【漫画】血の轍9巻・最新刊【感想・ネタバレ・考察】『僕はママを好きか?』全てを認め自首した静子…そして、静一はある記憶を取り戻し…

血の轍 9巻表紙

意識を取り戻したものの事件についての記憶を失っていたしげる。しかし、静子はそれを喜ぶどころかむしろ落胆した様子を見せ、まるで全てが露見し捕まることを望むかのような言動を繰り返し静一は困惑するばかりであった。

そんな中で伯母の家に来訪した静一と静子。だが、そこで突然しげるが記憶を取り戻し始め、伯母は静子に疑いの眼差しを向ける様になった。伯母は下校中の静一を捕まえ、静一が3歳の時に大ケガをしたことを語り、静子に何か酷いことをされたのではないかと尋ねる。伯母の話を拒絶して逃げた静一だったが、幼い頃“死んだ猫”を見た日、自身の手が血塗れだったことを思い出し動揺するのであった。

そして、2学期の終業式の日、伯母は伯父を伴って静一の家にやってきて改めて静子を問い質す。すると、静子はハッキリと『私が落とした』と崖からしげるを突き落としたことを認めるのであった…。

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【漫画】血の轍8巻【感想・ネタバレ・考察】蜜月を過ごす静一と静子…しかし、伯母の疑念は増大し、ついに静子が全てを認める…!?

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Contents

以下、あらすじとネタバレ

第69話 修羅場~しげるを突き落としたことを堂々と認めた静子に激怒する伯母と伯父…長部家には怒号が響き渡り修羅場と化す

『私がしげちゃんを突き落とした』…そうハッキリと認めた静子。伯母は恐ろしい形相で『言ったね?』と確認するが、一郎(静一の父で静子の夫)は『冗談はやめてくれよ。冗談だよな?』と弱々しい笑いを浮かべながら静子を見る。しかし、静子は微笑みを浮かべたままそれを無視する。

弱った一郎は静一に『静一はあの時一緒にいたんだよな、ママがそんなことするはずないよな?』と助けを求める様に言うが、静一もまた諦めた様に笑う静子を見て涙を目に溜めることしか出来ないのであった。

すると、伯母が苛立ったように『一郎、本人が白状してるんだから!』と一郎を制止し、凄まじい険相で静子に叫んだ。

「しゃあしゃあと…私達に…嘘ついてたんね…!」

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そりゃあ、見舞いなんて来るわけもなく、息子である静一もどもってしまうはずだ…そう皮肉げに笑う伯母。そして、静子に対して『気持ち悪い』と吐き捨て、一時は静子のことを案じていた自身を呪い、泣き出した。

そして、静子について『最初に会ったときから気持ち悪かった』と言い、実家に来たときに仏壇に線香をあげなかったこと、『すみません、ごめんなさい』というばかりで本心を明かさず、いつも静一にくっついて暗い顔をしていたことを挙げる。

その上で、『なんでしげるがこんな目に遭わせられなくちゃいけない!』と叫び、平然と笑っている静子に『何なんだ、その態度は!』と怒りを爆発させる。

さらに、ずっと黙って座っていた伯父の完治が突然ちゃぶ台を強く叩いて立ち上がった。そして、今までに見せたことのない険しい表情をしてこう言うのだ。

「…おい。謝れ。土下座しろ。」
「おまえら全員だよ。」

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完治は開き直っている静子はもちろん、事実を知りながら黙っていた静一、そして現実を認めようとしない一郎にも強い怒りを抱いているのだ。

普段穏やかな完治が激昂している姿に身をすくませる静一と一郎。しかし、静子は相変わらず静かに微笑んでおり、完治は『聞いているのか!』と静子の方に近づく。慌てて一郎が『違う、落ち着いて』と間に入ろうとしたが、何と完治は一郎のことを殴り倒した。

そして、静子の髪の毛を強く掴むと無理矢理土下座をさせようとする。

その光景を見た静一は反射的に飛び掛かり伯父の肩に強く噛み付いた。悲鳴を上げる伯父。

だが、次の瞬間静一は後ろから伯母に羽交い絞めにされ、どもりながら『やめっやめっやめ』と叫ぶことしかできない。局静子はそのまま伯父に髪を引っ張られ無理矢理土下座させられる。静子を押さえつけながら『謝れ!謝れ!』と叫び続ける伯父。すると、静子は静かにこう言うのであった。

「警察に、行きましょう。」

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第70話 別れ~静子は一郎に離婚を言い渡し、静一に『いいママになれなくてごめん』と謝罪し警察署に連れて行かれる

