【漫画】離婚してもいいですか?翔子の場合(後編)【ネタバレ・各話あらすじ】夫、淳一が浮気?怒りを爆発させる翔子~辿り着いたのはブラックなラスト・結末

離婚してもいいですか?翔子の場合 表紙

『私は夫が大嫌い』
6歳と4歳の子どもを育てる専業主婦の翔子。彼女は育児・家事に非協力的で無神経な夫、淳一に不満を持っていた。しかし、翔子は元々の性格と専業主婦をさせてもらっているという負い目から、ニコニコと愛想笑いを浮かべて夫の機嫌を取ることしかできない。そして、夫、淳一もそんな翔子のことを『つまらない』『ウソくさい』と感じ、偶然再会した高校の同級生でシングルマザーの室井に惹かれていく。
そんな淳一に対して心身共に限界を感じた翔子は自分を変えることを決意し、夫と離婚するために、介護の現場で働き始めるのであった。

前半の記事はこちら
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『離婚してもいいですか?翔子の場合』の登場人物・キャラクター

翔子 (小島翔子)

6歳と4歳の幼い姉弟を育てる専業主婦。非常に愛想が良いが、言いたいことを言えずにストレスを溜め込むタイプ。
元々自己主張できない性格であったが、専業主婦となってからはより自分に自信を持てなくなってしまった。
無神経な夫に嫌気が差しており、徐々に心身の調子を崩していく。心療内科の受診をきっかけに離婚を視野に入れて介護施設で働き始める。
その中で自身の性格や気持ちに向き合っていき、前向きな性格に変わっていく。
最終的に、夫への愛情を完全に失うが生活のために離婚せず、再構築を選ぶ。
自身の腹黒さ、醜い面を自覚し受け入れたうえで、愛想の良さを武器にして生きていく。

淳一 (小島淳一)

営業部に所属しているサラリーマン。元々無神経な性格だが、会社では周囲の様子を伺って行動している。内弁慶。不機嫌になると黙り閉じこもり、妻や子供たちを無視する幼稚な性格。
いつもニコニコとしている翔子のことを『ウソくさい』と感じており、職場のストレスのはけ口にしてしまい、そんな自分のことを小さい男だと自己嫌悪している。
内心では経済的な面で将来のことを心配しており、翔子に働いて欲しいと思っているが自分からは言い出せなかった。
ばったりと再会した高校の同級生の室井に惹かれていく。
姉である佳織に頭が上がらない。

佳織 翔子の義姉、淳一の実姉

淳一の姉で、翔子の義姉。思ったことをズバズバ言うタイプ。
特に翔子に対しては『いつもニコニコしていい返さないからいじめたくなる』と言い、辛辣な物言いをする。
一方で、家事育児に協力的でない弟の淳一に対しても批判をし、翔子を労わらないと大変なことになるとも警告する。
自身も男児を2人育てながら働いており、淳一たちには見せていないものの悩みや苦労があるようである。

室井

淳一の高校の時の同級生。淳一の職場の近くの店で働く。優と同学年の息子がいるバツイチのシングルマザー。仕事を掛け持ちしている。明るくさっぱりとした性格。淳一に対しては特に同級生として以上の感情は持っていない様子で、専業主婦の妻を卑下する様な発言をした淳一を諭す。

ナオ

翔子の弟。翔子達の家の近所で一人暮らしをしている。姪っ子甥っ子の花と優を非常に可愛がっている。心優しい性格で翔子の心労を察している。
作中後半では翔子自身が気づいていなかった翔子のある一面について言及する。
『それから5年』では近くに結婚式を控えており、相手の女性は花曰く『鼻から声を出してしゃべる人』。

心療内科医

ストレスで体調を崩した翔子を診た医師。
翔子の話に真摯に向き合い『ストレスに立ち向かう力をつけるため仕事を探すこと』を提案し、『翔子が父親との関係から、嫌なことがあっても感情を抑え込んで我慢する癖がついていること』を気づくきっかけを作った。

翔子と淳一の長女6歳。手が掛からない子で察しが良い。疲弊した様子の翔子を労わる。母、翔子の弟ナオによく懐いている。『それから5年』の主人公。
『それから5年』では小学5年生になっていて、自身や周囲の家庭環境をシビアな眼差しで見ている。 幼少のころから父母の不仲を理解しており、母、翔子が父、淳一に一切愛情を持っていないこと、父、淳一が室井の前で特別な笑顔を見せることを見抜き、『うそ家族』と嫌悪している。
一方で同級生の家庭が次々に離婚していく中で、自分達家族が皆で一緒に暮らし続けることを強く望んでいる。
懐いている叔父のナオが結婚することを喜べず、その相手の女性を嫌悪している。

翔子と淳一の長男4歳。花と異なりやんちゃで手が掛かる子。
『それから5年』では室井の息子と同じ小学校の同級生となっており、彼の影響を受けて叔父のナオの結婚について『どうせすぐに別れる』と冷めた発言をしている。

介護施設の先輩職員たち

常に怒っている石原をはじめ、様々な職員が在籍している。
離婚経験がある女性が多く、中には元夫に刺されたことがある人もいる。
うち一人が翔子を過去の自分に似ていると語り『自分の気持ちを声に出して確認すること』の大切さを教え勧めた。

古市

介護施設で働く男性職員。仕事が終わると大急ぎで帰っていく翔子を優しく気遣う。そんな彼に翔子は一時ほのかな好感を持つものの、後に古市もまたバツイチであると知り、現実を見て憧れを無くす。

以下、各話あらすじ、ネタバレ

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自分の気持ちを確認して声に出してみる~様々な人と関わり変わり始める翔子、資格取得を決意する

夫、淳一との離婚を密かに決意し、介護施設で働き始める翔子。しかし、介護の経験も資格も知識も無い翔子は毎日着いていくのに精一杯。
今日も先輩職員の石原からは叱られてばかりだ。翔子は落ち込む一方で石原に感心すらする。いつもニコニコ笑って場を収めようとする自分と違って、素直に感情を表現できることに。

