【漫画】あさはかな夢みし3巻・最新刊・最終巻【感想・ネタバレ・考察】少し寂しくも希望があるラスト・結末

あさはかな夢みし3巻 表紙

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草紙(物語)を愛し、日がな妄想にふけるのが趣味の平安腐女子の姫、夢子。そしてそんな彼女を結婚させるべく雇われ派遣された舎人(とねり…めしつかい)の小犬丸。紆余曲折経て宮仕えを始めた夢子は、そこで瑠璃、右近という平安腐女子仲間を得て、より楽しい日々を送るようになる。そして、夢子達三人はツンデレを拗らせた皇妃、藤原尊子の部屋付女房になったのであった。

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Contents

以下、各話ネタバレ、感想・考察

第21話 佐太(さた)~物語と現実は違うんです。綿美部長再び!

舎人協会婚活事業部…そこで再び成果を上げられていないことで、小犬丸はブラックな上司の綿美部長に詰られていた。今まで複数案件ビシバシ決めていた小犬丸が成婚させられない『夢子』がどんな女なのかと興味を持つ綿美。小犬丸が『恋に興味がない女三人で固まってしまっている』と答えると、『その三人に自分が声を掛けてなびかせてみる』『なびかないようならノーペナルティ、なびいたなら罰として全裸で自分の脇息(ひじおき)になれ』と綿美は言い、小犬丸に自分を夢子達の元へ案内させた。脇息は冗談、ノリだと言う綿美だが、小犬丸はその言葉に怯えるのであった。

宮中で夢子、瑠璃、右近はそれぞれ離れた場所で掃除をしていた。覗き見ていた綿美は小犬丸に『一人ずつ口説き落とす』『君は脇息の練習でもしていろ』といい、建物の中に踏み込んでいった。

実は見合い結婚をしていて実際に女を口説き落とした経験は無い綿美。しかし、『研究』を重ねていたため、三人娘を口説く自信はあった。

まず廊下で掃き掃除をしていた瑠璃の元へ向かった綿美。突然小柄な瑠璃に向かって『発育不良女』と呼び掛ける。無言無表情で立ち去ろうとした瑠璃に『無視するな、襲うぞ』と言ってにじりよる。そして、すごい事故物件…と呟く瑠璃の耳を突然触る。悲鳴を上げる瑠璃。そんな瑠璃に綿美は笑いながら『お前感度良すぎ』と言い、硬直する瑠璃に背を向け立ち去る。『効いた』と思いながら。

そして、次は右近の元へ向かった綿美。水を運んでいた右近と曲がり角でわざと衝突し、『謝れ』と凄む。突然飛び出してきたのは綿美なので納得できないものの、一応謝る右近。しかし、綿美は『許さない』と絡み続け、右近もまた、そんな綿美に関西弁で威嚇する。すると綿美は『女なら可愛く笑っておけ』と唐突に右近の頬をつまみ上げる。思わず綿美を突き飛ばす右近。つねられたため赤くなっている右近の顔を見て『顔真っ赤だぞ、からかいがいのある奴だ』と言って立ち去る。後ろで何やら叫んでいる右近は、内心キュンキュンしているに違いないと思いながら。

最後に夢子の元へ向かった綿美。書庫の整理をしながら、草紙を読む夢子に『読み聞かせろ』と迫る。そして綿美は『仕事中だから』と言って立ち去ろうとした夢子の肩に手をかけ、壁ドンを決め『逃げんなよ』と笑い迫る。しかし、そんな綿美に怯むことなく、夢子は『おぬしは佐太だな』というのであった。

今昔物語の『佐太が衣』…強引に女に迫った役人、佐太は女が佐太に当てた拒絶の短歌(かなりの教養を滲ませたもの) に激怒。和歌の意味も分からないまま女を罵倒するが、その噂が広まり職まで失ってしまうのだ…。

綿美をそんな『佐太』に例えた夢子。綿美は『自分は佐太ほど酷くない』『ちゃんと女心に響くというアクションを研究した』と反論し、光源氏を引き合いに出すが、夢子、そして駆けつけた瑠璃、右近から『あなたは光源氏ではない』『現実と物語は違う』『自称ドS男は気持ち悪い』とズバズバ言われて撃沈するのであった。

しかし、綿美のとった行動の一つ一つが『萌えの素材』としては悪くないと、綿美そっちのけで妄想談義に花を咲かせはじめてる三人娘。その様子を見た綿美は『三人娘が最難関案件』であることを理解し、小犬丸の苦労を認めるのだ。

しかし、『綿美が夢子達を口説けたら、小犬丸は全裸で綿美の脇息になる』という話であったと知った夢子達は次々に綿美に愛の言葉を投げ掛ける。真顔で『ノリでやっちゃう?』と迫る綿美に小犬丸は『やはりただのノリじゃないような気がする』と怯えるのであった。

まさかの綿美部長再登場。よく『(イケメンに限る)』と、イケメンなら壁ドン、顎クイをやって許される…みたいなことを言う人がいるが、例えイケメンであっても現実こんなことをされたら限りなくウザイ。というか怖くて逃げる。更に少女漫画とかでも強引にヒロインを襲うイケメン…みたいなのが結構居るけど、現実だったらイケメンだろうがなんだろうが、ただの性犯罪者である。現実とフィクションは違うので注意。

第22話 下草(したくさ)~くれ葉の家に行く能信、くれ葉との距離を縮めようとするが…

最近、くれ葉の気を引きたいがため、彼女から沢山草紙を買って、勉強をしている藤原能信(藤原道長の四男で、顕信の弟)。毬会でくれ葉に惚れて以降、くれ葉との距離を縮めようと必死だ。くれ葉を取られた様で気に食わない夢子。

元・暗部屋で、くれ葉への好意がだだ漏れの能信を少し離れた所で見ていた、夢子達の主の尊子(一条天皇の女御、つまり后妃)は『女は高貴な方が良いのではないか?』と疑問を呈する。すると通りかかった夢子の姉、実子(馬内侍という名で、一条天皇の中宮(后妃)、彰子に仕える)が、男女の恋に疎い尊子に、ただの『低身分萌え』だと答える。

