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『毒親』。この言葉が生まれたのは、1989年アメリカのセラピストが著した『毒になる親 一生苦しむ子供』の中であった。しかし、この言葉が2010年代以降、紆余曲折経て日本でも流行り始めた。
まだ、あまり詳しくない人もいると思うので簡単に説明したい。虐待・虐待をする親と定義、意味合い的に被る部分も多いのだが、現在一般的には、『外からみて分かりやすい暴力等の虐待行為はしないものの、子どもを心理的に圧迫・支配し、自尊心や自己肯定感の成長を妨げたり、自立を妨害する(子供の人生に毒をもたらす)親』といった意味合いで使われている。Webニュースで毒親の特集が組まれたり、インターネット、SNS上でも一般の人々が「私は毒親持ちだから」とか「父が毒だったから」等使う位、社会でも浸透している。言い方は悪いが、『毒親ブーム』なんて言葉も出来たくらいだ。
そして、その火付け役となったのは、漫画家の田房永子氏と、彼女の著書『母がしんどい』だろう。彼女はこの作品を描いて以降、『毒親』『家族関係』にずっと向き合い続け、それに関連した漫画を描き続けている。毒親に悩む人々にとってバイブルとなった、この『母がしんどい』を紹介していきたい。
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Contents
『母がしんどい』のあらすじ
主人公エイコの母は明るくお喋りでひょうきんで、皆を笑わせるのが上手な、社交的な女性である。母は何かと娘を構い、一見すると二人は仲良し親子の様であった。
しかし、些細なことで突然豹変、激昂し、罵り始める。エイコの気持ちを考えること無く、自分の考えを押し付け支配する。エイコは幼い頃から、そんな母への不満や怒りを溜め込む日々を送り、ときに母と取っ組み合いの喧嘩になりながらも、親を疎み悩む自分自身が未熟で悪いと思っていた。しかし、成長し、世界が広がるにつれて自分と親の関係に疑問を持つようになり、実家から飛び出したエイコ。だが、親からの気まぐれな干渉や罵倒が続き、交際相手からモラハラを受け続ける等の気苦労が絶えなかった。
紆余曲折を経て、モラハラ彼氏と別れた永子は、優しい男性と出会い、結婚する。彼と共に過ごす中でエイコは、自身の価値観の歪みにも気付き始め、少しずつリラックス出来るようになり、幸せな生活を始めようとする。だが、エイコは過干渉で無神経な言動を繰り返す親と関わると、心身の調子を崩すようになる。そして、今度はエイコ自身が、母親と同じように些細なことで夫に対して突然キレて暴れる様になってしまい…
以下、『母がしんどい』のネタバレ、考察、感想
シンプルで可愛らしい絵柄で、前半は淡々と幼少期のエピソードが描かれ続けている。そして、社会人になってエイコは色々と自分の親、家族関係に疑問を持ち始め、話は動いていく。
周囲には分かりにくい、『毒親』の異常さ
最初に浮かんだ感想は、「この苦しみ、なかなか周囲に理解されず、大変だっただろうな」というもの。というのも、エイコは暴力、ネグレクト、経済DVや搾取といった分かりやすい虐待行為を受けている訳ではない。
人の体験を比較するものではないが、例えば同じ毒親をテーマにした作品に『ゆがみちゃん』がある。
『ゆがみちゃん』の記事はこちら
→【漫画】ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ(前編)【ネタバレ・各話あらすじ】宗教・差別・虐待…毒家族から逃げ出すことを目指して
→【漫画】ゆがみちゃん~毒家族からの脱出エッセイ(後編)【ネタバレ・各話あらすじ】恋愛と結婚…ゆがみちゃんは毒家族と縁を切れるか!?
