卓斗は『自分が真の文通相手である』と真珠に全てを暴露する手紙を送り、控訴審3日目の傍聴にもやって来てしまう。真珠は卓斗が贈ってきた映画『レオン』のヒロイン、マチルダの服を着て出廷し、卓斗に優しく微笑み掛けた。その様子を見たアラタは激しい苛立ちと嫉妬を覚え、そんな自身に激しく動揺するのであった…。
そして、桜井検事は早速、DNA鑑定をした結果、三島正吾と真珠の親子関係が否定されたことを告げる。さらに、桜井検事は三島正吾と真珠の母、品川環の高校時代の写真を出し、二人は交際していたものの、環が奔放な性格で浮気を繰り返していたことを語る。
だが、環の写真を見た瞬間、真珠の脳裏には、環の愛情を求め続けたものの、嘘を吐かれたりネグレクトされ続けた惨めな幼少期の暮らしが蘇り、激しく取り乱してしまう。
そんな真珠の様子を見たアラタは『児童相談所職員として、環と真珠母子が抱えていた秘密を誰よりも早く解き明かす』と決意するのであった…。
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真珠の正体についての個人的な推測・考察記事
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Contents
以下、あらすじとネタバレ
休廷中に卓斗を捕まえて叱るアラタ。しかし、アラタは卓斗に『夏目さんは品川ピエロを独占したがっている』と言われてしまう
証拠品としてモニターに映し出された三島正吾と母、品川環の写真を見た真珠は、突然『消せよ!』と叫び出してしまった。真珠は慌てて、それが父親を名乗り自身を苦しめて来た三島正吾に対して向けた言葉であるように取り繕ったが、実際は母、環の写真に対して出て来た言葉だった。美しく愛らしい環の笑顔を見た瞬間、真珠の脳裏には、優しかったものの、嘘を吐いて真珠の歯の治療を拒否し、ネグレクトし続けてきた環との異常で惨めな生活が蘇ったのだ。
吐きそうになっている真珠に裁判長は『大丈夫ですか?』と声を掛け、弁護人である宮前も『三島の写真を見て動揺しているので、時間を下さい』と言う。宮前の申し出は受け入れられ、30分の休廷となった。
休廷が告げられるや否や、アラタは立ち上がり、傍聴席の後方に立っていた卓斗を睨みつける。卓斗は慌てて扉の外に逃げ出すが、あっさりとアラタにつかまってしまった。
廊下で”壁ドン”するような形で『何のつもりだ』『来るなと言ったろ』と卓斗に怒鳴り凄むアラタ。すると、二人を追いかけてきた藤田が『警備員が見ているから抑えて』とアラタを制止する。藤田の言葉と警備員達の視線に冷静さを取り戻したアラタだったが、今度は卓斗が『話が違いすぎますよ』と不満を露わにする。
アラタは散々卓斗には真珠がとんでもない殺人鬼で卓斗の手に負えるような相手ではないと語っており、容貌についてもとても老けた下品な喋り方の女だと嘘を吐いていた。
『実物はめっちゃかわいくて大人しそうな女子じゃないですか!』『本当に犯人なんですか?』と抗議するように言う卓斗。アラタは『大人しいって…さっき「消せ!」とか怖い声で怒鳴っていただろう』とどうにかして否定しようとするが、却って『あれくらいの暴言は今どきの女子はみんな言います。クラスの女子も「殺す」とか言ってくる』『それくらいで怖い女だとか言ってたんですか?』と反発されてしまう。
そんな卓斗にアラタはウンザリしたように『あの弁護士(宮前)に桃ちゃんに…真珠の華奢な見た目に騙されるヤツが多くて嫌になる』と吐き捨てるが、卓斗はこう言い返す。
「夏目さんも……!―じゃないんですか?」
夏目アラタの結婚43 乃木坂太郎 7/27
唖然とするアラタに、卓斗は『いくら僕から面会を頼まれたからといって、結婚までするのは行き過ぎな感じもする』『僕のためというのもしっくりこない』と続ける。
