【漫画】消えたママ友【ネタバレ・各話あらすじ】ママ友の有紀は何故消えてしまったのか…不穏なラスト・結末は…

『ママ友は友達なのか…?』そんな禁忌の問いかけを『ママ友がこわい』で世間に投げ掛けた野原広子氏は今度は別の角度から“ママ友”について問いかける。

仲の良かったママ友の失踪によって揺れ動く女性達の心理を丁寧に描く『消えたママ友』。果たして、何故ママ友は消えたのか、そして、それを知ることによって他のママ友達は何を思うのか…。

【漫画】消えたママ友【感想・ネタバレ】あなたはママ友の何を知ってますか?…世にも奇妙な“ママ友”という関係を考える

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Contents

消えたママ友の登場人物・キャラクター

子供を同じ保育園に通わせている仲良しのママ友4人組とその家族達。

大久保家

大久保春香(30歳)…春ちゃん

本作の主人公。食堂でパート勤務をしているセミロングの女性。基本的に大らかな性格をしているが、やんちゃ過ぎる息子のコー君に手を焼いており日々悩んでいる。他のメンバー達の中で特に有紀に対して憧れと好感を持っていた。

大久保広太…コー君(4歳)

春香の息子。明るく活発だがそれゆえに他の子と衝突したりトラブルを起こしがち。

春香の夫

サラリーマン。のんびりとした性格をしているが、やや無神経で一言多い。また酒が入ると弱気になり愚痴っぽくなる。有紀の一件で動揺する春香に『よその家庭のことに首を突っ込むべきではない』と諭す。

安西家

安西有紀(32歳)

”消えて”しまったママ友。茶髪のロングヘア。商社勤務で多忙だが、保育園の後や休日に度々春香達と共に子供を遊ばせていた。美人でお洒落で気立てもよく、周囲からは羨望の眼差しで見られていた。

安西翼…ツバサ君(4歳)

有紀の息子。コー君と異なり非常に聞き分けの良い男の子。おばあちゃんっ子。有紀の失踪後不穏な発言を繰り返す様になる。

安西昇、ノボルさん(34歳)

有紀の夫。穏やかで優しい雰囲気の眼鏡の男性。有紀と同じく春香のことを”春ちゃん”と呼ぶ。

安西綾子(58歳)

有紀の姑でノボルの母親。有紀達と同居しており、家事やツバサの世話をしている。家事全般が得意でにこやかな女性。

斉藤家

斉藤ヨリコ(35歳)

しっかり者で正義感の強い黒髪ストレートの女性。夫の実家の店を手伝っている。春香達他の三人と違い、二人目育児のために良くも悪くも自信と諦観を持っている。さっぱりして面倒見の良い性格をしているものの、良い大学を出ているにも関わらず夫の実家の手伝いと育児に忙殺される現状に秘かに不満を持っており、有紀に対して嫉妬心を抱いていた。

斉藤莉緒…リオちゃん(4歳)

ヨリコの次女。勝気な性格をしている上に、小学生の姉の影響もあり口達者。そのため春香の息子、コー君と言い争いになることも多く、友子の娘すうちゃんに対して高圧的に接している。

八尋家

八尋友子(26歳)

コンビニのアルバイト店員。グループの中で最も若いお団子頭の女性。一見明るく自由奔放な様だが、実際は現実的でドライな価値観を持っている。また、内心はグループの集まりに辟易していた。夫への愛情が冷めきっており、秘かに離婚を目指して貯金をしている。

八尋すみれ…すうちゃん(4歳)

友子の娘。とても大人しくマイペースな性格の女児。ヨリコの娘であるリオちゃんと仲が良いが、気が弱くイジメられることが多い。

友子の夫

友子の夫。親としての自覚が乏しく、友子やすうちゃんに対して関心が無い。パチンコが趣味。

以下、各話あらすじ、ネタバレ

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第1章~突然消えてしまったママ友の有紀ちゃん…仲が良かったはずなのに何も知らなかった春香、ヨリコ、友子

第1話~4話…突然の有紀の失踪に春香達はただただ戸惑う

子供を保育園の同じクラスに通わせる春香、有紀、ヨリコ、友子は仲が良い”ママ友”だった。

その日、春香は息子コー君を保育園に迎えに行った後、有紀とその息子ツバサ君と一緒に公園で遊ぶ約束をしていた。

朝、保育園にコー君を連れて登園する春香だったが、園の雰囲気がどこかおかしい。母親達が何やら皆ヒソヒソ話をしながら春香のことを見ているのだ。

妙に思いながらもコー君を保育士に預け終えた春香。すると、そんな春香の所にヨリコがやって来て、戸惑った様にこう言う。

「春ちゃん聞いた?」
「有紀ちゃんがツバサ君置いていなくなったって」

消えたママ友 野原広子 9/176

その言葉の意味が分からず『え?』と固まってしまう春香。すると、そこに何も知らない友子が『怖い顔してどうしたの?』と無邪気に笑いながらやって来る。そして、友子もまた事情を聞いて呆然とするのであった。

保育園ではあちらこちらで母親達が有紀の噂話をしていた。

『ツバサ君のママがツバサ君を置いて家を出てしまった』『男と逃げた』…そんなことが囁かれていた。

そんなわけない、有紀ちゃんはそんな人ではないのに…そう困惑する春香、ヨリコ、友子。すると、そんな3人に別のママ友が『ツバサ君のママが男の人と一緒にいなくなったって本当?』と尋ねて来る。そして、春香が『私達も知らない』と答えるとこう言うのであった。

「なあんだ」
「仲良かったのになにも知らないんだ」

消えたママ友 野原広子 13/176

そう言ってガッカリした様に去って行ったママ友。彼女の『仲が良かったのに何も知らない』という言葉は春香達の胸に深く突き刺さるのであった。

その日の春香は食堂の仕事に遅刻したうえ、ミスをする等散々な仕事ぶりだった。どうしても有紀の事が頭から離れないのだ。

有紀はどんな人間だったか…。春香の息子コー君と同い年のツバサ君の母親で、美人でお洒落で優しく明るくて、商社勤務で仕事をバリバリしていた。そして、息子ツバサ君は良い子で可愛くて、夫のノボルも優しく、同じく優しい同居の姑綾子が子育てと家事を手伝ってくれている…そういう理想的な環境にいる素敵な女性だったのだ。

そして、先週の金曜日仕事休みだった有紀はツバサ君を保育園に迎えに来た後、春香とコー君と一緒に公園で遊び、『次のお休み(今日)また一緒に遊ぼう』と約束し手を振って別れたのだ。しかし、今日春香がそのことについて有紀にLINEしても返事はおろか、既読もつかなかった。春香は『有紀ちゃんに何があったのだろう』と動揺を止められない。

夕方のお迎えの時間になった。春香の息子コー君は『きょうはツバサ君と遊ぶ』とはしゃぐが、ツバサ君を迎えに来た祖母(有紀の姑)の綾子が申し訳なさそうに『今日はツバサ遊べないの、ごめんね』と言ってツバサ君を連れていく。そして、春香が声を掛けようとすると『恥ずかしくて外も歩けない』とぼやいて去っていくのであった。

ツバサ君と遊べなかったことでコー君は不機嫌になり、帰宅後も『遊ぶっていったのに』と荒れおもちゃを散らかしたり春香に当たったりを繰り返していた。そんな中、仕事で疲れた夫が帰宅して来る。気持ちのやり場のない春香は夫に『有紀ちゃんがいなくなった』と今日起きた出来事を打ち明ける。

コー君が寝た後、その事について夫に詳しく語った春香。『何が起きたのかは分からないけど”男と逃げた”なんていうのは絶対嘘。有紀ちゃんはそんな人ではない』と言う春香に夫は『ツバサ君のママ美人だったしな』と答え、春香は『どういう意味?』とムッとする。

自身の失言に気付いた夫は慌てて『女性が子供を置いていなくなると世間ではそう言われがちだから』と言い訳するが、やたらと有紀を擁護する春香に対してこう指摘する。

「保育園に入って知り合ってまだ一年ちょっとだろ?知らないことたくさんあるんじゃないの?」
「その家庭によっていろいろあるんだろうし首つっこまないほうがいいよ」

消えたママ友 野原広子 19/176

夫のその言葉に春香は何も言えなくなってしまうのであった。

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第5話~6話…有紀がかつて漏らした『死にたい』という言葉…有紀は何か悩みを抱えていた?

夫からの言葉にショックを受けた春香は、コー君を寝かしつけながら有紀との出会いに思いを馳せる。

春香、ヨリコ、友子は保育園に入る前から公園や児童館で顔見知りだったが、有紀だけは違った。

春香達が初めて有紀と出会ったのは保育園の遠足会だった。見たことのないキレイなママがいる…そう春香達が思っていると、彼女は『はじめまして、ツバサがいつも仲良くしてもらって』と声を掛けてきた。それが有紀だった。いつもツバサを送り迎えしている女性は母親ではなく、祖母の綾子であると説明する有紀。

有紀はそのまま春香達と一緒にお昼ご飯を食べることになった。有紀が持ってきたお弁当は可愛らしく豪華だった。皆から褒められた有紀は『朝4時に起きて作りました』と言い、春香は『キレイな上にお料理上手なんて完璧』と感心する。だが、すぐに有紀は『ウソ、ウソです』と笑って、お弁当を作ったのは姑の綾子であることを打ち明ける。『おばあちゃんが何でもしてくれて助かってます』と笑顔で語る有紀。そんな有紀の気さくな人柄に春香は好感を持った。

コー君の寝かしつけを終えてリビングに戻った春香。すると、夫が項垂れながら酒を飲んでいた。酔うと愚痴っぽくなる夫。春香はそんな夫の弱音を聞いてやるのだが、ふとある事を思い出す。それはある時の保育園の打ち上げ…飲み会の時のことだった。

