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平安腐女子、夢子を通して描かれる平安時代コメディ『あさはかな夢みし』の1巻のネタバレ、感想、考察記事を書いていきたい。
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Contents
以下、各話ネタバレ、感想・考察
第1話 顔合(かおあわせ)~ゆゆしき平安腐女子、夢子登場
平安京のとある屋敷に派遣された舎人(とねり、めしつかい)、小犬丸(こいぬまる)。
しかし、彼はただの舎人ではなく、その正体は婚活系舎人…姫の父親に依頼されて、男っ気の全く無い姫、夢子(ゆめこ)に良縁を結ばせるべく派遣されたのだ。早速、夢子の屋敷を尋ねた小犬丸は荒れ果てた屋敷の様子に困惑するも、黒髪が美しく、顔もそんなに悪くない夢子(ゆめこ)と対面し、『この案件楽勝なりけり』とほくそ笑む。
そして、物語に夢中で、草紙『若紫』を読み上げ始めた夢子を見て『夢見る夢子ちゃん』だと判じた小犬丸。しかし、夢子の脳内映像の光源氏が何故かマッチョの全裸男であったり、光源氏と若紫の動きをなぞる遊びを始める夢子を見て、『この姫に足りてないのはたぶん良縁とかではない』と気付き、蒼ざめていく。
そんな中、小犬丸は屋敷を盗み見ている男がいることに気付く(平安時代の求愛は、女性の姿を外から覗き見ることから始まる)。しかし、それを聞いた夢子は何故か『小犬丸の方を見に来たのではないか』と斜め上の回答。二人で相手の様子を伺うと、なんと相手はちょっとごつくてキモイオッサンだった。オッサンの姿を見て崩れ落ちる夢子。慌てて、『見た目はちょっとアレだけど…』と慰める小犬丸に対して、『だめだよぉ…小犬丸が…壊れちゃうよぉ…っ』と腐女子全開の妄想をして震えはじめる夢子、自分は関係ないだろうと激昂する小犬丸。
とにかく、夢子がその気ならば身分も容姿も悪くない男性を見つけ出してみせると啖呵を切る小犬丸。結婚すればお金に困ることがないことを強調する。
その言葉に、夢子は自分は金目当てで男に身をゆだねるつもりはないと冷淡に返す。
しかし、小犬丸の『お金があれば草紙(本)を買い放題だ』という言葉に手のひらを返して『結婚する』と言い出すのであった。
若紫のくだりを「いみじうゆゆし(意訳:めっちゃヤバい)」と言う夢子に対して、小犬丸が「ゆゆしいのはお前の頭の中だよ!!」と突っ込むのがツボである。
第2話 化粧(けはひ)~平安時代の化粧事情
鏡に向かってでたらめな化粧をする夢子。そんな夢子に対し、小犬丸は『まともな化粧をした上で、なるべく屋敷の外から見えない場所で過ごせ』『ヒマな貴族の男たちは、勿体ぶってちょっと横顔を見せておけば勝手に美人だと思い込んで熱を上げる』と貴族に対するルサンチマンを織り交ぜつつ、指導する。
化粧自体には興味がある様子の夢子は早速小犬丸とともに、化粧の支度にかかる。
まず最初に『眉引き』という眉毛を全部抜く作業を行う二人。痛さで震える夢子であったが、源氏物語の若紫になったつもりの設定・妄想で乗り切る。何か性的に利用されたような気がして、釈然としない小犬丸であったが、次に白粉をたっぷりと厚塗りすると、夢子は立派な平安美人と化した。
喜んで絵師を呼びに走る小犬丸。夢子自身鏡に映った自分を『若紫の様だ』と満足げに眺める。しかし、そこから光源氏と若紫の初夜の妄想に入っていき(何故か若紫が隠れドS)、小犬丸が戻ってきたときにはその妄想の勢いから施した化粧は始め飛んでしまうのであった…。
平安時代の化粧についての説明が非常に分かりやすい。当時の白粉は鉛や水銀入りと非常に猛毒であった。江戸時代位まで貴族や上級武士の子どもの夭逝率が高いのは、実は母親や乳母の白粉が原因であるという主張がある位である。
また、『顔は大きいほど良い』等、今と価値観が全く違う部分も多い。
第3話 芥川(あくたがわ)~男装女子の草紙屋、くれ葉登場
小犬丸が夢子の元に来て、一月半たったある日、屋敷に初めての来訪者がやってくる。来訪者は草紙屋『くれ葉書房』を営む水干姿(すいかん、庶民の男性の普段着)の女性、くれ葉。彼女は定期的に草紙を売りに夢子のもとを訪ねているという。整ったルックスに、物騒な京の都で生き抜くために男装をしているというクールなくれ葉のサブキャラ偏差値の高さにたじろぐ小犬丸であったが、くれ葉が夢子の唯一の女友達であると知ると、『くれ葉を利用して夢子の結婚願望を高めよう』という算段を立てる。