かの光源氏が夕顔に惹かれた様に、エリート男性程、低身分の女子に惹かれると解説した実子。しかし、『しょせんは肝試しみたいなもので、10~20回まぐわったらポイだ』とみもふたもない言い方をする。

しかし、夢子達がそんな話をしているとは露知らず、能信は『自分で本を選びたい』というのを口実に『くれ葉の家に行きたい』といきなり申し出る。勉強熱心な能信の態度を喜ぶくれ葉。しかし、自宅に見られたら困る草紙(能信の父、道長総受け本とか)も沢山あることから一瞬赤面し、躊躇する。だが、能信はそれを『くれ葉が自身を男として見てくれている』と解釈して、更に強く頼み込む。そんな能信の態度にくれ葉は『それならば今から行こう』と言い、夢子達に挨拶して能信と共に元・暗部屋を去る。夢子は嫉妬で涙を流し、尊子はそんな夢子を『どんだけくれ葉のことが好きなんだ』とちょっとひきながら見やるのであった。

なるべくボロボロの牛車で行くというくれ葉。最初意味が分からなかった能信であったが、向かう先、くれ葉の家のある場所が右京の最貧困地区であり、良い車で行ったり、歩いたりしたら襲われかねないのだと理解する。

外を見て『ガチのエリアだ』と驚く能信。しかし、すぐに頭の中は『くれ葉の家に夜までいてもいいのか』『男を家に招くことをどう考えいるのか』『くれ葉に今まで恋人はいたのか』『処女と非処女、どちらが良いか』『年上としてリードしてくれるのか』『それともそちらの方はうぶなのか』そんな妄想で一杯になる。そして、外を見ながら妄想のため、顔をしかめたり笑ったりする能信を、くれ葉は為政者の息子として民の窮状を真面目に観察しているのだと勘違いするのであった

そして遂にくれ葉の家に到着する。貧しく小さな家には、入ってすぐくれ葉の病気の父親が寝そべっていた。しかも父だけでなく、同じく病気の叔父、祖母、あと誰だか分からない病人まで世話しているというくれ葉。『支えすぎだろ』と内心突っ込みを入れる能信。だが、くれ葉が自身の部屋兼書庫に案内してくれるというので喜ぶ。

書庫を兼ねたくれ葉の自室は整然としており、『文学少女の部屋といった感じだ』と能信は感動する。どこに腰を下ろそうかと悩み、さりげなく事に持ち込みやすい寝台に腰を下ろそうとした能信。しかし、そこにはくれ葉の曾祖母が潜んでおり、ビビる能信。曾祖母を部屋の外に連れ出すくれ葉を見て『やはり支えすぎだ。年寄りの世話が好きなのか』と思うのと同時に『やはり貴族の女とは勝手が違う』と思うのだ。

そして、戻ってきたくれ葉が平然と寝台に腰掛ける自分の横に座ってきたため驚き動揺する能信。能信は緊張しながらも、『くれ葉さんといると楽しい』『周りにくれ葉さんの様な者はいない』『貴族の女性は退屈だ』『くれ葉さんは自分の知らない世界を見せてくれる』と遠回しに好意を伝えていく。『だから僕は…』そう能信が言いかけたとき、遮る様にくれ葉は言った。

「言っとくが、それって、ただもの珍しいだけだからな」

あさはかな夢みし3巻 瀧波ユカリ 38/163

くれ葉の言葉に驚き、反論しようとする能信。しかし、くれ葉は更に『自分が金持ちで働かずに家にいる状態でも面白いと感じるか』と問う。『金持ちでも、きっとくれ葉さんは…』と言う能信に『あほか』と切り捨てるくれ葉。外では雨が降り始めたのか部屋は雨漏りし始める。

金があったら働かないし、病人の世話だって人に任せたい。きっと草紙は今みたいに読み続けるけど…そう雨漏りする部屋で語るくれ葉。そして何も言えなくなった能信に一瞬だけ複雑な表情を浮かべて言うのだ。

「おら自分は好きだ。でも好きでこの自分になったわけじゃないんだ」

あさはかな夢みし3巻 瀧波ユカリ 38/163

そして『難しい話をしてしまった。忘れてくれ』と笑うくれ葉。しかし、能信は『子ども扱いしないでほしい』と怒った表情を浮かべる。

すると、そんな能信にくれ葉は突然『道長様18禁シリーズ』を突き付け、子ども扱いするなと言うなら読めるかと迫る。能信は真顔で『この件については子ども扱いしてくれ』と断るのであった。

一方その頃夢子は嫉妬から生き霊を出すことに成功し、尊子を呆れさせるのであった。

…くれ葉の『物珍しいだけだろう?』という言葉に反論できなかった能信。『くれ葉の人柄が好き』と言うが、そこには貧しい育ちというものが多いに関わってる訳で。そして、くれ葉は『好きで今の自分になったわけではない』と語る。彼のくれ葉への想いは、しょせん実子が言うところの『低身分萌え』に過ぎないのか。

ここは非常に難しいところ。恋をしたときに『その人の何を好きなのか』をハッキリさせることはそもそも可能なのか。能信は貧しい環境で生き抜いているところも含めてくれ葉の全てが好きな訳で、貧しいからくれ葉のことが好きな訳ではない。でも、その一方で、『もしくれ葉が金持ちで働かない人間(つまり貴族の姫)でも好きか』と問われると、即答出来ない。…うん、難しい。