子供を預けて酒を飲んでいた春香達。有紀は酔いすぎたのかテーブルに突っ伏してしまっており、心配して春香が声を掛けたその時だった。

「死にたい…」

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小さい声だったが、ハッキリとそう言った有紀に一瞬酔いが吹き飛んだ春香。だが、春香が聞き返すと有紀は笑って『友達の話。もし友達が死にたいって言ったらどうする?』と尋ねた。そう言われてホッとした春香は再び酔いが戻ってきたこともあって深く考えることが出来なかったが、こう答えたのだ。

「死ぬくらいなら逃げなさい」

消えたママ友 野原広子 25/176

すると、有紀は『友達にそう伝えておく』と笑ったのだった…。

あれは友達のことではなく、有紀自身のことだったのかもしれない…今になってそう思う春香。夫が酔うと愚痴を吐く様に、有紀のあの言葉は酔っ払ったからこそ出た本音だったのかもしれないと思うのであった…。

第2章~『有紀ちゃんを探したい』と願う春香、怒るヨリコ、ドライな友子…そんな中、有紀の夫ノボルのDV疑惑が浮上するが…

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第7話~8話…有紀は夫ノボルから暴力を受けていた!?春香はノボルが有紀の携帯を持っているのを見てしまい…

自分が『死ぬくらいなら逃げて』と言ってしまったせいで有紀はツバサ君を置いていなくなってしまったのではないか…。そう考え落ち込みながらコー君を連れて保育園に向かう春香。すると、丁度そこに有紀の夫、ノボルがツバサ君を連れてやって来る。春香はノボルに挨拶をしたものの、その後何と声を掛けていいか分からない。だが、ノボルは穏やかな笑みを浮かべ『春ちゃん、またツバサと遊んでやってね』と言って立ち去る。

穏やかで優しく、格好いいノボル。ノボルは妻の有紀と同じく春香のことを気さくに”春ちゃん”と呼ぶ。有紀と一緒に歩く時は恋人の様に手を繋ぎ合い、とても仲良しに見えていた。

そんな事を思いながらノボルの後ろ姿を見送る春香。その時だった。

「パパねーママのことばんってぶった」

消えたママ友 野原広子 30/176

ギョッとして振り返る春香。声の主はなんとツバサ君だった。慌てて聞き返そうとする春香。しかし、ツバサ君は『うそ』とだけ言うとそのまま走り去ってしまう。

残された春香は動揺する。優しく穏やかなノボルが有紀を殴るなんて想像できない…ツバサの発言が嘘か本当なのか分からず悩んでいるとそこにヨリコがやって来る。

何やら怒っている様子のヨリコは開口一番『腹が立った。有紀ちゃんのアドレスを消した』と言う。友達だと思っていたのに何も言わずに消えてしまったこと、そして何よりも母親として子供を置いていったことが許せないと言うのだ。

それを聞いた春香はつい有紀を庇う様に『それだけのことがあったのかもしれない』と言うも、ヨリコは有紀の恵まれた環境…可愛い息子に優しい夫、家事をしてくれる姑がいて好きな仕事に打ち込める環境について触れ、『何が不満だったのか分からない、”それだけのこと”って何?』と腹立たし気に聞き返す。

そんなヨリコの態度に春香は先ほどのツバサ君の発言を打ち明けることが出来なかった。その日も春香は働きながらずっと有紀のことを考えてしまう。もしかしてノボルに日常的に暴力を振るわれており、それが原因で他の男に走ってしまったのか…そんな嫌な想像を止めることが出来なかった。

しかし、夕方の園のお迎えで春香はまたショッキングな光景を目にすることになる。

保育園に向かいながら耐えきれずに有紀に『何があったの?大丈夫?』とメッセージを送った春香。次の瞬間、近くでバイブレーションの音が響く。ふと、音が鳴った方を見ると、ノボルがスマホを見ていた。そして、ノボルが手にしていたのは有紀のスマホだったのだ。

有紀ちゃんの携帯
どうしてノボルさんが持ってるの?

消えたママ友 野原広子 33/176

春香は激しく動揺するのであった。

第9話~11話… 姑の綾子に事情を聞こうとするヨリコ…そして、ヨリコもまた有紀のある秘密を知っていた…

翌日、お迎えの時間に春香はヨリコと友子に『ツバサ君が”パパがママのことをぶった”と発言したこと』、『ノボルが有紀の携帯を持っている事』、『以前有紀が”死にたい”と漏らしたこと』を打ち明けた。ヨリコは世話好きで頼りがいがあるが、”白か黒か”という性格をしている。昨日は有紀に腹を立てていたが、この話をしたら変わるかもしれない…そう春香は思ったのだ。

案の定、話を聞いたヨリコと友子は驚く。そして、ヨリコは早速通りがかった、有紀の姑の綾子の元に駆け寄って有紀のことを聞こうとした。しかし、

「やめてもらえる?あんな人の話したくない」
「まさかあんな女とは思わなかったわよ」

消えたママ友 野原広子 35/176

普段のにこやかな笑顔から想像できないような冷たく恐ろしい形相をした綾子。それを見たヨリコ、そして春香、友子は何も言えなくなってしまうのであった…。

その後、帰宅したヨリコは数か月前のある出来事…有紀との”内緒の秘密”を思い返す。

数か月前の夜の商店街。たまたま買い物をしていたヨリコはそこで有紀が見知らぬ若い男性と一緒にいるところを目撃したのだ。有紀と男性は何やら言い争いをしているようだった。

ヨリコに気付いた有紀は慌てて『絶対に誰にもこのことは言わないで』と口止めする。ヨリコが困惑しながら『誰?大丈夫?』と尋ねると有紀は笑って『不倫とか思った?違うから、大丈夫』と言うのであった。

あれは嘘だったのだろうか…そう悩み考えるヨリコ。夫ノボルから暴力を受けてあの男に走った…というよりは男と不倫していることがバレてノボルからぶたれたと考える方が自然ではないか…そんなことを考えてしまう。

そして、そもそも”男と逃げた”という噂がどこから漏れたのか…ということが気になってしまう。

ヨリコは有紀と約束したこともあって、あの夜のことは春香や友子、そして他の園の知り合いにも誰にも言わなかった。しかし、一度昔からの友人と久々に飲んだ際に漏らしてしまったのだ。『なんでも持ってるのにズルい』と嫉妬からついつい有紀の悪口を言ってしまったのだ。自分が友人に話したことがどこかから漏れてしまったのではないかと少し心配になってしまうヨリコ。

だが、それ以上に『不倫じゃないと言ってたくせに、信じてたのに』と酷い裏切りを受けた様に感じ、失望しているのであった…。

翌日、子供達を公園で遊ばせながら春香、ヨリコ、友子は有紀の話をする。遠回しに『有紀はノボルに携帯を取り上げられたのではないか』と主張する春香に、ヨリコはたまらず数か月前の”あの出来事”について話してしまおうとした。

だが、それを遮るように友子が『すべて置いていっただけかもしれない』『私達に教えたくなかったのかもしれない』と言い出した。

「仲良しだったけど全部知ってるなんてありえないし」
「それでいいんじゃないの?」

消えたママ友 野原広子 41/176

あまりにドライで冷めた友子の言い分に凍り付く春香とヨリコ。

しかし、次の瞬間子供達の争う声、泣き声で三人は我に帰る。いつの間にか子供達はケンカしており、春香の息子コー君が友子の娘すうちゃんに砂を掛けてしまったのだ。慌てて間に入りフォローする春香達。有紀についての話はそれっきりになるのであった。

その後、帰宅しながらコー君を咎め諭す春香。しかし、内心では『もしあの場に有紀ちゃんがいたら』と考えてしまう。よく周りを見ている有紀は春香達がお喋りに夢中になってもちゃんと子どもを見ており、子供達を仲裁するのが上手かったのだ。

すると、コー君が『明日はツバサ君と遊んでいい?』と尋ねる。そして、春香が『おうちの人がいいっていったら』と答えると『パパ?おばあちゃん?』と更に問う。なんとツバサ君自身が『ママがおうちを出ていってしまった』と語っているのだというのだ…。

第3章~春香、ヨリコ、友子のそれぞれの秘密と闇が明らかになる

第12話…秘かに有紀の夫ノボルに好意を抱いていた春香は…

息子コー君がしつこくせがむこともあって、翌日、春香はツバサ君を迎えに来たノボルに『夕方までうちでツバサ君を遊ばせる(預かる)』と申し出る。すると、ノボルは『うちも色々あって…助かるよ』と力なく微笑む。そして、ツバサ君に『春ちゃんのいうことをちゃんと聞くんだよ』と言い聞かせて去っていくのであった。

家でコー君とツバサ君を遊ばせる春香。無邪気な笑みを浮かべる二人を眺めながら、ノボルについて思いを馳せる。

ノボルは妻子である有紀やツバサ君に対してはもちろん、他の保護者や子ども達にも優しく気さくに接してくれる人物だ。…そして、有紀と同じく春香のことを”春ちゃん”と親し気に呼んでくれ、コー君とも遊んでくれるのだ。

先日、友子が言った『仲良しだったからといってママ友のことを全部知ってるなんてありえない』という言葉に、春香は『その通りだ』と思っていた。何故なら、春香もまた誰にも言えない秘密を抱いていたのだ。

有紀ちゃんのダンナさんにときめいてたなんて
口が裂けてもいえない

消えたママ友 野原広子 46/176

秘かにノボルに好意を抱いていた春香は度々、『ノボルさんみたいな人が夫だったら』と夢想していたのだ。

第13話~14話…内心ずっと有紀に羨望と嫉妬の念を抱き続けていたヨリコとママ友付き合いに疲弊していた友子

ヨリコは夫の実家の”斉藤商店”で店番をしていた。姑と共に店の雑務をこなし、舅の客人にお茶を出し、客の相手をする。やってきた客の老女は店に出てきた次女のリオを見て『斉藤商店さんはヨリちゃんみたいないいお嫁さんをもらって可愛い孫もいてうらやましい』と言い、ヨリコも笑顔を返す。