こちらでは、『兄との差別』『暴言』『宗教の押し付け』等、家庭の異常性について、他者から見ても分かりやすいフレーズがある。しかし、この『母がしんどい』の家庭にはこの様なフレーズが無いのである(ただし、こういったフレーズがあるにも関わらず『ゆがみちゃん』の方も中々周囲に理解してもらえなかったりする)。
この親のおかしさを言葉で説明するのは非常に難しい。なので個々のエピソードや
- 無理矢理習い事に行かされたり、辞めさせられたりした
- お弁当の要望は一切受け付けず、かつ髪の毛等の異物混入率が高い
- 友人との旅行の日に無理矢理海外旅行に連れていく、また、学校主催のスキー旅行にも難癖をつけて行かせない
- 娘、永子の結婚式ではしゃぎまくり、神聖な場面でもずっと喋っている
母親の性格を言葉で説明したとしても
- 突然激昂する
- 自分勝手で気分次第で言うことを変える
- 一方的に喋り続ける
- 自分の好みを押し付ける
『私もあるよ』『よくあることだよ』『大したことないよ』と言われてしまいそうである。実際、エイコは周囲からも、ネット上でも、そう言われてしまい、『自分が考えすぎ、心が狭すぎるだけなのか』『自分は親不孝なのか』とより悩みを深めることになる。一人っ子で、それなりに裕福な家庭(娘を私立中学に通わせたり、頻繁に海外旅行に連れていったり)であるからなおさら。
しかし、永子の経験を総じて見れば、はっきりと分かるのだ。『この母親の行動は全て自己満足で、一切娘のことなど考えていない』ということに。
普通の家庭における親と子の衝突とは全く異なる
親が子のために良かれと思ってやったことが裏目に出てしまう、そして、それが原因で衝突するのは珍しくもないし、仕方がないことだろう。それぞれ価値観の違う、別人格なのだから。子どもが親との関係や距離感に悩むのも、成長し自立する過程で当然のことである。
しかし、エイコの母親は違う。この親子関係は異様なのだ。母は完全に自分の気分だけで行動し、娘が自分の思い通りにならないとキレる。端から娘の願いを知り、要望を叶えるつもりなどない。そもそも、『心配する』『思いやる』ということが無いのだ。
一見、可愛がっている風だが、冒頭の『仲直りノート』からしてコミュニケーションが一方的だ。また、幼少期、エイコが他の子のせいで片耳の鼓膜が破れた時も、相手の子や親に何も言わずにエイコにのみキレる。(世間体を気にしたり、相手の親を恐れたり、遠慮したりして、言わない訳ではない。周りのお母さんからも、ちゃんと相手の親に話すべきだと言われても、娘が悪いの一点張り。そして本当に娘が悪いと考えている。)
何にでも口出しする割には、無理やり入れた塾にエイコが付いていけなかったり、学校の先生にいじめられていると訴えても、全く気にしない。そういったことに興味を持たない。そして、エイコの交際相手が、分かりやすいモラハラ男であるにも関わらず、結婚を進めようとする(幸いエイコ自身が相手の異常さに気付き、彼とは破談になる)…等、本当に大切にしていないのだ。
それでも一見、明るく元気な性格をしているこの母親の異常さを周りを中々見抜けない。しかし、親しくしてた人と突然絶縁したり、ホームステイに来たスウェーデン留学生がストレスでテーブルに物凄い引っ掻き傷を残して去る等、やはり、対人関係を築くのには問題がある人物なのだ。
母親だけではなく、父親も異常
そして、そんな母親と比べて父親は寛大で心優しいと思い込んでいたエイコだったが、離れてみて、彼もまたどこかおかしかったことに気付く。実は、エイコはほとんど父と話したことはなく、母親を通して彼の意見を聞いていたにしか過ぎない。父はエイコと母が取っ組み合いの喧嘩をしても自室に籠って出て来ない。妻と娘に無関心だっただけなのだ。それにも関わらず、エイコが家を出て結婚すると、やたら生活に口出しし、恩着せがましい手紙やメールを一方的に送り付けるようになり、エイコの罪悪感を煽るのである。
母の様にキレて暴れるようになってしまったエイコ
そして、実家を嫌い、距離を置こうとする自分を『親不孝だ』と自己嫌悪しつつも、幸せな生活を始めようとしたエイコだったが、親が絡むと、急に激昂し、最愛の夫に当たり散らすようになってしまう。人に意見や頼み事すら出来ない自身を内気でおとなしい人間だと思っていたエイコはそんな自分に困惑するも、怒りを止めることが出来なくなってしまう。(このキレて暴れてしまうこと、その解決方法については『キレる私をやめたい』により詳しい経緯が書いてある。)
しかし、親と関わると自分がダメになる…と分かってはいるものの、そう考え、親と縁を切ろうとするのは『親不孝』なのではないかと悩み苦悩する。
妊娠したエイコはこのままだと、家庭が破綻、生まれてくる子どもにも母と同じ事をしてしまうことを危惧し、どうにかして治そうと決意するのであった。
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見えてきた母親の正体~母は実は弱い人だった!?
インターネットで同じ悩みを持つ人の話を見聞きしたエイコは母についてあることに気付く。
それは、母がエイコを責めるときは、常に誰かを味方につけるということ。現実に味方がいる訳ではないが、『お父さんだってそう言っている』、『学校も同じ考えだ』、『世間は…』等、主語を大きくして語る。つまり、精神的に一人でエイコに喧嘩することはない。
突き詰めて考えた結果、エイコは、母が実は『一人になれない弱い人間』だったと気付くのだ。このことはエイコに大きな衝撃を与える。
この観点で、前半に描かれているエピソードを見返すと、母は明るい様で、実は自己肯定感が低く、自信が無い人間で、そのために、常にエイコに自分と同じ意見や考えを持つことを強いて、精神的な支えにしていた…という見方をすることができる。
そのため、エイコが成長、自立して自分の価値観や世界を持つことを許せなかったのだと考えられる。だから、他のことではお金を出すのに、何故かブラジャーだけは頑なに買ってあげない(女性として成熟することを否定)。エイコがバイトや学校等、家庭外でイキイキと楽しむことを妨害したのだろう。
未熟な母~彼女は病気か?