しかし、こういう問答でくれ葉は能信を煙に巻いたが、能信のくれ葉への恋心は無くなった訳ではない。むしろ増したと言えるだろう。二人の関係はどういう形で落ち着くのか。

ちなみに、今回の夢子の様に平安人はちょっと頑張れば生き霊を飛ばせる。

第23話 百夜通い(ももよがよい)~まさかの右近の初体験の相手がやってきて…

和歌は生々し過ぎる、生々し過ぎると萎えてしまう…そんな話をする夢子と瑠璃。特に『逢ふ』という言葉は性交を意味し、それを賞賛する和歌に『そんなにすごいことなのだろうか』と疑問を口にする瑠璃。しかし、それに対してどや顔で『スゴいとも言えるしスゴくないとも言える』と語る右近。三人娘の中で唯一男性経験のある右近は、この手の話題になると少し偉そうになるのだ。

宮仕えをする前、同い年の侍女が経験を済ませたことをやたらと鼻に掛けて来ることが気に食わなかった右近。『自分だって』という思いと好奇心から、父と兄が開いた宴会にやってきた3歳年上の学生、橘永愷(たちばなのながやす)に肝試し感覚で声を掛けた。しかし、そのまま互いに見惚れ合ってしまい関係を結んだというのだ。

その後、彼から早速和歌が届き、返事に悩む右近。しかし、『何か読んで落ち着こう』と手に取った草紙(BL)が強烈過ぎて、なんとそのまま返事をすっぽかしてしまったのだという。

結局『逢ふ』よりも草紙が勝った、現実より虚構が勝った…ということでオチが付いてしまう右近の話に呆れる夢子と瑠璃。しかし、そこになんと橘永愷本人が右近を訪ねてやってきたのであった。

右近のことが忘れられないという橘永愷。しかし、右近は『突然来られても困る』『自分は一生結婚せずに尊子様に使える』と取りつくしまがない。橘永愷は右近の言葉に号泣、『死んでしまった方がましだ』と脅しともとれる発言をする(平安男子は失恋レベルで割と死ぬ)。『何かチャンスをくれないとおかしくなる』という橘永愷の発言で今昔物語集の『平定文、本院の侍従に懸想せし語』を思い浮かべる夢子。想い人の女に相手にされなさ過ぎて、精神的におかしくなっていき、ついに女の大小便が入った箱を盗み出し、飲食しようとするまでになった男。しかし、女は男の行動を予想しており、箱の中を丁子(クローブ)の汁、山芋と練香を混ぜて型取りしたものにすり替えており、女の賢さに感嘆した男はより恋焦がれて死んでしまったというトンでもエピソード。夢子の話により収集が付かなくなる現場。そこに小犬丸が『自分が間に入る』と告げ、『このままでは収まらないので橘永愷にチャンスを与えるべきだ』と『百夜通い(ももよがよい)』を提案する。

『100日間連続で女性の元を尋ねれば、関係を持てる』…そう『百夜通い(ももよがよい)』について説明する小犬丸。 右近は『自分の意思は関係ないのか』とうろたえるも、橘永愷は喜んで百夜通いを始めるのであった。

毎晩、右近の部屋の前までやってきて、小犬丸と顔を合わせる橘永愷。部屋から漏れ聞こえてくる右近の声に聞き耳を立て、小犬丸と色々と話し合うのであった。しかし、45日目、橘永愷は小犬丸に真顔で問うのであった。
『なあ、これってなんの意味があるの』 と。

『自分が毎晩来ているのに右近は声すら掛けてくれない』『むなしい』
『もし100日通って『逢ふ』ことができても、それはただむなしいだけだ』
…そう静かに涙を流した橘永愷。

百夜通いの真の意味は『100日の猶予を持たせて、女性側にその気がないことを男に理解させ、執着心を鎮める』というものであった。『自分は橘永愷様の努力を見ていた』と橘永愷を慰める小犬丸。小犬丸の策通り、橘永愷は百夜通いを通して、右近が自身に気持ちを持っていないことを理解し、失恋を認め去って行った。そしてその様子を右近は室内から静かに涙を流しながら聞いているのであった。

婚活系舎人の仕事の一環として、橘永愷を応援するふりをして、右近を守った小犬丸。それなりの代金の請求を右近の実家にしようとするも、右近は『自分に責任があることだから』といって自身で支払うと言った。
そして『橘永愷と小犬丸の身分を超えて通い合った心』『しかし、すべては小犬丸の掌の上』というシチュエーションについて夢子と瑠璃といつもの様に妄想し、笑い合うのであった。

百夜通いは小野小町に纏わる伝説の一つ。絶世の美女小野小町は自身に求愛してきた深草少将に『百夜通い続けたら契ってあげる』と約束し、深草少将は律儀に通い続けるも、あと一日というところで死んでしまうという…(なお、死に方のバリエーションは色々)。よくもまあ、ここからこんなストーリーを思いつけるものだと、素直に関心。

第24話 六苦(ろっく)~さすがに信じる人はいないと思うが…

尊子に休暇をもらった夢子、瑠璃、右近の三人。瑠璃は皆を『へす』に誘う。首を傾げる皆に、『へすとは圧す(へす)から生じた造語。野外で楽団や歌手が演奏するイベント』だと説明する。『嵐山六苦へす(あらしやまろっくへす)』に行こうと言う瑠璃。『出会いがありそう』と思う一方で危なくないのかと心配もする小犬丸。しかし、『行かねば人生の半分を損する』とまで言う瑠璃の言葉に夢子、右近は『へす』に行くこと決意したのであった。

しかし、いざ『嵐山六苦へす』に到着すると楽団とそのファンの熱気に全く溶け込めない三人娘。肝心の瑠璃も結局『知ったかぶり』で、満足に演奏に『ノる』ことすら出来ない。

特に『へす』を全力で楽しむ婆利比(パリピ)に怯え、軽蔑する三人娘。しかし、小犬丸から『この場において正しいのはちゃんとハメを外して楽しめる婆利比(パリピ)であって、うだうだ言っている自分達の方が愚かなのだ』とド正論をかまして、三人娘を憤然とさせるのであった。

とりあえずグッズを買うことにする三人娘。グッズを身に付けると強くなった気がして、後日持て余すと分かっていてもついつい買いすぎてしまう。そして絵師に記念写生してもらうと、気分も高揚していく。

