【漫画】離婚してもいいですか?翔子の場合(前編)【ネタバレ・各話あらすじ】私は夫が大嫌い…黒い感情を持った主婦が夫との離婚を決意する時

離婚してもいいですか?翔子の場合 表紙

Warning: Undefined array key 2 in /home/yage/nekokurage.com/public_html/wp-content/themes/first/functions.php on line 496

Warning: Undefined array key 4 in /home/yage/nekokurage.com/public_html/wp-content/themes/first/functions.php on line 501

Warning: Undefined array key 6 in /home/yage/nekokurage.com/public_html/wp-content/themes/first/functions.php on line 506

よく離婚をした人、あるいは離婚を考えている人に対してこう言う人がいる。
「そもそも、どうしてあんな人と結婚なんかしたの」「こういう男(女)だって見抜けなかったあなたも悪い」
…こういうこと言う人、マジでぶん殴りたくなるよね、本当。
相手がクソみたいな人間だと分かった上で結婚する人なんて少ないだろう(全くいなくはないだろうが)。皆、それなりに相手に魅力を見出して、幸せになれると信じて結婚する。しかし、結婚生活を送る中で、あるいは子どもが出来たりする中で見えてこなかった問題が見えてきたり、擦れ違いが生じたりして夫婦関係は綻んだり、歪んだり破綻していく…そういうものだろう。

では、夫婦関係が破綻して、互いに愛情を持てず嫌悪感や苛立ちを持つようになってしまったら…?そんな夫婦を描いたのが、この野原広子の漫画『離婚してもいいですか?翔子の場合』である。
『ママ友が怖い~子どもが同学年という小さな絶望』等、可愛らしい絵柄とシンプルな言葉で非常に心をざわつかせる良作を生み出してきた野原広子。本作では荒涼とした専業主婦の心を上手く描いている。

後半、ラスト・結末の記事はこちら
【漫画】離婚してもいいですか?翔子の場合(後編)【ネタバレ・各話あらすじ】夫、淳一が浮気?怒りを爆発させる翔子~辿り着いたのはブラックなラスト・結末

関連記事、『ママ友が怖い~子どもが同学年という小さな絶望』の記事はこちら
【漫画】ママ友が怖い~子どもが同学年という小さな絶望(前編)【感想・ネタバレ】ママ友いじめの恐怖・辛さを考える
【漫画】ママ友が怖い~子どもが同学年という小さな絶望(後編)【感想・ネタバレ】ラストについて考察する

関連記事、『娘が学校に行きません』の記事はこちら
【漫画】娘が学校に行きません【感想・ネタバレ】不登校のリアルとプロの力の必要性を考える

関連記事、『消えたママ友』の記事はこちら
【漫画】消えたママ友【感想・ネタバレ】あなたはママ友の何を知ってますか?…世にも奇妙な“ママ友”という関係を考える

【漫画】消えたママ友【ネタバレ・各話あらすじ】ママ友の有紀は何故消えてしまったのか…不穏なラスト・結末は…

関連記事、『妻が口をきいてくれません』の記事はこちら
【漫画】妻が口をきいてくれません【考察・感想・予想】妻への“ママ”呼びが全てを語っている?夫婦で“パパ”、”ママ”と呼び合うことの弊害を考える

スポンサーリンク

Contents

以下、各話あらすじ、ネタバレ

ニコニコ笑顔の裏で~私は夫が大嫌い

専業主婦の翔子は長女、花(6歳)と長男、優(4歳)を連れてスーパーで夕飯の献立をどうするか考えていた。花ととりとめのないお話して、お菓子をねだる優をなだめて…。節約しつつ、栄養バランスも考えて、しかし、一番大事なのは『夫の好物を入れること』。夫の好物の一つがハンバーグだ。ひき肉が安かったので買うことにした翔子。しかし、心でハッキリと呟いた。

