に移すべく行動し始める。

ロボひろしの豹変と『父ゆれ同盟』の発足…しんのすけはひろしを元に戻そうとするが…

ある日、しんのすけは変装した小女鹿蘭々からひげのパーツを受け取る。小女鹿に唆されたしんのすけはロボひろしにひげパーツを渡す。しかし、ひげパーツを装着するとロボひろしは豹変、『ガンコロボひろし』と化してしまう。ちゃぶ台をひっくり返し、『自分が一家の主、大黒柱だ』と主張し、武力を盾にみさえやしんのすけを威圧し、支配し始める。

またそれだけに留まらず、ガンコロボひろしは公園達にいた薄田達を『父よ勇気を持って立ち上がれ、強くなれ』と扇動し始める。ガンコロボひろしの言葉に鼓舞された薄田達は今まで威圧してきた女性達にたばこの煙を吹き付け、逆に公園から追い出す。ガンコロボひろしは薄田達を率いて父ゆれ同盟よ、勇気(うき)で立ち上が)』を立ち上げ、女性専用車両やレディースデイの映画館を占拠したり、学生の男女交際の禁止、晩酌のビールの倍増、小遣いの値上げを主張する等、過激なデモ活動を繰り広げていく。ガンコロボひろしを筆頭に威圧的な態度を取り、街を闊歩する『父ゆれ同盟』。しかし、しんのすけは秘かに反撃のチャンスをうかがっていた。

しんのすけはかすかべ防衛隊メンバーの助けを借りて、ガンコロボひろしからひげパーツを取り外す。しかしひげパーツを失ったロボひろしは狂ったような動作をし、挙句、現れた鉄拳寺にボディを破壊されてしまう。鉄拳寺はガンコロボひろしに代わり自らが『父ゆれ同盟』を指揮することを宣言。動かなくなったロボひろしはゴミの様に車の荷台に投げ置かれ、そのまま運ばれて行ってしまう。

謎の工場に運ばれるしんのすけとロボひろし…そこで衝撃の真実を知る~なんと生身のひろしが眠らされていた

ロボひろしを追いかけ車に乗り込んだしんのすけ。そのまま工場の様な所に運ばれて行き、溶解炉に投げ出されそうになるも、何とかロボひろしの頭のパーツを持って難を逃れることができた。
その後、大量のロボットたちが並ぶ場所までやって来たしんのすけが自動清掃ロボ(ルンバみたいなの)にロボひろしの頭部を差し込むと、ロボひろしは意識を取り戻した。そして、そのまま奥に進んだしんのすけとロボひろしは驚くべきものを見つけてしまう。

そこには、閉じ込められ、眠らされている生身のひろしの姿があったのだ。急ぎ助け出すしんのすけと、状況が呑み込めず混乱するロボひろし。しんのすけに助け出され意識を取り戻した生身のひろしは真相を語りだすのであった。

あの日、ひろしは『ビューティフルダディ』 で様々な器具を体に取り付けられ、徹底的に調べ上げられた。そして同時にひろしの記憶、人格をコピーされたロボットが作られたのだと言う。そして本物のひろしはそのまま眠らされ閉じ込められていたのだ。

『ロボひろしは本物のひろしが改造された訳では無く、ただ、ひろしの記憶、人格、意識が移殖されただけのロボット』
『本物のひろしは別にいた』という事なのだ。

自分が本物のひろしだと主張する生身のひろし。しかし、ロボひろしはそのことを認めようとはせず、自らが本物だと主張し続ける。
言い争いをしながらも3人はロボひろしの新しいボディを手に入れ、頑馬 博士の追跡を逃れ、無事工場を脱出する。工場は『リバーサイドドデカシティ』にあったのだ。

ロボひろしVS鉄拳寺~市庁舎での戦い…ロボひろしは鉄拳寺に勝利するものの、生身のひろしと争いになる

一方その頃、鉄拳寺が率いる『父ゆれ同盟』は市庁舎を占拠していた。そしてそんな鉄拳寺達に一人立ち向かうみさえ。段々原も駆けつけるがピンチに陥る。
しかし、間一髪のところをロボひろしが救い出す

そのまま鉄拳寺と戦闘することになるロボひろし。なんと鉄拳寺もまたロボットであったのだ。一時は鉄拳寺に圧倒されるものの、新しいボディに搭載されていた新機能によって鉄拳寺を撃退するロボひろし。鉄拳寺はロボットの体を露わにして、退却していった。