しかし、老女が去るとヨリコはため息をついて浮かない顔で椅子に座り込んでしまう。

ヨリコは大学を出ている。しかし、今となっては外に勤めるのではなく、子育てをしながら夫の実家の店を手伝っているだけだ。

知ってる
これはこれで幸せ

消えたママ友 野原広子 48/176

一休みするヨリコの元に小学生の長女とリオがおやつのお芋を持ってきてくれる。ヨリコは笑顔でそれを受け取って食べる。

だが、頭の中には『このまま私は終わってしまうの?』という虚しい思いが溢れていた。近所のお年寄り位しかこない店の手伝いをして、子供を育てて、その後きっと夫の親の世話をして終わる…そんな自分の人生に物足りなさと焦りを持っているのだ。

それに対して、有紀はキラキラと輝いて見えた。商社勤めでいつも見た目も綺麗にしてネイルもして、持っているバッグもブランドものだった。家族にも大事にされている様に見えた。

『私だって夫の実家の店を手伝う必要がなかったら、きっと有紀ちゃんよりキラキラできたはず』…どこかでそう思ってしまうヨリコ。本当はずっと有紀のことが羨ましくてならなかったのだ。

しかし、有紀はそんなにも恵まれているのにあっさりと全てを捨てた。それすら”男と逃げた”なんてドラマの様に劇的で、そんなことをしでかしたのに春香と友子からは未だに『そんなことをする人じゃない』と庇われている。

ヨリコはそんな有紀のことが今でも羨ましく嫉妬を止められず、またそんな自身が嫌でたまらず、秘かに苦しんでいるのであった。

一方、保育園のお迎えから帰宅した友子は疲れ切っていた。娘のすうちゃんはそんな友子に『元気を出して』とお菓子を渡してきて、友子は娘の優しさに感激して『すうちゃん大好き』と言って抱きしめる。そして、心から『産んで良かった』と思うのだ。

すうは友子が当時”なんとなく”付き合っていた彼氏との間に出来た子供だった。友子は産むか産まないかさんざん迷った結果、産むことを選び、彼氏とも結婚したのだ。

こんなに我が子が可愛いと感じるなんて以前は想像も出来なかった友子。今となってはすうのいない人生なんて考えられないのだ。

しかし、『産んで可愛い』だけでは済まなかった。すうが病気やけがをしないのはもちろん、上手に生きていけるようにしなくてはならない…そう気遣う友子は常にプレッシャーに晒されてきた。

特に友子が不安を抱いたのは”ママ友関係”だった。二十歳ちょっとで出産した友子はどこにいっても年上のママだらけであることから『自分は浮いているのではないか』と悩み続けていた。幸い、ヨリコと春香が仲良くしてくれたけれども、休日も皆で遊びたがる二人に『休日くらい家にいたいのに…』と内心うんざりしていた。

しかし、娘すうの気弱で大人しい性格をよく知っている友子は『すうが友達の仲良しから外れないように付き合って行かなきゃ』と自身に言い聞かせていた。仲良くしてくれるママ友達がいて、遊んで笑い合えることが幸せだと言うこともよく理解していた。

それでも出産した途端、”ママ”になって子育ても家事も夫の世話もママ友付き合いもしなくてはならなくなった…そんな生活に友子は疲弊していたのだ。そして、以前皆で子どもを公園で遊ばせているとき、友子は思わずそんな想いと共に大きなため息を吐いてしまい、その瞬間を隣にいた有紀に見られてしまったのだ。

『見透かされた』…そんな気がして慌ててしまった友子。しかし、有紀はそんな友子に優しく微笑みかけると、『空青いね』と言って青空を仰いだ。

その時の経験から『有紀ちゃんは何も言わなくても通じる人、分かってくれる人』…そう思っていた友子。しかし、そんな有紀は突然子供を置いて消えてしまったのだ。何も知らなかった友子だが、ただ有紀が消えてしまってもなお、我が子であるツバサ君のことを思っていてほしい…そう願うのであった。

第15話…ノボルの言葉に困惑する春香…有紀がいたことを保育園の悪口だけで実感する

夕方になり春香の家にノボルがツバサ君を引き取りにやって来た。そこで、ノボルは春香に『有紀の携帯に連絡くれてるよね?』と有紀の携帯を見せ、有紀が携帯を置いて行ったと告げる。思わず『どうして』と言ってしまった春香にノボルはこう答えた。

「解放されたかったのかな…」

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その言葉の真意を測りかねる春香。しかし、ノボルは『これ以上立ち入って欲しくない』と言いたげな目をしていたため、春香はそれ以上何も追及することができなかった。

そして、また翌朝、保育園の登園の時間がやってくる。ツバサ君を連れた綾子はまるで最初から有紀なんていなかったかのような笑顔を浮かべ、朗らかに挨拶して来る。

しかし、保育園では相変わらず皆ヒソヒソと有紀の噂をしている。噂には尾ひれがついてついに『不倫相手との間に子どもが出来たらしい』とまで言われてしまっている。

有紀ちゃんがここにいたことを有紀ちゃんの悪口で確認する

消えたママ友 野原広子 55/176

そんな状況を皮肉に感じる春香。人の不幸は蜜の味なのか、保育園のママ達は有紀の話をしているときは本当に楽しそうに目を輝かせているのだ。有紀ちゃんのことを何も知らないくせに…そう思う春香だったが、自分達も結局何も知らなかったことを思うと自身も大差が無いように思えてくるのであった…。

第4章~有紀の不在によって、春香、ヨリコ、友子の3人のバランスも徐々に崩れていく

第16話…実は春香達の仲はすでに崩壊しかけていた?過去にあった”お靴事件”で春香とヨリコが思ったこと

有紀の噂話をする保育園のママ達。次第に有紀だけでなく彼女と仲が良かった春香、ヨリコ、友子の3人についても話題になっていく。『あの人達も仲良しだった様で本当はどうだったのか…』と囁かれる。

「ほら あったじゃないあれ!」
「ああ”お靴事件”」

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本当はあの事件からギクシャクしていたのではないか…そんなヒソヒソ話は春香の耳にも届く。『みんな好き勝手なことを言っているだけ』…そう聞き流そうとする春香だったが、彼女達の言う通りだったのかもしれないと春香は”お靴事件”について思い返す。

それは、有紀がいなくなる前のことだった。ある日の降園の時間、友子の娘すうちゃんの靴が片方なくなってしまったのだ。保育士が謝りながら探しても見つからないことを告げ、友子達も困惑した。

すると、突然ヨリコの娘のリオちゃんが『コー君がやった』と言い出した。その言葉に春香は動揺し、春香の息子、コー君は自分ではないと主張するが、リオちゃんはなおも『コー君だ!』と主張する。その時だった。

「コーくんはそんなことしないよ」
「いつも一緒にあそんでるからわかるよ」
「コー君はそんないじわるはしない」

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そう言ってリオちゃんを制止したのは有紀だった。有紀のその言葉に救われた春香。

一方、ヨリコは『子供のちょっとしたいじわるはよくあることだよ、あまり深く考えない方がいいよ』と言ってその場を収めようとした。

だが、そんなヨリコに有紀は『小さいうちからいじわるはいけないとしっかり教えた方がいいんじゃないかな』と反論する。その瞬間、空気が張り詰めたのだ。

結局、そのまますうちゃんの靴は見つからず真犯人も分からず終いでそのままになった。しかし、有紀の言葉で春香が救われた一方、ヨリコは『有紀ちゃんはリオが犯人だと思ったのではないのか』と不快感を抱いたのであった…。

第17話…実はヨリコの娘リオの意地の悪さに辟易している春香と友子…しかし、ヨリコにそれを言うことは出来ない

そもそも”お靴事件”以前から春香も友子もヨリコの娘リオちゃんの気の強さと意地の悪さには気付いていた。リオちゃんは小学生の姉の影響か気が強く口達者でコー君やすうちゃんに対しても自分勝手な要求を押し付ける。結果、気が弱いすうちゃんは言いなりになり、口で言い返せないコー君は手が出てしまいいつも喧嘩になってしまうのだ。その日も、春香達が公園に子供達を連れていくと、ヨリコが所用でいなくなった隙にリオちゃんは他の子達にいじわるを始めケンカになってしまう。幸い、友子が気を逸らすと子供達はすぐに仲直りしたものの、春香と友子はなんとも言えない疲労感に襲われる。

こっそりと『コー君はリオちゃんと仲良しだけど喧嘩も多くて困る、すうちゃんは女の子同士だから穏やかだけど』と愚痴を吐く春香。すると、友子も『うちの子は弱くてすぐ泣くし、どうかな…』と返し、『ガツンと怒るとションボリと反省する子はかわいいもんだよね』と言う。

友子が暗にリオちゃんの生意気な態度を非難していることに気付いた春香。しかし、二人は互いにその事をハッキリと口にすることはできない。それを行ってしまうと何かが変わってしまう…そう分かっているからだ。

そして、用事を済ませて戻って来たヨリコはケンカがあってリオちゃんが泣いてしまったことを知らされても『どうせ大したことないから大丈夫』と笑顔で受け止め、リオちゃんを連れて帰って行く。春香も友子もそんなヨリコとリオちゃんを笑顔で見送るのであった…。

第18話…やんちゃなコー君の世話に疲れ孤独を深める春香

その日、保育園にコー君を迎えにいった春香は保育士からコー君がザリガニの水槽の中に大量のダンゴムシを入れてしまったことを知らされ、謝罪をする。落ち込みながらそのことを友子に愚痴る友子。コー君は虫が好きで今も家で芋虫を育てているのだ。

すると、それを聞いた友子は『イモムシなんて無理。うちは女の子で良かった』と答える。悪気があったわけではない友子の言葉。しかし、春香は突き放されたような心細い気持ちになるのであった。

そして、春香が目を離した隙にコー君は園庭の遊具を揺らし、下の学年の子にぶつけそうになる。慌てて春香が止めたものの、ぶつかりそうになった子の母親は『気をつけてね』と怒って去っていく。不貞腐れた様に小声で謝るだけだったコー君に春香は『ちゃんと謝りなさい』と叱るが、コー君は『ちゃんとあやまったもん』と言って逃げ出す。そんなコー君と春香に一部始終を見ていたノボルは苦笑いしながらこう言った。

