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『怒り』。それは人の原初的な感情の一つである。にも関わらず、基本的には負の感情として忌避されている。更に、同じ負の感情である『悲しみ』が比較的表に出すのを許される風潮、機会に恵まれているのに対して、『怒り』の適切な示し方というのは難しい気もする。
勿論、『怒り』それ自体は人が自身を守る上で大切なものである。しかし、朝の通勤ラッシュで、役所の窓口で、怒って怒鳴っている人を時折見掛けるが、どうだろう。中には、怒り狂うのに最もな理由があるケースもあるが、大半は『え、そんなことで、こんなにキレるの?』というものが多い。
些細なことでキレて暴れる人は何故そのような行動を取り、どう解消すれば良いのか…それに徹底的に向き合っているのが、本作『キレる私をやめたい~夫をグーで殴る妻をやめるまで~』である。作者は毒親との決別を描いた『母がしんどい』の田房永子氏である。最近になって『アンガーマネジメント』といった言葉が知られるようになったが、本作はそういった横文字に頼ることなく、取っ付きやすく非常に読みやすい。また、何よりもキレて暴れる当事者が描いていることもあり、説得力があるのだ。
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Contents
あらすじ
漫画家の田房永子(エイコ)は、過去には自身を抑圧し、支配してくる毒親や、モラハラをしてくる彼氏に苦しめられてきた。しかしエイコはそんな彼等とは決別し、心優しい夫と新しい家庭を築き始めていた。ところが、夫との生活でも、エイコは定期的に些細なことから突然激昂、キレて暴れる様になってしまう。そして自己嫌悪に陥り疲弊する。どうにかしてキレる癖を直そうとするのだが、参考になる書籍もなく、適切な治療もすぐに見つからずに、上手く行かず…
以下、ネタバレ・感想・考察
想像以上に凄まじい、エイコの『キレ』
毒親との絶縁を描いた、前作『母がしんどい』でも、エイコが理不尽な毒母に時折キレて取っ組み合いの喧嘩をしていたことは描いてあった。そして、優しい夫にも理不尽にキレて八つ当たりをしてしまうことに悩む様子も描かれていた(それを直そうとしたことが毒親と縁を切るきっかけになる)。しかし、具体的にエイコがどの様にキレて暴れるかは分からなかった。なんとなく、ヒステリックに怒鳴る位かなー…と想像していたのだが…。
冒頭から、想像を遥かに超えるエイコの『キレ』エピソードには正直驚いた。怒鳴り、物に当たるのは勿論、裸足のまま外に飛び出し、奇声を上げながら全力疾走。これは子どもの頃母の抑圧のストレスから繰り返していたことで、社会人になってからもモラハラ彼氏の元でも行っている。それほど凄まじいストレスを溜めていた…ということなのだろうが。そして、夫に対しては怒鳴り散らすだけではなく、グーで殴ってしまうようになり、夫も物を投げなければ良いと受け入れる(これもこれですごい)。
しかし、部屋で一人で過ごしているときも旅行のスケジューリングが上手く行かず物に当たり部屋をメチャクチャにしてしまう等、症状は改善せず、むしろ妊娠、出産を機に悪化していくのであった。
『キレる癖』を直す方法を見つけられず困るエイコ
片手に子どもを抱いたまま、夫を罵り、殴るエイコ。夫はそんな彼女にすごい顔をしていると言い、このままだと子どもにもやりだすだろうと忠告する。エイコはそんな夫に更にキレるも反省し、直す方法を探す。しかし、書籍等を調べても、子育てマニュアルしか見つからない。そして、そこに書いてある方法(子どもにキレそうになったら別室に行き、枕を殴り、子の生まれたてのアルバムを見ましょうw)では全く参考にならないと脱力するのだ。キレることへの対処法へ特化したハウツー本なんて無かったのである。
発見した、自身のキレる法則性・パターン