くれ葉が持ってきた草紙が恋愛物の『伊勢物語』であったことから、小犬丸は切なくて泣ける恋物語を教えて欲しいとせがみ、夢子とくれ葉が恋バナをする方向に持っていこうとする。
小犬丸の要望に応えてくれ葉が読み上げるのは『芥川』…主人公の男が高貴で箱入りな姫を夜連れ出すものの、雷雨に遭ってしまい、近くにあった倉で一晩明かそうとするも、姫が鬼に食われてしまうという悲恋物であった。
しかし、くれ葉の妄想も夢子に劣らずとんでもないものであり、また二人はヒロインの姫をディスり始めた上、何故かヒロインを『高貴で世間知らずの可愛いオッサン』に変更してしまう。そしてラストの『鬼、はや一口に食ひてけり』という一文を、『オッサンが鬼と結ばれた』というぶっ飛んだ解釈に持っていき、二人で妄想を楽しむのであった。
古典で頻出の芥川をまさかの大胆アレンジ…。箱入りで大切に育てられすぎて、草の上の夜露を真珠と見間違えるオッサンって…。
第4話 粥杖(かゆづえ)~夢子の父、万丈登場
小正月(1月15日)、『因幡の白兎』で妄想を楽しむ夢子を後目に小犬丸は縁起を担ぐために『粥杖神事(かゆづえしんじ)』を行おうとする。小正月に粥を作るための道具、粥杖で腰を打たれた女性はめでたく妊娠する…というまじないがあるのだ。
さり気なく夢子に近づき腰を打とうとした小犬丸。しかし、妄想で身もだえた夢子にかわされてしまい、怪しまれる。そして、そこにくれ葉がやってきてしまい、目論見があっさりバレてしまう。さらに面白がった夢子とくれ葉は逆に杖を奪い、小犬丸の腰を打とうとする。
『小犬丸が孕んだ方が面白い』と勝手に小犬丸が妊娠する妄想を2人で繰り広げ、夢子とくれ葉は小犬丸を捕まえて腰を打とうとしたその時、それを制止するものが現れる。それは夢子の父、万丈(ばんじょう、藤原盛高)であった。
娘たちを咎め、粥杖を小犬丸に持たせた万丈。しかし、『力いっぱい打て…わしを!!』…万丈は万丈でソッチの趣味を持っていたのだ。
夢子の父であり、舎人協会婚活事業部に娘の良縁を依頼した万丈が登場。娘に負けず劣らず倒錯的な趣味を持っている様で。そういえば一時、Webで『男性が妊娠する』系の漫画の広告を頻繁に目にしたな…あれ、本当に何だったんだろう…。
第5話 恋文(こいぶみ)~平安時代のラブレターの作法と物の怪化した夢子の母の登場
夢子に恋文の練習をさせようとしていた小犬丸。しかし、そこに物の怪(もののけ、悪霊)が出没する。仰天する小犬丸に夢子は冷静に、物の怪の正体が7年前に亡くなった母で、今でも時折出てくるのだと告げる。しかも、この母親、いわゆる毒母で夢子に『清純であること』『子どものままでいること』を求め続けているという(割とリアルな毒親)。そして夢子は、そんな母に頭のツボを押されると『母上に従いぬ…』と言うだけの従順で無気力な少女の様になってしまうのだが、慣れたものですぐに元の夢子に戻るのであった。
とりあえず、毒母の物の怪を無視して、夢子に恋文の手ほどきをすることにした小犬丸。夢子宛てに、とある青年貴族、仮称『山桜の君』から恋文が届いているので、練習を兼ねて文のやりとりをしようと言うのだ。
当初は乗り気ではなかった夢子。しかし、その文を小犬丸が相手方の所に持っていくことになることに気が付くと、『山桜の君と小犬丸の恋物語』の妄想が広がり、急速にやる気をだし恋文の練習を始めるのであった。
そして、『恋文など淫らなことをしてはならない』と口うるさい物の怪の母をぶん殴り、小犬丸が疲弊する程恋文を書き続けるのであった…。
文付枝(ふみつけえだ…手紙に季節の花を添える)や、たちかへり(すぐに恋文の返事をする)・切り返し(最初はわざと冷たい返事をする)といった恋文のルールが分かりやすく描かれている。そして、平安時代の文学だと、こんな感じで当然の様に物の怪とか幽霊が出てくる。源氏物語で六条の御息所(美人で上品な未亡人キャラ)なんて無意識に生霊化して、さらっと人を殺している。
第6話 塞(ふたがり)~謎の露出狂の男、現る!!