「まるで品川ピエロを独占したがってるみたいな―」
夏目アラタの結婚43 乃木坂太郎 8/27
卓斗に一瞬言葉を失ってしまったアラタ。…が、静かに卓斗を見据えて、“弟”の話をし始めた。
アラタも卓斗同様、子供の頃に父親を亡くし、その後、母親は再婚と離婚を繰り返した。そして、そのうち母は再婚相手との間に子供を産み、アラタには“腹違いの弟”が出来たのだ。
一度だけ“弟”に会いに行ったアラタ。すると、“弟”はアラタを『兄ちゃん』と呼び懐いてきたのだ。アラタも嬉しくなり可愛く思ったが、母親に『前の旦那の息子が顔を出すと、今の旦那に嫌がられるから来るな』と言われてしまい、それっきり会えていないのだという。
『今度、中3になるお前と同い年』…そう言って、卓斗に寂しげな笑顔を見せたアラタ。卓斗も神妙な顔で『マジっすか…』と答えることしかできなかった。
だが、アラタは表情を変えずに『作り話だぞ』と言う。唖然とする卓斗にアラタは『嘘を見抜けないガキは危険だ』『真珠はもっと巧妙に嘘をつくから、お前なんかあっという間に操り人形にされちまう』とハッキリ言い、『今日はもう帰れ』と押しやった。
しかし、悔しそうな表情を浮かべた卓斗はわざとらしく『トイレに行こうっと』言って逃げるようにその場を立ち去った。帰る気がないのは明らかだった。
卓斗の去った方向を困ったように睨み付けるアラタに、藤田が『弟さんの話は嘘なんですか?』と尋ねる。アラタは『嘘。本当はまだ小4』と寂しげに答えるのであった…。
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当たり前な女であってほしくない…アラタの真珠への苛立ちの正体を言い当てた藤田は『夫婦の間には幻想が必要』という持論を語る
卓斗が去った後、アラタは『確かに真珠が心変わりして卓斗と仲良くなったら嫌だと思っちまった』と正直な気持ちを藤田に打ち明けた。先程、法廷で真珠と卓斗が互いに熱く見つめ合うのを見た瞬間、アラタは激しい苛立ちに襲われたのだ。
それを聞いた藤田は『マジぼれですか?』と尋ねるが、アラタは『そういうんじゃない気がする』と悩みながらこう答える。
「嫉妬じゃなくて…」
夏目アラタの結婚43 乃木坂太郎 13/27
「『幻滅』…って感じ?」
そして、自身の抱く真珠像を語るアラタ。アラタが真珠に抱いているイメージは『相手にとことんウザ絡みして、暗い穴の底に引きずり込み、殺すまで離れようとしない』というものだった。そして、アラタは何度となく真珠に殺されバラバラにされてしまう自身をイメージしてきた。真珠に対しては最初から良いイメージなどないため、元カレ達(被害者達)とどんなプレイをしていたとしても気にならない。しかし、何故か卓斗と幸せそうに微笑み合うことは受け入れ難かったのだ。
すると、アラタの話を聞いていた藤田がこう言った。
「あたり前の女であってほしくない。」
夏目アラタの結婚43 乃木坂太郎 15/27
アラタは『分かるの、あんた』と驚く。藤田はアラタ自身よく分かっていなかった本音を的確に言い表したのだ。
少しだけアラタの気持ちが分かるという藤田は、さらにこう続けた。
「―夫婦ってのはね、2人の間に強い『幻想(ファンタジー)』がなきゃ成立しないもんなんです。」
夏目アラタの結婚43 乃木坂太郎 15/27
例えばそれは『互いに愛し合っている』『共に子供を育てる』というものでも、『犬猫が好き』『笑いのセンスがぴったり』といったものでもなんでもいいと語る藤田。いまひとつ理解できないアラタが『それって単なる”相性”なんじゃない?』と尋ねると、強い調子で反論する。
「いいや『幻想』です!自分以外の人間の気持ちなんて本当にはわかりっこないんですよ!」
夏目アラタの結婚43 乃木坂太郎 16/27