私は夫が大嫌い

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 13/212

その後時間を気にしながら調理する翔子。そろそろかな…と夫帰宅時間を考えているのだ。慌てて準備をしていると夫、淳一がくたびれた様子で帰って来た。夕飯のおかずにハンバーグがあるのを見て喜ぶ淳一。しかし、『うまい』、と言うものの『80点』と点数をつける。チーズがのっていれば100点だったと言う淳一。その一方で、それは今日の気分だから次はどうだか分からないとも言う。
その後も一見楽しそうな食卓。翔子は思う。きっとこの光景を誰が見ても「幸せな家族」だと思うのだろうと。

子供達が寝た後、淳一は上司の愚痴を言いながら酒を飲み始める。そんな淳一に笑顔で労りの言葉を掛け続ける翔子。

「パパががんばってくれるから毎日ごはんが食べられるんだよね。ありがと。感謝してるよ」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 17/212

しかし、淳一はそんな翔子にこう言った。

「お前は気楽でいいよなー」
「あーあ、オレも主婦になって昼寝とかしたいよ」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 18/212

翔子はその言葉に笑顔で、昼寝なんかしてないよと今日一日にやったことを話す。興味無さそうに聞く淳一。そして、テレビを見ながら大声で笑い始める。
子供達が起きてしまうから声を抑えるように言う翔子。すると淳一は気分を害した様で、疲れているのだから良いだろうと言い返す。案の定、4歳の末っ子の優は起きてしまい、翔子は仕方なく寝かし付けに行く。しかし、寝室にいてもリビングから夫の笑い声や放屁の音まで聞こえてきて苛立つ。『あなたの方が役立たずだ』と心の中で夫を罵るのだ。
朝が来て手際よく朝食の準備をする翔子。急がないと怒られちゃう…そう思いながら。そして、皆を起こし、朝食をとらせ、夫を玄関まで見送る。笑顔で夫に手を振りながら翔子はやはり『私は夫が大嫌い』そう思うのだ。

日中家事をしながら翔子は考える。

いつからだろう。私の毎日は「夫の機嫌を損なわないように」それを基準にまわっている

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 21/212

そしてまたスーパーで子供達と買い物する翔子。昨日のハンバーグの点数を思い出す。足りなかった20点。しかし、それは夫の気分の問題で。今日は一体何を作ればいいのか…。
そして、今日も大嫌いな夫のために料理を作るのだ。

私なんてラクなほうなんだって思えば思うほど苦しい~少しずつ追い詰められていく翔子

6年前、長女、花の出産後。義母と義姉佳織から『淳一もようやくパパになれた』『5年もかかったけど良かった』と若干嫌味の入った祝福の言葉を受ける翔子。翔子は結婚後中々妊娠出来ず、不妊治療の末に妊娠・出産したのだ。そのため、義母義姉の嫌味が気にならないくらい、妊活のプレッシャーから解放されるのが嬉しかった。
そして、翔子は退院後夫の淳一に仕事を辞めたいと告げた。働いていた会社は子育てに理解がある雰囲気ではなく、妊活中も居心地が悪かった。子どもが大きくなったらまた仕事を探すつもりだという翔子に淳一は快諾した。

これからこの子と夫のことだけ考えて暮らせるんだ。すっごい幸せ

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 26/212

そう翔子は思っていた。夫は仕事、翔子は育児と家事という役割分担。
自分には仕事が向いていなかったと翔子は考えていたため、花を産んだことで仕事を辞めることができたこと、それを許してくれた夫、淳一に感謝していた。

しかし、自分の収入が無くなり、養ってもらっているという負い目がある翔子は少しずつ、夫、淳一にものを言うことができなくなっていってしまう。
ある日、夕飯を作っていた時のこと。飯はまだかと言う夫と、泣き止まない花。翔子は淳一に花が夕飯時になると泣き出すことを告げ、抱っこするように頼む。しかし、淳一は寝そべったまま泣き続ける花を適当にあやす。料理をしながら翔子は『花は立って抱っこしてほしがっている』と淳一に言うと、淳一は翔子に言った。

「…おまえがおんぶして料理すればいいじゃん」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 28/212