ある時、先輩職員達と雑談した翔子。やんわりと夫、淳一の愚痴(浮気の可能性があること)を言う。すると思った以上に場は盛り上がった。その最中で、先輩の女性の一人が笑いながら『見て見て』と自分の服を捲って腹を見せてきた。
ギョットする翔子。『元夫に刺されたの』そう、軽く笑う先輩。そのまま仕事に戻っていってしまう。翔子は唖然としたまま、その場に残されてしまう。
『私の抱える悩みなんて大したことないのだろうか』そう考えた翔子の心を見透かしたように、別の女性先輩職員が声を掛けた。
その先輩職員は語る。ここの職場はバツイチが多く、自分もそうであると。人の話を聞くと色々と比較してしまいがちだが、人それぞれ苦労があるのだと。そして、

「私も同じ。小島さんみたいだった。いつもニコニコして、いい奥さんして」「それが家族を守る手段だって思ってた」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 102/212

その言葉にドキッとする翔子。

「でもずーっとニコニコしてたら本当の自分がわかんなくなってきちゃって」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 103/212

自分と同じ…そう思い先輩の話を聞く翔子。先輩はモラハラ夫と離婚しようとしたものの、戦い方はおろか、怒り方さえ分からなくなっていたという。しかし、離婚相談で対応してくれた弁護士はそれを見抜いて『怒っていいんですよ!』と力強く言ってくれたのだ。それで始めて自分の怒りを出せるようになったという。

「小島さんも自分がわからなくなってるなら、確認してみるといいわよ」「何を思ってるのか」「なんて感じてるのか」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 104/212

その先輩職員の言葉は翔子の心に染み込んだ。
その後も石原からは怒られ続けるし、気性の荒い施設の利用者からは理不尽な暴力を振るわれたりもする。やはり、翔子は怒鳴られたり暴力を振るわれると体がすくみ固まってしまう。しかし、一方で優しい老人達も沢山いて一生懸命な翔子を励ましてもくれたりもする。
がんばりたい、負けたくない、強くなりたい…そう思ったり、一方でどうしたらいいかわからなくなったり。そんな日々が続く。

ある日、翔子の面接を担当した初老の女性上司がお弁当を食べながら、そんな翔子を励ます。
目標があってお金を貯めたくて介護の職場に飛び込んだものの、自分には向いていないのだろうか?』
素直にそう尋ねた翔子に上司は『翔子の様に前に出すぎないタイプも意外と合う職場だ』と語り、『目標とは何か』と尋ねる。
恥ずかしがりながらも『離婚して自立したい』と正直に翔子は答えた。すると上司は特段驚いた様子も見せず、言った

「じゃあ、ちゃんと資格をとりなさいよ」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 108/212

思ってもなかった上司の言葉に驚く翔子。ここの職場は全額ではないものの資格をとるための補助が出る、そして資格を取ればできる仕事も増える上、正社員になることも出来る。働きながら勉強するのは大変だが、目標があれば頑張れるはず!そう上司は翔子を励ますのであった。

帰宅して家事をこなしながら悩む翔子。ただでさえ今はもう手一杯なのに更に資格の勉強なんてできるのか?しかし、優しく見守ってくれる施設の利用者、励ましてくれた上司を思い浮かべる翔子。先輩職員の『自分の気持ちを声に出してみる』という言葉が脳裏によみがえった。

「こわいけど、やってみたい」
「勉強して資格を取りたい」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 110/212

声に出してそう言ってみた翔子。声に出してみると不思議と目標がある自分は頑張れる、そんな自信が湧いてきたのだった。

お母さんみたいな人になりたくない~怒れる様になった翔子は室井の家にいる淳一の元に押しかける

休日、資格取得のために講習を受けることになった翔子。子ども達を見てて欲しいと頼む翔子に夫、淳一は不満を隠さない。
仕事をしてなくても仕事を始めても、どっちにしても嫌な顔をする夫に苛立つ翔子。色々と言ってやりたいが、そんなことをして淳一に不機嫌になられるのが怖くて言えない。
『嫌なことに対して感情を抑え込むように訓練されている』…医師から言われた言葉を思い出す翔子。どうしたらこの呪縛が解けるのだろうと思う。

給料日が来た。翔子の給料は10万円弱だが、そこから更に資格取得のための費用が引かれている。目標には程遠く、思わずため息が出る。夫がいなくて気楽だと語るシングルマザーの職員たちを羨ましく思う翔子。
帰り際、そんな翔子の仕事を男性職員の古市が代わると申し出てきた。古市は『お子さんを迎えに行くんでしょ?』と翔子を気遣ってくれているのだ。いつもすごい勢いで自転車を漕いで帰っていく翔子が心配だと笑いながら語る古市。そんな古市に感謝し、自転車で子ども達の元へ急ぐ翔子。『古市さんみたいな人が夫だったら離婚したいなんて思わないのだろうか』『古市さんの奥さんが羨ましい』そう思ってしまう翔子。夫が夫なだけに、なんてことの無い男性の気遣いや優しさがやけに染入るのだ。

夫は私が少しでも早く花と優を迎えに行くために息切らして自転車走らせてるって想像したりしてるんだろうか?

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 117/212

してるわけないか…。そう落胆しながらも資格を取れるように頑張らねばと思う翔子。そんな翔子が迎えに行くと花と優は笑顔で駆け寄り、花は手作りのアクセサリーを翔子に『おまもり』とくれた。子ども達の明るさと優しさに翔子は励まされるのだ。

そして翔子は努力の甲斐があり資格を一つ取得した。褒めてくれる先輩。出来る仕事も増え、給料も少しだが上がった。一方で上司からはこのまま勉強を続けて次の資格を目指すように励まされる。取るべき資格はまだまだ沢山あるのだ。それを考えると翔子は少し気が遠くなる。
しかし、もっと沢山資格を取って正社員になったら給料も増える。目標があると頑張ることができる。なによりも自分の力で稼いで自分の力で生きれるようになりたい…。そう前向きに仕事に励み勉強を続ける翔子。夫のことでイライラすることも減っていた。