アラタが困惑していることに気付いた藤田は『熱くなっちゃいました』と我に返り反省し、自身と別れた元妻の話を始めた。
藤田と元妻はずっと同じ部屋で布団を並べて眠っていた。そして、部屋の明かりは落とすものの、眠りにつくまでテレビはつけていた。それを藤田はあたり前のことだと思っており、元妻もそうやって夫婦で並んで寝るのが好きなのだと思っていたのだという。
だが、ある日、元妻は『真っ暗な部屋で一人で寝たい。ずっとそうしたかった』と言い出し、その後は同じ部屋で布団を並べて眠るものの、アイマスクを付けてさっさと寝るようになってしまったのだという。
『たったそれだけ。大したことないでしょ?』と苦笑いする藤田。
しかし、藤田はそんな些細なことに深く傷付き、元妻に“幻滅”してしまったのだという。なんてことのない、テレビの明かりに照らされた寝室こそが、藤田にとって大切な“幻想”だったのだ。
それ以降、少しずつ夫婦の心は離れてしまった。そして、その後は以前居酒屋でアラタに話したように、藤田の商売が失敗した後、元妻は不倫し、最終的に離婚することとなったのだ。
『“殺し殺されるかも”というのが、あなたの大事な“幻想”なんですよ』…そう、アラタに言った藤田はさらに続けるのであった。
「紙キレ一枚出しただけだと思ってたみたいだけど、夏目さん、あんた本当に―」
夏目アラタの結婚43 乃木坂太郎 19-20/27
「品川ピエロと、夫婦になっちまったんだよ!」
藤田のその言葉に、アラタは呆然となるのであった…。
真珠が母、環にトラウマを抱いていることを見抜いた裁判長と桜井検事。一方宮前は現場に残された三島の血痕を証拠品としてあげる
一方その頃、裁判官達は三人で控室で休憩していた。
出だしから波乱の展開が続く三日目。若い裁判官二人は戸惑っており、『被告人は本当に気分が悪そうだった』『三島正吾を本当に実の父親だと思い込んでいたのだろうか』『自分達にはとても演技には見えませんでした』と裁判長に素直な感想を語る。
裁判長もそれには同意する。しかし、
「演技には、見えませんでした…が、」
夏目アラタの結婚43 乃木坂太郎 22/27
裁判長は真珠が三島ではなく、母、環の写真を見て動揺していたことを見抜いていた。
そして、そのことに気付いたのは裁判長だけではなかった。
「母親だ!母親の写真にだ!」
夏目アラタの結婚43 乃木坂太郎 23/27
廊下を歩きながら自信に満ちた口調で部下(事務官か?)の女性に語る桜井検事。拘置所の面会記録に目を通していた桜井検事は、以前面会でアラタが母、環のことを追及した際に真珠が嘔吐してしまったことも把握していた。
『可憐な乙女に化けようとしているみたいだが、俺がきっちり仕留めてやる』…そう桜井検事は息巻くのであった。
そして、休憩時間が終わった。
再び法廷に戻ってきた真珠に裁判長が『落ち着きましたか?』と声を掛ける。真珠はしおらしい様子で『はい』と答えた。
一方、アラタが傍聴席の後ろを振り返ると、そこにはやはり卓斗がいた。卓斗が大人しく帰るわけがないとは分かっていたものの、アラタは『あのガキ』と呟き睨みつけた。
すると、弁護人の宮前が挙手をし、証拠品の提示をする。
モニターに写されたのは、例の真珠の部屋に残されていた身元不明の血痕であった。そして、宮前はそれが誰のものか判明したと言うのだ。
「被告人が父と思い込んでいた男―」
夏目アラタの結婚43 乃木坂太郎 26/27
「事件後姿を消した三島正吾の「血」です!」
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以下、感想と考察
真珠への執着を自覚することになったアラタ
卓斗をどうにかして真珠から離そうとして、『見た目に惹かれているだけ』と言ったアラタは卓斗に『夏目さんもじゃないですか?』『品川ピエロを独占したがっている』と言い返され衝撃を受ける。