仕事相手の女性編集者に自身のキレてしまう癖を相談したエイコ。すると、編集者も夫に当たり散らし、激しい夫婦喧嘩をしていたが、自身がキレる法則性・パターンに気がつき分析できたと語る。彼女の場合は、自宅から勤務先までの通勤時間が長く、それが原因でくたびれると喧嘩になりやすいという。そして、根本にはそんな土地に家を購入した夫に怒りを持っていたと気付いたと…そう教えてくれたのだ。
キレてしまう状況について、法則性・パターンを見つけ、冷静に分析できればキレるのを防げるかもしれない…。自身のキレの傾向についてエイコは考え始める。
ある日、エイコは散らかった部屋で物が見つからず慌てて探している最中、無邪気にまとわりつく娘を張り倒したくなる。なんとか衝動を押さえたものの、娘にまでキレそうになった自身にショックを受けるエイコ。しかし、同時に自身のキレるパターンが自己嫌悪に陥っているとき、特に部屋の散らかり、汚さに関係していることに気付くのであった。
部屋の片付けと自己嫌悪…そして遂に警察が駆けつける事態に
エイコのキレるパターンには、『部屋の片付け』と『自己嫌悪』が大きく関わっている。エイコは元々部屋の片付けが苦手だ。(恐らく、毒親やモラハラ彼氏の元で、今まで安心して私物を置ける空間を作ることが出来なかったことが起因していると思われる。)自身の中で、『女性は家事ができて当たり前』という思い込みがあるのもあり、片付けが苦手であることに強い自己嫌悪を持っている。そのため、夫から散らかっていると指摘されると、女性としてダメと言われた気になってキレてしまうのだとエイコは自己分析する。しかし、自己分析までは出来たものの、具体的な解決方法は見つけられない。
そして、この片付け問題が原因で遂に事件を起こしてしまう。散らかった部屋を見かねた夫が、おもちゃの収納を壁に取り付けたことを切っ掛けに勃発した夫婦喧嘩。いつもの様に喚き暴れるエイコを夫が取り押さえたものの、夫の力が強かったことにパニックを起こしたエイコはなんと、「夫から暴力を受けた」と警察に通報してしまうのだ(むしろ暴力を振るったのはエイコの方である…)。そして、通報した直後後悔し、更にパニックに陥るエイコ。今度は警察官がマンションに来るのを阻止する。取り乱しながら警察官に悪いのは自分なので家に来ないで欲しいと騒ぐエイコ。結局警察官はそんな彼女をなだめながらも夫からも事情を聴取し、エイコを慰め励まし去っていくのであった。(警察もこういうのに慣れてるんだろうな…。)
ゲシュタルト療法(セラピー)と『今ここにいる』エクササイズとの出会い〜原因は毒母にあった!?
警察を呼んでしまった一件で落ち込むエイコは、治療出来る機関を探す。何度かあてが外れて落ち込んだりキレたりを繰り返すものの、ゲシュタルト療法・セラピーの本に出会い、そこで自身と同じ様な悩みを持つ人が紹介されていたことからさっそくゲシュタルト療法の予約を申し込む。
集団セラピーで、些細なことで破裂する様な怒りを夫にぶつけてしまうことを正直に話したエイコ。すると、医師から怒りを思い出し、体で感じる様に指示され、素直に思っている気持ちを打ち明ける様に言われる。そして丁寧に気持ちを分析していく。そして、『夫に怒っている自分が何みたいか?』と問われ、驚愕しながら答えるのであった。
『お母さんみたい』
次に母への感情、気持ちを問われ、正直な憎しみを吐露するエイコ。エイコは自身を抑圧し、支配してきた毒母と絶縁して、心の平穏を得ていたつもりだったが、実はそうではなかったのだ。本当は心の中で悔しさや悲しみが渦巻き、踏ん切りがついていなかったことに気付いた。医師から促され今度は母になりきり、自分でもびっくりするくらい母が乗り移った様な仕草、言い分が口から出てくる。そして、母へと腹を立てていたことがアホらしく感じられ、笑える様になったのであった。
そして、隠れていた母への激しい憎しみが解消したためか、エイコは今まで頻繁に感じていた、止まらないマグマの様な怒りが消えていることに気が付く。そして、セラピーで教わった、目の前にあるものを心の中で実況する(木が見える、葉っぱが見える等)という『今ここにいる』エクササイズを続ける。その時、エイコはこのエクササイズにどの様な意味があるか分からなかったが、心が穏やかに癒されていくのを実感するのであった。