…花をおんぶしながら料理をする翔子。テレビの前で寝そべりながらスマホをいじる淳一。

夫はなにもしてくれない。花のことも自分のことも

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 28/212

淳一は翔子が仕事を辞めてから今までやっていたこと(片付け等も)何もやらなくなってしまった。良い子育て本を見つけて進めても、おまえが読めばいいと読まず、危ないものも子どもの手に届く範囲に平然と放置する。

携帯ばっかり見ずに少しは娘のことを見て、赤ちゃんはなにするか分からないのだから!そう淳一に文句を言った翔子。すると淳一は途端に不機嫌になった。『説教やグチは仕事だけで十分だ』と言う淳一。

「おまえ今やりたかったことやってんだろ?仕事やめて子育てだけしたかったんだろ?オレに押しつけんなよ」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 29/212

そう言って淳一は部屋にこもってしまうのだ。淳一は機嫌が悪くなるといつまでも黙り込んで翔子のことも娘のことも無視する。それに耐えられない翔子は結局淳一に謝ってしまう。『私は夫に反論してはならないのだ』そう思うようになっていった翔子。

そんな中で翔子は二人目を妊娠する。周囲の祝福の言葉に、きっとこれから楽しくなる…そう思っていた。しかし、二人目の優が生まれた直後は夫、淳一の出張と残業が続く。淳一は帰宅しても疲れた様に散らかった家の様子に文句を付け、『靴下を出しておいてよ』等と言いつける。
翔子は1週間も自分の髪を洗えていないというのに。しかし、翔子はそんな夫に文句も言えず、ごめんなさいと謝るしかできない。

ある日、夫の姉の佳織がお下がりを持って家にやってくる。既に男児二人を育てている佳織に『子供が二人は大変ですね』と言った翔子。しかし義姉佳織からは

「私なんか仕事もしてるんだからもっと大変よ。翔子さんなんてラクしてるじゃない」
「ゆっくり子育てできる翔子さんがうらやましいわ」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 33/212

と軽く言われてしまう。その言葉に傷付く翔子。

私なんてラクなほうなんだって思えば思うほど苦しいのはナゼ?

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 33/212

そして二人目、長男の優は長女の花と異なり手の掛かる子だった。言うことを聞かない優の相手で精一杯で家事の効率や質が落ちていく。そんな家の中の様子や、騒がしい優に苛立った態度を隠そうとしない夫、淳一。
ごはんできてないの?おかずこれだけ?オレのパンツどこ?おまえ毎日家にいて何してんの?延々と文句を言うばかりで子育ても家事も協力しないでソファーでテレビを見るだけの淳一。世の中の他のママ達はみんなちゃんと楽しそうに家事育児をしているのに、なぜか自分だけうまくいっていない…翔子はそう感じるようになる。うんざりしながら子供二人を連れてやはり今日も買い物に行く翔子。そんな翔子になにか感じるものがあるのか、長女の花(6歳)は励ますように『ママ大好きだよ』と言うのであった。

妻の笑顔にムカつくのはなぜ?悩む夫、淳一は高校の同級生、室井と再会して…

仕事で部長に怒られ落ち込んでいる淳一。そんな淳一を周りの同僚や先輩社員達が励ましてくれた。特に大学生の子供を持つ先輩の女性社員は力強い。二人子供を育てた上に働き続ける彼女を純粋に尊敬する淳一。

うちの嫁はいまごろ家でのんびりしてるんだろうな

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 40/212

帰宅した淳一。ご飯も出来ていて特に文句は無かったものの、娘の花が100均で買った新しい箸を見せてくる。100均だけど高く見えるよねと言う、妻、翔子の言葉に100円だって金だよ…と苛立つ。

このごろ妻を見るといじめたくなるのはなぜだろう

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 41/212

淳一は翔子はきっといじめられっ子だったのだろうと思う。姉の佳織は『翔子さんはなんかいじめたくなる』と言っていた。子どもが出来ないことについて翔子に嫌味を言っていた姉にやめるように言う淳一。しかし、姉は翔子がニコニコするばかりで何も言い返さないのでついそうしてしまうのだと言うのだ。
きっと会社でもそんな感じだったのだろう。そのため、出産後に翔子が会社を辞めたいと言った時もきっと辛い思いをしたのだろうと考えて快諾したのだ。