そして目当ての楽団の演奏が始まる。熱気に包まれて思わず声を上げる三人娘。楽団の関係性重視の彼女達は生で見るメンバーの絡みに興奮が止まらない。

しかし、演奏が佳境に入ると聴衆の熱気が大変なことになり、三人娘は後方に押し出されてしまう。悔しさに涙を流す瑠璃。しかし、そこに婆利比(パリピ)達がやってくる。泣いている瑠璃が前に行きたがっていると知ると、『蔵人沙布(クラウドサーブ)』で瑠璃を前面まで行かせてくれたのであった。

婆利比(パリピ)にお礼を言おうとした右近。しかし、婆利比(パリピ)は既に立ち去っていた。せっかくなので、殿方と喋ってみてはどうかと促すが、三人娘は帰ってへすレポや楽団のやおいを書くと言って聞かないのであった。

平安要素少なめ。『ロックフェスティバルが平安時代にあったら』という完全にフィクションなので、信じちゃダメだよ(汗)。なんか言葉とかが非常にそれっぽいので普通に信じる人がいそうで怖い…。

第25話 いかで見ばや(いかでみばや)~顕信・能信兄弟と遭遇してしまったいなば…正体を隠し通すために…

元・暗部屋に遊びに来ていたいなば(女装した道長)。しかし、そこに息子である顕信と能信兄弟が遊びに来てしまう。正体を知られるわけにはいかないいなばは『シャイだから』という理由で瑠璃たちに几帳を立ててもらい、なんとか顔を隠そうとする(平安時代、貴族の女子が男性に対して顔を隠すのは普通)。しかし、能信は几帳越しにいなばの身体から漂う香の匂いに何か引っかかるものを感じる。

すると、突然大雨が降ってくる。女房として雨戸や蔀を閉めたり、洗濯物を取り込んだりするため、その場を去る夢子、瑠璃、右近。部屋にはいなばと顕信、能信だけが取り残されてしまう。

そして、能信はあることに気付き、声を上げる。最近、屋敷の離れに入り浸っている父、道長。周囲からは『女を囲っているのでは』と噂されていたが、真相は誰にも分からなかった。そして、いなばから発せられる香の匂いは、道長が離れから戻ってきた時にまとっているそれと同じなのであった。
『几帳の向こうにいるいなばは父の愛人だ』そう結論付ける能信。一方、兄である顕信は純粋に几帳の向こうにいる上品そうないなばに興味を持つ。
『いなばの顔を見てみたい』と共に思う顕信と能信。何か用付けていなばの素顔を見るチャンスをつかもうとする。

『足をもんでもらってもいいかな』と突然几帳に向かって足を突っ込んだ顕信。突然の暴挙に能信もいなばも驚くが、『相手は女官、自分達は時の権力者、道長の息子』と悪びれる様子もない顕信。そして能信もまた『相手は自分達の生活圏に入り込んで父をたぶらかしている女』と考え、早く顕信の脚を揉むようにいなばに急かす。

『バカ息子』『悪ふざけしおってガキが』と憤然とするいなば。しかし、相手をしないと理由をつけて几帳を覗こうとする二人に対して、仕方なく顕信の足を揉み始める。予想外に大きい息子の足に成長を感じ感慨にふけったと思えば、一々反応してくる顕信に殺意を抱いたりしつつも、最終的には徹底して、顕信が悶えるほど上手に足を揉んでやるいなば。

その時戻ってきた夢子は部屋に入ろうとするも、室内の異様な雰囲気に足を止める。身分の高い男が女官に足を揉ませること自体はそう珍しいことではない。しかし、室内は異様な猥褻感が漂っている。一瞬、いなばが二人にセクハラされているのかと思い、止めに入ろうとする夢子だったが、一生懸命マッサージをしているが故汗で化粧が落ち始めているいなばの横顔を見て、誰かに似ていると思うのだ。

快感に蕩ける兄、顕信の様子を見て『そんなにいいのか』と疑問に思った能信は、自身もいなばに足を揉んで欲しいと頼む。平静を装いながらも、差し出した足は緊張でガチガチになっている能信。そんな息子の態度にいなばは『女官に居丈高に振る舞って遊ぶ…自分も昔よくやっていた』『しかし、所詮は青二才だ』と面白がり、『女官いなば』として徹底的に能信を弄ぶことを決意。持てる全てのテクニックを使い能信の足を揉み、能信を昇天させるのであった。

そして、一部始終を覗き見ていた夢子は、いなばの正体が藤原道長であることに気付く。『今、自分が見ているのもは…』と目を見開く。

『負けた、完敗だ…さすが父の女だ』と倒れたまま認める能信。その隙に逃げようとするいなばだったが、能信から『お前が父上の女だということは香の匂いで分かっている』『無礼な、幼稚なことをして悪かった。父との関係を許そう』と言われ、『一度だけ顔を見たい。いなばがどんなにいい女か見たいんだ』という能信の言葉に心を乱される。女装歴の浅いいなばは普段から『かわいいとちやほやされたい欲』を持て余しているのだ。
息子とはいえ、男性から初めて興味を持たれたことに『ときめき』を感じてしまういなば(道長)。『目元を少しだけなら』と魔が差してしまったその時、

父と子が男と女としてあいまみえる』というシチュエーションに興奮を抑えられなくなった夢子が『ものぐるほしけれ(狂おしい)』という叫びと共にすごい勢いで戸を吹き飛ばしてしまい、驚いた顕信、能信兄弟は逃走。夢子は意図せずして二人を追い払ってしまったのだ。

夢子の態度から、自身の正体がバレてしまったことを知るいなば。しかし、それでもなお、自身のことを『いなば』と呼んでくれる夢子に感動を覚えるが、『妄想を超える逸材がここに…それも天下人』と『尊し尊し』と拝み続ける夢子に何とも言えない不安感を持つのであった。

