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平安時代ものが好きだ。華やかで人々の感性が豊かで、独特の文化があり、知れば知るほど奥深い。源氏物語、枕草子以外にも様々な文学作品が生まれた。しかし、戦国時代もの、江戸もの、幕末もの等と比べると、この時代を描くオリジナルの漫画、作品は少ない。千年も時代が離れてしまっていて身近に感じられないからかもしれないが、どうしても源氏物語のアレンジものばかりになってしまう。
そんな中、オススメしたいのが平安時代を舞台にしたギャグコメディ、『あさはかな夢みし』だ。…分かる人はすぐに分かると思うが、タイトルはあの名作、あさきゆめみしのパロディだ。 作者は『臨死!!江古田ちゃん』や『モトカレマニア』の瀧波ユカリ氏である。
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Contents
あらすじ
時は平安時代の京の都、ある姫君の元に一人の舎人(とねり、召使)、小犬丸(こいぬまる)がやってくる。実はこの小犬丸、ただの舎人ではなく、その正体は婚活のスペシャリスト…姫の父親に依頼されて、男っ気の全く無い姫、夢子(ゆめこ)に良縁を結ばせるべく派遣されたのだ。見た目もそんなに悪くない夢子(ゆめこ)と対面した小犬丸は当初、楽勝そうだとほくそ笑む。
しかし、夢子は現実世界の色恋に興味を示さない、明けても暮れても草紙(物語)を読んでは妄想三昧(ノーマルもBLもいける)の色んな意味で腐りきった姫だったのだ。なんとかそんな夢子を結婚させようとする小犬丸、そして日がなあさはかな妄想を楽しむ夢子。はたして夢子は人並みに恋愛し結婚することができるのか…!?
以下、見どころと感想・考察(ネタバレあり)
生き生きとした平安腐女子、夢子とその仲間たち
この作品の何が魅力かと言うと、まずは主人公の夢子達のオタク、腐女子っぷりだろう。
夢子については、『はあ?平安時代にオタク?腐女子?おかしいだろう』と思う人もいるかもしれない。しかし、娯楽は色々あるも現代程、その刺激は強くなかったであろう時代。夢子の様に文学にのめり込んで妄想を爆発させる女子は結構いて、更にそのエネルギーは案外現代のオタク以上のものだったかもとも思うのだ。
そういう視点で見ると、例えば古典でよく取り上げられる、更級日記の菅原孝標女なんかはもう、純粋で上品な文学少女というよりは、『源氏物語まじ尊すぎ…』『新刊…新刊を早く―』とか言っている女オタクにしか思えなくなったりする。
夢子は友人かつ草紙屋(本の売り歩き)をする、くれ葉(男装女子)と、物語について語り合い、斜め上な妄想を繰り広げる。伊勢物語の『芥川』の姫を何故かオッサンに置き換えてみたりと中々にカオスである。
そして、2巻以降宮仕え(宮中勤務)することになる夢子。しかし、社会人になって腐女子が矯正されるかというと、そんな訳無く、むしろ気の合う姫、右近と瑠璃に出会って意気投合し、その腐女子っぷりに拍車をかけていくのだ。
しかし、ただただ物語に現を抜かしているわけではない。彼女たちはしっかりと文学から学び、己独自の矜持を持って生きている。1巻で夢子は『恋をしようと思わないのか』『男から好かれたいと思わないのか』と問われる。しかし、それに対してハッキリとこう、答えるのだ。『恋ならしている。物語の男性達も現実の男性達も愛おしく思っている』と。そして、
「まろはそういう「乞い」ではなく…ただ心のままに好きなものをいみじう愛でていかんとす。」
あさはかな夢みし1巻 瀧波ユカリ 99/160
このセリフは素晴らしい。趣味人の鏡だ。そして、宮中でいじめにあった時も、源氏物語の桐壺の更衣や、落窪物語の落窪の君等に思いを馳せ、その想像力と愛をもってして乗り越えていくのだ。
その他、脇を固める強烈なキャラクター達
『昔の女性』と言うと、それだけで縛られた不自由な人生をイメージしがちだけれども、平安時代は意外とおおらか。もちろん時代特有の慣習や縛りはあるわけだけど、女性陣は結構自由に恋や仕事に邁進しているのだ。