『キレる』現象を理解するのに大切な2つの事
その後もエイコは自身の心を分析し続け、ゲシュタルトセラピーの勉強会にも足繁く通う様になる。そして少しずつ、キレる現象や心の働きについて学び、理解を深めていくのであった。
その1、『状況』と『心』の違いを理解すること
人には『状況』と『心』という2つがあり、基本的に人と人は『状況』で対話するが、真に互いを理解したり、癒すためには『心』に注目をしなければならないのである。
例えば、エイコは小学生の頃担任の先生にいじめられており、母にその事を相談したことがあった。
しかし、母は『エイコが学校の先生から嫌味を言われている』という『状況』に対し、『中学受験に大事な内申書に響くから逆らってはいけない』『アンタが悪い』と返しただけで、先生の言動に傷付いたエイコの『心』に対して何もフォローする事はなかった。エイコ自身も『自分が何か悪いし、内申書のために我慢しなくてはならない』と状況について頭で納得していたつもりでいたが、エイコの『心』は慰めや寄り添う言葉を欲していたのだ。
万事このような調子でエイコは普段、自身が取り巻く状況ばかりに意識が行っていて、正直な気持ちや感情を見つめ、寄り添うことはなかった。そして『心』を押し殺し続けては、耐えきれなくなり、爆発することを繰り返していたことに気付くのであった。
その2、キレる人は『今』を見ていない?『過去』『今』『未来』への視点
そして、キレる人は、今目の前で起きている事象に激昂しているとは限らないのだ。
エイコだと例えば、夫から『部屋が汚い』と指摘されることでキレのスイッチが入ってしまう。その理由は現在ではなく、過去にあるのだ。
過去、毒親やモラハラ彼氏から罵られ続けていたエイコ。彼らは『いかに女性としてエイコの能力が劣っているか』『ダメな人間であるか』を刷り込んできた。そして普段、抑圧されていたものの、エイコは彼等に対して定期的にキレて暴れていた。そんな彼女は夫から『部屋が汚い』と指摘されると、毒親やモラハラ男から人間性、女性性を否定されていた時の状況がフラッシュバックしてしまう。エイコは現在目の前にいる、部屋の汚さを指摘した夫にキレているようで、実は過去、散々自身を虐げてきた毒親やモラハラ男に向けて怒りを爆発させていたのだ。陳腐な言い方をするなら、いわゆるトラウマというものだろう。
そしてそういったパニックを起こすと、今度は『過去』から突然飛躍して『未来』に悪いことが起こると決めつけて、更にパニックを起こしてしまうということにエイコは気づく。キレてしまっている時は、『過去の嫌な出来事』とそこから予想する『嫌な未来』の間のみを意識が行き来していて、『今という現実』をまったく見れていないため、トンチンカンな行動を起こしてしまっているのだ。
そして、セラピーで教わった、『今ここにいる』エクササイズは、過去や未来に行きがちな意識を『今』、現実に引き戻すためのものであったことを知るのであった。
個人的な話になるが、上記の『過去』『今』『未来』の話はとても納得ができる話であった。私自身も一時期精神的に病み、エイコほどではないがパニックに陥りやすくなっていた時期があった。今思うと、意識が基本的に『過去の嫌なこと・後悔』にばかり向いていて、そこから派生した『嫌な未来予想図』に怯えていただけだった。パニックを起こす人間は本当に目の前の 『今という現実』が見えていないのだ。
ある日、エイコは3日後に人前で喋る仕事を控えているにもかかわらず、友人と喋りすぎたことが原因で声帯炎症を起こし、全く声が出なくなる。自己嫌悪に陥り、以前の様にパニックを起こしそうになるエイコ。しかし、自身の意識が、声がガラガラだったにも関わらず友人と喋り盛り上がってしまった『過去』と、声が出なくて周囲を困らせるという『未来』を無駄に右往左往しているだけだと冷静に分析して落ち着く。そして『今ここにいる』ことに徹底し、体を休め、加湿器をつけ、マスクをする…等に意識を集中させたエイコは、三日後に無事、喉を治すことが出来たのであった。
キレる癖を治して、初めて見えた夫の欠点