「コー君小さい子にいじわるしちゃダメだぞ」

消えたママ友 野原広子 65/176

その言葉に絶望する春香。『コー君は元気すぎるだけで意地悪なわけではない、有紀ちゃんはそのことをよく分かってくれていた』…そう思ったのだ。理想的な夫だと憧れていたノボルの発言に春香は酷く失望する。

その後、帰宅してからも春香の苛立ちは続く。夫に保育園で毎日コー君の事で謝罪を繰り返すことのストレスを訴えたものの、『子供の事で親が頭を下げるのは当たり前、謝るのはタダ』と聞き流されてしまい、孤独感をさらに深める結果になってしまう。

いなくなってわかる
有紀ちゃんが私にとってどんな存在だったか

えたママ友 野原広子 66/176

第19話~21話…ギクシャクし始めるヨリコと友子の関係

娘のリオを保育園にお迎えに行って帰宅したヨリコは家でお菓子を食べながら寛いでいた。そして、コー君の事で必死になっていた春香の様子を思い出し、『もっと肩の力を抜かないとしんどくなっちゃうだろうな』と考える。

するとヨリコは姑から舅が寄り合いに行ってしまうから店番を代わってほしいと頼まれてしまう。さらに、そこで娘達のケンカに巻き込まれる。小学生の長女はどこで覚えたのか『クソ』といった口汚い言葉を使う様になり、ヨリコが注意すると『子供のケンカに口出すなんてモンペかよ』と罵られる。ヨリコはイライラしながらも仕方なく店に出て仕事を始める。

春香や友子達からすればリオは意地悪く見えるに違いない…その事はヨリコ自身も分かっていた。しかし、小学生の長女を育てているヨリコにしてみれば4歳児の意地悪なんて大したことなく、大げさに捉えがちな春香達一人目育児の人達に対して『もっと図太くならなきゃやっていけない』と思ってしまうのだ。しかし、ヨリコは直接それを口に出すことは出来ない。何故なら、長女が幼い頃、ヨリコはママ友との距離感を間違えて孤立してしまったことがあるのだ。

ママ友の友情なんてほんの小さなことで壊れるの知ってる
今度はうまくやっていけてる気がしたのに
疲れるなあ

えたママ友 野原広子 69/176

思わずため息を吐いてしまうヨリコ。出入りの若い業者の男性に『溜め息ですか?』と聞かれると『溜め息もでるわよ』と零してしまうのであった。

一方、その頃友子はすうちゃんがこの間買ったばかりの”キラキラのペン”を失くしてしまったことを知る。すうは『あたらしいの買って』というが友子は『なくしたなら我慢しなさい』と言う。すると、すうは『そうしないとリオちゃんに遊んでもらえなくなる』と言い出すのだ。驚いた友子が事情を聞くと、リオちゃんがすうに『キラキラのペンを持って来ないと遊んであげない』と言ってペンを取り上げてしまったことが分かった。

夜、友子は夫にそのことを話し、『すうはリオちゃんにいじめられているかもしれない』と相談する。以前からもすうは買ったものを失くすことが度々あり、もしかしたら他にもリオちゃんに盗られたものがあるかもしれないのだ。しかし、夫は『大したことないだろ、親が口はさむと面倒になるから先生に言えば?』と友人と遊びに行ってしまう。

そんな夫に心底腹を立てる友子。友子と対照的に夫は結婚してすうが生まれても父親になった自覚が皆無で、未だに家族よりも友人と遊ぶことを優先している。そして、友子はそんな夫に以前から愛想を尽かしており、秘かに離婚を計画し貯蓄しているのだ。だからこそ、”キラキラのペン”の様に高価なものを取られてしまうのは友子にとって結構な痛手になるのだ。

『ヨリちゃんには言いにくい』…そう思いながらも友子はヨリコときちんと話をすることを決意した。

翌朝登園時間にヨリコと顔を合わせた友子は『”キラキラのペン”について知ってる?』とそれとなく話を振った。するとヨリコは『リオがすうちゃんにもらったって見せてくれた、ありがとう』と笑う。

それを聞いた友子は『ヨリちゃん、それ違うかも…』とリオちゃんがすうちゃんに『ペンがないなら遊んであげない』と言って取り上げたことを告げる。

「いいにくいんだけどリオちゃんすうのこといじめてるっていうか…」
「ヨリちゃん気づいてた?」

えたママ友 野原広子 72/176

そう言われたヨリコはハッとして『本当?ごめんね!きつく言っておく』と慌てて友子に謝罪する。友子も申し訳なさそうに『ごめんね、よろしく』と答えた。

しかし、それ以降二人の関係はギクシャクしてしまうのであった。

2人の関係がおかしいことに当然春香も気づいた。ある日、春香は友子から『ヨリちゃんにリオちゃんのいじわるのことを言った』と打ち明けられる。しかし、友子は『ヨリちゃんは謝ってくれたけど上っ面だけで、全然悪いと思って無さそう』『だからすうちゃんに意地悪しない子と遊びなさいって言ったの』と言い、春香は戸惑う。

一方、ヨリコは春香に『最近友ちゃん怖くない?』と言う。更にヨリコは『だいたいすうちゃんがすぐ泣くからリオがいじめているように見えるだけ、コー君もすうちゃんが泣くと悪者にされるでしょ?』と同意を求められる。そして、春香が返事に困るとこう言うのだ。

「まあ友ちゃんとは年齢も離れてるし子ども同士が仲良しじゃなきゃ友達にはならないタイプだよね…」

消えたママ友 野原広子 74/176

春香は確かにそうなのかもしれない…そう思いながらもモヤモヤした気持ちになる。

すると、そこに綾子とツバサ君が通りかかる。綾子はツバサ君に自身を”あーちゃん”と呼ばせており、ぎょっとして見る春香とヨリコと目が合うと『綾子だから”あーちゃん”』『春ちゃんとヨリちゃんもそう呼んでくれていいのよ』と笑うと去っていく。

その様子を見たヨリコは『有紀ちゃんはもういないのだから色々と切り替えていかないとね』と言う。春香はその言葉に少なからずショックを受け、有紀がいなくなってから徐々にしんどくなっていることを自覚するのであった…。

第5章~ばらばらになってしまった春香達…そして、春香は有紀と思わぬ再会を果たす

第22話~23話…リズム会の準備で起きた事件…春香は友子に誤解されてしまう

ある晩、コー君は春香に『”もんぺ”ってなに?』と尋ねて来る。最近リオちゃんがすうちゃんに言っているというのだ。それを聞いた春香は『嫌な感じ』と思いながらも、『ママも分からない』と言って誤魔化す。

しかし、リズム会の準備の日に事件が起きてしまう。保護者達が集まって翌日のリズム会の準備をしていた時、春香はあるママから『うちの子はいつもコー君んの話をしてくれます、コー君元気が良くて羨ましいです』と言われる。笑顔でそう語り掛けて来るママのその言葉が果たして本心からなのか、嫌味なのか困惑する春香。今までだったら有紀、ヨリコ、友子の4人で行動していたのに今回はみんなバラバラで春香は所在の無さを感じる。

すると、どこかからコー君の泣き声が響き渡る。声の方向を見ると、泣いているコー君と怒った顔をした友子の姿がそこにはあった。

慌てて駆け寄る春香。すると、近くにいたツバサ君が事情を教えてくれる。コー君が友子に『”モンスターペアレント”なの?パパが言ってた』と言い、友子が『そんなこと言ったらダメなんだよ』と怒ったというのだ。

友子は春香を睨みつけ『春ちゃんは夫婦で子どもに私のことを”モンペ”とか言ってるんだね』『親が子供をイジメられて、その事を言っただけでモンペ扱いなの?大人げなく怒っちゃった』と吐き捨てる様に言うとその場を去ってしまう。春香は『え?どういうこと?』と動揺して立ち尽くすしかなかった。

帰宅した春香は夫に『なんでコー君に”モンペ”なんて言葉の意味教えたの!?おかげで友ちゃんとの仲が変になっちゃったじゃない!』と怒る。春香の剣幕に怯んだ夫は『俺が悪いの?モンペがなんの略か教えただけだよ』『友ちゃんのことだったの?』と困惑する。それを聞いた春香は床に伏せて泣き出してしまった。コー君もいつも優しかった友子に突然怒られてしまったため元気がない。

別に春香や夫が友子のことをモンペと言ったわけではない。ヨリコの娘のリオちゃんがそう言っていて、コー君はただその言葉の意味を夫から聞いただけだったのだ…そう友子に言い訳をしたい春香。しかし、それをしてしまうとヨリコと友子の仲をより険悪なものにしてしまいそうで春香はどうしていいか分からなかった。

翌日、春香は迷った末ことの顛末をヨリコに話した。ヨリコがその場でリオちゃんに問い質すと、リオちゃんは『お姉ちゃんにキラキラのペンの件ですうちゃんのママに怒られたって言ったら、”すうちゃんのママ、モンペかよ”って言ったんだもん』と認める。ヨリコは『余計な言葉を教えて』と長女に怒りリオちゃんを叱ったものの、春香に『春ちゃんは私が友ちゃんのことをモンペって言ってると思ったの?』と尋ね、去ってしまう。この事で春香はヨリコとも気まずくなってしまうのであった。

友子ともヨリコとも仲違いしたまま、春香はリズム会を迎えることになった。夫が仕事で来られなかったこともあって、春香は一人ぼっちで子ども達のお遊戯を鑑賞する。友子はむすっとした表情で一人で座席に座り、ヨリコは別のママ友グループと楽しそうに歓談している。

自分だって話しかけようと思えば他のママ友達と話すことは出来る…そう思いながらも春香は何とも言えない恐怖を感じそれをすることが出来ず、休憩時間も一人で立ち尽くすのであった。