静一の伯父である完治に無理矢理頭を押さえつけられ土下座させられた静子は謝罪はせず、『警察に行きましょう』と言い出した。完治は『謝れ』と強制するも静子は頑として謝らず、伯母は『もういい。はやく警察に連れて行こう』と諦める。

伯母と完治が静子を立たせて連れて行こうとすると、一郎が『少しだけ静子と二人だけで話をさせてくれ』と縋りつく。だが、それに対して静子が冷たく『今さら何を?』と答える。そして、さらにこう言うのであった。

「離婚して。」
「私はもう、戻らないから。」

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その静子の言葉に一郎はショックを受け、涙を流しながら『待ってくれ…』と言うことしか出来ない。そんな二人のやりとりを鼻で笑った伯母はそのまま静子を連れていこうとする。

しかし、今度は静一が静子の足にしがみついた。涙を流しながら必死の表情で静子にしがみつく静一に対しては流石に伯母夫婦も同情するような眼差しを向ける。静子は静一に『ママはいなくなるからパパと二人で頑張って』と言うが静一は泣きながら首を横に振る。すると、静子は静一を見下ろして淡々と言う。

「ごめんね。静ちゃんに、嘘つかせて。もう嘘つかなくていいから。」
「ごめんね。たくさん…ひどいことして。」

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静子は優しく静一の顔に触れる。『静ちゃんの好きに生きてほしい、こんなことをしたくないのになんでしちゃうんだろう』…ずっとそう思っていたのだと言う。

「静ちゃんの…好きに…生きてって…」
「私…いなくなる…から…」

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しそうに目を細めた静子。そして、次の瞬間、大粒の涙をこぼすのであった。

「いいママになれなくて…ごめんね…」

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静一はただ、その静子の顔を泣きながら見つめることしかできない。

そして、静子はそんな静一を強く抱き締めると『じゃあね』と小さく呟くのであった。

第71話 空~一人自宅に取り残された静一が浮かべた表情は意外にも穏やかなものであった

静子はその後、大人しく伯母夫婦の車に乗るとそのまま行ってしまう。泣きながらそれを呆然と眺めていた静一だったが、突然車を追い掛け始める。しかし、当然追い付ける訳もなく息を切らして立ち尽くすのであった。

すると、そんな静一に後から車でやってきた父、一郎が声を掛ける。一郎もこれから静子達を追い掛ける形で警察署に向かうと言い、『静一はいい子だ、男の子だもんな、待ってるんだぞ』と泣きそうになりながらも笑顔を作り去っていった。

一人で道に取り残された静一は呆然としながらものろのろと家に戻る。

誰もいない家。そこは最近静子が家事を放棄していたため物が散乱し荒れていた。その一方でクリスマスに向けて飾られたクリスマスツリーが場違いに輝いている。

二階に上がった静一は何となく両親の寝室の戸を開ける。そこもまた散らかっており、枕には静子の長い髪の毛が一本だけ張り付いていた。

静一はその後、自室のベッドに腰掛けた。そして、窓の外に広がる空を眺めると深呼吸をしてみた。すると、息苦しさを感じることなく深く息を吸い込むことが出来た。

『はあ…』と息を吐いた静一の表情はどこかホッとしたような晴れやかなものであった。

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第72話 欲求~自由に自慰行為にふける静一…翌朝、一郎が帰宅し静子が逮捕されたことを告げる

通学路の途中のベンチに腰掛ける静一。空は晴れ渡り、小鳥の声やそよ風が気持ち良かった。静一が目を瞑っていると、いつの間にか隣に吹石由衣子が腰かけていた。優しく笑いながら頬に触れてきた吹石を静一は強く抱きしめて『ごめん』と今までのことを謝罪した。しかし、静一は慌てて顔を上げて怯えた様に辺りを見回す。すると、吹石は『お母さんは行っちゃったから大丈夫』と言い、『長部の好きにしていいんだよ』と誘うように自らの身体を触る。静一は興奮しながら吹石の胸を揉み、そのままベンチに吹石を押し倒し、そして…。

夜中に目を覚ましてしまった静一。しかし、先ほどの夢の興奮から覚めることはなく、自身が勃起していることに気付く。射精を咎める静子はもういない。静一はそのまま自慰し、満足した表情を浮かべるのであった。