しかし、この頃内心では今後の子育て等に掛かるであろう費用を考えて心配している淳一。危機感を持っていなさそうな翔子に苛立ち、実は働いて欲しいと考えていた。

しかし、働けとは自分が小さい男みたいで言い出せない…そう思う一方で、やはり自分は小さい男なのだとも自覚している淳一。だからこうやって翔子に細かいことでグチグチ言ってしまうのだ。しかし、翔子はそんな淳一に対しても笑顔を絶やさず何でも聞き入れてくれる。

出会ったころはいつもニコニコしてかわいい子だなあって思ったけど
いまはただニコニコしてるだけのつまらない女だなって思う

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 44/212

周りの人たちは言う。奥さんはいつもニコニコしていていいですねと。しかし、淳一は『なにかちがう』と思っているのだ。

淳一は家で冷蔵庫を探るが楽しみにしていたアイスが無くなっていた。翔子に聞くと子供たちが食べてしまったという。文句を言う淳一に翔子は笑顔で謝りながら買い物のためのメモにアイスを書き加える。しかし、淳一に聞こえない距離で何やら呟いている(「ったく小さい男」と呟いている)。そういうところも相まって翔子のことを『ウソくさい』と感じてしまうのだ。

それでも毎朝、翔子は自分を笑顔で送り出してくれる。それにすらムカついてしまう淳一。

妻の笑顔にムカつくなんてオレだけだろうか?

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 48/212

悩む淳一。仕事に行くのも憂鬱で子育てと家事だけをこなす翔子が羨ましくて仕方がない。

休憩時間中、近くの店でコーヒーを買おうとした淳一。するとそこで高校の同級生だった女性、室井に再会する。

最近この町に引っ越してきて、この店で働くことにしたという室井。昔から室井に憧れていた様子の淳一は照れながらも彼女との会話に花を咲かせる。すると、室井が長男の優と同い年の4歳の息子を育てながら働くシングルマザーであることが分かった。最近バツイチになったばかりだと茶目っ気たっぷりに語る室井。この店の他にもう一か所仕事を掛け持ちしているという。

エネルギッシュな様子の室井に感心して見惚れる淳一。思わず、『うちの嫁は育児と家事しかしていないのに』といった発言をする。すると、室井は急に真面目なトーンになって淳一を諭した。
『”そんだけ”ではない』『母親業は24時間年中無休で気が休まらずに大変なこと』それを淳一に伝え、

「専業主婦なめんなよ」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 53/212

そう言って淳一の肩を叩き颯爽と仕事に戻って行った。しかし、そんな室井の言葉以上に彼女の明るい姿に心を奪われた様子の淳一。仕事を終えて帰宅する最中も室井のことを思い出してしまう。

翔子と違ってキラキラしてた

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 53/212

私はなんでいつも笑ってるんだろう~心が壊れそうになる翔子

子ども達が通う幼稚園の打ち合わせに参加する翔子。ここでも周囲に気を遣い、内心やりたくない係を引き受けてしまう。愛想良く周りに合わせているものの、本当は女性の集団が苦手で疲れてしまっていた。

その後、今後幼稚園の係で何度か夜に話し合いに出かけないとならないということを夫、淳一に伝える翔子。不満げで協力する気が無さそうな夫の態度に『少しは子ども達の面倒を見てくれてもいいのに』と思うものの翔子はやはり何も言えない。

その後、淳一はソファーの上に座らせてあった花のぬいぐるみを平然と床に投げ捨てる。花に抗議されてもどこ吹く風で、逆にぬいぐるみの大きさに文句をつける淳一。ぬいぐるみは翔子の弟のナオが花の誕生日プレゼントにくれたものなのに。仕方なく花をなだめるために絵本を読んであげる翔子。しかし、