すると、突然ツバサ君がやって来て、春香に『キレイなお靴、踏んでいい?』と尋ねて来る。春香が驚いて『踏んじゃいやだ。どうして?』と尋ねるとツバサ君は黙って綾子の元に向かう。綾子はツバサ君が手に持っていた折鶴について『これなあに?』と聞く。ツバサ君が『コー君にもらった』と言うと、『下手糞ね』と笑って握りつぶし、そのままゴミ箱に捨てる。

異様なツバサ君と綾子の言動に呆気に取られてしまう春香。その後、行われた保護者と園児との布遊びの最中、ツバサ君は他の園児に『ママは?』と尋ねられると『ママなんていいよ、バカだもん』と冷たく答える。それを耳にした春香は『ツバサ君は本当にそう思っているのか、それとも誰かがそういう風に言い聞かせているのか』と困惑するのであった…。

第25話~26話…隣町に出掛けた春香はそこで有紀の姿を目にする…しかし、春香が話しかけても有紀は無視し…

その日以降、春香はヨリコや友子と遊ぶことなく、一人でコー君を公園に連れて行き遊ばせるようになる。ヨリコや友子との交流が無くなり寂しく感じる上、未だに有紀のことで思い悩んでしまっている春香。

そんな春香の様子を見かねた夫が『明日の休みは遊びに行こう』『隣町に出来た家具屋さんを見に行こう』と提案する

翌日、隣町に車で向かった春香達。広い家具やで素敵なインテリアを見た春香の心は晴れ、『もし家が広かったらこんな家具を置いてみたい』とはしゃぐ。するとそんな春香に夫は『来年あたりもう少し広いところに引っ越す?』と尋ねる

しかし、そう言われた春香は咄嗟に『引っ越してもヨリちゃんや友ちゃんと遊べるだろうか』と考えてしまう。仲違いしてしまったというのに未だに彼女達との関係を優先しようとした自分に春香は驚く。

そもそも私 ママ友とかいなきゃいないでいい そう思ってたのにな
いつのまにかママ友がいてあたりまえになってる

消えたママ友 野原広子 93/176

家具屋の外には移動販売の飲食店があり、コー君と夫が飲みたいと言い出した。春香が混雑した列に並ぶことになり、自分の番がやってきた時だった。

店員に注文を伝え、代金を支払おうとした春香は店員の顔を見て固まってしまう。

そこにいたのは他でもない有紀だったのだ。

しばし呆然とした後、春香は『有紀ちゃん』『良かった』と言って涙を流した。しかし、有紀は淡々と笑顔も見せずに『番号でお呼びしますので少々お待ちください』と番号が書かれた紙を渡してくる。

移動販売車から少し離れて待っている間、春香は『何を話すべきか』『ヨリちゃんと友ちゃんにも教えなくちゃ』と混乱する。

しかし、いざ番号が来て春香が『有紀ちゃん…』と話しかけても有紀は『ありがとうございました』と機械的に答え、その後春香を無視する。春香はそのことに酷くショックを受けてしまうのであった…。

一方、その頃。休日を自宅で過ごしていた友子はすうちゃんに『リオちゃんと遊びたい』とねだられ困っていた。友子が『リオちゃんにいじわるされちゃうよ』と言ってもすうは『いいよ、リオちゃんといると楽しいもん』とケロリとした顔で言う。

『いじわるをされるのに楽しいなんてどうかしている』…そう思ってしまう友子。友子は”お靴事件”の犯人もリオちゃんだと思っていた。そして、自分のことを”モンペ”と言ったであろうヨリコや春香に腹を立てている。リズム会の準備の日以降、春香からはLINEが来ていたが、『どうせ言い訳が書いてあるのだろう』と友子は見てすらいなかった。

その後、すうからお店屋さんごっこをせがまれた友子は一緒にままごとをしてやるが、その際中、友子は以前保育園ですうが作った”おいもの工作”を手に取り、紙でできているだけのはずの”おいも”が妙に重いことに気付いた。疑問に思った友子は怒るすうを制止して”おいも”をばらして中を確認する。

そこには無くなったはずのすうの靴が入っていたのだった。

第27話…明らかになる”お靴事件”の真犯人…ヨリコと友子は仲直りする一方、春香は有紀に無視されたことで落ち込む

”おいも”の中から出てきたすうちゃんの靴に驚く友子。慌ててすうちゃんに問い質すと、この”おいも”の工作はツバサ君が作ってくれたもので『すうちゃんのための特別なおいもだよ』と言って渡してきたのだと言う。友子はリオちゃんを疑ってしまったことに罪悪感を抱くのであった。

翌朝、友子が保育園に行くとリオちゃんが待っており、『今度のお休みすうちゃんと遊んでいい?』と尋ねて来た。友子は一瞬躊躇したものの『仲良くしてね』と答え、リオちゃんは『やった』と瞳を輝かせる。

知ってる
いい子だから友だちになるんじゃない
なぜか一緒にいると楽しくて
だから友だちになる

消えたママ友 野原広子 103/176

内心複雑に思いながらも楽しそうに笑い合うすうちゃんとリオちゃんを見て、友子は諦めるのであった。

その後、友子は保育士にも靴が見つかった事を話し、ツバサ君にも『ツバサ君がくれた”おいも”の中から靴が見つかったよ。中に入れて忘れちゃったんだよね、見つかって良かった』と笑顔で声を掛けた。しかし、ツバサは『バレたか』と小声で呟き去っていく。

驚く友子に今度は綾子が『ツバサったらどうしてそんな”ヘンなもの”を入れたのかしら』『ツバサは想像力豊かな面白い子なの』と笑いながら言い、そのまま去っていく。友子は謝罪すらせず、すうちゃんの靴を”ヘンなもの”呼ばわりした綾子に呆気に取られてしまうのであった。

そして、友子はヨリコとも出くわした。気まずいながらも靴が見つかった事を話す友子。先ほどのツバサ君の言葉に引っかかったものの『いじわるとかではなかった』と告げた友子にヨリコはいつになく落ち込んだ様子で『リオがやったと思ってた?』と尋ね、友子は困りながらも『ごめん』と認める。

ヨリコが落ち込んでいる理由…それは数日前の事だった。春香や友子達と仲違いした後、他の女の子のママ達と上手くやれていると思っていたヨリコ。しかし、ヨリコはあるママが娘に『リオちゃんをお家に呼ばないで。あの子いじわるだし言葉も乱暴だからイヤなの』と言っているのを聞いてしまったのだ。

やっぱりリオはいじわるなのか

消えたママ友 野原広子 106/176

そう認めざるを得なくなったヨリコ。友子にも『リオは意地悪なところがある』と認めた上で『それなのにすうちゃんが仲良くしてくれてうれしい』と素直に感謝を告げ、友子と和解するのであった。

一方、春香は落ち込み続けていた。あの日再会した有紀に無視されてしまったことがショックから抜け出せていないのだ。事情を聞いた夫は春香を慰めるものの『本当に友達だったの?無視されたのに?』と言いヨリコはさらに落ち込んでしまう。また会いに行こうとしてもあの移動販売車を見つけられるかどうかも分からない。『もう二度と有紀ちゃんには会えないのか』…そう春香が落胆した時、春香のスマホが鳴った。

第6章~夜の公園で有紀と再会する春香達…有紀の本当の姿、そして皆の本音が明らかになる

第28話…仲直りした春香、ヨリコ、友子…そして、有紀から連絡が来る

LINEは友子からだった。『ヨリちゃんと一緒に公園にいるから来ない?』というメッセージを見た春香は『行く!』と叫び、コー君と共に急いで準備をする。メッセージから友子に許してもらえたこと、そして友子とヨリコが仲直りしたことを察して喜ぶと同時に『有紀ちゃんのことを話さなくちゃ』と焦る春香。有紀が働いていた移動販売車の紙袋を持ってコー君と共に公園へと走るのであった。

公園にやってきた春香をヨリコと友子は笑顔で迎え、それぞれ春香に謝罪する。そんな二人に春香は有紀に会った事を告げる。驚き固まる二人に春香は紙袋を見せようとする。すると、紙袋が一瞬風に飛ばされ、春香が慌てて拾い上げると中から小さな紙が出てきた。

そこには手書きで『連絡する』と記されていた。春香はやはり人違いではなく、そして有紀がただ無視しただけでなかったことを知って安堵の涙を流す。ヨリコと友子も有紀が無事であることを知って『よかった、生きてた』とホッとし『連絡が来るのを待とう』と言い合うのであった。

しかし、『連絡する』というメモを渡されたものの、しばらくの間三人の元に有紀から連絡が来ることは無かった。そんな中、ある日三人は綾子に家に招かれる。しかし綾子はにこやかでフレンドリーに接する様で、まだコー君の進路について特に決めていない春香に『かわいそう』と言い放ち、家族旅行の予定を三人に自慢げに話す等、あからさまな”マウンティング行為”を繰り返し、春香達は呆気に取られる。当然、有紀のことを話題に出すことは出来ず、笑顔で別れを告げ安西家を後にするのであった。

連絡するというのは嘘だったのだろうか…春香がそう思い始めたある日のことだった。突然、保育園の降園時にヨリコが春香と友子の元に駆けて来てこう告げたのだ。

「有紀ちゃんから連絡きた!」

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第29話…夜の公園で再会した有紀と春香達…3人はそれぞれの想いを有紀にぶつける

有紀は突然ヨリコの店に電話してきた。そして、今日の夜9時、少し離れたところにある南駅の公園を指定してきたと言う。

突然のことで戸惑う春香と友子にヨリコは『子供達はうちの家族が預かる』と提案する。そして、夜になると三人は子供達を斉藤家に預け、斉藤商店の車で公園に向かうのであった。

もうすっかり暗くなった公園で車を降りた春香、ヨリコ、友子。すると、そこには暗闇の中、ひとりブランコを漕ぐ有紀の姿があった。

「本当に来てくれたんだ」

消えたママ友 野原広子 118/176

そう言って有紀はブランコから降りて三人の元へやって来る。そして、携帯を置いてきてしまったから三人の連絡先が分からなかったこと、しかしヨリコの店は調べたら番号が出てきたことを告げる。