ロボひろしも鉄拳寺もどちらもロボットであった…その事実に唖然とする『父ゆれ同盟』の面子たち。ロボひろしが『家に帰り頭を冷やすように』と告げると落胆したようにあっさりと解散し去って行った。

そのとき、みさえが『あなた』と呼び駆け寄ってくる。そんなみさえを抱きとめようとしたロボひろし。
しかし、みさえはロボひろしの横を素通りし、生身のひろしを抱きしめた。

泣きながら抱き合うみさえと生身のひろし。降り始めた雨の中、ロボひろしはそんな二人を眺めたまま立ち尽くすのであった。

真の黒幕登場…連れ去られる野原一家と再び洗脳されてしまうロボひろし~しかし、正面からぶつかってくるしんのすけにロボひろしは自我を取り戻す

その後、段々原と共に帰宅した野原一家。そこでひろしとロボひろしが『どちらが本物のひろしか』を巡って討論が繰り広げられる。生身のひろしが戻って来てもなお『自分が本物のひろしだ』と主張し一歩も引かないロボひろしの言動に異様な空気に包まれる野原一家。
ひろしとロボひろしは腕相撲で決着をつけようとするが当然鋼のボディを持つロボひろしが圧勝する。しかし、やはりみさえは負けた生身のひろしに寄り添い、ロボひろしはやるせない表情を浮かべる。

するとそんな野原家に突如来訪者が現れる。下春日部警察署の署長、黒岩だった。黒岩は突然ロボひろしに電撃を与え起動を停止させると、部下たちに野原一家と段々原を拘束させ、連れ去った。実は黒岩こそ鉄拳寺堂勝を影で操作する、真の黒幕だったのだ。

ドデカシティの奥深くに連れてこられた野原一家と段々原。彼等に黒岩は自らが企む『大日本しつけ直し計画』について語る。今の日本の在り方を嘆く黒岩。日本を建て直すには強い父権が必要であり、今回のロボひろしや『父ゆれ同盟』は序章に過ぎないと語る。そして、全てを知ってしまった野原一家と段々原を消し去るつもりだと言う。

しかし、しんのすけは『案外黒岩こそ、家庭でないがしろにされているのでは』と指摘する。実はその通りで、黒岩は家庭で妻と娘に冷たい扱いを受けていたのであった。そして、自身の本性を見抜いた上で『格好悪い』と言ってきたしんのすけに黒岩は激怒する。しんのすけを一番最初に処分すると宣告する。

そこに処刑道具として現れたのは頑馬博士により、人格を消去され、洗脳されたロボひろしであった。『しんのすけに対して最も苦痛を与える刑を与えよ』と黒岩に命じられたロボひろしは『ピーマン炒めを無理矢理食べさせる刑』を執行する。最初は恐怖と苦痛におののくしんのすけ。しかし、ロボひろしに挑むように懸命に自らピーマン炒めに食らいつき始めたしんのすけの姿に、ロボひろしは父親として人格を取り戻すのであった

ラスト~最終決戦と”ロボとーちゃん”の最期

ロボひろしが無事に人格を取り戻したことに勝どきを上げる野原一家。野原一家ファイヤーではなく、ひろしが二人いることから『野原一家Wファイヤー』と叫ぶ。野原家の強さに驚く段々原。そんな野原一家と黒岩達は乱闘状態になるが、その結果建物は崩壊、爆発。野原一家と段々原(と何故か小女鹿も)は間一髪のところ抜け出す。しかし、脱出した彼らに、今度は黒岩と頑馬博士が操縦する『五木ひろしロボ』が襲い掛かる。

みさえ達女性陣を逃がし、五木ひろしロボに立ち向かうしんのすけとひろしとロボひろし。しかし、巨大で頑健な五木ひろしロボにはロボひろしの能力をもってしても歯が立たない。エネルギー切れを起こしてしまったロボひろしを助け出すひろし。しんのすけとひろしとロボひろしの3人は合体して即席の巨大ロボットを作り、五木ひろしロボットに立ち向かう。しかし、五木ひろしロボから繰り出される『こぶしウェーブ』になすすべがなく、合体は簡単に解かれてしまうのであった。

窮地に陥ったしんのすけ達。しかし、ロボひろしはしんのすけと過ごした日々からある策を思いつく。ロボひろしは自らのリモコンをしんのすけに託し、自身をドデカシティの建物と合体させ、巨大なブリブリ星人ロボと化した。しんのすけが操作するブリブリ星人ロボは五木ひろしロボを圧倒し、撃破するのであった。そして、またブリブリ星人ロボも直後に崩壊した。