私外でも家でも気を使っている
私はなんでいつも笑ってるんだろう

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 57/212

そう思った瞬間、翔子はめまいの様なものに襲われた。

それからいつも通りの日々を過ごす翔子。しかし、『頭がぐるぐるする』というふらつきと考えがまとまらない、そんな症状が続く。そして、何より『夫が帰ってくるのが怖い』という気持ちに悩まされるようになる。

そんな翔子の異常に淳一が気付くはずもなく、ぼんやりした様子の翔子に文句をつけるばかり。

いつか自分がこわれるような気がする
ううん、もうこわれはじめてる気がする

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 60/212

そして、夫の淳一は最近休日は一人で出掛けていくことが増えた。夫がいないことにホッとする一方で、どこに行っているのかとも気になる翔子。
聞けば良いだけなのだが、『いちいちいいだろう』と怒られたら嫌だな…そう思って淳一に行き先すら聞けないのだ。

ある朝、淳一は唐突に翔子に『化粧してるのか?』と尋ねる。ほとんどしていないという翔子にため息をついた淳一。
誰かと比べられている。
そう敏感に察してしまった翔子。やはりこの頃夫の様子はおかしい。
そして、ある夜淳一はお土産としてジュースを買ってくる。
どう見ても夫の趣味ではない洒落たジュース。
淳一は『会社の近くで働いている高校の同級生がいて、売上のノルマがあるらしいので協力してあげた』と語る。

そして、

「室井っていうんだけど一人で子ども育ててさ、頑張ってるよ、感心する」
「おまえだったら一人で仕事して子育てしてってできる?」
「ムリだな」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 65/212

一方的にそう言って鼻で笑った淳一。
その後何事もなく家族皆で美味しいと言い合いながらジュースを飲んだ。

しかし、翔子は笑顔を作りながらも内心は動揺していた。

「このジュースは何点?」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 66/212

淳一は翔子のことを気の利かないボケーッとしたダメな人間だと考えているのだが、こういうことはちゃんと察するのにと。

昼間こっそりと夫の高校の卒業アルバムを見る翔子。
『室井ミキ』そこには溌剌とした愛らしい少女が写っていた。
長女、花の名付けの際、夫が候補に「ミキ」という名を挙げたことを翔子は覚えていた。

その晩、それとなく室井について淳一に話を振ってみる翔子。あいつは昔からがんばり屋だと語る淳一に翔子は軽い感じで『もしかして好きだった?』と聞いてみた。
するとその瞬間、淳一はテーブルにマグカップを叩きつけ

「おまえはくだらないな、ほんとに!」
「家でゴロゴロして昼ドラばっかみてるから、そんな貧相な発想しかできないんだよ」
「みんな必死でがんばってんのに、なんなんだおまえは!」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 69/212

顔を紅潮させて激昂し、怒鳴ったのだ。
想定外のキレ方をする淳一に硬直してしまう翔子。しかし、この状況にどこか既視感を覚えるのだった。

次の休日。その日は弟のナオが子供達と公園で遊んでくれていた。

笑顔でその様子を眺めながらも翔子は夫がキレる様子を思い返しながら『そういうことなのだろう』と考えていた。そして、夫から言われた『くだらない』という言葉が胸に突き刺さっていた。

姉ちゃん、元気?帰り際、弟のナオは翔子にそう尋ねる。何か察しているの様子のナオ。しかし、翔子は笑顔で誤魔化して別れを告げる。

本当は泣きそうだった。
でもこんなこと、弟にも親にも友人にも言いたくない。 夫、淳一はもしかしたら室井の元かもしれない。しかし、嫉妬すら湧かないのだ。

私、夫に対してもうとっくに愛なんてない
くやしくてたまらないのは「くだらない」って言われたこと

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 72/212

別れたくて仕方ない。同じ空気も吸いたくない。思いやりのない夫と別れたいけど、子供達のことを考えると無理だ…。そう思っているのだ。

ある日、昼間、子供達が保育園にいる間、荒れた部屋で1人泣きながらシュークリームをやけ食いする翔子。
自分一人じゃ子供達を養えないし、お金もないのだ。
今夫を責めて、夫が「あの人」のところに行ってしまったら、自分達はどうやって生きていけばいいのだ。

今は黙って我慢するしか出来ない…そう思い、一人泣くのだ。

本当の私はいったいどんな人間なのか~心療内科の受診を経て、自身を見つめ直し、戦う決意をする翔子

この頃なんか変だ…そう思う翔子。めまいに加え、動悸もするようになり、鏡の中の自分の顔にも違和感を覚える。
病院に行くと、ストレスが原因の可能性があるので心療内科に行った方が良いと言われた。

まさかこんなところにくるとは…そう思いながらも心療内科にやって来た翔子。

ここに来たら夫と戦えるいい薬でも出してもらえるんだろうか?