そんな有紀にヨリコは『連絡が来て嬉しかった』と言うものの言葉に反して冷ややかな笑いを浮かべていた。すると、有紀も『そう?ヨリちゃんには嫌われてると思っていたよ』と皮肉気に答える。

「うん 嫌いだったよ」

消えたママ友 野原広子 121/176

そうハッキリと言い放つヨリコ。そして、ツバサ君のような良い子が息子で優しい旦那さんと家事も育児も手伝ってくれる姑と、立派な仕事をしている有紀について『私にないものを持っている』と羨望と嫉妬を堂々と口にした。有紀も前からそれに気付いていた様で『いつもうらやましいって顔してたもんね』と淡々と答える。そして、怒ったように『どうしていなくなったの?』と尋ねるヨリコに『私がいなくなって嬉しかったんじゃないの?』と意地悪く尋ね返す。

そんな有紀を春香が『そんな言い方ないよ』と止める。だが、有紀は春香にまで『私がいなくなって良かったと思ったことあるんじゃないの?』と言う。三人の中で最も有紀を慕い、心配していた春香はそれを聞いてショックを受け、『ずっと心配していたんだよ!何でそんなことを言うの!?』と有紀に掴み掛かり、すがる様に『有紀ちゃんはそんな事を言う人じゃなかったよね?』と言う。

すると、有紀は諦めた様に項垂れ、力なくこう答える。

「私 ヨリちゃんや春ちゃんが思ってるような人間じゃないよ」
「弱くてなさけなくて汚くて」
「私いてもしょうがない人間なんだよ」

消えたママ友 野原広子 123/176

そして、驚く春香に『本当は子供だって嫌いだった』『よそ行きの顔をしていただけ。でもみんなだってそうでしょ?』『本当の私を知ってる人なんていない』と語る。

だが、そんな有紀を今まで黙っていた友子が『そういうのいいよ』と制止する。そして、『いい大人が友達とかばかみたい』と叫ぶように言う。

「なにも知らなくてあたりまえじゃない!」
「子どもが仲良しってだけで親もわかり合えるとかありえない」

消えたママ友 野原広子 124/176

『自分だって何もかも打ち明けているわけではない、だから有紀ちゃんだって話す必要はないし、そもそも興味がない』…そうハッキリ言い切った友子。有紀は黙り、春香もヨリコも初めて聞いた友子の思いにただただ驚く。

すると、有紀は『私は今皆からなんて言われているのか』と尋ねる。春香は戸惑いながらも『男と逃げた』と噂されていることを正直に告げた。

それを聞いた有紀は声を上げて笑い出し、『誰がそんな事を言ったの?”あの人”?』と言う。そしてひとしきり笑い落ち着くと、『ごめんね、ヨリちゃん。本当は私の方がヨリちゃん、春ちゃん、友ちゃんをずっと妬んでいた』『子育てに必死で、夫の愚痴を言い合う皆が羨ましかった』と言い出す。そして、有紀のその言葉の真意を測りかねる春香達に皮肉気に笑いながらこう言うのであった。

「私ねツバサと一緒に寝たことないの」
「お風呂だって一緒に入ったことないの」
「知らなかったでしょ?」

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第30話~31話…有紀の告白…子育てを姑綾子に取り上げられていた有紀

元々有紀は子どもが好きではなかった。そのため、妊娠した時は戸惑ったが夫のノボルは『僕も母さんも子供が好きだし大丈夫。心配しなくてもいい』と励ます。有紀も何かと自身のことを気遣ってくれ頻繁に贈り物をしてくれる姑綾子のことを優しい人だと思っていたため、『二人がいれば子供を産んでも何とかなる』と考えていた。

しかし、ツバサを産んだ直後初めて授乳をした瞬間、有紀の価値観は大きく変わった。『これは恋なのだろうか』…そう錯覚するくらい、生まれたてのツバサに愛おしさを覚えた有紀。『ずっとツバサと一緒にいたい』と思う様になっていったのだった。

退院した直後から、綾子は『産後はゆっくり休まなくちゃ。ツバサは私に任せて』と言ってツバサの世話を一手に担う。そんな綾子とノボルに有紀は『仕事を辞めて育児に専念したい』と正直な気持ちを打ち明けた。しかし、綾子は『せっかくのお仕事もったいない。仕事好きでしょ?』と言い、ノボルも『僕は仕事をしている有紀が好きだ』と言う。笑顔でそう言う二人に有紀は仕方なく復帰することを選ぶ。復帰の前日、有紀は抱っこひもでツバサを連れて二人で公園に向かった。『明日から仕事か…ずっとツバサと一緒にいたいのに…』そう落ち込みながらブランコに腰掛けた有紀。すると、赤ちゃんのツバサは『だぁ』と言って有紀に笑いかける。有紀はそのツバサの愛らしさに涙を浮かべるのであった。

仕事復帰した有紀は少しでも長くツバサと過ごせるように早く帰るように努めた。しかし、綾子は有紀が帰宅するよりも前にツバサの夕食を済ませてしまうだけでなく、早く寝かしつけを行うようになり、急いで帰宅した有紀に『ツバサはもう寝ているのだから静かにして』と非難がましく言う。そのままツバサと同じ布団で寝る綾子を見た有紀は次第に『私がママなのに』という複雑な気持ちを抱くようになって行くのであった。

そんなある日、有紀は出張に行くことになった。家を出る有紀を見送る綾子はツバサに『ママはお仕事で帰ってこないけど、おばあちゃんがいるから大丈夫よね?』と言い、ツバサも笑顔で頷く。その様子に寂しさを覚えた有紀は出張先のホテルから家に電話を掛け、電話に出た綾子に『ツバサにかわってもらえます?』と頼むも綾子は『ツバサは今お風呂に入ってるの』と断る。しかし、受話器のすぐ側でツバサがノボルと遊んでいる声がしっかりと聞こえてくるのであった。

綾子にウソを吐かれたのではないかと疑念を持つ有紀。しかし、おみやげコーナーでツバサが好きな”ゴーゴーマン”の人形を見つけて買って帰った。帰宅して人形を渡すとツバサは大喜びし、有紀も嬉しくなる。しかし、綾子は『もう寝る時間よ』と言ってさっさとツバサを連れていってしまう。

その晩、有紀は思い切ってノボルに『私ももっとツバサといたい』と正直な気持ちを打ち明けた。しかし、ノボルは『母さんも好きでやってるし、君も好きなことをやればいい』と取り合わない。

「これで不満があるならそれはわがままだよ」
「君はそんな人じゃないよね?」

消えたママ友 野原広子 133/176

そう言われてしまった有紀はそれ以上何も言えなくなってしまったのであった。

それ以降、有紀は『私だって仕事と家事の両立くらいできる』と綾子への依存を断ち切るために時間を作って洗い物等をする様になる。しかし、綾子は表面上はにこやかに『ありがとう』と言うものの陰で『汚れ落ちてないじゃない』と言いながら全て洗い直す。その様子に傷付く有紀。さらにツバサに買ってあげた”ゴーゴーマン”の人形をゴミ箱から見つけてショックを受ける。しかし、ツバサの育児と家事をしてもらっている引け目から、いつの間にか有紀は綾子に何も言うことが出来なくなっていたのだった。

そんな日々を送る中、初めての保育園の遠足の日がやって来た。有紀は一生懸命弁当を作ったものの、綾子に『これじゃダメ』とゴミ箱に捨てられてしまい、綾子が一から作った弁当を持たされた。その上、ツバサは有紀と二人きりの状態に慣れていないために緊張しているのか笑顔を見せず有紀も困惑する。

どうしていいか分からなかった有紀だったが、ツバサに誰が”お友だち”なのか尋ね、その”お友だち”の母親…春香、ヨリコ、友子に勇気を出して挨拶する。すると、春香達は優しく受けいれ共にお弁当を食べてくれ、ツバサも笑顔を見せたため、有紀はホッとする。さらにそんな有紀を春香が『今度仕事がお休みの日に一緒に公園で遊ばない?』と誘う。有紀は喜んで誘いに乗るのであった。

それ以降、有紀にとって春香達と過ごす時間はかけがえのないものとなった。春香達と過ごしている時だけは綾子の支配から逃れ、”ママ”でいることが出来たのだ。

しかし、帰宅すると全て綾子にとって代わられてしまう。母親である有紀より祖母である綾子に懐くツバサを見るたびに『必要とされていない』と強く感じていたのだ。『一体誰と結婚したのか』『ツバサの母親は誰なのか』…どんどん自分の存在意義が分からなくなっていった有紀。そして、その原因を作った姑綾子への憎しみも積もり重なって行った。

「だから逃げたの」
「春ちゃん あのとき”逃げて”っていってくれてありがとう」
「私 今 息できてる」

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そう言って大きな口を開けて笑う有紀。その様子を唖然と眺める春香、ヨリコ、友子。有紀が本当に笑う時、こんな風に笑うなんて知らなかったのであった…。

その後、有紀と別れた三人は斉藤商店の車でヨリコの家に向かう。もう遅いためヨリコは春香と友子に自分の家に一晩泊っていく様に言う。車内の空気は重苦しく、『有紀ちゃん笑ってたね』と言い合う事位しか出来ない三人。特に春香は『有紀ちゃんのことを知ってると思っていたのが恥ずかしい。何も知らなかった』とショックを受けているのであった。

翌日、店に出たヨリコは一晩子供達の面倒を見てくれていた姑にお礼を言う。大体の事情を聞いていた姑はヨリコに『有紀ちゃん元気だった?』と尋ねる。そして、有紀の姑綾子が昔から『見た目は優しそうなのにキツイ』と有名だったことを語り、『有紀ちゃんは相当苦労しているだろうと思っていた』と言う。初耳だったヨリコは『今更言う?』と姑に言うが、姑は淡々と『あんたは爆発する前に言うんだよ』と言って配達に行ってしまう。

残されたヨリコは『嫁と姑か…』と呟くも、昨夜から胸に残っているある疑問について考える。それは、有紀が以前パチンコ店で言い争っていた男性についてであった。結局彼について有紀が触れることはなかった。そして、昨夜別れ際に有紀は『南駅から離れたところで一人暮らしをしている』と言ったものの、ヨリコは少し疑っていたのであった。

…その頃、有紀は小さな台所で朝ごはんを作っていた。そんな有紀にある男性が『昨日は遅かったね』と声を掛けるのであった…。

第7章~不穏なラストと結末…有紀が隠していた真実とツバサが抱く闇…そして最後にまた一人”ママ友”が消えてしまう…!?