ある日、長女の花のランドセルを持って翔子の父と母が家にやって来た。昔は母や翔子、弟のナオに高圧的だったにも関わらず、今は穏やかで優しいおじいちゃんとなった父。花と優と庭で遊んでいる。部屋に残された翔子と母。翔子は母に尋ねてみた。『父との離婚を考えたことはあるか』と。昔は結構わがままだったでしょ…と。
そんな翔子の問いに母は笑顔で答える。
『色々とあったが今はこれで良かったと思う』『今は幸せだ』と。

ウソだ。そう思った翔子。
父は些細なことで不機嫌になり大声で怒鳴った。時には手だって出た。嫌じゃないはずがない。母は自分が不幸じゃないと自身に言い聞かせているだけなのだ。
翔子はそう考えて、ゾッとする。

私、お母さんにそっくりだ。
自分の感情を見せたりせず、いつもやさしく笑ってる。小さいころは「私、お母さんみたいになりたい」って思ってた。
だけどはじめて思う。
私、お母さんみたいな人になりたくない

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 124/212

子どものころ、父の機嫌を損ねないように家庭は回っていた。そして翔子は今、夫の機嫌を損ねないように…そればかりを考えている。怒鳴る父の顔色ばかり窺う毎日、本当はそんな家庭が不満だった。しかし、何を言っても無駄と諦めてはいなかったか。

夢の中でそんな子どもだった自分を抱きしめてあげる翔子。自分はもう子どもじゃない。解放されても良いのだと分かっている。そして、翔子は子どもの自分と手を繋ぎ、父に対してはっきり不満を告げる。

「こわい、怒らないで。こわい顔しないで」「大きな声出さなくったってちゃんとわかる」「お母さんのこともナオのことも怒らないで!!」
「そんなお父さん、大嫌い!」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 127-128/212

目覚めた翔子。夢の中でだがちゃんと怒ることが出来ていた自分に驚く。
そして現実でも怒鳴り散らす暴力的な利用者に対して笑顔でだが『怖いですよ』『もう少し優しい言い方をしてください』とたしなめることが出来た。
もちろん、それですべてが解決するわけではないが、翔子は少し気持ちが楽になったのであった。

休日の昼間だった。翔子は花と優を連れて公園に遊びに来ていた。夫、淳一は仕事があるという。二人が遊ぶ様を眺めながら自分のこれまで思い返していた。
夫、淳一が嫌いと思い続けてはいたが、それを夫に伝えることも無く、基本的に不満も怒りも閉じ込め続けていた。そして、それが家族を守るためだと思っていた。しかし、それが本当に正しいことだとはもう思えない。

公園では父親が積極的に子供達と遊んでいる家族もいて、それを見た翔子は素直に羨ましい、寂しいと感じる。思い立った翔子は子供達が懐いている弟、ナオのところに遊びに行くことにした。

しかし、弟の所へバスに向かう途中、窓から関わりの無いアパートの駐車場に夫、淳一の車が停まっているのを見つけてしまう。『今日は仕事と言ってたよね?』『もしかして』。弟、ナオの元へ着いた翔子はナオに子供達をお願いすると一人、アパートへ向かっていった。

許さない。花と優と私をほったらかして、さびしい思いをさせて。私、今、怒ってる。ものすごく怒ってる。

あんな夫大嫌いだけど、離婚するためにがんばってきたけど、今はまだ必要

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 136/212

夫、淳一のことは大嫌いだが、まだ…今すぐ離婚する気は無かった。まだ必要だ。そう思っている

勢いでアパートまで来てしまったものの、どこの部屋に夫がいるか分からず困惑する翔子。しかし、どこかの部屋からか『こじまー、これやってー』と名字を呼ぶ幼い男の子の声が聞こえてくる。自分がどうしたいのかもよく分からないまま、声が聞こえる部屋の呼び鈴を翔子は押した。

呼び鈴を押すと幼い男の子が出てきた。誰?と尋ねる男の子。すると、すぐに奥からエプロンを着た淳一が出てきた。明らかに食器洗いの途中だった様子の淳一。呆然とする翔子を見て、淳一もまた固まる。

いやっ、これは…、どうして、ここに?青ざめながら言う、淳一。しばし、声が出なかった翔子だったが、気が付くと大声で叫んでいた。

「あんたなんかいらない」「こんなやつあげるわよ!」「あんたとなんかやってけない。離婚だよ!!もう」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 139/212

アパート中に響く位に叫び、走り去った翔子。考えていた言葉と全然違う言葉を吐いた自分に驚いていた。本当は『夫は渡さない』そう言うつもりだった。しかし、エプロンをつけて、泡のついたスポンジとお皿を持っていた夫、淳一のあの姿を見て…。

うちのお皿なんか洗ってくれたことないのに。いったいどこの家の皿洗ってんのよ

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 141/212

自然といらない、あげるという言葉が出てきたのだ。夜道を一人歩きながら、気が付けば笑い出している翔子。

「いらない、あんなのいらないや」「大っ嫌いだもん、あんなヤツ」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 141/212

声に出しながら歩く翔子は笑いながら泣いていた。

離婚だ、私、離婚する…そう決意したのだった。今は仕事もあるし、お金も少しはある。一人で子供を育ててる人は沢山いる。自分にも出来るはずだ。翔子は自宅に戻り、持てるだけの荷物を持って、再び弟のナオの家に向かうのだった。

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離婚して私一人で子どもを育ててみせてやる~父と夫に正面から不満と怒りをぶつける翔子

笑顔で料理を作る翔子。狭い部屋で続く団らん。『楽しいね!』『せまいけど美味しいね!』はしゃぐ子供達。

「姉ちゃん…これ…いつまで続くのかな?」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 145/212

苦笑いを浮かべた弟のナオが言う。アパートが良いところ見つかるまで…そういって弟のアパートに二人の子どもと共に住み着いている状態の翔子。ナオのアパートは子供達の幼稚園にも職場にも近いので、便利なのだ。

少し困ったようなナオ。しかし、姉の翔子が明るく前向きに輝いているのを見て、驚いているようでもあった。

一方で翔子は弟のアパートで、もし自分が子供達と三人で安いアパートで暮らしたらこんな感じか…等々シミュレーションをしていた。防音機能の低さ等を気にする翔子。しかし、そんなことを考えていると、自然と夫、淳一がいた室井のアパートが思い浮かんでくる。