翌朝、静一はカップ麺を作りそれを必死に掻きこんでいた。落ち込みを見せず食欲も旺盛な静一。

すると、突然静一の前にどこからともなくふらふらと父の一郎が現れる。一郎は『ただいま』と呟いたかと思うと耐えきれないように嗚咽と咆哮を漏らし、目元を抑えながらこう告げた。

「ママ…つかまっちゃったい……」

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そして、呆然とする静一に『ごめん、ごめんな』と謝罪し、さらに言うのであった。

「静一…おまえも…話してもらわなくちゃならないんだ……」
「明日…警察が…おまえの話を聞くって…」

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第73話 聴取①~穏やかな中年刑事に静一は自身も気づいていなかった親戚やしげるに対する不満、静子に対して抱いていたある印象を打ち明ける

翌日、父一郎に連れられて高崎警察署にやってきた静一。現実感が無くぼんやりしている静一に一郎は『普通に話せばいいから』と微笑みかけるが、静一は何も返事しなかった。

若い刑事に案内されて静一が辿り着いた先には穏やかそうな中年の刑事がいた。刑事は『お父さんからお母さんのこと(逮捕されたこと)聞いてるかい?』と尋ね、静一が小さく『はい』と言うと『これから質問するから正直にあったことそのままに話して』と前置きする。静一がおずおずと静子の所在を確認すると優しく『お母さんもこの署内にいて、今詳しい話を聞いているところだから』と優しく答えるのであった。

そして、刑事は早速今年の7月28日…皆で茶臼山に行った日のことについて『朝から順番に一つ一つ言ってみて』と静一に促す。静一はその日も静子に起こされ起床したこと、朝ごはんに『肉まんとあんまんとどっちがいい?』と静子に聞かれて『肉まん』と答えたことを話す。

それを聞いた刑事は『よく何を食べたか覚えてるねえ』と驚く。静一は静子がいつも肉まんかあんまんか問い、自身が肉まんと答えていたことを語り、『だからその日も絶対にそう』と言い切った。

そして、その後静子がまとめた荷物を車に乗せ、茶臼山に向かったこと、静子に普段と変わった様子がなかったこと、山のふもとの駐車場で祖父母と伯母家族の5人と合流したことを語った。そんな中で、ふと静一は『登山中にしげちゃんがおじいちゃんの杖を格好いいと言って貸してもらった』『でも僕は木の枝を渡された』という話をなんとなくする。

すると刑事は『君はそれをどう思ったの?』と問いかける。突然そう尋ねられた静一は『どうって、いつもそんな感じだったので…』と終わらせようとするが、刑事は『”そんな感じ”って?』と追及する。一瞬考えた静一は戸惑いながらこう口にした。

「しげちゃんの…方が…親戚の中で…かわいがられて…いる…?」

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刑事は優しく『君はそう感じていたんだね?』と言うが、静一は自分が発した言葉に驚くのであった。

その後も登山の様子を淡々と話し続けていた静一。しかし、『休憩して開けたところにみんなで座ったらしげちゃんが崖の縁に立って僕を呼んだ』と言い出した途端、急にどもり初めて上手く話せなくなってしまう。そして、そんな中で静一が必死に吐き出した言葉はしげるへの不満だった。

『僕は崖の縁に行くのが嫌だった』『しげちゃんはいつも僕にいじわるをする』『ゲームをしてて負けたらデコピンしたり、いつもバカにして来る』『でも僕は断れなかったから』と。

そして、崖の縁でしげるが『わっ』と叫びながら突き飛ばしてきた事、その時静子が必死の形相で助けてくれたこと、そしてそれを皆が『過保護だいねえ』と笑ってきたことを語った。そして、父親である一郎も妻子である静子と静一を庇うどころか一緒に笑っていたこと、さらに静子自身も笑っていたことを打ち明けた。静一は『僕のせいでママが笑われた』と当時を思い出し悲しみこう刑事に言う。

「でも…わからないふりをしてました。気付かないふりをしてました。見えないふりをしてました。」

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だが、黙って話を聞いていた刑事はただこう尋ねるのだ。

「何を?」

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そう問われた静一は先ほどよりも激しい吃音を発症し『マッマッマッマ』と繰り返す。しかし、必死でそれを抑え、『ママが…』と静子の事をこう表現する。

「みじめ…な…こと…」

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そして、自身がそれを口にしてしまったことに呆然としながら改めて『みじめ』と呟く。刑事は静一の様子を見守りながら『続けて』と先を促すのであった。

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第74話 聴取②~『君は一人の人間だ。思ったことも感じたことも君のものだ』…刑事のその言葉に静一は正直に見た光景を語る