謎の父子の攻防。この時代、貴族の女性が男性に顔を隠すのは普通。ちょっとした仕草や香の匂い等で女性の姿かたちを男性達は妄想して過ごしていたと思うと、やはり平安時代の文化は独特だよなあ…と思ってしまう。

第26話 お召し(おめし)~平安貴族のお風呂事情と一条天皇の寝所に向かう尊子

内裏の元・暗部屋。『遣唐使もの』の草紙の素晴らしさについて熱く語り合う夢子、瑠璃、右近の三人娘。彼女達の主人である后妃、尊子は三人の話を菓子を食べながら聞いている。

そこに小犬丸が慌てた様子で飛び込んでくる。

「帝が…尊子様を“お召し”でございます!!」

あさはかな夢みし3巻 瀧波ユカリ 99/163

『お召し』とは要は『夜のお誘い』のことだ。『お召し』の伝言と文を受け取った后妃は夜の殿(おとど)…帝のベッドルームに赴くというしきたりだ。

夢子、瑠璃、右近は初めてのことなので勝手が分からない。『尊子様が帝の妻って都市伝説だと思ってた』『うちも妄想入ってんなって…』等とナチュラルに失礼な発言をする瑠璃と右近に、ばあやは憤慨しながら、『今までも尊子に年に一回はお召しがあったこと』『しかし、尊子は毎回指一本触れられずにのこのこ帰ってきていたこと』と説明する。

女房達が騒ぎ立てる様子を見ながら、尊子は決意したように告げる。

『今夜契ってくる』と。以前の尊子からは決してでないであろう言葉。ばあやはいつもの態度から豹変して『湯を沸かし、風呂の準備をしろ』と夢子達に檄を飛ばすのであった。

后妃様の湯殿(ゆどの…浴室)で、湯かたびらという薄い羽織ものを来た状態で、浴槽のお湯を使ってばあやは尊子の身体を洗っていく。湯殿は蒸気風呂…サウナの役目も果たす。

ばあやが尊子の身体を洗っているのを見ながら、右近は『庶民達の間では、『平安貴族は風呂に入らず身体を洗わない。化粧を塗ったくって、厚着して、香を使って臭いのを誤魔化している』という噂が広がっている』と話す。

『爆笑』『情弱なり』と笑いながらキレる夢子と瑠璃。貴族だって5日に1日は湯浴みをし、行事ごとの前には行水して身体を清めねばならないのだ。そして、専用の蒸し風呂で、ヨモギの葉を使って垢を落としている。平安時代にだって温泉旅行(恐らく作者は湯治のことを言いたいのだろう)はあったのだ

夢子は枕草子の百九十二段を引き合いに出し、貴族の体臭が臭くないと反論する。『しょせんは庶民。千年後も同じデマを信じているのだろう』と語り合う夢子達。

身体を洗い終わった尊子。次は女房達、4人がかりで長い髪を洗っていく。濡らした髪に澡豆(そうず)という、小豆の粉を揉み込むと泡立ちシャンプーの様になる。洗い終えたら、ゆするという米のとぎ汁を髪に塗り、櫛で好き、髪を火鉢に当て、布で叩きながら乾燥する。

平安貴族の女性の髪は長く、洗うのは大変だった。しかし、長いなりに工夫してやっているのだと語る瑠璃。髪の毛総てを丸洗いするのは時間を取るので中々出来ないが、普段の湯浴みで部分的に洗ったり、毎日櫛にゆするをつけてすくことで清潔さを守っている。女房達は髪を洗った際には、髪を広げて縁側等に仰向けに寝っ転がり、自然乾燥させるのだ。

かくして、身体と髪を洗い、化粧を施された尊子。緊張した様子『何を話したら良いか分からない』と言うので、夢子達は『逆に今まで何を話していたのだ』と尋ねる。気位が高く、拗ねやすい尊子。一条天皇が『久しぶりですね』と言えば『誰かさんが連絡をくれなかったからだ』と返し、『最近楽しいことがあったか』と尋ねられれば『楽しく生きているように見えるか』と睨む。挙げ句の果て、一条天皇を無視して、一人でさっさと眠っていたというのだ。『12年間ツンデレのツンしか見せていないのか』と唖然もする夢子達。しかし、尊子は『今日はちゃんと接してみよう』と決意するのであった。

夜、一条天皇の元へ赴いた尊子。優しく『お久しぶりですね』と声を掛けた一条天皇に対して、今までの様な嫌味は言わず、恥ずかしそうにしながら『お久しぶりです。嬉しいです』と、たどたどしくも素直に答える。いつもと違う尊子の態度に少し驚いた表情をする一条天皇。『何か楽しいことがあったのか』と一条天皇は尊子に尋ねる。尊子は緊張しながらも一条天皇の隣に行き、『新しい女房達が来たこと』『彼女達と色んな話をしていること』を告げた。

平安腐女子三人娘に影響を受けてしまっていた尊子は思わず『遣唐使ものが素晴らしい』とオタクっぽく草紙について話してしまう。そして、自分が場にそぐわない話を一方的にしていることに気付き、赤面し言い訳しようとする尊子。しかし、一条天皇はそんな尊子の態度に笑い出し、『明るくなりましたね』『安心しました』と優しく言うのであった。

僕はこの女性を十分に愛してあげることができなかった

あさはかな夢みし3巻 瀧波ユカリ 115/163

そう思いながら一条天皇は尊子に『今夜は手を繋いで寝よう』と誘う。手が骨ばっているのに尊子が気付かないことを願いながら。…そう、一条天皇は既に重い病に冒されていたのだ。

一条天皇の申し出にドキドキしながら彼の手を取り横になった尊子。しかし、そのまま眠ってしまう。幸せそうな尊子の寝顔を見て静かに微笑んだ一条天皇。

せめて僕が逝ったあと、だれかと幸せになれるように、君を清いままにしておくことを、今はただ許してほしい

あさはかな夢みし3巻 瀧波ユカリ 115-116/163

翌朝。手を繋いで寝ただけ…そう聞いた夢子達は『あんなに苦労して支度したのに』と文句たらたら。しかし、尊子は大変満足し、部屋に戻ってきてからもときめいているのであった。