今頃慌てふためいたりしているのだろうか?それとも…色々と考えてしまうが、翔子はそんな気持ちを振り払いながら食器洗いに専念する。その時、呼び鈴が鳴った。それも連打である。もしかして、夫?慌てる翔子とナオだったが、止める間もなく優が扉を開けてしまう。

そこにいたのは、意外なことに父と母だった。父は既に怒っている様で、後ろにいる母が困ったように告げた。淳一から電話が来て、3人が来ていないかと聞かれたという。

「おまえはいったいなにしてるんだ」「小さい子どもがいながら勝手なことをして!!」「母親失格だ!!」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 150/212

事情を聞くこともせず、一方的に怒鳴り付ける父に縮み上がる翔子。しかし、意を決して言い返した。

「私にだって色んなことがあって、いろいろあってこうなってる」

「父さんには関係ない!」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 151/212

翔子の言葉に怒り、父はちゃぶ台を殴る。
しかし、翔子はもう引かなかった。この際だから言わせてもらう…そう告げて、子どもの頃からの不満と怒りを吐き出した。『いつも父の顔色を伺い我慢していた』と。以前見た夢の様に。翔子の言葉に青筋を立てる父。母はそんな翔子と父の間に入るように、『翔子はいい子よ』と言うが、翔子はハッキリとそれを否定した。

「そんなの違う!うそだ!うそだ!うそだ!」

「いい子だなんていわれたって全然うれしくない!吐き気がする!」

「いい子っていうのは父さんのいうこと聞く都合のいい子ってことだよ!」

「父さんといるの苦しかった!いい子の顔してるの、もうつかれた!!」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 152/212

叫び続ける翔子。両親に一切口を挟ませない。今まで言えなかった不満。自分がこんなに大声を出せるとは知らなかった。(子ども達は弟のナオが台所に連れて行っている。)

夫への不満も含めて言いたいことを全て言いきった翔子。
息を切らしていると父が静かに言った。

「そうか。父さん…悪かった。ごめんな」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 154/212

そう頭を下げた父に翔子は驚いた。そんなにあっさり謝罪されるだなんて思ってもみなかったのだ。しかし、父の言葉に自分の中に溜まっていたモヤモヤが消えていくのを感じる。

自分こそ言い過ぎた…翔子もそう父に謝る。父は確かに怖い人だったが、今となってはそんな父に守られてきたこともちゃんと理解出来る。

その後、父と母と和解した翔子。事情を知った両親は『いつでも子供達を連れて帰ってきなさい』と言ってくれた。それに対して感謝の言葉を告げて、夜道二人を見送った翔子。『でも大丈夫。自分でなんとかする』と心の中で呟きながら。

翔子は思う。夫にも父にしたように言いたいことを吐き出していたら何か変わっていたのだろうか。しかし、もう遅い、そうハッキリと思っていた。

一方、夫、淳一は一人家で困惑していた。翔子があんなに怒るのを見るのは初めてだった。室井のアパートで見た、翔子の怒りの形相を思い出す淳一。

『室井との仲を勘違いされた』と焦る反面、どこかで『こいつ、面白いじゃん』と感じた。いつもニコニコ笑顔でなんでもかわしている様な翔子が見せた意外な一面に新鮮さを覚えたのだ。

すると、呼び鈴が鳴る。翔子かと思い、ソファーから飛び起きる淳一。しかし、期待に反して、やって来たのは姉の佳織であった。

翔子さんいないの?と尋ねる姉に淳一は翔子は出掛けていると誤魔化す。翔子が居なくなってからは散らかり荒れる一方の部屋を慌てて片付けながら姉の応対をする淳一。お茶ひとつ満足に出せない淳一にダメ出ししながらその様子を眺める佳織。

佳織は翔子が介護の仕事を始めたことについて、『本気だ』と言った。そして、その意味が理解できない様子の淳一に尋ねた。

「あんたちゃんと手伝ってる?」

「翔子さん仕事始めたのに、なにも変わらずふんぞり返ってないでしょうね?」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 159/212

姉の言葉にギクっとする淳一。そんな弟に呆れた様に佳織は語り続ける。翔子の様に普段ニコニコしているタイプが一番怖いのだと。不満を溜めに溜めて、ある日『ちょっとお醤油を買いに行く』と行って帰ってこなくなるタイプだと。

「奥さんが文句ひとつ言わなくなって、ただニコニコするようになったら。それ、あきらめられたってことだからね」

「間違っても奥さんの笑顔の上にあぐらかいちゃだめよ」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 160/212

戦慄する淳一。姉の言葉に初めて、翔子が出ていったのは室井のことだけが原因じゃなかったと気付いたのだ。そんな弟の様子を見て、色々と察した様子の佳織。淳一に対して、人には厳しいのに打たれ弱いと指摘し、一人身になったらショボくれること間違いなしとまで言う。佳織の職場にはそういうバツイチのオジサンが多いのだと言う。弟がそうなりませんように…そう茶化して拝む真似をした佳織。仕方ないからもう帰るとソファーから立ち上がった。

そんな姉に淳一は今更ながら、何しにやって来たのか疑問を持ち、尋ねる。佳織は振り返りもせずに『醤油を買うついでに寄っただけ』と答える。そして、『夫はわからんちんで、子どもはわがままだ』と少しだけ家庭の不満をこぼすのだ。

姉もまた疲れている。そのことにやっと気付いた淳一は佳織に、姉ちゃん、大丈夫…?と声を掛けた。しかし、佳織は困ったような笑みを浮かべながら淳一に逆に尋ねるのであった。

「そういうの、ちゃんと翔子さんにいってる?」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 162/212

姉が去った後、淳一は色々と考えながら散らかった部屋を片付けていた。姉と翔子は全然違うタイプじゃないか。そう思いながらも、佳織の言葉にショックを受けた淳一。翔子がいつの間にか変わっていたことにも気付く。