廃墟と化したドデカシティ。黒岩と頑馬博士を拘束する段々原。黒岩は自身の罪状を段々原に問う。すると段々原は『人の心を弄んだことだ』と答え、黒岩はただうなだれるのであった。

一方、しんのすけとひろし達は瓦礫の中ロボひろしを探す。するとそこにはボロボロになり壊れかけたロボひろしの姿があった。ショックを受ける一家を前に、ロボひろしは無言でドラム缶を用意し、ひろしに腕相撲を挑む。そして、その想いに応える様にひろしは勝負を受けた。

壊れかけのロボひろしと生身のひろしの力は拮抗し、接戦となる。
『負けるなロボとーちゃん』『負けるなとーちゃん』『どっちも勝て』しんのすけ達の声援の中、勝利を収めたのは生身のひろしであった。

敗北したロボひろしはそのまま崩れ落ちる。そして乱れる視界(モニター)にしんのすけを捉えて、言う。
『どうだ、しんのすけ。つえーだろ、お前のとーちゃん』

ロボひろしの言葉に『ロボとーちゃんも強いよ』と返すしんのすけ。しかしロボひろしはそんなしんのすけに『おれはお前のとーちゃんじゃなかったみたいだ』と言い、ひろしに『おれの分までしっかり頼むぞ、おれ』と告げる。戦いを通して、いつの間にかひろしとロボひろしは互いを『おれ』と呼び合うほどに分かり合っていたのだ。そしてロボひろしはみさえに感謝の意を伝える。その言葉に涙を流すみさえもまた、ロボひろしもまた『本物』のひろしであると感じていた。

ひろしもロボひろしもどっちも自分のとーちゃんだ…そう泣きながら言うしんのすけはロボひろしに『でっかくなること』を約束する。それを聞いたロボひろしは満足したように起動を停止したのであった。

その後、何事も無かったかのようにかすかべには平和な日々が戻る。
昼下がりの公園、ベンチに座る薄田。そこに例の子連れの女性がやって来るも、互いに会釈をする等以前のような険悪な雰囲気は無い。そして、薄田は息子に呼ばれ立ち上がった。
そしてその公園の横を通る野原一家。しんのすけはひろしに合体ごっこをねだり、ひろしはそれに応じる。またぎっくり腰になるのでは…と心配しながらも、みさえは二人の姿を見守り、微笑むのであった。

~終わり~

以下、感想と考察

ロボひろしの悲哀について~ロボひろしの魂はどこに眠るのか

「ロボットにされてしまったひろしがいかにして生身の肉体を取り戻すか…と見せ掛けて、実はロボットはひろしの記憶と人格を移植されただけで、本物のひろしは別にいたのだ…!!」
…この制作陣が用意したミスリードに引っかかったか否かによって、だいぶ感想が変わるのではないだろうか。残念ながら私は引っかかれなかった(一緒に視聴した夫は引っかかってたようだ)。ひねくれてるんだろうな。無意識にメインポスターの絵面(リアルひろしとロボひろしが腕相撲している)から察してしまったのか、『地獄先生ぬ~べ~』の29巻、『広、ミクロ化!?の巻』が好きだからなのか(偶然にも名前が同じ、ひろし)。
(ちなみにどんな話かというと…ぬ~べ~の生徒の一人、広は気が付くと小人化してしまっていた。戸惑いながらも友達以上恋人未満の関係の同級生少女、恭子の元で短いながらも『南くんの恋人』の様な甘い時間を過ごす。しかし、本物の広は実は別にいて、小人広は本物の広の人格と記憶を引き継いだだけの人造人間・ホムンクルスだった…というお話。結末は賛否両論だと思う。)

そういう訳で、『ひろしとしての記憶を持ち、ひろしの思考、行動パターンを取るロボとーちゃんは、本物のひろしと言えるのか否か』といった哲学的な話に果たしてどこまで踏み込んでくるのか…そう考えて視聴していた。更に言えば『ロボットに心はあるのか』みたいなね。しかし、そこは比較的あっさり。
実はキャッチコピーやポスター的にもっと『泣かせ』に掛かってくると見て、私は相当身構えていた。特にこのポスターなんか狙いすぎだろと思ってしまう。もう悲哀全開と言った感じで。

逆襲のロボとーちゃんのポスター
いかにも泣かせに来てない?このポスター

しかし、いわゆる感動の押し売り、くどさは無かった。子ども向けギャグアニメとして、あえてあまり掘り下げなかったのかもしれない。というよりは子どもが分かるレベルにちゃんと話をやさしくしたというべきか。