…しかし、それから間もなく一条天皇は病により崩御…亡くなったのである。31歳という若さで。

平安時代のお風呂事情は諸説あるけど、やはり『平安貴族はあまり風呂に入らなかった』『故に皮膚病に掛かりやすかった』と言う『平安貴族不潔派』のが多数派。しかし、平安時代好きとしては、瀧波ユカリ氏と同じく、『貴族だってお風呂好きに決まってる、キレイ好きに決まってる』と思いたい。

あと、しっかり平安腐女子三人娘の影響を受けて感化されちゃってる尊子様が可愛らしい。腐女子って感染するからね…。

そして、一条天皇の死。尊子がやっと『ツンデレ』のデレを見せたのに…。今までわちゃわちゃとおもしろおかしい平安ライフを送ってきた夢子達の生活に暗雲が立ち込める…。

第27話 うつろひ~一条天皇の崩御と顕信の出家…まさかの鬱展開

一条天皇の崩御後、宮中は静寂に満ちていた。喪が明けるまで行事も無く、女房達はそれぞれの部署で、これといってやることもなく静かに待機する他ない。

もちろん小犬丸も婚活業務は行えない。しかし、最近小犬丸はその優秀さから尊子付舎人として朝廷から認められ、収入もあるので生活には困らないのだ。

一条天皇が亡くなったことで、尊子の実家は尊子に戻ってくるように催促しているという。そしてあくまで宮中の女官である夢子達は尊子の実家にまでは着いていけないので、尊子が実家に帰ったら、別部署に異動になる。『こうしてみんな一緒にいられるのもあと少しってことね』という、瑠璃の言葉にその場の空気は重くなる。しかし、そこにくれ葉が草紙を持って現れ、場は明るくなるのであった。

一条天皇崩御後、尊子はずっと奥に引きこもって出てこない。尊子は悲しみに暮れていると考えた夢子達は、尊子が少しでも気を紛らわせることができればと、尊子が好きそうな草紙を選んでは差し入れている。そして、尊子が草紙を捲る音を聞いては安心しているのであった。

一方で尊子はくれ葉が来たことを知り、自分も外に出ようとするが、やめる。『夫が死んだのだから、こうしてなくてはならない』と引きこもり続けることを選ぶ。

一条天皇の寵愛を受け、子を二人なした中宮彰子(藤原道長の娘)。彼女は一条天皇の死を嘆き、泣き暮らしているという。『いいなあ』と悲しみに浸ることができる彰子を羨ましく思う尊子。

泣けない程度の気持ちでいればいるほど、いかに自分が愛されなかったかを思い知る

あさはかな夢みし3巻 瀧波ユカリ 122/163

尊子は自分がどうすべきか分からず、ただただ殻に籠ることしか出来ないのであった。

一方でその頃、藤原顕信もまた、2ヶ月も自室に籠ったままであった。弟の能信が怒るも出てくる気配はない。

事の発端は2ヶ月前。一条天皇崩御後、新たに即位した三条天皇は、『蔵人頭(くろうどのとう…天皇の秘書)』のポジションに顕信を就けることを打診した。出世を喜ぶ顕信。しかし、それを他でもない父の道長が『顕信はまだ力不足』『分不相応な役職に就くと、民の反感を買う』と反対し、白紙にしたのだ

それを機に引きこもった顕信を周囲は『つらいのだろう』という。確かに顕信は自分なりの頑張りを偉大な父、道長に認められず辛かった。しかし、それよりも『じゃあもっと頑張ろう』と思えない自分に戸惑っていたのだ。しょせん自分はそんなもんだ…そう納得してしまっている。

そんなことを考えていた顕信だったが、乳母から『道長が今夜屋敷に来るので夕食を一緒に食べようと言っている』と聞き、動揺する。2ヶ月の引きこもり生活で、顕信は太ってしまったのだ。だらしない自分の姿を父に見られたくない顕信は逃げるように屋敷から飛び出した。

パニック状態で外を駆ける顕信。しかし引きこもり生活が続いたこと、太ったこと、動揺していることで汗と涙が止まらず、動けなくなってしまう。すると一人の僧侶が『大丈夫か?』と声を掛けてきた。

僧侶の寺でお茶を飲み、落ち着いた顕信。僧侶は行願寺の住職、行円であった。行円の袈裟が獣の革であることを珍しく思う顕信。顕信の視線に気付いた行円は『これは私が殺した鹿だ』と語る。

元は狩人だったが、射止めた女鹿の死体から小鹿が生まれた様子を見て発心し仏門に入った。その時の気持ちを忘れぬため、その女鹿の革で作った袈裟を身に着けている。

そういう円行の話を聞いて泣き出した顕信。涙を流す顕信に円行は『おぬしは優しい』と言う。しかし、顕信は『優しさなんてものは、自分のいる政界、競争社会では何の役にも立たない』と答えた。

そんな顕信に行円は顕信の『優しさ』は『宝』であると諭し、『優しさを殺して生きることに苦しくなったらいつでも仏門を叩け』と言う。すると

「では、今」

あさはかな夢みし3巻 瀧波ユカリ 133/163

顕信はなんとその場で烏帽子を取り出家を決意をするのであった。

突然、誰にも相談すること無く出家した顕信。父、道長の落胆は相当なものであった。

弟の能信もまた、『兄貴はバカだ』と憤る。そして、くれ葉に対して『自分は石にかじりついてでも昇りつめる』と決意を表明する。そんな能信にくれ葉もまた、『自分は能信が知を得る手助けをしよう』と申し出るのであった。