これから自分はどうなってしまうのか。そう不安に思いながらも夜通し、家中掃除機を掛け続けるのであった。

久しぶりに荷物を取るためにこっそり家に戻った翔子は家が片付いており、換気扇までピカピカになっていることに驚く。すると、予想外に淳一が戻ってきてしまい、鉢合わせてしまう。逃げて隠れようとする翔子だったが、淳一は慌てて引き留める。『翔子が勘違いしているだけ』と言う淳一に対して『後で離婚届を送る』と答える翔子。淳一は青ざめながら、『室井とはなんでもない』とあの日の出来事を説明し始める。

ある時、室井の店に行くと、室井は手を怪我していた。家で家具の組立に失敗して負傷した上に家具は出来上がっていないのだと言う。心配した淳一は仕事帰りに室井のアパートに行って家具を組み立てることにした。ついでに室井の手のキズが深そうなのを見て、『自分が子どもを見てやるから』と病院に行かせた。その後すぐに家具の組立は終わったものの、室井の家はとんでもなく散らかっており、室井が戻ってくるまで少し片づけてやることにしたのだと言う。そして食器を洗っているところに翔子はやってきて勘違いしたのだ(翔子がキレて叫んだとき、室井は病院に行っていてアパートにはいなかった)。

『おまえ、なにか勘違いしたんだろ?』そう淳一は言うが、翔子の怒りの原因はそこではない。

「あなた、家でお皿のひとつも洗ってくれたことないよね?」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 165/212

その問いかけに関して、淳一は困惑しながらも、『室井は離婚して女一人で頑張ってかわいそうだから』と答える。その言葉に、翔子はなぜ淳一が室井の息子から見下したように『こじま』と呼び捨てにされていたのか、瞬時に悟った。

そして、室井の一件はきっかけにしか過ぎないとハッキリと淳一に告げた。『あなたはいつも私を見下して頑張りを認めることはなかった』と。

「私、毎日あなたにごはんを作るのが嫌でしょうがなかった。あなたにごはんの点数をつけられるのが嫌だった」

「すぐに機嫌が悪くなるのも怒りっぽいのも大嫌い。ずっとがまんしてきた」

「いつもあなたの機嫌を損なわないようにって…そんな生活、もう限界」

「だから離婚したいの」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 166/212

子どもは自分が育てる…そう強く言い切る翔子。翔子の言葉にがく然とする淳一。やだ、離婚したくない、考え直してくれ…狼狽えながら弱々しくすがり付く淳一。そして、室井の家を引き合いに出して、『子供達にあんな生活させたくない』と述べる。

そんな淳一に心底呆れる翔子。頑張っている室井を無意識に『かわいそう』と見下している淳一。そんな底の浅さを見抜いて、室井の息子は淳一を『こじま』と呼ぶのだろう。

そして、急に父親面する淳一に、何か今まで父親らしいことをしたことはあるのかと翔子は尋ねる。悪いところを直すから、ごめん、悪かったと下手に出てすがり付く淳一。しかし、翔子はそんな淳一の姿を見ても、全く情が湧かなかった。

父の時は言いたいことを言って、謝罪の言葉を聞いたら溜まっていた感情が流れていった。しかし、淳一に対してはそうはならなかった。何故なら、翔子は淳一が本当に反省なんてしておらず、『涙を浮かべて謝る姿を見せることで、翔子に罪悪感を持たせようとしているだけ』だと見抜いていたからだ。

「前に私に「おまえ一人で子ども育てるとかできる?」って聞いたよね?」「やってみせるわよ」

「離婚して私一人で子ども育ててみせてやる!」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 168/212

叫ぶ翔子。自分のために生きる。そう決意して。

ラスト~私の心と子どもの心を守れればそれでいい~自身の腹黒さを認めた翔子が辿り着いた結末は…

『もう、こんな時間』朝、優しく子供達に、もう少し早くご飯を食べるように促す翔子。そんな翔子にニコニコしながら『ママ、コーヒーは?』と尋ねるのは淳一。礼を言いながらも時間が無いからと断る翔子に、淳一は愛想よく、片付けは自分がすると言う。今日、子供達を幼稚園に送るのは淳一だ。ついでに淳一にゴミ出しも頼む翔子。淳一は笑顔で了承する。

「あれれれれ?離婚どうなったの?って思いますよね?」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 172/212

働きながら先輩職員に言う翔子。話を聞くのは自身の体験を元に、翔子に『自分の気持ちを声に出して確認すること』の大切さを教えてくれた先輩職員だ。

『残念だが保留』そう語る翔子。とてもがっかりしているのだ。

離婚の意思は本物だった。しかし、出ていくにも良いアパートは見付からなかった上、上司からは『正社員登用された場合は夜勤が必須になる』と説明を受けた。夜勤時に預けられる保育園を探したものの、その保育料の高さに驚愕した翔子。金銭的にまだまだ難しかったのだ。

そんな翔子に先輩職員は言う。『夫が嫌いでも離婚しないでやっていけるのならばその方が良い』と。自身がシングルマザーの先輩は、一人で子供を育てていく大変さや、そして常に付きまとう金銭面の不安を良く分かっているため、翔子に安易に離婚を勧めないのだ。

そして、翔子が離婚を保留したもう1つの理由が、弟のナオが打ち明けた、ある話であった。淳一に自宅で離婚を宣言した後のことだった。ナオは『淳一は悪いところを直すと言ったのだからもう少し様子を見てから離婚でも良いのではないか』と翔子に言った。そして、

「母さんだって一度「離婚する」って家出たことあんだよ」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 174/212

と意外な話をし始める。それは翔子が就職したばかりで実家にいない時のことだった。母が今までの不満と怒りを爆発させて家出をしてしまったのだという。しかし、父が謝り倒し、説得した結果、母はしぶしぶ戻ってきたのだ。そして、それをきっかけに父はずいぶん丸くなったのだと。

母は翔子には内緒にしておいて欲しいとナオに口止めしていたという。翔子は考える。母が離婚をせずに戻ってきたのは就職して間もない自分とまだ学生だったナオのためだろうと。『お母さんみたいになりたくない』だなんて思っていたことを申し訳なく思う翔子。いざ、離婚をしようとすると色々と不安がよぎる。

翔子は室井のアパートに向かった時のことを思い出す。あの時、翔子は確かに『大嫌いだけどまだ必要だ』と思っていたことを。
今はまだ、離婚する時じゃないのかもしれない…そう悟った翔子は子ども達を連れて家に戻ったのだ。