『今は昔、露出狂ありけり』…夢子と小犬丸の前にはギリギリのところで陰部を隠した露出狂が立ちはだかっていた。何故このようなことになっているのか…。 説法会(せっぽうえ)に行きたいと言い出した夢子。説法会とは僧侶達が人々に仏の教えを説くための回。僧侶たちの姿を(妄想のため)拝みたい夢子。
一方で説法会は男女の出会いの場という側面もあることから小犬丸も大賛成。早速二人は説法会の会場、六角堂に向かうのであった。
しかし、六角堂に向かう夢子と小犬丸の前に、謎の若い露出狂の男が立ちふさがる。引き返して別の方向から六角堂へ向かおうとする小犬丸に、夢子は『戻ろうとしても塞(ふたがり)なので戻ることは出来ない』と指摘するのであった。
塞(ふたがり)…当時、陰陽道を深く人々の生活に根付いていた陰陽道では、暦によって向かってはならない方角(主に天一神がいる方角)が定められていた。そして平安人は実際に移動の際、その方向に行くことを避け、わざわざ迂回したり(方違い…かたたがえ)、そのためだけに宿泊したりしていたのだ。
仕方なく、露出狂を煽り、陰部を馬鹿にし、傷付けることで露出狂を退治しようとする小犬丸。しかし、夢子はそんな小犬丸を叱りつけ、逆に露出狂に謝罪する。その上で、『自身の裸体を見せつけることで、女性にとっての初めての男になりたい』と語る露出狂に対して夢子は『例え見せつけられても自分の心までは犯せない』『おぬしの姿はつまらない』と断じるのであった。
そして、夢子は今昔物語集の『阿蘇の史(さかん…公務員の意)』について語り、妄想を具現化する。自身が搭乗する牛車に盗賊がやってくることを予期し、先に靴下と烏帽子以外全て脱いだ状態で盗賊たちと対峙した阿蘇の史。その堂々たる裸体とインパクトを露出狂に伝えた上で、『半端な肉体と演出では何も心に残らない』とはっきりと伝えるのであった。
夢子の言葉に敗北を認めた露出狂。自身が心の弱さゆえに露出に走った経緯などを語り始めるが、無視して説法会に向かおうとする。しかし、『自分には価値が無いのか』と問うた露出狂に対して『魅せ方』の問題だと答え、敢えて彼の烏帽子棒を叩き落すのだ。
当時、人前で成人男性が烏帽子を取るのは非常に恥ずかしいこととされていたため、動揺し、慌てふためく露出狂。しかし、露出狂に夢子は『恥じらった顔の方が可愛い』と告げ去っていくのであった。そして、そんな夢子の後姿を見ながら、露出狂は頬を赤らめ『また会いたい』と呟くのであった。
…中々のカオス回だが、実はかなり濃く平安の文化や知識が詰め込まれている回でもある。
第7話 結縁(けちえん)~明らかになる夢子の恋愛観、そして、肉食系女子の姉、実子登場
露出狂に足止めを食らってしまったため、予定から遅れて説法会の会場、六角堂に到着した夢子と小犬丸。僧侶たちが読経する最中、会場にいる男女たちは各々出会いを楽しんでいる。一方で、夢子は若い僧侶たちの仲睦まじい様子を見て大喜びをする平安腐女子、夢子。『美坊主大図鑑』『美坊主着せかえ』なる薄い本…ではなく草紙を売るくれ葉と遭遇したこともあり、早くも小犬丸が計画していた『出会い』から遠ざかっていく。
しかし、そんな夢子を『恋愛失調症女子』と気安く呼びかける美女が現れる。美しく色気溢れる彼女は、夢子の腹違いの姉、実子(みのりこ)であった。夢子とも父親の万丈とも似ていない実子に驚く小犬丸。宮廷で馬内侍(うまのないし…宮中での女房名)として働く彼女は美しいだけでなく、出会ってすぐの男性を自身の牛車に連れ込み、挙句すぐに行為に持ち込むレベルのとんでもない肉食系女子であったのだ。
更に、夢子の元に前回説法会の道中に立ちはだかった露出狂の男がやってくる。夢子に好意を抱き、口説き落とすために追いかけてきたのだという。しかし、夢子は彼に興味を持たず、渋い修行僧の姿を発見し、そちらへ駆けて行ってしまい、露出狂もまたそんな夢子を追いかけて行ってしまう。