その後、話は茶臼山頂上で皆でお弁当を食べた時の話になった。静一は自分と静子だけ少し離れたところに別のレジャーシートを敷いて座っていたことを語り『いつも僕とママは他の親戚から離れてた』と語る。

中年の刑事は『それはどうしてか考えたことある?どうして君はいつもしげる君達の方にいかないでお母さんのそばにいたか』と質問する。

静一は少しどもりながらも落ち着いて『僕がいないとママがひとりぼっちになってかわいそうだから』と答えた。すると、刑事はこう尋ねた。

「君は、そんなみじめなお母さんのこと、好き?」

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その刑事の問いに唖然とする静一。さらに刑事はこう質問を重ねる。

「お母さんに、何かされたん?」
「何か…ひどいこと。静一君をおびえさせるような。」

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刑事は静一が静子に恐怖で支配されていることを見抜いていたのだ。

静一は動揺しながらも『いいえ、ないです』と答えた。しかし、刑事と彼の背後で黙って話を聞いていた若い刑事は静一が俯き目線を逸らしたことを見逃さなかった。

だが、中年の刑事は『そうか、ごめん』と深く追求はせずに静一に話の続きを促した。

静一の話はついに事件の直前、しげるから探検に誘われた時のことに差し掛かった。少しずつ話を進めていく静一だったが、頭の中は先ほど刑事から言われた『お母さんのことを好きか?』という問いで一杯になっていた。

崖の付近には白地に黒の模様がある蝶が沢山飛んでいた。しげるは崖の縁まで行って『すごい景色だから来てみろ』と誘ったが、静一はその直前に崖から突き落とされかけたために拒否した。そんな中、二人の後をずっとついて来た静子が姿を現し、しげるに『そんなところに立ったら危ない』と注意した。すると反発したしげるは静子を『本当に過保護だいねえ』と馬鹿にしてわざとふざけ、バランスを崩し…。

…そこまで語ると静一は急に黙り込んでしまった。そこから先、静子がしげるを突き落としたことが言えず『分かりません』と誤魔化そうとする。

しかし、刑事はそんな静一の目を真っ直ぐ見て、こう諭した。

「いいかい。君は一人の人間なんだよ。お母さんとは別の、一人の人間だ。」
「君が感じたこと、思ったこと、それはみんな君のものだ。」
「何でもいい。言ってごらん。」

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刑事の言葉に今までにない大きな衝撃を受けた静一。それは今までの自身の世界観を崩壊させるものであった。

「僕は…僕の…もの…?」

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一瞬静子の様々な表情が浮かんできたが、自身の手で目元を覆い、それを消した。そして、目を隠したままあの日の”本当の光景”を語る。ふざけて崖から落ちかけたしげるを静子が走り寄り間一髪抱きとめたこと、しかし、その後悪態を吐いたしげるに笑いかけたかと思うと…しげるを思い切り突き飛ばしたのだ。

しげちゃんを、突き飛ばしました。」

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静一は刑事にハッキリとそう言うのであった。

第75話 僕は僕のもの~正直に話した静一にがっかりする一郎と弁護士の岩倉…しかし、静一は『僕は僕のもの』と自分に正直になろうとする

取り調べを終え、若い刑事と共に部屋を出る静一。すると、中年刑事は静一に『正直に話してくれてありがとう、また聞かせてな』と声を掛け、最後に『メリークリスマス』と言う。今日はクリスマスだったのだ。

父一郎の元に戻ると、そこには知らない女性が一緒にいた。スーツ姿に黒髪を一つにひっつめている気真面目そうな女性は静一に挨拶した。

「はじめまして。弁護士の岩倉といいます。お母さんの弁護をさせてもらうね」

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岩倉は少し車で話をしましょうといい、三人は一郎の車に乗り込む。

運転席から『これからどうなりますか?』と尋ねた一郎に、助手席に座った岩倉は今、静子が取り調べを受けている最中で淡々と供述しており、しげるを突き落としたことを認めていると伝えた。しかし、動機については『分からない』『なんとなく』ハッキリと語らずにいるという。

沈痛な面持ちで『静子に会えないんですか?』と一郎が問うと、岩倉は今は弁護人である自分しか会えないと説明する。そして、『恐らく明日にでも検察に移送されて20日間の交流を受ける』『その間に現場検証等の証拠集めが行われ起訴されるかどうか決まる』という流れを説明した。『実刑になるんですか?』と慄く一郎に優しく『そうならないように最善を尽くします』と言うのであった。