そして、エイコの母は、恐ろしい強大な人間というよりは、ただの自身の怒りや感情を抑えられない未熟な人間なのだ。
印象的なエピソードが以下だ。エイコが大学受験の当日、家を出ようすると、母は部屋を片付けろと絡み、罵倒し始める。喧嘩になるも、その後母はタクシーを呼んだから乗っていけという。しかし、タクシーが必要な場所でも時間でもないため、エイコが断ったことで、更に激昂。結局エイコが折れて、到着したタクシーに乗車し出発するのだが、怒りを押さえられなくなった母はなんと、角材を振り回しながらタクシーを追っかけてくるのだ。
恐らく、難癖をつけて、娘に当たり散らしはしたが、タクシーを呼んだのは母なりに娘を思いやったつもりなのだろう。結果的に娘は乗車したものの、一度断られたことの怒りが抑えきれず、タクシーの運転手がいるにも関わらず、角材を振りかざす位に暴れまわる。その場にいた当事者からすれば恐怖でしかないが、客観的に見ると、滑稽にすら思える。情緒面において小学生以下の哀れな人にしか思えないのである。
恐らく精神科医に診てもらえば、何かしらの人格障害と診断されるのではないだろうか。
精神科医の言葉に目が鱗のエイコ
ずっと強大な存在として恐れてきた母は『弱い人』。この事実に気付いたエイコは、価値観がひっくり返り、混乱する。そして、自身の激昂する癖を治すべく、意を決して心療内科・精神科クリニックに相談しに行く。そこで、エイコから全てを聞いた精神科医は衝撃的な発言をする。
「あなたはとんでもない親からとんでもない育てられ方をしたんです」「一人で戦ってきてえらかったと思うよ」「あなたはひとつも間違ってないから自信をもって子供を生んで育ててください」
田房永子著 「母がしんどい」より
そして、父からの一方的な手紙に対しても無視して良いと断言される。子供が幸せになればなるほど『私のおかげ』と恩を着せる人達だからと。更に、エイコの母の歳を聞くと、あと20年は生きてしまうと非常に残念そうに言うのであった。そして、親に会わなければ良いだけと、薬も治療も不要だと判断する。
エイコは世間の『親孝行』を強いる声と真逆の発言をする医師に驚愕するも、自身が間違っていなかったことを再確認する。
最後、ラスト・結末~世間の声なんて聞く必要ない~自分が自分の100%の味方であるために
その後、自信を持って堂々と親を無視出来るようになったエイコ。キレる癖はすぐには治せなかったが、自身の感情を冷静に観察することで少しずつ押さえられるようになっていく。
そして、少しずつ、自己肯定感、自信、100%自分を大切に思う気持ち(作中、小さいエイコの分身として描かれる)を培っていく。
どんなに親しい家族だって夫婦だって別の人間なのだから、100%味方にはなって、常には気持ちに寄り添ってはもらえない。だからこそ、母の様に無理やり子を取り込むのではなく、自身で自己肯定感を育むことが大事であることに気付いたエイコ。今まで気にしていた『親孝行』『家族仲』を謳う世間の声も無視できるようになる。
絶縁後、親への怒りが振り返すこともあったが、次第に母と似ている部分を含めて自分自身だと認められるようになる。そして、世間の声や親のことを気にせず、自分だけは自分の100%の味方であろうと、そう決めて生きることにするのであった。
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まとめ~親孝行は美徳だが、他人から強制される筋合いはない
親孝行は確かに美徳だ。そして、親子関係は良いに越したことないだろう。しかし、それは他人や社会が押し付けるべきことではない。家族の事情、内実は当人達にしか分からない。自身を苦しめるような家族であれば、ある程度養育してもらったのだとしても、逃げて離れても良いはずだ。
勤務先の関係、友人関係、恋人関係、婚姻関係は破綻すれば逃げることが許されるのに、親子関係だけは絶つことを許されないというのはおかしな話だろう。エイコは親のおかしさに気付きながらも、『親孝行すべき』『親子は仲良くすべき』『親に感謝するべき』という世間の声と自身の中にある常識のせいで、関係を断てず苦しんだ。しかし、自身の親を視点を変えて再評価し、精神科医の後押しを得たことで、何よりも自分自身を大切にすることの大事さに気付き、親と関わるのをやめる決意をする。
それにしても、この本に掛かれているエピソードは、一つ一つは些細な様で、読んでいる側も遅効性の毒を盛られた様に、徐々に精神的なダメージを食らう。田房永子氏は本当に辛かったであろう。私も幼い娘がいるが、間違ってもこんな親にはならないようにしようと思うのである。
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