一人取り残される小犬丸。そこに、まだ少し物足りなさそうな実子が戻ってくる。実子から誘惑された小犬丸は軽い駆け引きの後、実子の牛車に行き、彼女と肉体関係を持つのであった。
一方、小犬丸と実子が抱き合っている中、露出狂の男は僧を眺める夢子に『少しも恋がしたくないんですか?』と尋ねる。それに対して夢子はあっさりと『現実の男たちも物語の男たちも同じように愛おしく思っている』『しかし、自分のことを好いて欲しいと思ってはいない』と返す。そして、こう言うのであった。
「まろはそういう「乞い」ではなく…ただ心のままに好きなものをいみじう愛でていかんとす。」
あさはかな夢みし1巻 瀧波ユカリ 99/160
そんな夢子の元に、小犬丸が戻ってくる。何やら物憂げな様子な小犬丸をからかう夢子と露出狂の男だったが、『経験不足の方達には分かるまい』とやや上から目線で意味深なことを言う小犬丸の態度に夢子と露出狂の男は逆にもやっとさせられてしまうのであった。
源氏物語等を読むと分かるが、平安時代の貞操観念は意外と低くて結構ビビるところがある。女性も割とオープンなのだ。
夢子の、『愛情を乞うのではなく、好きなものを好きな風に愛でていきたい』という考えは趣味人の鏡である夢子の全てを表していると思う。
第8話 三日夜(みかよ)~露出狂の君改め、藤原顕信と夢子を結婚させようと企む小犬丸!
夢子の父、万丈の倒錯趣味全開の別宅に呼び出された小犬丸。そこで小犬丸は万丈から『最近、夢子の近辺をうろついている露出狂の男が、時の権力者藤原道長の三男、藤原顕信(ふじわらあきのぶ)である』というとても重大な情報を伝えられる。
『ただの露出狂』と軽んじて、身近にいた『優良物件』を見落とすといった婚活系舎人としてあるまじき大失態を犯していたことに気付いた小犬丸は蒼ざめるが、夢子と顕信の婚約を成功させられたら大手柄になることから、二人を結婚させようと企むのであった。
早速、顕信に話をつける小犬丸。漠然とした好意を夢子に抱いていたものの、結婚まで考えてはいなかったと答える顕信を小犬丸は責めるが、『責められると露出したくなる』とメンタルの弱さを見せつけられ、呆れる。しかし、夢子との結婚を打診する小犬丸の言葉に『夢子姫なら自身の性癖も受け入れてもらえそう』と、顕信は夢子との結婚を前向きに意識する様になった。
平安時代の結婚生活は男が女の家に泊まる『通い婚(かよいこん)』が一般的であった。そして、婚姻届けなどはなく、男が女の元に三夜連続で通い、 (肉体関係を持ち) 三日目の夜に、三日夜の餅(みかよのもち)を共に食べることで婚姻が成立するとされていた(ちなみに男性が家に来なくなると事実上の離婚とみなされた)。
小犬丸にけしかけられ早速、夜に何も知らない夢子の元を尋ねてきた顕信。小犬丸は夢子に取り合えず御簾越しに顕信と話をするようにいう。そして顕信もまた、小犬丸から朝まで粘る様に言われたため、一晩中夢子と語り続けるも、宮中のゴシップ(主に枕草子周辺の話)を根掘り葉掘り聞かれ、疲弊する。
二日目の晩、顕信の来訪を心から喜んでいる様子の夢子…しかし、それは宮中の裏話を楽しみにしていただけであり、朝になり『紫式部周辺の、きわどい業界話を暴露してしまった』と後悔して見せる顕信に小犬丸は『悩みどころがずれている』と突っ込む。そして小犬丸から『ちゃんと正攻法でプッシュしろ』と叱咤されるのであった。
三日目の晩、自らの弱さを自覚しつつ、顕信は夢子に好意を伝えながら、想いを遂げるため夢子がいる御簾の向こうまで押し入った。
しかし、そこにいたのは何故か女装させられた小犬丸であった。驚く顕信と泣く小犬丸。すべては夢子と草紙屋くれ葉の仕業であった。