ただ、父ゆれ同盟の旗手を務めた薄田達から『あなたもロボットだったんですか…』と失望した様に言われたり、妻、みさえが真っ先に駆け寄り抱き締めるのは生身のひろしで、ロボひろしが素通りされてしまう描写は、容易に想像できていたけどやはり胸が痛む。戻ってきた生身のひろしと『どちらが本物のひろしか』を言い争うシーンなんて、もう明らかに結論が見えているのに気付かない振りして、しんのすけに取り入ろうとするのが切ない。そういったロボット物の悲哀をしっかり取り入れつつ、シリアスになったり悲劇的になりすぎないように上手く調整できていたと思う。でも子どもたちも考えられる子はロボとーちゃんの魂の行く末に対してちゃんと思いを馳せられるだろう。

父親達が抱えている本当の問題とは何か

男性が元気無いのはまあ、事実だと思う。
しかし、それは決して女性専用車両やレディースデイが原因ではない。もっと根源的な要因、問題があるだろう。
日本の父親達は今、『純粋に立場が弱い、疎まれている』…というよりは、『従来と違って、労働だけでなく、家事や育児といった家庭人としての側面も求められるようになり、戸惑い疲弊している。』『でも依然、当然の様に主たる稼ぎ手として社会からも家庭からも一番責任を負わされている不公平感』『しかし、そのことに正面切って不満を言える社会ではない』…といったところではないだろうか。

それゆえ、疲労することなく、無限にかつ完璧に労働・家事・育児の全てをこなすロボとーちゃんの存在それ自体が、
『ロボットにでもならない限り、会社、家庭、社会から期待される役割なんて完全にこなせねーよ』
…という社会への皮肉とも言えるのだが、そこも作中あまり突っ込まない感じだった。
クレしん特有のブラックさと軽快さでその辺りはもっと上手く描けたのではないか?と正直少し不満が残った。父権主義(パターナリズム)についてもうちょっと是非を問う内容にしても良かったのでは?女性専用車両やレディースデイの映画館占拠するってだけじゃ、あまりにも表面的すぎる。

まあ、あまり過激なことを描いてしまうと、映画を観た後で家族、夫婦が本気で喧嘩しかねないからな…。これはこれでいいのか…。

父親を巡る描写への疑問

そして細かいところで、リアリティが無い、ちょっと古いなーと感じる描写があるのが気になるところ。

例えば、休日の昼下がりの公園で家に居場所が無い父親達がたむろしている…という描写。勿論、そういう父親も全く居ないことはないのだが、実際の休日の昼下がりの公園にいる父親はぼんやり無為に過ごすことなんか出来ておらず、大体子守りを任されて動き回っているか疲弊している。子供がある程度大きくならない限り、今時のお父さんという存在は家族サービスや家事を期待されるので、こんな風に自由にさせてもらえないのでは…?と思うのだ。

そして、保護者同伴の幼稚園の社会科見学の描写。専業主婦家庭が多い幼稚園であっても、こういうイベントに今時母親しかいない、父親が0だなんて、まずあり得ない。例え平日だろうが、最低一組は父親が参加しているものだろう。積極的に参加しているアクティブな父親か、妻に強制的に有給を取らされた、居づらそうにして目が死んでいる父親のどちらかが。
この『ロボとーちゃん』は2014年公開の映画で、確かに今から5年前の作品ではではあるのだが、それでもなんだかそのあたりの描写が少し時代遅れで、リアリティを欠いていると感じてしまうのだ。

また、そもそも、『父ゆれ』の父親達がどう見ても50前後と思わしき見た目なのも気になる。(薄田達の具体的な年齢は分からないものの、ラスト、薄田に息子が呼び掛けるシーンがあり、その声からして少なくとも高校生以上だと推測する。なのでやはり、ひろしより少なくとも一回りは上なのではないかと思われるのだ。)

そこまで年齢がいってしまうと、『父親』というよりは『オヤジ』である。実際、キャッチコピーでは『オヤジ』という言葉が使われている。この『父親』という言葉と『オヤジ』の間にある微妙な差が気になってしまう。

何よりも、そんな年長者達を束ねるのが洗脳されているとはいえ、35歳のロボひろしなのも違和感がある。これを書いている自分がもうアラサーだから思うだけかもしれないが、まだ35歳で長子も5歳の『若い父親』のロボひろしは、一回り以上年の離れた薄田達とそもそも、ライフステージが異なっており、世代的な価値観や感性の違いは絶対にあるはずで、本当に薄田達が抱いている虚しさ、やるせなさを共有出来ているかも怪しい。みさえは確かにひろしに対して従順ではないが、なんだかんだラブラブだし、しんのすけだってひろしが大好きだ。ひろしは決して家庭で疎外なんてされてない。さして家庭に不満を抱いているようには見えない。