翌年、能信は顕信が就けなかった『蔵人頭』に就任。その後、歴史を動かす人物となる。一方、顕信は出家後修行に励み、出家から15年後病で没するのであった。

シリアスかつ鬱展開というべきか…。『悲しめないことが悲しい』という様な気持ちって、出口を見つけられないから辛い。尊子は一条天皇の死を確かに悲しんでいるのだけれど、寵愛を受けてた彰子と自分を比較してしまうが故に、自身の悲しみの薄さを責めるという自縄自縛状態に。辛い。

そして、顕信…。『いや、こういう時にこそ露出に走れよ』とか思ってしまうのだけど、多分夢子に出会ってから露出狂やめてるんだよね、きっと。しかし、平安時代的に『若者の出家』≒『自殺』みたいなものだから、周囲の衝撃は推して知るべし。

一点不満なのは、顕信の出家を夢子が知る等といった夢子のリアクションが一切描かれていないこと。一応かつて求婚されたし、いつも顕信は遊びに来てたのだから、その辺り描いてほしかったな。

最終話・最終回 千歳(ちとせ)~迫る別れ、そして千年後の世界で…

一条天皇の崩御から一年、その妻たちの喪が明けるときが来た。夢子は呆然と『いみじうゆゆし(超やばい…)』と言いながら瑠璃、右近の元までやってくる。一条天皇の死後、心を閉ざし引きこもってしまった尊子を元気付けるために草紙を持っていった夢子。その時、ここのところずっと顔を扇子で隠し通しであった尊子の顔が見えてしまった。すると、信じられない位、老け込んでいたのである。

夢子の話に血の気を失う瑠璃と右近。小犬丸は『美しく見せたい唯一の相手を亡くし一年も引きこもっていてはそうなっても仕方がない』と語る。
するとそこに、久しぶりにいなば(女装した道長)がやってくる。喪中に会うことが無かったいなばは、皆が驚くほど美しくなっていた。

一条天皇の崩御後、突然息子である顕信に出家された道長は酷く苦悩した。眠れぬ夜が続く。しかし、その苦悩を秘かに女装、化粧方法、美容方法の研究にぶつけて昇華していったのだ。
喪が明けたので夢子達とガールズトークをするために元・暗部屋に遊びに来たいなば。しかし、夢子達から『尊子が一条天皇の崩御後、ずっと御帳台に引きこもったまま』だと聞き、『ずっと…?』と驚く。

一方、御帳台の中から浮かない顔で外の様子を伺っていた尊子。すると、そこに強引にいなばが割り入ってくる。狼狽える尊子と夢子達。いなばは笑顔で告げるのであった。

「尊子様」
「時は来たのです」

あさはかな夢みし3巻 瀧波ユカリ 142-143/163

まずは尊子に顔の筋肉をほぐす運動を教えるいなば。今後毎日続けるように指導する。その後、尊子の顔を剃り、丹念に化粧を施していく。
『弱い姫だ』内心で率直に尊子のことをそう評するいなば。帝の妃になれたというのに、他の妃達と争いのし上がる気概もなく、寵愛も薄く、ただただ待つだけの日々を送り、挙句帝が死んでから一歩も動けない、本当に弱い姫だと。

だが、弱かろうと強かろうと生きねばならぬのだぞ。死ぬのでも、俗世を離れるのでもなく、生きねばならぬのだぞ

あさはかな夢みし3巻 瀧波ユカリ 144/163

心の弱さゆえ、誰にも相談せず突然俗世から逃げた息子のことを思いつつ、いなば(道長)は化粧筆を通して強いエールを尊子に送る。そして、いなばに化粧を施された尊子はかつての美しさと明るさを取り戻すのであった。

その後、元・暗部屋から立ち去ろうとするいなばを瑠璃が呼び止める。瑠璃はいなばに『尊子が宮中を去り実家に戻ること』『尊子付の女房であった自分達3人は恐らくどこか別の部署に異動させられる』『そうなると今までの様に会うことが出来なくなるかもしれない』と不安を吐露する。しかし、いなばはそんな瑠璃に『自分は3人がどこに異動になってもちゃんと分かるから大丈夫』だと告げる。その言葉に安堵する瑠璃はふと『そういえばいなばって何の仕事をしているの?』と質問する。『内裏と土御門殿と高松殿(ともに道長の拠点)を行ったり来たりしている』と答えたいなば。『また必ず会いに来ます』と瑠璃に笑顔を向け去って行った。いなばの言葉に『藤原道長』を連想した瑠璃、しかし、いなばの正体が藤原道長であるということに気付くことはなかった。

そして、それから間もなく尊子とばあやが宮中を去る日がやってきた。尊子は夢子、瑠璃、右近に『支えあってきた仲間として誇りに思っている』と告げ『人生はままならぬことが多いが、もう自分なんて…自らをいじめることはしない』と宣言して去って行った。
尊子はこの3年後、公卿の藤原通任(みちとう)と再婚し、それから8年後、39歳でこの世を去る。

尊子を見送った夢子、瑠璃、右近に夢子の異母姉で馬内侍として働く実子が『三人にうってつけの仕事がある』と声を掛ける。実子に連れられ夢子達がやってきた部屋には大量の書物があった。そこは彰子(一条天皇の中宮で、紫式部等の有名な女流歌人達の主)の蔵書が集められた部屋で、管理が必要な状態であることを告げる実子。実子は三人に蔵書の管理、資料の編纂の仕事を与えたのだ。まさに天職と言える仕事を与えられた三人は狂喜乱舞する。

『お言葉に甘えてしまって良かったのですか』そう夜、実子の部屋でともに裸で寝ながら尋ねる小犬丸。実子は『こういった庶務は彰子に一任されているので構わない』と笑う。『三人に適した職場を与えて欲しい』…そう裏から働きかけたのは他でもない小犬丸であったのだ。
しかし、小犬丸は三人を結婚させることを諦めた訳では無かった。むしろ『喪が明けて勤務先が変わった今こそ勝負時』とやる気を見せる小犬丸。