家に戻ると夫、淳一は甲斐甲斐しく手料理を用意して待っていた。喜ぶ子ども達。翔子は『あなたが変わると言うから』とだけ呟くと。淳一は『帰ってきてくれてありがとう』と答えた。

そして、そのまま何事も無かったかのように4人の暮らしが続いている。
夜、布団の中で一人涙を流す翔子。結局まだ離婚できていない自分が悔しくてたまらなかった。しかし、『前の私と同じではない』『何か変われたはず』『仕事を始めて資格も取って不満や怒りを吐き出せるようになった』『淳一も変わると言った』『そして自分でこの家に戻ることを選んだ』…自問自答を繰り返す翔子の頭を、幼い姿の翔子が撫でて言う。
『わたし、がんばったね』と。

前と同じではない…精一杯の自分の頑張りを認めて翔子は眠りに落ちていった。

そして、ある時翔子は自身を振り返ってみた。そもそも、何故自分はこんな大嫌いな淳一と結婚したのか。きっと何かを好きになったはず…淳一のことを考えることすら嫌だが、思い出してみることにした翔子。そして、笑い出した。

そうだ、そうよ、最悪な夫の、最悪なところに惹かれたんだ

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 180/212

出会ったのは合コンだった。空気を一切読まず、無神経な発言を繰り返す淳一。人に嫌われることを恐れて、事を荒立てないことを第一に考えてきた翔子は、平気で人に嫌われることが出来る淳一をすごいと感じた。そして、『この人と一緒なら盾になってくれるかも。自分で戦わなくていいかも』そう思ったのだ。ぼちぼち周りにも結婚する人が出てきて焦っていた。結婚すれば上手く行っていない仕事や人間関係からも逃れられると思っていた。『あわよくば幸せになれるかも』なんて…。

自分で生きようとしてなかった、最悪な私。だからバチがあたった

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一人家で笑い続ける翔子。二人で手を繋いだこと、結婚式…そんな様々な光景を思い出しながら、『決して淳一と一緒に生きていきたいとか、そんなのじゃなかった』と結論付けながら。

弟のナオの家を一人で訪れた翔子。離婚を取りやめることをナオに伝える。そんな自分のことを自虐する翔子にナオは意外なことを言う。昔から翔子は『ニコニコしながら怒る人』だったと。

驚く翔子にナオは続ける。翔子は昔から笑顔で外面は良かったものの、いつだって怒りを溜め込み、相手への仕返しを考えている人間だった。ナオが誰かにいじめられると陰湿な仕返しの方法を考えていた翔子。『自分は翔子が代わりに怒ってくれたから、父親に対しても怒らずに済んだ』そう語るナオに唖然とする翔子。しかし、納得もする。昔から弟のナオが泣く顔を見るのが嫌で、弟をいじめる人間が許せなかった。今だって子ども達が泣くのが嫌だ。だから今は離婚をしないのだと。

そして『どんなに苦しくても反射的にニコニコしてしまう自分』…前はそんな自分が大嫌いであった翔子だが、今はそんな自分のことを気に入っている。何故なら、機嫌が悪い人間より、ニコニコしている人の方が絶対的に好かれるからだ。
実際に翔子は怒ってばかりの石原よりも、利用者の老人たちから好かれて『ショーコちゃん』と可愛がられている。翔子は自分の特性を存分に利用することにしたのだ。

そんな翔子はついに正社員になることが出来た。正社員になった翔子は急に職場から夜勤を頼まれることも珍しくなくなった。
明日は夜勤だからと告げると夫、淳一は協力的な態度を取る。
淳一は変わった(ように見える)。そして翔子自身も忙しすぎて淳一に腹を立てている暇もないのだ。たまに忙しく献立が手抜きになり、そのことにやんわり淳一が不満を言っても『文句があるなら食べなくてもいい』と言い返し、積極的に食器を洗う淳一に笑顔で『食器洗い得意だもんね』と嫌味を言う余裕もある。もし、仮に以前の様に暴言を吐かれても全力で対抗できる自信があった。限界が来たらまた離婚を考えれば良いと考えているためだ。

『愛なんて長く続かないものなのだ』と思うようになった翔子。職場で自分を優しく気遣ってくれた男性職員の古市もまたバツイチだと知り、驚き少し幻滅してしまう。

今は私の心と子どもの心を守れればそれでいい

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夫に対して愛情も期待も全くないものの、そう思って完全に割り切ることにしたのだ。

休日、夫、淳一と花と優を連れて公園にやって来た翔子。4人で全力で楽しく遊び、皆でアイスを食べる。淳一が口をつけた後のアイスを食べたくない等と感じながらも、それを隠して翔子は笑顔で過ごす。夫への愛は皆無だがそれなりに平和にやっていけているし、それなりに幸せだと思う翔子。

だけど、ここに愛があったならもっと幸せなんだろうな

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 191/212

どこかでそう感じる翔子。ふと、近くにいる若い子連れ夫婦が目に入る。
その家族はとても幸せそうだった。優しそうなパパに可愛らしい子ども。キラキラしている…そう眩しく感じる翔子。

幸せそう。うらやましい。なんてうらやましいんだろう。
でも、あの奥さんも、私たちを見てそう思ってたりして

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 192/212

翔子は一瞬そんな他愛無いことを思ったが、すぐに前を向いて歩きだした。
一方、子連れ夫婦の妻の方がそんな翔子達に気付き、羨ましそうな表情を浮かべた。

彼女の目には翔子達が幸せそうにキラキラと輝いて映っているのであった。

~終わり~

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【巻末描き下ろし】それから5年~長女花のつぶやき

花は小学5年生になっていた。帰り道、『花のうちは家族仲良くていいな』と友人から言われる花。
そんなことはない…そう淡々と答える花。

花は知っている。母は父のことを嫌っていて、愛情など全く持っていないということを。

同級生の家庭が離婚したと言い、次はうちの番かも、その時はそっと慰めて欲しいと語る友人。花のクラスメイトの家庭は、半分が離婚していた。春、夏休み、年明け…節目節目に終わっていく同級生たちの家庭を見て、花も『次はうちかもしれない』そう思って暮らしてきた。