第32話…有紀が皆に語らなかったもう一つの真実

朝ごはんを作りながら有紀は『寝てたから起こさなかった』とにこやかに言う。すると男性は『友達に会えた?』と聞き、有紀は『うん』としんみりとした表情で答えた。

昨晩、春香、ヨリコ、友子と会った後、有紀は涙が止まらなくなった。三人が本当に会いに来てくれて嬉しかったのもあるが、『どうしてこんなことになってしまったのか』と悲しく苦しくなってしまったのだ。そして、安西家に置いて来たツバサに対して罪悪感を覚えたのだ。

しかし、有紀は春香達に全てを話したわけではなかった。有紀は三人に一人暮らしをしていると答えたがそれは嘘だった。しかし、噂されているように”男と逃げた”と言うわけでもない。有紀は春香達にも語らなかったある秘密を抱えていた。

それは何か月前のことだったか。ある日、仕事を終え帰宅途中の有紀はパチンコ店に貼ってあるポスターに目を留めた。そこにはツバサが好きな”ゴーゴーマン”の姿が描かれていた。どうせ家に帰ってもツバサはとっくに綾子に寝付かされている…そう思った有紀は何となく店に足を踏み入れて”ゴーゴーマン”の台の前に座った。パチンコは初めてだった有紀は台から出てきたパチンコ玉に触れた時、いつかツバサと一緒に乗ったブランコの鎖の感触を思い出しいつの間にか涙を浮かべていた。

そんな有紀に隣に座っていた若い男性が『お姉さん、鼻出てるよ。花粉症?』と言ってポケットティッシュを差し出す。男性の持っていたポケットティッシュの柄も”ゴーゴーマン”で、男性は『うちの娘も”ゴーゴーマン”が好きなんだよね』と語り、有紀も『うちの息子も』と答える。その直後、有紀の台はリーチが掛かり、大当たりする。その瞬間、家出のモヤモヤを忘れることが出来た有紀。…それが崩壊の始まりだったのだ。

パチンコで当たった時の爽快感が忘れられなくなってしまった有紀は仕事帰りに連日パチンコ店に立ち入る様になり止められなくなってしまった。負けが続いても『私は仕事もしていてお金もある』『次こそ勝って取り戻せる』…そう思っていたのだ。

しかし、有紀は負け続け、座った目で『ダメだ』と叫び台を叩く様になってしまった。そんなある日、例の男性が店の外で『大丈夫?』と声を掛けて来る。男性は有紀の様子をずっと見ていた様で『負けが込んでるしもうここには来ない方が良い』『こういうところに来ていると変な人も近づいて来る』『あんたも小さい子供がいるんだろう?』と注意してきたのだ。

そして、その様子を買い物帰りのヨリコに見られてしまったのだ。心配して駆け寄ってきたヨリコに有紀は『大丈夫』『誰にも言わないで』と頼み、男性は去って行った。ヨリコに見られたことで有紀は『不倫していると誤解されたかもしれない』と不安に思ったものの『その方がマシ。ギャンブルにハマっていると知られた方が困る』と冷静になる。そして、今日のことをきっかけにパチンコを完全に止めようと決意したのだ。

…しかし、既に遅かった。有紀の元に金融機関からの督促状が大量に届き、『こんなに借りてたなんて』『このことがみんなに知られてしまったら…』と蒼ざめる。そんな中で保育園のママ達の打ち上げの飲み会に参加した有紀。飲み会中もとても返せそうにない借金のことで頭が一杯でついつい『死にたい』という言葉が漏れ出てしまった。すると、それを聞いていた春香が笑いながら『死にたいくらいなら逃げなさい』と言い、有紀は『逃げてもいいの?』と自問自答する様になった。

そして、ある仕事休みの金曜日、最後に春香と公園で子どもを遊ばせたときには『次のお休みの時にまた一緒に遊ぼう』と春香に言いながらも既にツバサを連れて逃げることを決めていたのだ。

しかし、秘かに荷物をまとめ逃げる準備をしている最中に夫ノボルに督促状が見つかってしまった。とんでもない額の借金を知ったノボルと綾子は顔面蒼白で『一体何に使ったの?』と有紀に問い詰めるが、有紀はだんまりを決め込むことしか出来ない。すると、綾子は『借金は私が祓うからあなたはもう二度と返ってこないでちょうだい』と言い放つ。ツバサも怯えた表情を浮かべながら綾子のスカートにしがみ付いていた。

だが、有紀はツバサに『ママと一緒に行こう』と手を差し伸べる。

その言葉に綾子は『ずうずうしい、何言ってるの』『ツバサはあなたの子じゃなくて安西家の子よ』と怒り叫ぶ。しかし、有紀も泣きながらハッキリと言い返す。

「そんなの私には関係ない」
「私が産んだ私の子なのに どうして…私から取るの?」

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すると次の瞬間、ノボルが有紀の頬を叩いた。そして、『こんなによくしてもらってるのに、借金だって残額返してくれると言うのに母さんになんてことを言うんだ』『恩知らず』と怒鳴った。そして、今すぐ家を出ていく様に告げたのだ。

そのまま、携帯も荷物も何も持たずにフラフラと家を出た有紀。ノボルに嫌われ殴られたことは別にどうでも良かった。それよりも怯えたツバサが自分ではなく祖母の綾子にしがみついていたことが何よりもショックだったのだ。そのままあてもなく夜の町を彷徨っていると、幼子を抱いた若い男性に呼び止められた。それはパチンコ店で有紀に声を掛けてきたあの男性だったのだ…。

第33話~歪んだ家庭で増幅されたツバサの闇…そして、有紀の現在の心境は…

有紀がそんな回想をしていたその頃、安西家ではツバサが『あーちゃん、プレゼント』と言って保育園で作ったと言う綺麗な箱を綾子に渡す。『あーちゃんのための特別なキラキラの箱だよ、開けてみて』と微笑むツバサに綾子は喜び、ノボルもまたその様子を笑って見守っていた。

しかし、箱を開けた綾子は悲鳴を上げる。慌ててノボルが駆け寄ると『虫!』と綾子は叫ぶ。箱の中には大量の虫の死骸が詰められていたのだ。ノボルは『ぜんぶ死んでる奴だから大丈夫』と綾子をなだめるが、あることに気付きギョッとする。

「でも…」
「どうして全部頭がないの?」

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すると、ツバサは笑ってこう言うのであった。

「そういうのすきでしょ?」

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そのツバサの言葉に絶句してしまうノボルと綾子。ツバサはどこか暗い笑みを湛えているのであった…。

一方、有紀は自分が陥ってしまった状況について考えていた。ツバサと一緒にいられない寂しさ苦しさをギャンブルに置き換えてしまった有紀。当然誰にもそのことを相談できず追い詰められてしまったのだが、春香、ヨリコ、友子に相談したかったかというとそうではなかった。本当のことを言ってもなお一緒にいてくれ、助けてくれたかもしれないが、それ以上に『皆から哀れみの目を向けられたくない』『嫌われたくない』『ツバサにもバカなママだと思われたくない』という気持ちが勝ってしたのだ。家出した時、有紀の頭に真っ先に浮かんだのは春香、ヨリコ、友子の顔だった。『もうみんなと一緒の道には戻れない』『今までありがとうバイバイ』…そう思いながら夜の町を彷徨っていたのだ。有紀は携帯だけでなく、全て…夫もお金も借金も子供も友達も何もかも置いて”消えた”のだ。

朝食を取りながら有紀は『私、男と逃げたって言われているらしい』と男性に言う。男性はまだ乳児の娘”ふうちゃん”にご飯を食べさせながら『ふーん』と答える。有紀も”ふうちゃん”の汚れてしまった手や顔を拭いてやる。ヨリコには男性のことを見られてしまったが、義理堅いヨリコは約束通り誰かに言いふらしてはいないだろうと確信している有紀。

そう 私は子どもを置いて男の人と逃げたりなんてしない
逃げたらそこに男がいた
小さい娘と一緒に

それだけのことだ

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まだ喃語しか話せない幼いふうちゃんは有紀に大変懐いており、膝の上に乗る。そんなふうちゃんに男性は『有紀ちゃんのこと好きだなー』とのんびりと言う。男性とふうちゃんと暮らすアパートの一部屋は狭く、お金もあまりない。しかし、穏やかな男性と自分を母親の様に慕ってくるふうちゃんとの生活は幸せで安西家での暮らしの様な息苦しさは全くない。有紀は春香達に『私は今幸せだ』と伝えたかった。

そう
私がいちばん勝ちだ

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降園時間間近の保育園。そこでコー君、リオちゃん、すうちゃん、ツバサ君達は砂場遊びをしながら『このあいだママたちが夜におでかけしたこと』について話していた。『じょしかい?』『みんなで有紀ちゃんにあいにいったんだよ』等々話し合う子供達。しかし、皆が『いきたかった』と言う中でツバサ君だけは『めんどくさい』と冷たく言うのであった。

そんな中、綾子がお迎えにきたため、ツバサは皆に別れを告げ砂場から出たが、ふと春香の方に近づいて来てこう尋ねるのであった。

「ママわらってた?」

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春香はただ『うん』と答えるのであった…。

第34話最終話…引っ越しを決意する春香と本当は事情を知っていた友子…そして、”それなりの幸せ”に満足できないヨリコは…

保育園から帰宅した友子とすうちゃん。すうは『すうも有紀ちゃんにあいたい』と言い、それを聞いた友子の夫がこう尋ねる。

「ユキちゃんってよくパチンコ屋にいた人?」

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あの人は結構突っ込んでいたから…そう語る夫に友子は笑顔で『それ有紀ちゃんじゃないから』と答える。夫は納得してないようで『似てると思ったんだけど』と言うが友子は『絶対に違うから他で言わないでね』と再度否定した。