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 78/212

そう内心で皮肉を言うのであった。
受診が始まると物腰な穏やかな医師が、『ここでは何を話しても良い』と促した。
少しずつだが『夫と過ごすのが苦しい』と語り始めた翔子。しかし、こんな時にも自分が笑って話そうとしていることに気付き愕然とする。
すると静かに話を聞いていた医師が口を開いた。

「あなたが言わない代わりに体が「苦しい」「もう限界だ」って言ってるんですよ」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 80/212

その言葉に翔子は思わず涙を流してしまう。誰か相談できる人はいるのか…そう優しく尋ねる医師に泣きながら首を振る翔子。
誰にも迷惑を掛けたくないし、恥ずかしい、不幸な女だと思われたくないというプライドもあった。そして、元凶である夫と話し合うなんてもっての他だ。

そんな翔子に医師は『夫と距離をおくべき』と指摘するが、『子供が小さいし、お金がないし、仕事もない』と翔子は泣きながら訴える。
すると、医師は『今は体調だけだが、このままでは心まで病んでしまう』『ストレスを甘く見てはならない』と告げた。
そして、

「ストレスをなくすか、ストレスから離れるか逃げるか。どれもできないのであれば」
「あなた自身がストレスに立ち向かえる力をつけてください」
「まずあなたは仕事を探してください」
「自分自身で生きる力をつけてください

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 82/212

そう言ったのであった。思っても見なかった言葉に、仕事…と呟く翔子。

そんな翔子に医師は更に問う。『ご主人の他にも自分を抑え込んでしまう、怒られると体が固まる相手がいるのではないか』と。

家に戻り、処方された薬を飲みながら、翔子は医師とのやりとりを思い返していた。
『夫の他に自分を抑え込んで萎縮してしまう相手はいないか』
その問いに戸惑ったものの、すぐに答えは出た。
父親だ。

翔子の家庭は平凡で幸せな家庭に端からは見えていた。しかし、父親は怒りっぽく、そんな父に自分や母や弟が怒られないように、家庭内の空気が和らぐように、…そう思って自分は昔から本音を抑えてニコニコし続けて来たのだ。

医師は言った。
『気付いてないかもしれないが、嫌なことがあっても感情を抑え込んで我慢するように教え込まれ、訓練されてきてしまっている』と。そして、『もうお父さんから解放されてもいいんですよ』と。

医師の指摘に納得すると同時に悲しさとむなしさを覚えてまた泣いてしまう翔子。

そうだとしたら、本当の私はいったいどんな人間なんだろう

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 85/212

しかし、誰にも言えなかったことを心療内科です話せただけで少し気が軽くなった翔子。

夫、淳一には心療内科に言ったことは勿論話さなかった。どうせ言っても『オレの方がストレスたまってる』とか言うに違いないから。

翔子は医師に勧められた通り、働くことを決意するのであった。

仕事を探し始める翔子。しかし、案の定不採用通知ばかりが届く。『前の会社を辞めなければ…』『自分には無理なのか…』幾度となく心が折れかける翔子だったが、幸い淳一に腹を立てる度に働く決心が固くなり、仕事を探し続けることができた。
そして、子供達が通う保育園の近くにある介護施設から採用を知らせる電話が来た。