そして、後部座席にいた静一に岩倉は『さっき刑事さんとどんなことを話したの』と尋ねて来る。静一は『僕が見たままを話しました』と答える。すると、岩倉は驚いたようにこう言うのだ。

「それはつまり、お母さんがしげる君を突き落としたって、言ったん?」

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そして、驚きと失望が混ざった様などこか咎める様な表情を静一に向ける。更に、それを聞いていた一郎は『ああ!』と叫ぶとハンドルに突っ伏してしまう。岩倉は一郎の腕に触れ『お気持ちお察しします』と慰め『動機も不明だし、祥子が不十分であれば不起訴になる可能性もある』と励まし、静一に向き直った。

「静一君。がんばろうね。」

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そう言って岩倉は静一に微笑みかけるのであった。

その夜、静一はまた夢を見る。道の脇で死んだ猫を撫でる母静子と何故か血塗れの3歳の自分。それをぼんやりと眺めていると静子が顔を上げ、涙を流しながら睨みつけて来る。『静ちゃんは本当はママを嫌いだったの?ママがいなくなるのが嬉しいの?』そう言われた静一はきびすを返して立ち去ろうとする。しかし、背後から『静ちゃん』と静子は呼び続けるのであった…。

泣きながら『ごめん』と言いながら深夜に目覚めてしまった静一。警察署で静子を裏切るような発言をしてしまった罪悪感、そのことを一郎や岩倉が無言のうちに咎められてしまった苦しみが悪夢となって現れたのだ。

しかし、落ち着いた静一は昼間刑事に言われたことを思い出し、ひたすら自分に言い聞かせるのであった。

「僕は、僕のもの。僕は、僕のもの。」

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第76話 再訪~再び茶臼山に登り、実況見分に立ち会う静一…再現のため静子としげると同じ格好をした刑事達を見て動揺する静一

数日後、静一は一郎と共に再び茶臼山を訪れた。

「静一君。今日は実況見分で山に登ってもらうよ。大丈夫かい?」

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そう声を掛けたのは静一の取り調べを担当した中年刑事であった。静子がしげると突き落とした現場の唯一の目撃者である静一は実況見分に呼び出されたのだ。沢山いる警察官や刑事達に圧倒されながらも『はい』と答える静一。刑事は一郎に『お父さんはここでお待ちください』と言い、一郎は『これも別々ですか?』と不満そうにする。そして、静一に何か言いたげに『静一』と目配せをするが、静一はそれを無視して刑事と共に山を登り始めるのであった。

左腕に”立会人”という腕章を付けられ刑事達と一緒に約5か月ぶりに茶臼山を登っていく静一。『この道を登って行ったんだね?』と尋ねる刑事に『はい』と答える静一の前に5か月前の光景が蘇って来る。木々の奥に静子の影が見え『静ちゃん、待って、言っちゃダメ』と呼びかけて来るが、静一はそれを無視して黙々と山を登り続けるのであった。

そして、ついに事件の現場に辿り着いた。刑事が『これから事件の再現をするから』と言うと、”被害者”という腕章を付けた若い男性がやってくる。”被害者”役の男性は事件時のしげると帽子まで同じ格好をしており、静一は見入ってしまう。刑事から『しげる君はどこに立っていたか教えて』と聞かれて我に帰った静一はしげるの立ち位置や動作を説明する。

すると刑事は今度は『お母さんはどこから来た?』と尋ねる。静一はどもりながら『ママが静ちゃんと呼んできて振り返ったら…』と説明し振り返り、凍り付いた。いつの間にかそこには静子が立っていたのだ。

…しかし、それは”被疑者”という腕章をつけた、静子役の女性であった。背格好こそ似ているものの顔立ちは静子と全く異なっていた。”被疑者”役の女性もまた、事件当時の静子と同じ服装をしていた。静一は刑事に聞かれるままに静子が立っていた場所を伝えるものの体が震えてしまうのであった…。

第77話 せいちゃん~静一は唐突に”死んだ白い猫”を見た日の記憶を取り戻す

静一の証言の元に”被害者”と”被疑者”役の二人がしげると静子の間に起った出来事を再現する。2人は命綱のロープをつけながら崖の縁で、『ふざけてバランスを崩しかけるしげる』『慌ててそれを抱きとめる静子』をセリフ付きで再現していく。