作中、19歳の夢子は『結婚することが女性の幸せ』といった価値観を押し付けられる。しかし、夢子の腹違いの姉、実子(みのりこ)の様に結婚せず、宮仕え(宮中でお仕事)して、官職を持ち、沢山の男性との恋を楽しみながら生きていく女性もいる。常に浮名を流しながらも、『男に頼らず自分の力で生きている』をいう実子もまた強烈なキャラクターである。そして、馬内侍(うまのないし)を始めとして、こういった女性は実際に平安時代には結構いたのだ。
そして草紙屋のくれ葉もまた、身分の低さゆえに貴族にさげずまれたりしながらも、へこたれることなく商いを続け、蹴鞠技術を磨く等、意外なところから巧妙に宮中に入り込んでいく。
一方で、夢子と右近、瑠璃が仕えることになる、一条天皇の女御(にょうご、上から3番目位の地位の妻)の藤原尊子の恋愛観・男性観の拗らせっぷりもリアルだ。いるよね、こういう人…。
もちろん、男性キャラも負けてはいない。婚活系舎人、小犬丸が時折見せる貴族へのルサンチマンも中々なものだし、夢子に漠然とした好意を持つ、お坊ちゃん貴族の藤原顕信は露出狂だし、時の権力者、藤原道長なんて、女装に目覚めてしまうし、もうハチャメチャ。よくもまあ、こんなキャラクターを思いつけるものだ。
しかし、その一方で各キャラクターが持つ人生哲学とでもいうものが垣間見えて、少し考えさせられたり。とにかく登場するキャラクターが皆、強烈である一方、妙にリアルで魅力的なのだ。
平安時代と文学に対する作者の独自解釈が凄い
子供のころに学研の紫式部の伝記漫画を繰り返し読んだくらいで、特に平安時代についての知識は無かったという瀧波ユカリ氏(ちなみにこの学研の漫画、私も好きだった)。しかし、かなりの量の書籍を読んで勉強した模様(平安時代ものってハマるよね、沼だよね…)。そのため、古語や平安時代の文化をさりげなく、分かりやすく、自然と物語に織り込むことができている。
しかし、ただ勉強したものを描くだけではなく、更に考えたうえで独自の解釈を加えているのにとても好感を持てるのだ。ただ、笑いにするだけでなく、案外その通りなのかもしれないと思わせる説得力。細長にしろ粥杖にしろ、平安時代のモノって具体的にどんな形状をしていたか不明なものが多いのだが、粥杖の形なんて、…もうそれとしか思えない。そして古典作品についての謎のBL的解釈もすんなり受け入れられるから不思議だ。
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ラスト・最終回は少し、しんみり…寂しい
ラストは少し寂しい。一条天皇が死去したことで、夢子達3人が仕えていた尊子は宮中から去ることになる。また、顕信も自身の繊細さに悩み苦しんだ末、出家してしまう。
夢子達3人は小犬丸や実子の働き掛けもあり、宮中の蔵書の管理、資料の編纂という働き口を手に入れる。そして『生涯、書物と関わり続けた』『複数の幼子と同居していたが、誰の子か定かではない』という記録だけを残して歴史の中に消えていく。 しかし、ただ湿っぽいだけでは終わらない。ラスト、舞台は千年後に飛び、彼女たちは再び現代に蘇るのだ。
個人的にはもうちょっと長く連載してほしかった。ネタがなくなったというよりは、あまり話題にならなかったため終わってしまったのだろうか?もう少し注目されて良かった作品だと思う。
まとめ~臨死!!江古田ちゃんが好きな人、平安時代ものが好きな人にはオススメ!
私は瀧波ユカリ氏が以前に描いていた『臨死!!江古田ちゃん』のファンである。とにかく切り口が鋭く、4コマ漫画で9年半、全8巻に上るのに、一切飽きることなく読めたのだ。しかし、余計なお世話だが『この人江古田ちゃん終わったらどうするんだろう?普通のストーリー漫画描けるのかな?』なんて心配したりもしていた。…が、全く問題なく、本作の様な作品を描けることに感動した(売れたかどうかは別として)。
この『あさはかな夢みし』は『平安時代×女オタク・腐女子』といった、結構特殊なジャンルなので、読む人を選ぶかもしれない。しかし、現代社会への風刺もかなり織り込んであり、平安時代のこともかなり分かりやすく描いている。『臨死!!江古田ちゃんが好きだった』『瀧波ユカリのファン』『平安時代が好きだ』という人には自信を持ってお勧めできるのである。
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