キレることが無くなったエイコは少しずつ片付けの仕方を勉強し、引っ越し後は家の中をキレイに保てるようになる。そんな自分を評価するエイコ。しかし、不思議なことに、夫は未だに不満を持ち続けており、文句を言い続ける。エイコの成長を評価することもない。そんな夫に疑問を持ち、寂しく思うエイコだったが、夫を冷静に観察することで、ある事実に気付くのだ。
キレるエイコに耐え続け、支える…まるで完全無欠な聖人の様に見えていた夫。しかし、実は相当なネガティブ思考の持ち主で、人の粗や悪い点ばかりに目が行き、しつこく文句を言ってしまう。褒めるということが出来ない。そして、人に注文をつける割には、本人もずぼらなところが多い。そんな欠点を持つ、普通の人だったのだ。
夫をそう評価するようになった自分に驚くエイコ。同時に、今まで自分がキレて暴れて一方的な悪者になることで、夫の悪い点を見ないようにして、美化していたのだ。恐らく、エイコは今まで毒親やモラハラ彼氏に散々傷付けられてきたので、『この人は今までとは違う特別な人』と思いたかったのだろう。
夫をその様に冷静に観察出来るようになった自分に喜ぶ一方で、夫個人への不満が出てきたことに戸惑うエイコ。そして、そのまま二人の空気は悪くなり、大きな夫婦喧嘩へと発展してしまう。
ラスト・結末…夫と話し合うエイコ~対等な夫婦であるために
人の粗ばかり突くネガティブな発言を繰り返す夫にエイコは怒る。しかし、それは今までの『キレる』とは違い、激昂することもない、とても冷静な怒りだった。言い合いの果て、『リコン』と口走った夫に泣きながらも本心なのかと静かに問い質し、彼の返答を待った。
そうしてる間もエイコは考える。キレる癖があった頃、言い合いになると、彼女は夫の返答を待つことが出来ず、暴れてしまっていたため、結局対話し、結論を出すことが出来ていなかった。そして何もかも有耶無耶になることに、自身のみならず夫も甘んじていたのだ。しかし、これからはそれではいけない。何かあったら二人で向き合って話し合わなくてはならないのだ。
うつむきながらも、リコンしたいわけない…そう答える夫。そんな彼にエイコは泣きじゃくりながら、粗を突く癖やキツイ言い方を直してほしいと伝える。夫も自身のそういったところをちゃんと自覚していたため、エイコの訴えに応じ、直していくことを約束した。
以前の様な関係に戻らないためにも、二人は互いに変わることを決意するのであった。
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最後、まとめ…作者の勇気へ驚嘆
キレる癖を治せなかったとしても、キレてしまうことを告白する本を出そうと決意していたという田房永子氏。凄い。『母がしんどい』で共感・同情・称賛等色々と注目を集めた後に、この本を出すのは本当に勇気があると思う。そう思うくらいに、本作ではキレる作者の激しい奇行と、そのみっともなさがオブラートに包まれることなく正直に描かれているのだ。そして、キレることのメカニズムを難しい言葉を使うことがなく、非常に分かりやすく解説できている。解消方法も納得が出来るもので、多くの人が実践的に使えるのではないだろうか。
そして苦難も多いだろうが、どうかこの夫婦、家族には幸せになってほしいと思うのだ。
自分がちょっと冷静になった瞬間、夫の悪いところが見えてるとかマジモンのクズやな。
こち亀であった昔は不良だった奴が更生して中川や麗子は褒めたけど両津は
コイツはずっと人様に迷惑をかけてきて今ようやく普通になったのに普通になったそれを褒め始めるのはオカシイってのを痛感するわ。
自分がどれだけ他人に迷惑かけたかも分かり切ってないのに他人には万能であり続けろと望む浅ましさ。
自分がちゃんと見てなかっただけでコイツは神様ではなく人間として不完全で悪い所しか視野を広げない残念な人間と断定する。
じゃあそれ以上の咎を生み出した自身は身を投げるべきでは?
自分が犯した咎を受けてくれた人身御供に対して、人として完璧じゃないとか言い始めるのもう生まれてきたのを間違った存在でしょw