それを見た静一はどんどん呼吸が苦しくなるが、刑事に促されてその後何が起きたかを説明する。背後の木々の影から静子が泣きながら睨みつけてくるような幻覚に悩まされどもりながらも、『「だから危ないって言ったでしょ」とママが言った』『しげちゃんがビックリした顔をして、「おばちゃん?」と言った』『ママの顔は笑っている様だった』『それでこう、しげちゃんを…』と最後まで話す。

すると、刑事は『人形に変えて!』と皆に指示する。すると、”被疑者”役の女性の元に服を着て帽子をつけたマネキンの様な人形が運ばれる。そして、女性は人形を抱きかかえ突き飛ばす準備をする。

その時であった。静一は突然、”被疑者”役の女性が抱える人形の顔が幼い頃の自分の顔になる様な錯覚を覚えた。

そして、3歳の日、”白い猫の死体”を見た日に何が起こったのかを記憶が蘇ってきたのだ。

3歳だったあの日。家にいた静一は突然静子に『いいところにつれていってあげるから、くつをはいて』と言われた。言うことを聞きながらも『どこ?』と尋ねた幼い静一。すると、静子は微笑んでこう答えたのだ。

「ままがね ずうーっとずうーっと」
「ずうーっといきたかったところ」
「せいちゃんもきっとすきなところだよ」

血の轍9巻 押見修造 212-213/246

それを聞いた静一は『そうなんだ』と喜んで静子と手を繋いで歩き出した。

辿り着いた先は例の高台だった。街が一望できる高台を見て、ここが静子の行きたいところだったのだと幼いながらも納得した静一。満足げに街を眺めていた。

すると、静子が『抱っこしてあげる』と言って来た。静一は何も疑うことなく静子の元に行った。しかし、静子は持ち上げた静一をそのまま抱きはせず、静一を支える両腕を高台の柵の外に突きだす様に出した。

そして、不思議そうにする静一にこう言うのだ。

「わたしもう きえることにする」
「だからね おまえもきえるの」

血の轍9巻 押見修造 218-219/246

静子は楽しそうに笑った。

「せいちゃんがさきね」

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そう言った次の瞬間、静子は静一を高台の柵の外に投げ捨てた。

第78話 血の轍~静子が起こしていた無理心中未遂…凄惨な記憶を取り戻してしまった静一は…

突然高台から静子に投げ捨てられた静一。その瞬間、静子は笑っていた。

静一はそのまま斜面に落下し体を打ちつけた後、今度は木等にぶつかりながら転げ落ちていった。

ようやく止まった頃には静一は血塗れでボロボロになっており、痛みに呻く。しかし、途中で色んなものにぶつかったことで落下の勢いが削られたこと、また下に落ち葉が溜まっていたためか静一の命に別状はなく、意識もしっかりとあった。

自分の身に何が起きたのか理解できない静一は全身の激しい痛みに涙を流し、倒れたまま血塗れの手を見て『あああ』と言うことしかできなかった。

すると、ようやく高台から降りてきた静子がやってくる。血塗れで苦しむ3歳の息子を見た静子は無表情だった。そして、静一がケガをしているものの命に別状がないことを理解すると、つまらなそうにこう言った。

「もういいや かえるんべ」
「ほら たてる?さっさとたって」

血の轍9巻 押見修造 230-231/246

そして、ケガをしている静一の手を引いて無理やり歩かせるのであった。

何が何だか分からないまま、静子と共に家まで歩く静一。全身が痛み、足も痛めたためひょこひょこと変な姿勢でしか歩けなかった。

すると、急に静子が『あ』と声を上げて笑顔になった。

「ねこさん ねてるよ」

血の轍9巻 押見修造 234/246

静子の指差した先には木陰で寝っ転がっている白い猫がいた。

静子がいつも通りの笑顔に戻ったことを嬉しく思った静一は、痛みも忘れて『本当だ!』と猫に駆け寄った。そして、『さわってもいい?』と静子に尋ねる。静子に『いいわよ』と言われた静一は猫に触れる。

だが、その猫の体は冷たく、体にはハエがたかっていた。静一がそれを指摘すると、静子もまた触ってみて『ほんとうだ、しんじゃってる』と言う。

「どうして?どうしてしんじゃってるん?」

血の轍9巻 押見修造 237/246

そう静子に問いかけた静一。その後も笑いながら『どうして?どうして?』と繰り返した。まるで『何故自分を突き落としたのか』という質問の代わりの様に。

しかし、静子はそれに答えることはせず、ただ静かに優しく、そして美しく微笑むだけだった。そして、『もう行くよ』と言って静一の手を引き歩かせるのであった。

そうだ…
この猫は、僕だ。
殺されて置き去りにされた、僕だ。

血の轍9巻 押見修造 243/246

その時の光景を浮かべた静一はそう思い、左目を細め顔を微かに歪ませる。現実では、丁度“被疑者”の静子役である女性がしげるを模した人形を崖から突き飛ばすところであった…。