本当は友子も知っていた。ある雨の日、パチンコ屋に傘をもって夫を迎えに行ったときのこと。友子はそこで必死の形相で台に向かう有紀の姿を見たのだ。

しかし、友子は『そんな有紀ちゃんは知らなくていい』と思い、見なかったことにした。それでいいと思う友子。このことは今後もも誰にも言うつもりはなかった。

一方、春香は夫から『この間話した新しい部屋を今度の休みに見に行ってみない』と言われた。そこは今住んでいる場所から少し離れるが環境もよく小学校も評判が良いと言うのだ。春香はその話を前向きに受け入れる。

以前夫から引っ越しの話をされたとき、春香は真っ先に『引っ越してもヨリコ、友子達と遊べるだろうか』と考えてしまっていた。しかし、今は『もし引っ越したらもうみんなと会わない』と思うようになっていた。

みんなそれぞれの生活それぞれの人生
ぜんぶ知ってるわけじゃないしぜんぶ話せるわけじゃない
そうだよね
しょせんママ友

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春香は有紀、そしてヨリコや友子と何もかも分かり合えるつもりでいた。しかし、この一連の騒動と、公園での一夜、そこでそれぞれの事情や本音を知ったことで『そんなことあるわけなかった』と思い知ったのだ。

“ママ友”というものへの幻想を捨てた春香。しかし、それでもあの夜別れ際に有紀が見せた笑顔が忘れられなかった。春香は有紀の幸せを願わずにはいられないのであった

そして、いつも通り斉藤商店の店番をしているヨリコの心にはモヤモヤが残っていた。

有紀が姑綾子と上手くいっていないことなんて全く分からなかった。しかし、あの夜『全てを捨てた』と言いながらも有紀は笑っていた有紀。そして結局あの男性の正体も語られることはなかった。

何とも消化不良な感じがしてしまうヨリコはいつも出入りしている業者の若い男性に商品の置き場所を指示しながら有紀に思いを馳せ続ける。『有紀は“逃げた”と言っていたが、”逃げることができた”と言えるのではないか』と。

逃げることのできた有紀ちゃん
逃げない私
逃げるほどの理由もない私

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そんな自分がひどくつまらなく思えるヨリコ。

きっとこのままこうやって店番をしながら子育てをし、夫の両親の介護をし、年老いていく。それは大変なことも多いだろうが、きっとそれなりに幸せな事なのだろうと思う。それなのに、どこかで『私だってドラマの様に逃げたい』と思ってしまうのだ。

そう考えたヨリコは思わず『逃げたい』と呟いてしまう。その時だった。

「逃げちゃいます?」

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驚いて顔を上げたヨリコ。そこには業者の若い男性が笑いながら立っていた…。

それから少し経ち、姑が店の中で『ヨリコさーん、ヨリコさーん?』とヨリコを呼んで回っていた。

…しかし、一向に返事が返って来ることは無いのであった…。

~終わり~

以下、感想と考察

色々と感想と考察を書いていたら長くなってしまったのでこちらに。

【漫画】消えたママ友【感想・ネタバレ】あなたはママ友の何を知ってますか?…世にも奇妙な“ママ友”という関係を考える

以下、ちょこっとだけ感想と考察。

皆に理想像を押し付けられていた有紀ちゃん

本作『消えたママ友』の巧いところは終盤まで“消えたママ友”である有紀が直接、登場しないところだろう。有紀は春香、ヨリコ、友子の回想の中にしか登場しない。そして、三人の中の有紀ちゃんはどこか美化されて、都合のよい人物として描かれている

例えば春香はやんちゃな一人息子、コー君の育児に手を焼いているが『コー君は元気すぎるだけで、いじわるなわけではない』と心の底から信じている。しかし、すぐに手が出るのは事実で、巻き込まれる他の保護者達からしたら“元気なだけ”だろうがなんだろうが迷惑である事には変わりがないんだよね。意地が悪い言い方になってしまうけど。そんな訳だからどうしても周囲から白い目で見られがちで疎外感を抱きやすい。そんな春香にとって、コー君の行動を責めず寄り添う様な発言を繰り返す有紀は“理解者”であった。

しかし、本当の所はどうだったのだろう。

確かに有紀は春香と同じく男児の母であるため、男児特有のヤンチャ行為に対してヨリコや友子よりも理解はあったかもしれない。コー君がリオちゃんに”お靴事件”の犯人にされかけた時も『コー君はそんなことをしない』と庇ってくれた。でも、ツバサ君は同じ男児でもコー君と異なり非常に大人しいし、そもそも有紀はさほど子育てに参加していなかったため、本当に春香やコー君のことを理解していたのかも分からない。そもそも、春香がずっと三人の中で一番有紀のことを考えていたのに対して、有紀がママ友達を思い出すとき『ヨリちゃん、春ちゃん、友ちゃん』と春香は二番手扱い。そこになんとも言えない温度差を感じる。

余計なことを言わず、要所要所でその人が求める言葉を与えるのが異様に上手い人っているんだよね。そして、そう言う人は各々にとって理想的で親しい人間として見られやすい。有紀ちゃんはそういうタイプだったのではないか。ヤンチャなコー君の育児に秘かに孤独感を抱いていた春香は有紀に”理解者”という理想を見ていた。

有紀にそういった理想像を見ていたのは何も春香だけではない。ヨリコは『本当だったらもっと輝けていたであろう私』を有紀に重ね合わせ、友子は有紀の事を『突然母になってしまった戸惑いと疲労感を分かってくれる人』だと思っていた。しかし、現実の有紀は家庭で居場所がなく疎外感からパチンコに依存するといったキラキラとは程遠い状態で、母親であることに苦悩するほども子と関りを持っていなかった。

理想像を押し付けていたという点では夫のノボルも同じ。ノボルは有紀に『出産しても“ママ”にならずにお洒落で美しく仕事に熱意を持ち続ける女性』という理想像を求め続けていた。逆のパターン…『妻に“ママ”を求める男性』というのはよく見る光景で、これはこれでトラブルになりやすいのだけど、息子ツバサへの母性を否定される有紀も相当しんどかったのだろうな…と思う。

その上、ノボルは有紀が消えた理由について『解放されたかったのかな』と答えている。もちろん、これは『姑である綾子が支配する家庭から解放されたかった』という意味にも取れるけど、『自分が押し付けた理想の女性像から解放されたかったのではないか』というノボルの反省と後悔の言葉として取ることも出来る。ラストの独白からも有紀自身も綾子や借金だけでなく、周囲が築いた自身の像を捨てて逃げたという自覚があるように思える。

違和感のある保育園の描写…幼稚園の設定でも良かったのでは?

それにしても、作品それ自体は面白いのだけど、一点強い違和感を持ってしまう箇所がある。それは、主人公達が子供を通わせている保育園の描写。何と言うか、全体的に「これって保育園じゃなくて幼稚園じゃないの?」と思えてしまうのだ。

まずは、パートやアルバイターの春香や友子が保育園に預けられている描写。…まあ、これについては違和感を持ちながらも、「都市部じゃなくて待機児童問題と縁がない郊外や地方が舞台なのかな…」 とまだ納得ができる(でもは二十歳ちょっとで出産した友子が若すぎて浮いている設定とかを考えると、あまり地方でもないのかなとか考えたり)。

しかし、園の描写それ自体も制服があったり、係があったり、園のイベントの準備を保護者皆で手伝ったりする等、全体的に幼稚園っぽい…。勿論、世の中には制服や体操着がある保育園も存在するけど、私服登園の方が一般的だし、両親ともに働いていることが前提の保育園で有志ならまだしも強制的な役員や係があることは少ないのではないだろうか…。

その上、登園降園のタイミングが皆同じなのも妙だ。保育園なら親の仕事の都合で皆登園降園の時間はバラバラだ。更に、普段から春香達は降園後も子供達を公園で遊ばせたり、春香がノボルに『夕方までツバサ君を家で預かる』と提案している様に、この保育園は午後3時位に降園時間を迎えているような描写がある。いくらなんでも早すぎる …やっぱりこれって保育園じゃなくて幼稚園じゃない?

推測だけど、作者である野原広子氏が子供を保育園ではなく幼稚園に通わせていて保育園の実態を知らないから、どうしてもこういう描写になってしまったのではないだろうか。以前ヒットした”ママ友もの”の『ママ友がこわい』が幼稚園を舞台にした話だったから、それと差別化するため、そして保育園ママの関心を買うために設定を保育園にしたのだろうけど…。でもそれだったら編集者だったり他の人が指摘してあげれば良かったのに…。

こういった点を考えると、そもそもこのお話、保育園ではなく幼稚園という設定にしていた方が色々と自然だったのではないかと思う。

幼稚園であれば登園降園時間も一緒で毎回みんなが顔を合わせるのも自然だし、登園させた後保護者達がおしゃべりに興じたり、お迎え後に子供達を公園で遊ばせる時間があるのも納得できる。

子供を幼稚園に入れている母親が短時間だけパートやアルバイトするのはよくある事だし、両親ともにフルタイム勤務をしていても、教育方針などから保育園ではなく幼稚園を選ぶ家庭も少なくない。祖父母の協力を仰げれば登園時間が遅く降園時間が早い幼稚園にも通わせることは十分可能なのだ。

本作で有紀は商社勤務で多忙という設定だけれども、姑綾子が同居して家事育児をほとんど担っており、さらに教育方針も決めている(そして何かとマウントを取るのが好き)という設定だったので、『綾子が”保育園じゃダメ、幼稚園じゃないと”と主張して幼稚園になった』とかいう設定にすれば良かったんじゃないかなと感じている。

他にも色々と思うところはあるけど、その他の感想はこちらで。

【漫画】消えたママ友【感想・ネタバレ】あなたはママ友の何を知ってますか?…世にも奇妙な“ママ友”という関係を考える

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