連日、顕信がやってくるのは小犬丸と顕信が好き合っているからだと考えた平安腐女子、夢子はくれ葉に二人をくっつけたいと相談。そして悪乗りしたくれ葉は小犬丸と夢子の姉、実子が肉体関係を持ったことを嗅ぎつけ、それをネタに小犬丸を脅し、女装させたのであった。
後は二人で…とどこぞへ去っていく夢子とくれ葉。そんな夢子達に唖然としつつも、能天気に顕信は女装した小犬丸を可愛いと言い、小犬丸は悔しさと怒りで爆発するのであった。
平安時代の婚姻制度を分かりやすく紹介。割とざっくばらんな婚姻制度である。
第9話 芋粥(いもがゆ)~BL解釈ができる古典、そして再び実子現る
夢子と小犬丸の元に大量の芋(自然薯)が届く。差出人は不明だが、芋と言えば『精が付く』とされているので、夢子の父、万丈が送ってきたのではないかと推測する小犬丸。一方、夢子は『芋と言えば今昔物語の”芋粥”だ』と小犬丸に語って聞かせようとするが、そこに夢子の姉、実子がやってくる。実は芋を送り付けたのは万丈ではなく、実子であったのだ(芋と妹(いも…この時代では妹ではなく、妻や恋人を意味する)の掛けたのだ)。
夢子が一人でBL解釈風に芋粥を朗読する中、実子の手ほどきを受けながら、芋粥を作った小犬丸は当時としては高級スイーツの様な立ち位置の芋粥に舌鼓を打つ。しかし、夢子に大量に飲むように強制された小犬丸は大変な状態になってしまうのであった。
この今昔物語の『芋粥』自体、作者瀧波ユカリ氏が指摘するよう、元々夢子の妄想が無くてもBL解釈が出来なくもない作品である。ちなみに、『芋粥』は芥川龍之介も題材にしてアレンジしている。芥川龍之介版も大筋は同じだが、解釈の仕方がまた全然違っていて面白いので是非読んでいただきたい。あと、芋粥の調理方法が丁寧に紹介されているが、普通に美味しそう。
第10話 色目(いろめ)~平安時代と夏と乳首…狭衣物語
夏の暑い日、夢子の屋敷にやって来た露出狂の君、こと藤原道長の三男、顕信。しかし、あまりの暑さと汗で、自身の狩衣(かりぎぬ…貴族の男性の普段着)から乳首が透けてしまっていることに気付き、動揺する。しかし、それは童形(どうぎょう…未成年男子の格好で小犬丸は従者としてこの格好をしている)姿の小犬丸も同様で、顕信と小犬丸は互いの『透け乳首』状態について大騒ぎするのであった。
しかし、『透け乳首』というワードを当然、夢子は聞き逃さない。屋敷に来ていたくれ葉と乳首について語り合う。平安時代、貴族の装束は非常に薄く、汗などかいてしまうと簡単に乳首は透けて見えてしまうのだ。夢子は自身の髪で見えないようにガードし、くれ葉はさらしを巻くことで見えないようにしていた。
『狭衣物語(さごろもものがたり)』の一説を引き合いに出すくれ葉。そこには十二単から透けて見えた娘の乳首の黒さに、母親が娘の妊娠を疑う…というシーンがある。それを聞いた夢子は『孕むと乳首が黒くなる』ということに興味を持つ。そして、やってきた小犬丸が乳首を隠そうとしていることに気付き、どうにかして乳首の色を確認しようとする。しかし、当然小犬丸は反抗し、『姫さまが見せないなら自分も見せない』と告げ、一触即発の状態に陥ってしまう。
そこに『夢子の乳首は自分だけが見たい』と顕信が乱入したことで、結果、小犬丸と顕信の乳首が露わになってしまう。喜ぶ夢子は小犬丸の方が色が濃いことで、『小犬丸が孕んでいる』と揶揄う。怒ろうとする小犬丸であったが、次の瞬間風が吹いたことで、小犬丸と顕信は意図せずして夢子の乳首を見てしまい、動揺、それ以上何も言えなくなってしまうのであった。
…十二単の衣の一枚一枚は大変薄くて透けている素材。そして、それを重ねることで色のグラデーションを楽しんでいた…ということは、濡れると大変透けやすかったのだ。しかし、妊娠すると乳首が黒くなる…というのは、やはり平安時代から常識だったのか…。
第11話 天岩戸(あまのいわと)~皆から進路の決定を迫られた夢子…彼女の選んだ道は…!?