卓斗の言うことは尤もだ。アラタが容姿と中身にギャップのある真珠に惹かれたのは確かだろう。真珠が逮捕時の様な太ったピエロだったり、一審時のようなガリガリでボロボロの姿だったら、『結婚しよう』なんて言葉は出ていたのか。面会自体を続けはしたかもしれないけど、『結婚』なんて言葉は出てこなかったのではないか。何かにつけて真珠の裸体を思い浮かべたりしているし、やっぱりアラタは真珠のことを女性として強く意識しているのだ。
割と前の段階から読者には分かるようになっているのだけど、アラタ自身がその事実を今一つ認められないのは、真珠が殺人犯(の可能性が高いから)というより、恋愛に対してシニカルな態度を取り続けてきてしまったから今さら素直になれないという点が大きいのではないかと思う。
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やっぱり素晴らしい藤田さんの着眼点
そして私は藤田さんのことがどんどん好きになっていく。藤田さん回は面白い。藤田さんの観察眼と着眼点が素晴らしいから。
アラタが真珠に対して抱いていた幻想を的確に指摘した上で、『夫婦は互いに幻想(ファンタジー)を持てないと崩壊する』という持論を語る藤田。…アラタにはいまひとつ響かなかったようだけど、藤田の言いたいことはよく分かる。何というか『私達は○○な関係』という共通認識を持っていないとやってらんないのだ。
でも、それはしょせん、幻想。相手の気持ちの本当のところなんて分かりはしない。けど、それが崩れると途端に相手に感じていた魅力が霧散するのだ。幻が滅すると書いて幻滅とはまさにこのこと。一方的な思い込みに過ぎないのにね…。
それにしても、アラタにとって藤田は唯一の黒い気持ちを吐き出せる相手になってきているな。全うで正しい桃ちゃんや所長には本音を話せなくなって孤独感を深めてきていたから心配だったけど、藤田の様に歪んだ感情をよく理解し折り合いをつけて生きている人が友達?になってくれてよかったと思う。
残された謎の血痕を証拠品として挙げた宮前の意図は?
ここにきてアパートに残されていた謎の血痕を証拠品として挙げた宮前。
33話で宮前はアラタに『アパートの謎の血痕は起訴内容に入っていないから蒸し返さない』と言っていたのに。方針を変えたのか、それともアラタに嘘を吐いたのか。前者な気がするけど、宮前は普通にアラタを嫌って信用してないから後者でもおかしくないか。
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ここで、畳の血痕のDNA鑑定をしてそれが三島のものだと分かっていたのなら、きっと宮前も既に真珠と三島が親子関係にはなかったことは分かっていたはずだ。宮前は検察側が真珠と三島の間に親子関係がないことを突いてくると予想は出来ていたのだ。
検察が『三島と真珠は親子ではないのだから、真珠の話は嘘がある』と言ってくるのに対して、『でも、三島の血痕が真珠の部屋にあったということは、真珠の言うとおりに、三島が真珠に付きまとっていた。そして、三島が被害者男性と争った』という話に持っていき、再び真珠の証言に信憑性を持たせるつもりなのだろう。宮前、上手い。優秀だな。
まあ、これは『じゃあ、三島も真珠に殺されたのでは?』という方向に話が行く可能性もあるけど、裁判上はあくまで被害者男性3人の話からは脱線しにくいし、世論も真珠に同情する方向に傾いているから、今のところ真珠にとって不利な状況にはならないだろう。真珠はそのことをよく分かっているからラスト、一瞬だけ不敵な笑みを浮かべたんだろうな。
果たして、控訴審三日目も真珠に有利な方向に進むのか…?
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