もし、親が離婚したら父と母、どちらが良いかと友人に尋ねられた花。

「私は一人で暮らす」

「家族なのに好きとか嫌いとか仲悪いとかめんどくさい」
「ふり回されるのうんざり」「だから一人で暮らしたい」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 197/212

花は冷めた目でそう答えたが、その直後笑顔を作り言った。

「うそうそ。パパもママも大好きだし、みんなで暮らしたいな」「ずっと」

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どちらも花の本音であった花は5年前の出来事をしっかりと覚えていた。
母が自分と弟の優を連れて叔父のナオの家に家出した日のことを。

当時まだ6歳であったが家族の状況をなんとなく理解できていた花。あのまま家に帰れないと思った。
しかし、母翔子が委縮せず心から笑っているのを見てそれでも良いのかもしれないと感じていた。
一方で、帰宅した時父、淳一が夕飯を作って待っていたのを見てとても嬉しく思い、その晩深く眠れたことも良く覚えている。

帰宅した花。家では母、翔子が父への不満を大きな独り言で言いながら家事をしている。まただ…そう思っている花に母は、
『今度の休みナオの結婚式に来ていく服を買いに行こう』と笑顔で言うのだ。

叔父のナオがもうすぐ結婚するのだ。
しかし、花は乗り気でなかった。懐いていた叔父が結婚することも面白くなかったし、相手の女性が『鼻から声を出してしゃべる人』で気に食わないのだ。

「どーせすぐに別れるくせに」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 200/212

そう言ったのは弟の優だった。冷めた様子で『自分ではない、同級生の室井が言った』と語る優。
花は面白くない。弟の同級生の室井が嫌いなのだ。

あいつのママ、パパの同級生らしいけど(室井息子は)やけにパパとなれなれしくて

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 200/212

父を呼び捨てにする室井の息子にキツイ態度で接している花。
父である淳一は室井(母)に母、翔子や自分達の前では見せない笑顔を向けることを花は理解していた。

結婚って何?嬉しいの、楽しいの?勉強だって何のために誰のためにするのか?とりあえず何にでも苛ついてしまう花。

しかし、表立って不満を漏らすことなく、今日も帰宅途中、友人達の前でナオの婚約者の物真似をして皆を笑わせるのだ。
友人達と別れた花。帰りたくないと呟きながらも真っすぐ家に向かう。

幸せそうに光ってるくせにうそっぽい。いちど割れた皿をのりでくっつけたようなそんな家族
うそ家族

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 204/212

そう自分の家族を評する花。しかし、

もしいちばん幸せって思ったころはなんですかって聞かれたら(中略)
パパとママと優にはさまれてお布団に眠ったこと

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 204/212

そう答えるだろうと考えもする。
幼少期、何も心配なく幸せな時間を過ごした頃に想いを馳せる花。

きっとまだ大丈夫。まだ、まだ家族なはず
せめて私が大人になるまで家族でいて

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 205/212

泣きそうになりながら近づいてくる家を見つめる。

よかった
私今日もこの家に帰れる

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 205/212

~終わり~

以下、感想と考察

翔子の成長、変化について

特筆すべきは翔子の『反射的にニコニコして取り繕ってしまう癖』の描き方だろう。こういう『人の顔色を伺って言いたいことを言えない』系の主人公は今まで色んな作品に数多くいて、この作品も今までの例にもれず、『こんなの本当の自分じゃない、偽りだ』といったありきたりな展開をしていったが、この作品の翔子はこの一見すると負の特性を最後に自身の『強み』『武器』として昇華、利用するしたたかさを見せた。この描写に感心。
そうだよね、これってサービス業において凄い強み。

作中、特に後半から翔子は変わり、前向きに強く、そして自身の腹黒さを飼い慣らしていく。

翔子は残念ながら離婚は出来なかった。しかし、現実的に考えて、やはり、難しいだろう。さしたる特技や資格も元々持っていなかった翔子。どんなに頑張って資格を一つ取得したところで、介護職の給料はさして高くならない。そして幼い子どもが二人。離婚したくないからと言ってすり寄って来ている淳一だって、離婚したら手のひら返して養育費なんて全然払わないかもしれない。翔子が悟った通り、まだその時期ではなかったのだ。

生活のためと割りきり、夫、淳一をATM兼家事&育児マシーン(パパ役)として利用することを決意した翔子。全く愛の無い、黒い結末は賛否あるだろう。結局、夫に依存したままだと批判する人もいるかもしれない。

しかし、これも一つの処世術だ。そして、愛も情も無い相手との婚姻生活を続けるなんて強い覚悟が無いと出来ない。翔子は確かに強くなったのだ。

ただ…。翔子は淳一との出会い、思い出まで『最初から愛情は無かった』『卑怯な自分が打算で選んだだけ』と自分に言い聞かせた。その反面、思い起こされた若い二人の光景は愛情に満ちた微笑ましいものだった。そこに愛情は本当に無かったのか?『愛なんて最初から無かった』そう思うことに決めた翔子の姿が少しだけ、寂しい。

この作品、以前に記事を書いたが「ふよぬけ」と共通項が非常に多い。というよりは時期的にも掲載媒体的にも「ふよぬけ」の方がこちら「離婚してもいいですか~翔子の場合」を意識して寄せて来ているではないかと穿った見方をしてしまう。 個人的には「ふよぬけ」よりもこちらの方がリアルでブラックで好き。「ふよぬけ」が無理矢理いい話風、ハッピーエンドで終わらせている。夫とは分かり合えていないのに、分かり合えたかのように自身を誤魔化している。
対して、こちらは翔子に芽生えた腹黒さをしっかり描き、夫に対して愛情が無くなった様や、その後の話では子ども目線で家族の歪さ難しさを提示しているから。

『ふよぬけ』の記事はこちら
【漫画】夫の扶養からぬけだしたい(ふよぬけ)【感想・ネタバレ】~すっきりしない、モヤモヤが残るラスト・結末
【漫画】夫の扶養からぬけだしたい(ふよぬけ)【ネタバレ・各話あらすじ】専業主婦の挑戦と飛び出す夫のモラハラ発言集

夫、淳一の行動は浮気・不倫なのか?