舎人協会の婚活事業部、そこでブラックな上司、綿美(わたみ…)部長から小犬丸は吊し上げを食らっていた。今までは複数の案件をビシバシと決めていたのに、夢子の所に派遣されてからは成果0。『結婚こそが女の幸せだ』と綿美部長からほぼ洗脳に近い指導を受ける。
小犬丸が夢子の屋敷に戻ると、夢子は相変わらずくれ葉と草紙について語り合っている。小犬丸はそんな夢子から草紙を取り上げると『今日という今日は話を進める』と今までにない厳しさを漂わせて宣言するのであった。
まず、呼び出された現在唯一の花婿候補の顕信。こじらせ系露出狂ではあるものの、身分は高く(妾腹だが時の権力者藤原道長の三男)、夢子と結婚した際には草紙は不自由なく買い与える上、絵巻(漫画の原型とも言える)や張り子(フィギュアの原型とも言える)も惜しまないという。その言葉に惹かれる夢子。
しかし、顕信から『子どもをたくさん産んで欲しい』『毎日顕信の衣装の準備をすること』『他にも妻を娶ることを許すこと』を条件に出されると、途端に萎えるのであった。
まだ父親である万丈から小遣いをもらえるし、このままでも構わない…そう言う夢子に小犬丸は『夢子にまだまともな縁談があるのは19歳と若いからだ』と告げる。
『あと数年経ったら、せいぜいヒヒ爺の第4夫人が良いところ』
そう言ってその場にやって来たのは、夢子の姉、実子であった。
結婚のみが女の幸せという様な小犬丸の主張をつまらない話と切り捨てた実子は、『女房として宮仕えし、自身で稼ぎ、自立して好きなように恋愛を楽しむ』という自身の生き方を夢子に語ってみせる(ついでに実子の語った経歴から彼女が40歳位であることが判明し、小犬丸と顕信は唖然とする)。
女官として稼ぎ、好きなように草子を買って生きていく…宮仕えに一瞬惹かれる夢子であったが、実子から『自由には責任が伴う』と働くことの大変さを厳しく告げられると、すぐさまやる気を無くすのであった。
すると、今度は亡き夢子の毒母のモノノケが現れる。夢子に『お前は結婚も仕事もできない』『無能なお前は母の言うことだけ聞いていれば良い』と洗脳しようとする。
すると、夢子は御帳台(みちょうだい、布で仕切られ目隠しされたベッド)に閉じ籠って出てこなくなってしまう。驚く一同に、自身を古事記で天岩戸に閉じ籠った天照大神に例える夢子。『自分はこのままでいたいのにみんなしてあれこれと生き方を押し付けてくる』と言い、『夢子のためを思って言っている』という一同に『無理強いするなら、髪を切って出家する』とまで言う。
夢子の発言に一同はどよめく。この当時の出家とは社会的な死を意味した。出家してしまうと結婚も仕事も出来なくなるのだ。『美少年達に踊りでもさせて外に誘い出そうか』と相談し合う小犬丸達。しかし、そんな彼らを見て、ずっと黙っていたくれ葉が口を開いた。『夢子のためを思って言うわけではない』そう前置きした上で、くれ葉は御帳台の夢子に宮仕えをしてほしいと言う。
『宮仕えをして、宮中で出回っている草子を横流ししてほしい』その言葉に夢子は宮仕えを決意し、御帳台から出てくるのであった。結婚話が進まなかったことに落胆する小犬丸だったが、『宮中にも出会いがある』と、夢子を結婚させようとする意思は決して揺るがなかった。そして、『美少年の踊りは…?』と問う夢子に聞いていたのかと突っ込むのであった。
まとめ~平安時代文学×腐女子×婚活という、異色のジャンル
本作、『あさはかな夢みし』は、平安腐女子と婚活、そして名作を組み合わせて勢いのあるギャグコメディに仕上げている。作者である瀧波ユカリ氏は相当勉強したようで、各解釈も妙に説得力がある。次巻2巻では怒涛の宮中編が始まる。追って2巻の記事も書いていきたい。