以下、感想と考察

自白し、自首という形で警察に行った静子とすがる一郎…巻末の写真の謎

堂々としげるを突き落としたことを認めた静子。しかし、終始薄笑いを浮かべ、頑として謝罪することはなかった。そりゃあ、伯母夫婦も怒るわ。今まであまり存在感の無かった伯父がブチキレたのはちょっとビビった。下の名前(完治)も判明したしね。

そんな三人に対し、状況を飲み込めずオロオロすることしか出来なかった一郎。

一郎…本当にこの一郎はなんなんだろう。というのも、今まで一郎は態度こそ優しいものの静子をそこまで大事にしているようには見えなかったからだ。休みの日にち必ずと言って良いほど押し掛けてくる姉や甥っ子をいさめることはせず、彼らへの対応を静子に任せて自身は休日も仕事に行ってしまうし、登山の時は静子と静一を差し置いて両親と姉一家と同じシートで弁当食べてたし。静子が居場所の無さを訴えた時も静子の言い方が曖昧立ったとはいえ、全く理解を示さなかった。

だけど、愛情はあるのかこの期に及んで静子にすがり付きまくる一郎。静子を庇うということは最終的には仲良しだった姉一家との(恐らく両親…静一の祖父母とも)敵対することを意味すると思うけど、いいのだろうか。静一に対してハッキリは言わないけど、目配せとかで静子に不利なことを言わないように釘を差しているのが(それがことごとく静一に無視されているのがなんとも…)うざったい。

そもそも、静子と一郎の結婚生活やその関係はどういったものだったのか。この『血の轍』は静一目線を徹底しているため、静一が見えない、知らない部分は全く描かれていない。静一がいると、静子は基本的に静一ベッタリで夫である一郎への対応は二の次&最低限に見えていたけど、静一がいないところでは一郎にも良くしていたのだろうか?自分を押し殺して一郎が望むままに振る舞い依存させていたのだろうか?

そして、巻末の写真…破り捨てられた静子の写真の中に一枚だけ学ランの眼鏡の少年がいるけど、これは若い頃の一郎だよね…?恐らく最後の写真は破られてしまっているけど制服姿の静子と共に写っていたと思われる。静子と一郎は学校が一緒だったのか?その頃からの付き合いだったのだろうか。この写真が誰が所有しているものなのか、誰が破り捨てたのかはハッキリしないけど、そのうち分かるのだろうか…?(予想は静一の家に保管されたもので、後にプッツンした一郎が破り捨てた…かな)

肉まん・あんまん問題6

私ほどこの『血の轍』の『肉まん・あんまん問題』を考えてる人いる!?8巻についで、ついに6回目になってしまった。この朝食のやりとりはその時の静子と静一の力関係を如実に表しているのだ。

今までのおさらいはざっとこんなかんじ。

1巻… 『肉まんとあんまんのどっちがいいん?』と毎朝静一に尋ねる静子。基本的に静一は『肉まん』と答える。→静一は多分このやりとりにおいて、『無自覚に静子の望む方を選んでいる』という状態。

3巻…吃音になってしまった静一。そんな彼が明らかに『あ、あ…』と『あんまん』と答えようとしているのにわざと無視する静子。静一が諦めて『肉まん』と言うと静子はそれを受け入れる。 →茶臼山での事件や吹石の手紙事件を経て、静子に違和感を抱いているが、静子に逆らえない。

4巻…『朝はん、肉まんね』と、静子はもはや静子に尋ねずに勝手に決めるようになる。→3巻末の首絞め事件のこともあり、静子への違和感と恐怖を増大させながらもますます抵抗できなくなった静一に対し静子がますます支配を強めていた。

6巻… 静子の『肉まんとあんまんのどっちがいい?』という問いに対して静一はもはや『どっちでもいい』と答えるようになる。→吹石家への家出騒動で結局静子を選び戻って来てしまった静一は射精について静子に責め立てられて自ら積極的に静子に媚びるようになった。

8巻…静一は静子に『朝食何食べる?ママ何か作るから』という言葉に対して『肉まんでいいよ』と答える→静子との共依存が悪化している静一は、静子が望むより一歩先の答えを言うように。

そんな中で、静子は逮捕され物理的に引き離された静一は肉まん・あんまんの世界から強制的に卒業。朝からカップ麺を貪る生活に。でも、空腹だったからとはいえ、明らかに肉まんよりカップ麺の方に美味しそうに食いついている。よくよく考えたら中学2年生の少年の朝食が肉まんだけって足りてたのかな?

そして、刑事との取り調べで初めて他人に『肉まん・あんまん』の話をした静一。『いつもそうだったから』と言語化したことでこの朝食の件について彼の中で新しい変化が生まれたと思いたい。

ついに解き明かされた“死んだ猫”の記憶の謎

そして、ついに1巻からたびたび登場する死んだ白い猫にまつわる一連の記憶を取り戻した静一。その真相は静子による無理心中未遂という悲惨なものだった。

これはびっくり…というかショック。伯母が虐待を疑うくらいの大ケガをしたとのことだったけど、てっきり意に沿わない言動をした幼い静一をしばき倒したとかだと思っていた。まさかの無理心中。しかも、悲壮感に溢れる感じでもなく楽しげに歌うように静一を高台の上からぶん投げ、静一が無事だと知るとつまんなそうに『もういいや』って…。血塗れの我が子を前に我に帰って抱き締めたり謝罪するところじゃないのか…?しかも『さっさと立って』…とか冷たいし、明らかに足を怪我してるのにそのまま歩かせたり、頭おかしすぎぃっ!!普段静一を猫可愛がりしてるのに、急にこう電源がOFFにでもなったように冷淡な態度になるのが本当に怖い。

でもそれ以上に何が怖いって、1巻でこの死んだ猫の記憶を夢見たと静一が語った時、静子が嬉しそうに笑っていたことなんだよね。普通だったら自分が高台から投げ落としたことも一緒に思い出してしまうかもと焦るところなのに、静子は頬を赤らめて心から喜んでいた…これ、本当に怖い。その一方で、8巻で静一と高台を訪れたときに静一が『猫の死体を見たのはこに近くのはずだ』と言うと『忘れちゃった』と顔を曇らせる。元々静子は気分屋なところもあるが、1巻時点では静一が高台の出来事の記憶を取り戻すなんて夢にも思っていなかった、あるいは自身も都合よく忘れていたとかありえそう。

そもそも、自身が少女だった頃から高台に頻繁に訪れていたという静子。ひょっとして自殺願望から来るものだったのかな? というか、しげるを崖から突き落としたとき、笑っていたのか。怖い。

解放されたと思いきや…これから静一に訪れるであろう地獄を考える…血の轍10巻の発売予定日は2020年12月末

静子の自首&逮捕という形で突然彼女から引き離されることになった静一。別れの瞬間こそ涙を流したものの、その後自室に戻った静一の表情は安堵と解放感に溢れていた。ここで深呼吸が出来るようになった描写が上手い。翌朝のカップ麺を掻き込むシーンも落ち込んでる様子はなく、生命力に満ち溢れている。薄情だとかそれ以前にここ数ヵ月の静子から受けるプレッシャーが半端なかったんだろうな…と思う。静一は満足に呼吸すらできていなかったのだ。

さらに静子から物理的に引き離されただけでなく、取り調べを担当した刑事の言葉から『僕は僕のもの』と自身に言い聞かせるようになったことで急激に精神的な自立が進み、迷いながらも静子にとって不利な証言をバンバン出来るように。父親や弁護士の反応が気になるところだけど、これ自体は静一にとってかなり良い変化であるように思える。

…しかし、ここに来て静一は“死んだ猫”にまつわる記憶を取り戻してしまった。静一は今まで『母、静子はおかしい人だけれども自分を愛してくれた』と思えており、それが心の支えとなっていた。しかし、記憶を取り戻したことでそれが完全に崩れてしまった。ラストで浮かべていたあの不気味な表情(静子が強いストレスを感じたときにするものと同じ)は静一のアイデンティティが崩壊したことを示しているのだろう。

次回予告では『僕の中のママとぼく自身が壊れていく』と静一の精神が崩壊することが示唆されている。まあ、そうなるよね…。さらに小倉から『お前の母親マジで甥っ子殺したの?』とからかわれているコマも。母親が殺人未遂を犯したということで静一はいじめられる様になってしまうのか…。そうなったら一郎も学校も役に立ちそうにないし、辛いな…。

次の10巻の発売予定日は12月末とのこと。年末か…。これを読むと中々ヘビィな気分で年を越すことになりそうだ…。

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