「聞いて!私、仕事始める!」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 88/212

幸いなことに幼稚園の延長枠を申し込むことが出来た。延長には子供達と仲のいい子もいるため、一安心した翔子。

そして、初出勤当日。『経験の無い介護の仕事をできるのか?』そう淳一は翔子に尋ねる。
しかし、翔子は笑顔で『これからいろいろお金がかかるんだし、がんばる』と答える。
そう、離婚を考えるなら色々とお金が掛かるのだ。

子供達の幼稚園の支度に、仕事の支度。いつも以上に慌ただしい朝。
そんな中、夫、淳一はいつも通りに『オレの靴下は?』と翔子に出してもらおうとする。
しかし、『自分で持ってきて』とあっさり翔子に言われてしまい、驚く。

「これからは今までとは違うんだからパパも協力してね」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 90/212

申し訳なさそうではあるが、ハッキリとそう言いきった翔子に何も言い返せない淳一。
そのまま、行ってくると家を出ようとするが、『行ってらっしゃい』と声を掛けるだけで翔子が玄関まで見送りに来ないことに更に衝撃を受ける。

色々と内心狼狽えながら家を出た淳一。

翔子も仕事すればって思ってたけど…いざとなると面倒くさそう…

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 90/212

そう不満に思う一方で

まあフルタイムとはいえパートだしな。たいしたことないだろ

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 90/212

とも思うのであった。

一方で翔子は初勤務で緊張し続けていた。家とは別世界で急に夫の存在が薄らいでいく。分からないことだらけで混乱するが、老人達から優しい声を掛けられたり、手際を褒められたりして喜びを感じる。

しかし、そんな時間は長くは続かなかった。
一週間経った頃には、気が強い先輩職員石原からは『動きが遅い』『覚えが悪い』とストレートに叱られ文句を言われる様になった。
実際に無資格の翔子は知識も無く、出来ることは限られている。忙しい現場で先輩職員は気が立っているだ。褒められたのは初日だけだった。あとは怒られまくりの毎日だ。

でも、めげてなんかいられない
できることをがんばるんだ

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 93/212

翔子はとにかく必死に目の前の仕事を片付けていった。

そして帰宅後大急ぎで夕飯を作る翔子。夫、淳一は帰宅してその様子を見て文句を言うだけで自分はソファーでダラダラ。子供達の相手もろくにしない。
そんな夫に素直に苛立つ翔子。ハッキリと『忙しいのだからパパも手伝って!』と告げる。
しかし、淳一は

「なにイライラしてんだよ。自分で仕事するって仕事始めたんだろ?」
「ヨソの奥さんは仕事しててもちゃんとやってるよ」

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 95/212

と平然と言ってのけた。その発言に翔子は心の底から腹を立てた。

夜、一人グッタリする翔子。ヨソの奥様方はたしかに凄い。母親業をしながら働くことがこんなに大変だとは…覚悟はしていたものの、想像以上だった。

しかし、それでも翔子は布団の中で、その日に仕事で教わったことをノートに書き記す。正直、厳しい先輩職員のことを思い出すと、仕事に行きたくないと思ってしまう。
だが、

負けるもんか負けるもんか
いつかきっと、ぜったいに離婚するんだ

離婚してもいいですか?翔子の場合 野原広子 96/212

そう思い、戦い続けるため、翔子は自身を鼓舞するのであった。

以下、感想と考察

リアルさのある、夫、淳一の無神経さ、小ささ

野原広子は夫、男性の無神経さを描くのが本当に上手い。言葉選びとかが、極端さが無くて本当にリアル。淳一みたいな男、夫は現実にも沢山いるだろう。妻の優しさ、善意にあぐらをかいて、いわゆる『生んだ覚えの無い長男』化してしまう男性。そして結果的に妻を異性として見られなくなっていくという悪循環。人間として物凄くゲス、酷い訳ではない。ただ、普通に小心者で怠け者で甘ったれで小さいだけ。

そして、作中、それを象徴するのが、『靴下の用意』と『玄関までの見送り』。靴下を用意する、玄関まで見送りにするというのは、現代社会においては家事の範囲外、どちらかと妻からの善意の+αの行為に過ぎないというのに、それが淳一にとって当たり前になってしまっているのが恐ろしい。
しかし、忙しいとき、余裕が無いときに「靴下出して」と言われると本当に殺意が沸くし、夫を玄関まで見送るなんてよほど機嫌が良くて余裕があるときしかやらないぞ、私は。

専業主婦という立場は弱いのか?