仕事の帰りにシングルマザーの同級生、室井の家に行っていた淳一。でも、浮気していたわけではない。室井が家具の組み立て中に手に怪我をしてしまったのを知って、家具の組み立てを手伝いに行っただけ。ついでに子どもを見ててやるからと、病院に行かせて、手が空いたので皿洗いをしていただけだと…。普段、自分の家庭で皿洗いなんて絶対にしないのに室井のためにならやる…と。

…イヤ、アウトですやん、これ。
再構築に持ってくための展開、あるいは連載元がレタスクラブということもあって、あまり過激な話を載せられないから、ギリギリ『浮気じゃないよ、誤解だよ』という方向に持っていたのかもしれないけど、冷静に考えれば考えるほど、ヤバい。この夫淳一の行動、ある意味肉体関係を伴った浮気よりよっぽどヤバイんじゃないかと思う。

本当にやましさが無いなら、翔子にちゃんと事情を伝えてから行けば良いだけの話だし。…淳一は明らかに室井に対して純粋な好意を抱いている。それが高校の時からなのかどうかは分からないが(長女の名付けの際、室井と同じミキという名を候補に入れた辺り怪しい)、室井と翔子を比較してため息をついたりなんかして。翔子に好きだったのかと聞かれただけであんなに激昂するのは図星だからだろうに。

『助けてあげたい、力になってあげたい』という、妻、翔子に対して決して持たない感情を室井に対しては持ててしまう淳一。『可哀想だた惚れたってことよ』…夏目漱石先生もそう言ってますよね、明治の頃から。だからこれは浮気じゃなくて、ある意味、本気だ。

結局、翔子にバレたことや、室井にその気が無かったことから、状況的に意識的に男女の関係に至らなかっただけ。もし、翔子にバレてなかったら、そして室井が積極的に淳一にモーションを掛けていたら…?

とにかく、淳一の感情、そして愛がどこに向かっているのかは、その後の話『それから5年』で室井の前だけで見せる笑顔が全てを物語っている。うへあ…。
まあ、この一連の出来事で妻、翔子は再構築したものの、夫に対して愛情は全く無くなっているし、以前の様な従順さ優しさも消え失せている(一応子供達の前ではある程度取り繕ってはいるが)。
淳一にとって家庭は安らぎの場ではないのだろう。それが彼に課せられたペナルティなのだ。

室井は淳一のことをどう思っていたのか?作中解明されない謎

そもそも、淳一は休日は行き先を告げずにどこに出掛けていたのか?この謎が実は解明されていない。もし毎回室井の所に行っていたのだとしたら、やっぱり浮気だし、それを許している室井もおかしい。だって室井は淳一が妻帯者だと分かっているのだから、休日妻子をほったらかして自分の所に来るのを許しているのはおかしい。まあ、淳一が適当に誤魔化してた可能性もあるけれども。

作中において室井が積極的に淳一を誘っている描写や関係がある証拠が無いだけで、実は限りなく室井も黒に近いのでは…と勘ぐってしまう。その辺りあまり詳しく作中で描かれていないので、推定無罪というところなのだろうけど。あくまで室井は明るく、前向きでサバサバして、専業主婦である自分の妻を貶す発言をする淳一をたしなめる等、良識のある人物という設定がされている。…うーん。

そして、室井の息子と優は小学校の同級生なのか…。その場に室井が居なかったとはいえ、室井のアパート(防音機能低そう)の外廊下で『こんなやつあげるわよ!』と修羅場感満載の台詞を翔子は絶叫してる。この後、どうなったんだろう。同じアパートの住民にヒソヒソされたりしなかったか?仮に淳一がこの出来事を隠したとしても、息子からは何らかの話を聞いていると思われるが、二人はどんな思いで小学校で顔を合わせるのだろうか。まあ、翔子も外面良いし、室井も基本サバサバしているから、表面上は何事もなくやっていくのだろうけど…。何にせよ、作中において名前は頻繁に上がるものの、室井自身は意外と描かれていないので、彼女が本当は何を思う、どんな人間なのかは読者の想像に委ねられるのだ。

愛情の無い夫婦関係の是非

この翔子の選択について、ブラックで中々良いね…位に思っていたのだが、巻末描き下ろしで、子ども目線で見ると…。また何とも見方が変わってくる。切ない。どんなに表面上取り繕っていても、親同士の愛情の無さ、関係の歪さは子どもにも分かってしまう。しかし、それぞれは決して悪い親では無いからこそ、『離婚した方が良い』とは簡単に言えず、子ども達も色々思いながらも『家族一緒でありたい』と願っている。なので、翔子はラストで決意した通り、淳一との婚姻生活を続けることで、子ども達の望みと心を一応守れてはいる。しかし、それは万全ではない。だからといって失われた夫婦の愛情は戻らない。辛い、そしてリアルだ。野原広子は本当に、こういう風に心に爪痕を残すのが上手い。

そして、クラスの半数が離婚家庭という設定に驚くが、今の御時世では珍しくもないのかもしれない。現在アラサーの自分が小学生の頃は離婚家庭は学年で1割程度しかいなかったが、10数歳下の従妹の話を聞くと随分多くて驚いたものだった(地域差もあるだろうが)。

時代は変わり、常識と家族のあり方も変わっていく。しかし、家族の別離が子供達の心に与える衝撃自体が無くなるわけでは無い。色々と難しいものだ。

まとめ~隣の芝生が青いのは当然だが…

本編のラストシーンが象徴するように、きっと何も問題の無い家族なんていないのだろう。隣の芝生は青く見えるだけ。ラスト若い母親の目に、翔子達が幸せ一杯の輝ける家族に見えたように。しかし、だからといってそれぞれの家族の問題、課題を『よくあること』と一般化、抽象化し過ぎると見直すことも話し合うことも出来ないまま、ある日突然崩壊を迎えるのだろう。翔子と淳一の関係の様に。それを防ぐためには互いの善意、好意にあぐらをかかず、地道にコミュニケーションを取り続けるしかないのだろう。

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