そして、この『父ゆれ同盟』のデモ(テロ)行為に20代~40代の若い父親達はどう思いどう行動したのかが気になるところだが、全く登場しないのだ。本当にかすかべでは若い父親が絶滅したのかと心配になるくらい、一切登場しないのだ。そういった意味でも、やはり『父親』ではなく『オヤジ』の話ではないかと思ってしまうのだ。

一方で、妙にリアルで真理を突いている『父ゆれ同盟』の空虚さ

一方、リアルさを感じるもの…それは『父ゆれ同盟』に参加したオヤジ達の表情や態度だ。

初めこそ、公園で威圧的な態度を取り続けてきた女性陣に煙草を吹きかけ追い出して勝どきを上げたりする。しかし、女性専用車両や映画館を占拠し暴れる彼等は興奮こそしているものの、決して満足げではない。むしろ、よりフラストレーションを溜めている様に見える。市庁舎を占拠した際にはもはや、蜂起する前以上に疲弊している。何かに怯えたような表情を浮かべている。それは何故か。

彼等の真の望みは、家族を支配し、威張り散らすことではなく、ただ等身大の自分を尊重して労って欲しい…それだけだったからだ。だからこそ、『父ゆれ同盟』はロボひろしが鉄拳寺堂勝を打ち負かし、彼等がロボットだったことが発覚し、ロボひろしから解散を命じられると、アッサリと活動をやめてしまったのだろう。

パロディ、小ネタは多いも、ロボ・メカ要素は少なめ。

冒頭の『映画カンタムロボ』、なんだかもの凄く『天元突破グレンラガン』っぽいなーと思ったら、脚本の人がまさかの同じ人。セルフパロディをうまい具合に入れていて、純粋にすごいと思った。その他にも『朝まで生テレビ!』をもじって『朝まで生ノハラ!』とか言ってみたり、鉄拳寺堂勝が見得を切る所の背景にある屏風が金色夜叉の貫一とお宮の熱海のシーンだったり…と相変わらず子どもに分からないような小ネタが多い。細かいところ凝っていると思う(五木ひろしネタは流石にどうかと思うが)。
しかしロボット物ということで、もっとその周辺のパロディネタとかを分かりやすく持ってくるのかと思ったのだが、そこは控えめだったのかなあと感じた。そういったものを期待していた人は肩透かしを食らったのではないか。

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まとめ~欲を抑えて『子ども向け』という体面を守った映画

テーマ、キャッチコピー的にも、やろうと思えば多分、相当尖った作品にも出来たであろう『ロボとーちゃん』。
例えば『ロボットもの』のお決まり、テーマだってもっと盛り込むことも出来た。パロディだってやろうと思えばもっと入れる余地もあり、マニアックな層にもっと媚びることも出来た。
『父ゆれ同盟』周辺の話だって、『ロボとーちゃん』という存在を通して、労働、家事、育児、男女平等、父権主義…そういった様々なものに対して痛烈な風刺も出来ただろう。
また、存在自体が悲劇的なロボひろし。もっともっと泣かせる展開や演出もやろうと思えば出来る。

しかし、本作はこれらのテーマにそこまで踏み込まない。それは出来なかったというより、あえて深入りしなかったのだろうと思う。

何故なら、『オトナ帝国』、『アッパレ!戦国大合戦』以降、『大人が楽しめる』という評判が一人歩きしている印象も否めなかったが、もともとクレヨンしんちゃんとその映画のメインターゲットは子どもだ。元の掲載紙が青年誌だった名残で、元々大人にしか分からないネタや風刺もあるものの、基本的に子どものものなのだ。

なので上述の様に各々のテーマに深入りせず、エンターテイメント性を保ったことで、ちゃんと子どもにも分かる、楽しめる作品に仕上げたのだろう。
そして、だからと言って、子どもしか楽しめないわけでもなく、大人も十分楽しめる作りになっている。その辺りのバランスが絶妙なのだ。シリアスな要素を散りばめつつも、クレヨンしんちゃん『らしさ』をキチンと残している。

…まあ、本音を言えば個人的にはもうちょっとスパイスが効いていても良かったのではないかと思わなくもないのだが。 下手な大人向け映画よりよっぽど見応えはあるので、十分オススメできる作品だ。

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