『男は天下を取りたいとか結婚させたいとか…本当にどうでもいいことにこだわる』そう笑いながらため息をつく実子。『自分がそういう男が好きなだけか』とも思いながら。

かくして、創作活動をする女房達の裏方として活躍することになった、夢子、瑠璃、右近の三人娘。蔵書の管理から資料の編纂まで幅広い業務をこなした彼女達はやがて図書寮(ずしょりょう…今で言うところの国立図書館)からも声を掛けられ、生涯書物に関わり続けたという。

そして、『三人は終生同じ部屋で寝起きしていた』『複数の幼子も同居していたが誰の子どもかは不明』という逸話を残して、夢子、瑠璃、右近は歴史の中に消えていった

小犬丸もまた、朝廷の舎人として出世を続けていたようだが、ある時を境に彼の名前は名簿から消える。いつまで婚活業務を担っていたかは不明。そして馬内侍(実子)は『およそあり得ない年齢になっても浮き名を流し続けた』という逸話を残したのであった。

千年後の世界、そんな平安時代について語るセーラー服姿の少女が三人歩いている。『藤原能信は?』『トラブルを起こしまくりながらも頑張って「藤原家がやりたい放題の時代」を終わらせたんだって』そうスマホをいじりながら調べる少女達。

『ともあれ、その三女房は仲間と居場所を見つけて心のままに生きたのか』…そう笑う少女の髪は長く美しく、その顔は夢子に良く似ている。『千年前の世界はそんなに甘いやろか?』と背の高いがっしりした体格の右近に良く似た少女が疑問を呈する。『千年後の今だって甘くないのに』そう言った小柄で可愛らしい瑠璃に良く似た少女は受験のストレスを訴える。彼女達の発言に長髪の少女『ユメちゃん』は同意しつつも言うのであった。

「…でも、だからこそ、私は夢をみたいとぞ思ふ」

あさはかな夢みし3巻 瀧波ユカリ 155/163

ユメちゃん』の言葉に励まされる二人。『あさはかだよ』と言いながらも『ええんちゃう』と笑い合う。そんな二人に『ユメちゃん』は萌える古典を見つけたと語る。何でも『図書委員』に勧められたという。するとそこに自転車に乗った『図書委員』…くれ葉によく似た少女がちょうど通りかかる。通学路の途中、4人の話し声が響きわたるのであった。

~終わり~

まとめ

いなばの成長、活躍に痺れる

時の権力者として君臨するも、ひょんなことから女装に目覚めた道長。でも身分を失って一女性、『いなば』として過ごすと見えるものも違う。更に女の初心者として色々とやらかし、それでも尊子達から叱られ、諭され一人の女性として成長し、『美』を追究するようになる。そんないなば(道長) が『美』の力で、どうしようもなく深いところまで堕ちていた尊子を救う様が本当に胸がすく。格好いいのだ。色々とハチャメチャな漫画だったけれども、今まで見た道長の中で、私はこの『あさはかな夢みし』の道長が一番好きだ。

時折見える、各キャラクターの価値観・人生観

『臨死!江古田ちゃん』でもそうだったけど、作者瀧波ユカリ氏は観察力の鋭さゆえか、人の持つ価値観・人生観や、その裏にあるものを見抜くのが上手い。そのためか、やっていること、展開・設定自体がぶっとんでいても登場するキャラクター達から透けて見える人間性が非常にリアルで共感しやすいとだ。

22話下草で『自分のことは好きだが、好きでこの自分になったわけではない』と言ったくれ葉。このセリフには彼女らしい強さと、どこかままならない人生への諦観も描かれていて本当に共感できる。基本的にギャグコメディなのに、さらっとこういうセリフをキャラに言わせられる瀧波ユカリ氏はすごいなと思うのだ。

ラスト、少し寂しいが希望のある最終回

一条天皇が崩御して以降、物語は少しシリアスに。顕信は自分の在り方に疑問を持って、出家。そして『悲しめない自分』に失望して引きこもってしまう尊子。いなば(道長)の力で尊子は再び立ち上がる力を取り戻すも、宮中を去る。そして夢子達も各々逸話だけを残して歴史の中に姿を消していく。前半の『あさはかさ』が信じられない位、この一本ずつ行灯が消えてくような寂しさに胸を貫かれる。

しかし、ただただ寂しいだけではなく、そこには救いや希望がある。何故なら私達もそういった逸話から、かつての夢子達の様に想像力(妄想力)を使って思いを馳せることでいくらでも彼女達の人生や存在を輝かせることができるのだ。

『誰の子どもかは不明だが幼子達と同居していた』とされる夢子達。そして、千年後の世界にいる、彼女達そっくりの少女。もしかしたら遠い子孫なのかもしれないし、ただの他人のそら似かもしれない。あるいは生まれ変わり…?分からないが、夢子達がいるなら、きっと小犬丸や顕信達も現代にいるはず…そんな風な希望や明るい想像(妄想)持たせてくれるラスト。ちなみに単行本最後に、現代人の装いで女装している道長さんがいます。

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まとめ~3巻で終わるのが惜しい作品

しかし、3巻で終わってしまったのが惜しい。もう少し夢子達を見ていたかった。1巻以降、父親の万丈と母親のモノノケ出てきてないし。二人とも中々良いキャラしてるから勿体ない。それに平安ネタ、文学ネタはまだあったんじゃないかな。謎の「フェス」回はネタが切れたというよりも、作者が書きたくなって書いちゃっただけだと思うし。あまり話題にならなかった為か。掲載元が月刊アフタヌーンだったのが相性悪かったのか。なんかきっかけがあれば、それなりに流行った気もするけどな…。

しかし、ギャグはキレッキレで勢いがあって面白いので、『臨死!!江古田ちゃん』のファン、平安時代好き、古典好き、逆に古典が苦手な人にも読んでいただきたい。多分、平安時代が好きになる。

そのうち、作者瀧波ユカリ氏の別の作品についても記事を書いていきたい。

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