以前、『ふよぬけ』の記事でも言及したが、やはり専業主婦という立場は弱いのか?

『ふよぬけ』の記事はこちら
【漫画】夫の扶養からぬけだしたい(ふよぬけ)【感想・ネタバレ】~すっきりしない、モヤモヤが残るラスト・結末
【漫画】夫の扶養からぬけだしたい(ふよぬけ)【ネタバレ・各話あらすじ】専業主婦の挑戦と飛び出す夫のモラハラ発言集

確かに、家事・育児の大変さは、それを真面目に担ったことが無い人には理解しにくいのが現実だ。たまたまどこか1日、全力で家事や育児に携わったって、その大変さの本質は分からない。私と夫は双方フルタイムの共働き夫婦だが、互いに『1日働き続けるより、1日子供を見続ける方が絶対に大変』という共通認識を持っている。いや、子供は可愛いし、一緒に過ごすのは幸せなことなんだけど、気が抜けなくて辛いのだ。それに毎日の家事なんて加わったらもう…ね。

しかし、家事・育児の形態は家庭によって違うし、求められる質は全然違う。手際や完成度も人によってバラバラだ。その能力と成果を数値化出来ず、客観的な評価基準も評価する第三者もいないから、どうしても淳一の様に『専業主婦は家でノンビリできていいな』という発想になる人は男女問わず少なくないだろう。実際は一部の人が主張するように年収換算すると1200万相当になるほど一生懸命家事をする主婦もいれば、淳一がイメージするステレオタイプの様に『昼ドラ見て昼寝してる』主婦もいるのだ。

しかし、だからといって『家事・育児』や『専業主婦』という存在を軽んじて良い訳ではない。実際に専業主婦が家事・育児をやっていて、それで家庭が回っているのならば、そこはやはりきちんと、家族が評価して尊重しなければならないことだろう。目に見える収入が無ければ不満も意見も言えない…だなんて、あまりにも寒々し過ぎる。

まあ、こういう書き方をすると結局のところ、対等な人間として互いを大事にしなくてはならないという一般論に落ち着いてしまうのだけれど。

翔子という人間について

淳一もそうであるが、翔子の人間像も非常にリアルだ。沢山いる、こういう人。特に女性。ニコニコ笑って自分を抑え込むことでその場をやり過ごす癖がついてしまっている。保守的な、古い価値観の家庭で育った女性に多い気がする。

では、それは必ずしも悪いことなのか?確かに作中前半においてその癖のせいで翔子は自身を苦しめることになる。だが、この一面は後半で意外な形で昇華されることとなるのだ。

そして、離婚を決意し、働き始めた翔子。少しずつだが淳一に文句を言えるようになる等、確実に変わり始めている。

果たして、翔子は無事に離婚できるのか?続きは後半の記事で紹介していきたい。

後半の記事はこちら
【漫画】離婚してもいいですか?翔子の場合(後編)【ネタバレ・各話あらすじ】夫、淳一が浮気?怒りを爆発させる翔子~辿り着いたのはブラックなラスト・結末

関連記事、『娘が学校に行きません』の記事はこちら
【漫画】娘が学校に行きません【感想・ネタバレ】不登校のリアルとプロの力の必要性を考える

関連記事、『消えたママ友』の記事はこちら
【漫画】消えたママ友【感想・ネタバレ】あなたはママ友の何を知ってますか?…世にも奇妙な“ママ友”という関係を考える

【漫画】消えたママ友【ネタバレ・各話あらすじ】ママ友の有紀は何故消えてしまったのか…不穏なラスト・結末は…

関連記事、『妻が口をきいてくれません』の記事はこちら→【漫画】妻が口をきいてくれません【考察・感想・予想】妻への“ママ”呼びが全てを語っている?夫婦で“パパ”、”ママ”と呼び合うことの弊害を考える

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください